1 Cauchy 列と零列
定義 1.1.(K,≤)を順序体(§E1.12 定義 3.1)とする。a∈Kに対して
∣a∣={a,−a,0≤a,a<0と定め、∣a∣をaの絶対値 (absolute value) という。以後この記号を、§E1.12 例 3.3の順序体Qの元に対して用いる。
命題 1.2.(K,≤)を順序体とし、a,b,c∈Kとする。
- 0≤∣a∣であり、∣a∣=0とa=0は同値である。
- ∣−a∣=∣a∣である。
- 0<cのとき、∣a∣<cと−c<a<cは同値である。
- ∣a+b∣≤∣a∣+∣b∣である。
- ∣ab∣=∣a∣∣b∣である。
証明.(1)0≤aならば∣a∣=aであり、a<0ならば§E1.12 命題 1.2 (3)により0<−a=∣a∣である。a=0ならば∣a∣=0である。逆に∣a∣=0ならばa=0または−a=0であるから、どちらの場合もa=0である。
(2)0<aのとき§E1.12 命題 1.2 (3)により−a<0であるから∣−a∣=−(−a)=a=∣a∣である。a=0のときは両辺とも0である。a<0のときは0<−aであるから∣−a∣=−a=∣a∣である。
(3)定義からa≤∣a∣かつ−a≤∣a∣である。∣a∣<cならばa≤∣a∣<cであり、−a≤∣a∣<cと§E1.12 命題 1.2 (1)から−c<aである。逆に−c<a<cとすると、0≤aのときは∣a∣=a<cであり、a<0のときは−c<aと§E1.12 命題 1.2 (1)から∣a∣=−a<cである。
(4)a≤∣a∣とb≤∣b∣からa+b≤∣a∣+∣b∣であり、−a≤∣a∣と−b≤∣b∣から−(a+b)≤∣a∣+∣b∣である。∣a+b∣はa+bと−(a+b)のいずれかであるから、∣a+b∣≤∣a∣+∣b∣である。
(5)0≤aかつ0≤bのとき、a=0またはb=0ならばab=0であり、0<aかつ0<bならば乗法と順序の両立(§E1.12 定義 1.1)により0<abであるから、いずれの場合も∣ab∣=ab=∣a∣∣b∣である。0≤aかつb<0のとき、0≤a(−b)=−(ab)からab≤0であり、∣ab∣=−ab=a(−b)=∣a∣∣b∣である。a<0かつ0≤bのときも同様である。a<0かつb<0のとき、0<(−a)(−b)=abであるから∣ab∣=ab=(−a)(−b)=∣a∣∣b∣である。▨
定義 1.3. 有理数列a=(an)n≥1がCauchy 列 (Cauchy sequence) であるとは、任意の正の有理数εに対して、ある正の整数Nが存在し、m,n≥Nならば∣am−an∣<εとなることをいう。
有理数列a=(an)が零列 (null sequence) であるとは、任意の正の有理数εに対して、ある正の整数Nが存在し、n≥Nならば∣an∣<εとなることをいう。
例 1.4. 写像g:Q→Qを、v=0のときg(v)=(v2+2)/(2v)、g(0)=1と定める。「帰納法と再帰的な定義」の§D2.1 定理 4.4により、a1=1とan+1=g(an)を満たす有理数列(an)n≥1がただ一つ定まる。0<vならば0<g(v)であるから、帰納法により各項は正であり、
an+1=2anan2+2である。
各nについて
an+12−2=4an2(an2+2)2−8an2=4an2(an2−2)2である。二乗して2になる有理数は存在しない。実際、既約分数m/kがm2=2k2を満たすとすると、m2が偶数であることからmが偶数であり、m=2m′とおくとk2=2m′2からkも偶数になって、既約性に反する。したがって各an2は2と異なり、上の等式の右辺は非負であるから、n≥2ならばan2>2、ひいてはan>1である。またa2=g(1)=3/2である。
en=an2−2とおく。n≥2についてen>0であり、4an2>4から
en+1=4an2en2<4en2である。e2=4−1であり、en≤4−(n−1)ならばen+1<4−2(n−1)−1≤4−nであるから、帰納法によりn≥2についてen≤4−(n−1)である。nに関する帰納法から2n−1≥nが従うので、4n−1≥2n−1≥nであり、en≤1/nである。正の有理数ε=c/d(c,d∈Z>0)に対してn≥d+1ならば1/n<1/d≤εであるから、(1/n)n≥1と(en)n≥1はいずれも零列である。
m≥n≥2とする。an+1−an=(2−an2)/(2an)<0であるからam≤anであり、an+am>2とem>0から
0≤an−am=an+amen−em<2en≤2n1である。正の有理数ε=c/dに対してNを2とd+1の大きい方とすると、m,n≥Nのとき、添字の大小によらず∣am−an∣<1/N≤1/(d+1)<εである。よって(an)は Cauchy 列である。
有理数qに対して(an−q)が零列であると仮定する。a1=1でありn≥2では1<an≤a2=3/2であるから、M=2+∣q∣とおくと、命題 1.2 (4)により∣an+q∣≤∣an∣+∣q∣≤3/2+∣q∣<Mである。命題 1.2 (5)により
∣an2−q2∣=∣an−q∣∣an+q∣≤M∣an−q∣であり、∣an−q∣をε/Mより小さくすれば右辺はεより小さいので、(an2−q2)は零列である。2−q2=(2−an2)+(an2−q2)の右辺は零列の項の和であり、命題 1.2 (4)により零列であるから、定数列(2−q2)は零列である。2−q2=0とすると、命題 1.2 (1)により∣2−q2∣は正の有理数であり、ε=∣2−q2∣に対して∣2−q2∣<εが要求されて矛盾する。よってq2=2であり、これは二乗して2になる有理数が存在しないことに反する。したがって、どの有理数qについても(an−q)は零列ではない。
補題 1.5. 任意の有理数の Cauchy 列は有界である。また、二つの有理数の Cauchy 列の項ごとの和、差および積は Cauchy 列である。
証明.a=(an)を Cauchy 列とする。ε=1に対する番号Nを取り、
M=1+max{∣a1∣,…,∣aN∣}とおく。n≥Nならば∣an∣≤∣an−aN∣+∣aN∣<Mであり、n<Nの場合も∣an∣<Mである。したがってaは有界である。
a=(an)とb=(bn)を Cauchy 列とする。和と差が Cauchy 列であることは三角不等式から従う。∣an∣≤Mおよび∣bn∣≤Mとなる正の有理数Mを取ると、
∣ambm−anbn∣≤∣am∣∣bm−bn∣+∣bn∣∣am−an∣≤M∣bm−bn∣+M∣am−an∣である。二つの差をそれぞれε/(2M)より小さくする番号を取れば、積も Cauchy 列であることが分かる。▨
定義 1.6. 有理数列全体は「集合族」の直積(§E1.2 定義 5.1)
QZ>0=n∈Z>0∏Qとして集合をなす。分出公理スキーマ(§E1.13 定義 2.1)を用い、この集合から Cauchy 条件を満たす列だけを取り出して得られる集合をCとする。a,b∈Cに対して
a∼b⟺(an−bn)n≥1 が零列であると定める。この関係をCauchy 同値 (Cauchy equivalence) という。
命題 1.7.定義 1.6の関係∼はC上の同値関係である。
証明.a−aは零列なので反射律が成り立つ。a−bが零列ならばb−a=−(a−b)も零列なので、対称律が成り立つ。a−bとb−cが零列ならば
a−c=(a−b)+(b−c)も零列である。実際、各差を最終的にε/2より小さくすれば三角不等式を適用することができる。したがって推移律も成り立つ。▨
2 商集合と四則演算
定義 2.1.命題 1.7により∼は同値関係である。各同値類はCの部分集合であり、商集合はP(C)の部分集合として、冪集合の規則(§E1.13 定義 3.1)と分出公理スキーマ(§E1.13 定義 2.1)から存在する。この商集合を
RC=C/∼と書き、その元をCauchy 実数 (Cauchy real number) という。a∈Cの同値類を[a]と書く。a,b∈Cに対して
[a]+[b]=[(an+bn)],[a][b]=[(anbn)],−[a]=[(−an)]と定め、0=[(0)]および1=[(1)]とおく。右辺の列がCに属することは補題 1.5による((−an)は定数列(0)との差である)。
定理 2.2.定義 2.1の加法、乗法および加法逆元は代表元の選び方に依存しない。これらの演算によってRCは可換環になる。
証明.a∼a′かつb∼b′とする。和について
(an+bn)−(an′+bn′)=(an−an′)+(bn−bn′)は零列である。加法逆元についても(−an)−(−an′)=−(an−an′)は零列である。
補題 1.5により、a′とbはある正の有理数Mで有界である。積の差を
anbn−an′bn′=(an−an′)bn+an′(bn−bn′)と分けると、右辺の絶対値は
M∣an−an′∣+M∣bn−bn′∣以下である。二つの差が零列であるため、この上界も零列である。したがって積も代表元に依存しない。
結合律、交換律、分配律および単位元の公理は、有理数における対応する等式を各項で適用すると得られる。よってRCは可換環である。▨
補題 2.3.a=(an)∈Cが零列でないとする。このとき、ある正の有理数ηと正の整数Nが存在し、n≥Nならば∣an∣≥ηとなる。さらに、anの符号はn≥Nで一定になる。
証明.aが零列でないため、ある正の有理数εが存在し、どの正の整数N0に対してもn≥N0かつ∣an∣≥εを満たすnが存在する。aは Cauchy 列なので、あるN以後では∣am−an∣<ε/2が成り立つ。aが零列ではないことを用いてn0≥Nかつ∣an0∣≥εを取る。
m≥Nならば∣am−an0∣<ε/2である。an0≥εの場合はam>ε/2であり、an0≤−εの場合はam<−ε/2である。η=ε/2とおけば、絶対値の下界と符号の一定性を同時に得る。▨
命題 2.4.x∈RCがx=0を満たすとき、xy=1を満たすy∈RCが存在する。
証明.x=[a]とする。x=0であるためaは零列ではない。補題 2.3のηとNを取り、
bn={0,an−1,n<N,n≥Nと定める。m,n≥Nならば
∣bm−bn∣=∣aman∣∣am−an∣≤η−2∣am−an∣であるため、b=(bn)は Cauchy 列である。積の列(anbn)はn≥Nで1に等しいので、定数列(1)と Cauchy 同値である。したがってy=[b]とおけばxy=1である。
別の代表元や別の番号Nから同じ方法でy′を作ってもxy′=1である。可換環における逆元は一意なので、y′=yである。したがって逆元、ひいては非零元による除法も代表元の選び方に依存しない。▨
3 順序が代表元に依存しないこと
定義 3.1.x=[a]∈RCが正 (positive) であるとは、ある正の有理数εと正の整数Nが存在し、n≥Nならばan≥εとなることをいう。正の元全体をPと書き、
x<y⟺y−x∈Pと定める。
例 3.2. 有理数列(1/n)n≥1は各項が正である。この列は例 1.4で見たとおり零列であり、命題 1.2 (4)と命題 1.2 (2)による∣1/m−1/n∣≤∣1/m∣+∣1/n∣から Cauchy 列でもあるので、[(1/n)]=[(0)]=0である。定数列(0)に対しては0≥εを満たす正の有理数εが存在しないから、0は定義 3.1の意味で正ではない。この定義が要求するのは、各項が正であることではなく、ある番号以降で一つの正の有理数を下回らないことである。
定理 3.3.定義 3.1の正であるという条件は代表元に依存しない。さらにPは加法と乗法で閉じ、任意のx∈RCについて、x=0、x∈P、−x∈Pのうちただ一つが成り立つ。したがって、定めた関係<はRCを順序体にする。
証明.a∼a′とし、あるε>0とNについてan≥εがn≥Nで成り立つとする。a−a′は零列なので、十分大きなnについて∣an−an′∣<ε/2である。このときan′≥ε/2であるため、正であるという条件は代表元に依存しない。
x=[a]とy=[b]が正であるとする。あるε,δ>0について、十分大きなnではan≥εかつbn≥δである。したがってan+bn≥ε+δかつanbn≥εδであり、x+yとxyも正である。また、xと−xがともに正ならば、十分大きなnについて同時にan>0と−an>0が必要になり、矛盾する。
x=[a]=0とする。補題 2.3により、十分大きなnでは、あるη>0に対してan≥ηが常に成り立つか、an≤−ηが常に成り立つかのいずれかである。前者ではx∈P、後者では−x∈Pである。定数列(1)は正であり、定数列(0)は正ではないので0=1である。以上からPは§E1.12 命題 1.4の正錐の条件を満たす。したがってx<y⟺y−x∈Pは全順序であり、加法および正の元による乗法と両立する。
命題 2.4と定理 2.2を合わせると、RCは体である。よってRCは順序体である。▨
命題 3.4. 写像
ιC:Q⟶RC,q⟼[(q,q,q,…)]は標準有理数埋め込みである。また、x<yを満たすx,y∈RCの間にはιC(q)の形の元が存在する。
証明. 定数列に項ごとの演算を行うと有理数の演算と一致するため、ιCは単位元と四則演算を保つ。定数列(q)が零列であることとq=0であることは同値なので、ιCは単射である。順序も定義から保たれる。定理 3.3によりRCは順序体であり、単位元を保つ体準同型Q→RCは§E1.15 定義 2.1のιRCに限る(§E1.15 命題 2.2)。したがってιC=ιRCであり、ιCは標準有理数埋め込みである。
x<yとし、x=[a]、y=[b]と書く。y−xが正であるため、ある正の有理数δと番号N0が存在し、n≥N0ならばbn−an≥δである。さらにN≥N0を、n≥Nならば∣an−aN∣<δ/6かつ∣bn−bN∣<δ/6となるように取る。有理数q=aN+δ/3とおく。n≥Nならば命題 1.2 (3)により
q−an=(aN−an)+3δ>−6δ+3δ=6δであり、N≥N0から従うbN−aN≥δとあわせて
bn−q>(bN−6δ)−(aN+3δ)≥δ−6δ−3δ=2δである。ιC(q)−xの代表列は(q−an)、y−ιC(q)の代表列は(bn−q)であり、いずれもn≥Nで一つの正の有理数(それぞれδ/6とδ/2)を下回らない。したがって定義 3.1によりx<ιC(q)<yである。▨
以後、有理数qとその像ιC(q)を同じ記号qで表す。
4 Cauchy 完備性
定義 4.1.RCの列(xk)がCauchy 列 (Cauchy sequence in the Cauchy completion) であるとは、任意の正の有理数εに対して、ある正の整数Nが存在し、k,l≥Nならば
−ε<xk−xl<εとなることをいう。また、(xk)がx∈RCに収束する (converge) とは、任意の正の有理数εに対して、ある正の整数Nが存在し、k≥Nならば
−ε<xk−x<εとなることをいう。
命題 3.4により、任意の正のδ∈RCに対して0<ε<δを満たす正の有理数εが存在する。したがって、ここで正の有理数だけを用いた二つの定義は、εを任意の正のRCの元とする通常の定義と同値である。
補題 4.2.r=(rk)k≥1∈Cとすると、RCの列(ιC(rk))k≥1は[r]へ収束する。
証明. 正の有理数εを取り、j,k≥Nならば∣rj−rk∣<ε/3となる番号Nを取る。k≥Nを固定すると、[r]−ιC(rk)の代表列は(rj−rk)j≥1であり、j≥Nについて命題 1.2 (3)により
2ε−(rj−rk)>2ε−3ε=6ε,2ε+(rj−rk)>6εである。ιC(ε/2)−([r]−ιC(rk))とιC(ε/2)+([r]−ιC(rk))の代表列がj≥Nでε/6を下回らないので、定義 3.1により
−2ε<[r]−ιC(rk)<2εである。したがってk≥Nならば−ε<ιC(rk)−[r]<εであり、定義 4.1の意味で(ιC(rk))は[r]へ収束する。▨
補題 4.3.Q上の全順序≺で、Qの空でない任意の部分集合が≺に関する最小元をもつものが存在する。
後の完備性の証明では、各近似候補の非空集合から代表元を一つずつ取る必要がある。ここで構成する≺に関する最小元は各非空集合から一意に定まるため、その規則で代表元を定めれば可算選択公理を用いない。
証明. 有理数qに対して
h(q)=min{∣m∣+n∣m∈Z, n∈Z>0, q=m/n}とおく。右辺の集合は空でない正の整数の集合であるから最小元をもち、h(q)は定まる。正の整数dに対して∣m∣+n=dを満たす対(m,n)は有限個であるから、h(q)=dを満たす有理数qは有限個である。異なる有理数p,qに対して、h(p)<h(q)であるとき、またはh(p)=h(q)かつp<qであるときにp≺qと定める。これはhの値と有理数の通常の順序による辞書式順序であるから、Q上の全順序である。
S⊆Qを空でないとする。{h(q)∣q∈S}は空でない正の整数の集合であるから最小元dをもち、h(q)=dを満たすq∈Sの全体は空でない有限集合である。この有限集合の通常の順序に関する最小元は、Sの≺に関する最小元である。▨
定理 4.4.RCの任意の Cauchy 列はRCの元へ収束する。
証明.(xk)k≥1をRCの Cauchy 列とし、補題 4.3の全順序≺を一つ固定する。
命題 3.4により、各kについて
xk−k1<rk<xk+k1を満たす有理数が存在する。そのような有理数のうち≺に関する最小のものをrkとする。各rkは条件から一意に定まり、置換公理スキーマ(§E1.13 定義 5.1)によって列(rk)k≥1が集合として得られる。
正の有理数εを取り、ε=a/b(a,b∈Z>0)と表す。k≥3b+1ならば1/k<a/(3b)=ε/3である。したがって十分大きなk,lについて
−3ε<xk−xl<3ε,k1<3ε,l1<3εが成り立つ。近似の定め方から
rk−rl<(xk+1/k)−(xl−1/l)<εであり、k,lを入れ替えると−ε<rk−rlも得られる。したがってr=(rk)は有理数の Cauchy 列であり、x=[r]∈RCとおくことができる。
再び正の有理数ε=a/b(a,b∈Z>0)を取る。k≥2b+1ならば1/k<a/(2b)=ε/2であり、−1/k<xk−rk<1/kとあわせて
−2ε<xk−rk<2εである。補題 4.2により(rk)はxへ収束するので、十分大きなkについて
−2ε<rk−x<2εである。二つの不等式を加えると
−ε<xk−x<εとなる。したがってxk→xである。▨
5 上限の性質
定理 5.1.RCの上に有界で空でない任意の部分集合は上限をもつ。したがって、定理 3.3の順序体RCは完備順序体である。
証明.A⊆RCを空でなく上に有界とする。a0∈Aと上界Uを取る。命題 3.4により、p0<a0およびU<q0を満たす有理数p0,q0を取る。特にp0はAの上界ではなく、q0はAの上界である。
写像F:Q×Q→Q×Qを、m=(p+q)/2がAの上界であるとき
F(p,q)=(p,m)とし、mがAの上界でないとき
F(p,q)=(m,q)として定める。「帰納法と再帰的な定義」の§D2.1 定理 4.4をV=Q×Q、g(0)=(p0,q0)、hS=Fに適用すると、(pn+1,qn+1)=F(pn,qn)を満たす対の列((pn,qn))n≥0がただ一つ定まる。各nについて、pnは上界ではなく、qnは上界であり、
qn−pn=2−n(q0−p0)である。
m>nならばpn≤pm≤qnかつpn≤qm≤qnである。L=q0−p0=u/v(u,v∈Z>0)と表す。正の有理数ε=c/d(c,d∈Z>0)に対し、n≥udならば2n≥n+1>ud/(vc)=L/εである。ここで2n≥n+1はnに関する帰納法から従う。したがって2−nL<εであり、区間の長さは零列をなす。この評価と上の包含から、(pn)n≥1と(qn)n≥1は有理数の Cauchy 列であり、その差も零列である。したがって
s=[(pn)n≥1]=[(qn)n≥1]∈RCとおくことができる。
補題 4.2により、(pn)と(qn)はいずれもsへ収束する。定義 4.1により、収束のεとしてRCの任意の正の元を取ることができる。
a∈Aとする。すべてのnについてa≤qnである。s<aと仮定すると、命題 3.4によりs<t<aを満たす有理数tが存在し、正の元t−sに対して、十分大きなnについてqn−s<t−s、すなわちqn<t<aである。これはa≤qnに反する。よってa≤sであり、sはAの上界である。
y<sとする。命題 3.4によりy<t<sを満たす有理数tを取ると、正の元s−tに対して、十分大きなnについてs−pn<s−t、すなわちt<pnである。pnはAの上界ではないため、pn<aを満たすa∈Aが存在する。したがってy<t<pn<aであり、yは上界ではない。sより小さい元は上界ではないので、s=supAである。▨
6 Dedekind 切断による構成との比較
系 6.2.RDを「実数体の構成」で得られる完備順序体とする。このとき、標準有理数埋め込みを一致させる順序体同型
RC⟶RDがただ一つ存在する。
証明.定理 5.1によりRCは完備順序体である。RDも§E1.14 定理 3.1により完備順序体である。したがって「完備順序体の一意性」§E1.15 定理 4.4により、単位元と順序を保つ体同型Φ:RC→RDがただ一つ存在する。
Φ∘ιCは単位元を保つ体準同型Q→RDであるから、§E1.15 命題 2.2によりΦ∘ιC=ιRDである。命題 3.4によりιCはRCへの標準有理数埋め込みであるから、Φは二つの標準有理数埋め込みを一致させる。標準有理数埋め込みを一致させる順序体同型は、とくに単位元と順序を保つ体同型であるから、Φのほかにない。▨
7 演習
問題 7.1 (異なる代表元による逆元).an=2+1/nおよびan′=2+(−1)n/nとする。[a]=[a′]であることを示せ。また、命題 2.4の方法で得られる逆数列(1/an)と(1/an′)が Cauchy 同値であることを直接証明せよ。
解答.
各nについて
∣an−an′∣=n∣1−(−1)n∣≤n2であり、右辺(2/n)は零列なのでa∼a′である。またan≥2かつan′≥1であるため、
an1−an′1=∣anan′∣∣an−an′∣≤2∣an−an′∣≤n1.右辺(1/n)は零列なので、二つの逆数列も Cauchy 同値である。この例では、二つの代表元から作った逆数列が同じ同値類を与える。▨