大学課程における位置づけと参考文献

本単元は、日本の大学の数学科において「集合と位相」「位相数学」などの名称で開講される科目のうち、位相を扱う部分に対応する。多くの大学は、この科目を微分積分と線形代数に続く2年次の必修科目として置き、以後の解析学、幾何学、代数学の共通の前提として扱う。英語圏では Point-Set Topology または General Topology と呼ばれる科目に対応する。日本の教科書は集合と位相を一冊で扱うことが多く、本単元が扱う範囲はそれらの後半にあたる。前半に対応する内容は数学の基礎が扱う。

本単元の内容は、単元の参考文献に挙げた文献のほか、次の文献が扱う範囲ともおおむね重なる。いずれも、本単元の証明を補い、より広い範囲へ進むための文献として挙げる。

  • 内田伏一『集合と位相』(裳華房)— 定義と証明を簡潔にまとめた教科書である。距離空間から位相空間への移行を丁寧に扱う。
  • John L. Kelley, General Topology (Springer) — フィルターとネットを主要な道具として用いる古典的な文献である。本単元が扱わない範囲を含む。

この単元のねらい

本単元は、読者が次のことを行うことができる状態を目標とする。

  • 距離を用いて述べた収束と連続性の議論から距離への依存を取り除き、開集合系だけを用いて述べ直すことができる。
  • 位相的な性質、一様的な性質、および距離的な性質を、同じ位相を定める二つの距離のような対照例によって区別することができる。
  • 可算性、分離性、コンパクト性、連結性のそれぞれについて、部分空間、積、商をとる操作のもとで保たれるかどうかを述べ、保たれない場合には反例を挙げることができる。
  • 二つの条件のあいだの含意について、逆が成り立たないことを示す空間を選び、その空間が一方の条件を満たして他方を満たさないことを検証することができる。
  • 連続写像の全体がなす集合に位相を定め、その位相に関する収束を、各点収束および一様収束と関係づけることができる。
  • 与えられた位相が何らかの距離から定まるものであるかどうかという問いを立て、それが成り立つための十分条件と適用範囲を述べることができる。

本単元を貫く方針

一般化の各段階で、何が保たれ何が失われるかを確かめる。距離空間から位相空間へ進むとき、点列による特徴づけ、有界性、完備性のように距離があって初めて意味をもつ概念と、開集合だけで述べることができる概念とを分ける。距離空間で成り立つ同値が一般の位相空間では成り立たない場面を、そのつど示す。この確認の手立ては例と反例である。新しい定義には、その定義を満たす標準的な対象と、条件を一つだけ満たさない対象を置く。定理の逆が成り立たない場合には、逆の否定を満たす例を挙げ、その例がどの条件を満たさないのかを確かめる。

選択公理には、それ自体が主題になるときだけ触れる。本単元は ZFC を地の理論とし、証明が選択公理を用いたことをそのつど断らない。選択原理を主張とともに明示するのは、ある命題が ZF の上で選択原理と同値であることを示す場合、すなわち選択原理そのものが証明の対象である場合に限る。

学習到達点の確認方法

本単元は、計算の正確さではなく、読者が定義から証明を構成することができるかどうかを確かめる。確かめる内容は、次のとおりである。

  • 読者が、示すべき主張を定義に展開し、何を仮定として与えられ、何を構成しなければならないかを分けて述べることができるかを確かめる。
  • 読者が、証明の各段階でどの仮定を用いたのかを特定することができるかを確かめる。とくに、完備性、全有界性、コンパクト性、Hausdorff 性、正規性、および第二可算性のうち、どれを用いたのかを区別することができるかを確かめる。
  • 読者が、仮定を一つ外したときの反例を構成し、その例が主張の否定を満たすことを示すことができるかを確かめる。
  • 読者が、距離空間では成り立つが一般の位相空間では成り立たない主張について、どこで距離を用いたのかを指摘することができるかを確かめる。

本単元は演習に、証明を再現する問題、方針から証明を補う問題、仮定の使用箇所を特定する問題、および反例を構成する問題を用いる。証明を伴う解答については、仮定の明示、量化の範囲、各段階の根拠、および用いた定理の適用条件が満たされていることを評価の対象とする。

後続の単元との関係

本単元が定めた語彙と証明した定理は、次の単元がそれぞれの対象を述べ、証明を進めるために用いる。

  • 実解析 II — Euclid 空間の距離、コンパクト性、完備性、および Banach の不動点定理を、多変数の微分と積分の局所的な議論の根拠として用いる。
  • 関数解析入門 — 完備距離空間の一般論とBaire の範疇定理を Banach 空間の基本定理の根拠として用い、Tychonoff の定理を双対空間の単位球のコンパクト性に、局所コンパクトな Hausdorff 空間と一点コンパクト化を、無限遠で消える連続関数のなす空間の議論に用いる。
  • 多様体入門 — Hausdorff 性、第二可算性、局所コンパクト性、σ-コンパクト性、コンパクト性、連結性、および商位相を、多様体の定義、1の分割の構成、および商多様体の構成に用いる。
  • 位相幾何入門 — 商位相、積位相、連結性と弧状連結性、コンパクト性、および分離公理を、空間の構成と写像の持ち上げの議論に用いる。
  • 一般位相空間論 — 本単元の正規性とLindelöf 空間が作る証明の鎖を、より弱い仮定のもとでの距離化定理と一様空間へ延長する。