1 本記事が用いる二つの極限
証明. 第一の式は「基本極限(sin x / x)」の§B1.12 定理 2.1が示しており、本記事はその結果を用います。
第二の式を第一の式から導きます。半角の公式により、すべての実数xについて1−cosx=2sin22xが成り立ちます。この公式は「加法定理とその派生公式」が扱っており、ここではその結果を用います。x=0のとき
x1−cosx=x2sin22x=2xsin2x⋅sin2xとなります。t=2xと置くと、x→0のときt→0であり、x=0のときt=0です。第一の式によりtsintは1に近づきます。またt=0のときsint=tsint⋅tであり、右辺は1⋅0=0に近づくので、sintは0に近づきます。よってlimx→0x1−cosx=1⋅0=0です。▨
2 差の商を積の形へ直す
正弦と余弦の差を積に変える公式を、加法定理から導きます。加法定理そのものは「加法定理とその派生公式」が扱っており、ここではその結果を用います。
証明.p=2A+B、q=2A−Bと置くとA=p+q、B=p−qです。加法定理により
sin(p+q)=sinpcosq+cospsinq,sin(p−q)=sinpcosq−cospsinqであるから、辺々を引くとsinA−sinB=2cospsinqです。同様に
cos(p+q)=cospcosq−sinpsinq,cos(p−q)=cospcosq+sinpsinqの辺々を引くとcosA−cosB=−2sinpsinqです。pとqをもとのA、Bで書き直すと、結論を得ます。▨
差の商の極限を計算するときには、積に直した式に現れるcos(x+2h)がh→0でcosxに近づくことを用います。これを確かめるために、正弦の値の大きさについての評価を用意します。
定理 2.2 (正弦の値の大きさ). 角を弧度法で測る。すべての実数uについて
∣sinu∣≤∣u∣が成り立つ。
証明.u=0のときは両辺が0で成り立ちます。
0<u<2πのとき、「基本極限(sin x / x)」の§B1.12 定理 1.1によりsinu<uです。この範囲ではsinu>0であるから∣sinu∣=sinu<u=∣u∣です。
u≥2πのときは、∣sinu∣≤1<2π≤u=∣u∣です。
u<0のときは、sin(−u)=−sinuであるから∣sinu∣=∣sin(−u)∣であり、−u>0についていま示したことから∣sin(−u)∣≤∣−u∣=∣u∣です。▨
定理 2.3 (正弦と余弦は連続である). すべての実数xについて
t→0limsin(x+t)=sinx,t→0limcos(x+t)=cosxが成り立つ。
証明.公式 2.1でA=x+t、B=xとすると
sin(x+t)−sinx=2cos(x+2t)sin2t,cos(x+t)−cosx=−2sin(x+2t)sin2tです。正弦と余弦の値の絶対値は1を超えないので、どちらの右辺も絶対値が2sin2t以下です。定理 2.2によりsin2t≤2∣t∣であるから
∣sin(x+t)−sinx∣≤∣t∣,∣cos(x+t)−cosx∣≤∣t∣が成り立ちます。右辺はt→0のとき0に近づくので、結論を得ます。▨
3 正弦と余弦の導関数
定理 3.1 (正弦と余弦の導関数). 角を弧度法で測る。sinとcosはすべての実数xで微分可能であり
(sinx)′=cosx,(cosx)′=−sinxが成り立つ。
証明. 実数xを固定します。h=0のとき、公式 2.1でA=x+h、B=xとすると
hsin(x+h)−sinx=h2cos(x+2h)sin2h=cos(x+2h)⋅2hsin2hです。t=2hと置くと、h→0のときt→0であり、h=0のときt=0です。公式 1.1によりtsintは1に近づきます。また定理 2.3によりcos(x+2h)はcosxに近づきます。よって差の商はcosx⋅1=cosxに近づき、(sinx)′=cosxです。
余弦についても同様に、h=0のとき
hcos(x+h)−cosx=h−2sin(x+2h)sin2h=−sin(x+2h)⋅2hsin2hです。定理 2.3によりsin(x+2h)はsinxに近づくので、差の商は−sinx⋅1=−sinxに近づき、(cosx)′=−sinxです。▨
同じ定理を、別の道すじでも証明することができます。差の商を和を積に変える公式で直すかわりに、加法定理で展開して整理する方法です。あらかじめ示しておいたx1−cosxの極限を、この道すじでは直接用います。
二つの証明は、用いるものが違います。主証明は和を積に変える公式と定理 2.3を用い、x1−cosxの極限を用いません。別証明はx1−cosxの極限を直接用い、連続性を用いません。どちらもxsinxの極限には依存しており、この極限を外すことはどちらの道すじでもできません。
横軸は弧度法で測った角x、縦軸は関数の値です。原点における接線の傾きが1であることは、定理 3.1にx=0を代入したcos0=1から従う結論であり、図から読み取った事実ではありません。
例 3.2 (微分係数と接線).y=sinxのx=3πにおける微分係数は、定理 3.1によりcos3π=21である。sin3π=23であるから、この点における接線の方程式は
y=23+21(x−3π)である。
例 3.3 (繰り返し微分する).定理 3.1を繰り返し用いると
(sinx)′=cosx,(sinx)′′=−sinx,(sinx)′′′=−cosx,(sinx)′′′′=sinxである。4回微分すると、もとの関数に戻る。
4 度数法で測ると導関数が変わる
6 演習
差の商と公式 1.1を用いて、sinxの導関数がcosxであることを導きなさい。角を度数法で測った場合に係数が現れる理由も説明しなさい。
証明 (演習の要点). 差の商を公式 2.1によりcos(x+h/2)h/2sin(h/2)と書き直し、二因子の極限をそれぞれcosxと1とする。度数法では角xが弧度法でπx/180となるため、合成関数の微分法によりπ/180が掛かる。▨