媒介変数表示とは、曲線上の点の座標を、共通の変数(媒介変数、パラメータ)の関数としての形で表すことです。を時刻だと思うと、は時刻に点がいる位置——つまり「動く点の軌跡」を表します。対象は式だけでなく、パラメータの範囲として指定する。範囲を省略すると、曲線全体か一部か、同じ点を何度通るかが決まらない。以下では原点を、互いに直交する同一目盛りの軸を使う。
1 なぜ媒介変数か
の形(を決めるとが1つ)では表せない曲線がたくさんあります。円は1つのにが2つあるので関数になりませんが、媒介変数なら一息に書けます。
下の図はというリサージュ曲線。を1つの式で結ぶのは難しくても、媒介変数ならを動かすだけで描けます。
2 媒介変数を消す
媒介変数表示から、だけの関係式(直交方程式)を得るには、を消去します。円ならを使って、。三角関数の相互関係や、と解いて代入するのが定石です(軌跡の単元の「補助変数の消去」と同じ)。
逆に、直交方程式から媒介変数表示を作ることもできます。楕円は。目的に応じて 2つの表現を行き来します。
ただしを消去すると、もとの範囲や向きの情報が失われることがある。同じ点を複数のが表す場合もあるので、得られた直交方程式の点がすべて元の表示から得られるかを確認する。また接線の傾きはのときだけこの形で使える。なら鉛直接線の候補、なら特異点の可能性を別に調べる。
閑話休題:転がる車輪が描く、最速の坂 「動く点の軌跡」の中でもとびきり美しいのがサイクロイド——転がる車輪の縁の1点が描く曲線です(,と媒介変数で書けます)。この曲線には、17世紀の数学者たちを熱狂させた性質があります。上下をひっくり返したサイクロイドは、最速降下線(ブラキストクロン)—— 高い点から低い点へ玉を滑らせるとき、最も速く着く坂の形——なのです。直線でも円弧でもなく、この曲線が最速。1696年、ヨハン・ベルヌーイがこの問題を「世界中の数学者への挑戦状」として出すと、ニュートン、ライプニッツ、ロピタルら当代一流が解答を寄せ、この一件が変分法(関数を最適化する数学)という新分野を生みました。
さらにサイクロイドは等時性ももちます——サイクロイド面を転がり落ちる玉は、どの高さから出発しても同じ時間で最下点に着く。ホイヘンスはこれを利用して、振れ幅によらず周期が一定の正確な振り子時計を設計しました(航海での経度測定という時代の大問題への挑戦でした)。動く点の軌跡はほかにも、オシロスコープに映るリサージュ図形(2つの信号の位相を見る)、スピログラフの模様、古代人が惑星の逆行を説明するのに使った周転円など、物理・工学・天文のあちこちに顔を出します。「点がどう動くか」をの関数で捉えるこの発想が、思わぬ深い問題への扉を開くのです。