概要
本単元は、座標平面上の図形を方程式と不等式によって表し、図形の性質や位置関係に関することがらを計算によって求めます。三角比による計量から始めて、点と直線、円、軌跡、領域を座標で表し、そのうえでベクトル、2×2行列、複素数平面、2次曲線、媒介変数表示、極座標へ進みます。図形を表す手段は記事ごとに変わりますが、条件を式で表し、計算し、得られた解が図形について何を述べているのかを確かめる手順は、どの記事にも共通します。
本単元が想定する読者は、一次方程式・二次方程式と不等式の計算を一通り習得し、これから図形を座標と式で扱う段階へ進む人です。
本単元で扱う計算は、図形の問題を解く場面にとどまりません。物理学における位置、速度、力の記述、線形代数学におけるベクトルと座標、複素解析における複素平面、微積分における曲線の表し方は、いずれも本単元の内容を前提とします。
この単元のねらい
本単元は、読者が次に掲げる能力を習得することを目標とします。
- 三角比と三角関数を用いて、辺の長さ、角の大きさ、座標の関係を式で表し、必要な量を求めることができます。
- 点、直線、円、軌跡、領域についての条件を、方程式または不等式で表すことができます。
- 得られた方程式または不等式から、図形の位置関係、交点、境界、範囲を求めることができます。
- ベクトルと内積を用いて、平行であること、垂直であること、長さ、なす角、射影の長さを計算することができます。
- 複素数の積と商を、複素数平面上の回転と拡大・縮小の組み合わせとして説明することができます。
- 平面の一次変換を2×2行列で表し、回転、拡大・縮小、対称移動の合成を行列の積として計算することができます。
- 2次曲線、媒介変数表示、極座標を用いて、直交座標の方程式だけでは表しにくい曲線を記述することができます。
- 座標系、変数と媒介変数の動く範囲、除外する点、図形が退化しない条件を明示し、導いた式がもとの図形の条件と同値であることを確かめることができます。
- 座標、ベクトル、複素数のうちから問題に適した表し方を選び、計算の結果を別の方法または図によって検算することができます。
前提知識
本単元は、「数と式の計算」の基礎で扱う一次方程式と二次方程式、不等式、平方完成、連立方程式、複素数の四則演算を用います。座標を用いた式の整理や交点の計算に不安がある読者は、同単元の対応する記事を先に読むとよいでしょう。
また、本単元は、関数を定義域とともに扱う考え方とグラフの読み方を用いるので、「関数の性質」の基礎を前提とします。三角関数をグラフによって調べる内容は同単元が扱い、本単元は三角比、加法定理、三角関数を含む方程式と不等式を扱います。
本単元の「三角比」は、三角形の相似と三平方の定理を用います。2点間の距離の公式も三平方の定理そのものです。これらを未修得の読者は、「初等幾何学」の対応する記事を先に読むとよいでしょう。
この単元を貫く4つの方針
本単元の各記事は、次の4点を共通の方針とします。
- 図形の条件を式で表し、その式が表す図形を確かめます。 図形が満たす条件から方程式を導くだけでなく、得られた式を満たす点の集合が、もとの条件を満たす点の集合と一致するかどうかを確かめます。
- 座標系と条件を明示します。 原点、軸、向き、単位、変数と媒介変数の動く範囲、境界を含むかどうか、図形が退化しない条件を、そのつど確かめます。
- 目的に応じて表し方を選びます。 座標、三角比、ベクトル、行列、複素数、媒介変数、極座標のうち、その図形の関係を簡潔に表すものを選びます。
- 計算の結果を図形について確かめます。 求めた交点や距離をもとの条件へ代入し、図と食い違わないことを確かめます。図や数値例によって確かめたことは、一般の場合についての証明とは区別して扱います。
難易度区分
本単元は、19記事を「基礎」16記事と「発展・応用」3記事に分けます。
基礎は、三角比による計量から始め、座標による点と直線、円、軌跡、領域の表し方へ進みます。そのうえでベクトルと内積、2×2行列、複素数平面によって、図形の関係と変換を別の手段で扱い、最後に2次曲線、媒介変数表示、極座標へ進んで、直交座標の方程式だけでは表しにくい曲線まで対象を広げます。図形を表す手段は変わりますが、条件を式で表して計算し、得られた解を図形の性質として述べ直すという手順は共通です。
基礎の16記事は、本単元で必ず読む内容です。このうち「2×2行列と平面の一次変換」は現行の高等学校の学習指導要領には含まれませんが、回転を積として計算するという見方の根拠を与えるので、基礎の一つとして読みます。他の記事はこの記事を前提としないため、読者はどの段階の後に読んでも学習を進めることができます。
発展・応用の3記事は必修ではなく、読者は関心に応じて選んで読むことができます。3記事はいずれも高等学校の範囲を超える内容を扱います。
基礎
読者が図形の条件を式で表し、座標系、変数の動く範囲、境界、図形が退化しない条件を保ったまま標準的な計算を実行し、得られた解が図形について何を述べているのかを確かめることができるようにする段階です。各記事が扱う内容は、次のとおりです。
- 三角比 — 直角三角形における正弦、余弦、正接を辺の比として定義し、三つの比の相互関係を導きます。さらに定義を鈍角まで広げ、正弦定理、余弦定理、三角形の面積の公式によって、辺の長さと角の大きさを求めます。
- 一般角と弧度法、三角関数の定義 — 角を向きのある回転の量として扱い、度数法と弧度法を相互に変換します。単位円の上の座標によって三角関数を定義し、象限による符号、周期、同じ終辺をもつ角の表し方を整理します。
- 加法定理とその派生公式 — 三角関数の加法定理を導き、そこから倍角の公式、半角の公式、積和の公式、和積の公式、合成の公式へ進みます。それぞれの公式を適用することができる条件を確かめ、具体的な角の値の計算と図形の計量に用います。
- 三角関数を含む方程式・不等式 — 単位円、三角関数の相互関係、加法定理を用いて、三角関数を含む方程式と不等式を解きます。解を一周期の中で求める場合と、一般解を求める場合とを区別し、定義域と周期を保ったまま計算します。
- 点と直線 — 2点間の距離、内分点と外分点、直線の方程式、2直線が平行または垂直になる条件、点と直線の距離を求めます。軸に平行な直線や2点が一致する場合など、傾きを用いた表示をそのまま適用することができない場合を区別します。
- 円の方程式と、直線・円の位置関係 — 円の中心と半径から方程式を作り、一般形を平方完成して中心と半径を読み取ります。直線と円の位置関係、および二つの円の位置関係を、中心からの距離によって、または連立方程式の実数解の個数によって判定します。
- 軌跡と方程式 — 与えられた条件を満たす点の集合として軌跡を定め、その集合を表す方程式を求めます。同値な変形によって式を導いた後、分母が0になるなどの理由で実際には条件を満たさない点が含まれていないかを必ず調べます。除外すべき点を書き落とすと、その後の計算では誤りが解消しません。
- 不等式の表す領域 — 境界がの形で表されているとき、が境界の上側の領域を、が下側の領域を表すことを示します。円を境界とする場合には、不等号の向きが内部と外部のどちらを表すのかを判定します。境界を含むかどうかを区別し、複数の不等式が同時に成り立つ範囲を図示して、領域の上での最大値と最小値を求める問題へ進みます。
- 平面・空間ベクトルの演算と成分表示 — ベクトルの和、差、実数倍、成分による表示、位置ベクトル、一次結合を計算します。図形における平行移動と成分の計算とを対応させ、平面と空間に共通する計算の方法を示します。
- 内積と図形への応用 — 内積を、成分による式と、長さおよびなす角による式の二通りで定義し、二つの式が一致することを示します。二つのベクトルが直交する条件、なす角、符号を含む射影の長さを、内積によって求めます。
- ベクトルの一次独立と図形問題への応用 — 一次結合による表示が一意に定まる条件を、平行でない二つのベクトルの場合と、同一平面上にない三つのベクトルの場合について扱います。係数を比較して得られた結果を図形の位置関係として述べ直し、 3点が一直線上にある条件、4点が同一平面上にある条件、交点の位置、線分の比を求める問題に適用します。
- 2×2行列と平面の一次変換 — 回転、拡大と縮小、対称移動、せん断を、行列の積として計算します。あわせて、ベクトルの成分による表示と複素数の積が同じ変換を与えることを確かめます。
- 複素数平面 — 複素数を平面上の点として、またはベクトルとして表し、絶対値、偏角、極形式を扱います。複素数の積と商を回転と拡大・縮小の組み合わせとして説明し、ド・モアブルの定理によって累乗と累乗根を求めます。
- 2次曲線 — 放物線、楕円、双曲線を、点と点または点と直線の距離についての条件によって定義し、その条件から標準形の方程式を導きます。焦点、準線、頂点、軸、漸近線を方程式から読み取り、円である場合や退化する場合との関係を述べます。
- 曲線の媒介変数表示 — 曲線を、の形で表し、媒介変数の動く範囲、曲線をたどる向き、同じ点を複数回通る場合を扱います。媒介変数を消去して得られた方程式が、もとの曲線の全体と一致するかどうかを判定します。
- 極座標と極方程式 — 原点からの距離と、基準となる方向から測った角によって点を表し、直交座標との相互の変換を計算します。同じ点の表し方が一通りに定まらないこと、原点における角の扱い、距離に負の値を許す規約、角の範囲と周期を確かめながら、極方程式の表す曲線を図示します。
発展・応用
平面について成り立った計算を、空間および一般の次元へ広げる段階です。平面では問題にならなかった回転の合成の順序や符号の違いが、広げた先では結果を変えます。扱う対象も高等学校の範囲を超えます。 3記事はいずれも必修ではなく、読者は大学で学ぶ内容への接続として、関心に応じて選んで読むことができます。各記事が扱う内容は、次のとおりです。
- 3次元の回転と球面、オイラー角 — 平面の回転行列を空間の場合へ広げ、軸のまわりの回転を合成する順序を変えると結果が変わることを示します。オイラー角による回転の表し方と、オイラー角では回転を一通りに定めることができなくなる場合(ジンバルロック)までを扱います。
- 4元数と3次元の回転 — 複素数の積が平面の回転を与えたことに対応する3次元の場合として、4元数を導入します。単位4元数による共役が空間の回転を与えること、およびとが同じ回転を与えることを示します。後者は、からへの2対1の対応にあたります。
- 円分多項式 — 複素数平面における1の乗根が正角形の頂点をなすことを、の因数分解によって扱います。ガウスによる正17角形の作図との関係は紹介にとどめ、円分多項式が既約であることの証明は「体論入門」が扱います。
学習到達点の確認方法
同じ図形を扱う場合であっても、本単元が確かめる内容は区分によって異なります。
- 基礎では、読者が図形の条件を三角比、座標、ベクトル、行列、複素数による式で正確に表し、標準的な計算を実行することができるかを確かめます。また、読者が座標系、変数と媒介変数の動く範囲、境界、除外する点、図形が退化しない条件を明示し、計算の結果をもとの図形の条件に照らして検証することができるかを調べます。ベクトルによる表示が存在するかどうかと一意であるかどうかの判断、および同じ図形の変換を行列、成分の計算、複素数の積のそれぞれで計算して結果が一致することの検算も、この段階に含みます。
- 発展・応用では、読者が、平面について成り立った計算のどこが空間や一般の次元へ引き継がれ、どこから新しい手段が必要になるのかを説明することができるかを確かめます。
本単元は、演習に、長さ、角の大きさ、交点、方程式のように答えが一意に定まる問題と、図形の条件から式を立てる問題、および式から図形を求める問題を用います。読者が図によって確かめた内容は、一般の場合についての証明とは区別して扱います。
前後の単元との関係
- 数と式の計算 — 同単元は、方程式、不等式、平方完成、複素数の四則の計算を扱います。本単元は、その計算を図形の条件へ適用します。
- 初等幾何学 — 同単元は、相似、三平方の定理、円についての定理を、初等幾何学的な論証によって証明します。本単元は、同じ図形を座標、ベクトル、複素数によって計算します。初等幾何学的な論証によって証明される事柄のうちのいくつかは、適切な座標系のもとで適切に計算を行うことによっても証明することができます。
- 関数の性質 — 本単元は三角関数を図形の計量と方程式の解法に用い、同単元は同じ三角関数を、定義域、グラフ、微分という関数の側面から扱います。
- 線形代数 I — 同単元は、本単元で扱うベクトルの一次結合、一次独立、成分による表示、2×2行列による一次変換を、一般のベクトル空間、線形写像、行列式、固有値へ広げます。
- 複素解析 — 同単元は、本単元で扱う複素数平面上の点と変換を、複素関数、正則性、等角写像へ広げます。
- 群論入門 — 同単元は、回転全体のなす群と、1の乗根のなす巡回群を、群およびその作用として扱います。
- 体論入門 — 同単元は、円分多項式の既約性、円分体、定規とコンパスによる作図可能性を、体の拡大次数によって扱います。
- 数列と極限および微積分 — 両単元は、媒介変数や極座標で表された曲線について、極限、長さ、面積を微積分によって求めます。
教育課程上の位置づけと参考年次
本単元の参考年次は、基礎が高等学校2年、発展・応用が高等学校3年です。これは本単元の中での学習の目安であって、各国の課程における学年の配当ではありません。実際、基礎の最初にある三角比は、日本では通常1年次に履修する数学Iの「図形と計量」に対応します。発展・応用の3記事については、後述のとおり通常の必修課程では扱われないため、学年は本単元の中での位置づけを示すにとどまります。
本単元の内容と各国の教育課程との主な対応は、次のとおりです。国によって必修科目と選択科目の区分が異なるため、以下は、内容の配置を比較するための参考です。なお、2×2行列による一次変換は、日本の項に挙げる平成30年告示の高等学校学習指導要領には含まれません。3次元の回転、4元数、円分多項式は、通常、高等学校の必修課程には含まれません。各国の課程はいずれも改訂されることがあるので、読者は、参照する時点で適用されている課程をリンク先で確認するとよいでしょう。
- 日本 — 高等学校学習指導要領(平成30年告示)の「数学I 図形と計量」、「数学II 図形と方程式」および「三角関数」、「数学C ベクトル」および「平面上の曲線と複素数平面」に主として対応します。
- 韓国 — 2022改訂教育課程の共通科目「共通数学2(공통수학2)」にある図形の方程式と、選択科目「代数(대수)」および「幾何(기하)」に分かれて置かれる内容に対応します。本単元の複素数平面、媒介変数、極座標を含む全記事が、一つの韓国課程科目に対応するわけではありません。
- 中国 — 普通高中课程方案和语文等学科课程标准(2017年版2020年修订)の必修課程にある三角関数、平面ベクトル、複素数と、選択性必修課程にある空間ベクトル・立体幾何、平面解析幾何に主として対応します。
- 米国 — 連邦教育省の説明のとおり、教育基準は州が定めます。比較資料として Common Core State Standards for Mathematicsを用いると、 High School Geometryの「Similarity, Right Triangles, and Trigonometry」、「Expressing Geometric Properties with Equations」と、High School Number and Quantityの「Vector and Matrix Quantities」に対応します。同基準は、複素数平面、2次曲線、媒介変数、極座標を本単元と同じ一まとまりにしていません。
- フランス — lycée général et technologiqueの数学課程では、 secondeのgéométrie repérée、premièreのcercle trigonométrique、produit scalaire、 terminaleの空間ベクトルなどに対応します。2026年公示の新課程はsecondeとpremièreから段階的に実施され、terminaleについては2027年度から実施されるため、読者は参照する時点の施行年度を併せて確認する必要があります。
- ドイツ — 各州が学校課程を定め、KMKの数学教育基準が一般大学入学資格に共通する到達像を示します。解析幾何、座標表示、ベクトル、内積に関する内容に対応します。州別の例として、バイエルン州LehrplanPLUSは、空間座標、ベクトルの演算、内積、図形への応用を上級課程で扱います。同州は複素数と行列を、深化科目の選択内容にも置いています。
- イギリス(England) — National Curriculum: mathematics programmes of studyの Key stage 3・4では、三角比、座標、円、ベクトルなどを扱います。 GCE AS and A level mathematicsは、弧度法、三角関数の公式と方程式、座標幾何、ベクトル、媒介変数表示へ範囲を広げます。同資格は複素数、行列、極座標などを、主としてFurther Mathematicsの内容として扱います。