1 曲率を−1に正規化する
命題 1.1.a>0とし、x:V→R3をC∞のはめ込みとする。
x~(u,v)=a1x(au,av)と置き、その定義域をV~={(u,v):(au,av)∈V}とする。x~に付随する量を波線つきで書くと、V~の上で次が成り立つ。
- E~(u,v)=E(au,av)、F~(u,v)=F(au,av)、G~(u,v)=G(au,av)である。
- N~(u,v)=N(au,av)であり、e~(u,v)=ae(au,av)、f~(u,v)=af(au,av)、g~(u,v)=ag(au,av)である。
- K~(u,v)=a2K(au,av)である。
とくにK≡−1/a2ならばK~≡−1である。また、e=g=0ならばe~=g~=0であり、E=G=1ならばE~=G~=1である。
証明. 以下、右辺の量はすべて点(au,av)で評価する。x~u=a1⋅axu=xu、x~v=xvであるから(1)が従う。ベクトル積も等しいのでN~=Nである。二階偏導関数はx~uu=a1⋅a2xuu=axuuであり、x~uv、x~vvについても同様であるから(2)が従う。したがって
K~=E~G~−F~2e~g~−f~2=EG−F2a2(eg−f2)=a2Kである。最後の二つの主張は(1)と(2)から直ちに従う。▨
以後、K≡−1の場合だけを扱う。命題 1.1により、Gauss 曲率が負の定数である一般の場合はこの場合へ帰着する。
2 漸近方向に沿う単位速度の座標
定義 2.1.x:V→R3をC∞のはめ込みとする。座標(u,v)がxの漸近 Chebyshev 座標 (asymptotic Chebyshev coordinates) であるとは、Vの全体で次の二つがともに成り立つことをいう。
- 漸近条件。e=0かつg=0である。すなわち、二つの座標曲線の族はいずれも各点で漸近方向(§E19.6 定義 3.3)を向く。
- 単位速度条件。E=1かつG=1である。すなわち、二つの座標曲線の族はいずれも単位速度である。
定理 2.3.V⊆R2を連結開集合、x:V→R3をC∞のはめ込みとし、(u,v)が定義 2.1の漸近 Chebyshev 座標であり、Vの全体でK≡−1であると仮定する。このとき次が成り立つ。
- Fの値は開区間(−1,1)に含まれ、ω=arccosFはVの上のC∞関数であって値は(0,π)に含まれる。ωは、各点におけるxuとxvのなす角(§E19.4 定義 3.2)である。
- I=du2+2cosωdudv+dv2であり、EG−F2=sin2ωである。
- e=g=0であり、f=εsinωを満たす定数ε∈{1,−1}が存在する。ε=−1のときは、二つの座標を入れ替えた表示x′(u,v)=x(v,u)を取ることによってf=sinωとすることができる。この取り替えは、パラメータ表示が定める単位法線を反転させ、E=G=1、F=cosω、e=g=0を保つ。
- 逆に、Vの上のC∞関数ωが値を(0,π)に持ち、二つの形式の成分が
E=G=1,F=cosω,e=g=0,f=sinω
で与えられるならば、K≡−1である。
証明.(1)を示す。xははめ込みであるからEG−F2>0である(§E19.3 補題 1.4、§E19.4 補題 1.5)。E=G=1であるから1−F2>0、すなわちFの値は(−1,1)に含まれる。arccosは(−1,1)の上でC∞であり値は(0,π)に含まれるから、ω=arccosFはC∞である。§E19.4 定義 3.2によりxuとxvのなす角の余弦はF/EG=Fであるから、そのなす角はωである。
(2)を示す。E=G=1とF=cosωを§E19.4 命題 1.4へ代入すれば第一の等式が得られる。EG−F2=1−cos2ω=sin2ωである。
(3)を示す。仮定によりe=g=0である。よって
−1=K=EG−F2eg−f2=sin2ω−f2であるからf2=sin2ωである。ωの値は(0,π)に含まれるからsinω>0であり、したがってfはVの上で零にならない。f/sinωはVの上の連続関数であり、値は{1,−1}に含まれ、Vは連結であるから、この値は定数εである。
座標の入れ替えについて確かめる。x′(u,v)=x(v,u)と置く。以下、波線を付けない量はすべて点(v,u)で評価し、ダッシュを付けた量は点(u,v)で評価する。xu′=xv、xv′=xuであるから
xu′×xv′=xv×xu=−(xu×xv)である。ここで、ベクトル積が双線形でありz×z=0を満たすこと(§E19.2 補題 1.2 (2))から従う交代性z2×z1=−(z1×z2)を用いた。したがってx′が定める単位法線はN′=−Nである。第一基本形式についてはE′=G=1、G′=E=1、F′=Fであり、したがってω′=arccosF′=ωである。二階偏導関数についてはxuu′=xvv、xuv′=xuv、xvv′=xuuであるから
e′=⟨N′,xuu′⟩=−g=0,f′=⟨N′,xuv′⟩=−f,g′=⟨N′,xvv′⟩=−e=0である。したがってε=−1のときf′=−εsinω=sinω′が成り立つ。
(4)を示す。EG−F2=sin2ω>0であるから商は定まり
K=sin2ω0⋅0−sin2ω=−1である。▨
例 2.4 (二つの形式からK=−1を書き下して確かめる).定理 2.3 (4)を、成分行列の形で確かめる。第一基本形式と第二基本形式の成分行列は
(EFFG)=(1cosωcosω1),(effg)=(0sinωsinω0)である。行列式はそれぞれ1−cos2ω=sin2ωと−sin2ωであるから、§E19.6 公式 2.3によりK=−sin2ω/sin2ω=−1である。同じ表から平均曲率も定まり
H=2(EG−F2)eG−2fF+gE=2sin2ω−2sinωcosω=−sinωcosωである。Hはωの値によって定まり、ω=π/2となる点でだけ零になる。したがって、この族の曲面は一般には極小曲面(§E19.16 定義 3.2)ではない。
3 標構・余標構・接続形式
証明.E>0とEG−F2=sin2ω>0が成り立つので、§E19.12 定義 2.2を適用することができる。§E19.12 定義 2.2 (1)の式へE=G=1、F=cosωを代入すると、e1、e2、ω1、ω2の式が得られる。
ω12を求める。ω12はdω1=ω12∧ω2とdω2=−ω12∧ω1をともに満たす唯一の一次微分形式である(§E19.10 定理 3.2)。外微分を計算すると
dω1=d(cosω)∧dv=−sinωωu du∧dv,dω2=d(sinω)∧dv=cosωωu du∧dvである。η=Adu+Bdv(A,BはV上の関数)と置くと
η∧ω2=Asinω du∧dv,−η∧ω1=(B−Acosω) du∧dvである。第一の式をdω1と比べるとAsinω=−sinωωuであり、sinω>0であるからA=−ωuである。第二の式をdω2と比べるとB−Acosω=cosωωuであり、A=−ωuを代入してB=0である。よってω12=−ωuduである。
ω13とω23を求める。§E19.12 定義 2.2 (3)によりhij=II(ei,ej)である。e1=∂uであるからh11=e=0である。
h12=II(∂u, sinω∂v−cosω∂u)=sinωf−cosω⋅e=sinωsinω=1,h22=sin2ωII(∂v,∂v)−2cosωII(∂u,∂v)+cos2ωII(∂u,∂u)=sin2ω−2sinωcosω=−sinω2cosωである。よって
ω13=h11ω1+h12ω2=sinωdv,ω23=h12ω1+h22ω2=(du+cosωdv)−sinω2cosω⋅sinωdv=du−cosωdvである。
最後の等式を示す。ω1∧ω2=(du+cosωdv)∧(sinωdv)=sinω du∧dvである。EG−F2=sinωであるから、右辺は面積要素EG−F2du∧dvに一致する。▨
4 sine–Gordon 方程式
証明方針を述べる。適合条件は三つの等式からなる(§E19.12 定義 2.4)。命題 3.1が五つの形式をωの式として与えているので、三つの等式の両辺をそれぞれ計算して比べればよい。Codazzi–Mainardi の第一の等式では両辺がともにcosωωudu∧dvになり、第二の等式では両辺がともにsinωωudu∧dvになる。すなわち、この二つはωに条件を課さずに成り立つ。残る Gauss 方程式では、左辺がωuvdu∧dv、右辺がsinωdu∧dvになり、両者が一致するという条件が sine–Gordon 方程式である。
定理 4.1.V⊆R2を開集合、ω:V→(0,π)をC∞関数とし、I、IIと付随する形式を命題 3.1のとおりとする。
- Codazzi–Mainardi の条件は恒等的に満たされる。すなわちωに条件を課さずにVの上で
dω13=ω12∧ω23,dω23=ω21∧ω13
が成り立つ。
- Gauss 方程式は sine–Gordon 方程式と同値である。すなわちVの上でdω12=−ω13∧ω23が成り立つことと
ωuv=sinω
がVの上で成り立つことは同値である。
- 組(I,II)が適合条件(§E19.12 定義 2.4)を満たすことと、ωが sine–Gordon 方程式を満たすことは同値である。
- x:V→R3をC∞のはめ込みとし、(u,v)が定義 2.1の漸近 Chebyshev 座標でありK≡−1であるとする。定理 2.3のとおり単位法線を取ってf=sinωとしたとき、ωは sine–Gordon 方程式を満たす。
証明.(1)を示す。命題 3.1の形式を代入して両辺を計算する。
dω13=d(sinωdv)=cosω(ωudu+ωvdv)∧dv=cosωωu du∧dv,ω12∧ω23=(−ωudu)∧(du−cosωdv)=ωucosω du∧dvであるから第一の等式が成り立つ。次に
dω23=d(du−cosωdv)=sinω(ωudu+ωvdv)∧dv=sinωωu du∧dv,ω21∧ω13=(ωudu)∧(sinωdv)=ωusinω du∧dvであるから第二の等式が成り立つ。どちらの計算にもωについての条件は現れない。
(2)を示す。
dω12=d(−ωudu)=−ωuv dv∧du=ωuv du∧dvであり
−ω13∧ω23=−(sinωdv)∧(du−cosωdv)=−sinω dv∧du=sinω du∧dvである。du∧dvはVの各点で二次交代形式の空間の基底であるから、二つが等しいこととωuv=sinωが各点で成り立つことは同値である。
(3)を示す。§E19.12 定義 2.4 条件 (a)は、(2)が扱った等式dω12=−ω13∧ω23である。§E19.12 定義 2.4 条件 (b)は、(1)の二つの等式である。(1)により§E19.12 定義 2.4 条件 (b)は常に成り立つので、適合条件が成り立つことと§E19.12 定義 2.4 条件 (a)が成り立つことは同値であり、(2)によりそれは sine–Gordon 方程式と同値である。
(4)を示す。定理 2.3 (1)⇒(3)により、IとIIの成分は命題 3.1の形をしている。「曲面論の基本定理」の§E19.12 命題 2.7により、はめ込みの二つの基本形式は適合条件を満たす。よって(3)によりωは sine–Gordon 方程式を満たす。▨
5 可積分条件
定理 5.1.V⊆R2を開集合、ω:V→(0,π)をC∞関数とし、ωijを命題 3.1のとおりとする。Vの上の三次正方行列に値を持つC∞一次微分形式(「多様体入門」の§E17.13 定義 5.1)を
Ω=(ωij)1≤i,j≤3=0ωudu−sinωdv−ωudu0−du+cosωdvsinωdvdu−cosωdv0と定める。Ωは交代行列に値を持つ。x:V→R3がC∞のはめ込みであって、その二つの基本形式の成分が命題 3.1の(E,F,G)と(e,f,g)に一致するとき、§E19.12 命題 2.6の標構(a1,a2,a3)はVの上で
dai=j=1∑3ωijaj(i∈{1,2,3})を満たす。この方程式系の可積分条件について次が成り立つ。
- Vの上で
dΩ−Ω∧Ω=(ωuv−sinω)0−10100000du∧dv
が成り立つ。
- したがって、可積分条件dΩ−Ω∧Ω=0がVの上で成り立つことと、ωが sine–Gordon 方程式ωuv=sinωを満たすことは同値である。
証明.Ωが交代行列に値を持つことは、ωji=−ωijとωii=0による。標構が上の方程式系を満たすことは§E19.12 命題 2.6 (3)である。
(Ω∧Ω)ij=∑k=13ωik∧ωkjである(§E17.13 定義 5.1)。Ωが交代行列に値を持つことから、対角成分については
(Ω∧Ω)ii=k=1∑3ωik∧ωki=−k=1∑3ωik∧ωik=0であり、dωii=0であるから対角成分は零である。また、非対角成分については
(Ω∧Ω)ji=k=1∑3ωjk∧ωki=k=1∑3(−ωkj)∧(−ωik)=−k=1∑3ωik∧ωkj=−(Ω∧Ω)ijでありdωji=−dωijであるから、(i,j)成分と(j,i)成分は符号が反対である。したがって(1,2)、(1,3)、(2,3)の三つを計算すれば足りる。
(1,2)成分については(Ω∧Ω)12=ω13∧ω32=−ω13∧ω23であり、定理 4.1 (2)の計算により
dω12−(−ω13∧ω23)=(ωuv−sinω) du∧dvである。(1,3)成分については(Ω∧Ω)13=ω12∧ω23であり、(2,3)成分については(Ω∧Ω)23=ω21∧ω13である。定理 4.1 (1)により、この二つでは差が零である。以上により(1)が従い、du∧dvが各点で二次交代形式の空間の基底であることから(2)が従う。▨
系 5.3.V⊆R2を単連結な開集合、ω:V→(0,π)をC∞関数であってVの上でωuv=sinωを満たすものとする。このときC∞のはめ込みx:V→R3であって、第一基本形式の成分がE=G=1、F=cosω、第二基本形式の成分がe=g=0、f=sinωであるものが存在する。xはR3の向きを保つ合同変換を除いて一意である。このxはK≡−1を満たし、(u,v)はその漸近 Chebyshev 座標である。
6 擬球面
定義 6.1.t>0に対して
φ(t)=e−t,c(t)=1−e−2t,ψ(t)=arctanhc(t)−c(t)と置く。平面曲線σ(t)=(φ(t),ψ(t))を曳航線 (tractrix) という。J⊆Rを長さ2πの開区間とし
p(t,θ)=(e−tcosθ, e−tsinθ, ψ(t)),(t,θ)∈(0,∞)×Jと定める。pの像を擬球面 (pseudosphere) という。
命題 6.2.定義 6.1の記号のもとで、次が成り立つ。
- cとψは(0,∞)の上でC∞であり、ψ′=c、φ′=−e−t、φ′2+ψ′2=1である。すなわち曳航線は単位速度である。
- pは像の正則パラメータ表示であり、第一基本形式の成分は
Er=1,Fr=0,Gr=e−2t
である。以下、添字rは、座標(t,θ)に関する成分であることを表す。
- 曳航線の各点における接線が、その点からz軸と交わる点まで切り取る線分の長さは1である。この性質が「曳航線」という名の由来である。
- 擬球面の Gauss 曲率は恒等的に−1である。
- パラメータ表示pが定める単位法線に関する第二基本形式の成分は
er=−ce−t,fr=0,gr=e−tc
である。
以下で引用する「主曲率・Gauss 曲率・平均曲率」および「第一基本形式と面積要素」の回転面についての主張は、母線のパラメータをu、回転角をvと書いている。本記事では母線のパラメータをt、回転角をθと書くので、その対応で読む。
証明.(1)を示す。t>0で1−e−2t∈(0,1)であるからcはC∞で値は(0,1)に含まれ、arctanhは(−1,1)の上でC∞である。よってψはC∞である。
c′=ce−2t=c1−c2,dtdarctanhc=1−c2c′=c1であるからψ′=c1−c1−c2=cである。φ′=−e−tであるから
φ′2+ψ′2=e−2t+(1−e−2t)=1である。
(2)を示す。φ(t)=e−t>0でありφ′2+ψ′2=1>0であるから、§E19.4 命題 6.1の仮定が満たされる。さらにφは狭義単調減少であるから、σの第一成分によってtが定まり、その対応は連続である。したがってσは(0,∞)から像への同相写像であり、同命題によりpは正則パラメータ表示である。同命題が与える第一基本形式の成分は
Er=φ′2+ψ′2=1,Fr=0,Gr=φ2=e−2tである。
(3)を示す。点σ(t)における接線はs↦σ(t)+sσ′(t)=(e−t−se−t, ψ(t)+sc(t))である。第一成分が零になるのはs=1のときであり、σ′(t)は単位ベクトルであるから、σ(t)からその点までの距離は1である。
(4)を示す。曳航線は単位速度であるから§E19.6 系 4.2を適用することができ、φ′′=e−t=φであるから
K=−φφ′′=−1である。
(5)を示す。§E19.6 命題 4.1をw=φ′2+ψ′2=1として適用する。φ′=−e−t、φ′′=e−t、ψ′=c、ψ′′=c′=c1−c2=ce−2tであるから
er=φ′ψ′′−φ′′ψ′=−e−t⋅ce−2t−e−tc=−ce−t(e−2t+c2)=−ce−t,fr=0,gr=φψ′=e−tcである。ここでe−2t+c2=1を用いた。検算として
ErGr−Fr2ergr−fr2=e−2t−e−2t=−1であり、4 と一致する。▨
例 6.3 (擬球面の漸近 Chebyshev 座標と対応する解).命題 6.2の記号のもとで、擬球面に漸近 Chebyshev 座標を取り、対応する sine–Gordon 方程式の解を書き下す。
漸近方向を求める。X=a∂t+b∂θが漸近方向であることは、§E19.6 定義 3.3により
era2+2frab+grb2=−ce−ta2+e−tcb2=0,すなわちa2=c2b2と同値である。よって漸近方向はX±=±c∂t+∂θが張る二つである。Fr=0であるから、第一基本形式の成分により
I(X±,X±)=(±c)2Er+Gr=c2+e−2t=(1−e−2t)+e−2t=1である。すなわちX+とX−はすでに単位ベクトルである。また
I(X+,X−)=(c)(−c)Er+Gr=−c2+e−2t=2e−2t−1である。
座標を取り替える。α(t)=arctanhc(t)と置く。命題 6.2の証明によりα′=1/c>0であり、t→0+でα→0、t→∞でα→∞であるから、αは(0,∞)から(0,∞)へのC∞微分同相である。
u=2θ+α(t),v=2θ−α(t)と定めると、θ=u+v、α=u−vから逆写像がC∞に定まるので、この対応は(0,∞)×Jから
V={(u,v) : u+v∈J, u−v>0}へのC∞微分同相である。Vは三つの半平面の共通部分であるから凸であり、とくに単連結である。逆写像の偏微分はtu=1/α′=c、θu=1、tv=−c、θv=1であるから、(u,v)を径数とする表示x(u,v)=p(t(u,v),θ(u,v))について
∂u=xu=cpt+pθ=X+,∂v=xv=−cpt+pθ=X−である。さらに
xu×xv=(tuθv−tvθu)pt×pθ=2c(pt×pθ)であり2c>0であるから、xが定める単位法線はpが定めるものに一致する。したがって第二基本形式の成分は、命題 6.2 (5)のer,fr,grが定める同じ双線形形式IIを、新しい座標基底で読んだものである。
二つの基本形式を書き下す。上の計算により
E=I(X+,X+)=1,G=I(X−,X−)=1,F=I(X+,X−)=2e−2t−1である。第二基本形式については
e=II(X+,X+)=c2er+gr=−e−tc+e−tc=0,g=II(X−,X−)=c2er+gr=0,f=II(X+,X−)=−c2er+gr=2e−tcである。したがって(u,v)は定義 2.1の漸近 Chebyshev 座標である。
角ωを求める。cosω=F=2e−2t−1である。半角の関係1−cosω=2sin2(ω/2)から
2sin22ω=2−2e−2t=2c2であり、ω∈(0,π)であるからsin(ω/2)=cである。c=tanhα=tanh(u−v)であるから
ω(u,v)=2arcsin(tanh(u−v))である。cos(ω/2)=1−c2=e−tであるからsinω=2ce−t=fであり、定理 2.3 (3)が要求する形になっている。すなわち、この場合にはε=1であり、二つの座標を入れ替える必要はない。
sine–Gordon 方程式を満たすことを直接確かめる。α=u−vと置く。sin(ω/2)=tanhαをuで偏微分すると
21cos2ω⋅ωu=cosh2α1であり、cos(ω/2)=1−tanh2α=1/coshαであるから
ωu=coshα2である。これをvで偏微分すると、∂α/∂v=−1であるから
ωuv=cosh2α2sinhαである。一方
sinω=2sin2ωcos2ω=2tanhα⋅coshα1=cosh2α2sinhαである。二つは一致する。したがって擬球面は sine–Gordon 方程式の解ω=2arcsin(tanh(u−v))に対応する。この解は、ωuの式を積分した形ω=4arctan(eu−v)−πとも書かれる。実際、右辺のuによる偏微分は4eu−v/(1+e2(u−v))=2/cosh(u−v)であり、u−v=0での値は4⋅(π/4)−π=0であるから、二つの表示は一致する。
座標が縁で退化すること。t→0+のときc→0であるからω→0となり、sinω→0、すなわちEG−F2→0である。曳航線はt→0+のとき点(1,0)へ近づき、その極限における接線の方向(−1,0)はz軸に直交する。擬球面は、この極限において半径1の円を縁として持つ。縁の点は擬球面に属さず、漸近 Chebyshev 座標は縁まで延びない。
7 演習
問題 7.1.
- 命題 1.1の証明を再現する。相似変換だけではE=G=1が保たれない理由を述べ、座標の定数倍を合わせて行う必要があることを説明する。
- 定理 2.3 (3)の証明を再現する。Vが連結であるという仮定を落とすとεを一つの定数に取ることができなくなる理由を述べる。
- 例 2.4の計算を独立に行い、K=−1とH=−cosω/sinωを確かめる。この族の曲面が一般には極小曲面でないことを、§E19.16 定義 3.2に照らして述べる。
- 命題 3.1のω12を求める部分を再現する。§E19.10 定理 3.2が二つの構造方程式の両方を要求することが、B=0を導く段でどのように用いられているかを指摘する。
- 定理 4.1 (1)と定理 4.1 (2)を、それぞれ計算し直す。Codazzi–Mainardi の二つの等式でωについての条件が現れない理由を、両辺に現れる因子に即して述べる。
- 定理 4.1の主張を「Gauss–Codazzi の適合条件が sine–Gordon 方程式へ帰着する」と書き換えると、どの点で読者を誤らせるかを、注意 4.2に即して述べる。
- 定理 5.1 (1)を計算し直す。(1,3)成分と(2,3)成分が恒等的に零になることと、定理 4.1 (1)との対応を述べる。
- 定理 5.1のΩが交代行列に値を持つことを、(Ω∧Ω)の対角成分の計算にどのように用いたかを述べる。この性質を用いずに九つの成分をすべて計算した場合との違いを説明する。
- 注意 5.4を読み、本記事の可積分条件と、スペクトルパラメータを含む零曲率表示との違いを、助変数の有無と、条件が課される対象の違いの二点から述べる。
- 命題 6.2 (4)と命題 6.2 (5)を再現する。§E19.6 系 4.2を適用するために確かめた仮定を挙げ、それが命題 6.2 (1)のどの部分で示されているかを指摘する。
- 例 6.3の座標の取り替えを再現する。∂u=X+と∂v=X−が成り立つことを、逆写像の偏微分から確かめる。
- 例 6.3の解ω=2arcsin(tanh(u−v))が sine–Gordon 方程式を満たすことを、本文とは独立にω=4arctan(eu−v)−πの形から確かめる。
8 境界と次
座標の存在を仮定として置いたこと。本記事のすべての主張は、定義 2.1の座標が与えられているという仮定のもとにある。注意 2.2が述べたとおり、そのような座標を取ることができるという事実は成り立つが、本記事はその証明を持たない。したがって本記事は、「Gauss 曲率が負の定数であるすべての曲面が sine–Gordon 方程式の解に対応する」とは主張しない。主張するのは、そのような座標を持つ曲面についての対応である。
局所的な主張であること。系 5.3は単連結な座標領域の上の存在定理であり、§E19.12 注意 4.2の限定をそのまま引き継ぐ。得られるのははめ込みであって、単射性も、像が正則曲面であることも、大域的な埋め込みの存在も主張しない。注意 6.4のとおり、Gauss 曲率が負の定数である完備な曲面は三次元 Euclid 空間に存在しない。この事実は「Riemann 幾何 II」が扱う。
可積分系の一般論を扱わないこと。注意 5.4のとおり、本記事の可積分条件はスペクトルパラメータを持たない。逆散乱法、Bäcklund 変換の一般論、soliton の階層、および一般の Lax 表示は本単元の範囲外である。sine–Gordon 方程式の解の族の構造、および解から解を作る変換は、これらの理論に属する。
次の記事へ渡すもの。定理 2.3、定理 4.1、定理 5.1および命題 6.2は「零曲率条件と sine–Gordon 方程式の数値検算」が用いる。同記事は、既知の解について方程式の残差を評価し、定理 5.1の行列dΩ−Ω∧Ωの成分が零へ簡約されることを確かめ、擬球面の Gauss 曲率を数値的に検算する。