1 枠と余枠
補題 1.1.U⊆Mを開集合とする。
- Y1,…,YnをU上のC∞ベクトル場で、各点q∈Uで(Y1∣q,…,Yn∣q)がTqMの基底をなすものとする。このときεa(Yb)=δbaで定まるε1,…,εnはU上のC∞1形式であり、各点でTq∗Mの基底をなす。
- 逆に、ε1,…,εnをU上のC∞1形式で各点Tq∗Mの基底をなすものとすると、εa(Yb)=δbaで定まるY1,…,YnはU上のC∞ベクトル場である。
- 1 の状況で、ξ∈Ωm(U)(1≤m≤n)は増加添字B=(b1<⋯<bm)にわたって
ξ=B∑ξBεb1∧⋯∧εbm,ξB=ξ(Yb1,…,Ybm)
と一意に表され、係数ξBはU上のC∞関数である。
証明.(1)を示す。チャート(V,φ=(x1,…,xn))をUの中に取り、Yb=∑i=1nAbi∂/∂xiと書く。A=(Abi)の成分はC∞であり、各点でAは可逆である。εa=∑i=1nBiadxiと置くとεa(Yb)=∑i=1nBiaAbiであるから、条件はBA=I、すなわちB=A−1である。Cramer の公式によりA−1の成分はAの成分の多項式をdetAで割ったものであり、detAは消えないのでBの成分はC∞である。よって§E17.10 命題 2.2によりεaはC∞である。Bが可逆であるから(ε1∣q,…,εn∣q)はTq∗Mの基底である。
(2)を示す。同じ計算を逆向きに行う。εa=∑i=1nBiadxiの成分行列BはC∞で各点可逆であり、A=B−1の成分がC∞であることからYb=∑i=1nAbi∂/∂xiはC∞ベクトル場である。
(3)を示す。各点で{εb1∣q∧⋯∧εbm∣q}は⋀m(Tq∗M)の基底である(§E3.14 定理 2.1)。§E17.10 系 3.6により
(εb1∧⋯∧εbm)(Yc1,…,Ycm)=det(δcsbr)r,s=1mであり、増加添字B、Cに対してこれはB=Cのとき1、そうでないとき0である(§E17.10 命題 4.1の証明と同じ議論)。よって展開は一意であり、係数はξ(Yb1,…,Ybm)に等しい。これはC∞関数である。▨
補題 1.2.DをM上の階数kのC∞分布とする(§E17.8 定義 1.1)。
- 各点p∈Mに対し、pの開近傍Uと、U上のC∞1形式の組(ε1,…,εk,ω1,…,ωn−k)であって、各点でTq∗Mの基底をなし、Uの各点qで
Dq=a=1⋂n−kkerωqa
となるものが存在する。
- 逆に、開集合Uの上のC∞1形式ω1,…,ωn−kが各点で一次独立であるならば、q↦⋂akerωqaはU上の階数kのC∞分布である。
証明.(1)を示す。§E17.8 定義 1.1により、pのある開近傍U0の上でDを張るC∞ベクトル場の枠X1,…,Xkが存在する。U0をチャートの定義域に取り替え、座標基底を∂/∂x1,…,∂/∂xnとする。X1∣p,…,Xk∣pは一次独立であるから、座標基底のうちn−k個を選んでTpMの基底を作ることができる。番号を付け替えて、それらを∂/∂xk+1∣p,…,∂/∂xn∣pとする。
Y1,…,YnをX1,…,Xk,∂/∂xk+1,…,∂/∂xnと定め、これらを座標基底で表した行列をAとする。Aの成分はC∞でありdetA(p)=0であるから、detAの連続性によりdetA=0となるpの開近傍U⊆U0が存在する。Uの上で(Y1,…,Yn)は各点で基底をなすC∞枠である。
補題 1.1 (1)により双対なC∞余枠(ε1,…,εk,ω1,…,ωn−k)が定まる(ωa=εk+aと書いた)。v=∑b=1ncbYb∣qに対してωa(v)=ck+aであるから、⋂akerωqaはY1∣q,…,Yk∣qが張る部分空間、すなわちDqである。
(2)を示す。各点qでω1∣q,…,ωn−k∣qは一次独立であるから、共通の核はk次元である。q0∈Uを取り、座標基底の双対基底dx1,…,dxnのうちk個を選んで(⋅,ω1∣q0,…,ωn−k∣q0)がTq0∗Mの基底になるようにする。番号を付け替えてdx1,…,dxkとする。行列式の連続性から、q0のある近傍U′の上で(dx1,…,dxk,ω1,…,ωn−k)は各点で基底をなす。補題 1.1 (2)により、双対なC∞枠(Z1,…,Zk,W1,…,Wn−k)が定まる。ωa(Zi)=0であるからZ1,…,Zkは⋂akerωaに属し、次元から各点でそれを張る。よって⋂akerωaは階数kのC∞分布である。▨
以下、この記事では適合余枠という語を次の意味で用いる。Mをn次元C∞多様体、1≤k≤n−1とし、U⊆Mを開集合とする。U上のC∞1形式の組(ε1,…,εk,ω1,…,ωn−k)が各点q∈UでTq∗Mの基底をなすとき、この組をU上の適合余枠といい、補題 1.1 (2)が与える双対枠を(Y1,…,Yk,Z1,…,Zn−k)と書く。このときD=⋂a=1n−kkerωaはU上の階数kのC∞分布であり、各点qでY1∣q,…,Yk∣qがDqを張る。補題 1.2により、M上の任意の階数kのC∞分布は、各点の近傍で適合余枠から得られるこの形に表される。
2 外積イデアル
定義 2.1.U⊆Mを開集合、ω1,…,ωn−kをU上のC∞1形式で各点において一次独立であるものとする。ω1,…,ωn−kが生成する外積イデアル (generated exterior ideal)Iを
Im={ a=1∑n−kηa∧ωa : η1,…,ηn−k∈Ωm−1(U) }⊆Ωm(U)(m≥1)で定め、I=⋃m≥1Imと書く。ここで∑a=1n−kは添字aについての和を明示的に表す。
命題 2.2.U、ω1,…,ωn−k、Iを定義 2.1のとおりとする。m,l≥1、ξ∈Im、ζ∈Ωl(U)とすると
ζ∧ξ∈Im+l,ξ∧ζ∈Im+lが成り立つ。
証明.ξ=∑a=1n−kηa∧ωa(ηa∈Ωm−1(U))と書く。各aについて、§E17.10 定理 3.5の結合性から
ζ∧(ηa∧ωa)=(ζ∧ηa)∧ωaである。ζ∧ηa∈Ωm+l−1(U)であるから、aについて和を取るとζ∧ξ∈Im+lを得る。
つぎに各aについて、ηaの次数はm−1、ωaの次数は1であるから、§E17.10 定理 3.5の次数付き交換性を二度用いて
(ηa∧ωa)∧ζ=(−1)lηa∧ζ∧ωa=(−1)l(−1)(m−1)l(ζ∧ηa)∧ωaである(第一の等号ではωa∧ζ=(−1)1⋅lζ∧ωa、第二の等号ではηa∧ζ=(−1)(m−1)lζ∧ηaを用いた)。右辺はIm+lの元の定数倍であるから、aについて和を取るとξ∧ζ∈Im+lを得る。▨
補題 2.3.U⊆Mを開集合、(ε1,…,εk,ω1,…,ωn−k)をU上の適合余枠、(Y1,…,Yk,Z1,…,Zn−k)をその双対枠、D=⋂a=1n−kkerωa、Iをω1,…,ωn−kが生成する外積イデアル(定義 2.1)とする。m≥1とξ∈Ωm(U)に対して次は同値である。
-
ξ∈Imである。
-
すべてのq∈Uとv1,…,vm∈Dqに対してξq(v1,…,vm)=0である。
とくにIは、Dを消す形式の全体として、ω1,…,ωn−kのとり方に依らずに定まる。
証明.条件 (a)⇒(b)を示す。ξ=∑a=1n−kηa∧ωa(ηa∈Ωm−1(U))とし、v1,…,vm∈Dqとする。各aについてξa=ηa∧ωaと置く。ωaは1形式であるから、§E17.10 命題 3.3を(m−1,1)シャッフルに適用すると、各aについて
(ξa)q(v1,…,vm)=j=1∑m(−1)m−j(ηa)q(v1,…,vj,…,vm)ωqa(vj)となる。vj∈Dqからωqa(vj)=0であり、すべての項が消える。したがってξq(v1,…,vm)=∑a=1n−k(ξa)q(v1,…,vm)=0である。
条件 (b)⇒(a)を示す。補題 1.1 (3)を余枠(θ1,…,θn)=(ε1,…,εk,ω1,…,ωn−k)に適用して
ξ=B∑ξBθb1∧⋯∧θbmと展開する(B=(b1<⋯<bm))。Bが{1,…,k}に含まれない項、すなわちbr≥k+1となるrを持つ項は、§E17.10 系 3.6により因子を並べ替えて±(形式)∧ωbr−kの形に書くことができ、Imに属する。それらの和をξ′′と置き、B⊆{1,…,k}の項の和をξ′と置くとξ=ξ′+ξ′′である。
ξ′′∈Imであるから、すでに示した含意によりξ′′はDを消す。仮定からξもDを消すので、ξ′もDを消す。DqはY1∣q,…,Yk∣qが張るので、増加添字B⊆{1,…,k}に対して
ξB′=ξ′(Yb1,…,Ybm)=0である(補題 1.1 (3))。よってξ′=0でありξ=ξ′′∈Imである。
最後の主張は、2 の条件がDだけで書かれていることによる。▨
3 Frobenius の定理の微分形式版
定理 3.1 (Frobenius の定理の微分形式版).Mを境界を持たないn次元C∞多様体、1≤k≤n−1、U⊆Mを開集合とする。(ε1,…,εk,ω1,…,ωn−k)をU上の適合余枠とする。すなわち、これらはU上のC∞1形式であって、各点q∈UでTq∗Mの基底をなすとする。(Y1,…,Yk,Z1,…,Zn−k)をその双対枠(補題 1.1)とし、
D=a=1⋂n−kkerωaと置く。DはU上の階数kのC∞分布であり、各点qでY1∣q,…,Yk∣qがDqを張る(補題 1.2)。Iをω1,…,ωn−kが生成する外積イデアル(定義 2.1)とする。このとき次の三つは同値である。
- Dは可積分である。すなわちUの各点を通るk次元積分多様体が存在する。
- dI⊆Iである。すなわちξ∈Imならばdξ∈Im+1である。
- U上の1形式θba(a,b=1,…,n−k)が存在して
dωa=b=1∑n−kθba∧ωb(a=1,…,n−k)
が成り立つ。
証明.条件 (b)⇒(c)を示す。条件 (b)を仮定する。ωaはηb=δba(定数関数)を取るとI1に属するのでdωa∈I2である。I2の元は∑b=1n−kηb∧ωb(ηb∈Ω1(U))の形であるから、θba=ηbと置けば条件 (c)を得る。
条件 (c)⇒(b)を示す。条件 (c)を仮定する。ξ=∑a=1n−kηa∧ωa∈Im(ηa∈Ωm−1(U))とする。§E17.11 定義 2.1 条件 (c)により
dξ=a=1∑n−k(dηa∧ωa+(−1)m−1ηa∧dωa)である。第一の和はIm+1に属する。第二の和は 3 と§E17.10 定理 3.5の結合性により
a=1∑n−k(−1)m−1ηa∧(b=1∑n−kθba∧ωb)=b=1∑n−k(a=1∑n−k(−1)m−1ηa∧θba)∧ωbと書き直され(命題 2.2の証明と同じ計算である)、これもIm+1に属する。よってdξ∈Im+1である。
条件 (a)⇔(c)を示す。§E17.8 定理 5.1を開部分多様体U(§E17.1 命題 7.1)へ適用すると、条件 (a)はDが対合的であること、すなわちDに属する任意の二つのC∞ベクトル場X,Yに対して[X,Y]もまたDに属することと同値である。積分多様体の存在は各点の近傍だけで述べられる条件であるから、Uの上で調べれば足りる。
X,YをU上のC∞ベクトル場で、各点でDに属するものとする。ωa(X)=ωa(Y)=0であるから、§E17.11 定理 4.2により
dωa(X,Y)=X(ωa(Y))−Y(ωa(X))−ωa([X,Y])=−ωa([X,Y])である。[X,Y]が各点でDに属することは、すべてのaについてωa([X,Y])=0となることと同値である。したがって
と
- すべてのaと、Dに属するすべてのC∞ベクトル場X,Yに対してdωa(X,Y)=0となること
は同値である。後者は、dωaが各点でDqを消すことと同値である。実際、v,w∈Dqに対しては、定数係数の一次結合∑i=1kciYiと∑i=1kc′iYiを取るとDに属するC∞ベクトル場であってqでそれぞれv、wに等しいものが得られ、dωaは各点で決まる形式であるからdωqa(v,w)=dωa(X,Y)(q)である。
補題 2.3により、dωaがDを消すこととdωa∈I2であることは同値であり、後者は条件 (c)と同じ主張である。▨
例 3.2 (三次元空間の Pfaff 方程式).M=R3、座標を(x,y,z)とし、n=3、k=2の場合を見る。
可積分でない例。ω=dz−ydxとする。ωはどの点でも消えないので、D=kerωは階数2のC∞分布である。dω=−dy∧dx=dx∧dyであるから
ω∧dω=(dz−ydx)∧dx∧dy=dz∧dx∧dy=dx∧dy∧dz=0である。もしdω=θ∧ωと書けたとするとω∧dω=ω∧θ∧ω=−ω∧ω∧θ=0となり矛盾する。よって定理 3.1 条件 (c)が成り立たず、Dは可積分でない。
可積分である例。U={(x,y,z)∈R3:y>0}の上でω=ydx−xdyとする。ωはUのどの点でも消えない。dω=dy∧dx−dx∧dy=−2dx∧dyであるから
ω∧dω=(ydx−xdy)∧(−2dx∧dy)=0である(どちらの項もdxまたはdyを二度含む)。実際、u=x/yと置くと
du=y2ydx−xdy,ω=y2duであるからdω=d(y2)∧du=y2d(y2)∧ωとなり、定理 3.1 条件 (c)がθ=d(y2)/y2で成り立つ。積分多様体はu=x/yが一定の面、すなわちz軸を縁とする開いた半平面である。U={y>0}であるからz軸自身はUに属さず、積分多様体はその縁を含まない。ω自身は完全形式でない(dω=0)が、y−2という因子を掛けるとy−2ω=duとなり、完全形式になる。
4 全微分方程式の可解性
定理 4.1.Mを境界を持たないn次元C∞多様体、1≤k≤n−1、U⊆Mを開集合、(ε1,…,εk,ω1,…,ωn−k)をU上の適合余枠(各点でTq∗Mの基底をなすC∞1形式の組)とし、(Y1,…,Yk,Z1,…,Zn−k)をその双対枠、D=⋂a=1n−kkerωaとする。このとき次は同値である。
-
Dは可積分である。
-
Uの各点q0に対して、q0の開近傍V⊆UとC∞関数u1,…,un−k:V→Rであって、du1,…,dun−kが各点で一次独立であり、Vの上で
ωa=b=1∑n−kcbadub(a=1,…,n−k)
と表されるもの(cbaはC∞関数で行列(cba)は各点で可逆)が存在する。
このときu=(u1,…,un−k):V→Rn−kは沈め込みである。各t∈Rn−kに対して、空でない共通レベル集合u−1(t)の各連結成分はDのk次元埋め込み積分多様体である。逆に、(N,ι)がι(N)⊆Vを満たす連結な積分多様体ならば、ι(N)は一つの共通レベル集合の一つの連結成分に含まれる。したがって、共通レベル集合の連結成分は、像の包含関係に関してV内で極大な連結積分多様体を与えるが、一般の連結積分多様体の像はその真部分集合でもよい。
証明.条件 (a)⇒(b)を示す。§E17.8 定理 5.1により、q0の周りに平坦チャート(V,ψ=(y1,…,yn))が存在して、D∣Vは∂/∂y1,…,∂/∂ykが張る。ua=yk+a(a=1,…,n−k)と置く。du1,…,dun−kは座標の双対基底の一部であるから各点で一次独立である。
ωaはDを消すので、補題 1.1 (3)を余枠(dy1,…,dyn)に適用してωa=∑i=1nωiadyiと書くと、i≤kに対してωia=ωa(∂/∂yi)=0である。よってωa=∑b=1n−kcbadub(cba=ωk+ba)である。行列(cba)は、ω1,…,ωn−kが各点で一次独立であることから可逆である。
条件 (b)⇒(a)を示す。§E17.11 定義 2.1 条件 (c)と§E17.11 定義 2.1 条件 (d)により
dωa=b=1∑n−kdcba∧dub+b=1∑n−kcbad(dub)=b=1∑n−kdcba∧dubである。(cba)の逆行列を(c~ba)と書くとdub=∑e=1n−kc~ebωeであるから
dωa=e=1∑n−k(b=1∑n−kc~ebdcba)∧ωeとなり、定理 3.1 条件 (c)が成り立つ。よってDは可積分である。
積分多様体の記述。du1,…,dun−kは各点で一次独立であるから、u=(u1,…,un−k)は沈め込みである。したがって、u−1(t)が空でなければ、§E17.5 定理 4.3によりu−1(t)はVのk次元埋め込み部分多様体であり、各q∈u−1(t)における接空間はkerduqである。行列(cba)が可逆であることから
Dq=a=1⋂n−kkerωqa=b=1⋂n−kkerduqb=kerduqとなるので、u−1(t)の各連結成分はDの積分多様体である。多様体の各点には連結な座標近傍があるため、各連結成分はu−1(t)の開部分多様体であり、次元と接空間は変わらない。
逆に、(N,ι)をι(N)⊆Vを満たす連結な積分多様体とする。各aについて
d(ua∘ι)p=duι(p)a∘dιp=0である。したがってua∘ιは局所定数である。Nは連結であるから、局所定数関数ua∘ιはN上で定数である。よって、あるt∈Rn−kに対してι(N)⊆u−1(t)であり、ι(N)は連結なのでu−1(t)の一つの連結成分に含まれる。その連結成分自身が積分多様体であるため、連結成分は像の包含関係に関してV内で極大である。▨
系 4.2.Mを境界を持たないn次元C∞多様体とし、n≥2とする(本記事の設定1≤k≤n−1においてk=n−1とすることに対応する)。U⊆Mを開集合、ωをU上のC∞1形式でどの点でも消えないものとする。D=kerωはU上の階数n−1のC∞分布である(補題 1.2 (2)をn−k=1の場合に適用する)。次は同値である。
- Dは可積分である。
- Uの各点の近傍でdω=θ∧ωとなる1形式θが存在する。
- ω∧dω=0である。
- Uの各点の近傍で、消えないC∞関数fとC∞関数u(duはどの点でも消えない)が存在してω=fduとなる。
証明. 四つの主張はいずれも各点の近傍で確かめれば足りる(可積分性は各点を通る積分多様体の存在であり、条件 (c)は各点での等式である)。そこで補題 1.2 (2)の議論により、各点の近傍を、(ε1,…,εn−1,ω)が各点でTq∗Mの基底をなす開集合に取り替える。この組はn−k=1の場合の適合余枠であり、D=kerωがそれに対応する階数n−1の分布である。
条件 (a)⇔(b)は定理 3.1である。条件 (a)⇔(d)は定理 4.1であり、f=c11、u=u1と読み替えればよい。
条件 (b)⇒(c)を示す。dω=θ∧ωならば、§E17.10 定理 3.5により
ω∧dω=ω∧θ∧ω=−ω∧ω∧θ=0である(1形式どうしは反交換し、ω∧ω=0である)。この主張は各点で成り立つので、局所的な条件 (b)から大域的な条件 (c)が従う。
条件 (c)⇒(b)を示す。q0∈Uを取る。ω∣q0=0であるから、補題 1.2 (2)の議論により、q0の近傍VとC∞1形式ε1,…,εn−1であって(ε1,…,εn−1,ω)が各点でTq∗Mの基底をなすものを取ることができる。補題 1.1 (3)により
dω=1≤i<j≤n−1∑Aijεi∧εj+i=1∑n−1Biεi∧ωと一意に表される。ω∧ω=0から
ω∧dω=1≤i<j≤n−1∑Aijω∧εi∧εjであり、{ω∧εi∧εj}i<jは3次外冪の基底の一部(符号を除く)であるから一次独立である。したがってω∧dω=0は、すべてのi<jでAij=0であることと同値である。そのとき
dω=(i=1∑n−1Biεi)∧ωであり、θ=∑i=1n−1Biεiと置けば 2 を得る。▨
例 4.3 (三次元における古典的な可積分条件).U⊆R3を開集合、ω=Pdx+Qdy+Rdzをどの点でも消えないC∞1形式とする。§E17.11 例 2.6の計算により
dω=(∂y∂R−∂z∂Q)dy∧dz+(∂z∂P−∂x∂R)dz∧dx+(∂x∂Q−∂y∂P)dx∧dyである。外積を取ると、同じ座標微分を二つ含む項が消えるので
ω∧dω=[P(∂y∂R−∂z∂Q)+Q(∂z∂P−∂x∂R)+R(∂x∂Q−∂y∂P)]dx∧dy∧dzである(dy∧dz∧dx=dz∧dx∧dy=dx∧dy∧dzを用いた)。したがって系 4.2により、全微分方程式Pdx+Qdy+Rdz=0が局所的に積分因子を持つための必要十分条件は、角括弧の中の式が恒等的に0になることである。
例 3.2のω=dz−ydxではP=−y、Q=0、R=1であり、角括弧の中は−y⋅0+0⋅0+1⋅(0−(−1))=1=0である。ω=ydx−xdyではP=y、Q=−x、R=0であり、角括弧の中はy⋅0+(−x)⋅0+0⋅(−1−1)=0である。
5 行列に値を持つ 1 形式
証明. 各成分AβαはU⊆Rn上のC∞1形式であるから、§E17.10 命題 4.1によりAβα=∑i=1n(Ai)βαdxiと一意に表され、係数(Ai)βαはC∞関数である。これらを行列に並べたものをAiと書けば第一の主張を得る。
第二の主張を見る。dYβα=∑i=1n(∂Yβα/∂xi)dxi(§E17.11 命題 1.1)であり、
(AY)βα=γ=1∑mAγαYβγ=i=1∑n(γ=1∑m(Ai)γαYβγ)dxi=i=1∑n(AiY)βαdxiである。{dxi}が各点でTx∗Rnの基底であるから、二つの1形式が等しいことと、すべてのiについてdxiの係数が等しいことは同値である。▨
定理 5.3.U⊆Rnを開集合、AをU上のMm(R)に値を持つC∞1形式とする。次は同値である。
- すべてのx0∈UとすべてのY0∈Mm(R)に対し、x0の開近傍VとC∞写像Y:V→Mm(R)であってdY=AYとY(x0)=Y0を満たすものが存在する。
- Uの上でdA−A∧A=0である。命題 5.2の座標表示A=∑i=1nAidxiを用いると、この条件はすべてのi,jについて
∂xi∂Aj−∂xj∂Ai=AiAj−AjAi
が成り立つことと同値である。
証明. はじめに座標表示を確かめる。A=∑j=1nAjdxjから
dA=j=1∑ndAj∧dxj=i=1∑nj=1∑n∂xi∂Ajdxi∧dxj=1≤i<j≤n∑(∂xi∂Aj−∂xj∂Ai)dxi∧dxjであり、
A∧A=i=1∑nj=1∑nAiAjdxi∧dxj=1≤i<j≤n∑(AiAj−AjAi)dxi∧dxjである。{dxi∧dxj}i<jが各点で基底をなすので、dA−A∧A=0と表示した座標の条件は同値である。
条件 (a)⇒(b)を示す。x0∈Uを取り、Y0=I(単位行列)として解Yを取る。∂Y/∂xj=AjYの両辺をxiで偏微分すると
∂xi∂xj∂2Y=∂xi∂AjY+Aj∂xi∂Y=∂xi∂AjY+AjAiYである。§E4.4 定理 2.1により左辺はiとjの入れ替えで不変であるから
(∂xi∂Aj−∂xj∂Ai)Y=(AiAj−AjAi)Yである。x=x0ではY=Iであるから、x0において 2 の等式が成り立つ。x0は任意であったから、Uの全体で成り立つ。
条件 (b)⇒(a)を示す。N=U×Mm(R)と置く。NはRn+m2の開集合であるからC∞多様体であり(§E17.1 命題 7.1)、座標は(xi,Yβα)である。N上のMm(R)に値を持つ1形式
Θ=dY−AY,Θβα=dYβα−γ∑AγαYβγを考える(Aは射影N→Uによる引き戻しと読む)。m2個の1形式Θβαは各点で一次独立である。実際、ΘβαのdYβαの係数が単位行列の形をしているので、一次結合が0ならばdY方向の係数がすべて0になる。
したがって補題 1.2 (2)によりD=⋂α,βkerΘβαはN上の階数nのC∞分布である。
dΘを計算する。Yβγは0次形式であるから
d(γ∑AγαYβγ)=γ∑(dYβγ∧Aγα+YβγdAγα)=−γ∑Aγα∧dYβγ+γ∑(dAγα)Yβγである(1形式どうしの反交換を用いた)。d(dYβα)=0であるから、行列の記法で
dΘ=A∧dY−(dA)Yである。dY=Θ+AYを代入すると
dΘ=A∧Θ+(A∧A)Y−(dA)Y=A∧Θ−(dA−A∧A)Yである。条件 (b)により第二項は消え、成分で書くと
dΘβα=γ∑Aγα∧Θβγである。これは定理 3.1 条件 (c)の形であるから、Dは可積分である。
(x0,Y0)∈Nを通るn次元積分多様体Lを取る。射影π:N→Uを考える。(x,Y)∈Nにおいて、u∈Rnに対してΘを消す接ベクトルは、dY成分がA(u)Yであるものにちょうど一つ定まる。したがってdπのD(x,Y)への制限はTxUへの線形同型である。よってπ∣Lの微分は各点で同型であり、LとUのチャートで表示してC∞級の逆関数定理(「実解析 II」の§E4.7 定理 2.1と、それをC∞級へ持ち上げた§E17.5 補題 1.1)を適用すると、(x0,Y0)のある近傍でπ∣Lはx0の開近傍Vへの微分同相である。その逆写像をx↦(x,Y(x))と書くとY:V→Mm(R)はC∞でありY(x0)=Y0である。
Lの接空間がDに等しいことから、x↦(x,Y(x))の微分の像はΘを消す。すなわちu∈Rnに対してdY(u)−A(u)Y(x)=0であり、これはdY=AYにほかならない。▨
例 5.4 (可積分条件が成り立たない例と成り立つ例).n=2、m=2とし、座標を(x,y)とする。
成り立たない例。
A=(0100)dx+(00−10)dyとする。A1とA2は定数行列であるから∂A2/∂x−∂A1/∂y=0である。一方
A1A2=(000−1),A2A1=(−1000),A1A2−A2A1=(100−1)=Oである。したがって定理 5.3 条件 (b)が成り立たず、同定理により 1 も成り立たない。
この場合に解がどこまで存在しないのかを直接確かめる。V⊆R2を開集合、Y:V→M2(R)をdY=AYの解とする。定理 5.3 条件 (a)⇒(b)の証明と同じ計算により、Vの上で
(∂x∂A2−∂y∂A1)Y=(A1A2−A2A1)Yが成り立つ(§E4.4 定理 2.1を用いる)。左辺はO、右辺はdiag(1,−1)Yであり、diag(1,−1)は正則であるからY=Oである。すなわち局所解は恒等的にOであるものに限られる。したがってY0=Oに対してはY≡Oが解であるが、Y0=Oに対しては局所解が存在しない。
成り立つ例。C∈M2(R)を固定し
A=C(ydx+xdy)=Cd(xy)とする。A1=yC、A2=xCであるから∂A2/∂x−∂A1/∂y=C−C=Oであり、A1A2−A2A1=xy(CC−CC)=Oである。よって定理 5.3 条件 (b)が成り立つ。
実際に解を書き下すことができる。Y(x,y)=exyCY0と置く。行列指数関数の性質(「常微分方程式」の§E10.10 定理 2.2)によりdtdetC=CetCであるから、§E4.3 定理 1.1により
∂x∂Y=yCexyCY0=A1Y,∂y∂Y=xCexyCY0=A2Yである。Y(0,0)=Y0であり、dY=AYを満たす。
6 演習
7 境界と次
本記事の主張はすべて局所的である。分布を消す一次独立な1形式の組は各点の近傍でしか取ることができず、大域的に取ることができるとは限らない。定理 4.1が与える第一積分u1,…,un−kも、平坦チャートの上でしか定まらない。積分多様体を極大なものへつなぎ合わせて葉層を作る操作、および葉が埋め込み部分多様体になるとは限らないことは「葉層と葉」が扱う。
定理 5.3の条件dA−A∧A=0は、行列に値を持つ1形式Aから作られる2形式が消えるという形をしている。この形の量が、束の上の微分作用素に付随する不変量として現れる枠組みは「ベクトル束と接続」が扱う。本記事はRnの開集合の上の線形な全微分方程式系という具体的な設定に限り、その一般化へ踏み込まない。
系 4.2は、単独の Pfaff 方程式が局所的に積分因子を持つ条件を与える。積分因子が大域的に存在するかどうか、およびω∧dωがどこでも消えない場合にどのような構造が現れるかは、本単元では扱わない。