§E19.8測地線・測地曲率・エネルギーの第一変分

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平面の直線は、速度ベクトルが変化しない曲線として特徴づけられる。曲面の上で「速度ベクトルが変化しない」と述べるには、速度ベクトルの微分を曲面の内側で測る必要がある。共変微分がその手段を与えるので、速度ベクトル場が曲線に沿って平行である曲線として測地線を定めることができる。これが本記事の出発点である。

測地線には、もう一つの現れ方がある。両端を固定して曲線を動かしたとき、長さまたはエネルギーの一階の変化が消える曲線という現れ方である。本記事は二つの現れ方が一致することを証明する。ただし、長さとエネルギーでは臨界点の集合が異なる。長さは径数の取り替えで変わらないので、その臨界点は径数の取り替えを除いてしか決まらない。エネルギーは径数の取り替えで変わるので、その臨界点は定速の測地線そのものである。この違いを最後まで区別して扱う。

本記事が実際に示すのは次の六つである。第一に、測地線の座標表示が二階の常微分方程式になることと、そこから従う局所的な一意存在および定速性である。第二に、コンパクト区間の上のC1C^1関数について積分記号の下で微分することができるという補題である。第三に、二径数の族に沿う二方向の共変微分が交換することである。第四に、端点を固定した変分に対するエネルギーと長さの第一変分の公式である。第五に、エネルギーの臨界点が測地線であり、長さの臨界点は定速に取り直して初めて測地線になることである。第六に、単位速度の曲線に対する測地曲率の定義と、その符号の振る舞いである。

以下、(M,I)(M,\mathrm{I})を抽象曲面(§E19.7 定義 5.1)とし、∇\nablaを§E19.7 定理 5.3の接続、D/dtD/dtを§E19.7 命題 6.2の曲線に沿う共変微分とする。M⊆R3M\subseteq\mathbb{R}^3が正則曲面(§E19.3 定義 1.1)である場合も含む。接ベクトルX∈TpMX\in T_pMの長さを∥X∥=Ip(X,X)\lVert X\rVert=\sqrt{\mathrm{I}_p(X,X)}と書く。「滑らか」はC∞C^\inftyを意味する。

1 測地線

定義 1.1.IIを区間、γ:I→M\gamma:I\to Mを滑らかな曲線とする。γ\gammaが測地線 (geodesic) であるとは、IIの全体で

Dγ′dt=0\frac{D\gamma'}{dt}=0

が成り立つこと、すなわち速度ベクトル場γ′\gamma'がγ\gammaに沿って平行であること(§E19.7 定義 6.4)をいう。チャート(U,(u1,u2))(U,(u^1,u^2))を取りγ\gammaの座標表示を(u1(t),u2(t))(u^1(t),u^2(t))と書くと、§E19.7 命題 6.2の表示により、この条件はγ−1(U)\gamma^{-1}(U)の上で

u¨k+∑i,j=12Γijk(γ(t)) u˙i u˙j=0(k=1,2)\ddot u^k+\sum_{i,j=1}^{2}\Gamma^k_{ij}\bigl(\gamma(t)\bigr)\,\dot u^i\,\dot u^j=0\qquad(k=1,2)

と同値である。

命題 1.2.

  1. 定速性。γ\gammaが測地線ならば∥γ′∥\lVert\gamma'\rVertは定数である。
  2. 局所的な一意存在。p∈Mp\in MとX∈TpMX\in T_pMに対して、δ>0\delta>0と測地線γ:(−δ,δ)→M\gamma:(-\delta,\delta)\to Mであってγ(0)=p\gamma(0)=pかつγ′(0)=X\gamma'(0)=Xを満たすものが存在する。また、同じ初期条件を持つ二つの測地線は、00を含む十分小さい共通の区間の上で一致する。

証明.(1)を示す。§E19.7 命題 6.3により

ddt I(γ′,γ′)=2 I(Dγ′dt,γ′)=0\frac{d}{dt}\,\mathrm{I}(\gamma',\gamma')=2\,\mathrm{I}\left(\frac{D\gamma'}{dt},\gamma'\right)=0

であるからI(γ′,γ′)\mathrm{I}(\gamma',\gamma')は定数であり、∥γ′∥\lVert\gamma'\rVertも定数である。

(2)を示す。ppを含むチャート(U,(u1,u2))(U,(u^1,u^2))を取り、φ:U→φ(U)⊆R2\varphi:U\to\varphi(U)\subseteq\mathbb{R}^2を対応する座標写像とする。V=φ(U)×R2⊆R4V=\varphi(U)\times\mathbb{R}^2\subseteq\mathbb{R}^4は開集合である。定義 1.1の二階の方程式を、未知関数y=(u1,u2,w1,w2)y=(u^1,u^2,w^1,w^2)についての一階の系

y′=F(y),F(u,w)=(w1, w2, −∑i,j=12Γij1 wiwj, −∑i,j=12Γij2 wiwj)y'=F(y),\qquad F(u,w)=\left(w^1,\ w^2,\ -\sum_{i,j=1}^{2}\Gamma^1_{ij}\,w^iw^j,\ -\sum_{i,j=1}^{2}\Gamma^2_{ij}\,w^iw^j\right)

へ書き直す。ここでΓijk\Gamma^k_{ij}は座標を通じてuuの関数とみなしている。§E19.7 定理 3.3によりΓijk\Gamma^k_{ij}はC∞C^\inftyであるからF:V→R4F:V\to\mathbb{R}^4はC∞C^\inftyであり、とくにC1C^1である。「多様体入門」の§E17.6 補題 1.3により、y0=(φ(p),Xy_0=(\varphi(p),Xの座標成分))を中心とする閉球B‾(y0,b)⊆V\overline{B}(y_0,b)\subseteq Vの上でFFは Lipschitz 定数LLを持つ。Ω=R×V\Omega=\mathbb{R}\times Vと置くと、R=[−a,a]×B‾(y0,b)⊆ΩR=[-a,a]\times\overline{B}(y_0,b)\subseteq\Omegaであり、FFはttに依存しないので、RRの上で「常微分方程式」の§E10.4 系 4.1の仮定が満たされる。同定理により局所解が存在し、初期値を共有する二つの局所解は00を含む十分小さい共通の区間の上で一致する。得られた解の成分は、方程式の右辺がC∞C^\inftyであることから帰納的にC∞C^\inftyである。▨

注意 1.3 (存在区間について主張しないこと).命題 1.2は局所的な主張である。初期条件を与えたときに得られる区間(−δ,δ)(-\delta,\delta)の大きさについても、測地線が実数全体へ延びるかどうかについても、本記事は何も述べない。さらに、δ\deltaと解が初期条件についてどのように変化するかも述べない。「常微分方程式」は解が初期値について連続に依存することまでを供給し、初期値についての微分可能性を扱わないからである。したがって本単元は指数写像と測地正規座標を構成しない。これらは「Riemann 幾何 I」が扱う。

2 積分記号下の微分

第一変分の計算は、径数ssについて積分の中で微分することを要求する。この操作を補題として証明しておく。証明はコンパクト集合の上の一様連続性だけを用いる。本単元では、面積の第一変分と Dirichlet エネルギーの第一変分を扱う記事も、重積分を累次積分へ直したうえでこの補題を再利用する。そのため、二変数の一般的な形で述べる。

補題 2.1.a<ba<bを実数、J⊆RJ\subseteq\mathbb{R}を開区間、nnを正の整数とし、F:[a,b]×J→RnF:[a,b]\times J\to\mathbb{R}^nが次の二つを満たすとする。

  1. FFは連続である。
  2. 偏導関数∂F∂s\dfrac{\partial F}{\partial s}が[a,b]×J[a,b]\times Jの各点で存在し、[a,b]×J[a,b]\times Jの上で連続である。

このとき

φ(s)=∫abF(t,s) dt\varphi(s)=\int_a^bF(t,s)\,dt

はJJの上でC1C^1級であり、すべてのs∈Js\in Jに対して

φ′(s)=∫ab∂F∂s(t,s) dt\varphi'(s)=\int_a^b\frac{\partial F}{\partial s}(t,s)\,dt

が成り立つ。

証明. 各成分について示せば足りるので、n=1n=1とする。

φ\varphiが定まることを示す。各s∈Js\in Jに対してt↦F(t,s)t\mapsto F(t,s)は[a,b][a,b]上の連続関数であるから Riemann 可積分であり、φ(s)\varphi(s)が定まる。

微分可能性を示す。s0∈Js_0\in Jを取り、[s0−δ,s0+δ]⊆J[s_0-\delta,s_0+\delta]\subseteq Jとなるδ>0\delta>0を取る。K=[a,b]×[s0−δ,s0+δ]K=[a,b]\times[s_0-\delta,s_0+\delta]はコンパクトであり、∂F/∂s\partial F/\partial sはKKの上で連続であるから一様連続である。h>0h>0に対して

ω(h)=sup⁡{∣∂F∂s(t,s)−∂F∂s(t,s′)∣: t∈[a,b], s,s′∈[s0−δ,s0+δ], ∣s−s′∣≤h}\omega(h)=\sup\left\{\left|\frac{\partial F}{\partial s}(t,s)-\frac{\partial F}{\partial s}(t,s')\right|:\ t\in[a,b],\ s,s'\in[s_0-\delta,s_0+\delta],\ |s-s'|\le h\right\}

と置くと、一様連続性によりh→0+h\to0^{+}のときω(h)→0\omega(h)\to0である。

0<∣h∣≤δ0<|h|\le\deltaとする。各t∈[a,b]t\in[a,b]に対して、s↦F(t,s)s\mapsto F(t,s)はs0s_0とs0+hs_0+hを端点とする閉区間の上で微分可能であるから、平均値の定理によりθ=θ(t,h)∈(0,1)\theta=\theta(t,h)\in(0,1)が存在して

F(t,s0+h)−F(t,s0)h=∂F∂s(t,s0+θh)\frac{F(t,s_0+h)-F(t,s_0)}{h}=\frac{\partial F}{\partial s}\bigl(t,s_0+\theta h\bigr)

が成り立つ。したがって、各ttに対して

∣F(t,s0+h)−F(t,s0)h−∂F∂s(t,s0)∣≤ω(∣h∣)\left|\frac{F(t,s_0+h)-F(t,s_0)}{h}-\frac{\partial F}{\partial s}(t,s_0)\right|\le\omega(|h|)

である。左辺の中身はttについて連続であるから可積分であり、

∣φ(s0+h)−φ(s0)h−∫ab∂F∂s(t,s0) dt∣≤∫abω(∣h∣) dt=(b−a) ω(∣h∣)\left|\frac{\varphi(s_0+h)-\varphi(s_0)}{h}-\int_a^b\frac{\partial F}{\partial s}(t,s_0)\,dt\right| \le\int_a^b\omega(|h|)\,dt=(b-a)\,\omega(|h|)

を得る。右辺はh→0h\to0のとき00へ収束するから、φ\varphiはs0s_0で微分可能でありφ′(s0)=∫ab∂sF(t,s0) dt\varphi'(s_0)=\int_a^b\partial_sF(t,s_0)\,dtである。

導関数が連続であることを示す。s,s′∈[s0−δ,s0+δ]s,s'\in[s_0-\delta,s_0+\delta]に対して

∣φ′(s)−φ′(s′)∣≤∫ab∣∂F∂s(t,s)−∂F∂s(t,s′)∣dt≤(b−a) ω(∣s−s′∣)|\varphi'(s)-\varphi'(s')|\le\int_a^b\left|\frac{\partial F}{\partial s}(t,s)-\frac{\partial F}{\partial s}(t,s')\right|dt\le(b-a)\,\omega(|s-s'|)

である。ω(h)→0\omega(h)\to0であるからφ′\varphi'はs0s_0で連続である。s0∈Js_0\in Jは任意であったから、φ\varphiはJJ上でC1C^1級である。▨

3 変分の族

定義 3.1.IIを開区間、γ:I→M\gamma:I\to Mを滑らかな曲線、[a,b]⊆I[a,b]\subseteq Iとする。γ∣[a,b]\gamma|_{[a,b]}の変分 (variation) とは、ε>0\varepsilon>0と滑らかな写像

α:I×(−ε,ε)→M,α(t,0)=γ(t)\alpha:I\times(-\varepsilon,\varepsilon)\to M,\qquad \alpha(t,0)=\gamma(t)

の組をいう。V(t)=∂sα(t,0)V(t)=\partial_s\alpha(t,0)をα\alphaの変分場 (variation field) という。VVはγ\gammaに沿うベクトル場である。すべてのs∈(−ε,ε)s\in(-\varepsilon,\varepsilon)に対してα(a,s)=γ(a)\alpha(a,s)=\gamma(a)かつα(b,s)=γ(b)\alpha(b,s)=\gamma(b)が成り立つとき、α\alphaは端点を固定する (fixed-endpoint variation) という。端点を固定する変分の変分場はV(a)=V(b)=0V(a)=V(b)=0を満たす。

定義 3.2.A⊆R2A\subseteq\mathbb{R}^2を開集合、α:A→M\alpha:A\to Mを滑らかな写像とする。α\alphaに沿うベクトル場 (vector field along a map) とは、各(t,s)∈A(t,s)\in Aに対してW(t,s)∈Tα(t,s)MW(t,s)\in T_{\alpha(t,s)}Mを与える対応であって、チャート上での成分がC∞C^\inftyであるものをいう。ssを固定した曲線t↦α(t,s)t\mapsto\alpha(t,s)に沿う共変微分を取って得られるベクトル場を∇tW\nabla_tW、ttを固定した曲線s↦α(t,s)s\mapsto\alpha(t,s)に沿う共変微分を取って得られるベクトル場を∇sW\nabla_sWと書く。∂tα\partial_t\alphaと∂sα\partial_s\alphaはα\alphaに沿うベクトル場である。

§E19.7 命題 6.3を、ssを固定した曲線とttを固定した曲線のそれぞれに適用すると、α\alphaに沿うベクトル場V,WV,Wについて

∂t I(V,W)=I(∇tV,W)+I(V,∇tW),∂s I(V,W)=I(∇sV,W)+I(V,∇sW)\partial_t\,\mathrm{I}(V,W)=\mathrm{I}(\nabla_tV,W)+\mathrm{I}(V,\nabla_tW),\qquad \partial_s\,\mathrm{I}(V,W)=\mathrm{I}(\nabla_sV,W)+\mathrm{I}(V,\nabla_sW)

が成り立つ。

補題 3.3.A⊆R2A\subseteq\mathbb{R}^2を開集合、α:A→M\alpha:A\to Mを滑らかな写像とする。このときAAの全体で

∇s ∂tα=∇t ∂sα\nabla_s\,\partial_t\alpha=\nabla_t\,\partial_s\alpha

が成り立つ。

証明. 主張は局所的であるから、チャート(U,(u1,u2))(U,(u^1,u^2))を取り、α−1(U)\alpha^{-1}(U)の上で示せば足りる。α\alphaの座標表示をuk(t,s)u^k(t,s)と書くと

∂tα=∑j=12∂uj∂t ∂j,∂sα=∑j=12∂uj∂s ∂j\partial_t\alpha=\sum_{j=1}^{2}\frac{\partial u^j}{\partial t}\,\partial_j,\qquad \partial_s\alpha=\sum_{j=1}^{2}\frac{\partial u^j}{\partial s}\,\partial_j

である。§E19.7 命題 6.2の表示を、ttを固定した曲線s↦α(t,s)s\mapsto\alpha(t,s)に対して適用すると

∇s ∂tα=∑k=12(∂2uk∂s ∂t+∑i,j=12Γijk ∂ui∂s ∂uj∂t)∂k\nabla_s\,\partial_t\alpha =\sum_{k=1}^{2}\left(\frac{\partial^2u^k}{\partial s\,\partial t} +\sum_{i,j=1}^{2}\Gamma^k_{ij}\,\frac{\partial u^i}{\partial s}\,\frac{\partial u^j}{\partial t}\right)\partial_k

である。ttとssを入れ替えると

∇t ∂sα=∑k=12(∂2uk∂t ∂s+∑i,j=12Γijk ∂ui∂t ∂uj∂s)∂k\nabla_t\,\partial_s\alpha =\sum_{k=1}^{2}\left(\frac{\partial^2u^k}{\partial t\,\partial s} +\sum_{i,j=1}^{2}\Gamma^k_{ij}\,\frac{\partial u^i}{\partial t}\,\frac{\partial u^j}{\partial s}\right)\partial_k

である。uku^kはC∞C^\inftyであるから「実解析 II」の§E4.4 定理 2.1により∂2uk/∂s∂t=∂2uk/∂t∂s\partial^2u^k/\partial s\partial t=\partial^2u^k/\partial t\partial sである。また第二項では、和の添字iiとjjを入れ替え、§E19.7 定理 3.3が与える対称性Γijk=Γjik\Gamma^k_{ij}=\Gamma^k_{ji}を用いると、二つの式は一致する。▨

捩れの消滅が用いられているのは、Γijk=Γjik\Gamma^k_{ij}=\Gamma^k_{ji}という対称性の箇所である。捩れを持つ接続に対しては、二つの共変微分の差が捩れの値になるので、この補題は成り立たない。

第一変分の臨界点を特徴づけるためには、あらかじめ与えたベクトル場を変分場に持つ変分を作る必要がある。曲面がR3\mathbb{R}^3に埋め込まれていても、γ(t)+sV(t)\gamma(t)+sV(t)は一般に曲面から出るので、この構成は座標の中で行う。

補題 3.4.IIを開区間、γ:I→M\gamma:I\to Mを滑らかな曲線、[a,b]⊆I[a,b]\subseteq Iとする。VVをγ\gammaに沿う滑らかなベクトル場とし、その台

K={t∈I: V(t)≠0}‾K=\overline{\{t\in I:\ V(t)\ne0\}}

がコンパクトであって、ある一つのチャート(U,(u1,u2))(U,(u^1,u^2))についてK⊆(a,b)∩γ−1(U)K\subseteq(a,b)\cap\gamma^{-1}(U)を満たすとする。このときε>0\varepsilon>0とγ∣[a,b]\gamma|_{[a,b]}の変分α:I×(−ε,ε)→M\alpha:I\times(-\varepsilon,\varepsilon)\to Mであって、変分場がVVに等しく、t∉Kt\notin Kのときα(t,s)=γ(t)\alpha(t,s)=\gamma(t)を満たすものが存在する。とくにα\alphaは端点を固定する。

証明.φ:U→φ(U)⊆R2\varphi:U\to\varphi(U)\subseteq\mathbb{R}^2を座標写像とし、c(t)=φ(γ(t))c(t)=\varphi(\gamma(t))(t∈γ−1(U)t\in\gamma^{-1}(U))と置く。V=∑kVk ∂kV=\sum_kV^k\,\partial_kと書き、VkV^kをKKの外で00としてII全体へ延ばす。VkV^kはγ−1(U)\gamma^{-1}(U)の上でC∞C^\inftyであり、KKの外で00であるから、IIの上でC∞C^\inftyである。V=(V1,V2)\boldsymbol{V}=(V^1,V^2)と書く。

c(K)c(K)は開集合φ(U)\varphi(U)に含まれるコンパクト集合であるから、d>0d>0が存在して、c(K)c(K)の各点を中心とする半径ddの閉球がφ(U)\varphi(U)に含まれる。m=max⁡t∈K∥V(t)∥m=\max_{t\in K}\lVert\boldsymbol{V}(t)\rVertと置き、ε=d/(m+1)\varepsilon=d/(m+1)とする。t∈Kt\in Kと∣s∣<ε|s|<\varepsilonに対して∥sV(t)∥<d\lVert s\boldsymbol{V}(t)\rVert<dであるからc(t)+sV(t)∈φ(U)c(t)+s\boldsymbol{V}(t)\in\varphi(U)である。

α(t,s)={φ−1(c(t)+sV(t))(t∈γ−1(U)),γ(t)(t∈I∖K)\alpha(t,s)= \begin{cases} \varphi^{-1}\bigl(c(t)+s\boldsymbol{V}(t)\bigr) & (t\in\gamma^{-1}(U)),\\[2pt] \gamma(t) & (t\in I\setminus K) \end{cases}

と定める。t∈γ−1(U)∖Kt\in\gamma^{-1}(U)\setminus KではV(t)=0\boldsymbol{V}(t)=0であるから二つの定義は一致し、α\alphaはI×(−ε,ε)I\times(-\varepsilon,\varepsilon)の上で定まる。γ−1(U)\gamma^{-1}(U)とI∖KI\setminus KはともにIIの開集合であってIIを覆い、α\alphaはそれぞれの上で滑らかであるから、α\alphaは滑らかである。α(t,0)=γ(t)\alpha(t,0)=\gamma(t)であり、t∈γ−1(U)t\in\gamma^{-1}(U)に対して

∂sα(t,0)=dφc(t)−1(V(t))=∑k=12Vk(t) ∂k=V(t)\partial_s\alpha(t,0)=d\varphi^{-1}_{c(t)}\bigl(\boldsymbol{V}(t)\bigr)=\sum_{k=1}^{2}V^k(t)\,\partial_k=V(t)

である。t∉Kt\notin Kでは両辺とも00である。K⊆(a,b)K\subseteq(a,b)であるからa,b∉Ka,b\notin Kであり、α(a,s)=γ(a)\alpha(a,s)=\gamma(a)、α(b,s)=γ(b)\alpha(b,s)=\gamma(b)が成り立つ。▨

補題 3.5 (変分法の基本補題).IIを開区間、γ:I→M\gamma:I\to Mを滑らかな曲線、[a,b]⊆I[a,b]\subseteq Iとする。wwをγ∣[a,b]\gamma|_{[a,b]}に沿う連続なベクトル場とし、次を仮定する。γ\gammaに沿う滑らかなベクトル場VVであって、台がコンパクトで(a,b)(a,b)に含まれ、かつ一つのチャートの定義域の逆像に含まれるもののすべてについて

∫abI(w(t),V(t)) dt=0\int_a^b\mathrm{I}\bigl(w(t),V(t)\bigr)\,dt=0

が成り立つ。このとき[a,b][a,b]の上でw≡0w\equiv0である。

証明.t0∈(a,b)t_0\in(a,b)でw(t0)≠0w(t_0)\ne0であると仮定して矛盾を導く。γ(t0)\gamma(t_0)を含むチャート(U,(u1,u2))(U,(u^1,u^2))を取る。γ−1(U)∩(a,b)\gamma^{-1}(U)\cap(a,b)はt0t_0を含む開集合であるから、t0t_0を含む開区間JJでその閉包がγ−1(U)∩(a,b)\gamma^{-1}(U)\cap(a,b)に含まれるものが存在する。

§E19.7 定理 6.5により、γ\gammaに沿って平行なベクトル場PPであってP(t0)=w(t0)P(t_0)=w(t_0)を満たすものが存在する。PPは滑らかである。関数t↦I(w(t),P(t))t\mapsto\mathrm{I}(w(t),P(t))は連続であり、t0t_0における値はI(w(t0),w(t0))=∥w(t0)∥2>0\mathrm{I}(w(t_0),w(t_0))=\lVert w(t_0)\rVert^2>0である。したがってt0t_0を含む開区間J′⊆JJ'\subseteq Jが存在して、J′J'の上でI(w,P)>0\mathrm{I}(w,P)>0が成り立つ。

一次元のC∞C^\infty多様体R\mathbb{R}に対して「多様体入門」の§E17.2 命題 1.5を適用し、χ:R→[0,1]\chi:\mathbb{R}\to[0,1]を、χ(t0)=1\chi(t_0)=1であり台がコンパクトでJ′J'に含まれるように取る。V=χPV=\chi Pと置くと、VVはγ\gammaに沿う滑らかなベクトル場であり、台はコンパクトでJ′⊆(a,b)∩γ−1(U)J'\subseteq(a,b)\cap\gamma^{-1}(U)に含まれる。仮定により

0=∫abI(w,V) dt=∫abχ(t) I(w(t),P(t)) dt0=\int_a^b\mathrm{I}(w,V)\,dt=\int_a^b\chi(t)\,\mathrm{I}\bigl(w(t),P(t)\bigr)\,dt

である。しかし被積分関数は連続で非負であり、t=t0t=t_0で正の値を取るから、積分は正である。これは矛盾である。

よって(a,b)(a,b)の上でw≡0w\equiv0である。wwは[a,b][a,b]の上で連続であるから、端点でもw=0w=0である。▨

4 エネルギーと長さの第一変分

定義 4.1.γ:[a,b]→M\gamma:[a,b]\to Mを滑らかな曲線とする。

L(γ)=∫ab∥γ′(t)∥ dt,E(γ)=12∫ab∥γ′(t)∥2 dtL(\gamma)=\int_a^b\lVert\gamma'(t)\rVert\,dt,\qquad E(\gamma)=\frac12\int_a^b\lVert\gamma'(t)\rVert^2\,dt

をそれぞれγ\gammaの長さ (length)、エネルギー (energy) という。

定理 4.2 (エネルギーの第一変分).IIを開区間、γ:I→M\gamma:I\to Mを滑らかな曲線、[a,b]⊆I[a,b]\subseteq Iとする。α:I×(−ε,ε)→M\alpha:I\times(-\varepsilon,\varepsilon)\to Mをγ∣[a,b]\gamma|_{[a,b]}の変分、VVをその変分場とし、

E(s)=12∫ab∥∂tα(t,s)∥2 dt\mathcal{E}(s)=\frac12\int_a^b\bigl\lVert\partial_t\alpha(t,s)\bigr\rVert^2\,dt

と置く。このときE\mathcal{E}は(−ε,ε)(-\varepsilon,\varepsilon)の上でC1C^1級であり

dEds∣s=0=[I(V(t),γ′(t))]t=at=b−∫abI(V(t),Dγ′dt(t))dt\left.\frac{d\mathcal{E}}{ds}\right|_{s=0} =\Bigl[\mathrm{I}\bigl(V(t),\gamma'(t)\bigr)\Bigr]_{t=a}^{t=b} -\int_a^b\mathrm{I}\left(V(t),\frac{D\gamma'}{dt}(t)\right)dt

が成り立つ。とくにα\alphaが端点を固定するならば

dEds∣s=0=−∫abI(V,Dγ′dt)dt\left.\frac{d\mathcal{E}}{ds}\right|_{s=0} =-\int_a^b\mathrm{I}\left(V,\frac{D\gamma'}{dt}\right)dt

である。

証明の方針を述べる。出発点はF(t,s)=12∥∂tα(t,s)∥2F(t,s)=\tfrac12\lVert\partial_t\alpha(t,s)\rVert^2である。∂sF\partial_sFを求めるには、内積についての積の公式をss方向に用いてI(∇s∂tα,∂tα)\mathrm{I}(\nabla_s\partial_t\alpha,\partial_t\alpha)を得る。中間目標は、この式の∇s∂tα\nabla_s\partial_t\alphaを補題 3.3によって∇t∂sα\nabla_t\partial_s\alphaへ入れ替えることである。入れ替えると、被積分関数がttについての全微分と、∇t∂tα\nabla_t\partial_t\alphaを含む項との差になる。本質的な一手はこの入れ替えであり、そこではじめて微積分学の基本定理によって端点の項を取り出すことができる。積分と微分の交換は補題 2.1による。

証明.F(t,s)=12 I(∂tα(t,s),∂tα(t,s))F(t,s)=\tfrac12\,\mathrm{I}\bigl(\partial_t\alpha(t,s),\partial_t\alpha(t,s)\bigr)と置く。チャートを取るとFFは座標表示のC∞C^\infty関数の合成と積で書かれるから、FFはI×(−ε,ε)I\times(-\varepsilon,\varepsilon)の上でC∞C^\inftyである。とくにFFと∂sF\partial_sFは[a,b]×(−ε,ε)[a,b]\times(-\varepsilon,\varepsilon)の上で連続であるから、補題 2.1によりE\mathcal{E}はC1C^1級であり

dEds(s)=∫ab∂F∂s(t,s) dt\frac{d\mathcal{E}}{ds}(s)=\int_a^b\frac{\partial F}{\partial s}(t,s)\,dt

である。

内積についての積の公式をss方向に適用すると

∂F∂s=I(∇s ∂tα, ∂tα)\frac{\partial F}{\partial s}=\mathrm{I}\bigl(\nabla_s\,\partial_t\alpha,\ \partial_t\alpha\bigr)

である。補題 3.3により∇s∂tα=∇t∂sα\nabla_s\partial_t\alpha=\nabla_t\partial_s\alphaであるから

∂F∂s=I(∇t ∂sα, ∂tα)=∂t I(∂sα, ∂tα)−I(∂sα, ∇t ∂tα)\frac{\partial F}{\partial s}=\mathrm{I}\bigl(\nabla_t\,\partial_s\alpha,\ \partial_t\alpha\bigr) =\partial_t\,\mathrm{I}\bigl(\partial_s\alpha,\ \partial_t\alpha\bigr)-\mathrm{I}\bigl(\partial_s\alpha,\ \nabla_t\,\partial_t\alpha\bigr)

である。ここで二つ目の等号は、内積についての積の公式をtt方向に適用したものである。ttについてaaからbbまで積分し、第一項に微積分学の基本定理を用いると

dEds(s)=[I(∂sα,∂tα)]t=at=b−∫abI(∂sα, ∇t ∂tα) dt\frac{d\mathcal{E}}{ds}(s)=\Bigl[\mathrm{I}\bigl(\partial_s\alpha,\partial_t\alpha\bigr)\Bigr]_{t=a}^{t=b} -\int_a^b\mathrm{I}\bigl(\partial_s\alpha,\ \nabla_t\,\partial_t\alpha\bigr)\,dt

を得る。s=0s=0と置くと∂sα(t,0)=V(t)\partial_s\alpha(t,0)=V(t)、∂tα(t,0)=γ′(t)\partial_t\alpha(t,0)=\gamma'(t)、∇t∂tα(t,0)=Dγ′dt(t)\nabla_t\partial_t\alpha(t,0)=\dfrac{D\gamma'}{dt}(t)であるから、主張の式が従う。端点を固定する変分では∂sα(a,s)=0\partial_s\alpha(a,s)=0かつ∂sα(b,s)=0\partial_s\alpha(b,s)=0であり、とくにV(a)=V(b)=0V(a)=V(b)=0であるから第一項が消える。▨

系 4.3.IIを開区間、γ:I→M\gamma:I\to Mを滑らかな曲線、[a,b]⊆I[a,b]\subseteq Iとする。次の二つは同値である。

  1. γ∣[a,b]\gamma|_{[a,b]}の端点を固定するすべての変分に対してdEds∣s=0=0\left.\dfrac{d\mathcal{E}}{ds}\right|_{s=0}=0である。
  2. γ∣[a,b]\gamma|_{[a,b]}は測地線である。

証明.(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。Dγ′/dt≡0D\gamma'/dt\equiv0ならば定理 4.2の積分が消える。

(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。w=Dγ′/dtw=D\gamma'/dtと置く。wwはγ∣[a,b]\gamma|_{[a,b]}に沿う連続(実際には滑らかな)ベクトル場である。VVを、台がコンパクトで(a,b)(a,b)に含まれ、かつ一つのチャートの定義域の逆像に含まれる、γ\gammaに沿う滑らかなベクトル場とする。補題 3.4により、VVを変分場に持つ端点を固定する変分が存在する。仮定と定理 4.2により∫abI(V,w) dt=0\int_a^b\mathrm{I}(V,w)\,dt=0である。I\mathrm{I}は対称であるから∫abI(w,V) dt=0\int_a^b\mathrm{I}(w,V)\,dt=0であり、補題 3.5によりw≡0w\equiv0である。▨

長さについては、被積分関数が∥∂tα∥\lVert\partial_t\alpha\rVertであり、平方根が原点で微分可能でないため、速度が消えないという仮定が必要になる。

定理 4.4 (長さの第一変分).IIを開区間、γ:I→M\gamma:I\to Mを単位速度の曲線、すなわち∥γ′∥≡1\lVert\gamma'\rVert\equiv1を満たす滑らかな曲線とし、[a,b]⊆I[a,b]\subseteq Iとする。α:I×(−ε0,ε0)→M\alpha:I\times(-\varepsilon_0,\varepsilon_0)\to Mをγ∣[a,b]\gamma|_{[a,b]}の変分、VVをその変分場とする。このとき0<ε≤ε00<\varepsilon\le\varepsilon_0を十分小さく取ると、

L(s)=∫ab∥∂tα(t,s)∥ dt\mathcal{L}(s)=\int_a^b\bigl\lVert\partial_t\alpha(t,s)\bigr\rVert\,dt

は(−ε,ε)(-\varepsilon,\varepsilon)の上でC1C^1級であり

dLds∣s=0=[I(V,γ′)]t=at=b−∫abI(V,Dγ′dt)dt\left.\frac{d\mathcal{L}}{ds}\right|_{s=0} =\Bigl[\mathrm{I}\bigl(V,\gamma'\bigr)\Bigr]_{t=a}^{t=b} -\int_a^b\mathrm{I}\left(V,\frac{D\gamma'}{dt}\right)dt

が成り立つ。とくにα\alphaが端点を固定するならば

dLds∣s=0=−∫abI(V,Dγ′dt)dt\left.\frac{d\mathcal{L}}{ds}\right|_{s=0}=-\int_a^b\mathrm{I}\left(V,\frac{D\gamma'}{dt}\right)dt

である。

証明.ρ(t,s)=∥∂tα(t,s)∥\rho(t,s)=\lVert\partial_t\alpha(t,s)\rVertと置く。ρ2=I(∂tα,∂tα)\rho^2=\mathrm{I}(\partial_t\alpha,\partial_t\alpha)はI×(−ε0,ε0)I\times(-\varepsilon_0,\varepsilon_0)の上でC∞C^\inftyであり、ρ(t,0)=1\rho(t,0)=1である。ρ2\rho^2の連続性により、各t∈[a,b]t\in[a,b]に対してttの近傍と00の近傍の直積であって、その上でρ2>1/4\rho^2>1/4となるものが存在する。[a,b][a,b]はコンパクトであるから有限個で覆うことができ、0<ε≤ε00<\varepsilon\le\varepsilon_0を、[a,b]×(−ε,ε)[a,b]\times(-\varepsilon,\varepsilon)の上でρ2>1/4\rho^2>1/4となるように取ることができる。この範囲でρ=ρ2\rho=\sqrt{\rho^2}はC∞C^\inftyであり、正である。

F(t,s)=ρ(t,s)F(t,s)=\rho(t,s)に補題 2.1を適用すると、L\mathcal{L}はC1C^1級でありdLds=∫ab∂sρ dt\dfrac{d\mathcal{L}}{ds}=\int_a^b\partial_s\rho\,dtである。内積についての積の公式をss方向に適用すると

∂sρ=I(∇s ∂tα, ∂tα)ρ\partial_s\rho=\frac{\mathrm{I}\bigl(\nabla_s\,\partial_t\alpha,\ \partial_t\alpha\bigr)}{\rho}

である。補題 3.3により分子の∇s∂tα\nabla_s\partial_t\alphaを∇t∂sα\nabla_t\partial_s\alphaへ入れ替える。s=0s=0ではρ=1\rho=1、∂tα=γ′\partial_t\alpha=\gamma'、∇t∂sα=DVdt\nabla_t\partial_s\alpha=\dfrac{DV}{dt}であるから

∂sρ(t,0)=I(DVdt,γ′)=ddt I(V,γ′)−I(V,Dγ′dt)\partial_s\rho(t,0)=\mathrm{I}\left(\frac{DV}{dt},\gamma'\right) =\frac{d}{dt}\,\mathrm{I}(V,\gamma')-\mathrm{I}\left(V,\frac{D\gamma'}{dt}\right)

である。ttについて積分し、第一項に微積分学の基本定理を用いれば主張の式を得る。端点を固定する変分ではV(a)=V(b)=0V(a)=V(b)=0であるから第一項が消える。▨

系 4.5.IIを開区間、γ:I→M\gamma:I\to Mを正則曲線、すなわちγ′(t)≠0\gamma'(t)\ne0をすべてのttで満たす滑らかな曲線とし、[a,b]⊆I[a,b]\subseteq Iとする。ρ=∥γ′∥\rho=\lVert\gamma'\rVert、T=γ′/ρT=\gamma'/\rhoと置く。

  1. γ∣[a,b]\gamma|_{[a,b]}の端点を固定するすべての変分に対してdLds∣s=0=0\left.\dfrac{d\mathcal{L}}{ds}\right|_{s=0}=0であることと、[a,b][a,b]の上でDTdt=0\dfrac{DT}{dt}=0が成り立つこととは同値である。
  2. DTdt=0\dfrac{DT}{dt}=0が成り立つとき、γ∣[a,b]\gamma|_{[a,b]}を弧長で径数づけ直して得られる曲線は測地線である。
  3. DTdt=0\dfrac{DT}{dt}=0が成り立つとき、γ∣[a,b]\gamma|_{[a,b]}自身が測地線であることと、ρ\rhoが[a,b][a,b]の上で定数であることとは同値である。

証明.(1)を示す。定理 4.4の証明を、単位速度でない場合について繰り返す。ρ\rhoは[a,b][a,b]の上で連続かつ正であるから、コンパクト性によりμ=min⁡[a,b]ρ>0\mu=\min_{[a,b]}\rho>0である。したがって同じ有限被覆の議論により、[a,b]×(−ε,ε)[a,b]\times(-\varepsilon,\varepsilon)の上で∥∂tα∥2>μ2/4\lVert\partial_t\alpha\rVert^2>\mu^2/4となるε>0\varepsilon>0を取ることができ、その範囲で∥∂tα∥\lVert\partial_t\alpha\rVertはC∞C^\inftyかつ正である。s=0s=0で∥∂tα(t,0)∥=ρ(t)\lVert\partial_t\alpha(t,0)\rVert=\rho(t)であるから

∂sρ(t,0)=1ρ I(DVdt,γ′)=I(DVdt,T)=ddt I(V,T)−I(V,DTdt)\partial_s\rho(t,0)=\frac{1}{\rho}\,\mathrm{I}\left(\frac{DV}{dt},\gamma'\right)=\mathrm{I}\left(\frac{DV}{dt},T\right) =\frac{d}{dt}\,\mathrm{I}(V,T)-\mathrm{I}\left(V,\frac{DT}{dt}\right)

である。端点を固定する変分に対してはV(a)=V(b)=0V(a)=V(b)=0であるから

dLds∣s=0=−∫abI(V,DTdt)dt\left.\frac{d\mathcal{L}}{ds}\right|_{s=0}=-\int_a^b\mathrm{I}\left(V,\frac{DT}{dt}\right)dt

である。あとは系 4.3と同じ議論、すなわち補題 3.4と補題 3.5をw=DT/dtw=DT/dtに適用する議論による。

(2)を示す。σ(t)=∫atρ(τ) dτ\sigma(t)=\int_a^t\rho(\tau)\,d\tauと置くと、ρ>0\rho>0であるからσ\sigmaは[a,b][a,b]から[0,L(γ∣[a,b])][0,L(\gamma|_{[a,b]})]への狭義単調増加なC∞C^\infty微分同相であり、その逆写像をhhと書くとγ~=γ∘h\widetilde{\gamma}=\gamma\circ hは単位速度である(§E19.1 定義 2.1)。h′(ς)=1/ρ(h(ς))h'(\varsigma)=1/\rho(h(\varsigma))であるからγ~′(ς)=h′(ς) γ′(h(ς))=T(h(ς))\widetilde{\gamma}'(\varsigma)=h'(\varsigma)\,\gamma'(h(\varsigma))=T(h(\varsigma))であり、§E19.7 命題 6.2の座標表示に連鎖律を適用すると

Dγ~′dς(ς)=h′(ς) DTdt(h(ς))=0\frac{D\widetilde{\gamma}'}{d\varsigma}(\varsigma)=h'(\varsigma)\,\frac{DT}{dt}\bigl(h(\varsigma)\bigr)=0

である。よってγ~\widetilde{\gamma}は測地線である。

(3)を示す。γ′=ρ T\gamma'=\rho\,Tであるから、§E19.7 命題 6.2 (1)により

Dγ′dt=ρ˙ T+ρ DTdt=ρ˙ T\frac{D\gamma'}{dt}=\dot\rho\,T+\rho\,\frac{DT}{dt}=\dot\rho\,T

である。T≠0T\ne0であるから、これが恒等的に零であることとρ˙≡0\dot\rho\equiv0であることは同値である。▨

注意 4.6 (エネルギーと長さの違い).L\mathcal{L}は径数の取り替えで値が変わらないので、その臨界点は径数の取り替えを除いてしか定まらない。系 4.5 (3)が述べているのは、臨界点の中で測地線であるのは定速のものだけだということである。一方E\mathcal{E}は径数の取り替えで値が変わるので、系 4.3のとおり臨界点そのものが測地線になる。

二つの汎関数は次の不等式で結ばれる。γ:[a,b]→M\gamma:[a,b]\to Mを滑らかな曲線としc=L(γ)/(b−a)c=L(\gamma)/(b-a)と置くと

0≤∫ab(∥γ′∥−c)2dt=2E(γ)−2c L(γ)+c2(b−a)=2E(γ)−L(γ)2b−a0\le\int_a^b\bigl(\lVert\gamma'\rVert-c\bigr)^2dt =2E(\gamma)-2c\,L(\gamma)+c^2(b-a) =2E(\gamma)-\frac{L(\gamma)^2}{b-a}

であるから

E(γ)≥L(γ)22(b−a)E(\gamma)\ge\frac{L(\gamma)^2}{2(b-a)}

が成り立ち、等号が成り立つことと∥γ′∥\lVert\gamma'\rVertが定数であることとは同値である。長さを保ったまま径数を取り替えると、定速のときにエネルギーが最小になる。

5 測地曲率

以下、MMは向きづけられているとする。M⊆R3M\subseteq\mathbb{R}^3が正則曲面のときは、向きは単位法線ベクトル場NNの選択である(§E19.3 定義 4.2)。TpMT_pMの順序づけられた基底(X,Y)(X,Y)が正であるとは、M⊆R3M\subseteq\mathbb{R}^3のときはX×YX\times YがN(p)N(p)の正の実数倍であることをいい、抽象曲面のときはMMの向きに関して正であることをいう。

定義 5.1.MMを向きづけられた曲面、γ:I→M\gamma:I\to Mを単位速度の曲線とする。T=γ′T=\gamma'と置き、各ttに対してn(t)∈Tγ(t)Mn(t)\in T_{\gamma(t)}Mを、∥n∥=1\lVert n\rVert=1、I(T,n)=0\mathrm{I}(T,n)=0、かつ(T,n)(T,n)が正の基底であるという三条件で定まる唯一のベクトルとする。M⊆R3M\subseteq\mathbb{R}^3のときはn=N×Tn=N\times Tである。

κg(t)=I(DTdt(t), n(t))\kappa_g(t)=\mathrm{I}\left(\frac{DT}{dt}(t),\ n(t)\right)

をγ\gammaの測地曲率 (geodesic curvature) という。測地曲率は単位速度の曲線に対してのみ定義する。単位速度でない正則曲線に対して同じ式を書くと、速さの三乗の因子が入り、径数の取り替えで値が変わってしまうためである。

M⊆R3M\subseteq\mathbb{R}^3のときにn=N×Tn=N\times Tが三条件を満たすことは、次のように確かめられる。∥N×T∥=∥N∥∥T∥=1\lVert N\times T\rVert=\lVert N\rVert\lVert T\rVert=1(N⊥TN\perp Tによる)であり、⟨N×T,T⟩=0\langle N\times T,T\rangle=0である。またN×T⊥NN\times T\perp NであるからN×T∈TpMN\times T\in T_pMである。さらに

T×(N×T)=N ⟨T,T⟩−T ⟨T,N⟩=NT\times(N\times T)=N\,\langle T,T\rangle-T\,\langle T,N\rangle=N

であるから(T,N×T)(T,N\times T)は正の基底である。

命題 5.2.γ:I→M\gamma:I\to Mを単位速度の曲線とする。

  1. DTdt=κg n\dfrac{DT}{dt}=\kappa_g\,nが成り立つ。とくにγ\gammaが測地線であることとκg≡0\kappa_g\equiv0であることとは同値である。
  2. 曲面の向きを反転させると(M⊆R3M\subseteq\mathbb{R}^3のときはNNを−N-Nに取り替えると)κg\kappa_gは符号を変える。曲線の向きを反転させても、すなわちγ~(t)=γ(−t)\widetilde{\gamma}(t)=\gamma(-t)と置いても、κg\kappa_gは符号を変える。
  3. M⊆R3M\subseteq\mathbb{R}^3のとき、γ\gammaをR3\mathbb{R}^3の曲線とみた二階導関数は γ′′=κg n+II(T,T) N\gamma''=\kappa_g\,n+\mathrm{II}(T,T)\,N と分解する。したがって、γ\gammaの空間曲線としての曲率κ=∥γ′′∥\kappa=\lVert\gamma''\rVert(§E19.2 定義 3.1)について κ2=κg 2+II(T,T)2\kappa^2=\kappa_g^{\,2}+\mathrm{II}(T,T)^2 が成り立つ。

証明.(1)を示す。I(T,T)≡1\mathrm{I}(T,T)\equiv1を§E19.7 命題 6.3によって微分すると2 I(DT/dt,T)=02\,\mathrm{I}(DT/dt,T)=0である。(T,n)(T,n)はTγ(t)MT_{\gamma(t)}Mの正規直交基底であるから

DTdt=I(DTdt,T)T+I(DTdt,n)n=κg n\frac{DT}{dt}=\mathrm{I}\left(\frac{DT}{dt},T\right)T+\mathrm{I}\left(\frac{DT}{dt},n\right)n=\kappa_g\,n

である。n≠0n\ne0であるからDT/dt=0DT/dt=0とκg=0\kappa_g=0は同値である。

(2)を示す。DT/dtDT/dtは第一基本形式だけから定まり、向きに依存しない。向きを反転させると、正の基底の定義が入れ替わるのでnnは−n-nに置き換わり、κg\kappa_gは符号を変える。曲線の向きの反転については、T~(t)=γ~′(t)=−T(−t)\widetilde{T}(t)=\widetilde{\gamma}'(t)=-T(-t)であり、§E19.7 命題 6.2の座標表示から、YYをγ\gammaに沿うベクトル場とするときt↦Y(−t)t\mapsto Y(-t)のγ~\widetilde{\gamma}に沿う共変微分は−DYdt(−t)-\dfrac{DY}{dt}(-t)である。これをY=−TY=-Tに適用すると

DT~dt(t)=DTdt(−t)\frac{D\widetilde{T}}{dt}(t)=\frac{DT}{dt}(-t)

である。一方n~(t)=−n(−t)\widetilde{n}(t)=-n(-t)であるからκ~g(t)=−κg(−t)\widetilde{\kappa}_g(t)=-\kappa_g(-t)である。

(3)を示す。γ′′(t)\gamma''(t)を接成分と法成分に分けると、接成分は§E19.7 命題 6.2によりDT/dt=κgnDT/dt=\kappa_g nであり、法成分は⟨γ′′,N⟩N\langle\gamma'',N\rangle Nである。⟨γ′(t),N(γ(t))⟩≡0\langle\gamma'(t),N(\gamma(t))\rangle\equiv0をttについて微分すると

⟨γ′′,N⟩+⟨T,ddt(N∘γ)⟩=0\langle\gamma'',N\rangle+\left\langle T,\frac{d}{dt}\bigl(N\circ\gamma\bigr)\right\rangle=0

である。ddt(N∘γ)=dN(T)=−S(T)\dfrac{d}{dt}(N\circ\gamma)=dN(T)=-S(T)(§E19.5 定義 1.4)であるから

⟨γ′′,N⟩=⟨T,S(T)⟩=II(T,T)\langle\gamma'',N\rangle=\langle T,S(T)\rangle=\mathrm{II}(T,T)

である(§E19.5 定義 3.1)。nnとNNは互いに直交する単位ベクトルであるからκ2=κg2+II(T,T)2\kappa^2=\kappa_g^2+\mathrm{II}(T,T)^2である。▨

II(T,T)\mathrm{II}(T,T)はTT方向の法曲率である(§E19.5 定理 4.4)。したがって(3)は、曲面上の曲線の曲率が、曲面の内側で測る成分と、曲面が空間の中で曲がっていることに由来する成分とに分かれることを述べている。測地線は前者が消える曲線であり、後者はどのように曲面が入っているかに依存する。

6 例

例 6.1 (球面の測地線は大円である). 半径r>0r>0の球面M={p∈R3:∥p∥=r}M=\{p\in\mathbb{R}^3:\lVert p\rVert=r\}を取る。p∈Mp\in MとX∈TpMX\in T_pM、∥X∥=1\lVert X\rVert=1を固定し

γ(s)=cos⁡(sr)p+rsin⁡(sr)X(s∈R)\gamma(s)=\cos\left(\frac{s}{r}\right)p+r\sin\left(\frac{s}{r}\right)X\qquad(s\in\mathbb{R})

と置く。⟨p,X⟩=0\langle p,X\rangle=0かつ∥p∥=r\lVert p\rVert=r、∥X∥=1\lVert X\rVert=1であるから

∥γ(s)∥2=r2cos⁡2(sr)+r2sin⁡2(sr)=r2\lVert\gamma(s)\rVert^2=r^2\cos^2\left(\frac{s}{r}\right)+r^2\sin^2\left(\frac{s}{r}\right)=r^2

であり、γ\gammaはMMの中の曲線である。像は、原点とppとXXが張る平面とMMとの交わり、すなわち大円である。γ(0)=p\gamma(0)=p、γ′(0)=X\gamma'(0)=Xであり

γ′(s)=−1rsin⁡(sr)p+cos⁡(sr)X,γ′′(s)=−1r2γ(s)\gamma'(s)=-\frac{1}{r}\sin\left(\frac{s}{r}\right)p+\cos\left(\frac{s}{r}\right)X,\qquad \gamma''(s)=-\frac{1}{r^2}\gamma(s)

である。∥γ′(s)∥2=sin⁡2(s/r)+cos⁡2(s/r)=1\lVert\gamma'(s)\rVert^2=\sin^2(s/r)+\cos^2(s/r)=1であるからγ\gammaは単位速度である。γ′′(s)\gamma''(s)は位置ベクトルγ(s)\gamma(s)の実数倍であり、球面の接平面は位置ベクトルに直交するから、γ′′(s)\gamma''(s)は法方向である。したがって

Dγ′ds=(γ′′)⊤=0\frac{D\gamma'}{ds}=\bigl(\gamma''\bigr)^{\top}=0

であり、γ\gammaは測地線である。

逆に、MMの任意の測地線は大円の一部である。実際、測地線は命題 1.2 (1)により定速であるから、定数曲線でなければ弧長で径数づけ直すことができ、初期点と初期速度が一致する上の大円と命題 1.2 (2)の一意性により局所的に一致する。一致する時刻の集合は、閉じており、同じ一意性から開いており、区間は連結であるから区間全体である。

例 6.2 (球面の緯線の測地曲率).§E19.7 例 7.3と同じ設定を取る。すなわち

x(u,v)=r(sin⁡ucos⁡v, sin⁡usin⁡v, cos⁡u)(0<u<π)\boldsymbol{x}(u,v)=r(\sin u\cos v,\ \sin u\sin v,\ \cos u)\qquad(0<u<\pi)

とし、向きは、囲む領域から見て内向きのN(p)=−p/rN(p)=-p/rに取る。Christoffel 記号は

Γ221=−sin⁡ucos⁡u,Γ122=Γ212=cos⁡usin⁡u\Gamma^1_{22}=-\sin u\cos u,\qquad \Gamma^2_{12}=\Gamma^2_{21}=\frac{\cos u}{\sin u}

であり、残りは零である。

0<u0<π0<u_0<\piを固定し、緯線をvvの減る向きに単位速度で

γ(s)=x(u0, −srsin⁡u0)\gamma(s)=\boldsymbol{x}\left(u_0,\ -\frac{s}{r\sin u_0}\right)

と径数づける。座標表示はu1(s)=u0u^1(s)=u_0、u2(s)=−s/(rsin⁡u0)u^2(s)=-s/(r\sin u_0)であり

∥γ′∥2=G (u˙2)2=r2sin⁡2u0⋅1r2sin⁡2u0=1\lVert\gamma'\rVert^2=G\,(\dot u^2)^2=r^2\sin^2u_0\cdot\frac{1}{r^2\sin^2u_0}=1

であるから単位速度である。T=γ′T=\gamma'をT=ξ1∂1+ξ2∂2T=\xi^1\partial_1+\xi^2\partial_2と書くとξ1=0\xi^1=0、ξ2=−1/(rsin⁡u0)\xi^2=-1/(r\sin u_0)であり、いずれも定数である。§E19.7 命題 6.2の表示により

(DTds)1=Γ221 u˙2 ξ2=(−sin⁡u0cos⁡u0)⋅1r2sin⁡2u0=−cos⁡u0r2sin⁡u0,\left(\frac{DT}{ds}\right)^1=\Gamma^1_{22}\,\dot u^2\,\xi^2 =(-\sin u_0\cos u_0)\cdot\frac{1}{r^2\sin^2u_0}=-\frac{\cos u_0}{r^2\sin u_0},(DTds)2=Γ212 u˙2 ξ1+Γ122 u˙1 ξ2=0\left(\frac{DT}{ds}\right)^2=\Gamma^2_{21}\,\dot u^2\,\xi^1+\Gamma^2_{12}\,\dot u^1\,\xi^2=0

である。∂1=xu\partial_1=\boldsymbol{x}_uであり∥xu∥=r\lVert\boldsymbol{x}_u\rVert=rであるから、e=xu/re=\boldsymbol{x}_u/rと置くと

DTds=−cos⁡u0rsin⁡u0 e.\frac{DT}{ds}=-\frac{\cos u_0}{r\sin u_0}\,e.

一方n=N×Tn=N\times Tを計算する。v=0v=0の点でN=(−sin⁡u0,0,−cos⁡u0)N=(-\sin u_0,0,-\cos u_0)、T=−xv/(rsin⁡u0)=(0,−1,0)T=-\boldsymbol{x}_v/(r\sin u_0)=(0,-1,0)であるから

n=N×T=(−cos⁡u0, 0, sin⁡u0)=−xur=−e.n=N\times T=(-\cos u_0,\ 0,\ \sin u_0)=-\frac{\boldsymbol{x}_u}{r}=-e.

したがって

κg=I(DTds,n)=(−cos⁡u0rsin⁡u0)(−1)=cos⁡u0rsin⁡u0\kappa_g=\mathrm{I}\left(\frac{DT}{ds},n\right)=\left(-\frac{\cos u_0}{r\sin u_0}\right)(-1)=\frac{\cos u_0}{r\sin u_0}

である。u0=π/2u_0=\pi/2(赤道)のときκg=0\kappa_g=0であり、赤道が測地線であるという例 6.1の結論と整合する。

この値は、「局所 Gauss–Bonnet とホロノミー」が証明する局所 Gauss–Bonnet の公式と整合する。球冠R={u<u0}R=\{u<u_0\}について∫RK dA=2π(1−cos⁡u0)\int_RK\,dA=2\pi(1-\cos u_0)であり(§E19.7 例 7.3)、緯線の長さは2πrsin⁡u02\pi r\sin u_0であるから

∫RK dA+∫∂Rκg ds=2π(1−cos⁡u0)+cos⁡u0rsin⁡u0⋅2πrsin⁡u0=2π\int_RK\,dA+\int_{\partial R}\kappa_g\,ds=2\pi(1-\cos u_0)+\frac{\cos u_0}{r\sin u_0}\cdot2\pi r\sin u_0=2\pi

となる。境界をvvの減る向きに取ったのは、n=N×Tn=N\times TがRRの内側を向くようにするためである。

ただし、この球冠は本例が用いた球面座標x(u,v)\boldsymbol{x}(u,v)(0<u<π0<u<\pi)のチャートに含まれない。RRの内点である北極がu=0u=0に対応し、その定義域の外にあるからである。したがって、ここで確かめたのは等式の数値であって、局所 Gauss–Bonnet の定理の仮定が満たされていることではない。仮定の検証は「局所 Gauss–Bonnet とホロノミー」の§E19.14 例 8.2が行っており、そこでは南極からの立体射影によるチャートを取り、球冠がそのチャートの中で単純な座標領域になることを確かめている。

例 6.3 (円柱の測地線).M={(x,y,z):x2+y2=1}M=\{(x,y,z):x^2+y^2=1\}、x(u,v)=(cos⁡u,sin⁡u,v)\boldsymbol{x}(u,v)=(\cos u,\sin u,v)とすると、§E19.7 例 7.2のとおりΓijk≡0\Gamma^k_{ij}\equiv0である。したがって定義 1.1の方程式はu¨1=u¨2=0\ddot u^1=\ddot u^2=0となり、測地線は

u1(t)=at+b,u2(t)=ct+d(a,b,c,d∈R)u^1(t)=at+b,\qquad u^2(t)=ct+d\qquad(a,b,c,d\in\mathbb{R})

で与えられる。a=0a=0かつc≠0c\ne0のときは母線(直線)、c=0c=0かつa≠0a\ne0のときは円柱と平面z=dz=dとの交わりである円、a≠0a\ne0かつc≠0c\ne0のときは常螺旋である。a=c=0a=c=0のときは定数曲線である。

例 6.4 (長さの臨界点であって測地線でない曲線).例 6.1の大円γ\gammaを取り、h(t)=eth(t)=e^tと置いてγ~(t)=γ(h(t))\widetilde{\gamma}(t)=\gamma(h(t))(t∈(0,1)t\in(0,1))と定める。hhは狭義単調増加なC∞C^\infty微分同相であるからγ~\widetilde{\gamma}は正則曲線であり、γ~′(t)=etγ′(et)\widetilde{\gamma}'(t)=e^t\gamma'(e^t)であるからρ(t)=∥γ~′(t)∥=et\rho(t)=\lVert\widetilde{\gamma}'(t)\rVert=e^tである。単位接ベクトルはT~(t)=γ′(et)\widetilde{T}(t)=\gamma'(e^t)であり、γ\gammaが測地線であることから

DT~dt(t)=et Dγ′ds(et)=0\frac{D\widetilde{T}}{dt}(t)=e^t\,\frac{D\gamma'}{ds}(e^t)=0

である。したがって系 4.5 (1)によりγ~\widetilde{\gamma}は長さの臨界点である。しかし

Dγ~′dt=ρ˙ T~=et T~≠0\frac{D\widetilde{\gamma}'}{dt}=\dot\rho\,\widetilde{T}=e^t\,\widetilde{T}\ne0

であるから、γ~\widetilde{\gamma}は測地線ではなく、系 4.3によりエネルギーの臨界点でもない。定速に取り直せば、すなわちγ\gammaそのものに戻せば測地線になる。

7 演習

問題 7.1.

  1. 補題 2.1の証明では、平均値の定理で得たθ(t,h)\theta(t,h)について、ttの関数としての可測性や連続性を一切用いなかった。用いずに済んだ理由を、不等式を立てた箇所に即して述べよ。
  2. 補題 3.3の証明で、Γijk=Γjik\Gamma^k_{ij}=\Gamma^k_{ji}を用いた箇所を特定せよ。この対称性が成り立たない接続に対して、∇s∂tα−∇t∂sα\nabla_s\partial_t\alpha-\nabla_t\partial_s\alphaがどのような式になるかを、同じ座標計算から書き下せ。
  3. 補題 3.4の構成では、α\alphaを座標の中で作り、γ(t)+sV(t)\gamma(t)+sV(t)という素朴な式を用いなかった。M⊆R3M\subseteq\mathbb{R}^3のとき、素朴な式が失敗する理由を、α(t,s)\alpha(t,s)が満たすべき条件に即して述べよ。
  4. 補題 3.5の証明では、V=χPV=\chi PのPPを平行移動によって作った。PPの代わりにwwそのものを用いてV=χwV=\chi wと置くことができない理由を、仮定に置いたVVの正則性に即して述べよ。
  5. 定理 4.2の証明で補題 3.3を適用する一手を省き、I(∇s∂tα,∂tα)\mathrm{I}(\nabla_s\partial_t\alpha,\partial_t\alpha)のままttについて積分しようとすると、どこで議論が止まるかを説明せよ。
  6. 定理 4.4ではε\varepsilonを取り直した。この操作が必要になる理由を、ρ↦ρ2\rho\mapsto\sqrt{\rho^2}の微分可能性に即して述べよ。また、γ\gammaが正則でない曲線に対して同じ議論を行うと何が失敗するかを述べよ。
  7. 系 4.5 (3)を用いて、次を示せ。長さの臨界点であって測地線でない曲線は、どの測地線とも像が異なるとはかぎらない。像が同じでも径数が異なることがある、という主張を、例 6.4を用いて厳密に述べ直せ。
  8. 命題 5.2 (2)で、曲線の向きの反転によってκg\kappa_gが符号を変えることを示した。曲面の向きと曲線の向きを同時に反転させるとκg\kappa_gが変わらないことを確かめ、この事実が例 6.2の計算にどのように現れるかを述べよ。

8 境界と次

測地線が長さを最小にすることを主張しないこと。本記事が示したのは、測地線が長さとエネルギーの臨界点であることだけである。臨界点であることは最小であることを意味しない。球面の大円上の二点を結ぶ二つの弧はどちらも測地線であるが、一方は長いほうである。測地線が十分近い二点の間で長さを最小にするという主張は、測地極座標と Gauss の補題を用いて証明されるものであり、「Riemann 幾何 I」が扱う。本単元がその経路を取らない理由は注意 1.3に述べたとおりである。

第二変分を扱わないこと。臨界点が極小であるかどうかは第二変分によって判定される。第二変分、Jacobi 場および共役点は「Riemann 幾何 I」が扱う。極小曲面と調和写像についての第二変分と安定性は「Riemann 幾何 II」が扱う。

解の存在を扱わないこと。本記事は、与えられた曲線が臨界点であるかどうかを判定する道具を作った。与えられた二点を結ぶ最短の曲線が存在するかどうかは別の問題であり、直接法、下半連続性および弱コンパクト性を要する。これらは「変分法」が扱う。

距離空間としての扱いを行わないこと。本記事の測地線は、常微分方程式の解として、また長さとエネルギーの臨界点として定めたものであり、二点を結ぶ最短の曲線として定めたものではない。任意の二点が最短の曲線で結ばれる距離空間、すなわち測地距離空間と、そのような空間の族の収束を測る Gromov–Hausdorff 収束は「距離空間と測度距離空間」が扱う。

測地曲率を単位速度の曲線にだけ定義したこと。定義 5.1のとおり、本単元は測地曲率を単位速度の曲線に対してのみ定める。一般の正則曲線γ\gammaに対してI(Dγ′/dt, N×γ′)\mathrm{I}(D\gamma'/dt,\ N\times\gamma')を測地曲率と呼ぶ流儀もあるが、その量は速さの三乗に比例して変わるので、径数の取り替えで値が変わる。局所 Gauss–Bonnet の定理の境界項は弧長についての積分であり、単位速度の定義でなければ主張の形が定まらない。

次の記事へ渡すもの。測地線の方程式は、回転面の第一基本形式に対して具体的に解かれ、Clairaut の関係式という保存量を与える。測地曲率は、局所 Gauss–Bonnet の定理の境界項として現れ、その符号の規約が大域 Gauss–Bonnet の定理における辺の相殺を支える。補題 2.1と補題 3.5は、面積の第一変分と Dirichlet エネルギーの第一変分の計算でそのまま再利用される。

参考文献

  1. Manfredo P. do Carmo, Differential Geometry of Curves and Surfaces, revised and updated second ed., Dover Publications, Mineola, N.Y., 2016.測地線の定義、測地曲率の符号の規約、および回転面と球面における測地線の扱いを参考にした。
  2. Manfredo P. do Carmo, Riemannian Geometry, translated by Francis Flaherty, Mathematics: Theory & Applications, Birkhäuser, Boston, 1992.測地線の常微分方程式としての扱いと、エネルギーの第一変分の計算および対称補題の使い方を参考にした。
  3. Barrett O'Neill, Elementary Differential Geometry, 2 (revised) ed., Academic Press, 2006.第一基本形式だけを与えられた二次元の対象における測地線と測地曲率の扱いを参考にした。

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