1 回転面と母線の弧長による座標
定義 1.1.I⊆Rを開区間とし、σ:I→R2、σ(t)=(f(t),g(t))をC∞写像であって次の三つを満たすものとする。
- すべてのt∈Iに対してf(t)>0である。
- σは単位速度である。すなわちすべてのt∈Iに対してf′(t)2+g′(t)2=1である。
- σは単射であり、逆対応σ(I)→Iは、σ(I)にR2から入る相対位相について連続である。
このときσを母線 (generating curve) と呼び、
x(t,θ)=(f(t)cosθ, f(t)sinθ, g(t))の像M=x(I×R)を、母線σをz軸のまわりに回して得られる回転面 (surface of revolution) という。tを固定してθを動かして得られる曲線を緯線 (parallel)、θを固定してtを動かして得られる曲線を子午線 (meridian) という。
条件 (b)を課しても一般性を失わない。母線が正則であれば、弧長によって径数づけ直すことができるからである(§E19.1 定義 2.1)。条件 (a)は、母線が回転軸に達しないことを述べている。球面を回転面として扱うときは、二つの極が座標の外に出る。
回転面の第一基本形式そのものは「第一基本形式と面積要素」の§E19.4 命題 6.1が先に与えている。同命題は母線σ(u)=(φ(u),ψ(u))に正則性だけを課してE=φ′2+ψ′2、F=0、G=φ2を与えるので、本記事が扱うのはその特別な場合、すなわち母線を単位速度に取り直した場合である。この取り直しによってEが定数関数1になり、Gがf(t)2になる。次の命題は、この場合について、像がMの中で開であって二つの像がMを覆うこと、および回転軸までの距離がf(t)であることを加えた形で述べる。
証明.(2)と(3)を示す。偏微分を計算すると
xt=(f′cosθ, f′sinθ, g′),xθ=(−fsinθ, fcosθ, 0)である。したがって
E=⟨xt,xt⟩=f′2cos2θ+f′2sin2θ+g′2=f′2+g′2=1,F=⟨xt,xθ⟩=−ff′cosθsinθ+ff′sinθcosθ=0,G=⟨xθ,xθ⟩=f2sin2θ+f2cos2θ=f2である。z軸までの距離はf2cos2θ+f2sin2θ=f(t)である(f>0による)。
(1)を示す。EG−F2=∥xt×xθ∥2=f2>0であるからxt×xθ=0であり、x∣Wθ0ははめ込みである(§E19.3 補題 1.4)。
単射性を示す。x(t,θ)=x(t1,θ1)((t,θ),(t1,θ1)∈Wθ0)とすると、第三成分からg(t)=g(t1)であり、最初の二成分の長さからf(t)=f(t1)である。よってσ(t)=σ(t1)であり、定義 1.1 条件 (c)の単射性からt=t1である。f(t)>0であるから(cosθ,sinθ)=(cosθ1,sinθ1)であり、θ,θ1は長さ2πの開区間に属するからθ=θ1である。
像への同相であることを示す。p=(x,y,z)∈x(Wθ0)に対してΨ(p)=(x2+y2, z)と置くとΨは連続であり、Ψ(x(t,θ))=σ(t)である。定義 1.1 条件 (c)によりt=σ−1(Ψ(p))はpについて連続である。また(cosθ,sinθ)=(x,y)/f(t)はpについて連続であり、長さ2πの開区間(θ0,θ0+2π)に値を取る偏角は、原点を端点とする一本の半直線を除いた平面の上で連続である。よってθもpについて連続であり、x∣Wθ0の逆写像は連続である。
像がMの中で開であることを示す。Hθ0={(λcosθ0,λsinθ0,z):λ≥0, z∈R}はR3の閉集合である。f>0であるからM∩Hθ0は子午線θ=θ0に一致し、これはMの閉集合である。その補集合がx(Wθ0)であるから、像はMの中で開である。θ0=0の像は子午線θ=0だけを除き、θ0=πの像は子午線θ=πだけを除くから、二つの像はMを覆う。したがってMの各点は、正則パラメータ表示の像であってMの中で開であるものに属するので、§E19.3 定理 1.6によりMは正則曲面である。▨
証明.F=0であるから§E19.7 公式 3.4を適用することができる。E=1であるからEt=Eθ=0であり、G=f2であるからGt=2ff′、Gθ=0である。代入すると
Γ111=2EEt=0,Γ121=2EEθ=0,Γ221=−2EGt=−ff′,Γ112=−2GEθ=0,Γ122=2GGt=2f22ff′=ff′,Γ222=2GGθ=0である。▨
2 測地線の方程式
命題 2.1.γをx(Wθ0)に含まれる滑らかな曲線とし、その座標表示を(t(s),θ(s))と書く。γが測地線(§E19.8 定義 1.1)であることは、次の二つの方程式が成り立つことと同値である。
t¨−f(t)f′(t)θ˙2=0,(G1)θ¨+f(t)2f′(t)t˙θ˙=0.(G2)さらにγが単位速度であることは
t˙2+f(t)2θ˙2=1(U)と同値である。
証明.§E19.8 定義 1.1の座標表示はu¨k+∑i,jΓijku˙iu˙j=0である。k=1については、公式 1.3により零でない記号はΓ221=−ff′だけであるから (G1) を得る。k=2については、零でない記号はΓ122=Γ212=f′/fの二つであり、u˙1u˙2の項が二度現れるから (G2) を得る。単位速度の条件は∥γ′∥2=Et˙2+2Ft˙θ˙+Gθ˙2=t˙2+f2θ˙2による。▨
(G2) の左辺は、そのままでは積分することができない形をしている。しかしf2を掛けると、左辺は一つの関数の導関数になる。次節ではこの変形によって保存量を取り出す。
3 Clairaut の関係式
単位速度の曲線γに対して、速度ベクトルが子午線方向となす角を定める。∂t=xtと∂θ/f=xθ/fは各点で正規直交基底であるから(E=1、F=0、G=f2による)、∥γ′∥=1のとき
γ′=cosψ ∂t+sinψ f∂θ
を満たす実数ψが2πの整数倍を除いて一意に定まる。座標表示との関係は
cosψ=t˙,sinψ=f(t)θ˙
である。ψを速度ベクトルが子午線となす角という。sinψとcosψはsについて滑らかな関数である。
定理 3.1 (Clairaut の関係式).Mを定義 1.1の回転面とし、γをx(Wθ0)に含まれる単位速度の測地線、(t(s),θ(s))をその座標表示とする。このとき
f(t(s))sinψ(s)=f(t(s))2θ˙(s)はsに依らない定数である。すなわち、回転軸からの距離と、速度ベクトルが子午線となす角の正弦との積は、測地線に沿って一定である。この定数をγの Clairaut 定数と呼び、cと書く。
証明の方針を述べる。出発点は測地線方程式の第二式 (G2) である。この式が特別な形をしているのは、第一基本形式の成分E=1、F=0、G=f(t)2がいずれもθを含まないからである。中間目標は、(G2) がf2θ˙の導関数を書いたものにほかならないことを見ることである。本質的な一手は (G2) の両辺にf2を掛けることであり、掛けると左辺が積の微分法の形に整う。角による表示への書き換えは、sinψ=fθ˙という定義からただちに従う。
証明.γは測地線であるから (G2) が成り立つ。両辺にf(t(s))2を掛けると
f2θ¨+2ff′t˙θ˙=0である。一方、積の微分法と連鎖律により
dsd(f(t(s))2θ˙(s))=2f(t(s))f′(t(s))t˙(s)θ˙(s)+f(t(s))2θ¨(s)である。二つの右辺は同じ式であるから、導関数は恒等的に零であり、f2θ˙は定数である。sinψ=fθ˙であるからfsinψ=f2θ˙である。▨
命題 3.3.γ:J→Mを単位速度の曲線とし、その座標表示(t(s),θ(s))についてf(t(s))2θ˙(s)が定数cであるとする。このとき次が成り立つ。
- (G2) がJの全体で成り立つ。
- Jの全体でt˙⋅(t¨−f(t)f′(t)θ˙2)=0が成り立つ。
- 集合Z={s∈J:t˙(s)=0}が内点を持たないならば、γは測地線である。
証明.(1)を示す。f2θ˙が定数であるから、その導関数2ff′t˙θ˙+f2θ¨は零である。f>0であるからこれをf2で割ると (G2) を得る。
(2)を示す。単位速度の条件 (U) とf2θ˙=cからt˙2=1−c2/f2である。両辺をsについて微分すると
2t˙t¨=f(t(s))32c2f′(t(s))t˙である。一方ff′θ˙2=ff′⋅c2/f4=c2f′/f3であるから、右辺は2t˙⋅ff′θ˙2に等しい。移項して2で割ると主張を得る。
(3)を示す。(2)により、J∖Zの上で (G1) が成り立つ。Zが内点を持たないならばJ∖ZはJで稠密であり、(G1) の左辺は連続であるから、Jの全体で (G1) が成り立つ。(1)と合わせて命題 2.1によりγは測地線である。▨
4 到達することができる距離の範囲
定理 4.1.γ:J→Mを単位速度の測地線、(t(s),θ(s))をその座標表示、cをその Clairaut 定数とする。このとき次が成り立つ。
- すべてのs∈Jに対してf(t(s))≥∣c∣である。
- t˙(s)2=1−f(t(s))2c2がJの全体で成り立つ。
- c=0ならばθは定数であり、γは子午線の一部である。
- c=0とする。A={s∈J: f(t(s))>∣c∣}はJの相対開集合であり、その各連結成分の上でs↦t(s)は狭義単調である。
- c=0とし、s1∈Jがf(t(s1))=∣c∣を満たすとする。このときt˙(s1)=0であり、γはs1において緯線t=t(s1)に接する。さらにf′(t(s1))=0ならば
t¨(s1)=∣c∣f′(t(s1))=0
であり、s1はs↦t(s)の狭義の極値点である。f′(t(s1))<0ならば極大、f′(t(s1))>0ならば極小である。
証明.(1)を示す。∣c∣=f∣sinψ∣≤fである。
(2)を示す。(U) によりt˙2=1−f2θ˙2である。f2θ˙=cであるからf2θ˙2=(f2θ˙)2/f2=c2/f2である。
(3)を示す。f>0であるからf2θ˙=0はθ˙≡0を意味し、θは定数である。このとき(2)によりt˙2=1であるからt(s)=±s+(定数)であり、γは子午線を弧長で径数づけたものである。
(4)を示す。f∘tは連続であるからAは相対開である。Aの上では(2)によりt˙2>0であり、t˙は連続であるから、Aの各連結成分の上でt˙は一定の符号を持つ。よってtはその成分の上で狭義単調である。
(5)を示す。(2)によりt˙(s1)2=1−c2/c2=0である。したがってγ′(s1)=θ˙(s1)∂θであり、これは緯線の接方向であるから、γはs1で緯線に接する。
(G1) とθ˙=c/f2により、Jの全体で
t¨=ff′θ˙2=ff′⋅f4c2=f(t(s))3f′(t(s))c2である。s=s1ではf(t(s1))=∣c∣であるからt¨(s1)=f′(t(s1))c2/∣c∣3=f′(t(s1))/∣c∣である。f′(t(s1))=0ならばt¨(s1)=0であり、t˙(s1)=0と合わせて、s1はtの非退化な臨界点である。t¨(s1)<0ならばtはs1で狭義の極大、t¨(s1)>0ならば狭義の極小である。∣c∣>0であるから、符号はf′(t(s1))の符号と一致する。▨
命題 4.2.c=0とし、t1∈Iがf(t1)=∣c∣かつf′(t1)=0を満たすとする。γ:J→Mを Clairaut 定数cを持つ単位速度の測地線とする。あるs1∈Jでt(s1)=t1が成り立つならば、γはs1のある近傍の上で、緯線t=t1を弧長で径数づけた曲線に一致する。
証明.β(s)=x(t1, θ(s1)+cs−s1)と置く。f(t1)=∣c∣であるから
∥β′∥2=f(t1)2⋅c21=c2c2=1であり、βは単位速度である。f′(t1)=0であるから、後述の定理 5.1 (2)によりβは測地線である。
一方、γについては定理 4.1 (5)によりt˙(s1)=0であり、θ˙(s1)=c/f(t1)2=c/c2=1/cである。したがってγ(s1)=β(s1)かつγ′(s1)=β′(s1)である。§E19.8 命題 1.2 (2)の一意性により、γとβはs1を含む十分小さい共通の区間の上で一致する。▨
5 子午線と緯線
定理 5.1.定義 1.1の回転面Mについて、次が成り立つ。
- 各θ0∈Rに対して、子午線s↦x(s,θ0)(s∈I)は単位速度の測地線である。
- t0∈Iとする。緯線を単位速度で径数づけた曲線
s↦x(t0, θ0+f(t0)s)
が測地線であることと、f′(t0)=0であることは同値である。
証明.(1)を示す。座標表示はt(s)=s、θ(s)=θ0である。t˙=1、t¨=0、θ˙=θ¨=0であるから (G1) の左辺は0−ff′⋅0=0、(G2) の左辺は0+0=0である。よって命題 2.1により測地線である。(U) の左辺は1+0=1であるから単位速度である。
(2)を示す。座標表示はt(s)=t0、θ(s)=θ0+s/f(t0)である。t˙=t¨=0、θ˙=1/f(t0)(定数)、θ¨=0である。(U) の左辺は0+f(t0)2/f(t0)2=1であるから単位速度である。(G2) の左辺は0+f(t0)2f′(t0)⋅0⋅θ˙=0であるから、(G2) はつねに成り立つ。(G1) の左辺は
0−f(t0)f′(t0)⋅f(t0)21=−f(t0)f′(t0)である。f(t0)>0であるから、これが零であることとf′(t0)=0であることは同値である。▨
Nとnの計算を確かめておく。xt×xθを成分で書くと
xt×xθ=f(−g′cosθ, −g′sinθ, f′)
であり、その長さはfg′2+f′2=fである。よってN=(−g′cosθ,−g′sinθ,f′)である。T=∂θ/f=(−sinθ,cosθ,0)に対して
N×T=(−f′cosθ, −f′sinθ, −g′)=−xt=−∂t
である。
6 球面
例 6.1 (球面の測地線と Clairaut 定数).r>0とし、母線を
f(t)=rsinrt,g(t)=−rcosrt(0<t<πr)と取る。f′=cos(t/r)、g′=sin(t/r)であるからf′2+g′2=1であり、f>0である。σ(t)=(f(t),g(t))は単射であり逆対応も連続である。得られる回転面Mは、原点を中心とする半径rの球面から二つの極を除いたものである。tは南極から測った子午線の弧長である。この母線の取り方に対して、注意 5.2のNは
N=(−g′cosθ,−g′sinθ,f′)=−r1x(t,θ)であり、内向きである。本単元が有界領域を囲む閉曲面に取る内向きの向きと一致する。
第一基本形式はI=dt2+r2sin2(t/r)dθ2である。f′(t)=cos(t/r)が零になるのはt=πr/2のときに限るから、定理 5.1 (2)により、測地線である緯線は赤道t=πr/2だけである。子午線はすべて測地線である。
球面の測地線は大円の一部である(§E19.8 例 6.1)。大円の Clairaut 定数を求める。大円は、原点を通る平面PとMとの交わりである。Pの単位法ベクトルをm=(m1,m2,m3)とし、大円上の点をpとすると、z軸からの距離はρ=r2−z2(zはpの第三成分)である。e3=(0,0,1)をm方向とP方向へ分解してe3=m3m+w(w∈P、∥w∥2=1−m32)と書くと、p∈Pに対してz=⟨p,e3⟩=⟨p,w⟩である。pはPの中の半径rの円を動くからzの最大値はr∥w∥=r1−m32であり、したがってρの最小値は
r2−r2(1−m32)=r∣m3∣である。定理 4.1 (1)によりρ≥∣c∣であり、ρが最小値を取る点では定理 4.1 (5)によりt˙=0、すなわち∣sinψ∣=1であるから、そこでρ=∣c∣である。よって
∣c∣=r∣m3∣である。m=(0,0,±1)のとき∣c∣=rであり、大円は赤道である。m3=0のときc=0であり、大円は極を通る子午線からなる。中間の場合、大円は帯r∣m3∣≤ρ≤rを満たす部分だけを通り、ρ=r∣m3∣の二つの緯線に接する。
極が座標の外にあることに注意する。m3=0の大円は二つの極を通るので、その像はMに含まれない。この場合、大円から極を除いた二つの弧のそれぞれが本記事の意味の測地線であり、いずれも Clairaut 定数0を持つ。
7 円環面
以下で用いる円環面の記号は、§E19.4 例 6.4のものと次のように対応する。同例のaが本記事のR(回転軸から管の中心円までの距離)、同例のbが本記事のρ(管の半径)である。母線の径数についても、同例が管の中心のまわりの角uを用いるのに対し、本記事は弧長t=ρuを用いる。したがって同例のE=b2、G=(a+bcosu)2は、本記事のE=1、G=f(t)2=(R+ρcos(t/ρ))2に対応する。
例 7.1 (円環面の測地線の定性的な振る舞い).R>ρ>0とし、母線を
f(t)=R+ρcosρt,g(t)=ρsinρtと取る。f′=−sin(t/ρ)、g′=cos(t/ρ)であるからf′2+g′2=1であり、R>ρによりf≥R−ρ>0である。tを長さ2πρの開区間(t∗,t∗+2πρ)に制限すると母線は単射であり逆対応も連続であるから、定義 1.1の条件を満たす。t∗を二通りに取れば、得られる二つの回転面の合併は円環面
T={(x,y,z): (x2+y2−R)2+z2=ρ2}の全体になる。Tは正則曲面である。実際、h(x,y,z)=(x2+y2−R)2+z2は(x,y)=(0,0)を満たす開集合の上でC∞であり、その勾配は
∇h=(2(1−x2+y2R)x, 2(1−x2+y2R)y, 2z)である。h=ρ2の点ではx2+y2=Rかつz=0が同時に起こることはないので∇h=0であり、ρ2はhの正則値である。「多様体入門」の§E17.5 定理 4.3によりTは二次元埋め込み部分多様体である。
第一基本形式はI=dt2+(R+ρcos(t/ρ))2dθ2である。f′(t)=−sin(t/ρ)が零になるのはt/ρがπの整数倍のときであり、そこでのfの値はR+ρ(外側の緯線)またはR−ρ(内側の緯線)である。定理 5.1により、測地線である緯線はこの二つだけであり、子午線はすべて測地線である。
Clairaut 定数cに応じて、測地線が通ることのできる範囲は次のように分かれる。fの値域は[R−ρ, R+ρ]であるから、定理 4.1 (1)により∣c∣≤R+ρである。
c=0の場合。定理 4.1 (3)により、測地線は子午線であり、管を一周する。
0<∣c∣<R−ρの場合。すべての点でf≥R−ρ>∣c∣であるから、定理 4.1 (4)によりtは定義域全体で狭義単調である。すなわち、この測地線は折り返さずに管を回り続け、同時にθ˙=c/f2が零にならないので回転軸のまわりも回る。
∣c∣=R−ρの場合。内側の緯線f=R−ρは定理 5.1により測地線であり、その Clairaut 定数はfsinψ=±(R−ρ)である。内側の緯線と一致しない測地線については、命題 4.2により内側の緯線上の点を通ることがない。よってその測地線に沿ってf>R−ρが成り立ち、定理 4.1 (4)によりtは狭義単調である。
R−ρ<∣c∣<R+ρの場合。f(t)=∣c∣は各周期の中でちょうど二つの解を持ち、それらは外側の緯線t/ρ∈2πZについて対称に位置する。その二点ではsin(t/ρ)=0すなわちf′=0であるから、定理 4.1 (5)により測地線は緯線に接して折り返す。したがってこの測地線は、外側の緯線を含み二つの緯線f=∣c∣で挟まれた帯の中にとどまる。
∣c∣=R+ρの場合。f≥∣c∣=R+ρとf≤R+ρからf≡R+ρであり、t˙≡0であるから、測地線は外側の緯線である。
∣c∣>R+ρの場合。定理 4.1 (1)に反するので、この値を取る測地線は存在しない。
以上は、測地線が通ることのできる範囲とtの単調性についての記述である。∣c∣=R−ρの測地線が内側の緯線へ漸近すること、帯の中の測地線が閉じるかどうか、および軌道が帯の中で稠密になるかどうかは、測地線を実数全体へ延ばすことを要するので、本記事は扱わない(注意 4.3)。
8 演習
問題 8.1.
- 命題 1.2の証明で、x∣Wθ0が像への同相であることを示すために母線の条件 3 を用いた。条件 3 を落とすと、単射なはめ込みであるが像への同相でない例を作ることができる。母線が原点へ漸近する螺旋のような曲線を取ることで、そのような例をどう構成するかを述べよ。
- 定理 3.1の証明では (G2) にf2を掛けた。掛けずに (G2) をそのまま積分しようとすると、どこで議論が止まるかを述べよ。また、(G1) からは同種の保存量が得られない理由を述べよ。
- 定理 4.1 (2)を用いて、Clairaut 定数cと初期条件との関係を書き下せ。すなわち、点x(t0,θ0)と単位接ベクトルXを与えたとき、Xを初期速度とする測地線の Clairaut 定数をt0とXの成分で表せ。
- 命題 4.2の証明では、§E19.8 命題 1.2の一意性を用いた。この一意性を用いずに、定理 4.1 (5)だけから同じ結論を導こうとすると何が足りないかを述べよ。
- 定理 5.1 (2)の証明を、緯線を単位速度でない径数s↦x(t0,θ0+s)で行うと、(G1) と (G2) がどう変わるかを書き下せ。測地線であるという条件が径数づけに依存することを、この計算に即して説明せよ。
- 例 6.1で、大円の Clairaut 定数がr∣m3∣であることを示した。逆に、0≤∣c∣≤rを満たすcと点p∈Mを与えたとき、pを通り Clairaut 定数がcである測地線が存在するためのpの条件を述べ、その条件のもとで何本存在するかを答えよ。
- 例 7.1のR−ρ<∣c∣<R+ρの場合について、折り返しの起こる二つのtの値をR、ρ、cで書き下せ。∣c∣→R+ρと∣c∣→R−ρの極限で、その二つの値がどう振る舞うかを述べよ。
- 命題 3.3 (2)の等式は、t˙が零になる点でも成り立つ。にもかかわらず 3 でZが内点を持たないという仮定を置いた理由を、注意 3.4の反例に即して述べよ。また、Zが孤立点だけからなる場合に 3 の結論が成り立つことを確かめよ。
- 注意 5.2を球面へ適用して得られるκgを、§E19.8 例 6.2の値と突き合わせよ。二つの記事は単位法線を同じ内向きに取っている一方、緯線を互いに逆向きに径数づけている。この一点だけで二つの値の符号の差が説明されることを、§E19.8 命題 5.2 (2)を用いて示せ。あわせて、二つの記事で母線の弧長tの原点が異なることが、f′/fの表示にどう現れるかを述べよ。
9 境界と次
保存量が対称性から来ること。Clairaut の関係式は、第一基本形式がθに依存しないという事実の帰結である。(G2) が全微分の形に整うのは、E、F、Gのいずれもθを含まないからである。一般に、第一基本形式を保つ一径数の変換群があると測地線に沿う保存量が現れる。この一般論は本単元の範囲外であり、「Riemann 幾何 I」以降が扱う。
測地線を分類していないこと。本記事が与えたのは、Clairaut 定数によって測地線が通ることのできる距離の範囲と、tの単調性および折り返しの判定である。与えられた二点を結ぶ測地線が何本あるか、測地線が閉じるか、軌道が稠密になるかは扱っていない。これらは測地線を実数全体へ延ばすこと、すなわち完備性を要する。完備性と Hopf–Rinow の定理は「Riemann 幾何 I」が扱う。
座標の外にある点。定義 1.1は母線が回転軸に達しないことを仮定する。球面の極、および回転面が軸と交わる点は座標の外にある。そこではf=0となり、G=f2が退化するので(t,θ)は座標にならない。極を通る測地線を扱うには別の座標を取る必要がある。例 6.1では、極を通る大円を、極を除いた二つの弧として扱った。
次の記事へ渡すもの。Clairaut の関係式は、回転面の上の測地線を数値的に積分するときの保存量として用いられる。刻み幅を細かくしたときにf2θ˙の値がどれだけ保たれるかは、離散化の質を測る指標になる。子午線と緯線が測地線になる条件は、測地三角形を作るときの辺の選び方に関わる。