1 正則曲面と正則パラメータ表示
定義 1.1. 部分集合M⊆R3が正則曲面 (regular surface) であるとは、Mが§E17.5 定義 4.1の意味でR3の2次元埋め込み部分多様体であること、すなわち各p∈Mに対してR3のチャート(Ω,φ)であってp∈Ωかつ
φ(Ω∩M)=φ(Ω)∩(R2×{0})を満たすものが存在することをいう。ここでR2×{0}={x∈R3∣x3=0}である。このようなチャートをスライスチャート (slice chart) という。
MにはR3からの部分空間位相を与える。§E17.5 命題 4.2により、Mはこの位相について2次元C∞多様体になる。
定義 1.3.U⊆R2を開集合とする。C∞写像x:U→R3が正則パラメータ表示 (regular parametrization) であるとは、次の三つがすべて成り立つことをいう。
- すべてのq∈Uに対して、全微分dxq:R2→R3が単射である(xがはめ込みである)。
- xは単射である。
- 像x(U)にR3からの部分空間位相を与えたとき、x:U→x(U)は同相写像である。
Uの座標を(u,v)と書き、偏微分をxu、xvと書く。M⊆R3に対してx(U)⊆Mが成り立つとき、xをMの正則パラメータ表示という。
補題 1.4.x:U→R3をC∞写像、q∈Uとする。dxqが単射であることとxu(q)×xv(q)=0であることは同値である。
証明.dxq(a,b)=axu(q)+bxv(q)であるから、dxqが単射であることとxu(q),xv(q)が一次独立であることは同値である。
一次従属であるとする。一方が零ベクトルならば§E19.2 補題 1.2 (2)の線形性からベクトル積は零である。ともに零でなければxv(q)=λxu(q)と書くことができ、§E19.2 補題 1.2 (2)の線形性とu×u=0からベクトル積は零である。
一次独立であるとする。wを(xu(q),xv(q),w)がR3の基底になるように取ると、§E19.2 補題 1.2 (1)により
⟨xu(q)×xv(q), w⟩=det(xu(q),xv(q),w)=0であるから、ベクトル積は零でない。▨
証明.Uを2次元C∞多様体、R3を3次元C∞多様体と見る(§E17.1 例 2.4)。§E17.3 命題 5.5によりdyqの階数は Jacobi 行列の階数に等しく、はめ込みであることから、Uの各点で階数は2である。とくにq0のある近傍の上で階数は定数2である。
§E17.5 定理 3.1をk=2として適用すると、q0を含むUのチャート(V,ϕ)とy(q0)を含むR3のチャート(W,ψ)であって、y(V)⊆Wかつ
ψ∘y∘ϕ−1(x1,x2)=(x1,x2,0)((x1,x2)∈ϕ(V))を満たすものが存在する。pr:R3→R2を最初の二成分への射影とし、π0=pr∘ψ:W→R2と置くと、上の式から
π0(y(q))=ϕ(q)(q∈V)が成り立つ。
Ω=W∩π0−1(ϕ(V))と置く。π0は連続でϕ(V)は開であるからΩは開集合であり、π0(y(q0))=ϕ(q0)∈ϕ(V)であるからy(q0)∈Ωである。同じ理由でy(V)⊆Ωである。U1=Vと置き、π=ϕ−1∘π0∣Ωと定める。ϕ−1はC∞であるからπはC∞であり、q∈U1に対してπ(y(q))=ϕ−1(ϕ(q))=qである。
最後の主張を示す。y(q)=y(q′)(q,q′∈U1)ならばq=π(y(q))=π(y(q′))=q′であるから単射である。逆写像はy(U1)の上でπの制限に一致し、πは連続であるから、y∣U1は像への同相写像である。▨
定理 1.6.M⊆R3とする。次の二つは同値である。
- Mは正則曲面である。
- 各p∈Mに対して、Mの正則パラメータ表示x:U→R3であって、p∈x(U)かつx(U)がMの開集合であるものが存在する。
証明.(1)⇒(2)を示す。p∈Mとし、スライスチャート(Ω,φ)を取る。U={a∈R2∣(a,0)∈φ(Ω)}と置くと、a↦(a,0)は連続でφ(Ω)は開であるからUはR2の開集合である。
x:U→R3,x(a)=φ−1(a,0)と定める。φ−1はC∞であるからxはC∞である。dxaは、単射線形写像w↦(w,0)と線形同型d(φ−1)(a,0)の合成であるから単射である。φ−1が単射であることからxも単射である。像は
x(U)=φ−1(φ(Ω)∩(R2×{0}))=φ−1(φ(Ω∩M))=Ω∩Mであり、これはMの開集合であってpを含む。逆写像はx−1=pr∘φ∣Ω∩Mであり、連続写像の制限であるから連続である。よってxは 2 の条件を満たす。
(2)⇒(1)を示す。p∈Mとし、2 のx:U→R3を取り、q0=x−1(p)と置く。補題 1.5の証明と同じく§E17.5 定理 3.1を適用して、q0を含むUのチャート(V,ϕ)とpを含むR3のチャート(W,ψ)で、x(V)⊆Wかつ
ψ∘x∘ϕ−1(x1,x2)=(x1,x2,0)を満たすものを取る。とくに
ψ(x(V))=ϕ(V)×{0}である。
xは像への同相写像でありVは開であるから、x(V)はx(U)の開集合である。仮定よりx(U)はMの開集合であるから、x(V)はMの開集合であり、R3の開集合Gを取ってx(V)=M∩Gと書くことができる。
Ω=W∩G∩ψ−1(ϕ(V)×R)と置く。ψは連続でありϕ(V)×RはR3の開集合であるからΩは開集合である。p∈W、p∈x(V)⊆G、ψ(p)=(ϕ(q0),0)かつϕ(q0)∈ϕ(V)であるからp∈Ωである。
(Ω,ψ∣Ω)がスライスチャートであることを示す。
包含ψ(Ω∩M)⊆ψ(Ω)∩(R2×{0})を示す。z∈Ω∩Mとするとz∈G∩M=x(V)であるからψ(z)∈ϕ(V)×{0}⊆R2×{0}である。
逆の包含を示す。y∈ψ(Ω)∩(R2×{0})とし、y=(a,0)、y=ψ(z)(z∈Ω)と書く。z∈ψ−1(ϕ(V)×R)であるからa∈ϕ(V)である。q=ϕ−1(a)∈Vと置くと
ψ(x(q))=(a,0)=y=ψ(z)であり、x(q)∈x(V)⊆W、z∈Ω⊆WであってψはWの上で単射であるからz=x(q)∈Mである。よってz∈Ω∩Mでありy∈ψ(Ω∩M)である。
したがってφ=ψ∣Ωはスライスチャートを与え、pは任意であったからMは正則曲面である。▨
命題 1.7.Mを正則曲面、y:V→R3をMの正則パラメータ表示とする。このとき次が成り立つ。
- y(V)はMの開集合である。
- 各q0∈Vに対して補題 1.5のU1、Ω、πを取ることができ、y−1はy(U1)の上でC∞写像πの制限に一致する。
証明.(2)は補題 1.5そのものである。(1)を示す。
q0∈Vを取り、p=y(q0)と置く。Mは正則曲面であるから、pを含むスライスチャート(ΩM,φ)を取ることができる。定理 1.6 (1)から 2 を導く部分の構成をこのスライスチャートへ適用すると、正則パラメータ表示
w:UM→R3,w(a)=φ−1(a,0),UM={a∈R2∣(a,0)∈φ(ΩM)}が得られ、その像はΩM∩M(Mの開集合)であり、逆写像はw−1=pr∘φ∣ΩM∩Mである。
V0=y−1(ΩM)と置く。yは連続であるからV0はVの開集合であり、q0∈V0である。F=pr∘φ∘y∣V0:V0→R2と定めると、φとyがC∞であるからFはC∞である。q∈V0に対してy(q)∈ΩM∩Mであるからφ(y(q))∈R2×{0}であり、φ(y(q))=(F(q),0)と書くことができる。とくにF(q)∈UMであり
w(F(q))=φ−1(F(q),0)=y(q)が成り立つ。
§E4.3 定理 1.1によりdwF(q0)∘dFq0=dyq0である。右辺は単射であるからdFq0は単射であり、2次の正方行列であるから可逆である。§E4.7 定理 2.1と§E17.5 補題 1.1により、q0の開近傍V2⊆V0が存在してF(V2)はR2の開集合であり、F∣V2はF(V2)へのC∞微分同相である。
F(V2)⊆UMであるから、wがUMからΩM∩Mへの同相写像であることにより、y(V2)=w(F(V2))はΩM∩Mの開集合である。ΩM∩MはMの開集合であるから、y(V2)はMの開集合であってpを含みy(V)に含まれる。q0は任意であったから、y(V)はMの各点の近傍であり、Mの開集合である。▨
定理 1.8.Mを正則曲面、x:U→R3とy:V→R3をMの正則パラメータ表示とし、W=x(U)∩y(V)=∅とする。このときx−1(W)はUの開集合、y−1(W)はVの開集合であり、
h=y−1∘x:x−1(W)⟶y−1(W)はC∞微分同相である。
証明.命題 1.7 (1)によりy(V)はMの開集合であるから、Wはx(U)の開集合である。xはUからx(U)への同相写像であるからx−1(W)はUの開集合である。yについても同様である。
hは全単射であり、逆写像はx−1∘yである。xが連続、y−1がy(V)の上で連続であるから、hは連続である。同じ理由でh−1も連続である。
滑らかさを示す。a0∈x−1(W)を取り、q0=h(a0)と置く。命題 1.7 (2)により、q0の開近傍U1⊆V、y(q0)の開近傍Ω⊆R3、およびC∞写像π:Ω→R2でy(U1)⊆Ωかつπ∘y=id(U1の上で)を満たすものが存在する。
hは連続であるからA=h−1(U1)はx−1(W)の開集合でありa0∈Aである。a∈Aに対してx(a)=y(h(a))でありh(a)∈U1であるからx(a)∈Ωであり
π(x(a))=π(y(h(a)))=h(a)が成り立つ。すなわちAの上でh=π∘xである。右辺はR2の開集合からR3の開集合を経てR2へ至るC∞写像の合成であるからC∞である。よってhはa0の近傍でC∞であり、a0は任意であったからC∞である。xとyを入れ替えるとh−1もC∞である。▨
2 曲面を作る二つの方法
命題 2.1.U⊆R2を開集合、f:U→RをC∞関数とし、
M={(u,v,f(u,v)) (u,v)∈U}と置く。x(u,v)=(u,v,f(u,v))は正則パラメータ表示であり、像はM全体である。したがってMは正則曲面である。
証明.xはC∞である。xu=(1,0,fu)、xv=(0,1,fv)であるから
xu×xv=(−fu, −fv, 1)=0であり、補題 1.4によりxははめ込みである。最初の二成分を見ればxは単射であり、逆写像はprのMへの制限であるから連続である。像はMそのものであり、Mの開集合である。定理 1.6によりMは正則曲面である。▨
命題 2.2.Ω⊆R3を開集合、f:Ω→RをC∞関数、c∈Rとし、M=f−1(c)と置く。M=∅であり、すべてのp∈Mで∇f(p)=0であるとする。このときMは正則曲面である。
証明.ΩはR3の開集合であるから3次元C∞多様体であり、Rは1次元C∞多様体である。§E17.3 命題 5.5によりdfpの表示行列は1×3行列(∂1f(p),∂2f(p),∂3f(p))であるから、dfpが全射であることと∇f(p)=0であることは同値である。よってcはfの正則値であり、§E17.5 定理 4.3によりMはΩの3−1=2次元埋め込み部分多様体である。
ΩはR3の開集合であるから、ΩのチャートはR3のチャートでもある。したがってMに対してΩの中で取ったスライスチャートはR3のスライスチャートであり、MはR3の2次元埋め込み部分多様体、すなわち正則曲面である。▨
例 2.3 (球面).r>0とし、f(p)=∥p∥2、M=f−1(r2)={p∈R3∣∥p∥=r}と置く。∇f(p)=2pであり、p∈Mでは∥p∥=r>0であるから∇f(p)=0である。命題 2.2によりMは正則曲面である。これを半径rの球面という。
球面の標準的なパラメータ表示は
x(u,v)=r(sinucosv, sinusinv, cosu),(u,v)∈(0,π)×(0,2π)である。この写像はC∞であり、像はMに含まれる。偏微分は
xu=r(cosucosv, cosusinv, −sinu),xv=r(−sinusinv, sinucosv, 0)であり、ベクトル積を計算すると
xu×xv=r2(sin2ucosv, sin2usinv, sinucosu)=rsinu⋅x(u,v)である。u∈(0,π)ではsinu>0であるから、これは零でなく、補題 1.4によりxははめ込みである。∥xu×xv∥=r2sinuである。像は、球面から半円弧{r(sinu,0,cosu)∣u∈[0,π]}を除いた集合であり、除かれる集合はコンパクトであるから、像は球面の開集合である。
命題 2.4.Mを正則曲面、p∈Mとする。このとき、{1,2,3}の相異なる番号i,j,k、R2の開集合U、C∞関数f:U→Rが存在して、
W={x∈R3 (xi,xj)∈U, xk=f(xi,xj)}がMの開集合であってpを含む。
証明.定理 1.6により、Mの正則パラメータ表示x:U0→R3でp∈x(U0)かつx(U0)がMの開集合であるものを取り、q0=x−1(p)と置く。xのq0における Jacobi 行列は3×2行列であって階数が2であるから、二つの行i<jを選んで、その二行からなる2次小行列式が零でないようにすることができる。残る番号をkと書く。
P:R3→R2をP(x)=(xi,xj)とし、F=P∘xと置く。dFq0の表示行列は上の2次小行列であるから可逆である。§E4.7 定理 2.1と§E17.5 補題 1.1により、q0の開近傍U1⊆U0が存在してU=F(U1)は開集合であり、F∣U1:U1→UはC∞微分同相である。その逆写像をg:U→U1と書き、f(a)=xk(g(a))(xkはxの第k成分)と定める。fはC∞である。
a∈Uに対してx=x(g(a))と置くと(xi,xj)=F(g(a))=aかつxk=f(a)である。逆にx∈x(U1)ならばx=x(q)(q∈U1)であり、a=F(q)∈U、g(a)=qであるから(xi,xj)=aかつxk=f(a)である。よってx(U1)は主張のWに等しい。U1は開でありxは像への同相写像であるから、W=x(U1)はx(U0)の開集合であり、したがってMの開集合である。p=x(q0)∈Wである。▨
例 2.5 (頂点を含む円錐は正則曲面でない).
C={(x,y,z)∈R3 z=x2+y2}と置く。Cは正則曲面ではない。
Cが正則曲面であるとする。原点0=(0,0,0)はCに属するので、命題 2.4により、番号i,j,k、開集合U⊆R2、C∞関数fが存在して、W={x∣(xi,xj)∈U, xk=f(xi,xj)}はCの開集合であって0を含む。WがCの開集合であることから、ε>0が存在してC∩B⊆Wが成り立つ。ここでBは原点を中心とする半径εの開球である。
(i,j)=(1,2)、k=3の場合。∣a∣,∣b∣が十分小さければ(a,b,a2+b2)∈C∩B⊆Wであるからf(a,b)=a2+b2である。とくにt↦f(t,0)=∣t∣となるが、この関数はt=0で微分可能でない。fがC∞であることに反する。
k=1の場合(底面がx2x3平面)。0<t<ε/2を取ると、(t,0,t)と(−t,0,t)はともにCに属し、ノルムがt2<εであるからC∩B⊆Wに属する。Wの定義により、(x2,x3)=(0,t)に対する第1成分はf(0,t)ただ一つである。しかし二点の第1成分はtと−tであってt>0より異なる。矛盾である。
k=2の場合も、(0,t,t)と(0,−t,t)を取れば同じ矛盾が得られる。
以上のいずれの場合も矛盾するので、Cは正則曲面ではない。頂点を除いたC∖{0}は、{(x,y)=(0,0)}の上のC∞関数x2+y2のグラフであるから、命題 2.1により正則曲面である。
3 接平面
定義 3.1.Mを正則曲面、p∈Mとする。Mの正則パラメータ表示x:U→R3とq∈Uをx(q)=pとなるように取り、
TpM=dxq(R2)=span(xu(q), xv(q))と定める。TpMをpにおけるMの接平面 (tangent plane) という。dxqは単射であるから、TpMはR3の2次元部分空間である。
命題 3.2.定義 3.1のTpMは、pを像に含む正則パラメータ表示の選び方に依らない。
証明.x:U→R3とy:V→R3をMの正則パラメータ表示、x(q)=y(q′)=pとする。W=x(U)∩y(V)はpを含むので空でなく、定理 1.8によりh=y−1∘xはx−1(W)からy−1(W)へのC∞微分同相であり、h(q)=q′である。x=y∘hがx−1(W)の上で成り立つので、§E4.3 定理 1.1により
dxq=dyq′∘dhqである。hは微分同相であるからdhqはR2の線形同型であり、dhq(R2)=R2である。よって
dxq(R2)=dyq′(dhq(R2))=dyq′(R2)である。▨
命題 3.3.Mを正則曲面、p∈Mとする。
TpM={α′(0) ε>0, α:(−ε,ε)→R3 は C∞, α((−ε,ε))⊆M, α(0)=p}が成り立つ。
証明. 右辺をSと書き、x:U→R3をx(q)=pを満たすMの正則パラメータ表示とする。
TpM⊆Sを示す。w=dxq(a)∈TpM(a∈R2)とする。Uは開であるから、ε>0を十分小さく取ればq+ta∈U(∣t∣<ε)である。α(t)=x(q+ta)と定めると、αはC∞で像はx(U)⊆Mに含まれ、α(0)=p、§E4.3 定理 1.1によりα′(0)=dxq(a)=wである。
S⊆TpMを示す。αを右辺の条件を満たす写像とする。命題 1.7 (2)により、qの開近傍U1⊆U、pの開近傍Ω⊆R3、およびC∞写像π:Ω→R2で、x(U1)⊆ΩかつU1の上でπ∘x=idとなるものを取る。x∣U1もMの正則パラメータ表示であるから、命題 1.7 (1)によりx(U1)はMの開集合であり、R3の開集合Gを取ってx(U1)=M∩Gと書くことができる。
αは連続でα(0)=p∈G∩Ωであるから、εを小さく取り直してα((−ε,ε))⊆G∩Ωとしてよい。このときα(t)∈M∩G=x(U1)である。β=π∘αと置くとβはC∞であり、α(t)=x(qt)(qt∈U1)と書くとβ(t)=π(x(qt))=qtであるから
α(t)=x(β(t))が成り立つ。§E4.3 定理 1.1によりα′(0)=dxβ(0)(β′(0))=dxq(β′(0))∈TpMである。▨
系 3.4.命題 2.2の設定でM=f−1(c)とし、p∈Mとする。
TpM={w∈R3 ⟨∇f(p),w⟩=0}が成り立つ。とくに半径rの球面Mの点pではTpM={w∣⟨p,w⟩=0}である。
証明.P={w∣⟨∇f(p),w⟩=0}と置く。∇f(p)=0であるからPは2次元部分空間である。
αを命題 3.3の条件を満たす写像とすると、像がMに含まれることからf(α(t))=cがすべてのtで成り立つ。§E4.3 定理 1.1により両辺をt=0で微分して⟨∇f(p),α′(0)⟩=0を得る。よって命題 3.3によりTpM⊆Pである。TpMとPはともに2次元であるから一致する。
球面ではf(p)=∥p∥2、∇f(p)=2pであるから、条件は⟨p,w⟩=0に同値である。▨
命題 3.5.Mを正則曲面、U⊆R2を開集合、x:U→R3をC∞のはめ込みであってx(U)⊆Mを満たすものとする。q∈U、p=x(q)とすると
TpM=span(xu(q), xv(q))が成り立つ。ここでxが単射であることも像への同相であることも仮定していない。
証明.Uは開であるから、ε>0を十分小さく取ればt↦x(q+te1)とt↦x(q+te2)(e1,e2はR2の標準基底)は(−ε,ε)の上で定義される。これらはC∞であり、像はx(U)⊆Mに含まれ、t=0でpを通る。速度ベクトルはそれぞれxu(q)、xv(q)であるから、命題 3.3によりこの二つはTpMに属する。
xははめ込みであるからxu(q)とxv(q)は一次独立であり、それらが張る部分空間は2次元である。TpMも2次元であるから、両者は一致する。▨
4 向きと単位法線ベクトル場
命題 4.1.Mを正則曲面、p∈Mとする。TpMの直交補空間は1次元であり、TpMに直交する単位ベクトルはちょうど二つ存在する。それらは互いに符号を変えたものである。x:U→R3をC∞のはめ込みであってx(U)⊆Mかつx(q)=pを満たすものとすると、その二つは
±∥xu(q)×xv(q)∥xu(q)×xv(q)である。
証明.TpMはR3の2次元部分空間であるから、その直交補空間は1次元である。1次元部分空間の単位ベクトルは、生成元を正規化したものとその符号を変えたものの二つに限る。
補題 1.4によりxu(q)×xv(q)=0であり、§E19.2 補題 1.2 (2)によりこれはxu(q)ともxv(q)とも直交する。命題 3.5によりTpMはこの二つが張る空間であるから、ベクトル積は直交補空間に属する零でないベクトルであり、正規化したものが上の二つの一方である。▨
定義 4.2.Mを正則曲面とする。連続写像N:M→R3であって、すべてのp∈MでN(p)がTpMに直交する単位ベクトルであるものを、Mの単位法線ベクトル場 (unit normal vector field) という。そのようなNが存在するときMは向きづけ可能 (orientable) であるといい、Nを一つ選ぶことをMに向き (orientation) を入れるという。
正則パラメータ表示x:U→R3は、その像の上に
N=∥xu×xv∥xu×xvによって向きを定める。この式を、パラメータ表示が定める向きと呼ぶ。
球面のように、曲面が有界な領域の境界であることが具体的に確かめられる場合には、本単元ではその領域の内側を向く単位法線を取る。別の取り方をする場合は、その都度どちらを取ったかを明示する。この選択は、後の記事で定義する第二基本形式、主曲率および平均曲率の符号を変えるので、例ごとに明示しなければならない。
証明.(1)を示す。n(q)=(xu(q)×xv(q))/∥xu(q)×xv(q)∥と置く。xはC∞であり分母は消えないから、nはUの上でC∞である。命題 4.1により、各qでN(x(q))=±n(q)であるから、関数η(q)=⟨N(x(q)),n(q)⟩は値1と−1しか取らない。Nとxとnは連続であるからηは連続であり、Uは連結であるからηは定数である。その値をεとすればよい。N∘x=εnはC∞である。
(2)を示す。N1,N2を二つの単位法線ベクトル場とすると、命題 4.1により各pで⟨N1(p),N2(p)⟩∈{1,−1}である。この関数は連続でありMは連結であるから定数である。値が1ならばN2=N1、値が−1ならばN2=−N1である。−Nが単位法線ベクトル場であることは定義から明らかであるから、ちょうど二つである。▨
例 4.4 (球面の向き). 半径rの球面Mは連結であり、系 3.4によりTpM={w∣⟨p,w⟩=0}である。p/rは単位ベクトルであってTpMに直交するから、N(p)=p/rは連続な単位法線ベクトル場であり、Mは向きづけ可能である。命題 4.3 (2)により、単位法線ベクトル場はp↦p/rとp↦−p/rの二つである。前者は球面が囲む球体の外側を向き、後者は内側を向く。
定義 4.2の約束により、本単元では球面にN(p)=−p/r(内向き)を取る。
例 2.3の標準的なパラメータ表示ははめ込みであり像がMに含まれるので、命題 4.3 (1)を適用することができる。xu×xv=rsinu⋅x(u,v)とsinu>0から、この表示が定める向きは外向きのp/rである。内向きの向きを与える表示が必要なときは、変数の順序を入れ替えたx~(v,u)=x(u,v)を用いる。実際x~v×x~u=−xu×xvである。
証明の方針は次のとおりである。Möbius の帯の中心円をパラメータuで一周させると、パラメータ表示が定める単位法線n(u)はuを2πだけ増やしたときに符号を変える。ところがuとu+2πは帯の同じ点を指す。したがって、帯全体で定義された連続な単位法線Nがあるとすると、⟨N,n⟩は値±1を取る連続関数として定数でなければならないのに、一周すると符号が変わることになり矛盾する。
例 4.5 (Möbius の帯は向きづけ可能でない).D=R×(−1,1)とし、x:D→R3を
x(u,v)=((2+vcos2u)cosu, (2+vcos2u)sinu, vsin2u)で定め、M=x(D)と置く。MをMöbius の帯という。Mは正則曲面であり、向きづけ可能でない。
記号。r(u,v)=2+vcos2uと置く。∣v∣<1であるからr≥2−∣v∣>1>0である。
はめ込みであること。
xv=(cos2ucosu, cos2usinu, sin2u),xu=(rucosu−rsinu, rusinu+rcosu, 2vcos2u)であり、ru=−2vsin2uである。∥xv∥2=cos22u+sin22u=1である。内積を計算すると
⟨xu,xv⟩=cos2u⋅ru+2vcos2usin2u=cos2u(−2vsin2u+2vsin2u)=0であり、
∥xu∥2=ru2+r2+4v2cos22u=r2+4v2>0である。二つは直交しともに零でないから一次独立であり、補題 1.4によりxははめ込みである。
同一視の規則。x(u,v)=x(u′,v′)であるための必要十分条件は、u′−u∈4πZかつv′=vであるか、u′−u∈2π+4πZかつv′=−vであるかのいずれかである。実際、第一・第二成分からr(cosu,sinu)が定まりr>0であるからuは2πを法として定まる。u′=u+2mπと書くと、mが偶数のときはcos2u′=cos2u、sin2u′=sin2uであるからr′=rとz′=zからv′cos2u=vcos2uかつv′sin2u=vsin2uとなり、(cos2u,sin2u)=(0,0)よりv′=vである。mが奇数のときは符号が反転してv′=−vである。
二つの表示がMを覆うこと。U1=(0,2π)×(−1,1)、U2=(−π,π)×(−1,1)と置く。U1の二点(u,v)、(u′,v′)について∣u′−u∣<2πであるから、同一視の規則によりx(u,v)=x(u′,v′)ならばu′=uかつv′=vである。よってx∣U1は単射である。U2についても同様である。Mの任意の点はu≡0またはu≡π(いずれも2πを法とする)を満たす表示を持つから、M=x(U1)∪x(U2)である。
像がMの開集合であること。x(U1)はu≡0に対応する点を除いた集合であり、その除かれる点の全体は{(2+v,0,0)∣∣v∣<1}={(x,0,0)∣1<x<3}である。Mのうちy=z=0を満たす点を求めると、rsinu=0とr>1からsinu=0であり、u≡0のときは上の集合、u≡πのときはsin2u=±1からv=0となり点(−2,0,0)である。したがって
x(U1)=M∖(M∩{(x,0,0) x≥1})であり、右辺で除いている集合はR3の閉集合とMの共通部分であるからMの閉集合である。よってx(U1)はMの開集合である。同様に、x(U2)から除かれる点の全体は{(−2,0,z)∣∣z∣<1}であり、これはM∩{x=−2, y=0}に等しいのでMの閉集合であり、x(U2)はMの開集合である。
像への同相であること。x∣U1について示す。p=(X,Y,Z)∈x(U1)に対しρ=X2+Y2と置くとρ=r>1であり、(cosu,sinu)=(X,Y)/ρかつu∈(0,2π)である。写像c:[0,2π]→R2、c(u)=(cosu,sinu)を考える。pn→p(いずれもx(U1)の点)とし、対応するun,u∈(0,2π)を取るとc(un)→c(u)である。(un)は有界であるから任意の部分列がさらに収束する部分列を持ち、その極限u∗∈[0,2π]はc(u∗)=c(u)を満たす。cは(0,2π)の上で単射でありc(0)=c(2π)=(1,0)=c(u)であるからu∗=uである。すべての部分列が同じ極限を持つ部分列を含むのでun→uである。よってp↦uは連続である。さらにρ−2=vcos2uとZ=vsin2uから
v=(ρ−2)cos2u+Zsin2uであり、これも連続である。したがって(x∣U1)−1は連続である。U2についても、cの定義域を[−π,π]に取り替えて同じ議論を行えばよい。
以上によりx∣U1とx∣U2は正則パラメータ表示であって像がMの開集合であり、二つの像はMを覆う。定理 1.6によりMは正則曲面である。
向きづけ可能でないこと。v=0の上でベクトル積を計算する。r=2、ru=0であるから
xu(u,0)=(−2sinu, 2cosu, 0),xv(u,0)=(cos2ucosu, cos2usinu, sin2u)であり
xu×xvv=0=2(cosusin2u, sinusin2u, −cos2u)である。第三成分は−2sinucos2usinu−2cosucos2ucosu=−2cos2uから得た。この長さは2であるから
n(u)=(cosusin2u, sinusin2u, −cos2u)は単位ベクトルである。x:D→R3はC∞のはめ込みであって像がMに含まれるから、命題 3.5と命題 4.1により、n(u)はx(u,0)におけるMの単位法線である。ここでxが単射でないことは差し支えない。nはuについて連続であり
n(u+2π)=(−cosusin2u, −sinusin2u, cos2u)=−n(u)が成り立つ。一方、同一視の規則によりx(u+2π,0)=x(u,0)である。
Mが向きづけ可能であるとし、単位法線ベクトル場Nを取る。η(u)=⟨N(x(u,0)), n(u)⟩と置くと、命題 4.1によりη(u)∈{1,−1}であり、ηは連続関数の合成として連続である。Rは連結であるからηは定数である。しかし
η(u+2π)=⟨N(x(u+2π,0)), n(u+2π)⟩=⟨N(x(u,0)), −n(u)⟩=−η(u)であり、ηの値が±1であることと矛盾する。よってMは向きづけ可能でない。
5 演習
問題 5.1 (正則曲面・接平面・向きの確認). 次の各問に答えよ。
- 補題 1.5の証明で、§E17.5 定理 3.1の仮定である「近傍の上での階数の一定性」を満たしていることを確かめよ。点における階数だけを仮定した場合に何を述べることができなくなるかを説明せよ。
- 定理 1.6 (2)から 1 を導く部分で、ΩをW∩G∩ψ−1(ϕ(V)×R)と三つの共通部分に取った。三つの因子がそれぞれどの包含関係のために必要かを述べよ。どれか一つを落とすと証明のどこが成り立たなくなるかを示せ。
- 定義 1.3 条件 (c)(像への同相であること)を外すと、定理 1.8の証明のどこが成り立たなくなるかを述べよ。
- 命題 1.7 (1)の証明を再現せよ。逆関数定理を適用するためにdFq0が可逆であることを示した箇所を明示せよ。
- 例 2.5の三つの場合分けを再現せよ。頂点を除いた円錐が正則曲面であることと矛盾しない理由を述べよ。
- 命題 3.3のS⊆TpMの証明で、εを小さく取り直す操作が必要な理由を述べよ。
- 円柱M={(x,y,z)∣x2+y2=1}が正則曲面であることを命題 2.2によって示し、点p=(1,0,0)における接平面と、二つの単位法線を求めよ。
- 例 4.5において、xの定義域をD=R×(−1,1)からU1=(0,2π)×(−1,1)へ制限し、曲面をx(U1)に取り替えると、向きづけ可能でないことの議論のどこが成り立たなくなるかを述べよ。さらにx(U1)が向きづけ可能であることを示せ。
解答 (演習の解答).
(1)はめ込みであることはUのすべての点で階数が2であることを意味するから、q0の任意の近傍の上で階数は定数2である。点における階数だけを仮定すると、§E17.5 定理 3.1の証明で∂G/∂v=0を近傍全体で導く段が成り立たず、標準形が得られない。(2)Wはψが定義されチャートであるために必要である。GはΩ∩M⊆x(V)を保証するために必要であり、これを落とすとψ(Ω∩M)⊆R2×{0}を導くことができない。ψ−1(ϕ(V)×R)は逆の包含に必要であり、これを落とすとψ(Ω)の第三成分が零である点がϕ(V)×{0}に入るとは限らず、その点がMに属することを結論することができない。(3)条件 3 は二か所で使う。第一に、x−1(W)が開集合であることの証明でx−1の連続性を使う。第二に、h=y−1∘xの連続性からA=h−1(U1)が開集合であることを導く箇所で使う。hの連続性が無いと、局所的な表示h=π∘xが成り立つ範囲が開集合であることを導くことができない。(4)本文のとおりである。w∘F=yを微分してdw∘dF=dyを得る。右辺が単射であることからdFq0が単射であり、2次の正方行列であるから可逆である。(5)本文のとおりである。頂点を除いた円錐は原点を含まないので、原点における局所的なグラフ表示についての議論の対象にならない。矛盾を導いたのは原点の近傍についての主張であり、原点を除いた部分については何も主張していない。(6)πはΩの上でしか定義されておらず、α(t)=x(β(t))を導くにはα(t)がx(U1)=M∩Gに属している必要がある。αの値が最初からG∩Ωに入っている保証はないので、連続性を用いて定義域を縮める。(7)f(x,y,z)=x2+y2と置くと∇f=(2x,2y,0)であり、Mの点ではx2+y2=1であるから∇f=0である。よって1は正則値であり命題 2.2によりMは正則曲面である。p=(1,0,0)では∇f(p)=(2,0,0)であるから、系 3.4によりTpM={(0,b,c)∣b,c∈R}である。単位法線は±(1,0,0)の二つであり、回転軸の側を向くのは(−1,0,0)である。(8)矛盾はη(u+2π)=−η(u)から導かれるので、uとu+2πの両方が定義域に入っている必要がある。定義域をU1=(0,2π)×(−1,1)に取り替えると、u∈(0,2π)に対してu+2πは定義域に入らないので、この等式を書くことができない。実際x∣U1は正則パラメータ表示でありU1は連結であるから、n=(xu×xv)/∥xu×xv∥をx∣U1の逆写像と合成したものはx(U1)の上の連続な単位法線ベクトル場を与える。よってx(U1)は向きづけ可能である。▨
6 仮定と後続記事の境界
正則パラメータ表示の三つの条件は、どれも落とすことができない。はめ込みであることを落とすと接平面が定まらない。単射性を落とすと像が自分自身と交わり、一点における接平面が一意でなくなる。像への同相であることを落とすと、定理 1.8の証明で座標変換の定義域が開集合であることと、その連続性を導くことができない。「多様体入門」の§E17.5 例 2.2と§E17.5 例 2.4は、はめ込みかつ単射でありながら像への同相でない例である。
本記事は計量を導入しない。接平面の記述にR3の内積が現れるが、それを曲面の上の量として名づけていない。接平面へ内積を制限して得られる第一基本形式は、次の記事「第一基本形式と面積要素」が定義する。面積要素、局所等長写像、および曲面上の曲線の長さも同じ記事が扱う。
向きは連続な単位法線ベクトル場の選択である。例 4.5のとおり、そのような場が存在しない曲面がある。「位相幾何入門」が扱う局所ホモロジーによる向きは、これとは別に定義された概念である。二つの向きの対応は本記事では扱わず、大域 Gauss–Bonnet の定理で Euler 標数を引用する記事が確かめる。
角や頂点を持つ集合は扱わない。例 2.5のとおり、頂点を含む円錐は正則曲面ではない。境界を持つ曲面も本記事の対象ではない。局所 Gauss–Bonnet の定理で扱う領域は、正則曲面の中の、境界が区分的に滑らかな部分集合であって、曲面そのものが境界を持つわけではない。
定理 1.8は、以後のすべての記事が座標に依らない量を定義するときの基礎である。第一基本形式の成分、第二基本形式の成分、Christoffel 記号はいずれも座標に依存する量であり、それらから作った Gauss 曲率と平均曲率が座標に依らないことは、この定理を経由して確かめる。