§D1.24初等関数の厳密な定義

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指数関数、正弦、余弦は、微分公式を満たす関数として計算に用いられてきました。本記事では、これらの関数をべき級数によって定義し、項別微分によって微分公式を、§D1.21 定理 5.3によって加法定理を証明します。次に、対数関数と逆三角関数を、単調な関数を適切な区間へ制限した逆関数として定義します。

最後に、ここで定義する指数関数が「指数関数と対数関数」で有理数乗の極限として定義した指数関数と一致することを証明します。この一致により、正の数aaに対する

lim⁡h→0ah−1h\lim_{h\to0}\frac{a^h-1}{h}

の存在と、この極限が11となるaaの存在および一意性が従います。

1 べき級数による三つの関数

定義 1.1 (指数関数、正弦、余弦).x∈Rx\in\mathbb Rに対し、指数関数 (exponential function)、正弦 (sine)、余弦 (cosine) を

exp⁡x=∑n=0∞xnn!,sin⁡x=∑n=0∞(−1)nx2n+1(2n+1)!,cos⁡x=∑n=0∞(−1)nx2n(2n)!\begin{aligned} \exp x&=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{x^n}{n!},\\ \sin x&=\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^n\frac{x^{2n+1}}{(2n+1)!},\\ \cos x&=\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^n\frac{x^{2n}}{(2n)!} \end{aligned}

と定める。

命題 1.2 (三つの級数の収束).定義 1.1の三つの級数は、すべての実数xxに対して絶対収束する。

証明. まずx=0x=0とする。指数関数の級数では第00項だけが11であり、正弦の級数の各項は00であり、余弦の級数では第00項だけが11である。したがって三つの級数は有限和として絶対収束する。

x≠0x\ne0とする。un=∣x∣n/n!u_n=|x|^n/n!とおくと、すべてのn≥0n\ge0についてun>0u_n>0であり、

un+1un=∣x∣n+1⟶0\frac{u_{n+1}}{u_n}=\frac{|x|}{n+1}\longrightarrow0

である。比の判定法(§D1.21 定理 2.1)により、∑n=0∞un\sum_{n=0}^{\infty}u_nは収束する。正弦の絶対値級数は∑n=0∞un\sum_{n=0}^{\infty}u_nの奇数次の項からなる部分級数であり、余弦の絶対値級数は偶数次の項からなる部分級数である。各部分和は∑n=0∞un\sum_{n=0}^{\infty}u_nの和で上から抑えられるので、どちらも収束する。ゆえに、符号を含む正弦と余弦の級数も絶対収束する。▨

三つの級数の収束半径は∞\inftyです。したがって、§D1.23 定理 4.3を任意の実数のまわりで用いることができます。

定理 1.3 (指数関数、正弦、余弦の微分公式). すべてのx∈Rx\in\mathbb Rについて、

(exp⁡x)′=exp⁡x,(sin⁡x)′=cos⁡x,(cos⁡x)′=−sin⁡x(\exp x)'=\exp x,\qquad (\sin x)'=\cos x,\qquad (\cos x)'=-\sin x

が成り立つ。また、

exp⁡0=1,sin⁡0=0,cos⁡0=1\exp0=1,\qquad \sin0=0,\qquad \cos0=1

である。

証明. 項ごとの微分により、

(∑n=0∞xnn!)′=∑n=1∞xn−1(n−1)!=exp⁡x\left(\sum_{n=0}^{\infty}\frac{x^n}{n!}\right)' =\sum_{n=1}^{\infty}\frac{x^{n-1}}{(n-1)!}=\exp x

を得る。正弦の級数では各項の指数2n+12n+1を係数と約分すると、

(∑n=0∞(−1)nx2n+1(2n+1)!)′=∑n=0∞(−1)nx2n(2n)!\left(\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^n\frac{x^{2n+1}}{(2n+1)!}\right)' =\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^n\frac{x^{2n}}{(2n)!}

となる。余弦の級数では定数項の微分が00となり、n≥1n\ge1の項の添字を一つ下げると、

(∑n=0∞(−1)nx2n(2n)!)′=−∑n=0∞(−1)nx2n+1(2n+1)!\left(\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^n\frac{x^{2n}}{(2n)!}\right)' =-\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^n\frac{x^{2n+1}}{(2n+1)!}

が従う。x=0x=0における値は、各級数の定数項から得られる。▨

2 加法定理

§D1.21 定理 5.3を用いてべき級数の積を対角線ごとにまとめ、係数の有限和に二項定理を適用します。

定理 2.1 (加法定理). 任意の実数x,yx,yについて、

exp⁡(x+y)=exp⁡x exp⁡y,sin⁡(x+y)=sin⁡xcos⁡y+cos⁡xsin⁡y,cos⁡(x+y)=cos⁡xcos⁡y−sin⁡xsin⁡y\begin{aligned} \exp(x+y)&=\exp x\,\exp y,\\ \sin(x+y)&=\sin x\cos y+\cos x\sin y,\\ \cos(x+y)&=\cos x\cos y-\sin x\sin y \end{aligned}

が成り立つ。

証明. すべての級数は絶対収束するので、§D1.21 定理 5.3を用いることができる。指数関数では二項定理により、

exp⁡x exp⁡y=∑k=0∞∑j=0kxjj!yk−j(k−j)!=∑k=0∞1k!∑j=0k(kj)xjyk−j=∑k=0∞(x+y)kk!.\begin{aligned} \exp x\,\exp y &=\sum_{k=0}^{\infty}\sum_{j=0}^{k} \frac{x^j}{j!}\frac{y^{k-j}}{(k-j)!}\\ &=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{1}{k!} \sum_{j=0}^{k}\binom{k}{j}x^jy^{k-j} =\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(x+y)^k}{k!}. \end{aligned}

余弦の式では、全次数が2k2kとなる項をまとめる。xxの次数をjjとすると、jjが偶数の項はcos⁡xcos⁡y\cos x\cos yから、jjが奇数の項は−sin⁡xsin⁡y-\sin x\sin yから現れる。どちらの場合も符号は(−1)k(-1)^kである。したがって、その和は

∑k=0∞(−1)k(2k)!∑j=02k(2kj)xjy2k−j=cos⁡(x+y)\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k}{(2k)!} \sum_{j=0}^{2k}\binom{2k}{j}x^jy^{2k-j} =\cos(x+y)

である。

正弦の式では、全次数が2k+12k+1となる項をまとめる。xxの次数jjが奇数の項はsin⁡xcos⁡y\sin x\cos yから、jjが偶数の項はcos⁡xsin⁡y\cos x\sin yから現れる。いずれも符号は(−1)k(-1)^kなので、

sin⁡xcos⁡y+cos⁡xsin⁡y=∑k=0∞(−1)k(2k+1)!∑j=02k+1(2k+1j)xjy2k+1−j=∑k=0∞(−1)k(x+y)2k+1(2k+1)!=sin⁡(x+y).\begin{aligned} \sin x\cos y+\cos x\sin y &=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k}{(2k+1)!} \sum_{j=0}^{2k+1}\binom{2k+1}{j}x^jy^{2k+1-j}\\ &=\sum_{k=0}^{\infty}(-1)^k\frac{(x+y)^{2k+1}}{(2k+1)!} =\sin(x+y). \end{aligned}

▨

系 2.2 (基本恒等式と偶奇性). 任意の実数xxについて、

exp⁡x>0,exp⁡(−x)=1exp⁡x,\exp x>0,\qquad \exp(-x)=\frac1{\exp x},

および

sin⁡(−x)=−sin⁡x,cos⁡(−x)=cos⁡x,sin⁡2x+cos⁡2x=1\sin(-x)=-\sin x,\qquad \cos(-x)=\cos x,\qquad \sin^2x+\cos^2x=1

が成り立つ。

証明. 級数から正弦の奇関数性と余弦の偶関数性が従う。加法定理にy=−xy=-xを代入するとexp⁡xexp⁡(−x)=1\exp x\exp(-x)=1である。したがってexp⁡x\exp xは00ではない。連続な関数exp⁡\expが正の値exp⁡0=1\exp0=1から負の値へ移るなら中間値の定理により00を取るので、exp⁡x>0\exp x>0である。余弦の加法定理にy=−xy=-xを代入すると、最後の恒等式が得られる。▨

3 対数関数と実数乗

命題 3.1 (指数関数の単調性と値域).exp⁡\expはR\mathbb R上で狭義単調増加であり、R\mathbb Rから(0,∞)(0,\infty)への全単射である。

証明.t>0t>0なら、級数の各項が非負であることからexp⁡t≥1+t>1\exp t\ge1+t>1である。y>xy>xのとき、加法定理により

exp⁡y=exp⁡x exp⁡(y−x)>exp⁡x\exp y=\exp x\,\exp(y-x)>\exp x

となる。また、x→∞x\to\inftyのときexp⁡x≥1+x→∞\exp x\ge1+x\to\inftyであり、x→−∞x\to-\inftyのときexp⁡x=1/exp⁡(−x)→0\exp x=1/\exp(-x)\to0である。連続性と中間値の定理により、任意の正の値をちょうど一度取る。▨

定義 3.2 (自然対数).命題 3.1が与える逆関数を

log⁡:(0,∞)⟶R\log:(0,\infty)\longrightarrow\mathbb R

と定め、自然対数 (natural logarithm) という。すなわち、

exp⁡(log⁡a)=a,log⁡(exp⁡x)=x\exp(\log a)=a,\qquad \log(\exp x)=x

である。

定理 3.3 (単調な連続全単射の逆関数).I,JI,Jを区間とし、f:I→Jf:I\to Jを連続かつ狭義単調な全単射とする。このとき、逆関数f−1:J→If^{-1}:J\to Iは連続である。

証明.ffが狭義単調増加の場合を示す。y0=f(x0)y_0=f(x_0)とし、まずx0x_0がIIの内点である場合を考える。十分小さいε>0\varepsilon>0に対して

f(x0−ε)<y0<f(x0+ε)f(x_0-\varepsilon)<y_0<f(x_0+\varepsilon)

である。yyが両端の値のあいだにあれば、逆関数も狭義単調増加なので

x0−ε<f−1(y)<x0+εx_0-\varepsilon<f^{-1}(y)<x_0+\varepsilon

となる。したがってy→y0y\to y_0ならばf−1(y)→x0f^{-1}(y)\to x_0である。x0x_0が端点である場合は、区間の内側にある片方の点だけを用いる同じ議論によって片側連続性が従う。

ffが狭義単調減少の場合は不等号の向きが逆になるが、両端の値の間にyyを取る同じ議論が成り立つ。よって、いずれの場合も逆関数は連続である。▨

定理 3.4 (自然対数の法則と微分).a,b>0a,b>0について

log⁡(ab)=log⁡a+log⁡b,log⁡ab=log⁡a−log⁡b\log(ab)=\log a+\log b,\qquad \log\frac ab=\log a-\log b

が成り立つ。また、x>0x>0について

(log⁡x)′=1x(\log x)'=\frac1x

である。

証明.u=log⁡au=\log a、v=log⁡bv=\log bとおくと、加法定理によりab=exp⁡uexp⁡v=exp⁡(u+v)ab=\exp u\exp v=\exp(u+v)である。exp⁡\expの単射性から第一の式が従う。また、

ab=exp⁡u exp⁡(−v)=exp⁡(u−v)\frac ab=\exp u\,\exp(-v)=\exp(u-v)

なので、単射性から第二の式が従う。

exp⁡\expは連続かつ狭義単調増加な全単射なので、定理 3.3によりlog⁡\logは連続である。x>0x>0を固定し、0<∣k∣<x0<|k|<xを満たすkkを00に近づける。このときx+k>0x+k>0であり、log⁡\logの単射性からu=log⁡(x+k)−log⁡x≠0u=\log(x+k)-\log x\ne0である。また、log⁡\logの連続性によりu→0u\to0であり、x+k=xexp⁡ux+k=x\exp uである。したがって、

log⁡(x+k)−log⁡xk=ux(exp⁡u−1)⟶1x\frac{\log(x+k)-\log x}{k} =\frac{u}{x(\exp u-1)} \longrightarrow\frac1x

である。最後の極限はexp⁡′(0)=1\exp'(0)=1、すなわち(exp⁡u−1)/u→1(\exp u-1)/u\to1による。▨

定義 3.5 (解析的に定めた実数乗).a>0a>0、x∈Rx\in\mathbb Rに対し、

a⟨x⟩=exp⁡(xlog⁡a)a^{\langle x\rangle}=\exp(x\log a)

によって解析的な実数乗 (analytic real power) を定める。

定理 3.6 (解析的な実数乗の法則).a,b>0a,b>0、x,y∈Rx,y\in\mathbb Rについて、

a⟨x+y⟩=a⟨x⟩a⟨y⟩,(ab)⟨x⟩=a⟨x⟩b⟨x⟩,(a⟨x⟩)⟨y⟩=a⟨xy⟩a^{\langle x+y\rangle}=a^{\langle x\rangle}a^{\langle y\rangle},\qquad (ab)^{\langle x\rangle}=a^{\langle x\rangle}b^{\langle x\rangle},\qquad \left(a^{\langle x\rangle}\right)^{\langle y\rangle}=a^{\langle xy\rangle}

が成り立つ。関数x↦a⟨x⟩x\mapsto a^{\langle x\rangle}は連続であり、有理数qqに対して通常の有理数乗aqa^qと一致する。

証明. 指数関数の加法定理と対数の積法則により、

a⟨x+y⟩=exp⁡((x+y)log⁡a)=exp⁡(xlog⁡a)exp⁡(ylog⁡a),(ab)⟨x⟩=exp⁡(xlog⁡(ab))=exp⁡(xlog⁡a+xlog⁡b)=a⟨x⟩b⟨x⟩.\begin{aligned} a^{\langle x+y\rangle} &=\exp((x+y)\log a) =\exp(x\log a)\exp(y\log a),\\ (ab)^{\langle x\rangle} &=\exp(x\log(ab)) =\exp(x\log a+x\log b) =a^{\langle x\rangle}b^{\langle x\rangle}. \end{aligned}

また、a⟨x⟩=exp⁡(xlog⁡a)>0a^{\langle x\rangle}=\exp(x\log a)>0であり、log⁡(exp⁡s)=s\log(\exp s)=sであることから、

(a⟨x⟩)⟨y⟩=exp⁡ ⁣(ylog⁡ ⁣(exp⁡(xlog⁡a)))=exp⁡(yxlog⁡a)=a⟨xy⟩\begin{aligned} \left(a^{\langle x\rangle}\right)^{\langle y\rangle} &=\exp\!\left(y\log\!\left(\exp(x\log a)\right)\right)\\ &=\exp(yx\log a) =a^{\langle xy\rangle} \end{aligned}

である。連続性はexp⁡\expの連続性から従う。q=m/nq=m/n(m∈Zm\in\mathbb Z、n∈Nn\in\mathbb N)とすると、

(a⟨q⟩)n=exp⁡(nqlog⁡a)=exp⁡(mlog⁡a)=am\left(a^{\langle q\rangle}\right)^n =\exp(nq\log a)=\exp(m\log a)=a^m

である。a⟨q⟩>0a^{\langle q\rangle}>0であるから、正のnn乗根の一意性により通常のaqa^qと一致する。▨

例 3.7 (解析的な実数乗と平方根).定理 3.6により

(4⟨1/2⟩)2=4⟨1⟩=4\left(4^{\langle1/2\rangle}\right)^2=4^{\langle1\rangle}=4

である。また、4⟨1/2⟩>04^{\langle1/2\rangle}>0である。正の平方根の一意性から4⟨1/2⟩=24^{\langle1/2\rangle}=2となる。この計算は、解析的な定義が通常の有理数乗と一致することを具体的に確かめる例である。

定理 3.8 (二つの実数乗の一致). 「指数関数と対数関数」で有理数列の極限によって定義したaxa^xと定義 3.5のa⟨x⟩a^{\langle x\rangle}は、すべてのa>0a>0とx∈Rx\in\mathbb Rについて一致する。

証明. 有理数qqでは、定理 3.6により両者が一致する。実数xxに収束する有理数列{qn}\{q_n\}を取る。解析的な実数乗の連続性と、B3 の実数乗の定義が列の選び方によらないこと(§B3.3 定理 4.2の 2)により、

a⟨x⟩=lim⁡n→∞a⟨qn⟩=lim⁡n→∞aqn=axa^{\langle x\rangle} =\lim_{n\to\infty}a^{\langle q_n\rangle} =\lim_{n\to\infty}a^{q_n} =a^x

である。▨

定義 3.9 (解析的に定めた自然対数の底).

e0=exp⁡1e_0=\exp1

によって解析的な自然対数の底 (analytic base of the natural logarithm) を定める。

定理 3.10.§D1.7 例 3.1において

e=lim⁡n→∞(1+1n)ne=\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac1n\right)^n

によって定めた定数eeは、定義 3.9のe0=exp⁡1e_0=\exp1と等しい。

証明.an=(1+1/n)na_n=(1+1/n)^nとおく。§D1.7 例 3.1によりan→e>0a_n\to e>0である。定理 3.4の積法則を有限回適用すると、各n≥1n\ge1に対して

log⁡an=nlog⁡(1+1n)\log a_n=n\log\left(1+\frac1n\right)

を得る。また、log⁡1=log⁡(exp⁡0)=0\log1=\log(\exp0)=0であり、定理 3.4によりlog⁡′(1)=1\log'(1)=1である。1/n→01/n\to0であるから、点11における差商として

nlog⁡(1+1n)=log⁡(1+1/n)−log⁡11/n⟶1n\log\left(1+\frac1n\right) =\frac{\log(1+1/n)-\log1}{1/n} \longrightarrow1

となる。

命題 3.1と定理 3.3により、log⁡\logは(0,∞)(0,\infty)上で連続である。したがってan→e>0a_n\to e>0からlog⁡an→log⁡e\log a_n\to\log eを得る。数列の極限の一意性により

log⁡e=1=log⁡(exp⁡1)=log⁡e0\log e=1=\log(\exp1)=\log e_0

である。定義 3.2によりlog⁡\logは単射であるから、e=e0e=e_0である。▨

定理 3.11 (指数関数とe0e_0の実数乗). すべての実数xxについて

exp⁡x=e0x\exp x=e_0^x

である。右辺は「指数関数と対数関数」で定めた実数乗である。

証明.log⁡e0=log⁡(exp⁡1)=1\log e_0=\log(\exp1)=1である。したがって解析的な実数乗について

e0⟨x⟩=exp⁡(xlog⁡e0)=exp⁡xe_0^{\langle x\rangle}=\exp(x\log e_0)=\exp x

である。定理 3.8によりe0⟨x⟩=e0xe_0^{\langle x\rangle}=e_0^xであるから、主張が従う。▨

4 円周率と逆三角関数

まず、余弦が正から負へ移る最初の点を用いて円周率を定めます。

補題 4.1 (余弦の最初の零点).0<τ<20<\tau<2を満たす実数τ\tauがただ一つ存在し、

cos⁡τ=0,cos⁡x>0(0≤x<τ)\cos\tau=0,\qquad \cos x>0\quad(0\le x<\tau)

が成り立つ。また、sin⁡τ=1\sin\tau=1である。

証明. 正の整数nnに対してbn=22n/(2n)!b_n=2^{2n}/(2n)!とおくと、

bn+1bn=4(2n+2)(2n+1)≤13<1\frac{b_{n+1}}{b_n} =\frac{4}{(2n+2)(2n+1)} \le\frac13<1

である。したがって{bn}n≥1\{b_n\}_{n\ge1}は単調減少して00に収束する。交代級数の評価(§D1.21 定理 5.1)をn=1n=1からの級数へ適用すると、

cos⁡2=1−2+23−445+⋯<1−2+23<0\cos2 =1-2+\frac{2}{3}-\frac{4}{45}+\cdots <1-2+\frac23<0

である。一方、cos⁡0=1\cos0=1であるから、中間値の定理により(0,2)(0,2)に零点がある。正の零点全体をZZとし、τ=inf⁡Z\tau=\inf Zとおく。cos⁡\cosの連続性とcos⁡0=1\cos0=1により、あるδ>0\delta>0について0≤x≤δ0\le x\le\deltaならばcos⁡x>0\cos x>0となるので、τ≥δ>0\tau\ge\delta>0である。また、上で得た(0,2)(0,2)の零点をzzとするとτ≤z<2\tau\le z<2である。

下限の性質により、各正の整数nnについてτ≤zn<τ+1/n\tau\le z_n<\tau+1/nを満たすzn∈Zz_n\in Zを取ることができる。zn→τz_n\to\tauと連続性からcos⁡τ=lim⁡cos⁡zn=0\cos\tau=\lim\cos z_n=0である。0≤x<τ0\le x<\tauではcos⁡x≠0\cos x\ne0である。もしcos⁡x<0\cos x<0ならば、cos⁡0>0\cos0>0と中間値の定理により(0,x)(0,x)に零点が存在し、τ\tauが正の零点の下限であることに反する。したがってcos⁡x>0\cos x>0である。この性質とcos⁡τ=0\cos\tau=0を満たす別の正の数σ\sigmaがあれば、正の零点の最小性からσ≥τ\sigma\ge\tauであり、σ>τ\sigma>\tauならばσ\sigmaより前の点τ\tauで余弦が00となって性質に反する。よってσ=τ\sigma=\tauであり、一意性も従う。

sin⁡′=cos⁡\sin'=\cosであるから、増減判定によりsin⁡\sinは[0,τ][0,\tau]で狭義単調増加である。したがってsin⁡τ>0\sin\tau>0である。系 2.2とcos⁡τ=0\cos\tau=0からsin⁡2τ=1\sin^2\tau=1なので、sin⁡τ=1\sin\tau=1である。▨

定義 4.2 (円周率).補題 4.1のτ\tauに対して

π=2τ\pi=2\tau

によって円周率 (pi) を定める。

命題 4.3 (正弦の符号と余弦の単調性).定義 4.2で定めたπ\piについて、

sin⁡π=0,cos⁡π=−1\sin\pi=0,\qquad \cos\pi=-1

が成り立つ。また、0<x<π0<x<\piではsin⁡x>0\sin x>0であり、cos⁡\cosは[0,π][0,\pi]で狭義単調減少である。

証明.π=2τ\pi=2\tauであり、補題 4.1によりcos⁡τ=0\cos\tau=0、sin⁡τ=1\sin\tau=1である。定理 2.1をτ+τ\tau+\tauに適用すると、

sin⁡π=2sin⁡τcos⁡τ=0,cos⁡π=cos⁡2τ−sin⁡2τ=−1\sin\pi=2\sin\tau\cos\tau=0, \qquad \cos\pi=\cos^2\tau-\sin^2\tau=-1

を得る。

0<x≤τ0<x\le\tauでは、補題 4.1とsin⁡′=cos⁡\sin'=\cosにより、sin⁡\sinは[0,τ][0,\tau]で狭義単調増加である。したがって、sin⁡x>sin⁡0=0\sin x>\sin0=0である。τ<x<π=2τ\tau<x<\pi=2\tauのとき、x=τ+tx=\tau+t(0<t<τ0<t<\tau)と書けば、加法定理により

sin⁡(τ+t)=sin⁡τcos⁡t+cos⁡τsin⁡t=cos⁡t>0\sin(\tau+t)=\sin\tau\cos t+\cos\tau\sin t=\cos t>0

である。よって0<x<π0<x<\piではsin⁡x>0\sin x>0である。cos⁡′=−sin⁡\cos'=-\sinであるから、平均値の定理によりcos⁡\cosは[0,π][0,\pi]で狭義単調減少である。▨

定義 4.4 (逆三角関数).命題 4.3に基づく次の制限は全単射である。

sin⁡:[−π/2,π/2]⟶[−1,1],cos⁡:[0,π]⟶[−1,1],tan⁡:(−π/2,π/2)⟶R,tan⁡x=sin⁡xcos⁡x.\begin{aligned} \sin&:[-\pi/2,\pi/2]\longrightarrow[-1,1],\\ \cos&:[0,\pi]\longrightarrow[-1,1],\\ \tan&:(-\pi/2,\pi/2)\longrightarrow\mathbb R, \qquad \tan x=\frac{\sin x}{\cos x}. \end{aligned}

これらの逆関数を、それぞれ逆正弦関数 (inverse sine)、逆余弦関数 (inverse cosine)、逆正接関数 (inverse tangent) といい、

arcsin⁡,arccos⁡,arctan⁡\arcsin,\qquad \arccos,\qquad \arctan

と書く。

証明.(−π/2,π/2)(-\pi/2,\pi/2)ではcos⁡x>0\cos x>0なので、sin⁡′=cos⁡>0\sin'=\cos>0である。端点の値は−1,1-1,1であるから、sin⁡\sinの制限は[−1,1][-1,1]への全単射である。命題 4.3により、cos⁡\cosは[0,π][0,\pi]で狭義単調減少し、端点の値は1,−11,-1である。

商の微分法則とsin⁡2x+cos⁡2x=1\sin^2x+\cos^2x=1により、

(tan⁡x)′=1cos⁡2x>0(\tan x)'=\frac1{\cos^2x}>0

である。x→π/2−x\to\pi/2-ではsin⁡x→1\sin x\to1、cos⁡x→0+\cos x\to0+なのでtan⁡x→∞\tan x\to\inftyとなり、奇関数性からx→−π/2+x\to-\pi/2+では−∞-\inftyへ発散する。中間値の定理により、tan⁡\tanの制限はR\mathbb Rへの全単射である。▨

定理 4.5 (単位円の三角パラメータ表示). 写像

p:R⟶{(x,y)∈R2:x2+y2=1},p(θ)=(cos⁡θ,sin⁡θ)p:\mathbb R\longrightarrow\{(x,y)\in\mathbb R^2:x^2+y^2=1\}, \qquad p(\theta)=(\cos\theta,\sin\theta)

について、次の三つが成り立つ。

  1. すべてのθ∈R\theta\in\mathbb Rについてp(θ+2π)=p(θ)p(\theta+2\pi)=p(\theta)である。
  2. ppは単位円への全射である。
  3. α,β∈R\alpha,\beta\in\mathbb Rに対して、p(α)=p(β)p(\alpha)=p(\beta)であることとα−β∈2πZ\alpha-\beta\in2\pi\mathbb Zであることは同値である。

証明.系 2.2により、すべてのθ∈R\theta\in\mathbb Rについてcos⁡2θ+sin⁡2θ=1\cos^2\theta+\sin^2\theta=1である。したがってp(θ)p(\theta)は実際に単位円に属する。

(1)を示す。命題 4.3のsin⁡π=0\sin\pi=0およびcos⁡π=−1\cos\pi=-1を加法定理へ代入すると、

sin⁡(θ+π)=−sin⁡θ,cos⁡(θ+π)=−cos⁡θ\sin(\theta+\pi)=-\sin\theta,\qquad \cos(\theta+\pi)=-\cos\theta

を得る。これらの等式をもう一度適用すると、

sin⁡(θ+2π)=sin⁡θ,cos⁡(θ+2π)=cos⁡θ\sin(\theta+2\pi)=\sin\theta,\qquad \cos(\theta+2\pi)=\cos\theta

が従う。さらに、この等式を正の整数回適用し、負の整数については等式のθ\thetaをθ−2π\theta-2\piに置き換えてから同じ議論を用いると、

p(θ+2πk)=p(θ)(k∈Z)p(\theta+2\pi k)=p(\theta)\qquad(k\in\mathbb Z)

を得る。

(2)を示す。x2+y2=1x^2+y^2=1を満たす(x,y)∈R2(x,y)\in\mathbb R^2をとる。このとき−1≤x≤1-1\le x\le1である。y≥0y\ge0のときはθ=arccos⁡x∈[0,π]\theta=\arccos x\in[0,\pi]とおく。このときcos⁡θ=x\cos\theta=xであり、[0,π][0,\pi]上でsin⁡θ≥0\sin\theta\ge0なので、

sin⁡θ=1−cos⁡2θ=1−x2=y\sin\theta=\sqrt{1-\cos^2\theta}=\sqrt{1-x^2}=y

である。y<0y<0のときはθ=−arccos⁡x\theta=-\arccos xとおく。余弦の偶関数性と正弦の奇関数性により、cos⁡θ=x\cos\theta=xかつ

sin⁡θ=−1−x2=y\sin\theta=-\sqrt{1-x^2}=y

である。どちらの場合にもp(θ)=(x,y)p(\theta)=(x,y)である。

(3)を示す。α−β=2πk\alpha-\beta=2\pi kを満たすk∈Zk\in\mathbb Zが存在するとき、すでに示した整数倍の周期性からp(α)=p(β)p(\alpha)=p(\beta)である。逆にp(α)=p(β)p(\alpha)=p(\beta)とし、d=α−βd=\alpha-\betaとおく。加法定理と基本恒等式により、

cos⁡d=cos⁡αcos⁡β+sin⁡αsin⁡β=1,sin⁡d=sin⁡αcos⁡β−cos⁡αsin⁡β=0\begin{aligned} \cos d &=\cos\alpha\cos\beta+\sin\alpha\sin\beta=1,\\ \sin d &=\sin\alpha\cos\beta-\cos\alpha\sin\beta=0 \end{aligned}

である。

§D1.4 命題 2.1により、N>∣d∣/(2π)N>|d|/(2\pi)を満たす正の整数NNが存在する。d/(2π)d/(2\pi)以下の整数のうち[−N,N][-N,N]に属するものの全体は、−N-Nを含む空でない有限集合である。その最大元をkkとすると、

k≤d2π<k+1k\le\frac{d}{2\pi}<k+1

である。実際、右側の不等式が成り立たなければk+1k+1も同じ有限集合に属し、kkの最大性に反する。r=d−2πkr=d-2\pi kとおくと0≤r<2π0\le r<2\piであり、周期性からcos⁡r=cos⁡d=1\cos r=\cos d=1である。

0≤r≤π0\le r\le\piの場合、命題 4.3によりcos⁡\cosは[0,π][0,\pi]で狭義単調減少し、cos⁡0=1\cos0=1であるから、r=0r=0である。π<r<2π\pi<r<2\piの場合、0<2π−r<π0<2\pi-r<\piである。余弦の偶関数性と周期性からcos⁡r=cos⁡(2π−r)\cos r=\cos(2\pi-r)だが、cos⁡\cosの狭義単調減少性によりcos⁡(2π−r)<cos⁡0=1\cos(2\pi-r)<\cos0=1となり、cos⁡r=1\cos r=1に矛盾する。したがって後者は起こらず、r=0r=0である。ゆえにd=2πkd=2\pi kである。▨

定理 4.6 (逆三角関数の微分公式).−1<x<1-1<x<1では

(arcsin⁡x)′=11−x2,(arccos⁡x)′=−11−x2(\arcsin x)'=\frac1{\sqrt{1-x^2}},\qquad (\arccos x)'=-\frac1{\sqrt{1-x^2}}

が成り立つ。また、すべてのx∈Rx\in\mathbb Rについて

(arctan⁡x)′=11+x2(\arctan x)'=\frac1{1+x^2}

が成り立つ。

証明.ffが連続かつ狭義単調な全単射で、y=f(x)y=f(x)、f′(x)≠0f'(x)\ne0とする。k≠0k\ne0かつy+ky+kがffの値域に属するものを任意に取り、h=f−1(y+k)−xh=f^{-1}(y+k)-xとおく。定理 3.3によりk→0k\to0のときh→0h\to0であり、ffの単射性によりh≠0h\ne0である。また、k=f(x+h)−f(x)k=f(x+h)-f(x)であるから、

f−1(y+k)−f−1(y)k=hf(x+h)−f(x)⟶1f′(x)\frac{f^{-1}(y+k)-f^{-1}(y)}{k} =\frac{h}{f(x+h)-f(x)} \longrightarrow\frac1{f'(x)}

である。したがって、逆関数の導関数は元の関数の導関数の逆数である。

y=sin⁡xy=\sin xかつ−π/2<x<π/2-\pi/2<x<\pi/2ならcos⁡x>0\cos x>0なのでcos⁡x=1−y2\cos x=\sqrt{1-y^2}である。余弦については0<x<π0<x<\piでsin⁡x>0\sin x>0であり、正接については(tan⁡x)′=1+tan⁡2x(\tan x)'=1+\tan^2xである。余弦について用いた正弦の正値性は命題 4.3による。これらを上の式へ代入すると、三つの公式が得られる。▨

5 差商が定める底

定理 5.1 (一般の底に対する指数関数の差商).a>0a>0とする。このとき

lim⁡h→0ah−1h\lim_{h\to0}\frac{a^h-1}{h}

は存在し、その値はlog⁡a\log aである。

証明.定理 3.8により、

ah=exp⁡(hlog⁡a)a^h=\exp(h\log a)

である。log⁡a=0\log a=0のときa=1a=1なので、差商は常に00である。log⁡a≠0\log a\ne0のときu=hlog⁡au=h\log aとおくと、

ah−1h=log⁡a exp⁡u−1u⟶log⁡a\frac{a^h-1}{h} =\log a\,\frac{\exp u-1}{u} \longrightarrow\log a

である。最後の極限はexp⁡′(0)=1\exp'(0)=1による。▨

系 5.2 (自然対数の底の存在と一意性). 正の実数aaのうち

lim⁡h→0ah−1h=1\lim_{h\to0}\frac{a^h-1}{h}=1

を満たすものは、a=e0=exp⁡1a=e_0=\exp1だけである。

証明.定理 5.1により、条件はlog⁡a=1\log a=1と同値である。log⁡\logはexp⁡\expの逆関数なので、これはa=exp⁡1=e0a=\exp1=e_0と同値である。したがって、存在と一意性の両方が従う。▨

系 5.3 (B3 のネイピア数との一致). 「指数関数と対数関数」の§B3.7 定義 2.3が定めるネイピア数eeはe0=exp⁡1e_0=\exp1と一致する。したがって、すべての実数xxについて

exp⁡x=ex\exp x=e^x

である。

証明.§B3.7 定義 2.3により、eeは差商の極限が11になる正の数である。系 5.2の一意性からe=e0=exp⁡1e=e_0=\exp1である。定理 3.11に代入するとexp⁡x=ex\exp x=e^xが従う。▨

6 演習

  1. §D1.21 定理 5.3の証明で、i+j>Ni+j>Nならi>N/2i>N/2またはj>N/2j>N/2であることをどこに用いたかを説明してください。
  2. 余弦の加法定理の証明で、cos⁡xcos⁡y\cos x\cos yと−sin⁡xsin⁡y-\sin x\sin yが二項展開のどの項を与えるかを書き出してください。
  3. 補題 4.1から、cos⁡\cosが[0,π][0,\pi]で狭義単調減少することを証明してください。
  4. 有理数qqに対する一致と連続性だけから、二つの実数乗がすべての実数指数で一致する理由を説明してください。
  5. 定理 5.1を用いて、0<a<10<a<1のとき差商の極限が負になることを証明してください。

参考文献

  1. 杉浦光夫『解析入門 I』基礎数学 2, 東京大学出版会, 1980.
  2. Walter Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., International Series in Pure and Applied Mathematics, McGraw Hill, 1976.

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