1 基本:差をとって平方に持ち込む
A≥Bを示すにはA−B≥0を示す。そしてA−Bが平方の形(≥0が明らか)になれば完了です。実数の平方は非負、という事実が土台です。
a2+b2≥2ab⟺a2−2ab+b2≥0⟺(a−b)2≥0 ✓
等号はa=bのとき。「差 → 平方完成 →( )2≥0」という流れが、多くの不等式証明の背骨です。
2 相加平均・相乗平均の関係(AM-GM)
a,b≥0のとき、
2a+b≥ab(等号は a=b)
これも2a+b−ab=2(a−b)2≥0と、平方に帰着して示せます。最小値問題(x+x1の最小など)で強力です。使うときは両辺が非負という前提を必ず確認してください。
3 コーシー・シュワルツの不等式
実数a,b,x,y∈Rについて
(a2+b2)(x2+y2)≥(ax+by)2
差をとると(ay−bx)2≥0に帰着します。等号はay=bxのとき——導出に現れた(ay−bx)2が0になる条件、そのままです。(a,b)と(x,y)がどちらも(0,0)でなければa:b=x:yと比で読めますが、x=y=0のような場合は比の形が意味を持たないので、ay=bxの形で覚えるのが安全です。ベクトルの内積∣u⋅v∣≤∣u∣∣v∣の成分表示でもあり、内積の項目と地続きです。
閑話休題:女王の牛革と、円の一人勝ち 伝説によれば、カルタゴを建国したディドー女王は、上陸した土地の領主から「牛1頭の革で囲めるだけの土地をやろう」と言われ、革を細い紐に切り裂いて長大な1本にし、できるだけ広い土地を囲みました。この逸話は、平面内の十分に正則な単純閉曲線が囲む領域を対象にした長さの決まった境界で面積を最大化する問題を連想させます。答えは円。周の長さLと面積Aのあいだには
L2≥4πAという等周不等式が成り立ち、等号は円(平行移動・回転を除く)のときに成立します。
この「だけ」に注目してください。この単元で等号成立条件を必ず書かせるのは、最大・最小を確定させるためでしたが、等周不等式では等号成立条件が「円とは何か」の答えそのものになっています。不等式が図形を特徴づける——シャボン玉が球になるのも、表面張力が同じ体積を最小の表面積で包もうとして、等号成立の形(球)に落ち着くからです。ちなみにこの定理、「明らかに円だろう」と思われていたのに厳密な証明は19世紀までなく、シュタイナーの見事な対称化の議論にも「最大の図形が存在すること」を仮定する穴があって、ワイエルシュトラスが埋めました。「最大値がそもそも存在するか」を問う姿勢は、基礎解析(最大値の定理)で本格化します。