§A1.18高次方程式の性質

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高次方程式では、根を一つずつ求めなくても、根全体の対称性を係数から調べることができます。係数がすべて実数であると非実根が共役な対になることから、実数根と実因数分解の性質を導き、一次因子の積を展開して解と係数の関係を証明します。

1 根の個数と共役

以下では、代数学の基本定理の結論を認めて用います。

定理 1.1 (代数学の基本定理).n≥1n\ge1とし、a0,a1,…,ana_0,a_1,\ldots,a_nを複素数、an≠0a_n\ne0とする。複素係数多項式

P(x)=anxn+an−1xn−1+⋯+a1x+a0P(x)=a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_1x+a_0

は、複素数の範囲で重複度込みにちょうどnn個の根α1,…,αn\alpha_1,\ldots,\alpha_nをもち、

P(x)=an∏j=1n(x−αj)P(x)=a_n\prod_{j=1}^n(x-\alpha_j)

と分解される。

重複度は同じ根が因子に現れる回数である。たとえば(x−1)3(x-1)^3の異なる根は11だけであるが、根11の重複度は33である。

この定理の証明は、本記事では扱いません。「位相空間論 I」の§E2.9 定理 6.3と、「複素解析」の§E5.9 系 4.2、§E5.14 系 4.3がそれぞれ証明を与えます。

定理 1.2.PPを実数係数多項式とし、zzを複素数とする。P(z)=0P(z)=0ならばP(zˉ)=0P(\bar z)=0であり、zzとzˉ\bar zの重複度は等しい。

証明.P(x)=∑k=0nakxkP(x)=\sum_{k=0}^n a_kx^k、ak∈Ra_k\in\mathbb Rとする。任意の複素数wwに対して

P(w)‾=∑k=0nak‾ w‾k=∑k=0nakw‾k=P(wˉ)\overline{P(w)} =\sum_{k=0}^n\overline{a_k}\,\overline{w}^{k} =\sum_{k=0}^n a_k\overline{w}^{k} =P(\bar w)

である。P(z)=0P(z)=0の両辺の共役を取るとP(zˉ)=P(z)‾=0P(\bar z)=\overline{P(z)}=0を得る。

zzの重複度をmmとすると、複素係数多項式QQを用いて

P(x)=(x−z)mQ(x),Q(z)≠0P(x)=(x-z)^mQ(x),\qquad Q(z)\ne0

と表される。Q∗(x)=Q(xˉ)‾Q^*(x)=\overline{Q(\bar x)}と置く。PPの係数は実数なので、任意の複素数xxに対してP(x)=P(xˉ)‾P(x)=\overline{P(\bar x)}である。上の分解へxˉ\bar xを代入して共役を取ると

P(x)=(x−zˉ)mQ∗(x)P(x)=(x-\bar z)^mQ^*(x)

となる。さらにQ∗(zˉ)=Q(z)‾≠0Q^*(\bar z)=\overline{Q(z)}\ne0であるから、zˉ\bar zの重複度もmmである。▨

定理 1.3. 実数係数の奇数次多項式は、少なくとも一つの実数根をもつ。

証明. 奇数次多項式PPの次数をnnとする。定理 1.1により、PPは重複度込みにnn個の複素根をもつ。定理 1.2により、非実根は重複度込みに共役な二つずつの組に分かれるので、その個数は偶数である。nnは奇数であるから、残る根の個数は零ではない。共役と等しい複素数は実数なので、残る根は実数である。▨

2 実数の範囲での因数分解

共役な二つの根に対応する一次因子を掛けると、実数係数の二次式になります。

定理 2.1.PPを零多項式でない実数係数多項式とする。このとき、00以上の整数s,ts,t、c≠0c\ne0を満たす実数cc、実数r1,…,rsr_1,\ldots,r_s、実数p1,…,ptp_1,\ldots,p_t、正の実数q1,…,qtq_1,\ldots,q_tを用いて

P(x)=c∏j=1s(x−rj)∏k=1t((x−pk)2+qk2)P(x)=c\prod_{j=1}^s(x-r_j) \prod_{k=1}^t\bigl((x-p_k)^2+q_k^2\bigr)

と表される。因子は重複度の回数だけ並べる。各二次式は判別式が負であり、実数係数の一次式の積には分解されない。定数多項式では二つの積を空積とする。

証明.定理 1.1により、定数でないPPは複素数の範囲で一次因子の積に分解される。実根に対応する因子をx−rjx-r_jとして取り出す。定理 1.2により、残る非実根は重複度込みにpk+qkip_k+q_k iとpk−qkip_k-q_k iの組に分けることができる。qk>0q_k>0となる方を選ぶと、

(x−(pk+qki))(x−(pk−qki))=(x−pk)2+qk2\bigl(x-(p_k+q_k i)\bigr)\bigl(x-(p_k-q_k i)\bigr) =(x-p_k)^2+q_k^2

である。右辺の判別式は−4qk2<0-4q_k^2<0なので実根をもたず、実数係数の一次式の積には分解されない。最高次係数をccとすれば、すべての一次因子を実根と共役対に分けた積が主張の分解を与える。定数多項式の場合はccをPPの定数値に取ればよい。▨

3 解と係数の関係

一次因子の積を展開すると、任意の次数について解と係数の関係が得られます。

定理 3.1.n≥1n\ge1とし、an≠0a_n\ne0を満たす複素係数多項式が、重複度込みの根α1,…,αn\alpha_1,\ldots,\alpha_nを用いて

anxn+an−1xn−1+⋯+a0=an∏j=1n(x−αj)a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_0 =a_n\prod_{j=1}^n(x-\alpha_j)

と表されているとする。1≤k≤n1\le k\le nに対して

∑1≤i1<⋯<ik≤nαi1⋯αik=(−1)kan−kan\sum_{1\le i_1<\cdots<i_k\le n} \alpha_{i_1}\cdots\alpha_{i_k} =(-1)^k\frac{a_{n-k}}{a_n}

が成り立つ。

証明.∏j=1n(x−αj)\prod_{j=1}^n(x-\alpha_j)を展開する。xn−kx^{n-k}の項を得るには、nn個の因子のうちkk個から−αj-\alpha_jを選び、残るn−kn-k個からxxを選ぶ。したがってxn−kx^{n-k}の係数は

(−1)k∑1≤i1<⋯<ik≤nαi1⋯αik(-1)^k\sum_{1\le i_1<\cdots<i_k\le n} \alpha_{i_1}\cdots\alpha_{i_k}

である。両辺のxn−kx^{n-k}の係数を比較すると

an−k=an(−1)k∑1≤i1<⋯<ik≤nαi1⋯αika_{n-k}=a_n(-1)^k \sum_{1\le i_1<\cdots<i_k\le n} \alpha_{i_1}\cdots\alpha_{i_k}

を得る。an≠0a_n\ne0なので、両辺をana_nで割れば結論が従う。▨

例 3.2.a,b,c,d∈Ra,b,c,d\in\mathbb R、a≠0a\ne0とし、ax3+bx2+cx+dax^3+bx^2+cx+dの三つの根を重複度込みにα,β,γ\alpha,\beta,\gammaとする。このとき

α+β+γ=−ba,αβ+βγ+γα=ca,αβγ=−da\alpha+\beta+\gamma=-\frac ba,\qquad \alpha\beta+\beta\gamma+\gamma\alpha=\frac ca,\qquad \alpha\beta\gamma=-\frac da

である。実際、

a(x−α)(x−β)(x−γ)=ax3−a(α+β+γ)x2+a(αβ+βγ+γα)x−aαβγa(x-\alpha)(x-\beta)(x-\gamma) =ax^3-a(\alpha+\beta+\gamma)x^2 +a(\alpha\beta+\beta\gamma+\gamma\alpha)x -a\alpha\beta\gamma

をax3+bx2+cx+dax^3+bx^2+cx+dと係数比較すると三つの等式を得る。左辺に現れる根の式は基本対称式であり、「対称式・交代式と基本対称式による表示」の方法を用いると、根を個別に求めずにその値を係数から計算することができる。

閑話休題:なぜ複素数の範囲では必ず解があるのか——閉曲線の巻き数定理 1.1は、実因子分解と一般の解と係数の関係の出発点である。本記事はその結論を認め、証明を「位相空間論 I」と「複素解析」へ委ねる。前者は多項式の絶対値が有界閉集合の上で最小値をとることを用い、後者はリウヴィルの定理と偏角の原理から二通りに導く。

偏角の原理による証明の背景には、閉曲線が原点のまわりを回る回数がある。複素数を平面の点としてみなし、原点を中心とする十分に大きな円の上でzzを1周させる。多項式P(z)=anzn+⋯+a0P(z)=a_nz^n+\cdots+a_0では最高次の項anzna_nz^nが低い次数の項より大きくなり、zzの角度がθ\thetaだけ増えるとanzna_nz^nの角度はnθn\thetaだけ増える。このためP(z)P(z)の描く閉曲線は、原点のまわりをnn回まわると考えられる。

円を一点まで連続的に縮めると、P(z)P(z)の描く閉曲線も最後には定数項a0a_0へ縮む。原点のまわりをnn回まわる閉曲線が原点をまわらない一点へ変わる途中では、曲線が原点を通る必要がある。そのときのzzがP(z)=0P(z)=0を満たす。この説明を証明にするには、閉曲線が原点を通らない連続変形では巻き数が変わらないことを示す必要がある。本記事はその位相的・解析的な証明を扱わない。

代数学の基本定理の証明は、形が異なっても実数の連続性に相当する性質を用いる1。代数方程式の根に関する主張が、位相や解析の結果によって支えられている。

例題

条件と何を求めるかを確認してから、式と答えの対応を見比べてください。

解は複素数の範囲で重複度込みに数える。実数係数の方程式では非実根 p+qi は共役 p−qi と対になって現れ、有理数係数の方程式では無理数解 p+q√s は共役 p−q√s と対になって現れる(s は平方数でない)。この性質を用いて次の問いに答えよ。

解法の型実数係数なら p+qi が解 ⇒\Rightarrow p-qi も解(有理数係数なら p+q√s が解 ⇒\Rightarrow p-q√s も解)。2解をまとめた2次因数で割って次数を下げる

  1. 実数係数の4次方程式 x4−7x3+22x2−32x+16x^4-7x^3+22x^2-32x+16== 0 は x == 2 + 2i を解にもつ。この方程式のすべての解を求めよ。

    x4−7x3+22x2−32x+16=0が x=2+2i を解にもつx^{4}-7x^{3}+22x^{2}-32x+16 = 0 \quad \text{が } x = 2 + 2i \text{ を解にもつ}
  2. a, b を有理数とする。3次方程式 x³ + a x² + b x + 24 == 0 が x == 2 + 2√3 を解にもつとき、a, b の値と他の解をすべて求めよ。

    x3+ax2+bx+24=0が x=2+23 を解にもつx^{3} + a x^{2} + b x + 24 = 0 \quad \text{が } x = 2 + 2\sqrt{3} \text{ を解にもつ}
  3. 実数係数の4次方程式 x4−4x3+3x2+2x−6x^4-4x^3+3x^2+2x-6== 0 は x == 1 + i を解にもつ。この方程式のすべての解を求めよ。

    x4−4x3+3x2+2x−6=0が x=1+i を解にもつx^{4}-4x^{3}+3x^{2}+2x-6 = 0 \quad \text{が } x = 1 + i \text{ を解にもつ}
  4. 実数係数の5次方程式 x5−x4−8x2+15x+25x^5-x^4-8x^2+15x+25== 0 は x == -1 + 2i と x == 2 + i を解にもつ。残りの解をすべて求めよ。

    x5−x4−8x2+15x+25=0が x=−1+2i, 2+i を解にもつx^{5}-x^{4}-8x^{2}+15x+25 = 0 \quad \text{が } x = -1 + 2i,\ 2 + i \text{ を解にもつ}
  5. a, b を有理数とする。3次方程式 x³ + a x² + b x - 57 == 0 が x == 3 + 2√7 を解にもつとき、a, b の値と他の解をすべて求めよ。

    x3+ax2+bx−57=0が x=3+27 を解にもつx^{3} + a x^{2} + b x - 57 = 0 \quad \text{が } x = 3 + 2\sqrt{7} \text{ を解にもつ}
  6. 実数係数の5次方程式 x5−5x4+12x3−12x2−5x+25x^5-5x^4+12x^3-12x^2-5x+25== 0 は x == 1 + 2i と x == 2 + i を解にもつ。残りの解をすべて求めよ。

    x5−5x4+12x3−12x2−5x+25=0が x=1+2i, 2+i を解にもつx^{5}-5x^{4}+12x^{3}-12x^{2}-5x+25 = 0 \quad \text{が } x = 1 + 2i,\ 2 + i \text{ を解にもつ}
  7. 実数係数の5次方程式 x5−2x3+12x2+32x+32x^5-2x^3+12x^2+32x+32== 0 は x == 2 + 2i と x == -1 + i を解にもつ。残りの解をすべて求めよ。

    x5−2x3+12x2+32x+32=0が x=2+2i, −1+i を解にもつx^{5}-2x^{3}+12x^{2}+32x+32 = 0 \quad \text{が } x = 2 + 2i,\ -1 + i \text{ を解にもつ}
  8. 実数係数の4次方程式 x4−7x3+19x2−23x+10x^4-7x^3+19x^2-23x+10== 0 は x == 2 + i を解にもつ。この方程式のすべての解を求めよ。

    x4−7x3+19x2−23x+10=0が x=2+i を解にもつx^{4}-7x^{3}+19x^{2}-23x+10 = 0 \quad \text{が } x = 2 + i \text{ を解にもつ}
  9. a, b を実数とする。3次方程式 x³ + a x² + b x - 6 == 0 が x == 1 + i を解にもつとき、a, b の値と他の解をすべて求めよ。

    x3+ax2+bx−6=0が x=1+i を解にもつx^{3} + a x^{2} + b x - 6 = 0 \quad \text{が } x = 1 + i \text{ を解にもつ}
  10. 実数係数の4次方程式 x4−5x3+13x2−19x+10x^4-5x^3+13x^2-19x+10== 0 は x == 1 + 2i を解にもつ。この方程式のすべての解を求めよ。

    x4−5x3+13x2−19x+10=0が x=1+2i を解にもつx^{4}-5x^{3}+13x^{2}-19x+10 = 0 \quad \text{が } x = 1 + 2i \text{ を解にもつ}

演習

問題を解いてから「解答・解説」を開けます。

解は複素数の範囲で重複度込みに数える。実数係数の方程式では非実根 p+qi は共役 p−qi と対になって現れ、有理数係数の方程式では無理数解 p+q√s は共役 p−q√s と対になって現れる(s は平方数でない)。この性質を用いて次の問いに答えよ。

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