§A1.15対称式・交代式と基本対称式による表示

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文字を入れ替えたときに式が保たれる場合と符号だけが変わる場合では、利用できる表示と因数が異なります。本記事は、対称式が基本対称式によって一意に表されることと、2文字の交代式が文字の差を因数にもつことを証明し、方程式の解を個別に求めずに対称な値を計算する方法を扱います。

1 対称式と基本対称式

文字を入れ替えたときの条件を、実数係数の多項式について定めます。

定義 1.1 (対称式と交代式).n≥1n\ge1とし、f(α1,…,αn)f(\alpha_1,\ldots,\alpha_n)を実数係数の多項式とする。集合{1,…,n}\{1,\ldots,n\}の任意の並べ替えσ\sigmaに対して

f(ασ(1),…,ασ(n))=f(α1,…,αn)f(\alpha_{\sigma(1)},\ldots,\alpha_{\sigma(n)}) =f(\alpha_1,\ldots,\alpha_n)

が成り立つとき、ffを対称式という。任意の二文字を交換しても値が変わらないことと、この条件は同値である。実際、任意の並べ替えは二文字の交換を有限回繰り返して実現される。たとえばα2+β2\alpha^2+\beta^2とα3β+αβ3\alpha^3\beta+\alpha\beta^3は対称式である。

2文字の実数係数多項式f(α,β)f(\alpha,\beta)が

f(β,α)=−f(α,β)f(\beta,\alpha)=-f(\alpha,\beta)

を満たすとき、ffを交代式という。たとえばα−β\alpha-\betaは交代式である。

対称式を表すために、文字を一つずつ選んだ積の和を用います。

定義 1.2 (基本対称式).1≤k≤n1\le k\le nとする。α1,…,αn\alpha_1,\ldots,\alpha_nから異なるkk文字を選んだ積の総和

sk=∑1≤i1<⋯<ik≤nαi1⋯αiks_k=\sum_{1\le i_1<\cdots<i_k\le n} \alpha_{i_1}\cdots\alpha_{i_k}

をkk次の基本対称式という。

2文字では

s1=α+β,s2=αβs_1=\alpha+\beta,\qquad s_2=\alpha\beta

である。3文字では

s1=α+β+γ,s2=αβ+βγ+γα,qquads3=αβγs_1=\alpha+\beta+\gamma,\qquad s_2=\alpha\beta+\beta\gamma+\gamma\alpha,qquad s_3=\alpha\beta\gamma

である。

定理 1.3.n≥1n\ge1とする。実数係数のnn変数対称多項式は、基本対称式s1,…,sns_1,\ldots,s_nの実数係数多項式としてただ一通り表される。

証明.f=0f=0ならば、すべての係数が零である多項式として表示できる。以下ではf≠0f\ne0とする。単項式α1e1⋯αnen\alpha_1^{e_1}\cdots\alpha_n^{e_n}の指数列を(e1,…,en)(e_1,\ldots,e_n)とする。二つの指数列は、最初に異なる成分の大小によって比較する。この辞書式順序により、零でない多項式の単項式のうち最大のものを先頭単項式と呼ぶ。

対称多項式ffの先頭単項式を

cα1λ1⋯αnλn(c≠0)c\alpha_1^{\lambda_1}\cdots\alpha_n^{\lambda_n}\qquad(c\ne0)

とする。λi<λi+1\lambda_i<\lambda_{i+1}となるiiがあれば、αi\alpha_iとαi+1\alpha_{i+1}を交換して得られる単項式はもとの先頭単項式より大きく、対称性によって同じ係数ccでffに現れる。これは先頭単項式の選び方に反する。したがって

λ1≥λ2≥⋯≥λn≥0\lambda_1\ge\lambda_2\ge\cdots\ge\lambda_n\ge0

である。λn+1=0\lambda_{n+1}=0と置くと、

s1λ1−λ2s2λ2−λ3⋯snλn−λn+1s_1^{\lambda_1-\lambda_2}s_2^{\lambda_2-\lambda_3}\cdots s_n^{\lambda_n-\lambda_{n+1}}

の先頭単項式はα1λ1⋯αnλn\alpha_1^{\lambda_1}\cdots\alpha_n^{\lambda_n}であり、その係数は11である。よってffからこの積のcc倍を引くと、対称性を保ったまま先頭単項式が小さくなる。途中に現れる単項式の次数はffの次数を超えず、そのような指数列は有限個しかない。この操作を有限回繰り返すと零多項式になるので、ffはs1,…,sns_1,\ldots,s_nの多項式として表される。

表示が二通りあると仮定し、両者の差を取ると、s1,…,sns_1,\ldots,s_nの零でない多項式FFでF(s1,…,sn)=0F(s_1,\ldots,s_n)=0を満たすものが得られる。FFの単項式s1m1⋯snmns_1^{m_1}\cdots s_n^{m_n}の先頭単項式の指数列は

(m1+⋯+mn, m2+⋯+mn,…, mn)(m_1+\cdots+m_n,\ m_2+\cdots+m_n,\ldots,\ m_n)

である。この指数列からmn,mn−1,…,m1m_n,m_{n-1},\ldots,m_1が順に定まるので、異なる単項式から得られる指数列は異なる。したがってFFの各単項式を基本対称式へ代入したとき、辞書式順序で最大の先頭単項式を他の項が打ち消すことはできない。これはF(s1,…,sn)=0F(s_1,\ldots,s_n)=0に反する。ゆえに表示はただ一通りである。▨

具体的な表示では、基本対称式から得た式を展開することで検算します。

例 1.4. 2文字の基本対称式をs1=α+βs_1=\alpha+\beta、s2=αβs_2=\alpha\betaとする。このとき

α2+β2=(α+β)2−2αβ=s12−2s2\alpha^2+\beta^2=(\alpha+\beta)^2-2\alpha\beta=s_1^2-2s_2

である。また

(α+β)3=α3+β3+3αβ(α+β)(\alpha+\beta)^3=\alpha^3+\beta^3+3\alpha\beta(\alpha+\beta)

であるから

α3+β3=s13−3s1s2\alpha^3+\beta^3=s_1^3-3s_1s_2

となる。右辺を展開すると、それぞれα2+β2\alpha^2+\beta^2とα3+β3\alpha^3+\beta^3に戻る。

2次方程式x2−s1x+s2=0x^2-s_1x+s_2=0の2解がα,β\alpha,\betaならば、α+β=s1\alpha+\beta=s_1、αβ=s2\alpha\beta=s_2である。したがって解を個別に求めなくても、α2+β2=s12−2s2\alpha^2+\beta^2=s_1^2-2s_2とα3+β3=s13−3s1s2\alpha^3+\beta^3=s_1^3-3s_1s_2を係数から計算することができる。

2 交代式

2文字の交代式には、文字の差が必ず因数として現れます。

定理 2.1.f(α,β)f(\alpha,\beta)を実数係数の交代式とする。このとき、実数係数の対称式g(α,β)g(\alpha,\beta)が存在して

f(α,β)=(α−β)g(α,β)f(\alpha,\beta)=(\alpha-\beta)g(\alpha,\beta)

と表される。

証明.ffの二文字に同じ実数ttを代入すると、交代性により

f(t,t)=−f(t,t)f(t,t)=-f(t,t)

である。係数は実数なので2f(t,t)=02f(t,t)=0からf(t,t)=0f(t,t)=0が従う。したがって一変数多項式f(t,t)f(t,t)はすべての実数ttを根にもつので、零多項式である。ffをα\alphaの多項式とみてα=β\alpha=\betaを代入した剰余が零多項式になるので、因数定理により

f(α,β)=(α−β)g(α,β)f(\alpha,\beta)=(\alpha-\beta)g(\alpha,\beta)

を満たす実数係数多項式ggが存在する。

文字を交換すると

f(β,α)=(β−α)g(β,α)=−(α−β)g(β,α)f(\beta,\alpha)=(\beta-\alpha)g(\beta,\alpha) =-(\alpha-\beta)g(\beta,\alpha)

である。一方、交代性と上の分解により

f(β,α)=−f(α,β)=−(α−β)g(α,β)f(\beta,\alpha)=-f(\alpha,\beta)=-(\alpha-\beta)g(\alpha,\beta)

である。零でない多項式α−β\alpha-\betaを消去するとg(β,α)=g(α,β)g(\beta,\alpha)=g(\alpha,\beta)となる。ゆえにggは対称式である。▨

証明でf(t,t)=−f(t,t)f(t,t)=-f(t,t)からf(t,t)=0f(t,t)=0を得たのは、実数の範囲では2≠02\ne0であるためです。1+1=01+1=0となる係数の範囲では、この段階が成り立たず、対称式と交代式の関係も変わります。この違いは「体論入門」が扱います。

例 2.2.α−β\alpha-\betaは交代式であり、その2乗は対称式である。実際、

(α−β)2=(α+β)2−4αβ=s12−4s2(\alpha-\beta)^2=(\alpha+\beta)^2-4\alpha\beta=s_1^2-4s_2

である。右辺を展開するとα2−2αβ+β2\alpha^2-2\alpha\beta+\beta^2に戻る。

閑話休題:「入れ替えても変わらない」の先——ガロアの見た風景 対称式の基本定理は、すべての文字の入れ替えで不変な式を基本対称式で表す。一部の入れ替えだけで不変な式を調べることは、方程式の解を入れ替える操作の研究につながる。

2次方程式の解の公式に現れるs12−4s2\sqrt{s_1^2-4s_2}の根号の中は(α−β)2(\alpha-\beta)^2であり、交代式の 2乗である。解の公式は、対称式である係数から平方根によってα−β\alpha-\betaを取り出し、s1=α+βs_1=\alpha+\betaと組み合わせて二つの解を得る構造をもつ。

19世紀、ガロアは「解の入れ替え全体の集まり」(対称群)とその部分集まりの入れ子構造を追跡すれば、方程式が四則と根号で解けるかどうかを、その方程式のガロア群から判定する理論を築いた。3次・4次方程式には一般形に対する根号公式がある。一方、一般の5次以上の方程式について、係数に四則演算と根号だけを一律に適用する公式は存在しない。この結論は、個々の5次以上の方程式がすべて根号で解けないという意味ではなく、根号で解ける個別例もある。ガロア理論は「体論入門」が扱う。

例題

条件と何を求めるかを確認してから、式と答えの対応を見比べてください。

実数係数の2次または3次方程式を考え、解は複素数の範囲で重複度込みに数える。解と係数の関係と基本対称式を用いて、次の値を求めよ(解を求める必要はない)。

解法の型対称式は基本対称式で表す。α\alpha²+β+\beta² == s1²-2s2、α\alpha³+β+\beta³ == s1³-3s1s2、(α−β)(\alpha-\beta)² == s1²-4s2

  1. 2次方程式 x2−2x+2x^2-2x+2== 0 の2つの解を α,\alpha,β\beta とするとき、1/α1/\alpha² + 1/β1/\beta² の値を求めよ。

    x2−2x+2=0の2解を α, β とするとき1α2+1β2x^{2}-2x+2 = 0 \quad \text{の2解を } \alpha,\ \beta \text{ とするとき} \quad \dfrac{1}{\alpha^{2}} + \dfrac{1}{\beta^{2}}
  2. 2次方程式 x2+4x+6x^2+4x+6== 0 の2つの解を α,\alpha,β\beta とするとき、1/α1/\alpha + 1/β1/\beta の値を求めよ。

    x2+4x+6=0の2解を α, β とするとき1α+1βx^{2}+4x+6 = 0 \quad \text{の2解を } \alpha,\ \beta \text{ とするとき} \quad \dfrac{1}{\alpha} + \dfrac{1}{\beta}
  3. 2次方程式 x2−2x−3x^2-2x-3== 0 の2つの解を α,\alpha,β\beta とするとき、1/α1/\alpha + 1/β1/\beta の値を求めよ。

    x2−2x−3=0の2解を α, β とするとき1α+1βx^{2}-2x-3 = 0 \quad \text{の2解を } \alpha,\ \beta \text{ とするとき} \quad \dfrac{1}{\alpha} + \dfrac{1}{\beta}
  4. 2次方程式 x2+3x+2x^2+3x+2== 0 の2つの解を α,\alpha,β\beta とするとき、α\alpha² + β\beta² の値を求めよ。

    x2+3x+2=0の2解を α, β とするときα2+β2x^{2}+3x+2 = 0 \quad \text{の2解を } \alpha,\ \beta \text{ とするとき} \quad \alpha^{2} + \beta^{2}
  5. 3次方程式 x3−x2−9x+9x^3-x^2-9x+9== 0 の3つの解を α,\alpha,β,\beta,γ\gamma とするとき、α\alpha³ + β\beta³ + γ\gamma³ の値を求めよ。

    x3−x2−9x+9=0の3解を α, β, γ とするときα3+β3+γ3x^{3}-x^{2}-9x+9 = 0 \quad \text{の3解を } \alpha,\ \beta,\ \gamma \text{ とするとき} \quad \alpha^{3} + \beta^{3} + \gamma^{3}
  6. 2次方程式 x2+5x+6x^2+5x+6== 0 の2つの解を α,\alpha,β\beta とするとき、α4\alpha^{4} + β4\beta^{4} の値を求めよ。

    x2+5x+6=0の2解を α, β とするときα4+β4x^{2}+5x+6 = 0 \quad \text{の2解を } \alpha,\ \beta \text{ とするとき} \quad \alpha^{4} + \beta^{4}
  7. 3次方程式 x3+4x2−5x−6x^3+4x^2-5x-6== 0 の3つの解を α,\alpha,β,\beta,γ\gamma とするとき、1/α1/\alpha + 1/β1/\beta + 1/γ1/\gamma の値を求めよ。

    x3+4x2−5x−6=0の3解を α, β, γ とするとき1α+1β+1γx^{3}+4x^{2}-5x-6 = 0 \quad \text{の3解を } \alpha,\ \beta,\ \gamma \text{ とするとき} \quad \dfrac{1}{\alpha} + \dfrac{1}{\beta} + \dfrac{1}{\gamma}
  8. 3次方程式 x3+5x−6x^3+5x-6== 0 の3つの解を α,\alpha,β,\beta,γ\gamma とするとき、α\alpha² + β\beta² + γ\gamma² の値を求めよ。

    x3+5x−6=0の3解を α, β, γ とするときα2+β2+γ2x^{3}+5x-6 = 0 \quad \text{の3解を } \alpha,\ \beta,\ \gamma \text{ とするとき} \quad \alpha^{2} + \beta^{2} + \gamma^{2}
  9. 2次方程式 x2+5x+4x^2+5x+4== 0 の2つの解を α,\alpha,β\beta とするとき、1/α1/\alpha² + 1/β1/\beta² の値を求めよ。

    x2+5x+4=0の2解を α, β とするとき1α2+1β2x^{2}+5x+4 = 0 \quad \text{の2解を } \alpha,\ \beta \text{ とするとき} \quad \dfrac{1}{\alpha^{2}} + \dfrac{1}{\beta^{2}}
  10. 2次方程式 x2−4x+6x^2-4x+6== 0 の2つの解を α,\alpha,β\beta とするとき、1/α1/\alpha² + 1/β1/\beta² の値を求めよ。

    x2−4x+6=0の2解を α, β とするとき1α2+1β2x^{2}-4x+6 = 0 \quad \text{の2解を } \alpha,\ \beta \text{ とするとき} \quad \dfrac{1}{\alpha^{2}} + \dfrac{1}{\beta^{2}}

演習

問題を解いてから「解答・解説」を開けます。

実数係数の2次または3次方程式を考え、解は複素数の範囲で重複度込みに数える。解と係数の関係と基本対称式を用いて、次の値を求めよ(解を求める必要はない)。

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