1 方針を選ぶ順序
問題を読んだ直後に確かめる項目を、確かめる順に並べます。
- 各変数の範囲を読みます。正の実数か非負の実数かによって、使うことができる道具と等号条件が変わります。
- 同次式かどうかを調べます。同次式であれば、a+b+c=1のような条件を課して変数を減らすことができます。
- 等号が成り立つ点を予想します。a=b=cで等号が成り立つなら、対称な評価を優先します。
1つの変数だけが極端な値になる点で等号が成り立つなら、並べ替えや端点での評価を疑います。
- 式の形から道具を選びます。次の対応が目安になります。
| 式の形 |
選ぶ道具 |
| 左辺と右辺の差が対称な2次式 |
差の平方の和へ分解する |
| 分母が正である分数の和 |
分子を平方にして、分数の形のコーシー・シュワルツの不等式を当てる |
| 3次の対称式で、境界(1つの変数が0)でも等号が起こりうる |
シュールの不等式を疑う |
| 変数に大小の順序を仮定してよい対称式 |
大小を仮定したうえで差を因数分解する |
- 評価を何段つなぐかを決めます。二段階以上つなぐ場合は、各段階の等号条件が同時に成り立つかどうかを、結論を書く前に確かめます。
不等式を一方向へ変形するときは、どの条件を使ったかを書きます。負の量を掛ける、分母の符号を確かめずに払う、平方根を同値性の確認なしに外す、といった操作は不等号の向きを保ちません。
2 平方和へ分解する
正の実数a,b,cに対して
a2+b2+c2≥ab+bc+ca
を示します。差を2倍すると
2(a2+b2+c2−ab−bc−ca)=(a−b)2+(b−c)2+(c−a)2≥0
となります。左辺が0になるには3つの平方がすべて0になる必要があるので、等号が成り立つ条件はa=b=cです。なお、この変形ではa,b,cの符号を使っていないので、主張は実数a,b,cに対してそのまま成り立ちます。
差が対称な2次式である場合、この分解が最初に試す手です。証明の途中で等号が成り立つ条件まで確定させておくと、次の例のように複数の評価をつなぐときに役立ちます。
3 分数の形のコーシー・シュワルツで評価をつなぐ
正の実数a,b,cに対して
b+ca+c+ab+a+bc≥23
を示します。分母を通分して展開する方法もありますが、ここでは分子を平方にして分数の形のコーシー・シュワルツの不等式を当て、評価を二段階に分けます。
第1段(分数の形を当てる)。各項の分子と分母に同じ文字を掛けて分子を平方にすると
cyc∑b+ca=cyc∑a(b+c)a2 ≥ a(b+c)+b(c+a)+c(a+b)(a+b+c)2=2(ab+bc+ca)(a+b+c)2
となります。分母のa(b+c)などはすべて正なので、分数の形を適用する条件を満たします。この段階の等号はa(b+c)a=b(c+a)b=c(a+b)c、すなわちb+c=c+a=a+b、すなわちa=b=cのときに限って成り立ちます。
第2段(平方和の結果を使う)。前の例で示したa2+b2+c2≥ab+bc+caの両辺に2(ab+bc+ca)を加えると(a+b+c)2≥3(ab+bc+ca)が得られます。ab+bc+ca>0なので両辺をこの正の数で割ることができ、
2(ab+bc+ca)(a+b+c)2 ≥ 2(ab+bc+ca)3(ab+bc+ca)=23
となります。この段階の等号もa=b=cのときに限って成り立ちます。
二段の接続。二つの評価の等号条件はどちらもa=b=cであり、同時に成り立ちます。したがって、もとの不等式の等号はa=b=cのときに限って成り立ちます。片方の等号条件だけを見て結論を出さないことが、この型の問題での要点です。
4 同次式は正規化してよい
多項式F(a,b,c)がd次の同次式であるとは、すべての正の実数tについてF(ta,tb,tc)=tdF(a,b,c)が成り立つことをいいます。示したい不等式F≥Gの両辺が同じ次数dの同次式であれば、変数をすべてt倍したときに両辺はともにtd倍になるので、不等式の成否は変わりません。したがって、a+b+c=1のような条件を一つ課して考えてよいことになります。
逆に、条件つきの不等式を同次式の形へ戻すこともできます。たとえばa+b+c=1という条件のもとでの
ab+bc+ca≤31
は、条件を外した同次形
ab+bc+ca≤3(a+b+c)2
と同値です。前者から後者を出すには、a+b+c>0のときにa′=a+b+caなどとおいてa′+b′+c′=1の場合へ帰着させます。a+b+c=0のときは、a,b,c≥0よりa=b=c=0となり、同次形の両辺はともに0で成り立ちます。後者から前者を出すには、a+b+c=1を代入します。どちらの形で扱うかは、計算が短くなるほうを選びます。
5 等号が成り立つ条件から逆算する
非負の実数a,b,cがa+b+c=1を満たすとき
ab+bc+ca≤31
を示します。等号が成り立つ点をa=b=c=31と予想します。この点で0になる対称な非負量として差の平方の和が候補になるので、示すべき式をその形へ変形することを目標にします。実際、a+b+c=1より
1−3(ab+bc+ca)=(a+b+c)2−3(ab+bc+ca)=21{(a−b)2+(b−c)2+(c−a)2}≥0
となり、ab+bc+ca≤31が従います。等号は3つの平方がすべて0になるとき、すなわちa=b=cのときに限り、条件a+b+c=1と合わせてa=b=c=31です。予想と一致します。
同じ結論は、相加平均と相乗平均の関係からab≤2a2+b2などを3つ足してab+bc+ca≤a2+b2+c2を得る道筋でも出ます。等号が成り立つ点を先に決めておくと、どちらの道筋でも、示すべき非負量が何であるかがはじめから見えます。
6 変数の順序を仮定する:シュールの不等式
非負の実数a,b,cに対して
a3+b3+c3+3abc≥sym∑a2b
を示します。右辺はab(a+b)+bc(b+c)+ca(c+a)と書けるので、左辺と右辺の差は
a(a−b)(a−c)+b(b−a)(b−c)+c(c−a)(c−b)
に等しくなります。この式は3文字のどの2つを入れ替えても変わらないので、a≥b≥cと仮定して示せば十分です。この仮定のもとで、はじめの2項をまとめると
a(a−b)(a−c)+b(b−a)(b−c)=(a−b){a(a−c)−b(b−c)}
となり、さらにa(a−c)−b(b−c)=(a−b)(a+b−c)ですから、差の全体は
(a−b)2(a+b−c)+c(a−c)(b−c)
と書けます。a≥b≥c≥0よりa+b−c≥a−c≥0、c≥0、a−c≥0、b−c≥0なので、
2つの項はどちらも0以上です。よって差は0以上であり、主張が示されました。
等号が成り立つのは2つの項がともに0になるときです。a≥b≥c≥0のもとで場合を分けると、a=b=cのとき、またはa=bかつc=0のときに限られます。文字の入れ替えを戻せば、一般には「3つが等しい」か「2つが等しく残る1つが0である」かのいずれかです。a,b,cをすべて正の実数に限れば、等号が成り立つ条件はa=b=cだけになります。境界にあたるc=0の場合を忘れると、等号条件を取り違えます。
7 発展問題と完全解答
非負の実数a,b,cがa+b+c=3を満たすとき
a2+b2+c2+abc≥3
を示せ。
7.1 着眼点
abcは非負なので、まずa2+b2+c2だけで3以上になるかを調べます。和が固定されているので、平方和を下から評価する道具を当てることができます。abc≥0は落とすだけでよいので、境界を別に評価する必要はありません。
7.2 完全解答
分数の形のコーシー・シュワルツの不等式を、分子をa,b,c、分母をすべて1として適用すると
a2+b2+c2≥3(a+b+c)2=39=3
となります。またa,b,c≥0よりabc≥0です。両者を足して
a2+b2+c2+abc≥3
が得られます。
さらに、この評価から等号が実際には成り立たないことが分かります。等号が成り立つには、第1の評価の等号条件a=b=c=1と、第2の評価の等号条件abc=0の両方が必要です。ところがa=b=c=1のときabc=1=0なので、2つの条件は同時には成り立ちません。したがって
a2+b2+c2+abc>3
であり、もとの不等式は等号を含まない形で成り立ちます。
この議論から分かるのは、3が左辺の下界であることと、その下界に左辺が到達しないことの2つだけです。左辺の最小値そのものを求めるには、別の議論が必要になります。
7.3 典型的な失敗
- 平方和の評価の等号条件だけを見て、a=b=c=1をもとの式の等号条件とすることが誤りです。つないだ評価の等号は、各段階の等号条件が同時に成り立つときにしか生じません。
- 等号が生じないことを確かめずに「等号はa=b=c=1」と書くと、最小値を問う問題で答えを誤ります。
- 下界が得られたことと、その下界が最小値であることは別の主張です。到達することを確かめるまで、最小値であるとは言えません。
7.4 条件を変えた類題
非負の実数a,b,cがa+b+c=3を満たすとき、a2+b2+c2+λabc≥3がどのλ≥0について成り立つかを調べることができます。λを大きくすると左辺は大きくなるので、成否の境目がどこにあるかを考えると、上の解答のどこが効いていたかが分かります。
8 演習
- 実数x,y,zに対するx2+y2+z2≥xy+yz+zxを、本文の平方和への分解とは別の方法で2通り示せ。
- 正の実数a,b,cに対しb+ca2+c+ab2+a+bc2≥2a+b+cを示し、等号が成り立つ条件を求めよ。
- 非負の実数a,b,cに対するシュールの不等式a3+b3+c3+3abc≥∑syma2bの等号が成り立つ条件を、1つの変数が0である場合まで含めて分類せよ。
- 正の実数a,b,cがabc=1を満たすときa+b+c≥3を、3変数の相加平均と相乗平均の関係を用いる方法と、a=x3、b=y3、c=z3(x,y,z>0)とおいてx3+y3+z3−3xyzを因数分解する方法の
2通りで示せ。
- 正の実数a,b,cに対しa2+ab+b2a2+b2+bc+c2b2+c2+ca+a2c2≥1が成り立つ。この不等式に分数の形のコーシー・シュワルツの不等式をそのまま当てると、得られる下界がつねに1以下になり、a=b=cの場合を除いて1に届かないことを示せ。また、その理由を本文の平方和への分解の結果と対応させて説明せよ。
- 各段階の等号条件が食い違う評価の連鎖の例を自分で作り、最終的な等号条件を誤って答えてしまう理由を説明せよ。