1 用いる先行結果
証明で用いる先行結果の仮定と結論を記録する。
2 正規冪零部分群の積
証明方針は次のとおりである。各素数pに対し、MとNの Sylowp部分群をMpとNpと書く。冪零性により、MpとNpはそれぞれの群で唯一の
Sylow 部分群である。したがってMpとNpはGの正規部分群である。積MpNpの位数が∣MN∣を割る最大のpの冪であることを示し、MNのすべての Sylow 部分群が正規であることへ帰着する。
定理 2.1 (Fitting の積定理).Gを有限群とし、M,N⊴Gを冪零部分群とする。このときMN⊴Gであり、MNは冪零群である。
証明.M,N⊴GなのでMNはGの正規部分群である。
pを任意の素数とする。pが群の位数を割らない場合には自明部分群を Sylowp部分群とみなし、MとNの Sylowp部分群をそれぞれMpとNpと書く。§E7.22 定理 4.1により、Mp⊴Mである。§E7.17 定理 2.1により Sylowp部分群はすべて共役なので、MpはMの唯一の Sylowp部分群である。Mの任意の自己同型は Sylowp部分群を
Sylowp部分群へ移すため、MpはMの特性部分群である。M⊴GからMp⊴Gが従う。Npについても、Np⊴Nと Sylowp部分群の共役性からNpはNの唯一の Sylowp部分群であり、Nの特性部分群である。N⊴GなのでNp⊴Gとなる。
したがってPp=MpNpはGの正規部分群である。また
∣Pp∣=∣Mp∩Np∣∣Mp∣∣Np∣はpの冪なので、PpはMNのp部分群である。
正整数aを割る最大のpの冪をapと書く。とくに、有限群Xに対して∣X∣pは∣X∣を割る最大のpの冪である。M∩Nの Sylowp部分群Rを取る。RはMとNのp部分群なので、§E7.17 定理 2.1とMp,Npの一意性により
R≤Mp∩Npとなる。一方、Mp∩NpはM∩Nのp部分群である。Rの位数は∣M∩N∣を割る最大のpの冪なので、上の包含と合わせて
Mp∩Np=R,∣Mp∩Np∣=∣M∩N∣pを得る。したがって
∣Pp∣=∣M∩N∣p∣M∣p∣N∣p=(∣M∩N∣∣M∣∣N∣)p=∣MN∣p.ゆえにPpはMNの Sylowp部分群である。Pp⊴Gなので、とくにPp⊴MNである。任意の素数pについてMNの Sylowp部分群が正規であるから、§E7.22 定理 4.1によりMNは冪零群である。▨
正規性を仮定しなければ、二つの冪零部分群の積は部分群になるとは限らない。
例 2.2 (正規性を外した場合).G=S3とし、
H=⟨(12)⟩,K=⟨(23)⟩と置く。HとKは位数2の巡回群なので冪零である。しかし、集合としての積は
HK={e,(12),(23),(123)}であり、4個の元をもつ。4は∣S3∣=6を割らないため、§E7.6 定理 2.1によりHKは部分群でない。実際、HとKはS3の正規部分群ではない。
3 Fitting 部分群
有限群には部分群が有限個しかないため、積定理を有限回適用することができる。
定義 3.1.Gを有限群とする。Gの正規冪零部分群全体の集合をN(G)とし、
F(G)=N∈N(G)∏Nと定める。この部分群をGの Fitting 部分群 (Fitting subgroup) という。自明部分群はN(G)に属する。
定義に現れる積が正規冪零部分群であることは、定義ではなく次の定理の内容である。
証明方針は次のとおりである。有限性を用いて、Gの正規冪零部分群を有限個に列挙する。定理 2.1を有限回適用し、その積F(G)が正規冪零部分群であり、列挙した各部分群を含むことを示す。次に、Gの任意の自己同型が正規冪零部分群全体を置換することを確認する。最後に、その自己同型が積F(G)を保つことから特性部分群性を得る。
定理 3.2.Gを有限群とする。このときF(G)はGの正規冪零部分群であり、すべての正規冪零部分群を含む。したがってF(G)は包含関係に関して最大の正規冪零部分群であり、しかもGの特性部分群である。
証明.Gは有限群なのでN(G)は有限集合である。その元をN1,…,Nsとする。定理 2.1を繰り返し適用すると、
N1,N1N2,…,N1⋯Ns=F(G)はすべてGの正規冪零部分群である。定義から、任意のN∈N(G)はF(G)に含まれる。ゆえにF(G)は最大の正規冪零部分群である。
α∈Aut(G)とする。N⊴Gならばα(N)⊴Gである。また、同型写像は Sylow 部分群を Sylow 部分群へ移し、正規性を保つ。したがって§E7.22 定理 4.1により、Nが冪零ならばα(N)も冪零である。ゆえにαはN(G)をそれ自身へ全単射に移し、
α(F(G))=N∈N(G)∏α(N)=N∈N(G)∏N=F(G)を満たす。したがってF(G)はGの特性部分群である。▨
4 有限可解群における自己中心化性
定義 4.1. 群Gと部分群H≤Gに対して
CG(H)={g∈G∣gh=hg がすべての h∈H について成り立つ}と定め、Hの中心化群 (centralizer of a subgroup) と呼ぶ。
命題 4.2. 群Gの任意の部分群H≤Gに対して、CG(H)はGの部分群である。
証明. 定義から
CG(H)=h∈H⋂CG(h)であり、§E7.12 命題 1.3により右辺の各集合は部分群である。部分群の共通部分は部分群であるから、CG(H)≤Gとなる。
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有限可解群では、極小正規部分群が Fitting 部分群の非自明な部分を与える。
命題 4.3.Gを非自明な有限可解群とする。このとき
F(G)={eG}.
証明. 有限性により、Gは包含関係に関して極小な非自明正規部分群Vをもつ。§E7.30 補題 2.1により、ある素数pに対してVは初等アーベルp群である。とくにVはアーベル群なので、その上中心列は
{eG}≤V=Z(V)でVに達し、Vは冪零群である。V⊴Gと定理 3.2から
{eG}=V≤F(G)を得る。▨
中心化群の定理に必要となる有限群の局所補題を先に証明する。
補題 4.4.Lを有限群、Z≤Z(L)を部分群とする。ある素数pに対してL/Zがp群ならば、Lは冪零群である。
証明方針は次のとおりである。Zのp以外の Sylow 部分群を掛け合わせて、Zのp′部分Rを作る。Lの Sylowp部分群PとRの位数の積は∣L∣になる。Rは中心に含まれるためL=PRからP⊴Lが従い、他の Sylow 部分群もRに含まれて中心的になる。
証明.Zはアーベル群である。q=pを∣Z∣の素因数とし、Zの Sylowq部分群をRqと書く。Zにおける共役は自明なので、§E7.17 定理 2.1によりRqは一意である。異なるRqは互いに可換し、位数が互いに素なので、
R=q∣∣Z∣q=p∏RqはZの位数のp以外の素数冪をすべて含む部分群である。R≤Z(L)なのでR⊴Lである。
PをLの Sylowp部分群とする。∣L/Z∣はpの冪なので、∣L∣のp以外の部分は∣R∣に等しい。したがって
P∩R={eL},∣P∣∣R∣=∣L∣である。R⊴LなのでPRは部分群であり、位数の等式からL=PRとなる。任意のx∈Lをx=ur(u∈P, r∈R)と書くと、R≤Z(L)から
xPx−1=uPu−1=Pとなる。ゆえにP⊴Lである。
q=pについて、Rqの位数は∣L∣を割る最大のqの冪なので、RqはLの Sylowq部分群である。しかもRq≤Z(L)なのでRq⊴Lである。したがってLのすべての Sylow 部分群は正規であり、§E7.22 定理 4.1によりLは冪零群である。▨
証明方針は次のとおりである。C=CG(F(G))と置くと、C∩F(G)=Z(F(G))である。包含が成り立たないと仮定し、商群G/Z(F(G))においてC/Z(F(G))に含まれる極小な非自明正規部分群を取る。その部分群は初等アーベルp群である。逆像はF(G)の中心によるp群拡大なので冪零となり、F(G)の最大性と矛盾する。
定理 4.5.Gを非自明な有限可解群とする。このとき
CG(F(G))≤F(G).
証明.F=F(G)、C=CG(F)、Z=Z(F)と置く。定理 3.2によりFはGの特性部分群である。したがって
gCg−1=CG(gFg−1)=CG(F)=Cが任意のg∈Gについて成り立ち、C⊴Gである。また、ZはFの特性部分群なのでZ⊴Gであり、
C∩F=Z(1)である。実際、C∩FはFのすべての元と可換するFの元全体である。
C≤Fと仮定する。(1) によりC/ZはG/Zの非自明な正規部分群である。§E7.21 定理 3.2によりG/Zは有限可解群である。C/Zに含まれるG/Zの非自明な正規部分群のうち、包含関係に関して極小なものをL/Zとする。L/Zに含まれるG/Zの非自明な正規部分群はC/Zにも含まれ、選択時の極小性によりL/Z自身に一致する。したがってL/ZはG/Zの極小な非自明正規部分群である。§E7.30 補題 2.1をG/Zに適用すると、ある素数pに対してL/Zは初等アーベルp群である。
L/Z≤C/ZなのでL≤Cである。ゆえにLのすべての元はFを中心化する。とくにZ≤Fから
Z≤Z(L)となる。補題 4.4によりLは冪零群である。またL/Z⊴G/ZなのでL⊴Gである。したがって定理 3.2からL≤Fが従う。一方、L≤Cなので
(1) からL≤C∩F=Zとなる。包含L≤ZはL/Zが非自明であることに反する。
したがってC≤Fである。▨
5 例と仮定の境界
S3では Fitting 部分群を直接に決定することができる。
例 5.1 (S3の Fitting 部分群).A3⊴S3は位数3の巡回群なので冪零であり、
A3≤F(S3)である。S3の正規部分群が一つの互換を含めば、共役によって三つの互換をすべて含み、それらが生成するS3全体に一致する。しかし、S3の三つの Sylow2部分群は正規でないので、§E7.22 定理 4.1によりS3は冪零でない。したがってS3の任意の正規冪零部分群はA3に含まれ、
F(S3)=A3となる。S3の元が(123)と可換するならば、その元は1の像によって一意に定まり、1の像には1,2,3の三通りがある。三つの像に対応する元はe,(123),(132)なので、
CS3(F(S3))=A3=F(S3)である。
自己中心化性では、可解性を除くことができない。
例 5.2 (非可解群における境界).§E7.19 定理 4.1によりA5の正規部分群は{e}とA5だけである。A5が冪零ならば、§E7.22 定理 4.1により、その
Sylow5部分群は正規になる。§E7.17 定理 1.2により Sylow5部分群は存在し、その位数は5であるから非自明な真の部分群である。非自明な真の正規部分群の存在はA5の単純性に反する。したがってA5は冪零でなく、
F(A5)={e}である。よって
CA5(F(A5))=A5≤F(A5).この例は、定理 4.5の可解性の仮定が必要であることを示す。
6 演習
問題 6.1.
- 定理 2.1の記号を用いる。Mp∩NpがM∩Nの
Sylowp部分群であることを示し、∣MpNp∣=∣MN∣pを導け。
- 有限群Gのすべての正規冪零部分群の積が冪零であることを、有限個の部分群に対する帰納法として再構成せよ。また、自己同型がこの積を保つ理由を説明せよ。
- 補題 4.4で、L=PRからP⊴Lが従う箇所を証明せよ。その後、L/Zに含まれるG/Zの非自明な正規部分群だけを比較してL/Zの極小正規性を導き、この補題が定理 4.5の矛盾にどのように用いられるかを説明せよ。
- F(S3)とF(A5)を求め、それぞれの中心化群を計算せよ。二つの結果が可解性の仮定とどのように対応するかを述べよ。
解答 (演習の要点).
第1問では、M∩Nの Sylowp部分群をRとすると、Sylow 部分群への包含とMp,Npの一意性からR≤Mp∩Npを得る。逆向きの位数の不等式により両者は一致する。積の位数公式をMpNpとMNに適用すると、p部分が一致する。
第2問では、有限群が有限個の部分群しかもたないことを用いて正規冪零部分群を列挙し、定理 2.1を一因子ずつ適用する。自己同型は正規性と冪零性を保つため、正規冪零部分群全体を置換する。
第3問では、x=ur∈PR(u∈P, r∈R)とR≤Z(L)からxPx−1=uPu−1=Pを得る。L/Zに含まれるG/Zの非自明な正規部分群はC/Zにも含まれるので、C/Z内での選択時の極小性からL/Z自身に一致する。自己中心化性の証明では、L/Z(F(G))がp群であり、Z(F(G))≤Z(L)なのでLが冪零となる。最大性からL≤F(G)となることがL/Z(F(G))={e}と矛盾する。
第4問ではF(S3)=A3かつCS3(A3)=A3である。A5は単純で冪零でないためF(A5)={e}であり、その中心化群はA5全体である。前者は可解群の定理と一致し、後者は可解性を外すと結論が成り立たないことを示す。▨