§E7.10群作用と軌道

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群作用は、群の各元を集合の対称性として解釈する枠組みである。群作用を用いると、群準同型、剰余類、軌道の大きさを一つの言葉で扱うことができる。本稿では左作用を採用し、積と写像の合成を

(gh)⋅x=g⋅(h⋅x),(f∘g)(x)=f(g(x)) (gh)\cdot x=g\cdot(h\cdot x),\qquad (f\circ g)(x)=f(g(x))

と定める。

1 集合の対称群

定義 1.1. 集合XXからXXへの全単射全体をSym⁡(X)\operatorname{Sym}(X)と書き、その積を写像の合成によって定める。集合XXが有限であるとは限らない。Sym⁡(X)\operatorname{Sym}(X)をXXの対称群 (symmetric group of a set) と呼ぶ。

命題 1.2. 写像の合成を積とすると、Sym⁡(X)\operatorname{Sym}(X)は群をなす。

証明. 全単射の合成は全単射であるから、合成について閉じている。写像の合成は結合的である。恒等写像id⁡X\operatorname{id}_Xは合成の単位元であり、全単射σ\sigmaの逆写像σ−1\sigma^{-1}もXXからXXへの全単射である。したがって、群をなす条件がすべて成り立つ。▨

特にX={1,…,n}X=\{1,\ldots,n\}のとき、Sym⁡(X)\operatorname{Sym}(X)は対称群SnS_nである。

2 群作用と準同型

定義 2.1. 群GGと集合XXに対し、写像

G×X⟶X,(g,x)⟼g⋅x G\times X\longrightarrow X,\qquad (g,x)\longmapsto g\cdot x

が次の二条件を満たすとき、この写像をGGのXXへの左作用 (left group action) と呼ぶ。

e⋅x=x,(gh)⋅x=g⋅(h⋅x)(g,h∈G, x∈X). e\cdot x=x,\qquad (gh)\cdot x=g\cdot(h\cdot x) \quad(g,h\in G,\ x\in X).

このとき、XXを GG-集合 (G-set) と呼ぶ。

各g∈Gg\in Gに対し、ρ(g) ⁣:X→X\rho(g)\colon X\to Xをρ(g)(x)=g⋅x\rho(g)(x)=g\cdot xと定める。作用の第二公理から

ρ(gh)=ρ(g)∘ρ(h) \rho(gh)=\rho(g)\circ\rho(h)

が成り立つ。

証明では、まず作用の公理からρ(g−1)\rho(g^{-1})がρ(g)\rho(g)の逆写像であることを示し、ρ(g)∈Sym⁡(X)\rho(g)\in\operatorname{Sym}(X)を確認する。次に、作用の積の公理をρ(gh)=ρ(g)∘ρ(h)\rho(gh)=\rho(g)\circ\rho(h)と読み替えて準同型性を得る。逆向きでは、準同型ρ\rhoの値をg⋅x=ρ(g)(x)g\cdot x=\rho(g)(x)として作用を構成し、単位元と積の二公理を確認する。最後に、二つの構成が互いに逆であることを確かめる。

定理 2.2. 群GGの集合XXへの左作用と、群準同型

ρ ⁣:G⟶Sym⁡(X) \rho\colon G\longrightarrow \operatorname{Sym}(X)

とは一対一に対応する。対応はρ(g)(x)=g⋅x\rho(g)(x)=g\cdot xで与えられる。

証明. 左作用が与えられているとする。任意のg∈Gg\in Gに対し、

ρ(g)∘ρ(g−1)=ρ(gg−1)=id⁡X,ρ(g−1)∘ρ(g)=ρ(g−1g)=id⁡X \rho(g)\circ\rho(g^{-1})=\rho(gg^{-1})=\operatorname{id}_X, \qquad \rho(g^{-1})\circ\rho(g)=\rho(g^{-1}g)=\operatorname{id}_X

であるから、ρ(g)\rho(g)は全単射である。また、ρ(gh)=ρ(g)∘ρ(h)\rho(gh)=\rho(g)\circ\rho(h)であるから、ρ\rhoは群準同型である。

逆に、群準同型ρ ⁣:G→Sym⁡(X)\rho\colon G\to\operatorname{Sym}(X)が与えられたとする。g⋅x=ρ(g)(x)g\cdot x=\rho(g)(x)と定める。群準同型は単位元を単位元へ写すから、

e⋅x=ρ(e)(x)=id⁡X(x)=x e\cdot x=\rho(e)(x)=\operatorname{id}_X(x)=x

である。また、

(gh)⋅x=ρ(gh)(x)=(ρ(g)∘ρ(h))(x)=g⋅(h⋅x) (gh)\cdot x=\rho(gh)(x) =(\rho(g)\circ\rho(h))(x) =g\cdot(h\cdot x)

である。したがって左作用が得られる。二つの構成は互いに逆である。▨

定義 2.3. 作用に対応する準同型をρ ⁣:G→Sym⁡(X)\rho\colon G\to\operatorname{Sym}(X)とする。

  1. 作用の核 (kernel of an action) を ker⁡ρ={g∈G∣g⋅x=x がすべての x∈X について成り立つ}\ker\rho=\{g\in G\mid g\cdot x=x\text{ がすべての }x\in X\text{ について成り立つ}\} と定める。
  2. ker⁡ρ={e}\ker\rho=\{e\}である作用を忠実な作用 (faithful action) と呼ぶ。
  3. 任意のx,y∈Xx,y\in Xに対してg⋅x=yg\cdot x=yを満たすg∈Gg\in Gが存在する作用を可移な作用 (transitive action) と呼ぶ。

命題 2.4. 作用の核ker⁡ρ\ker\rhoはGGの正規部分群である。

証明. 作用の核が部分群であることを一段階部分群判定法で示す。単位元eeはすべてのx∈Xx\in Xを固定するから、ker⁡ρ\ker\rhoは空でない。a,b∈ker⁡ρa,b\in\ker\rhoとすると、任意のx∈Xx\in Xに対して

(ab−1)⋅x=a⋅(b−1⋅x)=a⋅x=x (ab^{-1})\cdot x=a\cdot(b^{-1}\cdot x)=a\cdot x=x

である。ここで、bbがすべての点を固定することからb−1b^{-1}もすべての点を固定することを用いた。したがってker⁡ρ≤G\ker\rho\leq Gである。

さらに、k∈ker⁡ρk\in\ker\rho、g∈Gg\in Gとする。任意のx∈Xx\in Xに対し、

(gkg−1)⋅x=g⋅(k⋅(g−1⋅x))=g⋅(g−1⋅x)=x (gkg^{-1})\cdot x =g\cdot\bigl(k\cdot(g^{-1}\cdot x)\bigr) =g\cdot(g^{-1}\cdot x)=x

である。よってgkg−1∈ker⁡ρgkg^{-1}\in\ker\rhoであり、ker⁡ρ⊴G\ker\rho\trianglelefteq Gが成り立つ。▨

例 2.5 (忠実でない作用). 任意の群GGと空でない集合XXに対し、g⋅x=xg\cdot x=xと定めると群作用になる。この自明な作用の核はGG全体である。したがって、GGが自明群でない限り、この作用は忠実でない。一方、XXが一点集合ならば、この作用は可移である。したがって、可移性は忠実性を含意しない。

例 2.6 (忠実だが可移でない作用).C2={e,τ}C_2=\{e,\tau\}とX={0,1,2}X=\{0,1,2\}に対し、

e⋅x=x,τ⋅0=1,τ⋅1=0,τ⋅2=2 e\cdot x=x,\qquad \tau\cdot0=1,\quad \tau\cdot1=0,\quad \tau\cdot2=2

と定める。単位元の作用則は定義から成り立つ。C2C_2で積に関する非自明な場合はτ2=e\tau^2=eだけであり、τ\tauを二回作用させると各点が元に戻るため、

τ⋅(τ⋅x)=e⋅x=x \tau\cdot(\tau\cdot x)=e\cdot x=x

がすべてのx∈Xx\in Xについて成り立つ。したがって、この式は左作用を定める。τ\tauは00を動かすため作用の核は{e}\{e\}であり、この作用は忠実である。一方、軌道は

C2⋅0={0,1},C2⋅2={2} C_2\cdot0=\{0,1\},\qquad C_2\cdot2=\{2\}

の二つであるから可移ではない。よって、忠実性と可移性は互いに独立した性質である。

3 軌道と安定化群

定義 3.1.GGがXXに作用し、x∈Xx\in Xであるとする。

G⋅x={g⋅x∣g∈G} G\cdot x=\{g\cdot x\mid g\in G\}

をxxの軌道 (orbit) と呼び、

Gx={g∈G∣g⋅x=x} G_x=\{g\in G\mid g\cdot x=x\}

をxxの安定化群 (stabilizer) と呼ぶ。

命題 3.2.XX上の関係を

x∼y⟺y=g⋅x を満たす g∈G が存在する x\sim y\quad\Longleftrightarrow\quad y=g\cdot x\text{ を満たす }g\in G\text{ が存在する}

と定める。この関係は同値関係であり、同値類は軌道である。したがって、軌道全体はXXを分割する。

証明.x=e⋅xx=e\cdot xであるから反射律が成り立つ。y=g⋅xy=g\cdot xならばx=g−1⋅yx=g^{-1}\cdot yであるから対称律が成り立つ。y=g⋅xy=g\cdot xかつz=h⋅yz=h\cdot yならばz=(hg)⋅xz=(hg)\cdot xであるから推移律が成り立つ。xxの同値類は定義からG⋅xG\cdot xに等しい。▨

命題 3.3. 各x∈Xx\in Xに対してGx≤GG_x\leq Gが成り立つ。

証明.e⋅x=xe\cdot x=xであるからe∈Gxe\in G_xである。a,b∈Gxa,b\in G_xならば、

(ab−1)⋅x=a⋅(b−1⋅x)=a⋅x=x (ab^{-1})\cdot x=a\cdot(b^{-1}\cdot x)=a\cdot x=x

である。したがって、一段階部分群判定法によりGx≤GG_x\leq Gである。▨

安定化群の左剰余類全体をG/GxG/G_xと書く。次の定理は、軌道の点と剰余類を対応させる。

証明では、左剰余類gGxgG_xを軌道の点g⋅xg\cdot xへ送る写像を構成する。剰余類の一致条件を用いて代表元独立性を示し、同じ条件を逆向きに用いて単射性を示す。軌道の定義から全射性を得るため、この写像は全単射となる。最後に、有限群の場合には Lagrange の定理を用いて指数を位数の商へ書き換える。

定理 3.4 (軌道安定化群定理).GGがXXに作用し、x∈Xx\in Xであるとする。写像

Φ ⁣:G/Gx⟶G⋅x,Φ(gGx)=g⋅x \Phi\colon G/G_x\longrightarrow G\cdot x,\qquad \Phi(gG_x)=g\cdot x

は全単射である。したがって

∣G⋅x∣=[G:Gx] |G\cdot x|=[G:G_x]

が成り立つ。特にGGが有限群ならば、

∣G⋅x∣=∣G∣∣Gx∣ |G\cdot x|=\frac{|G|}{|G_x|}

である。

証明. まずΦ\Phiが剰余類の代表元によらないことを示す。gGx=hGxgG_x=hG_xならばh−1g∈Gxh^{-1}g\in G_xであるから、

g⋅x=h⋅((h−1g)⋅x)=h⋅x g\cdot x=h\cdot\bigl((h^{-1}g)\cdot x\bigr)=h\cdot x

である。よってΦ\Phiは矛盾なく定まる。

Φ(gGx)=Φ(hGx)\Phi(gG_x)=\Phi(hG_x)ならばg⋅x=h⋅xg\cdot x=h\cdot xである。両辺にh−1h^{-1}を作用させると(h−1g)⋅x=x(h^{-1}g)\cdot x=xとなるから、h−1g∈Gxh^{-1}g\in G_xである。したがってgGx=hGxgG_x=hG_xであり、Φ\Phiは単射である。

任意のy∈G⋅xy\in G\cdot xは、あるg∈Gg\in Gを用いてy=g⋅xy=g\cdot xと表される。このときy=Φ(gGx)y=\Phi(gG_x)であるから、Φ\Phiは全射である。以上によりΦ\Phiは全単射であり、最初の等式が従う。有限群の場合には Lagrange の定理から[G:Gx]=∣G∣/∣Gx∣[G:G_x]=|G|/|G_x|である。▨

例 3.5 (正三角形の頂点への作用). 正三角形の回転と鏡映からなる群をGGとし、頂点集合をXXとする。この作用は可移である。頂点vvを固定する元は恒等変換とvvを通る軸に関する鏡映の二つであるから、∣Gv∣=2|G_v|=2である。群の位数は66であるため、軌道安定化群定理から

∣G⋅v∣=62=3 |G\cdot v|=\frac{6}{2}=3

を得る。得られた軌道の要素数33は、頂点の個数と一致する。

4 球面と射影直線への作用

複素二次元ベクトル空間の一次元部分空間全体をCP1\mathbb{CP}^1と書く。非零ベクトル(z0,z1)(z_0,z_1)が張る一次元部分空間を[z0:z1][z_0:z_1]と表す。

命題 4.1. 商群

PGL⁡2(C)=GL⁡2(C)/{λI∣λ∈C×}\operatorname{PGL}_2(\mathbb C) =\operatorname{GL}_2(\mathbb C)/\{\lambda I\mid \lambda\in\mathbb C^\times\}

は、

[A]⋅[z0:z1]=[A(z0,z1)T][A]\cdot[z_0:z_1]=[A(z_0,z_1)^{\mathsf T}]

によってCP1\mathbb{CP}^1に忠実に作用する。アフィン座標z=[z:1]z=[z:1]では、

[A]=[(abcd)]⟹z⟼az+bcz+d[A]= \left[ \begin{pmatrix} a&b\\ c&d \end{pmatrix} \right] \quad\Longrightarrow\quad z\longmapsto\frac{az+b}{cz+d}

となる。右辺は分母が零になる点を∞=[1:0]\infty=[1:0]へ送り、∞\inftyの像も同次座標によって定める。この変換を Möbius 変換と呼ぶ。

証明. ベクトル(z0,z1)(z_0,z_1)を非零スカラー倍しても、その像は同じ一次元部分空間を張る。行列AAをλA\lambda Aに取り替えた場合にも像の同次座標は変わらない。したがって、表示された式はPGL⁡2(C)×CP1\operatorname{PGL}_2(\mathbb C)\times\mathbb{CP}^1上で矛盾なく定まる。行列積と写像の合成が対応するため、この式は群作用を定める。

[A][A]がCP1\mathbb{CP}^1のすべての点を固定すると仮定する。[1:0][1:0]と[0:1][0:1]を固定することから、AAは対角行列である。さらに[1:1][1:1]を固定することから、二つの対角成分は等しい。よってAAは非零スカラー行列であり、[A][A]はPGL⁡2(C)\operatorname{PGL}_2(\mathbb C)の単位元である。したがって、この作用は忠実である。▨

命題 4.2. 単位球面

S2={x∈R3∣∥x∥=1}S^2=\{x\in\mathbb R^3\mid \|x\|=1\}

に対して

R⋅x=Rx(R∈SO⁡(3), x∈S2)R\cdot x=Rx \qquad (R\in\operatorname{SO}(3),\ x\in S^2)

と定めると、SO⁡(3)\operatorname{SO}(3)のS2S^2への忠実な作用を得る。

証明.RRは内積を保つので∥Rx∥=∥x∥=1\|Rx\|=\|x\|=1であり、Rx∈S2Rx\in S^2である。単位行列と行列積は作用の二公理を満たす。RRがS2S^2のすべての点を固定するならば、特にR3\mathbb R^3の標準基底を固定するのでR=IR=Iである。したがって作用は忠実である。▨

注意 4.3 (球面回転と Möbius 変換). 単位球面S2⊂R3S^2\subset\mathbb R^3の北極をN=(0,0,1)N=(0,0,1)とする。立体射影

σ(N)=[1:0],σ(x,y,z)=[x+iy:1−z]((x,y,z)≠N)\sigma(N)=[1:0],\qquad \sigma(x,y,z)=[x+iy:1-z]\quad ((x,y,z)\neq N)

はS2S^2とCP1\mathbb{CP}^1の全単射を与える。標準的な同一視

SO⁡(3)≅SU⁡(2)/{±I}=PSU⁡(2)↪PGL⁡2(C)\operatorname{SO}(3)\cong \operatorname{SU}(2)/\{\pm I\} =\operatorname{PSU}(2) \hookrightarrow\operatorname{PGL}_2(\mathbb C)

のもとで、SO⁡(3)\operatorname{SO}(3)のS2S^2への回転作用はPSU⁡(2)\operatorname{PSU}(2)のCP1\mathbb{CP}^1への Möbius 作用に対応する。SU⁡(2)\operatorname{SU}(2)の行列は

(αβ−β‾α‾),∣α∣2+∣β∣2=1\begin{pmatrix} \alpha&\beta\\ -\overline{\beta}&\overline{\alpha} \end{pmatrix}, \qquad |\alpha|^2+|\beta|^2=1

と書くことができ、SU⁡(2)\operatorname{SU}(2)からPGL⁡2(C)\operatorname{PGL}_2(\mathbb C)への射影準同型の核は{±I}\{\pm I\}である。

正二十面体を一つ固定し、その向きを保つ回転全体をI+I^+と書く。この定義からI+↪SO⁡(3)I^+\hookrightarrow\operatorname{SO}(3)は忠実であり、

I+↪SO⁡(3)≅PSU⁡(2)↪PGL⁡2(C)I^+\hookrightarrow\operatorname{SO}(3) \cong\operatorname{PSU}(2) \hookrightarrow\operatorname{PGL}_2(\mathbb C)

を得る。ここで用いたSO⁡(3)≅PSU⁡(2)\operatorname{SO}(3)\cong\operatorname{PSU}(2)と、立体射影が二つの作用を共役することは本記事では完全証明せず、参考文献欄の Hall と Beardon の文献へ委ねる。この同一視は、本記事の群作用に関する定理の証明には用いない。

向きを反転する等長変換も含む正二十面体の全対称群をI±≤O⁡(3)I^\pm\leq\operatorname{O}(3)と書く。I±∖I+I^\pm\setminus I^+の元は、立体射影のもとで

z⟼az‾+bcz‾+dz\longmapsto\frac{a\overline z+b}{c\overline z+d}

という反正則変換になる。ただしad−bc≠0ad-bc\neq0である。複素共役変換をκ\kappaと書くと、κ\kappaはPGL⁡2(C)\operatorname{PGL}_2(\mathbb C)に

[A]⟼[A‾][A]\longmapsto[\overline{A}]

によって作用する。したがってI±I^\pmはPGL⁡2(C)\operatorname{PGL}_2(\mathbb C)の部分群ではなく、この作用が定める拡張 Möbius 群

PGL⁡2(C)⋊C2\operatorname{PGL}_2(\mathbb C)\rtimes C_2

の部分群として実現される。「正二十面体群」という語だけではI+I^+とI±I^\pmを区別することができないため、本記事ではこの語を用いない。向きを反転する球面等長変換と反正則 Möbius 変換の対応、および拡張 Möbius 群への実現も本記事では完全証明せず、Beardon の文献へ委ねる。これらの結果は後続の証明には用いない。

5 剰余類への作用

部分群H≤GH\leq Gを固定する。左剰余類全体G/HG/Hに対して

g⋅(aH)=(ga)H g\cdot(aH)=(ga)H

と定める。

命題 5.1. 上の式はGGのG/HG/Hへの可移な左作用を定める。剰余類H=eHH=eHの安定化群はHHである。

証明.aH=bHaH=bHならばa−1b∈Ha^{-1}b\in Hであり、(ga)−1(gb)=a−1b∈H(ga)^{-1}(gb)=a^{-1}b\in Hである。したがって(ga)H=(gb)H(ga)H=(gb)Hであり、作用は代表元によらず定まる。また、

e⋅(aH)=aH,(gh)⋅(aH)=(gha)H=g⋅(h⋅(aH)) e\cdot(aH)=aH,\qquad (gh)\cdot(aH)=(gha)H=g\cdot\bigl(h\cdot(aH)\bigr)

であるから、作用の公理が成り立つ。任意のaH,bH∈G/HaH,bH\in G/Hに対し、(ba−1)⋅(aH)=bH(ba^{-1})\cdot(aH)=bHであるから、この作用は可移である。最後に、

GH={g∈G∣gH=H}=H G_H=\{g\in G\mid gH=H\}=H

である。▨

命題 5.2. 部分群H≤GH\leq Gに対する左剰余類への作用

G↷G/H,g⋅(aH)=(ga)H G\curvearrowright G/H,\qquad g\cdot(aH)=(ga)H

に対応する準同型を

ρH ⁣:G⟶Sym⁡(G/H) \rho_H\colon G\longrightarrow\operatorname{Sym}(G/H)

とする。このとき

ker⁡ρH=⋂a∈GaHa−1 \ker\rho_H =\bigcap_{a\in G}aHa^{-1}

である。

証明.g∈Gg\in Gがker⁡ρH\ker\rho_Hに属することは、すべてのa∈Ga\in Gに対してgaH=aHgaH=aHが成り立つことと同値である。剰余類の一致条件により、

g∈ker⁡ρH⟺gaH=aH(∀a∈G)⟺a−1ga∈H(∀a∈G)⟺g∈aHa−1(∀a∈G).\begin{aligned} g\in\ker\rho_H &\quad\Longleftrightarrow\quad gaH=aH\quad(\forall a\in G)\\ &\quad\Longleftrightarrow\quad a^{-1}ga\in H\quad(\forall a\in G)\\ &\quad\Longleftrightarrow\quad g\in aHa^{-1}\quad(\forall a\in G). \end{aligned}

最後の全称条件はg∈⋂a∈GaHa−1g\in\bigcap_{a\in G}aHa^{-1}と同値であるため、主張の等式を得る。▨

6 Cayley の定理

群は抽象的に定義されるが、各群は適切な集合上の置換群として実現される。

証明では、GG自身への左乗法による作用を構成し、対応する準同型λ ⁣:G→Sym⁡(G)\lambda\colon G\to\operatorname{Sym}(G)を取る。各λg\lambda_gは左乗法の逆写像λg−1\lambda_{g^{-1}}を持つため置換であり、結合律からλ\lambdaの準同型性が従う。λg\lambda_gが恒等写像ならば単位元eGe_Gにおける値からg=eGg=e_Gを得る。したがって核は自明であり、像への同型によってGGを置換群として実現する。

定理 6.1 (Cayley の定理). 任意の群GGはSym⁡(G)\operatorname{Sym}(G)の部分群と同型である。

証明.GG自身への左乗法作用

g⋅x=gx(g,x∈G) g\cdot x=gx\qquad(g,x\in G)

を考える。単位元と結合律により、この左乗法の式は左作用を定める。対応する準同型

λ ⁣:G⟶Sym⁡(G),λg(x)=gx \lambda\colon G\longrightarrow\operatorname{Sym}(G),\qquad \lambda_g(x)=gx

を取る。λg=id⁡G\lambda_g=\operatorname{id}_Gならば、特にλg(e)=e\lambda_g(e)=eである。ところがλg(e)=g\lambda_g(e)=gであるからg=eg=eである。したがってker⁡λ={e}\ker\lambda=\{e\}であり、λ\lambdaは単射である。ゆえにG≅λ(G)≤Sym⁡(G)G\cong\lambda(G)\leq\operatorname{Sym}(G)が成り立つ。▨

有限群GGの位数がnnならば、集合GGに番号を付けることによりSym⁡(G)≅Sn\operatorname{Sym}(G)\cong S_nとなる。したがって、有限群は有限対称群の部分群として実現される。定理自体は有限群に限定されず、無限群にも同じ証明が適用される。

7 演習

問題 7.1.

  1. 群作用に対応する準同型ρ ⁣:G→Sym⁡(X)\rho\colon G\to\operatorname{Sym}(X)について、ρ(g−1)=ρ(g)−1\rho(g^{-1})=\rho(g)^{-1}を作用の公理から示せ。
  2. S3S_3の{1,2,3}\{1,2,3\}への自然な作用について、各点の安定化群と作用の核を求めよ。
  3. 剰余類への作用G↷G/HG\curvearrowright G/Hが忠実であるための必要十分条件を、⋂a∈GaHa−1\bigcap_{a\in G}aHa^{-1}を用いて述べよ。
  4. 左乗法作用G↷GG\curvearrowright Gの各軌道と各安定化群を求め、この作用が忠実かつ可移であることを確かめよ。
解答 (演習の要点).
  1. 作用の公理から ρ(g)∘ρ(g−1)=ρ(eG)=id⁡X,ρ(g−1)∘ρ(g)=id⁡X\rho(g)\circ\rho(g^{-1})=\rho(e_G)=\operatorname{id}_X,\qquad \rho(g^{-1})\circ\rho(g)=\operatorname{id}_X である。したがってρ(g−1)=ρ(g)−1\rho(g^{-1})=\rho(g)^{-1}となる。
  2. 点1,2,31,2,3の安定化群は、それぞれ (S3)1={e,(23)},(S3)2={e,(13)},(S3)3={e,(12)}(S_3)_1=\{e,(23)\},\quad (S_3)_2=\{e,(13)\},\quad (S_3)_3=\{e,(12)\} である。作用の核は三つの安定化群の共通部分であり、全点を固定する置換は恒等置換だけなのでker⁡ρ={e}\ker\rho=\{e\}となる。
  3. 命題 5.2により、作用が忠実であることは ⋂a∈GaHa−1={eG}\bigcap_{a\in G}aHa^{-1}=\{e_G\} と同値である。
  4. x,y∈Gx,y\in Gに対してy=(yx−1)⋅xy=(yx^{-1})\cdot xであるから、各軌道はGG全体であり、作用は可移である。またg⋅x=xg\cdot x=xならばgx=xgx=xからg=eGg=e_Gであるため、各安定化群は{eG}\{e_G\}である。作用の核も自明であり、作用は忠実である。

▨

参考文献

  1. Joseph A. Gallian, Contemporary Abstract Algebra, 10th ed., Textbooks in Mathematics, CRC Press, 2021.剰余類、群作用、Cayley の定理の扱いを参考にした。
  2. David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004.群作用、軌道、安定化群の扱いを参考にした。
  3. Brian C. Hall, Lie Groups, Lie Algebras, and Representations, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 222, Springer, 2015.SU(2) から SO(3) への二重被覆と両群の関係を参考にした。
  4. Alan F. Beardon, The Geometry of Discrete Groups, Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, NY, 1983.Riemann 球面上の Möbius 変換と有限回転群の記述を参考にした。

前提記事