§E7.24有限群の表現

最終更新

有限群の表現は、群の各元を有限次元ベクトル空間の可逆な線形変換として実現する。この実現により、群の積を線形写像の合成として調べることができる。有限群を複素数体上で表現すると、任意の不変部分空間は不変な補空間をもつ。本記事では、任意の線形射影を群上で平均することによって、この主張を Maschke の定理として証明する。

記事の後半では、表現の各群元におけるトレースを指標として定義する。一般の指標論へは進まず、S3S_3の自明表現、符号表現、および二次元標準表現の指標を定義から直接に計算する。

1 用いる先行結果

注意 1.1 (用いる先行結果). 本記事は、次の結果を用いる。

  1. 群GGの集合XXへの左作用と準同型ρ ⁣:G→Sym⁡(X)\rho\colon G\to\operatorname{Sym}(X)は一対一に対応する(§E7.10 定理 2.2)。
  2. 有限次元ベクトル空間の一次独立な組は基底へ延長することができる(§D3.11 補題 1.2)。この結果を部分空間への線形射影の構成に用いる。
  3. 置換の符号は{1,−1}\{1,-1\}への準同型であり、互換の符号は−1-1である(§E7.5 定理 2.1)。また、S3S_3の共役類は恒等元、互換、3-cycle の三種類である(§E7.12 例 3.2)。

2 表現と部分表現

表現は、集合への群作用において各作用写像が線形である場合に相当する。

定義 2.1. 有限群GGの有限次元複素表現 (finite-dimensional complex representation) とは、有限次元複素ベクトル空間VVと群準同型

ρ ⁣:G⟶GL(V)\rho\colon G\longrightarrow GL(V)

の組(V,ρ)(V,\rho)である。したがって、任意のg,h∈Gg,h\in Gに対して

ρ(gh)=ρ(g)ρ(h),ρ(eG)=id⁡V,ρ(g−1)=ρ(g)−1\rho(gh)=\rho(g)\rho(h),\qquad \rho(e_G)=\operatorname{id}_V,\qquad \rho(g^{-1})=\rho(g)^{-1}

が成り立つ。VVを表現空間 (representation space) と呼ぶ。準同型ρ\rhoを既に指定している場合には、表現(V,ρ)(V,\rho)をVVとも書く。

群作用と準同型の対応(§E7.10 定理 2.2)により、

g⋅v=ρ(g)vg\cdot v=\rho(g)v

と置けばGGはVVに左から作用する。各g∈Gg\in Gに対して、写像v↦ρ(g)vv\mapsto\rho(g)vは線形である。

定義 2.2. 有限群GGの二つの表現(V,ρ)(V,\rho)と(V′,ρ′)(V',\rho')が同型 (isomorphic representations) であるとは、複素線形同型

T ⁣:V⟶V′T\colon V\longrightarrow V'

であって、任意のg∈Gg\in Gに対して

Tρ(g)=ρ′(g)TT\rho(g)=\rho'(g)T

を満たすものが存在することをいう。この条件を満たす線形写像を GG-同変写像 (G-equivariant map) という。

定義 2.3.(V,ρ)(V,\rho)を有限群GGの有限次元複素表現とする。部分空間W⊆VW\subseteq Vが

ρ(g)W⊆W(g∈G)\rho(g)W\subseteq W\qquad(g\in G)

を満たすとき、WWを GG-不変部分空間 (G-invariant subspace) という。各ρ(g)\rho(g)をWWに制限して得る表現を、VVの部分表現 (subrepresentation) という。

V≠{0}V\ne\{0\}であり、GG-不変部分空間が{0}\{0\}とVVだけであるとき、VVを既約表現 (irreducible representation) という。

不変性の条件をすべてのg∈Gg\in Gに課しているので、WWがGG-不変ならばρ(g−1)W⊆W\rho(g^{-1})W\subseteq Wも成り立つ。この包含関係の両辺へρ(g)\rho(g)を作用させるとW⊆ρ(g)WW\subseteq\rho(g)Wとなる。したがって

ρ(g)W=W(1)\rho(g)W=W \tag{1}

である。とくに、ρ(g)∣W\rho(g)|_WはWWの可逆な線形変換であり、部分表現が実際に定まる。

定義 2.4. 有限群GGの有限次元複素表現VVが、有限個の既約部分表現の直和として

V=V1⊕⋯⊕VrV=V_1\oplus\cdots\oplus V_r

と表されるとき、VVを完全可約表現 (completely reducible representation) という。零表現は、空個の既約表現の直和として完全可約であると定める。

例 2.5 (自明表現と符号表現). 有限群GGに対し、

ρtriv(g)z=z(g∈G, z∈C)\rho_{\mathrm{triv}}(g)z=z\qquad(g\in G,\ z\in\mathbb C)

と定めると、一次元表現を得る。この一次元表現を自明表現という。

S3S_3については、置換の符号が準同型であること(§E7.5 定理 2.1)により、

ρsgn(σ)z=sgn⁡(σ)z\rho_{\mathrm{sgn}}(\sigma)z=\operatorname{sgn}(\sigma)z

も一次元表現を定める。一次元表現の非零部分空間は空間全体だけなので、これらの表現は既約である。

例 2.6 (不変でない部分空間).S3S_3がC3\mathbb C^3の標準基底を

ρperm(σ)ei=eσ(i)\rho_{\mathrm{perm}}(\sigma)e_i=e_{\sigma(i)}

によって置換するとする。座標直線Ce1\mathbb Ce_1は(12)(12)によってCe2\mathbb Ce_2へ移るので、S3S_3-不変ではない。したがって、部分空間であることだけでは部分表現を定めることができない。

3 平均化射影

Maschke の定理では、最初に不変性を仮定しない補空間を一つ選ぶ。その補空間に沿う射影を群の各元で共役し、有限和を取る。平均後の射影は群作用と可換する。

補題 3.1.VVを有限次元複素ベクトル空間とし、W⊆VW\subseteq Vを部分空間とする。このとき、

p(V)⊆W,p(w)=w(w∈W)(2)p(V)\subseteq W,\qquad p(w)=w\quad(w\in W) \tag{2}

を満たす線形写像p ⁣:V→W⊆Vp\colon V\to W\subseteq Vが存在する。

証明.w1,…,wrw_1,\ldots,w_rをWWの基底とする。基底の延長(§D3.11 補題 1.2)により、ベクトルur+1,…,unu_{r+1},\ldots,u_nを選び、

w1,…,wr,ur+1,…,unw_1,\ldots,w_r,u_{r+1},\ldots,u_n

をVVの基底にすることができる。この基底に関する一意な表示を用いて

p(∑i=1raiwi+∑j=r+1nbjuj)=∑i=1raiwip\left(\sum_{i=1}^{r}a_iw_i+\sum_{j=r+1}^{n}b_ju_j\right) =\sum_{i=1}^{r}a_iw_i

と定める。この写像は線形であり、像はWWに含まれる。また、w∈Ww\in Wの表示ではすべてのbjb_jが零なのでp(w)=wp(w)=wである。よって (2) が成り立つ。さらにp(v)∈Wp(v)\in Wなので、p2(v)=p(v)p^2(v)=p(v)である。したがってppはWWへの線形射影である。▨

証明方針は次のとおりである。まず、前の補題によってWWへの線形射影ppを一つ取る。このppはGG-同変であるとは限らない。そこで

P=1∣G∣∑g∈Gρ(g)pρ(g)−1(3)P=\frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}\rho(g)p\rho(g)^{-1} \tag{3}

と定める。各項の像がWWに含まれること、PPがWW上で恒等写像であること、PPが各ρ(h)\rho(h)と可換することを順に示す。最後にW′=ker⁡PW'=\ker Pと置く。

定理 3.2 (Maschke の定理).GGを有限群とし、(V,ρ)(V,\rho)をGGの有限次元複素表現とする。任意のGG-不変部分空間W⊆VW\subseteq Vに対して、GG-不変部分空間W′⊆VW'\subseteq Vであって

V=W⊕W′V=W\oplus W'

を満たすものが存在する。

証明.補題 3.1により、(2) を満たす線形写像ppを取る。C\mathbb Cでは正整数∣G∣|G|が零でないので、その逆数を用いて (3) を定義することができる。

最初にP(V)⊆WP(V)\subseteq Wを示す。任意のv∈Vv\in Vとg∈Gg\in Gに対し、

pρ(g)−1v∈Wp\rho(g)^{-1}v\in W

である。(1) によりρ(g)W=W\rho(g)W=Wなので、

ρ(g)pρ(g)−1v∈W\rho(g)p\rho(g)^{-1}v\in W

である。WWは部分空間であるから、これらの有限和とスカラー倍もWWに属する。したがってP(V)⊆WP(V)\subseteq Wである。

次に、PPがWW上で恒等写像であることを示す。w∈Ww\in Wとg∈Gg\in Gに対し、 (1) からρ(g)−1w∈W\rho(g)^{-1}w\in Wである。p∣W=id⁡Wp|_W=\operatorname{id}_Wなので、

ρ(g)pρ(g)−1w=ρ(g)ρ(g)−1w=w\rho(g)p\rho(g)^{-1}w =\rho(g)\rho(g)^{-1}w =w

となる。よって

P(w)=1∣G∣∑g∈Gw=w.(4)P(w)=\frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}w=w. \tag{4}

とくにW⊆im⁡PW\subseteq\operatorname{im}Pであり、先に示した逆包含と合わせてim⁡P=W\operatorname{im}P=Wを得る。また、P(v)∈WP(v)\in Wと (4) から

P2(v)=P(P(v))=P(v)(5)P^2(v)=P(P(v))=P(v) \tag{5}

である。

PPのGG-同変性を示す。h∈Gh\in Gを固定すると、

ρ(h)Pρ(h)−1=1∣G∣∑g∈Gρ(h)ρ(g)pρ(g)−1ρ(h)−1=1∣G∣∑g∈Gρ(hg)pρ(hg)−1.(6)\begin{aligned} \rho(h)P\rho(h)^{-1} &=\frac{1}{|G|}\sum_{g\in G} \rho(h)\rho(g)p\rho(g)^{-1}\rho(h)^{-1}\\ &=\frac{1}{|G|}\sum_{g\in G} \rho(hg)p\rho(hg)^{-1}. \end{aligned} \tag{6}

写像G→G, g↦hgG\to G,\ g\mapsto hgは全単射である。したがってk=hgk=hgと変数を置き換えると、

ρ(h)Pρ(h)−1=1∣G∣∑k∈Gρ(k)pρ(k)−1=P.(7)\rho(h)P\rho(h)^{-1} =\frac{1}{|G|}\sum_{k\in G}\rho(k)p\rho(k)^{-1} =P. \tag{7}

(7) の右からρ(h)\rho(h)を合成して

ρ(h)P=Pρ(h)(8)\rho(h)P=P\rho(h) \tag{8}

を得る。

W′=ker⁡PW'=\ker Pと置く。v∈W′v\in W'とh∈Gh\in Gに対し、(8) から

P(ρ(h)v)=ρ(h)P(v)=0P(\rho(h)v)=\rho(h)P(v)=0

である。したがってρ(h)v∈W′\rho(h)v\in W'であり、W′W'はGG-不変である。

最後に直和分解を確認する。任意のv∈Vv\in Vに対し、

v=P(v)+(v−P(v))v=P(v)+(v-P(v))

と表される。第一項はim⁡P=W\operatorname{im}P=Wに属し、(5) により

P(v−P(v))=P(v)−P2(v)=0P(v-P(v))=P(v)-P^2(v)=0

なので第二項はker⁡P=W′\ker P=W'に属する。また、x∈W∩W′x\in W\cap W'ならば、(4) からP(x)=xP(x)=xである一方、x∈ker⁡Px\in\ker PからP(x)=0P(x)=0である。ゆえにx=0x=0である。以上からV=W⊕W′V=W\oplus W'を得る。▨

系 3.3. 有限群の任意の有限次元複素表現は完全可約である。

証明.n=dim⁡CVn=\dim_{\mathbb C}Vに関する帰納法を用いる。n=0n=0ならば、VVは空個の既約表現の直和である。n>0n>0とし、次元がnnより小さいすべての有限次元複素表現について主張が成り立つと仮定する。

VVが既約ならば、VV自身が一つの既約部分表現なので主張は成り立つ。VVが既約でないならば、定義により

{0}⊊W⊊V\{0\}\subsetneq W\subsetneq V

を満たすGG-不変部分空間WWが存在する。定理 3.2により、GG-不変部分空間W′W'であってV=W⊕W′V=W\oplus W'を満たすものが存在する。W≠{0}W\ne\{0\}かつW≠VW\ne Vなので、

0<dim⁡W<n,0<dim⁡W′<n0<\dim W<n,\qquad 0<\dim W'<n

である。帰納法の仮定により、WWとW′W'はそれぞれ有限個の既約部分表現の直和である。両方の分解を合わせると、VVも有限個の既約部分表現の直和になる。▨

4 指標

指標は、各群元が表現空間に作用するときのトレースを記録する。表現行列そのものは基底に依存するが、トレースは基底の変更に依存しない。

定義 4.1.(V,ρ)(V,\rho)を有限群GGの有限次元複素表現とする。この表現の指標 (character) とは、写像

χρ ⁣:G⟶C,χρ(g)=tr⁡(ρ(g))\chi_\rho\colon G\longrightarrow\mathbb C,\qquad \chi_\rho(g)=\operatorname{tr}(\rho(g))

である。

命題 4.2. 同型な有限次元複素表現は同じ指標をもつ。

証明.(V,ρ)(V,\rho)と(V′,ρ′)(V',\rho')の同型をT ⁣:V→V′T\colon V\to V'とする。表現の同型の定義から

ρ′(g)=Tρ(g)T−1\rho'(g)=T\rho(g)T^{-1}

である。正方行列A=(aij)A=(a_{ij})とB=(bij)B=(b_{ij})に対して

tr⁡(AB)=∑i∑jaijbji=∑j∑ibjiaij=tr⁡(BA)(9)\operatorname{tr}(AB) =\sum_i\sum_j a_{ij}b_{ji} =\sum_j\sum_i b_{ji}a_{ij} =\operatorname{tr}(BA) \tag{9}

である。したがって

tr⁡(ρ′(g))=tr⁡(Tρ(g)T−1)=tr⁡(ρ(g)T−1T)=tr⁡(ρ(g))\operatorname{tr}(\rho'(g)) =\operatorname{tr}(T\rho(g)T^{-1}) =\operatorname{tr}(\rho(g)T^{-1}T) =\operatorname{tr}(\rho(g))

となり、二つの指標は一致する。▨

命題 4.3.(V,ρ)(V,\rho)を有限群GGの有限次元複素表現とする。任意のg,h∈Gg,h\in Gに対して

χρ(hgh−1)=χρ(g)\chi_\rho(hgh^{-1})=\chi_\rho(g)

が成り立つ。

証明.ρ\rhoの準同型性と (9) から

χρ(hgh−1)=tr⁡(ρ(h)ρ(g)ρ(h)−1)=tr⁡(ρ(g)ρ(h)−1ρ(h))=tr⁡(ρ(g))=χρ(g)\begin{aligned} \chi_\rho(hgh^{-1}) &=\operatorname{tr}\bigl(\rho(h)\rho(g)\rho(h)^{-1}\bigr)\\ &=\operatorname{tr}\bigl(\rho(g)\rho(h)^{-1}\rho(h)\bigr)\\ &=\operatorname{tr}(\rho(g)) =\chi_\rho(g) \end{aligned}

を得る。▨

5 S3S_3の三つの表現

S3S_3の共役類は、§E7.12 例 3.2により

{e},{(12),(13),(23)},{(123),(132)}(10)\{e\},\qquad \{(12),(13),(23)\},\qquad \{(123),(132)\} \tag{10}

である。以下では、恒等元、互換、3-cycle の順で指標値を記す。

自明表現では、すべての群元がC\mathbb Cの恒等写像として作用する。したがって

χtriv=(1,1,1).(11)\chi_{\mathrm{triv}}=(1,1,1). \tag{11}

符号表現では、恒等元と 3-cycle は偶置換であり、互換は奇置換である。§E7.5 定理 2.1により、

χsgn=(1,−1,1).(12)\chi_{\mathrm{sgn}}=(1,-1,1). \tag{12}

二次元標準表現は、三次元置換表現から定数ベクトルがなす自明部分表現を分離して構成する。

例 5.1 (S3S_3の三つの指標値).U=C3U=\mathbb C^3とし、標準基底をe1,e2,e3e_1,e_2,e_3とする。

ρperm(σ)ei=eσ(i)(13)\rho_{\mathrm{perm}}(\sigma)e_i=e_{\sigma(i)} \tag{13}

と定めると、

ρperm(στ)ei=eσ(τ(i))=ρperm(σ)ρperm(τ)ei\rho_{\mathrm{perm}}(\sigma\tau)e_i =e_{\sigma(\tau(i))} =\rho_{\mathrm{perm}}(\sigma)\rho_{\mathrm{perm}}(\tau)e_i

なので、ρperm\rho_{\mathrm{perm}}はS3S_3の三次元表現である。

次の二つの部分空間を取る。

L=C(1,1,1),W={(x1,x2,x3)∈C3∣x1+x2+x3=0}.(14)L=\mathbb C(1,1,1),\qquad W=\{(x_1,x_2,x_3)\in\mathbb C^3\mid x_1+x_2+x_3=0\}. \tag{14}

座標の置換は座標和を保つので、LLとWWはともにS3S_3-不変である。任意のx=(x1,x2,x3)∈Ux=(x_1,x_2,x_3)\in Uに対し、

a=x1+x2+x33a=\frac{x_1+x_2+x_3}{3}

と置けば、

x=a(1,1,1)+(x−a(1,1,1))x=a(1,1,1)+\bigl(x-a(1,1,1)\bigr)

であり、第二項の座標和は零である。またL∩W={0}L\cap W=\{0\}なので、

U=L⊕W,dim⁡CW=2.(15)U=L\oplus W,\qquad \dim_{\mathbb C}W=2. \tag{15}

WWへのρperm\rho_{\mathrm{perm}}の制限を、S3S_3の標準表現ρstd\rho_{\mathrm{std}}と呼ぶ。

σ∈S3\sigma\in S_3の置換表現行列では、ii番目の対角成分はσ(i)=i\sigma(i)=iのとき11、そうでないとき00である。したがって

tr⁡(ρperm(σ))=∣{i∈{1,2,3}∣σ(i)=i}∣.(16)\operatorname{tr}(\rho_{\mathrm{perm}}(\sigma)) =|\{i\in\{1,2,3\}\mid \sigma(i)=i\}|. \tag{16}

(15) に合わせた基底では、ρperm(σ)\rho_{\mathrm{perm}}(\sigma)はLL上の自明表現とWW上の標準表現の二つのブロックに分かれる。よって

χstd(σ)=∣{i∈{1,2,3}∣σ(i)=i}∣−1.(17)\chi_{\mathrm{std}}(\sigma) =|\{i\in\{1,2,3\}\mid \sigma(i)=i\}|-1. \tag{17}

恒等元の不動点数は33、互換の不動点数は11、3-cycle の不動点数は00である。したがって、(10) の順に

χstd=(3−1, 1−1, 0−1)=(2,0,−1).(18)\chi_{\mathrm{std}}=(3-1,\,1-1,\,0-1)=(2,0,-1). \tag{18}

(11)、(12)、(18) により、指定した共役類順で三つの指標値は

(1,1,1),(1,−1,1),(2,0,−1)(1,1,1),\qquad(1,-1,1),\qquad(2,0,-1)

となる。

6 置換表現、標準表現、回転表現

S3S_3の構成は一般の対称群にも同じ形で適用することができる。

命題 6.1.n≥2n\geq2とし、SnS_nを

Un=CnU_n=\mathbb C^n

へ基底の置換によって作用させる。この置換表現は

Un=Ln⊕Wn,U_n=L_n\oplus W_n,Ln=C(1,…,1),Wn={(x1,…,xn)∈Cn∣x1+⋯+xn=0}L_n=\mathbb C(1,\ldots,1),\qquad W_n=\{(x_1,\ldots,x_n)\in\mathbb C^n\mid x_1+\cdots+x_n=0\}

と分解する。LnL_nは自明表現であり、WnW_nは次元n−1n-1の標準表現である。標準表現の指標は

χstd(σ)=∣{i∈{1,…,n}∣σ(i)=i}∣−1\chi_{\mathrm{std}}(\sigma) =|\{i\in\{1,\ldots,n\}\mid \sigma(i)=i\}|-1

である。

証明. 座標の置換は(1,…,1)(1,\ldots,1)を固定し、座標和を保つ。したがってLnL_nとWnW_nはSnS_n-不変である。任意のx=(x1,…,xn)∈Unx=(x_1,\ldots,x_n)\in U_nに対して

a=x1+⋯+xnna=\frac{x_1+\cdots+x_n}{n}

とおけば、

x=a(1,…,1)+(x−a(1,…,1))x=a(1,\ldots,1)+\bigl(x-a(1,\ldots,1)\bigr)

であり、第二項はWnW_nに属する。Ln∩Wn={0}L_n\cap W_n=\{0\}なのでUn=Ln⊕WnU_n=L_n\oplus W_nである。置換表現のトレースはσ\sigmaの固定点数であり、LnL_n上のトレースは11である。直和分解に沿ってトレースを加えると、表示された指標公式を得る。▨

正二十面体の回転は、置換表現とは異なる三次元表現を与える。

例 6.2 (A5A_5の三次元回転表現).§E7.19 命題 5.1によってA5≅I+A_5\cong I^+と同一視する。包含写像

I+↪SO⁡(3)⊂GL⁡3(R)I^+\hookrightarrow\operatorname{SO}(3) \subset\operatorname{GL}_3(\mathbb R)

は忠実な三次元実表現であり、係数を複素数へ拡大すると忠実な三次元複素表現を与える。§E7.12 例 4.1 (正二十面体の回転の共役類)の共役類を

1,π,2π3,2π5,4π51,\quad \pi,\quad \frac{2\pi}{3},\quad \frac{2\pi}{5},\quad \frac{4\pi}{5}

という回転角の順に並べると、この複素表現の指標値は

3,−1,0,1+52,1−523,\qquad -1,\qquad 0,\qquad \frac{1+\sqrt5}{2},\qquad \frac{1-\sqrt5}{2}

である。

証明. 角度θ\thetaの三次元回転は、回転軸上で固有値11をもち、軸に垂直な平面の複素化上で固有値eiθe^{i\theta}とe−iθe^{-i\theta}をもつ。したがって、そのトレースは

1+eiθ+e−iθ=1+2cos⁡θ1+e^{i\theta}+e^{-i\theta}=1+2\cos\theta

である。θ=0,π,2π/3,2π/5,4π/5\theta=0,\pi,2\pi/3,2\pi/5,4\pi/5を代入すると、表示された五つの値を得る。表現の忠実性は、I+I^+がR3\mathbb R^3上の回転そのものからなることによる。A5≅I+A_5\cong I^+の幾何学的同一視は参照先へ委ねており、本記事では完全証明していない。□

注意 6.3 (二次元射影表現との区別).§E7.19 系 5.2は準同型

A5⟶PGL⁡2(C)A_5\longrightarrow\operatorname{PGL}_2(\mathbb C)

を与える。これは二次元複素ベクトル空間の一次元部分空間への作用、すなわち二次元射影表現であり、準同型A5→GL⁡2(C)A_5\to\operatorname{GL}_2(\mathbb C)そのものではない。SU⁡(2)→SO⁡(3)\operatorname{SU}(2)\to\operatorname{SO}(3)によるI+I^+の逆像は位数120120の群であり、 binary icosahedral group と呼ばれる。この群はC2\mathbb C^2に線形に作用し、中心{±I}\{\pm I\}で割った射影作用がA5A_5のCP1\mathbb{CP}^1への作用になる。

したがって、A5A_5の三次元回転表現、S5S_5の四次元標準表現のA5A_5への制限、およびA5A_5の二次元射影表現は、表現空間と終域が異なる三つの構成である。特に、射影表現を与える準同型だけから、A5A_5の二次元線形表現を得たとみなすことはできない。

7 仮定の境界

Maschke の定理の証明では、∣G∣−1|G|^{-1}を係数として用いた。係数体の標数が∣G∣|G|を割る場合には、この平均を定義することができず、定理の結論も一般には成り立たない。

例 7.1 (標数が群の位数を割る場合).ppを素数、k=Fpk=\mathbb F_pとし、位数ppの巡回群Cp=⟨a⟩C_p=\langle a\rangleを取る。V=k2V=k^2の基底をe1,e2e_1,e_2とし、

ρ(a)e1=e1,ρ(a)e2=e1+e2(19)\rho(a)e_1=e_1,\qquad \rho(a)e_2=e_1+e_2 \tag{19}

と定める。N=ρ(a)−IN=\rho(a)-Iと置けばN2=0N^2=0である。標数がppなので

ρ(a)p=(I+N)p=I+pN=I\rho(a)^p=(I+N)^p=I+pN=I

であり、(19) はCpC_pの表現を定める。

W=ke1W=ke_1は不変部分空間である。WWに一次元の不変補空間が存在すると仮定し、その生成元をv=xe1+ye2v=xe_1+ye_2とする。補空間であるためy≠0y\ne0である。不変性からρ(a)v=λv\rho(a)v=\lambda vを満たすλ∈k\lambda\in kが存在する。(19) を用いると

ρ(a)v=(x+y)e1+ye2.\rho(a)v=(x+y)e_1+ye_2.

e2e_2の係数を比較するとλ=1\lambda=1であり、e1e_1の係数を比較するとx+y=xx+y=x、すなわちy=0y=0となる。等式y=0y=0は仮定y≠0y\ne0に反する。したがってWWは不変な補空間をもたず、この表現は完全可約でない。

8 演習

問題 8.1.

  1. WWがGG-不変ならばρ(g)W=W\rho(g)W=Wとなることを、g−1g^{-1}を用いて証明せよ。
  2. (3) で定めたPPについて、写像g↦hgg\mapsto hgがGGの全単射であることを用い、ρ(h)Pρ(h)−1=P\rho(h)P\rho(h)^{-1}=Pを和の各項から再構成せよ。
  3. P(V)⊆WP(V)\subseteq WとP∣W=id⁡WP|_W=\operatorname{id}_WからV=W⊕ker⁡PV=W\oplus\ker Pを導け。各ベクトルの分解と交わりが零であることをそれぞれ示せ。
  4. S3S_3の三次元置換表現について、互換と 3-cycle の表現行列を一つずつ書き、そのトレースが不動点数に等しいことを確かめよ。その後、標準表現の指標値を求めよ。
  5. 例 7.1で、(I+N)p=I+pN(I+N)^p=I+pNとなる理由をN2=0N^2=0から説明せよ。
解答 (演習の要点).
  1. 不変性をg−1g^{-1}に適用するとρ(g)−1W⊆W\rho(g)^{-1}W\subseteq Wである。両辺へρ(g)\rho(g)を作用させるとW⊆ρ(g)WW\subseteq\rho(g)Wを得る。元の包含と合わせればよい。
  2. ρ(h)ρ(g)=ρ(hg)\rho(h)\rho(g)=\rho(hg)とρ(g)−1ρ(h)−1=ρ(hg)−1\rho(g)^{-1}\rho(h)^{-1}=\rho(hg)^{-1}を用いる。左乗法g↦hgg\mapsto hgの逆写像はk↦h−1kk\mapsto h^{-1}kなので、和の添字はGG全体をちょうど一度ずつ動く。
  3. v=P(v)+(v−P(v))v=P(v)+(v-P(v))と書く。P(v)∈WP(v)\in Wであり、P(v−P(v))=0P(v-P(v))=0である。x∈W∩ker⁡Px\in W\cap\ker Pならx=P(x)=0x=P(x)=0となる。
  4. 例えば(12)(12)の置換行列の対角成分は0,0,10,0,1であり、(123)(123)の置換行列の対角成分はすべて00である。置換表現から自明表現のトレース11を引くと、標準表現の値は互換で00、3-cycle で−1-1となる。恒等元では次元から22である。
  5. 二項展開でNj=0N^j=0がj≥2j\ge2について成り立つため、(I+N)p=I+(p1)N=I+pN(I+N)^p=I+\binom p1N=I+pNとなる。標数ppではpN=0pN=0である。

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参考文献

  1. Jean-Pierre Serre, Linear Representations of Finite Groups, Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1977.有限群の表現、指標、Maschke の定理の扱いを参考にした。
  2. William Fulton and Joe Harris, Representation Theory: A First Course, Graduate Texts in Mathematics 129, Springer, 1991.有限群の複素表現と完全可約性の扱いを参考にした。
  3. H. S. M. Coxeter, Regular Polytopes, 3rd ed., Dover Publications, New York, 1973, originally published 1963.正二十面体の向きを保つ回転群と回転軸の分類を参考にした。
  4. Brian C. Hall, Lie Groups, Lie Algebras, and Representations, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 222, Springer, 2015.SU(2) から SO(3) への二重被覆と三次元回転表現との関係を参考にした。

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