1 短完全列と群の拡大
定義 1.1. 群準同型の列
1⟶NιEπQ⟶1が短完全列 (short exact sequence) であるとは、次の三条件が成り立つことをいう。
ι は単射,π は全射,imι=kerπ.この短完全列をQのNによる群の拡大 (group extension) と呼ぶ。
imι=kerπは§E7.7 定理 1.3によりEの正規部分群である。以下では、単射ιによってNとι(N)を同一視すると明記した場合に限り、N⊴Eと書く。
命題 1.2. 短完全列
1→NιEπQ→1に対し、
π:E/ι(N)⟶Q,π(eι(N))=π(e)は群同型である。
証明.ι(N)=kerπ⊴Eであるから、商群E/ι(N)が定まる。eι(N)=fι(N)ならばf−1e∈ι(N)=kerπであるため、
π(f)−1π(e)=π(f−1e)=eQとなり、π(e)=π(f)である。したがってπは代表元によらず定まる。また、
π(eι(N)fι(N))=π(ef)=π(e)π(f)であるから準同型である。πの全射性からπも全射である。π(eι(N))=π(fι(N))ならばπ(f−1e)=eQであるから、f−1e∈kerπ=ι(N)である。したがってeι(N)=fι(N)となり、πは単射である。▨
定義 1.3. 同じ両端N,Qを持つ二つの拡大
1→NιEπQ→1,1→Nι′E′π′Q→1の拡大としての同型 (isomorphism of extensions) とは、群同型F:E→E′であって
F∘ι=ι′,π′∘F=πを満たすものをいう。
この定義では、中間群が抽象群として同型であるだけでは不十分である。同型が核Nと商Qの指定された写像を保つことを要求する。
定義 1.4. 拡大
1→NιEπQ→1の切断 (section of an extension) とは、
s:Q⟶E,π∘s=idQを満たす群準同型である。切断を持つ拡大を分裂拡大 (split extension) と呼ぶ。
切断は集合としての右逆写像ではなく、群準同型でなければならない。
2 拡大が定める外部作用
短完全列を一つ固定する。e∈Eによる共役はι(N)=kerπを保つ。そこで、θe:N→Nを
θe(n)=ι−1(eι(n)e−1)
と定める。
証明では、まず短完全性からι(N)=kerπ⊴Eを用い、各θeが逆写像θe−1を持つ自己同型であることを示す。次に、同じq∈Qの二つの持上げの差をι(N)の元で表し、二つの自己同型が内部自己同型だけ異なることを確認する。最後に、q,rの持上げの積をqrの持上げとして用い、θef=θe∘θfから外部作用の準同型性を導く。
定理 2.1. 群準同型
ι:N⟶E,π:E⟶Qが、ιは単射、πは全射、imι=kerπを満たす短完全列
1⟶NιEπQ⟶1をなすとする。各e∈Eに対して写像
θe:N⟶N,θe(n)=ι−1(eι(n)e−1)を定める。このとき、各θeはNの自己同型である。さらに、q∈Qに対してπ(e)=qを満たすe∈Eを一つ取り、
ω(q)=[θe]∈Out(N)=Aut(N)/Inn(N)と定める。この類はeの選択に依存せず、
ω:Q⟶Out(N)は群準同型である。
証明.ι(N)=kerπ⊴Eであるから、eι(n)e−1∈ι(N)となり、θeは矛盾なく定まる。n,m∈Nに対し、
ι(θe(nm))=eι(nm)e−1=eι(n)e−1eι(m)e−1=ι(θe(n)θe(m))である。単射性からθe(nm)=θe(n)θe(m)であり、θeは準同型である。また、
θe∘θe−1=idN=θe−1∘θeであるため、θe∈Aut(N)である。
e,e′∈Eがともにqの持上げであるとする。このとき
π(e′e−1)=qq−1=eQであるから、ある一意なa∈Nによって
e′=ι(a)eと表される。任意のn∈Nに対し、
θe′(n)=ι−1(ι(a)eι(n)e−1ι(a)−1)=aθe(n)a−1=(ca∘θe)(n)である。ca∈Inn(N)であるから、
[θe′]=[ca∘θe]=[θe]がOut(N)で成り立つ。したがってω(q)は持上げによらない。
q,r∈Qの持上げをそれぞれe,f∈Eとすると、efはqrの持上げである。さらに、任意のn∈Nに対して
ι(θef(n))=efι(n)f−1e−1=eι(θf(n))e−1=ι((θe∘θf)(n))であるから、
θef=θe∘θf.よって
ω(qr)=[θef]=[θe][θf]=ω(q)ω(r)となり、ωは群準同型である。▨
ωを、この拡大が定めるQのNへの外部作用と呼ぶ。§E7.14 定理 3.1によりOut(N)が商群として定義されていることが、この構成の前提である。
3 外部作用の持上げ
定義 3.1. 外部作用ω:Q→Out(N)の準同型としての持上げ (homomorphic lift) とは、商写像を
p:Aut(N)⟶Out(N)としたとき、
β:Q⟶Aut(N),p∘β=ωを満たす群準同型βをいう。
4 持上げを持つ非分裂拡大
例 4.1 (C4による非分裂拡大). 加法群について
0⟶C2ιC4πC2⟶0,ι([a]2)=[2a]4,π([x]4)=[x]2を考える。ιは単射、πは全射であり、
imι={[0]4,[2]4}=kerπであるから短完全列である。
§E7.14 命題 4.1によりAut(C2)は自明群であり、Out(C2)も自明群である。したがって、この拡大が定める外部作用は自明であり、自明な準同型C2→Aut(C2)へ持ち上がる。
ところが、この拡大は分裂しない。切断s:C2→C4が存在すると仮定する。π(s([1]2))=[1]2であるから、
s([1]2)∈{[1]4,[3]4}である。これら二つの元の位数はともに4である。一方、準同型sは位数2の元を位数が2を割る元へ写すため、矛盾する。よって切断は存在しない。
この例により、外部作用がAut(N)へ持ち上がっても、与えられた拡大が分裂するとは限らない。拡大全体の分類は本稿では扱わない。
5 回転群の二重被覆
次の例では、SU(2)からSO(3)への全射の構成を本稿の本論に用いない外部結果として扱う。この外部結果の委譲先は、参考文献に掲げた
Hall の教科書である。必要な範囲は次の事実に限る。
例 5.2 (SU(2)からSO(3)への非分裂拡大). 上の外部結果により、
1⟶{±I2}⟶SU(2)ρSO(3)⟶1は短完全列である。この拡大は分裂しない。
実際、R∈SO(3)を任意の軸の周りの角πの回転とする。Rの位数は2である。上の軸角表示により、Rの二つの持上げは±uであり、
u2=(−u)2=−1であるから、いずれも位数4を持つ。
切断s:SO(3)→SU(2)が存在すると仮定すると、ρ(s(R))=Rなのでs(R)は±uのいずれかである。一方、sは準同型であるから
s(R)2=s(R2)=s(1)=1でなければならない。この等式はs(R)の位数が4であることに反する。したがって切断は存在しない。
例 5.3 (正二十面体回転群の二重被覆).I+≤SO(3)を正二十面体の向きを保つ回転群とし、
2I=ρ−1(I+)≤SU(2)と置く。制限準同型ρ∣2Iによって
1⟶{±I2}⟶2Iρ∣2II+⟶1は短完全列となる。群2Iを二項正二十面体群(binary icosahedral group)と呼ぶ。各g∈I+の逆像はqと−qの二元からなるため、この短完全列はI+の二重被覆を群の拡大として表している。
正二十面体では、向かい合う二辺の中点を結ぶ軸の周りの角πの回転がI+に属する。この回転の二つの持上げは位数4を持つ。したがって、例 5.2で証明した、切断が存在しないことを示す議論をI+と2Iに制限すると、正二十面体回転群の拡大も分裂しない。
6 演習
問題 6.1.
- θef=θe∘θfを、ιを用いた定義から示せ。
- 外部作用の定義で、二つの持上げに対してe′=ι(a)eを満たすa∈Nが一意に存在する理由を説明せよ。
- C4の拡大で、C2→C4の任意の群準同型の像が{[0]4,[2]4}に含まれることを示し、非分裂性を別の形で確認せよ。
解答 (演習の要点).
- 任意のn∈Nに対して
ι(θef(n))=efι(n)f−1e−1=eι(θf(n))e−1=ι((θe∘θf)(n))
である。ιの単射性によりθef=θe∘θfとなる。
- π(e)=π(e′)=qからe′e−1∈kerπ=imιである。したがってe′e−1=ι(a)を満たすa∈Nが存在し、e′=ι(a)eとなる。ιが単射であるため、このaは一意である。
- 群準同型u:C2→C4に対して2u([1]2)=u([0]2)=[0]4である。C4で2y=[0]4を満たす元は[0]4,[2]4だけであるため、imu⊆{[0]4,[2]4}となる。切断sならばπ(s([1]2))=[1]2でなければならないが、上の包含では像がkerπに含まれるため矛盾する。
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