1 重根と分離性
定義 1.1.f(x)=∑i=0naixi∈K[x]の形式微分 (formal derivative) を
f′(x)=i=1∑niaixi−1と定める。
非零多項式f∈K[x]が分離的 (separable polynomial) であるとは、代数閉包の中でfの相異なる根の個数がdegfに等しいことをいう。K上代数的な元αが分離的 (separable element) であるとは、最小多項式mα,Kが分離的であることをいう。代数拡大L/Kが分離拡大 (separable extension) であるとは、Lのすべての元がK上分離的であることをいう。
定理 1.2.f∈K[x]∖{0}とし、ΩをKの代数閉包とする。次の条件は同値である。
- fはΩに重根をもつ。
- fとf′はK[x]で非定数の共通因子をもつ。
- gcd(f,f′)=1である。
とくに、モニック既約多項式pが分離的であることとp′=0であることは同値である。
証明.α∈Ωがfの重根なら、f=(x−α)2gと書くことができる。積の微分則からf′もx−αで割り切れる。したがってfとf′はΩ[x]で共通根をもつ。最小多項式を取れば、K[x]でも非定数の共通因子をもつ。
逆にαがfとf′の共通根であるとする。f=(x−α)qと書くと
f′=q+(x−α)q′である。f′(α)=0よりq(α)=0なので、x−αはqも割り切る。したがって(x−α)2はfを割り切り、αは重根である。(2)⇔(3)は最大公約多項式の定義から従う。
pが既約なら、gcd(p,p′)は1またはpである。degp′<degpなので、後者が成り立つこととp′=0は同値である。したがって最後の主張を得る。▨
標数0では非定数多項式の微分は0にならないため、すべての既約多項式が分離的である。標数p>0では、f′=0であることとfがxpの多項式であることが同値であり、非分離性が現れ得る。
例 1.3 (分離多項式と非分離多項式).x3−2∈Q[x]ではf′=3x2であり、gcd(x3−2,3x2)=1なので分離的である。
一方、K=Fp(t)とし、f=xp−tとする。tはKのp乗ではないのでfは既約であるが、f′=0である。代数閉包でαp=tとおくとf=(x−α)pであり、fは相異なる根を一つしかもたない。
2 埋め込みの個数と分離次数
Kの代数閉包Ωを一つ固定する。K-埋め込みとは、Kの各元を固定する体準同型をいう。
補題 2.1.E/KをΩの部分体とし、σ:E→ΩをK-埋め込みとする。αをE上代数的な元とし、その最小多項式をmα,Eとする。σを係数へ施した多項式をσmα,E∈σ(E)[x]と書く。
σを延長する埋め込みE(α)→Ωと、σmα,EのΩにおける相異なる根は、αの像を対応させることによって一対一に対応する。
証明.β∈Ωをσmα,Eの根とする。写像
E[x]⟶Ω,i∑aixi⟼i∑σ(ai)βiの核は(mα,E)である。したがって商を取ると、§E8.2 定理 3.1の同型を通じてE(α)→Ωが得られ、この埋め込みはαをβへ写す。
逆に、σを延長する埋め込みσは0=σ(mα,E(α))=(σmα,E)(σ(α))を満たす。体E(α)はEとαで生成されるため、σはσ(α)によって一意に定まる。▨
定義 2.2. 有限拡大L/Kの分離次数 (separable degree) を
[L:K]s=#HomK(L,Ω)と定める。右辺は、Lから固定した代数閉包ΩへのK-埋め込みの個数である。
定理 2.3. 有限拡大L/Kに対して
[L:K]s≤[L:K]が成り立つ。等号が成り立つことと、L/Kが分離拡大であることは同値である。
証明.L=K(α1,…,αr)とし、Ki=K(α1,…,αi)とおく。補題 2.1により、Ki−1からの一つの埋め込みをKiへ延長する方法の個数は、αiの最小多項式の相異なる根の個数であり、高々[Ki:Ki−1]である。すべての段階について数えると
#HomK(L,Ω)≤i=1∏r[Ki:Ki−1]=[L:K]を得る。最後の等号は塔の公式§E8.1 定理 2.1による。
L/Kが分離的なら、各αiのK上の最小多項式は分離的である。Ki−1上の最小多項式はその多項式を割り切るため、やはり分離的である。したがって各段階の延長数は[Ki:Ki−1]に等しく、全体でも等号が成り立つ。
逆にL/Kが分離的でないなら、あるα∈LのK上の最小多項式は非分離的である。E=K(α)とおくと
#HomK(E,Ω)<[E:K]である。一つのK-埋め込みE→ΩをLへ延長する方法は、生成元を一つずつ添加して補題 2.1を適用すれば高々[L:E]個である。ゆえに
#HomK(L,Ω)≤#HomK(E,Ω)[L:E]<[E:K][L:E]=[L:K]となる。したがって等号ならL/Kは分離的である。▨
系 2.4. 有限拡大L/Kが、K上分離的な有限個の元α1,…,αrで生成されるなら、L/Kは分離拡大である。
証明.Ki=K(α1,…,αi)とおく。αiのKi−1上の最小多項式は、K上の最小多項式をKi−1[x]で割り切るため分離的である。したがって、各Ki−1-埋め込みをKiへ延長する方法の個数は[Ki:Ki−1]である。すべての段階について数え、塔の公式を用いると#HomK(L,Ω)=[L:K]を得る。定理 2.3によりL/Kは分離拡大である。▨
3 有限エタール代数
定義 3.1. 有限次元可換単位的K-代数Aが有限エタールK-代数 (finite etale K-algebra) であるとは、有限個の有限次分離拡大L1/K,…,Lr/Kが存在して
A≅L1×⋯×LrとK-代数同型になることをいう。空積は用いず、A=0とする。
代数閉体上の有限次元代数について、被約性は直積分解と同値になる。
補題 3.2.Ωを代数的閉体とし、Bを非零有限次元可換単位的Ω-代数とする。Bが被約であることと、あるr≥1についてB≅Ωrとなることは同値である。
証明.B≅Ωrなら、各成分で冪零な元は0だけなのでBは被約である。
逆にBが被約であるとする。dimΩBについて帰納する。有限次元性により、Bは包含に関して極小な非零イデアルIをもつ。0=a∈Iを取る。被約性からa2=0なので、非零イデアルa2B⊆Iは極小性によりIに等しい。したがってa=a2bとなるb∈Bが存在する。e=abとおくと
e2=a2b2=ab=eであり、I=aB=eBである。またx=ac∈Iに対してex=a2bc=ac=xなので、eは環eBの単位元である。
0=x∈eBなら、xBはIに含まれる非零イデアルなのでxB=Iである。したがってxy=eとなるy∈Bが存在し、ey∈eBはxの逆元である。ゆえにeBは体である。直交する冪等元eと1−eにより
B⟶eB×(1−e)B,z⟼(ez,(1−e)z)は同型である。(1−e)Bも有限次元かつ被約であり、e=0なのでその次元はBより小さい。(1−e)B=0ならB=eBは既に体である。(1−e)B=0なら帰納法を適用する。いずれの場合も、Bは有限個の有限次体拡大の直積になる。Ωは代数的閉体なので、各体因子はΩ自身に等しい。したがってB≅Ωrである。▨
定理 3.3.Aを非零有限次元可換単位的K-代数とし、ΩをKの代数閉包とする。次の条件は同値である。
- Aは有限エタールK-代数である。
- A⊗KΩは被約である。
- A⊗KΩ≅ΩdimKAとΩ-代数同型になる。
証明. まず有限次分離拡大L/Kを考える。K-埋め込みの集合をΣ=HomK(L,Ω)とし、Ω-代数準同型
ΦL:L⊗KΩ⟶σ∈Σ∏Ω,a⊗c⟼(cσ(a))σ(1)を定める。L/Kは分離的なので、定理 2.3により∣Σ∣=[L:K]である。
相異なる体準同型は線形独立である。実際、最小個数の項からなる非自明な関係∑i=1sciσi(a)=0がすべてのa∈Lについて成り立つと仮定する。σ1(b)=σs(b)となるb∈Lを選び、aをabに置き換えた関係から元の関係のσs(b)倍を引くと、項数が少なく、第一係数が非零である関係を得る。これは最小性に反する。したがって式 (1) の座標を与える線形汎関数は独立であり、ΦLの階数は∣Σ∣=[L:K]である。定義域と終域のΩ-次元はいずれも[L:K]なので、ΦLは同型である。
A=∏iLiが有限エタールなら、テンソル積は有限直積と交換するため
A⊗KΩ≅i∏Ω[Li:K]≅ΩdimKAとなる。したがって(1)⇒(3)と(3)⇒(2)が従う。
次にA⊗KΩが被約であると仮定する。写像A→A⊗KΩ、a↦a⊗1はベクトル空間の基底を取れば単射である。したがってA自身も被約である。補題 3.2の証明で用いた極小イデアルと冪等元による帰納法をK上で同じように行うと、有限次体拡大Li/Kが存在して
A≅i∏Liとなる。各Li⊗KΩはA⊗KΩの直積因子なので被約である。補題 3.2によりLi⊗KΩ≅Ω[Li:K]である。左辺からΩへのΩ-代数準同型はLiからΩへのK-埋め込みと一対一に対応するため、その個数は[Li:K]である。定理 2.3によりLi/Kは分離拡大である。ゆえにAは有限エタールであり、(2)⇒(1)が従う。▨
例 3.4 (一元生成代数).f∈K[x]をモニック多項式とし、A=K[x]/(f)とする。代数閉包Ωへ基底変換すると
A⊗KΩ≅Ω[x]/(f)である。f=∏i=1n(x−αi)が相異なる一次因子の積なら、中国剰余定理によりΩ[x]/(f)≅Ωnとなる。fが重根αをもつなら、対応する局所因子ではx−αの剰余類が非零冪零元になる。したがってAが有限エタールであることとfが分離的であることは同値である。
4 演習
問題 4.1 (分離性と有限エタール代数).
- 標数p>0の体でf′=0となることと、f(x)=g(xp)と書くことができることの同値を証明せよ。
- 有限拡大L/E/Kに対して、埋め込みを制限して数えることにより[L:K]s≤[L:E]s[E:K]sが成り立つ条件を整理せよ。
- Kの標数が2でないとする。K[x]/(x2−a)が有限エタールであるためのa∈Kに関する条件を、例 3.4を用いて求めよ。
5 扱った範囲と次の記事
本記事では、分離性を重根の不在として定め、有限拡大の分離次数を代数閉包への埋め込み数として記述した。また、有限エタール代数を有限次分離拡大の有限直積として導入し、代数閉包への基底変換後の被約性で特徴づけた。次の記事では、有限次分離拡大が一つの元で生成されることを証明する。