§E8.8分離性と有限エタール代数

最終更新

代数方程式の根を数えるときは、重複度を込めた次数と相異なる根の個数を区別する必要がある。この差を測る概念が分離性である。分離性は、有限拡大から代数閉包への埋め込みが何本存在するかという問題と一致する。

本記事では、形式微分によって重根を判定し、埋め込み数として分離次数を定める。最後に、有限次分離拡大を有限個直積した代数を有限エタール代数と定義し、代数閉包へ係数を拡大した後に冪零元が生じないことと有限エタール性が同値であることを証明する。

1 重根と分離性

定義 1.1.f(x)=∑i=0naixi∈K[x]f(x)=\sum_{i=0}^{n}a_i x^i\in K[x]の形式微分 (formal derivative) を

f′(x)=∑i=1niaixi−1f'(x)=\sum_{i=1}^{n}i a_i x^{i-1}

と定める。

非零多項式f∈K[x]f\in K[x]が分離的 (separable polynomial) であるとは、代数閉包の中でffの相異なる根の個数がdeg⁡f\deg fに等しいことをいう。KK上代数的な元α\alphaが分離的 (separable element) であるとは、最小多項式mα,Km_{\alpha,K}が分離的であることをいう。代数拡大L/KL/Kが分離拡大 (separable extension) であるとは、LLのすべての元がKK上分離的であることをいう。

定理 1.2.f∈K[x]∖{0}f\in K[x]\setminus\{0\}とし、Ω\OmegaをKKの代数閉包とする。次の条件は同値である。

  1. ffはΩ\Omegaに重根をもつ。
  2. ffとf′f'はK[x]K[x]で非定数の共通因子をもつ。
  3. gcd⁡(f,f′)≠1\gcd(f,f')\ne1である。

とくに、モニック既約多項式ppが分離的であることとp′≠0p'\ne0であることは同値である。

証明.α∈Ω\alpha\in\Omegaがffの重根なら、f=(x−α)2gf=(x-\alpha)^2gと書くことができる。積の微分則からf′f'もx−αx-\alphaで割り切れる。したがってffとf′f'はΩ[x]\Omega[x]で共通根をもつ。最小多項式を取れば、K[x]K[x]でも非定数の共通因子をもつ。

逆にα\alphaがffとf′f'の共通根であるとする。f=(x−α)qf=(x-\alpha)qと書くと

f′=q+(x−α)q′f'=q+(x-\alpha)q'

である。f′(α)=0f'(\alpha)=0よりq(α)=0q(\alpha)=0なので、x−αx-\alphaはqqも割り切る。したがって(x−α)2(x-\alpha)^2はffを割り切り、α\alphaは重根である。(2)⇔\Leftrightarrow(3)は最大公約多項式の定義から従う。

ppが既約なら、gcd⁡(p,p′)\gcd(p,p')は11またはppである。deg⁡p′<deg⁡p\deg p'<\deg pなので、後者が成り立つこととp′=0p'=0は同値である。したがって最後の主張を得る。▨

標数00では非定数多項式の微分は00にならないため、すべての既約多項式が分離的である。標数p>0p>0では、f′=0f'=0であることとffがxpx^pの多項式であることが同値であり、非分離性が現れ得る。

例 1.3 (分離多項式と非分離多項式).x3−2∈Q[x]x^3-2\in\mathbb Q[x]ではf′=3x2f'=3x^2であり、gcd⁡(x3−2,3x2)=1\gcd(x^3-2,3x^2)=1なので分離的である。

一方、K=Fp(t)K=\mathbb F_p(t)とし、f=xp−tf=x^p-tとする。ttはKKのpp乗ではないのでffは既約であるが、f′=0f'=0である。代数閉包でαp=t\alpha^p=tとおくとf=(x−α)pf=(x-\alpha)^pであり、ffは相異なる根を一つしかもたない。

2 埋め込みの個数と分離次数

KKの代数閉包Ω\Omegaを一つ固定する。KK-埋め込みとは、KKの各元を固定する体準同型をいう。

補題 2.1.E/KE/KをΩ\Omegaの部分体とし、σ:E→Ω\sigma:E\to\OmegaをKK-埋め込みとする。α\alphaをEE上代数的な元とし、その最小多項式をmα,Em_{\alpha,E}とする。σ\sigmaを係数へ施した多項式をσmα,E∈σ(E)[x]\sigma m_{\alpha,E}\in\sigma(E)[x]と書く。

σ\sigmaを延長する埋め込みE(α)→ΩE(\alpha)\to\Omegaと、σmα,E\sigma m_{\alpha,E}のΩ\Omegaにおける相異なる根は、α\alphaの像を対応させることによって一対一に対応する。

証明.β∈Ω\beta\in\Omegaをσmα,E\sigma m_{\alpha,E}の根とする。写像

E[x]⟶Ω,∑iaixi⟼∑iσ(ai)βiE[x]\longrightarrow\Omega,\qquad \sum_i a_i x^i\longmapsto\sum_i\sigma(a_i)\beta^i

の核は(mα,E)(m_{\alpha,E})である。したがって商を取ると、§E8.2 定理 3.1の同型を通じてE(α)→ΩE(\alpha)\to\Omegaが得られ、この埋め込みはα\alphaをβ\betaへ写す。

逆に、σ\sigmaを延長する埋め込みσ~\widetilde\sigmaは0=σ~(mα,E(α))=(σmα,E)(σ~(α))0=\widetilde\sigma(m_{\alpha,E}(\alpha))=(\sigma m_{\alpha,E})(\widetilde\sigma(\alpha))を満たす。体E(α)E(\alpha)はEEとα\alphaで生成されるため、σ~\widetilde\sigmaはσ~(α)\widetilde\sigma(\alpha)によって一意に定まる。▨

定義 2.2. 有限拡大L/KL/Kの分離次数 (separable degree) を

[L:K]s=#Hom⁡K(L,Ω)[L:K]_{\mathrm s}=\#\operatorname{Hom}_K(L,\Omega)

と定める。右辺は、LLから固定した代数閉包Ω\OmegaへのKK-埋め込みの個数である。

定理 2.3. 有限拡大L/KL/Kに対して

[L:K]s≤[L:K][L:K]_{\mathrm s}\le [L:K]

が成り立つ。等号が成り立つことと、L/KL/Kが分離拡大であることは同値である。

証明.L=K(α1,…,αr)L=K(\alpha_1,\ldots,\alpha_r)とし、Ki=K(α1,…,αi)K_i=K(\alpha_1,\ldots,\alpha_i)とおく。補題 2.1により、Ki−1K_{i-1}からの一つの埋め込みをKiK_iへ延長する方法の個数は、αi\alpha_iの最小多項式の相異なる根の個数であり、高々[Ki:Ki−1][K_i:K_{i-1}]である。すべての段階について数えると

#Hom⁡K(L,Ω)≤∏i=1r[Ki:Ki−1]=[L:K]\#\operatorname{Hom}_K(L,\Omega) \le\prod_{i=1}^{r}[K_i:K_{i-1}]=[L:K]

を得る。最後の等号は塔の公式§E8.1 定理 2.1による。

L/KL/Kが分離的なら、各αi\alpha_iのKK上の最小多項式は分離的である。Ki−1K_{i-1}上の最小多項式はその多項式を割り切るため、やはり分離的である。したがって各段階の延長数は[Ki:Ki−1][K_i:K_{i-1}]に等しく、全体でも等号が成り立つ。

逆にL/KL/Kが分離的でないなら、あるα∈L\alpha\in LのKK上の最小多項式は非分離的である。E=K(α)E=K(\alpha)とおくと

#Hom⁡K(E,Ω)<[E:K]\#\operatorname{Hom}_K(E,\Omega)<[E:K]

である。一つのKK-埋め込みE→ΩE\to\OmegaをLLへ延長する方法は、生成元を一つずつ添加して補題 2.1を適用すれば高々[L:E][L:E]個である。ゆえに

#Hom⁡K(L,Ω)≤#Hom⁡K(E,Ω)[L:E]<[E:K][L:E]=[L:K]\#\operatorname{Hom}_K(L,\Omega) \le\#\operatorname{Hom}_K(E,\Omega)[L:E] <[E:K][L:E]=[L:K]

となる。したがって等号ならL/KL/Kは分離的である。▨

系 2.4. 有限拡大L/KL/Kが、KK上分離的な有限個の元α1,…,αr\alpha_1,\ldots,\alpha_rで生成されるなら、L/KL/Kは分離拡大である。

証明.Ki=K(α1,…,αi)K_i=K(\alpha_1,\ldots,\alpha_i)とおく。αi\alpha_iのKi−1K_{i-1}上の最小多項式は、KK上の最小多項式をKi−1[x]K_{i-1}[x]で割り切るため分離的である。したがって、各Ki−1K_{i-1}-埋め込みをKiK_iへ延長する方法の個数は[Ki:Ki−1][K_i:K_{i-1}]である。すべての段階について数え、塔の公式を用いると#Hom⁡K(L,Ω)=[L:K]\#\operatorname{Hom}_K(L,\Omega)=[L:K]を得る。定理 2.3によりL/KL/Kは分離拡大である。▨

3 有限エタール代数

定義 3.1. 有限次元可換単位的KK-代数AAが有限エタールKK-代数 (finite etale K-algebra) であるとは、有限個の有限次分離拡大L1/K,…,Lr/KL_1/K,\ldots,L_r/Kが存在して

A≅L1×⋯×LrA\cong L_1\times\cdots\times L_r

とKK-代数同型になることをいう。空積は用いず、A≠0A\ne0とする。

代数閉体上の有限次元代数について、被約性は直積分解と同値になる。

補題 3.2.Ω\Omegaを代数的閉体とし、BBを非零有限次元可換単位的Ω\Omega-代数とする。BBが被約であることと、あるr≥1r\ge1についてB≅ΩrB\cong\Omega^rとなることは同値である。

証明.B≅ΩrB\cong\Omega^rなら、各成分で冪零な元は00だけなのでBBは被約である。

逆にBBが被約であるとする。dim⁡ΩB\dim_\Omega Bについて帰納する。有限次元性により、BBは包含に関して極小な非零イデアルIIをもつ。0≠a∈I0\ne a\in Iを取る。被約性からa2≠0a^2\ne0なので、非零イデアルa2B⊆Ia^2B\subseteq Iは極小性によりIIに等しい。したがってa=a2ba=a^2bとなるb∈Bb\in Bが存在する。e=abe=abとおくと

e2=a2b2=ab=ee^2=a^2b^2=ab=e

であり、I=aB=eBI=aB=eBである。またx=ac∈Ix=ac\in Iに対してex=a2bc=ac=xex=a^2bc=ac=xなので、eeは環eBeBの単位元である。

0≠x∈eB0\ne x\in eBなら、xBxBはIIに含まれる非零イデアルなのでxB=IxB=Iである。したがってxy=exy=eとなるy∈By\in Bが存在し、ey∈eBey\in eBはxxの逆元である。ゆえにeBeBは体である。直交する冪等元eeと1−e1-eにより

B⟶eB×(1−e)B,z⟼(ez,(1−e)z)B\longrightarrow eB\times(1-e)B, \qquad z\longmapsto(ez,(1-e)z)

は同型である。(1−e)B(1-e)Bも有限次元かつ被約であり、e≠0e\ne0なのでその次元はBBより小さい。(1−e)B=0(1-e)B=0ならB=eBB=eBは既に体である。(1−e)B≠0(1-e)B\ne0なら帰納法を適用する。いずれの場合も、BBは有限個の有限次体拡大の直積になる。Ω\Omegaは代数的閉体なので、各体因子はΩ\Omega自身に等しい。したがってB≅ΩrB\cong\Omega^rである。▨

定理 3.3.AAを非零有限次元可換単位的KK-代数とし、Ω\OmegaをKKの代数閉包とする。次の条件は同値である。

  1. AAは有限エタールKK-代数である。
  2. A⊗KΩA\otimes_K\Omegaは被約である。
  3. A⊗KΩ≅Ωdim⁡KAA\otimes_K\Omega\cong\Omega^{\dim_K A}とΩ\Omega-代数同型になる。

証明. まず有限次分離拡大L/KL/Kを考える。KK-埋め込みの集合をΣ=Hom⁡K(L,Ω)\Sigma=\operatorname{Hom}_K(L,\Omega)とし、Ω\Omega-代数準同型

ΦL:L⊗KΩ⟶∏σ∈ΣΩ,a⊗c⟼(cσ(a))σ(1)\Phi_L:L\otimes_K\Omega\longrightarrow\prod_{\sigma\in\Sigma}\Omega, \qquad a\otimes c\longmapsto\bigl(c\sigma(a)\bigr)_{\sigma} \tag{1}

を定める。L/KL/Kは分離的なので、定理 2.3により∣Σ∣=[L:K]|\Sigma|=[L:K]である。

相異なる体準同型は線形独立である。実際、最小個数の項からなる非自明な関係∑i=1sciσi(a)=0\sum_{i=1}^{s}c_i\sigma_i(a)=0がすべてのa∈La\in Lについて成り立つと仮定する。σ1(b)≠σs(b)\sigma_1(b)\ne\sigma_s(b)となるb∈Lb\in Lを選び、aaをababに置き換えた関係から元の関係のσs(b)\sigma_s(b)倍を引くと、項数が少なく、第一係数が非零である関係を得る。これは最小性に反する。したがって式 (1) の座標を与える線形汎関数は独立であり、ΦL\Phi_Lの階数は∣Σ∣=[L:K]|\Sigma|=[L:K]である。定義域と終域のΩ\Omega-次元はいずれも[L:K][L:K]なので、ΦL\Phi_Lは同型である。

A=∏iLiA=\prod_i L_iが有限エタールなら、テンソル積は有限直積と交換するため

A⊗KΩ≅∏iΩ[Li:K]≅Ωdim⁡KAA\otimes_K\Omega\cong\prod_i\Omega^{[L_i:K]} \cong\Omega^{\dim_K A}

となる。したがって(1)⇒\Rightarrow(3)と(3)⇒\Rightarrow(2)が従う。

次にA⊗KΩA\otimes_K\Omegaが被約であると仮定する。写像A→A⊗KΩA\to A\otimes_K\Omega、a↦a⊗1a\mapsto a\otimes1はベクトル空間の基底を取れば単射である。したがってAA自身も被約である。補題 3.2の証明で用いた極小イデアルと冪等元による帰納法をKK上で同じように行うと、有限次体拡大Li/KL_i/Kが存在して

A≅∏iLiA\cong\prod_i L_i

となる。各Li⊗KΩL_i\otimes_K\OmegaはA⊗KΩA\otimes_K\Omegaの直積因子なので被約である。補題 3.2によりLi⊗KΩ≅Ω[Li:K]L_i\otimes_K\Omega\cong\Omega^{[L_i:K]}である。左辺からΩ\OmegaへのΩ\Omega-代数準同型はLiL_iからΩ\OmegaへのKK-埋め込みと一対一に対応するため、その個数は[Li:K][L_i:K]である。定理 2.3によりLi/KL_i/Kは分離拡大である。ゆえにAAは有限エタールであり、(2)⇒\Rightarrow(1)が従う。▨

例 3.4 (一元生成代数).f∈K[x]f\in K[x]をモニック多項式とし、A=K[x]/(f)A=K[x]/(f)とする。代数閉包Ω\Omegaへ基底変換すると

A⊗KΩ≅Ω[x]/(f)A\otimes_K\Omega\cong\Omega[x]/(f)

である。f=∏i=1n(x−αi)f=\prod_{i=1}^{n}(x-\alpha_i)が相異なる一次因子の積なら、中国剰余定理によりΩ[x]/(f)≅Ωn\Omega[x]/(f)\cong\Omega^nとなる。ffが重根α\alphaをもつなら、対応する局所因子ではx−αx-\alphaの剰余類が非零冪零元になる。したがってAAが有限エタールであることとffが分離的であることは同値である。

4 演習

問題 4.1 (分離性と有限エタール代数).

  1. 標数p>0p>0の体でf′=0f'=0となることと、f(x)=g(xp)f(x)=g(x^p)と書くことができることの同値を証明せよ。
  2. 有限拡大L/E/KL/E/Kに対して、埋め込みを制限して数えることにより[L:K]s≤[L:E]s[E:K]s[L:K]_{\mathrm s}\le [L:E]_{\mathrm s}[E:K]_{\mathrm s}が成り立つ条件を整理せよ。
  3. KKの標数が22でないとする。K[x]/(x2−a)K[x]/(x^2-a)が有限エタールであるためのa∈Ka\in Kに関する条件を、例 3.4を用いて求めよ。

5 扱った範囲と次の記事

本記事では、分離性を重根の不在として定め、有限拡大の分離次数を代数閉包への埋め込み数として記述した。また、有限エタール代数を有限次分離拡大の有限直積として導入し、代数閉包への基底変換後の被約性で特徴づけた。次の記事では、有限次分離拡大が一つの元で生成されることを証明する。

参考文献

  1. Serge Lang, Algebra, revised 3 ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2002.
  2. David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004.
  3. James S. Milne, Étale Cohomology, Princeton Mathematical Series 33, Princeton University Press, 1980.

前提記事