§E8.5代数閉包

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本記事では、代数閉体と体の代数閉包の概念を導入し、任意の体に代数閉包が存在することを証明する。

1 代数閉体と代数閉包

定義 1.1. 体Ω\Omegaが代数的閉体 (algebraically closed field) であるとは、Ω[t]\Omega[t]の任意の非定数多項式がΩ\Omegaに根をもつことをいう。

体KKの拡大Ω/K\Omega/Kが代数的閉包 (algebraic closure) であるとは、Ω/K\Omega/Kが代数拡大であり、Ω\Omegaが代数的閉体であることをいう。

命題 1.2. 体Ω\Omegaに対して、次の二条件は同値である。

  1. Ω\Omegaは代数的閉体である。
  2. 次数n≥1n\geq1の任意の多項式f∈Ω[t]f\in\Omega[t]に対して、c∈Ω×c\in\Omega^\timesと、重複を許した元a1,…,an∈Ωa_1,\ldots,a_n\in\Omegaが存在して f(t)=c∏i=1n(t−ai)f(t)=c\prod_{i=1}^n(t-a_i) が成り立つ。

証明.(1)を仮定する。n=1n=1ならば、f(t)=ct+bf(t)=ct+bと書き、a1=−c−1ba_1=-c^{-1}bと置くとf(t)=c(t−a1)f(t)=c(t-a_1)となる。n>1n>1とし、次数がnnより小さい多項式に対して結論を仮定する。(1)からffは根a1∈Ωa_1\in\Omegaをもつ。因数定理§E6.28 定理 4.2により、次数n−1n-1の多項式q∈Ω[t]q\in\Omega[t]が存在してf(t)=(t−a1)q(t)f(t)=(t-a_1)q(t)となる。qqの最高次係数はffの最高次係数ccに等しい。帰納法の仮定をqqに適用すると、重複を許したa2,…,an∈Ωa_2,\ldots,a_n\in\Omegaが存在して

q(t)=c∏i=2n(t−ai)q(t)=c\prod_{i=2}^n(t-a_i)

となり、所要の分解を得る。

(2)を仮定し、非定数多項式f∈Ω[t]f\in\Omega[t]を任意に取る。ffの次数をnnとするとn≥1n\geq1である。(2)の分解に現れるa1a_1を代入するとf(a1)=0f(a_1)=0となる。したがって、Ω\Omega上の任意の非定数多項式はΩ\Omegaに根をもち、Ω\Omegaは代数的閉体である。▨

2 代数閉包の存在

補題 2.1. 任意の体LLに対して、LL上代数的な拡大体L+L^+で、L[t]L[t]のすべての非定数多項式がL+L^+に根をもつものが存在する。

証明. 不定元ttを固定し、各非定数多項式f∈L[t]∖Lf\in L[t]\setminus Lに対して不定元xfx_fを一つ用意する。多項式環

RL:=L[xf∣f∈L[t]∖L]R_L:=L[x_f\mid f\in L[t]\setminus L]

とそのイデアル

IL:=(f(xf)∣f∈L[t]∖L)I_L:=\bigl(f(x_f)\mid f\in L[t]\setminus L\bigr)

主張 2.1.1 (モニック多項式による商).AAを零環でない可換単位的LL-代数とし、f∈L[t]f\in L[t]の次数をd≥1d\geq1とする。このとき、A[x]/(f(x))A[x]/(f(x))は

1,xˉ,…,xˉd−11,\bar x,\ldots,\bar x^{d-1}

を基底とする自由AA-加群であり、零環ではない。

証明. 構造写像L→AL\to Aの核は体LLのイデアルである。この写像は単位元を保ち、AAは零環でないから、核はLLではない。したがって核は00であり、構造写像は単射である。

ffの最高次係数をc∈L×c\in L^\timesとする。AAにおけるccの像は単元であり、g:=c−1f∈A[x]g:=c^{-1}f\in A[x]は次数ddのモニック多項式である。ccは単元であるため、(f(x))=(g(x))(f(x))=(g(x))が成り立つ。

任意のp∈A[x]p\in A[x]を取る。p=0p=0ならばq=r=0q=r=0とすればよい。p≠0p\neq0の場合には、ppの次数がdd以上である間、その最高次項amxma_mx^mをamxm−dga_mx^{m-d}gを引くことによって消去する。ggの最高次係数が11であるため、多項式が零になるか、次数が毎回真に下がる。したがって、有限回の操作の後に

p=qg+r,r=0またはdeg⁡r<dp=qg+r, \qquad r=0\quad\text{または}\quad\deg r<d

となるq,r∈A[x]q,r\in A[x]を得る。この余りは一意的である。実際、qg+r=q′g+r′qg+r=q'g+r'とし、h:=q−q′h:=q-q'が非零であると仮定する。ggはモニックであるから、hghgの最高次係数はhhの最高次係数そのものであり、特に零ではない。ゆえにdeg⁡(hg)=deg⁡h+d≥d\deg(hg)=\deg h+d\geq dである。一方、hg=r′−rhg=r'-rの右辺は零であるか、次数がddより小さいから矛盾する。したがってh=0h=0であり、r=r′r=r'となる。

この存在と一意性により、次数がddより小さい多項式の係数列と商環A[x]/(g)A[x]/(g)とがAA-線形同型によって対応する。したがって、1,xˉ,…,xˉd−11,\bar x,\ldots,\bar x^{d-1}はA[x]/(f(x))A[x]/(f(x))の基底である。AAは零環でないからこの自由加群も零加群ではなく、A[x]/(f(x))A[x]/(f(x))は零環ではない。▨

1∈IL1\in I_Lと仮定する。このとき、あるr≥1r\geq1、相異なるf1,…,fr∈L[t]∖Lf_1,\ldots,f_r\in L[t]\setminus Lおよびa1,…,ar∈RLa_1,\ldots,a_r\in R_Lが存在して

1=∑j=1rajfj(xfj)1=\sum_{j=1}^r a_jf_j(x_{f_j})

となる。この等式に現れる不定元のうちxf1,…,xfrx_{f_1},\ldots,x_{f_r}以外のものをz1,…,zsz_1,\ldots,z_sとする。A0:=L[z1,…,zs]A_0:=L[z_1,\ldots,z_s]と置き、1≤j≤r1\leq j\leq rに対して

Aj:=Aj−1[xfj]/(fj(xfj))A_j:=A_{j-1}[x_{f_j}]/\bigl(f_j(x_{f_j})\bigr)

と定める。A0A_0は零環ではない。上の主張を順に適用すると、すべてのAjA_jが零環でないことが分かる。

係数の包含から誘導される単位的環準同型をιj ⁣:Aj−1→Aj\iota_j\colon A_{j-1}\to A_jとする。j<kj<kに対して、ιj,k ⁣:Aj→Ak\iota_{j,k}\colon A_j\to A_kをιj+1,…,ιk\iota_{j+1},\ldots,\iota_kの合成とし、ιj,j\iota_{j,j}は恒等写像とする。AjA_jにおけるxfjx_{f_j}の剰余類をxˉfj\bar x_{f_j}と書く。係数写像L→ArL\to A_rを固定する。有限な順序z1,…,zs,xf1,…,xfrz_1,\ldots,z_s,x_{f_1},\ldots,x_{f_r}に従い、一変数多項式環の普遍性§E6.1 定理 7.3を反復して適用する。各段階では、すでに構成した係数環からArA_rへの準同型を、次の不定元を表示されたArA_rの元へ送る準同型に拡張する。各段階の係数環と標的ArA_rは可換環であるため、指定した像は係数環の像を中心化し、普遍性の仮定を満たす。これにより、

zk⟼ι0,r(zk),xfj⟼ιj,r(xˉfj)z_k\longmapsto\iota_{0,r}(z_k), \qquad x_{f_j}\longmapsto\iota_{j,r}(\bar x_{f_j})

と指定する唯一のLL-代数準同型

Φ ⁣:L[z1,…,zs,xf1,…,xfr]⟶Ar\Phi\colon L[z_1,\ldots,z_s,x_{f_1},\ldots,x_{f_r}] \longrightarrow A_r

が定まる。各jjに対してfj(xˉfj)=0f_j(\bar x_{f_j})=0がAjA_jで成り立つから、Φ(fj(xfj))=0\Phi(f_j(x_{f_j}))=0である。仮定した等式にΦ\Phiを適用するとArA_rで1=01=0となる。この結論はArA_rが零環でないことに反する。したがってILI_Lは真のイデアルである。

RLR_Lを単位元をもつ環とみなし、真の左イデアルILI_Lに§E6.7 命題 3.2を適用する。ILI_Lを含む極大左イデアルmL\mathfrak m_Lが存在する。RLR_Lは可換環であるから、mL\mathfrak m_LはRLR_Lの極大イデアルである。したがって§E6.4 命題 3.2により、

L+:=RL/mLL^+:=R_L/\mathfrak m_L

は体である。非零元c∈Lc\in LはRLR_Lの単元であるから、c∉mLc\notin\mathfrak m_Lである。ゆえに自然な写像L→L+L\to L^+は単射であり、この写像によってL+L^+をLLの拡大体とみなす。

任意のf∈L[t]∖Lf\in L[t]\setminus Lに対して、xfx_fの剰余類αf∈L+\alpha_f\in L^+はf(αf)=0f(\alpha_f)=0を満たす。したがって、LL上のすべての非定数多項式はL+L^+に根をもつ。

任意のu∈L+u\in L^+を取る。u∈Lu\in LならばuuはLL上代数的である。u∉Lu\notin Lとする。uuの代表多項式は定数ではないから、その代表多項式に現れる不定元は少なくとも一つで有限個である。したがって、あるs≥1s\geq1とf1,…,fs∈L[t]∖Lf_1,\ldots,f_s\in L[t]\setminus Lに対して

u∈L[αf1,…,αfs]⊆L(αf1,…,αfs)u\in L[\alpha_{f_1},\ldots,\alpha_{f_s}] \subseteq L(\alpha_{f_1},\ldots,\alpha_{f_s})

となる。各αfj\alpha_{f_j}はLL上代数的であるから、§E8.2 定理 4.2によりL(αf1,…,αfs)/LL(\alpha_{f_1},\ldots,\alpha_{f_s})/Lは有限次拡大である。§E8.2 命題 4.1により、この中間体はLL上代数的である。したがって、その元uuはLL上代数的であり、L+/LL^+/Lは代数拡大である。▨

定理 2.2. 任意の体KKは代数閉包をもつ。

証明. 体LLに対して、前補題で定めたRLR_LとILI_L、ILI_Lを含む極大イデアルmL\mathfrak m_L、商体RL/mLR_L/\mathfrak m_Lおよび自然な単射L→RL/mLL\to R_L/\mathfrak m_Lからなる有限組を一段階の資料と定める。有限な構成履歴は、体の有限列、隣り合う体の間の埋め込み、および各段階で用いる極大イデアルの有限列として符号化する。

長さ00の初期履歴をx0:=Kx_0:=Kと表し、H0:={x0}H_0:=\{x_0\}と置く。HnH_nが定まったとき、Hn+1H_{n+1}を、HnH_nの各履歴の末尾の体LLに対する一段階の資料を一つ付け加えて得られるすべての履歴の集合とする。候補となるmL\mathfrak m_Lの全体はRLR_Lのべき集合の部分集合である。したがって、分出、置換および合併によってHn+1H_{n+1}は集合として定まる。この再帰的定義では、一つの候補を選ばず、すべての候補を次段に残している。ゆえに、HnH_nの構成自体に選択は要らない。

X:=⋃n≥0HnX:=\bigcup_{n\geq0}H_n

と置く。x0∈Xx_0\in XであるからXXは空ではない。h,h′∈Xh,h'\in Xに対して、hRh′hRh'を、h′h'がhhに一段階の資料を付け加えた履歴であることと定める。前補題の証明により、任意のh∈Xh\in Xに対してhRh′hRh'を満たすh′∈Xh'\in Xが存在する。選択公理の下では§E1.20 定理 4.6により従属選択公理が成り立つ。これを空でない集合XXと関係RRに適用し、

hnRhn+1(n≥0)h_nRh_{n+1} \qquad(n\geq0)

を満たす履歴の列(hn)n≥0(h_n)_{n\geq0}を得る。

h0h_0はあるm≥0m\geq0に対してHmH_mに属する有限履歴である。その体の列を

K0=K⟶K1⟶⋯⟶KmK_0=K\longrightarrow K_1\longrightarrow\cdots\longrightarrow K_m

と書き、その各段階に記録された埋め込みと極大イデアルをそれぞれι0,…,ιm−1\iota_0,\ldots,\iota_{m-1}およびm0,…,mm−1\mathfrak m_0,\ldots,\mathfrak m_{m-1}とする。n≥1n\geq1に対して、Km+nK_{m+n}をhnh_nの末尾の体と定める。また、hn−1Rhnh_{n-1}Rh_nによって付け加わった埋め込みと極大イデアルをそれぞれ

ιm+n−1 ⁣:Km+n−1⟶Km+n,mm+n−1\iota_{m+n-1}\colon K_{m+n-1}\longrightarrow K_{m+n}, \qquad \mathfrak m_{m+n-1}

と書く。この定義はhnh_nがhn−1h_{n-1}を一段階だけ延長することと整合する。このように、h0h_0の有限接頭辞と従属選択が与えた列の終端をつなぎ、K0=KK_0=Kから始まる体の列を得る。各q≥0q\geq0に対してKq+1K_{q+1}は対応する商体RKq/mqR_{K_q}/\mathfrak m_qである。補題 2.1により、Kq+1K_{q+1}はKqK_q上代数的であり、Kq[t]K_q[t]のすべての非定数多項式はKq+1K_{q+1}に根をもつ。

n≤mn\leq mに対して、ιn,m ⁣:Kn→Km\iota_{n,m}\colon K_n\to K_mを連続する埋め込みの合成とし、ιn,n\iota_{n,n}は恒等写像とする。直和集合

S:={(n,a)∣n≥0, a∈Kn}S:=\{(n,a)\mid n\geq0,\ a\in K_n\}

上の関係を、(n,a)∼(m,b)(n,a)\sim(m,b)が成り立つことを、あるℓ≥n,m\ell\geq n,mに対して

ιn,ℓ(a)=ιm,ℓ(b)\iota_{n,\ell}(a)=\iota_{m,\ell}(b)

が成り立つこととして定める。各ιn\iota_nが単射であることから、∼\simは同値関係である。Ω:=S/∼\Omega:=S/{\sim}と置き、二つの元を共通のKℓK_\ellへ写してから和と積を取り、非零元を代表する元に対して逆元を取ることによってΩ\Omegaの体構造を定める。同値関係の定義によりこれらの演算は代表元によらず、Ω\Omegaは体となる。準同型

jn ⁣:Kn⟶Ω,a⟼[(n,a)]j_n\colon K_n\longrightarrow\Omega, \qquad a\longmapsto[(n,a)]

は単射であり、jn+1∘ιn=jnj_{n+1}\circ\iota_n=j_nを満たす。

jn(Kn)j_n(K_n)をΩ\Omegaの部分体とみなす。代数性の推移性§E8.2 定理 5.1を帰納的に適用すると、すべてのjn(Kn)/j0(K)j_n(K_n)/j_0(K)が代数拡大であることが分かる。任意のu∈Ωu\in\Omegaはあるnnに対してjn(Kn)j_n(K_n)に属するから、uuはj0(K)j_0(K)上代数的である。ゆえにΩ/j0(K)\Omega/j_0(K)は代数拡大である。

非定数多項式g∈Ω[t]g\in\Omega[t]を取る。ggの係数は有限個であるから、あるnnに対してすべての係数がjn(Kn)j_n(K_n)に属する。したがって、ある非定数多項式gn∈Kn[t]g_n\in K_n[t]がjnj_nの係数ごとの適用によってggへ写る。前補題により、gng_nはKn+1K_{n+1}に根bbをもつ。するとjn+1(b)j_{n+1}(b)はggの根である。よってΩ\Omegaは代数的閉体である。KKをj0(K)j_0(K)と同一視すると、Ω/K\Omega/Kは代数拡大でありΩ\Omegaは代数的閉体である。したがってΩ\OmegaはKKの代数的閉包である。▨

注意 2.3 (一意性). 得られる代数閉包が基礎体を固定する同型を除いて一意的に定まることは、「正規拡大と共役」の§E8.11 定理 5.2で証明する。

注意 2.4 (選択公理の使用範囲). 一段階の同時根添加では、§E6.7 命題 3.2が依拠する Zorn の補題を用いて、ILI_Lを含む極大左イデアルを得る。Zorn の補題は選択公理と同値である。主定理では、有限な構成履歴の集合を各長さごとにすべて保持し、その全体を選択を用いずに集合として構成する。従属選択公理が与える任意の無限鎖の先頭はこのような有限履歴であるから、その有限接頭辞を鎖の後続部分の前に置くことによって、指定した基礎体KKから始まる列を得る。各多項式の根を個別に選ぶ操作は行っておらず、一つの極大左イデアルによる商が一段階に必要なすべての根を同時に与える。

例 2.5 (有限部分で真性を確認する).K=QK=\mathbb Qとし、f1(t):=t2−2f_1(t):=t^2-2およびf2(t):=t2+1f_2(t):=t^2+1に対応する二つの関係式

xf12−2=0,xf22+1=0x_{f_1}^2-2=0, \qquad x_{f_2}^2+1=0

だけを取り出す。有限個の根を逐次的に添加して得られる有限拡大Q(2,i)\mathbb Q(\sqrt2,i)への評価準同型を

xf1⟼2,xf2⟼ix_{f_1}\longmapsto\sqrt2, \qquad x_{f_2}\longmapsto i

で定めると、二つの関係式はともに00へ写る。したがって、この有限部分が生成するイデアルは11を含まない。一般の証明では、仮定した式1∈IK1\in I_Kに実際に現れる有限個の関係式と係数中の不定元を取り出し、根の逐次添加によって同じ真性確認を行う。

参考文献

  1. Serge Lang, Algebra, revised 3 ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2002.
  2. Thomas W. Hungerford, Algebra, Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1974.

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