1 根全体が生成する体
S⊂Kに対して、K(S)をK∪Sを含むKの部分体の交わりとする。K自身がこの条件を満たすので、この交わりを取る対象は空でない。部分体の交わりは再び部分体であるから、K(S)はK∪Sを含む最小のKの部分体である。
定義 1.1.F⊂K[x]∖Kを任意の非定数一変数多項式からなる族とする。Kの中のFの根全体を
RF={α∈K∣ある f∈F が存在して f(α)=0}とおく。このとき
LF=K(RF)⊂Kを、固定したKにおけるFの分解体 (splitting field) という。
有限族の場合にも、この定義は通常の分解体の定義と同じ二つの条件、すなわち全ての多項式が一次式の積に分解することと、その根から体が生成されることを表している。次の定理で最小性を厳密に確認する。
定理 1.2.F⊂K[x]∖Kとし、LF=K(RF)とおく。
- 各f∈FはLF[x]で一次式の積に分解する。
- K⊆E⊆Kを中間体とする。各f∈FがE[x]で一次式の積に分解するとき、かつそのときに限りRF⊆Eである。したがってLF⊆Eである。
- LFは、Fの全ての多項式を分解するKの中間体全体の交わりに等しい。
- Fが有限族なら、LF/Kは有限次代数拡大である。
証明.Kは代数閉体であるから、各f∈FはK[x]で一次式の積に分解する。その根は重複度を除いてRFに属する。LFはRFを含むので、同じ分解はLF[x]での分解である。これで(1)を得る。
RF⊆Eなら、上の分解の全ての根がEに属するから、各f∈FはE[x]で分解する。逆に各f∈FがE[x]で分解すると仮定する。α∈RFを取ると、あるf∈Fに対してf(α)=0である。fのE[x]における一次式分解をK[x]で考えると、因数分解の一意性によりαはその一次因子の根の一つである。したがってα∈Eである。よってRF⊆Eである。
これにより(2)の同値が従う。さらにK(RF)はK∪RFを含む最小の部分体であるから、RF⊆EならLF⊆Eである。一方、(1)によりLF自身が全てのf∈Fを分解する。この二つの事実から、分解する中間体全体の交わりはLFに等しい。これで(3)を得る。
最後にF={f1,…,fr}とする。各fiは有限個の根しかもたないため、RF={α1,…,αs}は有限集合である。各αjはあるfiの根なのでK上代数的である。したがって
K⊆K(α1)⊆K(α1,α2)⊆⋯⊆K(α1,…,αs)=LFは有限拡大の塔である。ゆえにLF/Kは有限次代数拡大である。▨
2 有限族と無限族の違い
一つの多項式は有限族の特別な場合である。したがって、非定数多項式f∈K[x]の分解体は有限次代数拡大である。これが通常の分解体について用いる有限性である。
有限族に対しては、任意の拡大体の中で「全ての多項式が分解し、その根で生成される」という通常の条件を満たす二つの体はKを固定する同型を除いて一意である。この結論は、有限代数拡大への埋め込みを延長する定理を用いる。本サイトでは、その定理を整備した後の「正規拡大と共役」で§E8.11 定理 5.1として証明する。ここで証明したのは、固定したKの内部での最小性と、有限族に対する存在および有限性である。
これに対して、無限族の分解体は一般に有限次ではない。固定したKの内部では定理 1.2によって一意に定まるが、異なる代数閉包に置かれた無限族の分解体について基礎体を固定する同型を除く一意性は、本記事では主張しない。
例 2.1 (無限次となる分解体).K=Qとし、Q⊂Cを固定する。多項式族
F={xn−2∣n≥2}を考える。LFは各n≥2に対して実数の根αn=n2を含む。
多項式xn−2は素数2に関する Eisenstein の判定法によりQ上既約である。したがって
[Q(αn):Q]=nである。もしLF/Qが有限次なら、その次数は全ての部分拡大Q(αn)/Qの次数以上でなければならない。しかしnは任意に大きく取ることができる。よってLF/Qは無限次である。
3 有限の場合の商体による根の添加
有限族の分解体には、代数閉包を固定せずに根を一つずつ添加する構成もある。これは上の定義の根が代数的であることと、有限の場合に有限次拡大の塔を得ることを具体的に示す。
命題 3.1.Kを体とし、p∈K[x]をモニック既約多項式とする。商環
Kp=K[x]/(p)は体であり、α=x+(p)∈Kpはp(α)=0を満たす。また、n=degpとすると1,α,…,αn−1はKpのK上の基底であり、[Kp:K]=nである。
証明.pが既約であることと、主イデアル(p)がK[x]の極大イデアルであることは同値である。したがってKpは体である。商写像をq:K[x]→Kpとすると、
p(α)=p(q(x))=q(p(x))=0である。
多項式の除法により、任意のf∈K[x]はf=ap+r、degr<nと一意に表される。したがってq(f)=q(r)であり、1,α,…,αn−1はKpを生成する。これらの間に非自明なK-係数一次関係があれば、次数がn未満の非零多項式が(p)に属することになるが、そのような多項式はpの非零倍ではない。ゆえに一次関係は自明であり、表示された元は基底である。▨
4 三次多項式の例
例 4.1 (x3−2の分解体).Q⊂Cを固定し、a=32∈Rとする。ωを1の原始三乗根とすると、x3−2の三つの根は
a,aω,aω2である。したがって定義 1.1による{x3−2}の分解体は
L=Q(a,ω)である。
x3−2に有理根があると仮定し、その根を互いに素な整数p,qによってp/q、q>0と書く。p3=2q3であるから、qを割る素数はpも割ることになり、q=1である。さらにpは2を割るため、有理根の候補は1,−1,2,−2である。x3−2にこれらを代入した値はそれぞれ−1,−3,6,−10であるため、有理根は存在しない。三次多項式が可約なら一次因子をもつので、x3−2はQ上既約である。したがって§E8.2 定理 3.1により[Q(a):Q]=3である。
体Q(a)はRの部分体であるが、ωは非実数であるからω∈/Q(a)である。ωはx2+x+1を満たすため、そのQ(a)上の最小多項式は二次である。ゆえに[L:Q(a)]=2である。塔の公式§E8.1 定理 2.1を用いると
[L:Q]=[L:Q(a)][Q(a):Q]=2⋅3=6を得る。
5 演習
問題 5.1 (分解体の構成と次数).
- K⊆E⊆Kとする。f∈K[x]∖KがE[x]で一次式の積に分解するとき、Kにおけるfの全ての根がEに属することを証明せよ。
- F={f1,…,fr}とする。RFの元を一つずつ添加する有限拡大の塔を用いて、[LF:K]が有限であることを示せ。
- 例のF={xn−2∣n≥2}について、[Q(n2):Q]=nが[LF:Q]=∞を導く論理を説明せよ。
6 扱った範囲と次の記事
本記事では、「代数閉包」で構成したKの中で、任意の非定数多項式族の分解体を根全体が生成する最小部分体として定義した。有限族では分解体が有限次であることを示し、無限族では無限次となる例を与えた。続く「有限体の位数と乗法群」では、有限体の位数と乗法群の巡回性を調べる。後の有限体の Galois 理論では、xpn−xの分解体として位数pnの有限体を構成する。有限族の分解体の基礎体を固定する同型を除く一意性は、「正規拡大と共役」で証明する。