1 共役、正規拡大、正規閉包
Kの代数閉包Ωを一つ固定し、代数拡大をΩの部分体として扱う。
定義 1.1.α∈ΩをK上代数的とする。最小多項式mα,KのΩにおける根を、αのK上の共役 (conjugate) という。
代数拡大L/Kが正規拡大 (normal extension) であるとは、K[x]の任意の既約多項式fについて、fがLに根を一つもてば、fがL[x]で一次式の積に分解することをいう。重根を許すため、正規性は分離性を含意しない。
定義 1.2.L/KをΩ内の有限拡大とする。Ω内の有限正規拡大N/KがLを含み、Lを含むΩ内の任意の正規拡大がNを含むとき、NをL/Kの正規閉包 (normal closure) という。
例えばQ(32)/Qは正規ではない。x3−2の一つの根を含むが、二つの非実根を含まないからである。その正規閉包はQ(32,ω)になる。この主張は、後で定理 4.1の構成から確認する。
2 有限段階から代数拡大全体へ
§E8.10 補題 1.3は有限代数拡大への埋め込み延長を、生成元を一つずつ添加して証明した。任意の代数拡大では生成元が無限個になり得るため、有限部分拡大上の埋め込みを整合的に選ぶ。
定理 2.1.E/Fを代数拡大とし、Ωを代数的閉体とする。任意の体埋め込みτ:F→Ωは、体埋め込みτ:E→Ωへ延長することができる。
証明.E/Fの有限部分拡大全体をIとする。D,D′∈Iに対して、それらの合成体もE/Fの有限部分拡大なので、Iは包含について有向集合である。
各D∈Iに対し、τを延長する埋め込みの集合を
XD={σ:D→Ω∣σ∣F=τ}とおく。§E8.10 補題 1.3によりXDは非空である。また、生成元を一つずつ添加すると各段階の像は最小多項式の有限個の根から選ばれるため、XDは有限集合である。XDに離散位相を入れると有限コンパクト Hausdorff 空間になる。
D⊆D′なら、制限写像rD′D:XD′→XDが定まる。この写像は全射である。実際、σ∈XDは有限代数拡大D′/Dへ§E8.10 補題 1.3によって延長することができる。
積空間
X=D∈I∏XDを考える。各因子は非空であるため、選択公理§E1.2 注意 5.7によりXは非空である。
Tychonoff の定理§E2.19 定理 8.2によりXはコンパクトである。各包含D⊆D′に対して
CD′D={(σA)A∈X∣rD′D(σD′)=σD}とおく。XDは離散 Hausdorff なのでCD′Dは閉集合である。
閉集合族{CD′D}が有限交叉性をもつことを示す。有限個の包含条件に現れる体をすべて含むD0∈Iを取る。XD0は非空なのでρ∈XD0を一つ取り、各条件に現れるDの座標をρ∣Dとする。先にXの点を一つ取り、条件に現れる有限個の座標だけをρの制限へ置き換えると、指定された有限個の条件をすべて満たす点が得られる。したがって有限交叉性が成り立つ。
コンパクト性により
D⊆D′⋂CD′D=∅である。この交叉から整合的な族(σD)D∈Iを取る。a∈Eに対して、aを含む有限部分拡大Dを選び
τ(a)=σD(a)と定める。二つの有限部分拡大を選んでも、その合成体への制限条件によって値は一致する。和、積および逆元は二つの元を同時に含む有限部分拡大の中で保存されるため、τは体埋め込みである。Fに対する値はτに等しいので、求める延長を得る。▨
3 正規性の埋め込みによる特徴づけ
定理 3.1.L/KをΩ内の代数拡大とする。次の条件は同値である。
- L/Kは正規拡大である。
- Lの各元のK上の共役がすべてLに属する。
- 任意のK-埋め込みσ:L→Ωがσ(L)=Lを満たす。
証明.(1)⇒(2)を示す。正規拡大の定義をmα,Kへ適用すれば得られる。
(2)⇒(3)を示す。α∈Lに対してσ(α)はαの共役なので、(2)によりσ(L)⊆Lである。さらにmα,Kの根からなる有限集合をRα⊆Lとすると、σはRαからRαへの単射を定めるため、この有限集合を置換する。したがって各α∈Lに対し、σ(β)=αとなるβ∈Rα⊆Lが存在する。ゆえにσは全射であり、σ(L)=Lである。
(3)⇒(2)を示す。α∈Lとし、β∈ΩをαのK上の共役とする。α↦βはK-同型K(α)→K(β)⊆Ωを定める。定理 2.1を代数拡大L/K(α)へ適用すると、この同型はK-埋め込みσ:L→Ωへ延長される。(3)によりσ(L)=Lなのでβ=σ(α)∈Lである。▨
正規性は分離性と独立である。標数p>0でa∈/Kpとし、L=K(α)、αp=aとすると、Lの任意の元βはβp∈Kを満たす。したがってmβ,Kはxp−βp=(x−β)pを割り切り、Lで分解する。ゆえにL/Kは純非分離かつ正規であるが、分離拡大ではない。
4 正規閉包
定理 4.1.L/KをΩ内の有限拡大とする。L/Kの正規閉包が存在する。
L=K(α1,…,αr)とし、fi=mαi,Kとおくと、積f1⋯frのΩ内の分解体が正規閉包である。
証明.Nをf1⋯frのΩ内の分解体とする。各αiはNに属するためL⊆Nであり、N/Kは有限拡大である。
σ:N→ΩをK-埋め込みとする。σは各fiの根を同じfiの根へ写す。Nはそれらの根で生成されるためσ(N)⊆Nである。有限次元性によりσ(N)=Nとなり、定理 3.1からN/Kは正規拡大である。
M/KをΩ内の正規拡大でL⊆Mを満たすものとする。Mは各αiを含むため、正規性によりfiのすべての根を含む。したがって、それらの根で生成されるNを含む。ゆえにNは最小の正規拡大である。▨
例 4.2 (三次単拡大の正規閉包).L=Q(32)とする。生成元の最小多項式はx3−2であり、その三つの根は32、ω32、ω232である。定理 4.1により
N=Q(32,ω)がL/Qの正規閉包である。Lは実数体の部分体なので非実根を含まず、正規ではない。
5 分解体と代数閉包の一意性
定理 5.1.F⊂K[x]∖{0}を有限族とする。Fの二つの分解体LとL′は、Kを固定する体同型によって同型である。
証明.L′の代数閉包Ω′を一つ取る。L/Kは有限代数拡大なので、恒等埋め込みK→Ω′は定理 2.1により埋め込みσ:L→Ω′へ延長される。
f∈Fを取る。L[x]におけるfの一次因子分解へσを施すと、Ω′[x]におけるfの一次因子分解を得る。したがって、Lにあるfのすべての根の像は、重複度も含めてfのすべての根を尽くす。L′もfの分解体なので、それらの像はL′に属する。
LはFの根で生成されるからσ(L)⊆L′である。一方、σ(L)はFのすべての根を含み、L′はそれらの根で生成されるのでL′⊆σ(L)である。したがってσ(L)=L′であり、σ:L→L′が求めるK-同型である。▨
定理 5.2.ΩとΩ′を体Kの代数閉包とする。このときKを固定する体同型Ω∼Ω′が存在する。
証明.Ω/Kは代数拡大であり、Ω′は代数的閉体である。定理 2.1により、恒等埋め込みK→Ω′はK-埋め込みσ:Ω→Ω′へ延長される。
β∈Ω′を取る。Ω′/Kは代数拡大なので、βの最小多項式mβ,K∈K[x]が存在する。Ωは代数的閉体なので
mβ,K(x)=ci=1∏d(x−αi)とΩ[x]で分解する。σはKを固定するため、この等式へσを施すと
mβ,K(x)=ci=1∏d(x−σ(αi))をΩ′[x]で得る。βは左辺の根なので、あるiについてβ=σ(αi)である。したがってσは全射であり、体同型である。▨
二つの一意性はいずれも同型の存在を述べる。同型そのものが一意であるとは限らない。例えばQ(2)には、2の符号を変える非自明なQ-自己同型がある。
6 演習
問題 6.1.
- 定理 2.1の逆極限構成で、制限写像XD′→XDが全射であることを有限埋め込み延長から証明せよ。
- 正規拡大L/KへのK-埋め込みL→Ωが単に像をLに含めるだけでなく、L上全射になる理由を、共役の有限集合を用いて説明せよ。
- Q(42)/Qの正規閉包を求め、生成元の最小多項式のすべての根を列挙せよ。
- 定理 5.2の証明で、Ω′/Kの代数性が使われる箇所と、Ωの代数閉性が使われる箇所を分けて述べよ。
7 扱った範囲と次の記事
本記事では、有限部分拡大上の埋め込みを Tychonoff の定理によって貼り合わせ、任意の代数拡大に対する埋め込み延長定理を証明した。その結果として、正規性の埋め込みによる特徴づけ、有限拡大の正規閉包、分解体の一意性および代数閉包の一意性を得た。次の記事では、正規性とは独立な現象である純非分離性を
Frobenius 準同型によって調べる。