§B4.19期待値の線形性を使う技法

最終更新

求めたい個数を指示確率変数の和へ分解すると、全体の確率分布を求めずに期待値を計算することができます。

1 指示確率変数

定義 1.1 (指示確率変数). 有限標本空間上の事象AAに対して、

1A(ω)={1(ω∈A),0(ω∉A)\mathbf{1}_A(\omega)= \begin{cases} 1&(\omega\in A),\\ 0&(\omega\notin A) \end{cases}

で定める確率変数をAAの指示確率変数といいます。

定理 1.2 (指示確率変数の期待値). 有限標本空間上の事象AAについて、

E[1A]=P(A)E[\mathbf{1}_A]=P(A)

が成り立ちます。

証明.1A\mathbf{1}_Aは確率P(A)P(A)で1を、確率1−P(A)1-P(A)で0をとるので、

E[1A]=1⋅P(A)+0⋅(1−P(A))=P(A)E[\mathbf{1}_A]=1\cdot P(A)+0\cdot(1-P(A))=P(A)

です。▨

有限個の事象について、起こった事象の個数の期待値を求めます。

定理 1.3 (期待個数の公式).A1,…,AnA_1,\ldots,A_nを同じ有限標本空間上の事象とし、起こった事象の個数を

N=∑i=1n1AiN=\sum_{i=1}^{n}\mathbf{1}_{A_i}

とします。このとき、事象間の独立性を仮定せずに

E[N]=∑i=1nP(Ai)E[N]=\sum_{i=1}^{n}P(A_i)

が成り立ちます。

証明. 期待値の線形性と指示確率変数の期待値から、

E[N]=∑i=1nE[1Ai]=∑i=1nP(Ai)E[N]=\sum_{i=1}^{n}E[\mathbf{1}_{A_i}] =\sum_{i=1}^{n}P(A_i)

を得ます。▨

線形性そのものの証明は「確率変数の期待値・分散」が与えています。本記事では有限個の指示確率変数への分解を扱います。

例 1.4 (無作為な順列の固定点).n≥2n\ge2とし、nn人へnn通の手紙を無作為に一通ずつ配ります。人iiが自分宛ての手紙を受け取る事象をAiA_iとすると、P(Ai)=1/nP(A_i)=1/nです。自分宛てを受け取る人数NNの期待値は

E[N]=∑i=1n1n=1E[N]=\sum_{i=1}^{n}\frac1n=1

です。各事象は独立ではありませんが、期待値の計算には影響しません。

定理 1.5 (正の期待値からの存在). 有限標本空間上の非負整数値確率変数XXがE[X]>0E[X]>0を満たすならば、X(ω)≥1X(\omega)\ge1を満たす結果ω\omegaが存在します。

証明. すべての結果でX=0X=0ならばE[X]=0E[X]=0です。したがってE[X]>0E[X]>0ならば、少なくとも一つの結果でX≥1X\ge1です。▨

2 演習

  1. 公平な硬貨を10回投げたとき、表の回数の期待値を指示確率変数で求めます。
  2. 無作為な順列の固定点の事象が独立でないことを確かめても、期待値が1である計算が変わらない理由を説明します。
  3. 非負整数値という仮定を外した場合、E[X]>0E[X]>0からX≥1X\ge1の結果の存在が従わない例を作ります。

1では各回の表の指示確率変数を足し、期待値は10⋅(1/2)=510\cdot(1/2)=5回です。2では期待値の線形性が独立性を仮定しないため、各固定点の確率1/n1/nだけで和の期待値を計算することができます。3では、常にX=1/2X=1/2である確率変数が反例です。

例題

条件と何を求めるかを確認してから、式と答えの対応を見比べてください。

期待値の線形性(独立でなくても E[X+Y] == E[X]+E[Y])を用いて、次の期待値を求めよ。

3 人が自分の帽子を1つずつ持ち寄り、無作為に1つずつ取る。自分の帽子を取る人数を X とするとき、E[X] を求めよ。

解法の型「回数」「個数」の期待値は指示確率変数 X_i(起きたら1)の和に分解し、E[X] ==Σ\Sigma P(A_i) とする。全体の分布は求めなくてよい

  1. 例題 1

    3 人が帽子を無作為に取るとき、自分の帽子を取る人数 X の期待値 E[X]3\ \text{人が帽子を無作為に取るとき、自分の帽子を取る人数}\ X\ \text{の期待値}\ E[X]

演習

問題を解いてから「解答・解説」を開けます。

期待値の線形性(独立でなくても E[X+Y] == E[X]+E[Y])を用いて、次の期待値を求めよ。

演習を読み込み中…

前提記事