1 対称ランダムウォークの広がり
定義 1.1 (一次元単純対称ランダムウォーク).X1,X2,…を、1と−1をそれぞれ確率1/2でとる互いに独立な確率変数とします。S0=0、
Sn=X1+⋯+Xnで定める過程を一次元単純対称ランダムウォークといいます。
定理 1.2 (位置の期待値と分散). 上のランダムウォークについて、
E[Sn]=0,V[Sn]=nが成り立ちます。したがってSnの標準偏差はnです。
証明. 各XiについてE[Xi]=0、V[Xi]=1です。期待値の線形性と、独立な確率変数の分散の加法性を用いると結論を得ます。▨
2 吸収される位置へ到達する確率
位置0とNで停止する対称ランダムウォークを考えます。位置kから出発してNへ先に到達する確率をqkとします。
定理 2.1 (上端へ到達する確率).0≤k≤Nについて、
qk=Nkが成り立ちます。
証明. 境界条件はq0=0,qN=1です。1≤k≤N−1では一歩先で場合分けして
qk=21qk−1+21qk+1を得ます。したがってqk+1−qk=qk−qk−1であり、(qk)は等差数列です。境界条件からqk=k/Nを得ます。▨
3 吸収までの歩数の期待値
位置kから0またはNへ到達するまでの歩数の期待値をtkとします。
定理 3.1 (非負整数値確率変数の裾確率和公式).Tを非負整数値または無限大をとる確率変数とし、TL=min(T,L)とします。このとき、正の整数Lについて
E[TL]=r=0∑L−1P(T>r)が成り立ちます。右辺をL→∞とした和が有限ならば、E[T]も有限であり、
E[T]=r=0∑∞P(T>r)が成り立ちます。
証明. 各結果について
TL=r=0∑L−11{T>r}が成り立ちます。有限和の期待値を取ると最初の式を得ます。非負確率変数の期待値を、切り詰めた確率変数の期待値の上限
E[T]=L≥1supE[TL]として定めると、右辺の部分和が有限な極限をもつ場合には、二つ目の式とE[T]<∞を得ます。▨
定理 3.2 (吸収時間の期待値).0≤k≤Nについて、
tk=k(N−k)が成り立ちます。
証明. 境界ではすでに停止しているのでt0=tN=0です。内部では最初の一歩を数えた後の期待値を場合分けして
tk=1+21tk−1+21tk+1を得ます。この期待値が有限であることも確認します。吸収されていない任意の位置から、次のN歩をすべて左へ進めば0へ到達するので、次のN歩以内に吸収される条件付き確率は少なくとも2−Nです。吸収時刻をTとすると、
P(T>mN)≤(1−2−N)mです。確率の単調性から、
r=0∑∞P(T>r)≤Nm=0∑∞P(T>mN)≤Nm=0∑∞(1−2−N)m=N2Nです。裾確率和公式により、E[T]は有限であり、E[T]≤N2Nです。
候補uk=k(N−k)は境界条件を満たし、
1+21uk−1+21uk+1=ukも満たします。二つの解の差は境界値0の等差数列になるので0であり、解は一意です。したがってtk=ukです。▨
4 確率1と例外なく起こること
本記事では有限区間の境界値問題だけを扱います。一般のランダムウォークと確率過程の理論は「確率過程」が扱います。
5 演習
- N=10,k=3のとき、10へ先に到達する確率と、0または10へ吸収されるまでの歩数の期待値を求めます。
- tk=k(N−k)を漸化式へ代入して確認します。
- 「確率1で吸収される」と「すべての無限列が有限時間で吸収される」の違いを説明します。
1の答えは3/10と21歩です。2では
1+21(k−1)(N−k+1)+21(k+1)(N−k−1)=k(N−k)
となります。3では前者は吸収されない無限列全体の確率が0であるという主張であり、その集合が空であるという主張ではありません。後者は例外となる無限列が一つも存在しないという、より強い主張です。