実解析 II は、Euclid 空間上の多変数関数について、微分の局所理論、Riemann 重積分、古典的なベクトル解析を一つの論理的な流れとして扱う。全微分を線形写像として定義し、局所線形化を Taylor の定理、逆関数定理、陰関数定理へ発展させる。積分論では Darboux 和から Riemann 重積分を構成し、Jordan 可測領域、累次積分、変数変換を経て、Gamma 関数と Beta 関数を論じる。最後に、曲線と曲面上の積分を定義し、Green の定理を一変数の微積分学の基本定理と累次積分から導いたうえで、 Stokes の定理を Green の定理へ帰着させ、Gauss の発散定理を三次元の累次積分から導く。
対象読者
本単元は、大学初年度の一変数微積分、線形代数、および集合論と位相空間論の基礎を履修し、多変数微積分を定義と証明から体系的に学ぶ大学学部段階の読者を対象とする。
前提知識
- ε-論法と基礎解析では、一変数関数の極限、連続性、微分、 Riemann 積分、広義積分を学ぶ。本単元は、一変数で確立した定義と定理を多変数へ拡張する。
- 線形代数 Iでは、線形写像、行列式、内積、実対称行列の直交対角化を学ぶ。本単元は、これらの線形代数の概念を全微分、Jacobi 行列式、Hessian の二次形式に用いる。
- 位相空間論 Iでは、Euclid 空間の距離、コンパクト性、完備性、 Banach の不動点定理を学ぶ。本単元は、距離、コンパクト性、完備性、不動点定理を極限と局所逆写像の存在証明に用いる。
必修記事
全24記事を次の順序で学ぶ。
| # | 記事 | 到達目標 |
|---|---|---|
| 1 | 多変数の連続性 | 距離による極限と連続性を定義し、点列による判定を証明する。経路による判定が極限の非存在を示す方法にとどまることを例で確認し、連続写像の演算と、コンパクト集合上の連続関数に対する最大値・最小値の存在を証明する。 |
| 2 | 全微分可能性 | 偏微分、方向微分、全微分を区別し、全微分可能性から連続性が従うことと、偏導関数の連続性が全微分可能性を導くことを証明する。 |
| 3 | 連鎖律と勾配 | 全微分の連鎖律と平均値不等式を証明し、実数値関数の全微分を勾配との内積で表す。 |
| 4 | 高階微分と混合偏導関数 | 二階以上の全微分と多重指数記法を定義し、混合偏導関数の対称性を証明する。 |
| 5 | 多変数 Taylor の定理 | 線分への制限を用いて、積分形剰余項を伴う Taylor の定理を証明し、二次近似を Hessian によって表す。 |
| 6 | Hessian と局所極値 | 臨界点を定義し、Hessian の二次形式の符号による局所極値判定を証明する。二次形式の符号と首座小行列式による特徴づけは線形代数 IIから引用し、Hessian が退化する場合に判定が定まらない例を扱う。 |
| 7 | 逆関数定理 | 一階連続微分可能な写像の微分が一点で可逆である場合について、Banach の不動点定理から一階連続微分可能な局所逆写像の存在を証明し、逆写像の微分公式を導く。 |
| 8 | 陰関数定理 | 一部の変数に関する微分が可逆である場合の陰関数定理を逆関数定理から導き、局所座標表示と微分公式を証明する。 |
| 9 | Lagrange 未定乗数法 | 等式制約を定める写像の微分が全射である場合に、制約集合の接ベクトル全体が微分の核に一致することを証明し、局所極値が満たす乗数条件を導く。正則性を欠く場合の反例も扱う。 |
| 10 | Riemann 重積分 | 長方形上の有界関数について Riemann 重積分を Darboux 和から定義し、連続関数の可積分性と積分の基本性質を証明する。 |
| 11 | Jordan 可測領域 | Jordan 零集合と Jordan 可測集合を定義し、指示関数の可積分性から Jordan 体積を定め、零拡張によって Jordan 可測な有界集合上の Riemann 積分を定義する。非負関数の広義重積分を内側のコンパクト集合上の積分の上限として定め、取り尽くす列からの独立性と絶対収束する場合への拡張を証明する。 |
| 12 | 累次積分 | 長方形上の連続関数に対する累次積分の定理を証明し、座標方向に単純な領域へ積分表示を拡張する。 |
| 13 | 線形変換と体積 | 線形写像が平行多面体の体積を行列式の絶対値倍に変えることを証明し、可逆な線形変換に対する重積分の変数変換公式を導く。証明に用いる有限 Jordan 分割による可積分性判定と積分の有限加法性も証明する。 |
| 14 | 変数変換と Jacobi 行列式 | 一階連続微分可能な微分同相による Jordan 可測領域の変数変換公式を、局所線形近似と有限分割から証明する。特異点と切断を除いた極座標公式へ適用し、有界領域の増大列から Gauss 積分を求める。非負連続関数の広義重積分へ公式を拡張し、絶対収束しない場合に取り尽くし方によって値が変わる反例を示す。 |
| 15 | Gamma 関数 | 正の実数上の Gamma 関数を広義積分によって定義し、局所一様収束と連続性、関数方程式、および二分の一における値を証明する。 |
| 16 | Beta 関数 | 正の実数を二変数とする Beta 関数を定義し、Gamma 関数との関係式を広義重積分の変数変換から証明して、三角関数の冪の積分へ応用する。 |
| 17 | 勾配・発散・回転 | Euclid 三次元空間のスカラー場とベクトル場について勾配、発散、回転を定義し、合成に関する基本恒等式を証明する。 |
| 18 | 曲線と線積分 | 区分的に一階連続微分可能な曲線に沿うスカラー場とベクトル場の線積分を定義し、再パラメータ化不変性、勾配定理、保存場の判定を証明する。 |
| 19 | 有限局所化と 1 の分割 | コンパクト集合の有限開被覆に従属する、非負で一階連続微分可能な有限個の局所化関数を明示的に構成し、その和がコンパクト集合の近傍で 1 になることを証明して、後続の曲面積分と積分定理の大域化に用いる。 |
| 20 | 曲面と面積分 | 正則曲面パッチと、滑らかな境界または有限個の角をもつコンパクトな正則曲面を定義する。接平面と面積要素を導き、有限局所化によるスカラー面積分がチャートと局所化関数の取り方によらないことを証明する。 |
| 21 | 曲面の向きと流束 | コンパクトな正則曲面の向きを連続単位法線場によって定め、外向き余法線と境界の誘導向きがチャートによらないことを証明する。流束を法線成分のスカラー面積分として定義し、向きの反転と内部境界における相殺を扱う。 |
| 22 | Green の定理 | 境界が有限個の互いに交わらない区分的に一階連続微分可能な正則単純閉曲線からなり、補集合の成分構造と境界点における局所的な片側性を仮定する有界な平面領域について、穴を許して外周を反時計回り、内周を時計回りに向きづけ、定理を証明して保存場の判定、面積公式、および二次元の発散定理へ適用する。 |
| 23 | Stokes の定理 | 境界をもつコンパクトな向きづけ可能で二階連続微分可能な正則曲面について、境界の誘導向きを用いる三次元 Stokes の定理を Green の定理から証明する。滑らかな境界の場合を有限局所化で先に示し、扇形の境界チャートによって有限個の角をもつ区分的に二階連続微分可能な境界へ拡張する。 |
| 24 | Gauss の発散定理 | 境界が、相対内部が互いに交わらない有限個の区分的に一階連続微分可能な正則曲面パッチからなり、パッチの共通部分が有限個の区分的に一階連続微分可能な正則曲線と点からなり、各パッチの相対内部の近傍で領域が曲面の一方の側にある有界な三次元領域について、外向き法線を用いる定理を証明して流束計算へ適用する。証明に必要な三次元の単純領域に対する累次積分も証明する。 |
学習の構造
最初の9記事は、線形近似を多変数微分の中心に置く。第10記事から第16記事までは、Riemann 重積分を定義から構成し、変数変換と広義重積分へ進む。第17記事から第21記事までは、微分演算子と線積分を導入し、有限局所化によって曲面上の面積分と流束を内在的に定義する。第22記事以降で、領域内部の微分と境界上の積分を結ぶ三つの積分定理を証明する。表の順序は、各記事が用いる定義と定理を先に置く証明上の依存順序である。
本単元の境界
- Lebesgue 積分、収束定理、積測度、測度論的な Fubini–Tonelli の定理は測度と積分が扱う。本単元の重積分は Riemann 積分に限定する。
- 微分形式、多様体上の積分、一般化された Stokes の定理は多様体入門が扱う。本単元は、境界を有限個の区分的に一階連続微分可能な曲線または正則曲面パッチで記述することができる Euclid 二次元および三次元空間の古典的な定理に限定する。
- 曲面の曲率、測地線、Gauss–Bonnet の定理は曲線と曲面が扱う。本単元は積分に必要な曲面パッチ、面積要素、向きだけを扱う。
- 重積分の数値計算法、求積公式、離散化、数値誤差評価は数値解析 Iが扱う。
後続単元
測度と積分は Riemann 重積分を測度と Lebesgue 積分へ拡張する。多様体入門は逆関数定理と陰関数定理を多様体の局所座標に用い、古典的な三つの積分定理を一般化された Stokes の定理へ統合する。凸最適化は Hessian と Lagrange 未定乗数法を制約付き最適化へ発展させる。