1 一次独立:無駄がない
定義 1.1 (一次独立・一次従属). ベクトルv1,…,vk∈Vが一次独立であるとは、c1v1+⋯+ckvk=0 ⇒ c1=⋯=ck=0が成り立つことをいう。一次独立でないとき一次従属という。
「0を作る自明でない組み合わせがない」=「どれも他の一次結合で表せない」=無駄がない、という意味です。従属なら、どれかが余分で、取り除いても張る空間は変わりません。
2 基底:独立かつ生成する
定義 2.1 (基底).Vの部分集合{v1,…,vn}が基底であるとは、一次独立であり、かつVの生成系である(span{vi}=V)ことをいう。
定理 2.2.K上のベクトル空間Vが有限列w1,…,wmで生成されるならば、{w1,…,wm}の部分集合であるVの基底が存在します。とくに、V={0}のときは空集合が基底です。
証明. 生成列の長さmについて帰納法を用います。m=0のとき、V={0}であり、空集合は一次独立でVを生成します。
m≥1とし、長さがm未満の生成列について主張が成り立つと仮定します。w1,…,wmが一次独立なら、この列はそのままVの基底です。一次従属ならば、すべてが0ではないc1,…,cm∈Kが存在して
c1w1+⋯+cmwm=0となります。cj=0となるjを選ぶと、
wj=−cj−1i=j∑ciwiであるから、wjを除いた列もVを生成します。帰納法の仮定により、この短い生成列の部分集合であるVの基底が存在します。▨
命題 2.3 (座標の一意性).{v1,…,vn}が基底ならば、各x∈Vはx=c1v1+⋯+cnvnの形にただ一通りに表される。
証明. 生成系ゆえ少なくとも一通りに表せる。二通りx=∑icivi=∑ici′viがあれば、辺々引いて∑i(ci−ci′)vi=0。一次独立性よりci−ci′=0、すなわちci=ci′。よって表し方は一意。▨
この一意な係数の組(c1,…,cn)がxの座標です。基底は「無駄なく空間を座標づける物差し」であり、これで抽象的なVが数ベクトルKnと同一視できます。
3 次元:基底の本数は取り方によらない
以下、Vは有限生成(有限個のベクトルで張れる)とする。核心は次の取替え補題です。
補題 3.1 (取替え/Steinitz).w1,…,wmがVを生成し、u1,…,un∈Vが一次独立ならば、n≤mである。
証明. 次の主張をk=0,1,…,min{m,n}について順に示す:
主張 3.1.1.0≤k≤min{m,n}を満たす整数kについて、適当にwたちを番号付け替えると、{u1,…,uk, wk+1,…,wm}がVを生成する。
証明.k=0のときは{w1,…,wm}そのもので、仮定より成立。kで成立し、かつk<min{m,n}と仮定する。生成系ゆえuk+1=a1u1+⋯+akuk+bk+1wk+1+⋯+bmwmと書ける。ここでbk+1,…,bmがすべて0ならuk+1はu1,…,ukの一次結合となり、u1,…,uk+1の一次独立性に反する。よってあるbj=0が存在する。とくにwjの項が残っているのでk<mであり、番号を付け替えてbk+1=0としてよい。するとwk+1=bk+1−1(uk+1−∑i≤kaiui−∑j>k+1bjwj)だから、wk+1は{u1,…,uk+1,wk+2,…,wm}の一次結合。これでwk+1をuk+1に取り替えても生成系のままとわかり、k+1でも主張が成り立つ。▨
さてn>mと仮定して矛盾を導く。主張 3.1.1はk=0からk=mまで進められ(各段でk<mを確かめた)、{u1,…,um}がVを生成する。n>mゆえum+1が存在し、これはu1,…,umの一次結合となって独立性に反する。よってn≤m。▨
定理 3.2 (次元の well-defined 性). 有限生成ベクトル空間Vの任意の2つの基底は、同じ個数のベクトルからなる。
証明.{v1,…,vm}と{w1,…,wn}を基底とする。前者は生成系、後者は一次独立だから、補題 3.1よりn≤m。役割を入れ替えれば(後者が生成系、前者が独立)m≤n。ゆえにm=n。▨
定義 3.3 (次元). 有限生成ベクトル空間Vの基底の(共通の)ベクトルの個数をVの次元といいdimVと書く。dimV=nのときVをn次元という。
「n次元」とは、独立に選べる方向がn本、という空間の大きさの尺度です。
- Rnの次元はn(標準基底e1,…,en)。次数≤nの多項式全体はn+1次元(1,x,…,xnが基底)。
- 補題 3.1の系として、n次元空間では「独立なベクトルは高々n本」「生成系は少なくともn本」。ゆえにn本の独立なベクトルは自動的に基底、n本の生成系も自動的に基底です。
例 3.4 (3 本のベクトルはR2の基底になれない).(1,0),(0,1),(1,1)はR2を生成しますが、基底ではありません。dimR2=2なので 3 本のベクトルは一次従属で、実際(1,1)=(1,0)+(0,1)という自明でない関係があります。生成していても一次独立でなければ基底ではない、という基底の二条件の使い分けがここに出ています。
命題 3.5 (部分空間の次元).Vを有限次元、W⊆Vを部分空間とすると、Wも有限次元でdimW≤dimV。さらにdimW=dimVならばW=V。
証明.n=dimVとする。W={0}なら空集合がWの基底であり、結論は明らかである。以下W={0}とする。空の一次独立な組から始め、得られたw1,…,wrがWを生成しない限り、span{w1,…,wr}に属さないwr+1∈Wを一つ加える。この追加後も組は一次独立である。
この手続きがn回の追加後にも停止しなければ、W、したがってVにn+1本の一次独立なベクトルが存在する。しかしVの基底はn本の生成系なので、これは補題 3.1に反する。よって有限回で停止し、そのとき得られた組は一次独立かつWを生成するからWの基底である。本数はn以下なのでWは有限次元でdimW≤dimVである。
等号のとき、Wの基底はdimV=n本のVにおける一次独立なベクトルで、n次元空間のn本の独立ベクトルは基底ゆえspan=V。一方この span はWに含まれるのでV⊆W⊆V、すなわちW=V。▨
例 3.6 (無限次元空間). 多項式全体K[x]は有限次元ではありません。どんなnをとっても1,x,x2,…,xnは一次独立(多項式が恒等的に0になるのは全係数が0のときだけ)なので、一次独立なベクトルがいくらでも増やせ、有限本の基底に収まりません。連続関数の空間C[a,b]も同様に無限次元です。取替え補題や次元定理は「有限次元」を本質的に使っており、無限次元ではこれらが素朴には成り立たなくなります——そこを扱うのが関数解析(ヒルベルト空間・バナッハ空間)です。