§D3.8一次独立・基底・次元

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ベクトル空間を「過不足なく」記述する材料を定めます。基底とは、一次独立な生成系、すなわち「無駄がなく、かつ十分な」ベクトルの組のことです。 そして次元とは、基底を構成するベクトルの本数のことです。本数が取り方によらないこと(次元の well-defined 性)を、取替え定理として実際に証明します。

1 一次独立:無駄がない

定義 1.1 (一次独立・一次従属). ベクトルv⃗1,…,v⃗k∈V\vec v_1, \dots, \vec v_k \in Vが一次独立であるとは、c1v⃗1+⋯+ckv⃗k=0⃗ ⇒ c1=⋯=ck=0c_1\vec v_1 + \cdots + c_k\vec v_k = \vec 0 \ \Rightarrow\ c_1 = \cdots = c_k = 0が成り立つことをいう。一次独立でないとき一次従属という。

「0⃗\vec 0を作る自明でない組み合わせがない」=「どれも他の一次結合で表せない」=無駄がない、という意味です。従属なら、どれかが余分で、取り除いても張る空間は変わりません。

2 基底:独立かつ生成する

定義 2.1 (基底).VVの部分集合{v⃗1,…,v⃗n}\{\vec v_1, \dots, \vec v_n\}が基底であるとは、一次独立であり、かつVVの生成系である(span⁡{v⃗i}=V\operatorname{span}\{\vec v_i\} = V)ことをいう。

定理 2.2.KK上のベクトル空間VVが有限列w⃗1,…,w⃗m\vec w_1,\dots,\vec w_mで生成されるならば、{w⃗1,…,w⃗m}\{\vec w_1,\dots,\vec w_m\}の部分集合であるVVの基底が存在します。とくに、V={0⃗}V=\{\vec 0\}のときは空集合が基底です。

証明. 生成列の長さmmについて帰納法を用います。m=0m=0のとき、V={0⃗}V=\{\vec 0\}であり、空集合は一次独立でVVを生成します。

m≥1m\geq1とし、長さがmm未満の生成列について主張が成り立つと仮定します。w⃗1,…,w⃗m\vec w_1,\dots,\vec w_mが一次独立なら、この列はそのままVVの基底です。一次従属ならば、すべてが00ではないc1,…,cm∈Kc_1,\dots,c_m\in Kが存在して

c1w⃗1+⋯+cmw⃗m=0⃗c_1\vec w_1+\cdots+c_m\vec w_m=\vec 0

となります。cj≠0c_j\ne0となるjjを選ぶと、

w⃗j=−cj−1∑i≠jciw⃗i\vec w_j=-c_j^{-1}\sum_{i\ne j}c_i\vec w_i

であるから、w⃗j\vec w_jを除いた列もVVを生成します。帰納法の仮定により、この短い生成列の部分集合であるVVの基底が存在します。▨

命題 2.3 (座標の一意性).{v⃗1,…,v⃗n}\{\vec v_1, \dots, \vec v_n\}が基底ならば、各x⃗∈V\vec x \in Vはx⃗=c1v⃗1+⋯+cnv⃗n\vec x = c_1\vec v_1 + \cdots + c_n\vec v_nの形にただ一通りに表される。

証明. 生成系ゆえ少なくとも一通りに表せる。二通りx⃗=∑iciv⃗i=∑ici′v⃗i\vec x = \sum_i c_i\vec v_i = \sum_i c_i'\vec v_iがあれば、辺々引いて∑i(ci−ci′)v⃗i=0⃗\sum_i (c_i - c_i')\vec v_i = \vec 0。一次独立性よりci−ci′=0c_i - c_i' = 0、すなわちci=ci′c_i = c_i'。よって表し方は一意。▨

この一意な係数の組(c1,…,cn)(c_1, \dots, c_n)がx⃗\vec xの座標です。基底は「無駄なく空間を座標づける物差し」であり、これで抽象的なVVが数ベクトルKnK^nと同一視できます。

3 次元:基底の本数は取り方によらない

以下、VVは有限生成(有限個のベクトルで張れる)とする。核心は次の取替え補題です。

補題 3.1 (取替え/Steinitz).w⃗1,…,w⃗m\vec w_1, \dots, \vec w_mがVVを生成し、u⃗1,…,u⃗n∈V\vec u_1, \dots, \vec u_n \in Vが一次独立ならば、n≤mn \le mである。

証明. 次の主張をk=0,1,…,min⁡{m,n}k = 0, 1, \dots, \min\{m,n\}について順に示す:

主張 3.1.1.0≤k≤min⁡{m,n}0\le k\le\min\{m,n\}を満たす整数kkについて、適当にw⃗\vec wたちを番号付け替えると、{u⃗1,…,u⃗k, w⃗k+1,…,w⃗m}\{\vec u_1, \dots, \vec u_k,\ \vec w_{k+1}, \dots, \vec w_m\}がVVを生成する。

証明.k=0k = 0のときは{w⃗1,…,w⃗m}\{\vec w_1, \dots, \vec w_m\}そのもので、仮定より成立。kkで成立し、かつk<min⁡{m,n}k < \min\{m,n\}と仮定する。生成系ゆえu⃗k+1=a1u⃗1+⋯+aku⃗k+bk+1w⃗k+1+⋯+bmw⃗m\vec u_{k+1} = a_1\vec u_1 + \cdots + a_k\vec u_k + b_{k+1}\vec w_{k+1} + \cdots + b_m\vec w_mと書ける。ここでbk+1,…,bmb_{k+1}, \dots, b_mがすべて00ならu⃗k+1\vec u_{k+1}はu⃗1,…,u⃗k\vec u_1, \dots, \vec u_kの一次結合となり、u⃗1,…,u⃗k+1\vec u_1, \dots, \vec u_{k+1}の一次独立性に反する。よってあるbj≠0b_j \ne 0が存在する。とくにw⃗j\vec w_jの項が残っているのでk<mk < mであり、番号を付け替えてbk+1≠0b_{k+1} \ne 0としてよい。するとw⃗k+1=bk+1−1(u⃗k+1−∑i≤kaiu⃗i−∑j>k+1bjw⃗j)\vec w_{k+1} = b_{k+1}^{-1}\Bigl(\vec u_{k+1} - \sum_{i \le k} a_i\vec u_i - \sum_{j > k+1} b_j\vec w_j\Bigr)だから、w⃗k+1\vec w_{k+1}は{u⃗1,…,u⃗k+1,w⃗k+2,…,w⃗m}\{\vec u_1, \dots, \vec u_{k+1}, \vec w_{k+2}, \dots, \vec w_m\}の一次結合。これでw⃗k+1\vec w_{k+1}をu⃗k+1\vec u_{k+1}に取り替えても生成系のままとわかり、k+1k+1でも主張が成り立つ。▨

さてn>mn > mと仮定して矛盾を導く。主張 3.1.1はk=0k = 0からk=mk = mまで進められ(各段でk<mk < mを確かめた)、{u⃗1,…,u⃗m}\{\vec u_1, \dots, \vec u_m\}がVVを生成する。n>mn > mゆえu⃗m+1\vec u_{m+1}が存在し、これはu⃗1,…,u⃗m\vec u_1, \dots, \vec u_mの一次結合となって独立性に反する。よってn≤mn \le m。▨

定理 3.2 (次元の well-defined 性). 有限生成ベクトル空間VVの任意の2つの基底は、同じ個数のベクトルからなる。

証明.{v⃗1,…,v⃗m}\{\vec v_1, \dots, \vec v_m\}と{w⃗1,…,w⃗n}\{\vec w_1, \dots, \vec w_n\}を基底とする。前者は生成系、後者は一次独立だから、補題 3.1よりn≤mn \le m。役割を入れ替えれば(後者が生成系、前者が独立)m≤nm \le n。ゆえにm=nm = n。▨

定義 3.3 (次元). 有限生成ベクトル空間VVの基底の(共通の)ベクトルの個数をVVの次元といいdim⁡V\dim Vと書く。dim⁡V=n\dim V = nのときVVをnn次元という。

「nn次元」とは、独立に選べる方向がnn本、という空間の大きさの尺度です。

  • Rn\mathbb{R}^nの次元はnn(標準基底e⃗1,…,e⃗n\vec e_1, \dots, \vec e_n)。次数≤n\le nの多項式全体はn+1n+1次元(1,x,…,xn1, x, \dots, x^nが基底)。
  • 補題 3.1の系として、nn次元空間では「独立なベクトルは高々nn本」「生成系は少なくともnn本」。ゆえにnn本の独立なベクトルは自動的に基底、nn本の生成系も自動的に基底です。

例 3.4 (3 本のベクトルはR2\mathbb{R}^2の基底になれない).(1,0),(0,1),(1,1)(1, 0), (0, 1), (1, 1)はR2\mathbb{R}^2を生成しますが、基底ではありません。dim⁡R2=2\dim \mathbb{R}^2 = 2なので 3 本のベクトルは一次従属で、実際(1,1)=(1,0)+(0,1)(1, 1) = (1, 0) + (0, 1)という自明でない関係があります。生成していても一次独立でなければ基底ではない、という基底の二条件の使い分けがここに出ています。

命題 3.5 (部分空間の次元).VVを有限次元、W⊆VW \subseteq Vを部分空間とすると、WWも有限次元でdim⁡W≤dim⁡V\dim W \le \dim V。さらにdim⁡W=dim⁡V\dim W = \dim VならばW=VW = V。

証明.n=dim⁡Vn=\dim Vとする。W={0⃗}W=\{\vec 0\}なら空集合がWWの基底であり、結論は明らかである。以下W≠{0⃗}W\ne\{\vec 0\}とする。空の一次独立な組から始め、得られたw⃗1,…,w⃗r\vec w_1,\dots,\vec w_rがWWを生成しない限り、span⁡{w⃗1,…,w⃗r}\operatorname{span}\{\vec w_1,\dots,\vec w_r\}に属さないw⃗r+1∈W\vec w_{r+1}\in Wを一つ加える。この追加後も組は一次独立である。

この手続きがnn回の追加後にも停止しなければ、WW、したがってVVにn+1n+1本の一次独立なベクトルが存在する。しかしVVの基底はnn本の生成系なので、これは補題 3.1に反する。よって有限回で停止し、そのとき得られた組は一次独立かつWWを生成するからWWの基底である。本数はnn以下なのでWWは有限次元でdim⁡W≤dim⁡V\dim W\le\dim Vである。

等号のとき、WWの基底はdim⁡V=n\dim V = n本のVVにおける一次独立なベクトルで、nn次元空間のnn本の独立ベクトルは基底ゆえspan⁡=V\operatorname{span} = V。一方この span はWWに含まれるのでV⊆W⊆VV \subseteq W \subseteq V、すなわちW=VW = V。▨

例 3.6 (無限次元空間). 多項式全体K[x]K[x]は有限次元ではありません。どんなnnをとっても1,x,x2,…,xn1, x, x^2, \dots, x^nは一次独立(多項式が恒等的に00になるのは全係数が00のときだけ)なので、一次独立なベクトルがいくらでも増やせ、有限本の基底に収まりません。連続関数の空間C[a,b]C[a, b]も同様に無限次元です。取替え補題や次元定理は「有限次元」を本質的に使っており、無限次元ではこれらが素朴には成り立たなくなります——そこを扱うのが関数解析(ヒルベルト空間・バナッハ空間)です。

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