§D3.10像と核、階数

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行列の階数は、列が張る部分空間の次元である。本稿では、線形写像の核と像を定義してその部分空間性を証明した後、行階数と列階数の一致、および階数による連立一次方程式の解構造を示す。

1 線形写像の核と像

定義 1.1 (核・像).V,WV,Wを同じ体KK上のベクトル空間、f:V→Wf:V\to Wを線形写像とする。Ker⁡f={x⃗∈V:f(x⃗)=0⃗}\operatorname{Ker} f = \{\vec x \in V : f(\vec x) = \vec 0\}をffの核 (kernel)、Im⁡f={f(x⃗):x⃗∈V}\operatorname{Im} f = \{f(\vec x) : \vec x \in V\}をffの像 (image) という。

命題 1.2.V,WV,Wを同じ体KK上のベクトル空間、f:V→Wf:V\to Wを線形写像とする。このとき次が成り立つ。

  1. Ker⁡f\operatorname{Ker}fはVVの部分空間であり、Im⁡f\operatorname{Im}fはWWの部分空間である。
  2. ffが単射であることとKer⁡f={0⃗}\operatorname{Ker}f=\{\vec 0\}は同値であり、ffが全射であることとIm⁡f=W\operatorname{Im}f=Wは同値である。

証明.§D3.9 命題 1.3により0⃗∈Ker⁡f\vec 0\in\operatorname{Ker}fである。x⃗,y⃗∈Ker⁡f\vec x,\vec y\in\operatorname{Ker}fとc∈Kc\in Kに対して

f(x⃗+y⃗)=f(x⃗)+f(y⃗)=0⃗,f(cx⃗)=cf(x⃗)=0⃗f(\vec x+\vec y)=f(\vec x)+f(\vec y)=\vec 0, \qquad f(c\vec x)=c f(\vec x)=\vec 0

であるから、§D3.7 定理 1.2によりKer⁡f\operatorname{Ker}fはVVの部分空間である。

0⃗=f(0⃗)\vec 0=f(\vec 0)はIm⁡f\operatorname{Im}fに属する。また、z⃗1=f(x⃗1)\vec z_1=f(\vec x_1)とz⃗2=f(x⃗2)\vec z_2=f(\vec x_2)が像に属し、c∈Kc\in Kなら

z⃗1+z⃗2=f(x⃗1+x⃗2),cz⃗1=f(cx⃗1)\vec z_1+\vec z_2=f(\vec x_1+\vec x_2), \qquad c\vec z_1=f(c\vec x_1)

も像に属する。したがって§D3.7 定理 1.2によりIm⁡f\operatorname{Im}fはWWの部分空間であり、(1)が示された。

ffが単射でx⃗∈Ker⁡f\vec x\in\operatorname{Ker}fなら、f(x⃗)=0⃗=f(0⃗)f(\vec x)=\vec 0=f(\vec 0)なのでx⃗=0⃗\vec x=\vec 0である。逆にKer⁡f={0⃗}\operatorname{Ker}f=\{\vec 0\}とし、f(x⃗)=f(y⃗)f(\vec x)=f(\vec y)とすると、線形性からf(x⃗−y⃗)=0⃗f(\vec x-\vec y)=\vec 0となる。したがってx⃗−y⃗=0⃗\vec x-\vec y=\vec 0、すなわちx⃗=y⃗\vec x=\vec yなのでffは単射である。最後に、ffが全射であることは、すべてのw⃗∈W\vec w\in Wがf(x⃗)f(\vec x)の形に書けること、すなわちIm⁡f=W\operatorname{Im}f=Wと定義により同値である。以上により(2)も示された。▨

注意 1.3. 以下では行列が定める線形写像の像と核の次元を階数および解構造に結び付ける。後続の次元定理では、同じ関係を有限次元ベクトル空間の一般の線形写像について扱う。

2 階数の定義と行列版

定義 2.1 (階数).m,nm,nを正の整数、AAを実m×nm\times n行列とし、LA:Rn→RmL_A:\R^n\to\R^mをLA(x⃗)=Ax⃗L_A(\vec x)=A\vec xで定まる線形写像とする。AAの列が張る部分空間はIm⁡LA\operatorname{Im}L_Aに等しい。この部分空間の次元をAAの 列階数 (column rank)、AAの行がRn\R^nの中で張る部分空間の次元をAAの 行階数 (row rank) という。AAの階数 (rank)rank⁡A\operatorname{rank}Aを列階数と定める。

以下ではIm⁡A:=Im⁡LA\operatorname{Im}A:=\operatorname{Im}L_A、Ker⁡A:=Ker⁡LA\operatorname{Ker}A:=\operatorname{Ker}L_Aと略記する。

定理 2.2 (行階数と列階数の一致).m,nm,nを正の整数、AAを実m×nm\times n行列とする。このときAAの行階数と列階数は等しい。さらに、AAを掃き出し法で簡約階段形に変形したとき、その零行でない行の個数はrank⁡A\operatorname{rank}Aに等しい。

証明.§D3.2 定理 3.2により、AAに有限回の行基本変形を施して簡約階段形RRを得ることができる。RRの零行でない行の個数をrrとする。

主張 2.2.1.AAとRRの行が張る部分空間は等しい。

証明. 一回の行基本変形の後の各行は、変形前の行の一次結合である。したがって変形後の行が張る空間は、変形前の行が張る空間に含まれる。§D3.2 補題 2.2により逆向きの行基本変形が存在するので、同じ議論から逆の包含も成り立つ。各段で行が張る空間は変わらないため、有限回の変形後にも両者は等しい。▨

主張 2.2.2.AAとRRの列階数は等しい。

証明. 一回の行基本変形を列ベクトルに施す写像をE:Rm→RmE:\R^m\to\R^mとする。三種類の行基本変形のいずれも各成分の和と実数倍で定まるのでEEは線形であり、§D3.2 補題 2.2の逆操作がEEの逆写像を与える。したがってEEは全単射である。また、行列のすべての列に同じEEを施したものが変形後の行列の列である。

AAの列空間の基底をv⃗1,…,v⃗s\vec v_1,\ldots,\vec v_sとすると、Ev⃗1,…,Ev⃗sE\vec v_1,\ldots,E\vec v_sは変形後の列空間を生成する。さらに∑iciEv⃗i=0⃗\sum_i c_iE\vec v_i=\vec 0なら、EEの線形性と単射性から∑iciv⃗i=0⃗\sum_i c_i\vec v_i=\vec 0となるので、c1=⋯=cs=0c_1=\cdots=c_s=0である。したがってEv⃗1,…,Ev⃗sE\vec v_1,\ldots,E\vec v_sは変形後の列空間の基底であり、一回の行基本変形は列階数を変えない。有限回繰り返しても列階数は変わらないので、AAとRRの列階数は等しい。▨

RRの零行でない行を上からr⃗1,…,r⃗r\vec r_1,\ldots,\vec r_rとし、第ii行の主成分の列番号をjij_iとする。簡約階段形では第jij_i列の第ii成分が11、他の成分が00である。したがって∑i=1rcir⃗i=0⃗\sum_{i=1}^r c_i\vec r_i=\vec 0の第jij_i成分を見るとci=0c_i=0となり、r⃗1,…,r⃗r\vec r_1,\ldots,\vec r_rは一次独立である。これらはRRのすべての非零行なので、RRの行階数はrrである。

一方、第j1,…,jrj_1,\ldots,j_r列はそれぞれRm\R^mの第1,…,r1,\ldots,r標準基底ベクトルである。またRRの任意の第jj列は

R1je⃗1+⋯+Rrje⃗rR_{1j}\vec e_1+\cdots+R_{rj}\vec e_r

と書けるので、このrr本の主成分を含む列がRRの列空間の基底である。したがってRRの列階数もrrである。二つの claim によりAAの行階数と列階数はいずれもrrに等しく、r=rank⁡Ar=\operatorname{rank}Aである。▨

3 連立一次方程式の解集合

定理 3.1 (解の構造).m,nm,nを正の整数、AAを実m×nm\times n行列、b⃗∈Rm\vec b\in\R^mとする。連立一次方程式Ax⃗=b⃗A\vec x=\vec bについて、

  1. 解が存在するための必要十分条件はrank⁡A=rank⁡[A∣b⃗]\operatorname{rank}A=\operatorname{rank}[A\mid\vec b]である。
  2. 解が存在し、x⃗0\vec x_0を一つの解とすると、解全体はx⃗0+Ker⁡A={x⃗0+z⃗:z⃗∈Ker⁡A}\vec x_0+\operatorname{Ker}A=\{\vec x_0+\vec z:\vec z\in\operatorname{Ker}A\}である。またdim⁡Ker⁡A=n−rank⁡A\dim\operatorname{Ker}A=n-\operatorname{rank}Aであり、掃き出し法で自由に与えることのできるパラメータの個数もn−rank⁡An-\operatorname{rank}Aである。

証明.Ax⃗=b⃗A\vec x=\vec bに解が存在することは、b⃗∈Im⁡A\vec b\in\operatorname{Im}Aと同値である。AAの列空間は[A∣b⃗][A\mid\vec b]の列空間に含まれ、後者は前者とb⃗\vec bが張る空間である。したがってb⃗∈Im⁡A\vec b\in\operatorname{Im}Aなら両者は等しく、階数も等しくなる。逆に階数が等しければ、§D3.8 命題 3.5により包含関係にある二つの列空間は等しくなる。とくにb⃗∈Im⁡A\vec b\in\operatorname{Im}Aなので解が存在する。これで(1)が示された。

Ax⃗0=b⃗A\vec x_0=\vec bとする。x⃗\vec xが解ならA(x⃗−x⃗0)=0⃗A(\vec x-\vec x_0)=\vec 0なのでx⃗−x⃗0∈Ker⁡A\vec x-\vec x_0\in\operatorname{Ker}Aである。逆にz⃗∈Ker⁡A\vec z\in\operatorname{Ker}AならA(x⃗0+z⃗)=b⃗A(\vec x_0+\vec z)=\vec bなので、解全体はx⃗0+Ker⁡A\vec x_0+\operatorname{Ker}Aに等しい。

AAを簡約階段形RRへ変形し、RRの零行でない行の個数をrrとする。定理 2.2によりr=rank⁡Ar=\operatorname{rank}Aである。RRの主成分を含まない列の番号の集合をFFとすると∣F∣=n−r|F|=n-rである。AAに施した行基本変形を[A∣0⃗][A\mid\vec 0]に施すと[R∣0⃗][R\mid\vec 0]が得られ、これは簡約階段形である。

F=∅F=\emptysetなら§D3.2 定理 4.1 (2)によりAx⃗=0⃗A\vec x=\vec 0の解は0⃗\vec 0のみである。したがって空の組がKer⁡A\operatorname{Ker}Aの基底であり、dim⁡Ker⁡A=0=n−r\dim\operatorname{Ker}A=0=n-rである。この場合の自由変数の個数も00である。以下ではF≠∅F\ne\emptysetとする。各j∈Fj\in Fについて、自由変数xjx_jを11、他の自由変数を00と与えたAx⃗=0⃗A\vec x=\vec 0の解をv⃗j\vec v_jとする。この解の存在と一意性は§D3.2 定理 4.1 (3)から従う。

Ker⁡A\operatorname{Ker}Aの任意の元x⃗\vec xについて、線形性から∑j∈Fxjv⃗j\sum_{j\in F}x_j\vec v_jも同次方程式の解であり、x⃗\vec xと同じ自由変数をもつ。§D3.2 定理 4.1 (3)の一意性によりx⃗=∑j∈Fxjv⃗j\vec x=\sum_{j\in F}x_j\vec v_jなので、{v⃗j:j∈F}\{\vec v_j:j\in F\}はKer⁡A\operatorname{Ker}Aを生成する。また∑j∈Fcjv⃗j=0⃗\sum_{j\in F}c_j\vec v_j=\vec 0の第jj自由成分はcjc_jなので、すべてのcjc_jは00である。したがってこの組はKer⁡A\operatorname{Ker}Aの基底であり、

dim⁡Ker⁡A=∣F∣=n−r=n−rank⁡A\dim\operatorname{Ker}A=|F|=n-r=n-\operatorname{rank}A

となる。自由変数はFFの各元について一つずつ選ぶので、その個数もn−rank⁡An-\operatorname{rank}Aである。▨

注意 3.2. 同次方程式Ax⃗=0⃗A\vec x = \vec 0の解全体は部分空間Ker⁡A\operatorname{Ker}Aであり、一般の解の集合は一つの特殊解だけ平行移動したアフィン部分空間である。

4 行列に対する階数・退化次数の等式

系 4.1.m,nm,nを正の整数、AAを実m×nm\times n行列とする。このときrank⁡A+dim⁡Ker⁡A=n\operatorname{rank}A+\dim\operatorname{Ker}A=nである。

証明.定理 3.1 (2)で示したdim⁡Ker⁡A=n−rank⁡A\dim\operatorname{Ker}A=n-\operatorname{rank}Aを移項すると得られる。▨

注意 4.2. この等式は、像の次元と核の次元の和が定義域の次元に等しいことを行列について表す。後の記事では、同じ等式を有限次元ベクトル空間の線形写像について証明する。

例 4.3 (階数と解空間の次元を数える).A=(101011)A = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 1 \end{pmatrix}はすでに簡約階段形で、00でない行が 2 本あるのでrank⁡A=2\operatorname{rank} A = 2である。列数(未知数の個数)は 3 なので、同次方程式Ax⃗=0⃗A\vec x = \vec 0の解空間の次元は3−2=13 - 2 = 1となる。実際、x1+x3=0x_1 + x_3 = 0とx2+x3=0x_2 + x_3 = 0より解は(−t,−t,t)(-t, -t, t)の形に限られ、解空間はspan⁡{(−1,−1,1)⊤}\operatorname{span}\{(-1, -1, 1)^\top\}という 1 次元の部分空間である。

注意 4.4.nn次実正方行列AAについて、rank⁡A=n\operatorname{rank}A=nであることは、簡約階段形の非零行がnn本であることと同値であり、このとき簡約階段形はInI_nである。§D3.3 定理 2.2と§D3.4 定理 10.1により、これらはAAが正則であること、およびdet⁡A≠0\det A\ne0であることとも同値である。階数、正則性、行列式は異なる概念であるが、正方行列が最大階数をもつという条件の下で同値な判定を与える。

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