1 線形写像の核と像
定義 1.1 (核・像).V,Wを同じ体K上のベクトル空間、f:V→Wを線形写像とする。Kerf={x∈V:f(x)=0}をfの核 (kernel)、Imf={f(x):x∈V}をfの像 (image) という。
命題 1.2.V,Wを同じ体K上のベクトル空間、f:V→Wを線形写像とする。このとき次が成り立つ。
- KerfはVの部分空間であり、ImfはWの部分空間である。
- fが単射であることとKerf={0}は同値であり、fが全射であることとImf=Wは同値である。
証明.§D3.9 命題 1.3により0∈Kerfである。x,y∈Kerfとc∈Kに対して
f(x+y)=f(x)+f(y)=0,f(cx)=cf(x)=0であるから、§D3.7 定理 1.2によりKerfはVの部分空間である。
0=f(0)はImfに属する。また、z1=f(x1)とz2=f(x2)が像に属し、c∈Kなら
z1+z2=f(x1+x2),cz1=f(cx1)も像に属する。したがって§D3.7 定理 1.2によりImfはWの部分空間であり、(1)が示された。
fが単射でx∈Kerfなら、f(x)=0=f(0)なのでx=0である。逆にKerf={0}とし、f(x)=f(y)とすると、線形性からf(x−y)=0となる。したがってx−y=0、すなわちx=yなのでfは単射である。最後に、fが全射であることは、すべてのw∈Wがf(x)の形に書けること、すなわちImf=Wと定義により同値である。以上により(2)も示された。▨
2 階数の定義と行列版
定義 2.1 (階数).m,nを正の整数、Aを実m×n行列とし、LA:Rn→RmをLA(x)=Axで定まる線形写像とする。Aの列が張る部分空間はImLAに等しい。この部分空間の次元をAの 列階数 (column rank)、Aの行がRnの中で張る部分空間の次元をAの 行階数 (row rank) という。Aの階数 (rank)rankAを列階数と定める。
以下ではImA:=ImLA、KerA:=KerLAと略記する。
定理 2.2 (行階数と列階数の一致).m,nを正の整数、Aを実m×n行列とする。このときAの行階数と列階数は等しい。さらに、Aを掃き出し法で簡約階段形に変形したとき、その零行でない行の個数はrankAに等しい。
証明.§D3.2 定理 3.2により、Aに有限回の行基本変形を施して簡約階段形Rを得ることができる。Rの零行でない行の個数をrとする。
主張 2.2.1.AとRの行が張る部分空間は等しい。
証明. 一回の行基本変形の後の各行は、変形前の行の一次結合である。したがって変形後の行が張る空間は、変形前の行が張る空間に含まれる。§D3.2 補題 2.2により逆向きの行基本変形が存在するので、同じ議論から逆の包含も成り立つ。各段で行が張る空間は変わらないため、有限回の変形後にも両者は等しい。▨
主張 2.2.2.AとRの列階数は等しい。
証明. 一回の行基本変形を列ベクトルに施す写像をE:Rm→Rmとする。三種類の行基本変形のいずれも各成分の和と実数倍で定まるのでEは線形であり、§D3.2 補題 2.2の逆操作がEの逆写像を与える。したがってEは全単射である。また、行列のすべての列に同じEを施したものが変形後の行列の列である。
Aの列空間の基底をv1,…,vsとすると、Ev1,…,Evsは変形後の列空間を生成する。さらに∑iciEvi=0なら、Eの線形性と単射性から∑icivi=0となるので、c1=⋯=cs=0である。したがってEv1,…,Evsは変形後の列空間の基底であり、一回の行基本変形は列階数を変えない。有限回繰り返しても列階数は変わらないので、AとRの列階数は等しい。▨
Rの零行でない行を上からr1,…,rrとし、第i行の主成分の列番号をjiとする。簡約階段形では第ji列の第i成分が1、他の成分が0である。したがって∑i=1rciri=0の第ji成分を見るとci=0となり、r1,…,rrは一次独立である。これらはRのすべての非零行なので、Rの行階数はrである。
一方、第j1,…,jr列はそれぞれRmの第1,…,r標準基底ベクトルである。またRの任意の第j列は
R1je1+⋯+Rrjerと書けるので、このr本の主成分を含む列がRの列空間の基底である。したがってRの列階数もrである。二つの claim によりAの行階数と列階数はいずれもrに等しく、r=rankAである。▨
3 連立一次方程式の解集合
定理 3.1 (解の構造).m,nを正の整数、Aを実m×n行列、b∈Rmとする。連立一次方程式Ax=bについて、
- 解が存在するための必要十分条件はrankA=rank[A∣b]である。
- 解が存在し、x0を一つの解とすると、解全体はx0+KerA={x0+z:z∈KerA}である。またdimKerA=n−rankAであり、掃き出し法で自由に与えることのできるパラメータの個数もn−rankAである。
証明.Ax=bに解が存在することは、b∈ImAと同値である。Aの列空間は[A∣b]の列空間に含まれ、後者は前者とbが張る空間である。したがってb∈ImAなら両者は等しく、階数も等しくなる。逆に階数が等しければ、§D3.8 命題 3.5により包含関係にある二つの列空間は等しくなる。とくにb∈ImAなので解が存在する。これで(1)が示された。
Ax0=bとする。xが解ならA(x−x0)=0なのでx−x0∈KerAである。逆にz∈KerAならA(x0+z)=bなので、解全体はx0+KerAに等しい。
Aを簡約階段形Rへ変形し、Rの零行でない行の個数をrとする。定理 2.2によりr=rankAである。Rの主成分を含まない列の番号の集合をFとすると∣F∣=n−rである。Aに施した行基本変形を[A∣0]に施すと[R∣0]が得られ、これは簡約階段形である。
F=∅なら§D3.2 定理 4.1 (2)によりAx=0の解は0のみである。したがって空の組がKerAの基底であり、dimKerA=0=n−rである。この場合の自由変数の個数も0である。以下ではF=∅とする。各j∈Fについて、自由変数xjを1、他の自由変数を0と与えたAx=0の解をvjとする。この解の存在と一意性は§D3.2 定理 4.1 (3)から従う。
KerAの任意の元xについて、線形性から∑j∈Fxjvjも同次方程式の解であり、xと同じ自由変数をもつ。§D3.2 定理 4.1 (3)の一意性によりx=∑j∈Fxjvjなので、{vj:j∈F}はKerAを生成する。また∑j∈Fcjvj=0の第j自由成分はcjなので、すべてのcjは0である。したがってこの組はKerAの基底であり、
dimKerA=∣F∣=n−r=n−rankAとなる。自由変数はFの各元について一つずつ選ぶので、その個数もn−rankAである。▨
4 行列に対する階数・退化次数の等式
系 4.1.m,nを正の整数、Aを実m×n行列とする。このときrankA+dimKerA=nである。
証明.定理 3.1 (2)で示したdimKerA=n−rankAを移項すると得られる。▨
例 4.3 (階数と解空間の次元を数える).A=(100111)はすでに簡約階段形で、0でない行が
2 本あるのでrankA=2である。列数(未知数の個数)は 3 なので、同次方程式Ax=0の解空間の次元は3−2=1となる。実際、x1+x3=0とx2+x3=0より解は(−t,−t,t)の形に限られ、解空間はspan{(−1,−1,1)⊤}という
1 次元の部分空間である。