1 対角化可能の条件
定義 1.1 (対角化可能).n次行列Aが対角化可能とは、正則行列Pと対角行列DでP−1AP=Dとなること。
定理 1.2.Aが対角化可能⟺Aの一次独立な固有ベクトルがn個とれる。このときPの列に固有ベクトル、Dの対角に対応する固有値を並べればよい。
証明.P=[v1 ⋯ vn]、D=diag(λ1,…,λn)とおくと、AP=[Av1 ⋯ Avn]、PD=[λ1v1 ⋯ λnvn]。ゆえAP=PD⟺Avi=λivi(各viが固有ベクトル)。Pが正則⟺viが一次独立(基底)。両者を合わせて主張を得る。▨
十分条件として使いやすいのは、固有値が重ならない場合です。
系 1.3 (相異なる固有値が次数だけあるとき).n次行列Aが相異なるn個の固有値をもてば、Aは対角化可能である。
命題 1.4.K∈{R,C}、A∈Mn(K)とし、Kに属するAの固有値全体をΛ、固有値λの固有空間をEλとします。このとき、AがK上で対角化可能であるための必要十分条件は
λ∈Λ∑dimEλ=nです。したがって、次が成り立ちます。
- 固有多項式がK上で一次式の積に分解しないならば、AはK上で対角化可能ではありません。
- 固有多項式がK上で一次式の積に分解する場合、AがK上で対角化可能でないための必要十分条件は∑λ∈ΛdimEλ<nです。
証明.§D3.12 命題 1.5と§D3.8 命題 3.5により、各Eλの基底Bλを取ることができます。異なるλに対するBλをすべて合わせた組は一次独立です。実際、その組の一次関係を固有値ごとにまとめ、Eλに属する和をuλとおきます。0でないuλがあれば、それらは相異なる固有値に属する固有ベクトルであるから、§D3.12 定理 2.1により一次独立です。したがって∑λuλ=0から各uλ=0となり、各Bλの一次独立性からもとの係数はすべて0です。よって§D3.8 補題 3.1により
λ∈Λ∑dimEλ≤nです。
等号が成り立つなら、すべてのBλを合わせた組はn本の一次独立な固有ベクトルからなるので、定理 1.2によりAは対角化可能です。逆にAが対角化可能なら、同じ定理によりn本の固有ベクトルからなる基底が存在します。この基底を固有値ごとに分けると、Eλに属する部分はEλ内で一次独立です。その本数はdimEλ以下であるから、全固有値について足すとn≤∑λ∈ΛdimEλとなります。上の逆向きの不等式と合わせて等号を得ます。
(1)を示します。Aが対角化可能なら、ある正則行列Pと固有値を対角成分にもつ対角行列D=diag(λ1,…,λn)によってA=PDP−1と書くことができます。したがって、tを不定元とすると、行列式の積公式により
det(A−tI)=det(P(D−tI)P−1)=det(D−tI)=i=1∏n(λi−t)となり、固有多項式はK上で一次式の積に分解します。対偶を取ると(1)を得ます。固有多項式が一次式の積に分解する場合には、すでに示した必要十分条件と和がn以下であることから(2)が従います。▨
例 1.5. 係数体をRとします。§D3.12 定理 1.2の後で扱った90∘回転行列は、固有多項式がλ2+1であり、R上で一次式の積に分解しないため、命題 1.4 (1)により実数の範囲では対角化可能ではありません。
一方、§D3.12 例 1.6の行列は、固有多項式が(2−λ)2と一次式の積に分解しますが、固有空間はE2だけでdimE2=1<2です。したがって命題 1.4 (2)により対角化可能ではありません。後者の不足を広義固有空間によって補う理論は、後の単元で扱います。
2 応用:行列の累乗
例 2.1.A=PDP−1ならAn=PDnP−1で、Dnは対角成分をn乗するだけ。たとえばA=(2013)は固有値2,3(相異なる)ゆえ対角化可能で、Anが2n,3nを使って一発で書けます。線形漸化式(フィボナッチ数列の一般項など)や線形微分方程式系(常微分方程式)の解法が、このAn=PDnP−1で一気に楽になります。