§D3.3逆行列

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実数の積では、00でない数に対して、掛けて11となる数がつねに存在します。行列の積についても同じ問いを立てることができますが、掛けて単位行列となる行列がどのような正方行列に対して存在するのかは、積の定義から直ちには読み取れません。この記事では、正方行列AAに対して、両側から掛けて単位行列となる行列BBが存在するときAAを正則と呼び、このBBをAAの逆行列と呼びます。逆行列は存在すれば一つに定まり、後に続く多くの議論が前提とする基本的な対象です。行基本変形によってAAを単位行列へ変形することができるかどうかから、AAが正則であるかどうかを判定することができるでしょうか。

1 定義と一意性

定義 1.1.nnを正の整数、AAをnn次実正方行列とする。nn次実正方行列BBであって

AB=BA=InAB = BA = I_n

を満たすものが存在するとき、AAは 正則 (invertible) であるといい、この二つの等式を満たすBBをAAの 逆行列 (inverse matrix) という。

命題 1.2.nnを正の整数、AAをnn次実正方行列とする。AB=BA=InAB = BA = I_nを満たすnn次実正方行列BBは高々一つである。AAが正則であるとき、この行列をA−1A^{-1}と書く。

証明.BBとCCをともにnn次実正方行列とし、AB=BA=InAB = BA = I_nとAC=CA=InAC = CA = I_nが成り立つとする。§D3.1 命題 3.7によりB=BInB = BI_nであり、In=ACI_n = ACであるからB=B(AC)B = B(AC)である。§D3.1 定理 4.1によりB(AC)=(BA)CB(AC) = (BA)Cであり、BA=InBA = I_nであるから(BA)C=InC(BA)C = I_nCである。ふたたび§D3.1 命題 3.7によりInC=CI_nC = Cであるから、B=CB = Cである。▨

注意 1.3. 逆行列は正方行列についてのみ定める。mmとnnを正の整数、AAを実m×nm \times n行列とし、BBを実行列であって積ABABとBABAがともに定まるものとすると、§D3.1 定義 3.1によりBBはn×mn \times m行列であり、ABABはmm次正方行列、BABAはnn次正方行列である。m≠nm \ne nならばこの二つの行列の型は異なるので、§D3.1 定義 1.1によりAB=BAAB = BAは成り立たない。したがってAB=BA=IAB = BA = Iという形の条件はm=nm = nの場合にだけ満たされうる。

例 1.4. 実2×12\times1行列と実1×21\times2行列

A=(10),B=(10)A=\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix},\qquad B=\begin{pmatrix}1&0\end{pmatrix}

をとる。このとき

BA=(1)=I1,AB=(1000)≠I2BA=\begin{pmatrix}1\end{pmatrix}=I_1,\qquad AB=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}\ne I_2

である。したがって、長方形行列では片側の積が単位行列であっても、反対側の積が単位行列であるとは限らない。

命題 1.5.nnを正の整数、AAとBBをnn次の正則な実正方行列とする。このとき次が成り立つ。

  1. ABABは正則であり、(AB)−1=B−1A−1(AB)^{-1} = B^{-1}A^{-1}である。
  2. A−1A^{-1}は正則であり、(A−1)−1=A(A^{-1})^{-1} = Aである。
  3. A⊤A^\topは正則であり、(A⊤)−1=(A−1)⊤(A^\top)^{-1} = (A^{-1})^\topである。

証明.(1)を示す。§D3.1 定理 4.1と§D3.1 命題 3.7により

(AB)(B−1A−1)=A(B(B−1A−1))=A((BB−1)A−1)=A(InA−1)=AA−1=In(AB)(B^{-1}A^{-1}) = A\bigl(B(B^{-1}A^{-1})\bigr) = A\bigl((BB^{-1})A^{-1}\bigr) = A(I_nA^{-1}) = AA^{-1} = I_n

であり、同じ二つの結果により

(B−1A−1)(AB)=B−1(A−1(AB))=B−1((A−1A)B)=B−1(InB)=B−1B=In(B^{-1}A^{-1})(AB) = B^{-1}\bigl(A^{-1}(AB)\bigr) = B^{-1}\bigl((A^{-1}A)B\bigr) = B^{-1}(I_nB) = B^{-1}B = I_n

である。よってABABは正則であり、命題 1.2により(AB)−1=B−1A−1(AB)^{-1} = B^{-1}A^{-1}である。

(2)を示す。A−1A=AA−1=InA^{-1}A = AA^{-1} = I_nが成り立つから、A−1A^{-1}は正則であってAAはその逆行列である。命題 1.2により(A−1)−1=A(A^{-1})^{-1} = Aである。

(3)を示す。§D3.1 定義 3.6によりInI_nの(i,j)(i, j)成分はδij\delta_{ij}であり、δij=δji\delta_{ij} = \delta_{ji}であるから、§D3.1 定義 7.1と§D3.1 定義 1.1によりIn⊤=InI_n^\top = I_nである。§D3.1 命題 7.2 (3)により

A⊤(A−1)⊤=(A−1A)⊤=In⊤=In,(A−1)⊤A⊤=(AA−1)⊤=In⊤=InA^\top (A^{-1})^\top = (A^{-1}A)^\top = I_n^\top = I_n, \qquad (A^{-1})^\top A^\top = (AA^{-1})^\top = I_n^\top = I_n

である。よってA⊤A^\topは正則であり、命題 1.2により(A⊤)−1=(A−1)⊤(A^\top)^{-1} = (A^{-1})^\topである。▨

2 正則であることの同値な条件

補題 2.1.nnとppを正の整数、A,A′A,A'をnn次実正方行列、C,C′C,C'を実n×pn\times p行列とする。有限回の行基本変形の列が[A∣C][A\mid C]を[A′∣C′][A'\mid C']へ移すならば、同じ変形の列はAAをA′A'へ移す。さらにA′=InA'=I_nならばAC′=CAC'=Cである。

証明. 有限回の行基本変形の列を一つ固定する。§D3.2 定義 2.1の三種類の操作はいずれも、行の番号と実数の係数だけで定まる仕方で各成分に作用し、どの列についても同じ形をとる。したがって、行列からいくつかの列を選んで取り出し並べた行列へ固定した変形の列を施した結果は、変形後の行列から同じ列を取り出して並べた行列に等しい。とくに、第11列から第nn列までを取り出すと、同じ変形の列はAAをA′A'へ移す。

A′=InA'=I_nとする。1≤k≤p1\le k\le pを満たすkkをとる。第11列から第nn列までと第n+kn+k列を取り出すと、同じ変形の列は[A∣C(k)][A\mid C_{(k)}]を[In∣C(k)′][I_n\mid C'_{(k)}]へ移す。§D3.2 命題 2.3によりAx⃗=C(k)A\vec x=C_{(k)}の解集合とInx⃗=C(k)′I_n\vec x=C'_{(k)}の解集合は一致し、§D3.1 命題 3.7によりC(k)′C'_{(k)}は後者の解であるから、AC(k)′=C(k)AC'_{(k)}=C_{(k)}である。§D3.1 命題 3.5 (1)により(AC′)(k)=AC(k)′=C(k)(AC')_{(k)}=AC'_{(k)}=C_{(k)}であり、kkは任意であったから、§D3.1 定義 1.1によりAC′=CAC'=Cである。▨

定理 2.2.nnを正の整数、AAをnn次実正方行列とする。§D3.2 定理 3.2により、AAに有限回の行基本変形を続けて得られる簡約階段形が存在するので、その一つを取りRRと書く。このとき次の六条件は同値である。

  1. AAは正則である。
  2. Ax⃗=0⃗A\vec x = \vec 0の解は0⃗\vec 0のみである。
  3. R=InR = I_nである。
  4. 有限回の行基本変形を続けてAAをInI_nへ変形することができる。
  5. どのb⃗∈Rn\vec b \in \mathbb{R}^nについても、Ax⃗=b⃗A\vec x = \vec bの解はただ一つである。
  6. BA=InBA = I_nを満たすnn次実正方行列BBが存在する。

証明.nn次実正方行列MMと1≤k≤n1 \le k \le nを満たすkkに対し、MMの第kk列をRn\mathbb{R}^nの元とみなしたものをM(k)M_{(k)}と書く。

(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。AAを正則とし、x⃗∈Rn\vec x \in \mathbb{R}^nをAx⃗=0⃗A\vec x = \vec 0の解とする。両辺に左からA−1A^{-1}を掛けるとA−1(Ax⃗)=A−10⃗A^{-1}(A\vec x) = A^{-1}\vec 0である。§D3.1 定理 4.1により左辺は(A−1A)x⃗=Inx⃗(A^{-1}A)\vec x = I_n\vec xに等しく、§D3.1 命題 3.7によりこれはx⃗\vec xである。右辺は、§D3.1 定義 3.1により各成分が00であるから0⃗\vec 0である。よってx⃗=0⃗\vec x = \vec 0である。0⃗\vec 0はAx⃗=0⃗A\vec x = \vec 0の解であるから、解は0⃗\vec 0のみである。

(2)⇒\Rightarrow(3)を示す。RRはAAに有限回の行基本変形を続けて得られる簡約階段形であるから、§D3.2 系 4.2 (1)⇒\Rightarrow(3)をAAとRRへ適用するとR=InR = I_nを得る。

(3)⇒\Rightarrow(4)を示す。RRの取り方により、有限回の行基本変形を続けてAAをRRへ変形することができる。R=InR = I_nであるから、有限回の行基本変形を続けてAAをInI_nへ変形することができる。

(4)⇒\Rightarrow(1)を示す。有限回の行基本変形を続けてAAをInI_nへ変形することができるとし、その行基本変形の列を一つ固定する。

はじめに(2)を導く。固定した変形の列を[A∣0⃗][A\mid\vec0]に施して得られる行列を[A′∣c⃗][A'\mid\vec c]と書く。補題 2.1により同じ変形の列はAAをA′A'へ移すので、A′=InA'=I_nである。また、すべての成分が00である列は各行基本変形によって同じ列へ移るから、c⃗=0⃗\vec c=\vec0である。したがって[A∣0⃗][A\mid\vec0]は[In∣0⃗][I_n\mid\vec0]へ移り、§D3.2 命題 2.3によりAx⃗=0⃗A\vec x=\vec0の解集合とInx⃗=0⃗I_n\vec x=\vec0の解集合は一致する。§D3.1 命題 3.7により後者は0⃗\vec0のみであるから、前者も0⃗\vec0のみである。

次に、固定した変形の列を[A∣In][A\mid I_n]に施して得られる行列を[A′∣B][A'\mid B]と書く。補題 2.1により同じ変形の列はAAをA′A'へ移すのでA′=InA'=I_nであり、同じ補題によりAB=InAB=I_nである。

最後にBA=InBA = I_nを示す。§D3.1 定理 4.1と§D3.1 命題 3.7によりA(BA)=(AB)A=InA=AA(BA) = (AB)A = I_nA = Aである。1≤k≤n1 \le k \le nを満たすkkを取り、u⃗:=(BA)(k)\vec u := (BA)_{(k)}、v⃗:=(In)(k)\vec v := (I_n)_{(k)}とおくと、§D3.1 命題 3.5 (1)により

Au⃗=(A(BA))(k)=A(k)=(AIn)(k)=Av⃗A\vec u = \bigl(A(BA)\bigr)_{(k)} = A_{(k)} = (AI_n)_{(k)} = A\vec v

である。w⃗:=u⃗+(−1)v⃗\vec w := \vec u + (-1)\vec vとおくと、§D3.1 定理 4.2 (1)と§D3.1 定理 4.2 (3)によりAw⃗=Au⃗+(−1)(Av⃗)A\vec w = A\vec u + (-1)(A\vec v)であり、Au⃗=Av⃗A\vec u = A\vec vであるから、§D3.1 定義 2.1によりその各成分は00であってAw⃗=0⃗A\vec w = \vec 0である。すでに導いた(2)によりw⃗=0⃗\vec w = \vec 0である。§D3.1 定義 2.1によりw⃗\vec wの第ii成分はu⃗\vec uの第ii成分とv⃗\vec vの第ii成分の−1-1倍との和であるから、u⃗\vec uとv⃗\vec vのすべての成分が一致し、§D3.1 定義 1.1によりu⃗=v⃗\vec u = \vec vである。kkは11からnnの任意であったから、ふたたび§D3.1 定義 1.1によりBA=InBA = I_nである。AB=BA=InAB = BA = I_nが成り立つので、AAは正則である。

(1)⇒\Rightarrow(6)を示す。AAが正則であるときB:=A−1B := A^{-1}とおけばBA=InBA = I_nである。

(6)⇒\Rightarrow(1)を示す。BA=InBA = I_nを満たすnn次実正方行列BBを取り、x⃗∈Rn\vec x \in \mathbb{R}^nをAx⃗=0⃗A\vec x = \vec 0の解とする。§D3.1 命題 3.7と§D3.1 定理 4.1によりx⃗=Inx⃗=(BA)x⃗=B(Ax⃗)=B0⃗\vec x = I_n\vec x = (BA)\vec x = B(A\vec x) = B\vec 0であり、§D3.1 定義 3.1によりB0⃗B\vec 0の各成分は00であるからx⃗=0⃗\vec x = \vec 0である。よって(2)が成り立ち、すでに示した三つの含意により(3)、(4)、(1)が順に従う。

(1)⇔\Leftrightarrow(5)は演習とする(問題 5.2)。▨

条件(3)は取った簡約階段形RRについて述べていますが、(1)はRRの取り方によらないので、AAの簡約階段形がInI_nに等しいかどうかもRRの取り方によりません。

3 掃き出し法による構成

定理 3.1.nnを正の整数、AAをnn次実正方行列とし、AAの右に第n+1n+1列から第2n2n列としてInI_nの第11列から第nn列までを並べて得られるn×2nn \times 2n行列を[A∣In][A \mid I_n]と書く。[A∣In][A \mid I_n]に有限回の行基本変形を続けて得られる簡約階段形を一つ取り、その第11列から第nn列までを並べた行列をRR、第n+1n+1列から第2n2n列までを並べた行列をSSとする。このとき、AAが正則であることとR=InR = I_nであることは同値であり、AAが正則であるときS=A−1S = A^{-1}である。

証明.[A∣In][A \mid I_n]を[R∣S][R \mid S]へ移す行基本変形の列を一つ固定する。補題 2.1により、同じ変形の列はAAをRRへ移す。

RRが簡約階段形であることを示す。[R∣S][R \mid S]は簡約階段形であるから、§D3.2 定義 3.1 条件 (a)により零行は下に集まり、§D3.2 定義 3.1 条件 (b)により主成分の列番号は行の番号について増加する。よって[R∣S][R \mid S]の行は、主成分の列番号がnn以下である行、主成分の列番号がn+1n+1以上である行、零行の順に並ぶ。第一の種類の行から第11列から第nn列までを取り出した部分は、[R∣S][R \mid S]における主成分と同じ位置に同じ値をもち、それより左の成分は00であるから、零行でなく主成分の列番号も変わらない。第二と第三の種類の行から同じ部分を取り出すと零行である。したがってRRは§D3.2 定義 3.1 条件 (a)と§D3.2 定義 3.1 条件 (b)を満たす。RRの零行でない行の主成分は[R∣S][R \mid S]の対応する行の主成分であるから§D3.2 定義 3.1 条件 (c)により11であり、その列番号をjjとすると、[R∣S][R \mid S]の第jj列は主成分以外の成分がすべて00である(§D3.2 定義 3.1 条件 (d))から、RRの第jj列についても同じことが成り立つ。よってRRは簡約階段形である。

RRはAAに有限回の行基本変形を続けて得られる簡約階段形であるから、定理 2.2 (1)⇔\Leftrightarrow(3)をAAとRRへ適用すると、AAが正則であることとR=InR = I_nであることは同値である。

AAが正則であるとする。いま示したことからR=InR = I_nである。補題 2.1によりAS=InAS=I_nである。よって§D3.1 定理 4.1と§D3.1 命題 3.7により

S=InS=(A−1A)S=A−1(AS)=A−1In=A−1S = I_nS = (A^{-1}A)S = A^{-1}(AS) = A^{-1}I_n = A^{-1}

である。▨

例 3.2.

A=(123014560)A = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 0 & 1 & 4 \\ 5 & 6 & 0 \end{pmatrix}

とする。[A∣I3][A \mid I_3]に、第33行に第11行の−5-5倍を加える操作、第33行に第22行の44倍を加える操作、第11行に第33行の−3-3倍を加える操作、第22行に第33行の−4-4倍を加える操作、第11行に第22行の−2-2倍を加える操作を順に施すと

(123100014010560001)→(1231000140100−4−15−501)→(123100014010001−541)\left(\begin{array}{ccc|ccc} 1 & 2 & 3 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 4 & 0 & 1 & 0 \\ 5 & 6 & 0 & 0 & 0 & 1 \end{array}\right) \to \left(\begin{array}{ccc|ccc} 1 & 2 & 3 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 4 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & -4 & -15 & -5 & 0 & 1 \end{array}\right) \to \left(\begin{array}{ccc|ccc} 1 & 2 & 3 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 4 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & -5 & 4 & 1 \end{array}\right)→(12016−12−3014010001−541)→(12016−12−301020−15−4001−541)→(100−2418501020−15−4001−541)\to \left(\begin{array}{ccc|ccc} 1 & 2 & 0 & 16 & -12 & -3 \\ 0 & 1 & 4 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & -5 & 4 & 1 \end{array}\right) \to \left(\begin{array}{ccc|ccc} 1 & 2 & 0 & 16 & -12 & -3 \\ 0 & 1 & 0 & 20 & -15 & -4 \\ 0 & 0 & 1 & -5 & 4 & 1 \end{array}\right) \to \left(\begin{array}{ccc|ccc} 1 & 0 & 0 & -24 & 18 & 5 \\ 0 & 1 & 0 & 20 & -15 & -4 \\ 0 & 0 & 1 & -5 & 4 & 1 \end{array}\right)

となる。最後の行列は簡約階段形であり、その第11列から第33列までを並べた行列はI3I_3であるから、定理 3.1によりAAは正則であり

A−1=(−2418520−15−4−541)A^{-1} = \begin{pmatrix} -24 & 18 & 5 \\ 20 & -15 & -4 \\ -5 & 4 & 1 \end{pmatrix}

である。実際に積を計算すると、AA−1AA^{-1}の(1,1)(1, 1)成分は1⋅(−24)+2⋅20+3⋅(−5)=11\cdot(-24) + 2\cdot 20 + 3\cdot(-5) = 1、(1,2)(1, 2)成分は1⋅18+2⋅(−15)+3⋅4=01\cdot 18 + 2\cdot(-15) + 3\cdot 4 = 0、(3,1)(3, 1)成分は5⋅(−24)+6⋅20+0⋅(−5)=05\cdot(-24) + 6\cdot 20 + 0\cdot(-5) = 0であり、残りの成分も同じように計算するとAA−1=I3AA^{-1} = I_3が得られる。A−1AA^{-1}Aについても、(1,1)(1, 1)成分は(−24)⋅1+18⋅0+5⋅5=1(-24)\cdot 1 + 18\cdot 0 + 5\cdot 5 = 1、(1,3)(1, 3)成分は(−24)⋅3+18⋅4+5⋅0=0(-24)\cdot 3 + 18\cdot 4 + 5\cdot 0 = 0であり、同じ計算でA−1A=I3A^{-1}A = I_3が得られる。

例 3.3.

A=(1224)A=\begin{pmatrix}1&2\\2&4\end{pmatrix}

とする。[A∣I2][A\mid I_2]に、第22行に第11行の−2-2倍を加える操作、第22行を−12-\dfrac12倍する操作、第11行に第22行の−1-1倍を加える操作を順に施すと

(12102401)→(121000−21)→(1210001−12)→(12012001−12)\left(\begin{array}{cc|cc}1&2&1&0\\2&4&0&1\end{array}\right) \to\left(\begin{array}{cc|cc}1&2&1&0\\0&0&-2&1\end{array}\right) \to\left(\begin{array}{cc|cc}1&2&1&0\\0&0&1&-\frac12\end{array}\right) \to\left(\begin{array}{cc|cc}1&2&0&\frac12\\0&0&1&-\frac12\end{array}\right)

を得る。最後の行列は簡約階段形であり、その左半分は

(1200)≠I2\begin{pmatrix}1&2\\0&0\end{pmatrix}\ne I_2

である。したがって、定理 3.1によりAAは正則でない。

4 2 次の場合の公式

公式 4.1.aa、bb、cc、ddを実数とし、A=(abcd)A = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}とする。ad−bc≠0ad - bc \ne 0であるときAAは正則であり

A−1=1ad−bc(d−b−ca)A^{-1} = \frac{1}{ad-bc}\begin{pmatrix} d & -b \\ -c & a \end{pmatrix}

が成り立つ。ad−bc=0ad - bc = 0であるときAAは正則でない。

証明.ad−bc≠0ad - bc \ne 0とし、B:=1ad−bc(d−b−ca)B := \dfrac{1}{ad-bc}\begin{pmatrix} d & -b \\ -c & a \end{pmatrix}とおく。§D3.1 定義 3.1と§D3.1 定理 4.2 (3)により

AB=1ad−bc(abcd)(d−b−ca)=1ad−bc(ad−bc00ad−bc)=I2AB = \frac{1}{ad-bc}\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}\begin{pmatrix} d & -b \\ -c & a \end{pmatrix} = \frac{1}{ad-bc}\begin{pmatrix} ad-bc & 0 \\ 0 & ad-bc \end{pmatrix} = I_2

であり、同じ二つの結果により

BA=1ad−bc(d−b−ca)(abcd)=1ad−bc(ad−bc00ad−bc)=I2BA = \frac{1}{ad-bc}\begin{pmatrix} d & -b \\ -c & a \end{pmatrix}\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} = \frac{1}{ad-bc}\begin{pmatrix} ad-bc & 0 \\ 0 & ad-bc \end{pmatrix} = I_2

である。よってAAは正則であり、命題 1.2によりA−1=BA^{-1} = Bである。

ad−bc=0ad - bc = 0とする。Ax⃗=0⃗A\vec x = \vec 0を満たすR2\mathbb{R}^2の元x⃗\vec xであって0⃗\vec 0と異なるものを、場合に分けて与える。(a,b)≠(0,0)(a, b) \ne (0, 0)のとき、第11成分が−b-b、第22成分がaaであるx⃗\vec xを取るとx⃗≠0⃗\vec x \ne \vec 0であり、§D3.1 定義 3.1によりAx⃗A\vec xの第11成分はa(−b)+ba=0a(-b) + ba = 0、第22成分はc(−b)+da=ad−bc=0c(-b) + da = ad - bc = 0である。(a,b)=(0,0)(a, b) = (0, 0)かつ(c,d)≠(0,0)(c, d) \ne (0, 0)のとき、第11成分が−d-d、第22成分がccであるx⃗\vec xを取るとx⃗≠0⃗\vec x \ne \vec 0であり、Ax⃗A\vec xの第11成分は0⋅(−d)+0⋅c=00\cdot(-d) + 0\cdot c = 0、第22成分はc(−d)+dc=0c(-d) + dc = 0である。(a,b)=(0,0)(a, b) = (0, 0)かつ(c,d)=(0,0)(c, d) = (0, 0)のとき、第11成分が11、第22成分が00であるx⃗\vec xを取るとx⃗≠0⃗\vec x \ne \vec 0であり、AAのすべての成分が00であるからAx⃗=0⃗A\vec x = \vec 0である。いずれの場合もAx⃗=0⃗A\vec x = \vec 0は0⃗\vec 0と異なる解をもつので、定理 2.2 (1)⇔\Leftrightarrow(2)によりAAは正則でない。▨

ad−bcad - bcは、一般のnn次正方行列に対して成分から定まる実数である行列式の、22次の場合にあたります。行列式を定義し、正則であることと行列式が00でないことが同値であることを示すのは「行列式」です。

5 演習

問題 5.1.

A=(1022−13418)A = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 2 \\ 2 & -1 & 3 \\ 4 & 1 & 8 \end{pmatrix}

とする。[A∣I3][A \mid I_3]を簡約階段形へ変形してAAが正則であることを確かめ、A−1A^{-1}を求めよ。さらにAA−1=A−1A=I3AA^{-1} = A^{-1}A = I_3が成り立つことを成分の計算で確かめよ。

解答.

[A∣I3][A \mid I_3]に、第22行に第11行の−2-2倍を加える操作、第33行に第11行の−4-4倍を加える操作、第22行を−1-1倍する操作を順に施すと

(1021002−13010418001)→(1021000−1−1−210010−401)→(1021000112−10010−401)\left(\begin{array}{ccc|ccc} 1 & 0 & 2 & 1 & 0 & 0 \\ 2 & -1 & 3 & 0 & 1 & 0 \\ 4 & 1 & 8 & 0 & 0 & 1 \end{array}\right) \to \left(\begin{array}{ccc|ccc} 1 & 0 & 2 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & -1 & -1 & -2 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & -4 & 0 & 1 \end{array}\right) \to \left(\begin{array}{ccc|ccc} 1 & 0 & 2 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 1 & 2 & -1 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & -4 & 0 & 1 \end{array}\right)

となる。続いて、第33行に第22行の−1-1倍を加える操作、第33行を−1-1倍する操作、第11行に第33行の−2-2倍を加える操作、第22行に第33行の−1-1倍を加える操作を順に施すと

→(1021000112−1000−1−611)→(1021000112−100016−1−1)→(100−1122010−4010016−1−1)\to \left(\begin{array}{ccc|ccc} 1 & 0 & 2 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 1 & 2 & -1 & 0 \\ 0 & 0 & -1 & -6 & 1 & 1 \end{array}\right) \to \left(\begin{array}{ccc|ccc} 1 & 0 & 2 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 1 & 2 & -1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 6 & -1 & -1 \end{array}\right) \to \left(\begin{array}{ccc|ccc} 1 & 0 & 0 & -11 & 2 & 2 \\ 0 & 1 & 0 & -4 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 6 & -1 & -1 \end{array}\right)

となる。最後の行列は簡約階段形であり、その第11列から第33列までを並べた行列はI3I_3であるから、定理 3.1によりAAは正則であり

A−1=(−1122−4016−1−1)A^{-1} = \begin{pmatrix} -11 & 2 & 2 \\ -4 & 0 & 1 \\ 6 & -1 & -1 \end{pmatrix}

である。AA−1AA^{-1}の成分を§D3.1 定義 3.1に従って計算すると、第11行は

1⋅(−11)+0⋅(−4)+2⋅6=1,1⋅2+0⋅0+2⋅(−1)=0,1⋅2+0⋅1+2⋅(−1)=01\cdot(-11) + 0\cdot(-4) + 2\cdot 6 = 1, \quad 1\cdot 2 + 0\cdot 0 + 2\cdot(-1) = 0, \quad 1\cdot 2 + 0\cdot 1 + 2\cdot(-1) = 0

であり、第22行は

2⋅(−11)+(−1)(−4)+3⋅6=0,2⋅2+(−1)⋅0+3⋅(−1)=1,2⋅2+(−1)⋅1+3⋅(−1)=02\cdot(-11) + (-1)(-4) + 3\cdot 6 = 0, \quad 2\cdot 2 + (-1)\cdot 0 + 3\cdot(-1) = 1, \quad 2\cdot 2 + (-1)\cdot 1 + 3\cdot(-1) = 0

であり、第33行は

4⋅(−11)+1⋅(−4)+8⋅6=0,4⋅2+1⋅0+8⋅(−1)=0,4⋅2+1⋅1+8⋅(−1)=14\cdot(-11) + 1\cdot(-4) + 8\cdot 6 = 0, \quad 4\cdot 2 + 1\cdot 0 + 8\cdot(-1) = 0, \quad 4\cdot 2 + 1\cdot 1 + 8\cdot(-1) = 1

であるからAA−1=I3AA^{-1} = I_3である。A−1AA^{-1}Aについても同じように計算すると、第11行は−11+4+8=1-11 + 4 + 8 = 1、0+(−2)+2=00 + (-2) + 2 = 0、−22+6+16=0-22 + 6 + 16 = 0、第22行は−4+0+4=0-4 + 0 + 4 = 0、0+0+1=10 + 0 + 1 = 1、−8+0+8=0-8 + 0 + 8 = 0、第33行は6+(−2)+(−4)=06 + (-2) + (-4) = 0、0+1+(−1)=00 + 1 + (-1) = 0、12+(−3)+(−8)=112 + (-3) + (-8) = 1であるからA−1A=I3A^{-1}A = I_3である。▨

問題 5.2.定理 2.2の証明のうち、定理 2.2 (1)⇔\Leftrightarrow(5)を完成させよ。

解答.

定理 2.2 (1)⇒\Rightarrow(5)を示す。AAを正則とし、b⃗∈Rn\vec b \in \mathbb{R}^nを取る。§D3.1 定理 4.1と§D3.1 命題 3.7によりA(A−1b⃗)=(AA−1)b⃗=Inb⃗=b⃗A(A^{-1}\vec b) = (AA^{-1})\vec b = I_n\vec b = \vec bであるから、A−1b⃗A^{-1}\vec bはAx⃗=b⃗A\vec x = \vec bの解である。x⃗\vec xをAx⃗=b⃗A\vec x = \vec bの解とすると、同じ二つの結果によりx⃗=Inx⃗=(A−1A)x⃗=A−1(Ax⃗)=A−1b⃗\vec x = I_n\vec x = (A^{-1}A)\vec x = A^{-1}(A\vec x) = A^{-1}\vec bである。よってAx⃗=b⃗A\vec x = \vec bの解はA−1b⃗A^{-1}\vec bただ一つである。

定理 2.2 (5)⇒\Rightarrow(1)を示す。どのb⃗∈Rn\vec b \in \mathbb{R}^nについてもAx⃗=b⃗A\vec x = \vec bの解がただ一つであるとする。とくにb⃗=0⃗\vec b = \vec 0について解はただ一つであり、0⃗\vec 0はその解であるから、Ax⃗=0⃗A\vec x = \vec 0の解は0⃗\vec 0のみである。すなわち定理 2.2 (2)が成り立つ。本文で示した定理 2.2 (2)⇒\Rightarrow(3)、定理 2.2 (3)⇒\Rightarrow(4)、定理 2.2 (4)⇒\Rightarrow(1)を順に用いると、AAは正則である。▨

参考文献

  1. 齋藤正彦『線型代数入門』基礎数学 1, 東京大学出版会, 1966.逆行列の定義と一意性、および掃き出し法によって逆行列を構成する手順を参考にしました。
  2. Kenneth Hoffman and Ray Kunze, Linear Algebra, 2nd ed., Prentice Hall, Englewood Cliffs, N.J., 1971.正則であることの同値な言い換えの並べ方と、片側の等式から正則性を導く議論を参考にしました。
  3. Serge Lang, Linear Algebra, 3rd ed., Springer, New York, 1987.積の逆行列と転置行列の逆行列についての公式の述べ方を参考にしました。

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