1 定義と固有方程式
定義 1.1 (固有値・固有ベクトル).K∈{R,C}、n≥1、A∈Mn(K)とする。λ∈Kとx∈Kn∖{0}がAx=λxを満たすとき、xをλに属する固有ベクトル、λをAの固有値という。
定理 1.2 (固有方程式).λがAの固有値である⟺det(A−λI)=0。
証明.Ax=λxを移項すると(A−λI)x=0。これがx=0の解をもつのは、A−λIが正則でないとき、すなわちdet(A−λI)=0のときである(§D3.4 定理 10.1)。▨
det(A−λI)はλのn次多項式(固有多項式)で、その根が固有値です。各固有値λに対し(A−λI)x=0を掃き出しで解けば固有ベクトルが求まります。
実数を成分とする行列でも、固有多項式が実数の範囲に根をもつとは限りません。原点まわりの90∘回転(01−10)の固有多項式はλ2+1で、実数の根をもちません。実行列A∈Mn(R)の複素固有値を扱うときは、同じ成分をもつA∈Mn(C)がCnに作用するとみなす。これはA:Rn→Rnの複素化であり、この場合のλと固有ベクトルはそれぞれCとCnに属する。係数をこのように複素数まで広げれば、根はつねに存在します。
定理 1.3 (認めて用いる事実:代数学の基本定理). 複素数を係数とする1次以上の多項式は、複素数の範囲に根をもつ。したがってn次の固有多項式は、複素数の範囲に、重複度を込めてちょうどn個の根をもつ。
命題 1.5 (固有空間). 固有値λに対しEλ=Ker(A−λI)={x:Ax=λx}は部分空間(固有空間)である。
証明.Ker(A−λI)は線形写像A−λIの核ゆえ部分空間(前々項§D3.10 命題 1.2)。▨
例 1.6 (固有空間が 1 次元しかない行列).A=(2012)の固有多項式はdet(A−λI)=(2−λ)2なので、固有値は2のみです。固有空間は
E2=Ker(A−2I)=Ker(0010)=span{(1,0)⊤}で、1 次元しかありません。固有値が重複していても、固有空間の次元がその重複度に届くとは限りません。この食い違いが、次項で対角化できるかどうかを分ける鍵になります。
2 異なる固有値の固有ベクトルは一次独立
異なる固有値に属する固有ベクトルは、互いに重なり合いません。次項の対角化は、この事実の上に立ちます。
定理 2.1 (異なる固有値の固有ベクトルの一次独立性).λ1,…,λkをAの相異なる固有値とし、viをλiに属する固有ベクトルとする。このときv1,…,vkは一次独立である(§D3.8 定義 1.1)。
証明.kについての帰納法で示す。k=1のとき、固有ベクトルは0でないからc1v1=0はc1=0を導く。
k≥2とし、k−1個の場合に主張が成り立つと仮定する。
c1v1+⋯+ckvk=0(∗)とする。両辺にA−λkIを掛ける。Avi=λiviより(A−λkI)vi=(λi−λk)viであり、i=kの項は消えるので
i=1∑k−1ci(λi−λk)vi=0を得る。帰納法の仮定によりv1,…,vk−1は一次独立だから、i=1,…,k−1についてci(λi−λk)=0である。固有値は相異なるのでλi−λk=0、したがってci=0である。これを(∗)へ戻すとckvk=0となり、vk=0からck=0を得る。よってv1,…,vkは一次独立である。▨
n次の行列が相異なるn個の固有値をもつときに固有ベクトルからなる基底が取れることは、この定理から従います。次項の対角化で確かめます。
閑話休題:フィボナッチ数列と固有値F0=0、F1=1、Fr+2=Fr+1+Frとする。r≥0に対して、この漸化式は
(Fr+1Fr)=Ar(10),A=(1110)と書ける。Aの固有値はφ=(1+5)/2とψ=(1−5)/2であり、対応する固有ベクトルをvφ=(φ,1)⊤、vψ=(ψ,1)⊤と取ることができる。二つの固有値は異なるので、定理 2.1によりvφ,vψは一次独立である。また
(10)=51(vφ−vψ)である。固有ベクトルの定義からArvφ=φrvφとArvψ=ψrvψが帰納的に従うため、第2成分を比較するとFr=(φr−ψr)/5を得る。