§D3.7部分空間と生成される部分空間

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部分空間は、ベクトル空間VVの演算を制限することによって、それ自身もベクトル空間となる部分集合である。本稿では部分空間の判定条件を証明し、生成系、部分空間の和、直和を定義する。

1 部分空間の判定

定義 1.1 (部分空間). ベクトル空間VVの部分集合WWが、VVの和とスカラー倍をそのまま用いてそれ自身ベクトル空間になるとき、WWをVVの部分空間という。

定理 1.2 (部分空間判定法).VVを体KK上のベクトル空間、W⊆VW \subseteq Vとする。WWが部分空間であるための必要十分条件は、次の3条件が成り立つことである。

  1. 0⃗∈W\vec 0 \in W
  2. x⃗,y⃗∈W⇒x⃗+y⃗∈W\vec x, \vec y \in W \Rightarrow \vec x + \vec y \in W(和で閉じる)
  3. x⃗∈W, c∈K⇒cx⃗∈W\vec x \in W,\ c \in K \Rightarrow c\vec x \in W(スカラー倍で閉じる)

証明. (⇒\Rightarrow)WWが部分空間なら、和とスカラー倍がWWの中で定義される(値がWWに入る)から 2, 3 は成り立つ。WWは空でないのでx⃗∈W\vec x\in Wを取り、3 でc=0c=0とすると0x⃗=0⃗∈W0\vec x=\vec 0\in Wであるから 1 も成り立つ。

(⇐\Leftarrow) 条件 1–3 を仮定する。まず 2, 3 より和とスカラー倍はWW上の演算になる(WWからはみ出さない)。結合法則 (V1)・交換法則 (V2) など、すべてのベクトルについて成り立つ恒等式は、VVで成り立つのだから部分集合WW上でも成り立つ。零ベクトルは 1 よりWWに属し、x⃗∈W\vec x \in Wの逆元は 3 でc=−1c = -1とすれば(−1)x⃗=−x⃗∈W(-1)\vec x = -\vec x \in W(前項§D3.6 命題 2.2)。よって公理 (V1)–(V8) がすべてWWで満たされ、WWは部分空間である。▨

注意 1.3. 部分空間は和とスカラー倍について閉じ、零ベクトルを含む。したがって、原点を通らない直線や平面は定理 1.2の第1条件を満たさず、部分空間ではない。

例 1.4 (原点を通る平面が部分空間であることを判定する).W={(x,y,z)∈R3:x+y+z=0}W = \{(x, y, z) \in \R^3 : x + y + z = 0\}はR3\R^3の部分空間である。定理 1.2の3条件を順に確かめる。(0,0,0)(0, 0, 0)は0+0+0=00 + 0 + 0 = 0を満たすので0⃗∈W\vec 0 \in W。x⃗=(x1,x2,x3)\vec x = (x_1, x_2, x_3)とy⃗=(y1,y2,y3)\vec y = (y_1, y_2, y_3)がWWに属せば、x⃗+y⃗\vec x + \vec yの成分の和は(x1+x2+x3)+(y1+y2+y3)=0(x_1 + x_2 + x_3) + (y_1 + y_2 + y_3) = 0。スカラー倍cx⃗c\vec xの成分の和もc(x1+x2+x3)=0c(x_1 + x_2 + x_3) = 0である。したがって、定義方程式は和とスカラー倍によって保たれる。一方、x+y+z=1x + y + z = 1で定まる平面は0⃗\vec 0を含まないので部分空間ではない。

2 生成系と張る空間

定義 2.1 (張る空間・生成系). ベクトルv⃗1,…,v⃗k∈V\vec v_1, \dots, \vec v_k \in Vの一次結合c1v⃗1+⋯+ckv⃗kc_1\vec v_1 + \cdots + c_k\vec v_k(ci∈Kc_i \in K)の全体を、それらが張る(生成する)空間といいspan⁡{v⃗1,…,v⃗k}\operatorname{span}\{\vec v_1, \dots, \vec v_k\}と書く。span⁡{v⃗i}=W\operatorname{span}\{\vec v_i\} = Wとなるとき、{v⃗i}\{\vec v_i\}をWWの生成系という。

命題 2.2.span⁡{v⃗1,…,v⃗k}\operatorname{span}\{\vec v_1, \dots, \vec v_k\}はVVの部分空間であり、v⃗1,…,v⃗k\vec v_1, \dots, \vec v_kを含む最小の部分空間である。

証明.S=span⁡{v⃗i}S = \operatorname{span}\{\vec v_i\}とおく。0⃗=0v⃗1+⋯+0v⃗k∈S\vec 0 = 0\vec v_1 + \cdots + 0\vec v_k \in Sである。一次結合どうしの和とスカラー倍は再び一次結合だから、SSは和とスカラー倍で閉じ、定理 1.2より部分空間である。最小性を示す。v⃗1,…,v⃗k\vec v_1, \dots, \vec v_kを含む任意の部分空間UUは、部分空間であるため一次結合で閉じる(定理 1.2の第2, 3条件を繰り返し適用する)。したがって、UUはすべてのc1v⃗1+⋯+ckv⃗kc_1\vec v_1 + \cdots + c_k\vec v_kを含み、S⊆US \subseteq Uが成り立つ。▨

注意 2.3. 生成系であることは、対象の空間の各ベクトルを一次結合で表せることを意味する。生成系に含まれるベクトルの間に一次関係があるかどうかは別の条件であり、次稿では生成性と一次独立性を同時に満たす生成系を基底として扱う。

3 部分空間の共通部分と和

命題 3.1.U,WU, WをVVの部分空間とすると、共通部分U∩WU \cap Wと和U+W={u⃗+w⃗:u⃗∈U, w⃗∈W}U + W = \{\vec u + \vec w : \vec u \in U,\ \vec w \in W\}はともにVVの部分空間である。U+WU + WはU∪WU \cup Wを含む最小の部分空間になる。一方U∪WU \cup Wは一般には部分空間ではない。

証明.U∩WU \cap Wについては、0⃗\vec 0は両方に属し、x⃗,y⃗∈U∩W\vec x, \vec y \in U \cap Wの和とスカラー倍も両方の部分空間性からU∩WU \cap Wに属する。U+WU + Wについては、0⃗=0⃗+0⃗\vec 0 = \vec 0 + \vec 0であり、(u⃗1+w⃗1)+(u⃗2+w⃗2)=(u⃗1+u⃗2)+(w⃗1+w⃗2)∈U+W(\vec u_1 + \vec w_1) + (\vec u_2 + \vec w_2) = (\vec u_1 + \vec u_2) + (\vec w_1 + \vec w_2) \in U + W、スカラー倍も同様。U∪W⊆U+WU \cup W \subseteq U + W(u⃗=u⃗+0⃗\vec u = \vec u + \vec 0)で、U∪WU \cup Wを含む任意の部分空間は和u⃗+w⃗\vec u + \vec wを含むからU+WU + Wが最小である。U∪WU \cup Wが部分空間でない例は例 3.4で与える。▨

定義 3.2 (直和).U,WU,WをVVの部分空間とする。U+WU+Wの各ベクトルx⃗\vec xが

x⃗=u⃗+w⃗(u⃗∈U, w⃗∈W)\vec x=\vec u+\vec w\qquad(\vec u\in U,\ \vec w\in W)

とただ一通りに表されるとき、U+WU+WをUUとWWの 直和 (direct sum) といい、U⊕WU\oplus Wと書く。

命題 3.3.U,WU,WをVVの部分空間とする。このとき、次の二条件は同値である。

  1. U+WU+WはUUとWWの直和である。
  2. U∩W={0⃗}U\cap W=\{\vec 0\}である。

証明.(1)を仮定し、x⃗∈U∩W\vec x\in U\cap Wを取る。このときx⃗=x⃗+0⃗=0⃗+x⃗\vec x=\vec x+\vec 0=\vec 0+\vec xはU+WU+Wにおける二つの表示である。表示の一意性によりx⃗=0⃗\vec x=\vec 0であるから、U∩W={0⃗}U\cap W=\{\vec 0\}である。

逆に(2)を仮定する。U+WU+Wのベクトルに二つの表示u⃗+w⃗=u⃗′+w⃗′\vec u+\vec w=\vec u'+\vec w'があると、

u⃗−u⃗′=w⃗′−w⃗∈U∩W={0⃗}\vec u-\vec u'=\vec w'-\vec w\in U\cap W=\{\vec 0\}

となる。したがってu⃗=u⃗′\vec u=\vec u'かつw⃗=w⃗′\vec w=\vec w'であり、表示は一意である。▨

例 3.4 (和集合と直和の比較).R2\R^2でU={(t,0)}U = \{(t, 0)\}(xx軸)、W={(0,t)}W = \{(0, t)\}(yy軸)はともに部分空間だが、U∪WU \cup W(2本の軸の合併)は部分空間ではない。(1,0)∈U(1, 0) \in Uと(0,1)∈W(0, 1) \in Wの和(1,1)(1, 1)がどちらの軸にも属さず、和について閉じないからである。

一方、U+W=R2U+W=\R^2かつU∩W={0⃗}U\cap W=\{\vec 0\}であるから、命題 3.3によりR2=U⊕W\R^2=U\oplus Wである。実際、任意の(a,b)∈R2(a,b)\in\R^2は

(a,b)=(a,0)+(0,b)(a,b)=(a,0)+(0,b)

と表され、この表示は一意である。この例では、和集合U∪WU\cup Wと部分空間の和U+WU+Wは異なる。

注意 3.5. 斉次連立方程式Ax⃗=0⃗A\vec x=\vec 0の解全体は零ベクトルを含み、和とスカラー倍について閉じるため部分空間である。これに対し、b⃗≠0⃗\vec b\ne\vec 0のとき、Ax⃗=b⃗A\vec x=\vec bの解全体は零ベクトルを含まないので部分空間ではない。

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