1 常点における係数漸化式
展開中心をx0とし、z=x−x0と置く。
定義 1.1.
a2(x)y′′+a1(x)y′+a0(x)y=0(1)の係数がx0の近くで実解析的であり、a2(x0)=0であるとき、x0を式 (1) の常点 (ordinary point) という。このとき、近傍を小さくすればa2は零にならず、
y′′+P(x)y′+Q(x)y=0(2)と正規化することができる。P=a1/a2とQ=a0/a2もx0の近くで実解析的である。
P(x)=k=0∑∞pkzk,Q(x)=k=0∑∞qkzk,y(x)=n=0∑∞cnzn
と置く。形式的に代入すると
y′=n=0∑∞(n+1)cn+1zn,y′′=n=0∑∞(n+2)(n+1)cn+2zn.
Cauchy 積でznの係数を比較すれば、
(n+2)(n+1)cn+2+k=0∑npk(n−k+1)cn−k+1+k=0∑nqkcn−k=0(n≥0)(3)
を得る。c0=y(x0)とc1=y′(x0)を指定すると、式 (3) はc2,c3,…を順に一意に定める。べき級数の収束半径に関する基本事項は「べき級数と収束半径」を前提とする。
2 解級数の収束
収束証明は、式 (2) を一階連立系へ帰着して行う。
Y=(yy′),Y′=A(z)Y,A(z)=(0−Q(x0+z)1−P(x0+z)).(4)
Aの行列係数の Taylor 級数を
A(z)=k=0∑∞Akzk
とする。
定理 2.1. 式 (2) のP,Qの Taylor 級数が∣x−x0∣<Rで収束するとする。任意の初期値
y(x0)=η0,y′(x0)=η1に対して、式 (3) が定めるべき級数は∣x−x0∣<Rで収束し、その和は式 (2) と初期条件を満たす。したがって、解級数の収束半径は少なくともRである。
証明. 連立系 (4) の形式解を
Y(z)=n=0∑∞cnzn,c0=(η0,η1)Tと置く。係数比較から
(n+1)cn+1=k=0∑nAkcn−k(n≥0)(5)を得る。この漸化式の第一成分と第二成分の関係は、式 (3) と同じ係数列を与える。
0<r<Rを任意に固定する。行列級数はz=rで収束するため、列∥Ak∥rkは有界である。したがって、あるCr>0に対して
∥Ak∥≤Crr−k(k≥0)(6)と評価することができる。
a=Crr,M=∥c0∥と置き、非負数列(bn)n≥0を
b0=M,bn+1=(n+1)ra+nbn(n≥0)によって定める。M=0ならばすべてのbnは零である。M>0ならばすべてのbnは正であり、0<∣z∣<rに対して
bn∣z∣nbn+1∣z∣n+1=n+1a+nr∣z∣⟶r∣z∣である。したがって、スカラー級数
B(z)=n=0∑∞bnznは∣z∣<rで絶対収束する。この円板内で項別微分し、a=Crrとbnの漸化式を用いると
(1−z/r)B′(z)=CrB(z),B(0)=∥c0∥(7)を得る。式 (7) に幾何級数を掛けて係数を比較すれば
(n+1)bn+1=Crk=0∑nr−kbn−k(8)となる。また、実数−r<z<rに対して式 (7) は
dzd((1−z/r)aB(z))=0を与える。B(0)=Mであるから、明示的には
B(z)=∥c0∥(1−z/r)−Crrである。
b0=∥c0∥と式 (5)、式 (6)、式 (8) を用いる帰納法により、∥cn∥≤bnがすべての非負整数nについて成り立つ。この帰納法の各段は問題 4.4の解答に示す。したがってYの級数は∣z∣<rで絶対収束する。
r<Rは任意であるから、Yの収束半径は少なくともRである。さらに、任意のs<Rに対してs<r<Rを選べば、級数と導関数級数は∣z∣≤sで一様収束する。式 (5) を用いて
Cauchy 積を取ることができ、級数の和は連立系 (4) を満たす。その第一成分は式 (2) と指定した初期条件を満たす。
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ここで保証したRは、すべての初期値に共通する収束半径の下界である。係数の特異性が特定の解では相殺される場合や、零解または多項式解が得られる場合には、個々の解級数の収束半径はRより大きくなり得る。
例 2.2 (指数関数の級数).
y′=y,y(0)=aにy=∑n≥0cnxnを代入すると
(n+1)cn+1=cnである。したがってcn=a/n!であり、
y(x)=an=0∑∞n!xn=aex.係数は全平面で解析的であり、解級数の収束半径も無限大である。
例 2.3 (係数の特異点は解の収束半径と一致するとは限らない). Legendre 方程式
(1−x2)y′′−2xy′+ν(ν+1)y=0(9)をx=0の周囲で正規化すると、係数はx=±1に特異点をもつ。したがって定理 2.1がすべての初期値について一様に保証する半径は少なくとも1である。
しかしν=nが非負整数である場合には、多項式解が存在する。多項式の Taylor 級数は全平面で収束するため、この解の収束半径は無限大である。Legendre 多項式の構成は後の記事で行う。
例 2.4 (解析的係数が全平面にある場合). Airy 方程式
y′′−xy=0ではP=0、Q=−xが多項式である。任意のR>0に定理 2.1を適用することができるため、任意の初期値から得られる解級数は全実数上で収束する。
3 確定特異点と Frobenius 法
展開中心をx0=0とする。一般のx0は変数の平行移動によってこの場合へ帰着する。
定義 3.1.
y′′+P(x)y′+Q(x)y=0(10)において、PまたはQがx=0で解析的でない一方、
p(x)=xP(x),q(x)=x2Q(x)がx=0の近くで解析的であるとき、x=0を確定特異点 (regular singular point) という。
x>0において
y(x)=xρn=0∑∞anxn,a0=0(11)の形をもつ級数を Frobenius 級数 (Frobenius series) という。ρは実数または複素数でよい。実数でない場合には、複素数値解を構成した後に実部と虚部を取る。
p(x)=∑k≥0pkxk、q(x)=∑k≥0qkxkとする。式 (10) にx2を掛けると
x2y′′+xp(x)y′+q(x)y=0.(12)
Frobenius 級数を代入したとき、xn+ρの係数は
0=[(n+ρ)(n+ρ−1)+p0(n+ρ)+q0]an+k=1∑n[pk(n−k+ρ)+qk]an−k(n≥0).(13)
n=0ではa0=0であるから、指数ρは
ρ(ρ−1)+p0ρ+q0=0(14)
を満たさなければならない。式 (14) を決定方程式という。二つの指数根の差が整数でない場合には、いずれの根ρを選んでも、式 (13) は形式係数a1,a2,…を順に一意に定める。
命題 3.2. 決定方程式の二根をρ1,ρ2とし、N=ρ1−ρ2が非負整数であるとする。
N>0の場合に小さい根ρ2を式 (13) へ代入すると、1≤n<Nを満たす各nの係数anはa0から一意に定まり、第N段ではaNの係数が零になる。この段階の既知項の和が零であることが、形式的な
Frobenius 級数を続けるための整合条件である。整合条件が成立すればaNは自由に選ぶことができ、aN+1,aN+2,…はa0とaNから一意に定まる。整合条件が成立しなければ、指数ρ2をもつ式 (11) の形の形式級数は存在しない。
N=0の場合には、a0=0を選ぶとa1,a2,…は一意に定まる。したがって、重根に対応して式 (11) の形から得られる形式級数は、定数倍を除いて一つである。
証明. 決定多項式を
F(ρ)=ρ(ρ−1)+p0ρ+q0と書く。式 (13) におけるanの係数はF(n+ρ)である。ρ=ρ2、N=ρ1−ρ2と置く。
N>0とする。Fの根はρ2とρ2+Nだけなので、n≥1についてF(n+ρ2)=0となるのはn=Nの場合に限る。実際、第N段では
F(N+ρ2)=F(ρ1)=0である。したがって、第N段より前では各係数を直前までの係数から一意に決定することができるが、第N段の等式は
k=1∑N[pk(N−k+ρ2)+qk]aN−k=0という整合条件になる。整合条件が成立すれば第N段の等式はaNを制約せず、第N段より後ではF(n+ρ2)=0であるから各係数が再び一意に定まる。整合条件が成立しなければ、第N段の等式を満たす係数列は存在しない。
N=0とする。Fはρ1=ρ2だけを重根にもつので、すべてのn≥1についてF(n+ρ2)=0である。したがって、a0=0を選ぶと式 (13) は後続の係数を一意に定める。
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正の整数差の場合に整合条件が成立しないときと重根の場合には、式 (11) の形だけから二つの一次独立な形式級数を得ることはできない。具体的な方程式では、既に得られた解y1(x)にlogxを掛けた項を第二解が含む場合がある。一方、指数根の整数差は、対数項が必ず現れるという条件ではない。
例 3.3 (整数差があっても対数項を必要としない例). Euler 方程式
x2y′′=0(x>0)の決定方程式はρ(ρ−1)=0であり、二根1,0の差は整数である。しかし
y1(x)=x,y2(x)=1は対数項を含まない基本解系である。実際、x>0では元の方程式を直接y′′=0と書くことができる。
t=logx、Y(t)=y(et)と置くと
y′=xY′,y′′=x2Y′′−Y′であるから、同じ方程式はY′′−Y′=0となる。二つの解1,etをxへ戻しても1,xを得る。
例 3.4 (対数項が現れる例).
x2y′′+xy′=0(x>0)の決定方程式はρ2=0であり、重根0をもつ。一つの解はy1=1である。方程式を(xy′)′=0と書けば
y′=C/x,y=Clogx+Dとなるため、第二解としてy2=logxが現れる。t=logx、Y(t)=y(et)と置き、前の例と同じ微分公式を用いると、この方程式はY′′=0となる。したがってY=Ct+Dであり、y=Clogx+Dを再び得る。この第二解の形は、指数パラメータに関する恒等式
∂ρ∂xρ=xρlogx,∂ρ∂xρρ=0=logxからも読み取ることができる。
Frobenius 級数の一般的な収束証明も優級数によって行うことができるが、本単元では、後続記事で扱う
Legendre 方程式と Bessel 方程式について、それぞれ得られた級数の収束を直接確認する。
4 演習
問題 4.1 (Frobenius 法と整数差の判定).x>0における Euler 方程式
x2y′′−2y=0へ Frobenius 級数を代入し、決定方程式と二つの指数根を求めよ。小さい指数根に対する共鳴次数を特定し、対数項を用いずに二つの一次独立な解を構成して、元の方程式へ代入して検算せよ。
解答.
この方程式ではp(x)=0、q(x)=−2であるから、決定方程式は
ρ(ρ−1)−2=(ρ−2)(ρ+1)=0である。指数根はρ1=2とρ2=−1であり、差は3である。
係数漸化式は
[(n+ρ)(n+ρ−1)−2]an=0となる。ρ=2ではn≥1に対する係数は非零なので、a1=a2=⋯=0としてy1=x2を得る。ρ=−1ではn=3で係数が零になる。この次数の等式は0=0であり、a3を自由に選ぶことができる。a3=0と選べばy2=x−1を得る。a3=0の選択はy2にy1の定数倍を加えるだけである。
直接計算すると
x2(x2)′′−2x2=2x2−2x2=0,x2(x−1)′′−2x−1=2x−1−2x−1=0である。二つの解は一次独立であり、対数項を必要としない。指数根の差が整数であることは、対数項が生じるための十分条件ではない。▨
問題 4.2 (整数差があっても対数項を必要としない場合).x>0における Euler 方程式
x2y′′−6y=0へ Frobenius 級数を代入し、決定方程式と二つの指数根を求めよ。小さい指数根に対する共鳴次数と整合条件を調べ、対数項を用いない二つの一次独立な解を構成せよ。最後に、二つの解の Wronskian を計算し、元の方程式への代入によって検算せよ。
解答.
この方程式ではp(x)=0、q(x)=−6であるから、決定方程式は
ρ(ρ−1)−6=(ρ−3)(ρ+2)=0である。指数根はρ1=3とρ2=−2であり、差は5である。係数漸化式は
[(n+ρ)(n+ρ−1)−6]an=0となる。
ρ=3では、すべてのn≥1についてanの係数が非零であるから、an=0となり、y1=x3を得る。ρ=−2では第5段でa5の係数が零になる。この方程式では既知項の和が存在しないため、第5段の整合条件は0=0であり、a5は自由である。a5=0と選ぶとy2=x−2を得る。a5=0の選択はy2にy1の定数倍を加えるだけである。
y1=x3、y2=x−2の Wronskian は
W(y1,y2)=y1y2′−y1′y2=−2−3=−5であるから、二つの解は(0,∞)上で一次独立である。また、
x2(x3)′′−6x3=6x3−6x3=0,x2(x−2)′′−6x−2=6x−2−6x−2=0である。したがって、指数根の差が正の整数であっても、この方程式の基本解系には対数項を必要としない。▨
問題 4.3 (整数差によって対数項が生じる場合).0<x<1における方程式
x(1−x)y′′+xy′−y=0について、x=0が確定特異点であることを確認し、決定方程式と二つの指数根を求めよ。小さい指数根ρ=0に対する第1段の係数関係が整合しないことを示せ。さらに、xと1+xlogxが二つの一次独立な解であることを、元の方程式への代入と Wronskian の計算によって示せ。
解答.
0<x<1では方程式を
y′′+1−x1y′−x(1−x)1y=0と正規化することができる。したがって
p(x)=1−xx=k=1∑∞xk,q(x)=−1−xx=−k=1∑∞xkは∣x∣<1で解析的であり、x=0は確定特異点である。p0=q0=0であるから、決定方程式は
ρ(ρ−1)=0であり、指数根はρ1=1とρ2=0である。
ρ=0とすると、式 (13) の第1段は
1⋅0a1+[p1⋅0+q1]a0=−a0=0となる。Frobenius 級数ではa0=0であるから、この等式は成立せず、小さい指数根に対応する式 (11) の形の形式級数は存在しない。
y1=xはy1′=1、y1′′=0を満たすから、元の方程式の左辺はx−x=0である。y2=1+xlogxは
y2′=1+logx,y2′′=x1を満たし、元の方程式の左辺は
(1−x)+x(1+logx)−(1+xlogx)=0である。さらに、
W(y1,y2)=x(1+logx)−(1+xlogx)=x−1は0<x<1で零にならない。したがってxと1+xlogxは(0,1)上で一次独立であり、この方程式では整数差に伴って対数項が生じる。▨
問題 4.4 (優級数による収束証明の再構成).定理 2.1の証明において、0<r<Rを固定し、式 (6) の評価と式 (8) の優級数を用いる。∥cn∥≤bnをすべての非負整数nについて証明し、解級数の収束半径が少なくともRであることを導け。また、係数関数の解析可能な円板が個々の解級数の収束半径と常に一致するとは結論することができない理由を述べよ。
解答.
n=0ではb0=∥c0∥である。0≤j≤nについて∥cj∥≤bjが成り立つと仮定する。式 (5)、式 (6)、式 (8) から
(n+1)∥cn+1∥≤k=0∑n∥Ak∥∥cn−k∥≤Crk=0∑nr−kbn−k=(n+1)bn+1である。したがって∥cn+1∥≤bn+1となり、帰納法によって評価がすべてのnで成り立つ。
Bは∣z∣<rで絶対収束するから、比較によって∑cnznは∣z∣<rで絶対収束する。r<Rは任意なので、解級数の収束半径は少なくともRである。係数の解析可能領域は、すべての初期値について共通に保証する範囲を与える。特定の初期値では係数の特異性が解に現れない場合や、多項式解または零解になる場合があるため、個々の解級数の収束半径がRと等しいとは限らない。▨