§E10.4局所解の存在と一意性

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初期値問題は、各時刻と状態における変化の向きと一つの初期状態を指定する。このデータから出発する解が初期時刻の近くに存在するか、また、その解が一意に定まるかは、微分方程式の基本的な問題である。

右辺の連続性だけでは一意性は保証されない。たとえば初期値問題

y′=∣y∣,y(0)=0y'=\sqrt{|y|},\qquad y(0)=0

では、恒等的に零である解のほかに、任意のc≥0c\geq0に対して時刻ccまで零に留まり、その後に正となる解が存在する。状態変数に関する局所 Lipschitz 条件は、この非一意性を排除するための十分条件を与える。

時間変数については、右辺が連続でなくても、可測性と可積分な支配条件の下で絶対連続解を考えることができる。Carathéodory 型の局所存在・一意性定理は、この状況で解の存在と解の芽の一意性を与え、連続なベクトル場に対する Picard–Lindelöf の定理を含む。局所的な存在と一意性は、局所解を貼り合わせて最大解を構成するための基礎となる。

本記事では、時間について可測なベクトル場に対する局所存在・一意性と、連続なベクトル場に対する帰結を扱う。

1 ベクトル値の初期値問題

定義 1.1.d∈N≥1d\in\NN、Ω⊆R×Rd\Omega\subseteq\R\times\R^dを開集合、f:Ω→Rdf:\Omega\to\R^dを写像、(t0,y0)∈Ω(t_0,\boldsymbol y_0)\in\Omegaとする。

y′=f(t,y),y(t0)=y0\boldsymbol y'=f(t,\boldsymbol y),\qquad \boldsymbol y(t_0)=\boldsymbol y_0

をベクトル値初期値問題 (vector-valued initial value problem) という。

t0t_0を含む内部が空でない区間II上の一階連続微分可能な関数y:I→Rd\boldsymbol y:I\to\R^dが、すべてのt∈It\in Iに対して

(t,y(t))∈Ω,y′(t)=f(t,y(t)),y(t0)=y0(t,\boldsymbol y(t))\in\Omega,\qquad \boldsymbol y'(t)=f(t,\boldsymbol y(t)),\qquad \boldsymbol y(t_0)=\boldsymbol y_0

を満たすとき、y\boldsymbol yをII上の解 (solution)、または古典解という。区間に含まれる端点での微分は片側微分とする。t0t_0を含む開区間上で解が定まるとき、その解を局所解 (local solution) という。

定義 1.2.d∈N≥1d\in\NN、Ω⊆R×Rd\Omega\subseteq\R\times\R^dを開集合、f:Ω→Rdf:\Omega\to\R^dを写像、(t0,y0)∈Ω(t_0,\boldsymbol y_0)\in\Omegaとする。t0t_0を含む内部が空でない区間II上の関数y∈ACloc(I;Rd)\boldsymbol y\in AC_{\mathrm{loc}}(I;\R^d)が

(t,y(t))∈Ω(t∈I),y(t0)=y0,(t,\boldsymbol y(t))\in\Omega\quad(t\in I),\qquad \boldsymbol y(t_0)=\boldsymbol y_0,

およびIIの内部のほとんど至る所で

y′(t)=f(t,y(t))\boldsymbol y'(t)=f(t,\boldsymbol y(t))

を満たすとき、y\boldsymbol yを初期値問題の絶対連続解 (absolutely continuous solution) という。t0t_0を含む開区間上の絶対連続解を絶対連続な局所解という。

局所解が初期時刻を含む十分小さい共通の開区間上で一致するとき、それらは同じ解の芽 (solution germ) を定めるという。

絶対連続解の初期値とグラフの条件は全点で課す。微分方程式を課すのはほとんど至る所である。古典解は各有限閉区間で導関数が有界なので Lipschitz 連続であり、§E10.2 補題 1.2 (4)により絶対連続解でもある。

2 時間可測なベクトル場と積分方程式

定義 2.1.d∈N≥1d\in\NNとし、Rd\R^dにノルム∥⋅∥\|\cdot\|を固定する。J⊆RJ\subseteq\Rを長さが正の有限閉区間、B={u:∥u−c∥≤b}B=\{\boldsymbol u:\|\boldsymbol u-\boldsymbol c\|\leq b\}を半径b>0b>0の閉球とする。写像f:J×B→Rdf:J\times B\to\R^dがCarathéodory 条件 (Carathéodory conditions) を満たすとは、次の条件を満たすことをいう。

  1. すべてのu∈B\boldsymbol u\in Bに対して、t↦f(t,u)t\mapsto f(t,\boldsymbol u)は Lebesgue 可測である。
  2. ある Lebesgue 零集合N⊆JN\subseteq Jが存在し、すべてのt∈J∖Nt\in J\setminus Nに対してu↦f(t,u)\boldsymbol u\mapsto f(t,\boldsymbol u)はBB上で連続である。
  3. ある非負関数m∈L1(J)m\in L^1(J)が存在し、すべてのt∈J∖Nt\in J\setminus Nとu∈B\boldsymbol u\in Bに対して∥f(t,u)∥≤m(t)\|f(t,\boldsymbol u)\|\leq m(t)が成り立つ。

さらに、ある非負関数ℓ∈L1(J)\ell\in L^1(J)が存在し、同じNNの外のすべてのttとすべてのu,v∈B\boldsymbol u,\boldsymbol v\in Bに対して

∥f(t,u)−f(t,v)∥≤ℓ(t)∥u−v∥\|f(t,\boldsymbol u)-f(t,\boldsymbol v)\| \leq\ell(t)\|\boldsymbol u-\boldsymbol v\|

が成り立つとき、ℓ\ellを時間について可積分な Lipschitz 係数という。m,ℓm,\ellは非負有限値の可測な代表元を用い、必要ならNNを拡大する。

開集合Ω⊆R×Rd\Omega\subseteq\R\times\R^d上のffがこれらの条件を局所的に満たすとは、Ω\Omegaに含まれる各閉矩形J×BJ\times B上で条件を満たすことをいう。m,ℓ,Nm,\ell,Nは矩形ごとに異なってよい。

注意 2.2. Carathéodory 条件の零集合NNは、状態u\boldsymbol uに依存しない。Lipschitz 評価も、同じNNの外で全状態対について成り立つ。状態ごとに零集合が与えられるというだけでは、それらの和が零集合であるとは限らない。実際、各一点集合{u}⊆[0,1]\{u\}\subseteq[0,1]は零集合だが、u∈[0,1]u\in[0,1]にわたる和は[0,1][0,1]である。

補題 2.3.d∈N≥1d\in\NN、J⊆RJ\subseteq\Rを長さが正の有限閉区間、B⊆RdB\subseteq\R^dを半径が正の閉球とし、f:J×B→Rdf:J\times B\to\R^dを写像とする。各u∈B\boldsymbol u\in Bに対してt↦f(t,u)t\mapsto f(t,\boldsymbol u)は Lebesgue 可測であり、ある共通の Lebesgue 零集合N⊆JN\subseteq Jの外でu↦f(t,u)\boldsymbol u\mapsto f(t,\boldsymbol u)は連続であると仮定する。このとき、任意の Lebesgue 可測写像y:J→B\boldsymbol y:J\to Bに対して、t↦f(t,y(t))t\mapsto f(t,\boldsymbol y(t))は Lebesgue 可測である。

さらに、非負関数m∈L1(J)m\in L^1(J)が存在し、すべてのt∈J∖Nt\in J\setminus Nとu∈B\boldsymbol u\in Bについて∥f(t,u)∥≤m(t)\|f(t,\boldsymbol u)\|\leq m(t)ならば、f(⋅,y(⋅))∈L1(J;Rd)f(\cdot,\boldsymbol y(\cdot))\in L^1(J;\R^d)である。

証明.BBの可算稠密集合を{q1,q2,…}\{\boldsymbol q_1,\boldsymbol q_2,\ldots\}と書く。例えば球の内部にある有理座標点全体は、球の内部およびその閉包BBに稠密である。n,k∈N≥1n,k\in\NNに対して

En,k={t∈J:∥y(t)−qk∥<1/n}∖⋃j<k{t∈J:∥y(t)−qj∥<1/n}E_{n,k}=\{t\in J:\|\boldsymbol y(t)-\boldsymbol q_k\|<1/n\} \setminus\bigcup_{j<k}\{t\in J:\|\boldsymbol y(t)-\boldsymbol q_j\|<1/n\}

とおく。各En,kE_{n,k}は可測であり、nnを固定すると互いに交わらず、その和はJJである。t∈En,kt\in E_{n,k}に対してyn(t)=qk\boldsymbol y_n(t)=\boldsymbol q_kと定めると、∥yn(t)−y(t)∥<1/n\|\boldsymbol y_n(t)-\boldsymbol y(t)\|<1/nである。

gn(t)=f(t,yn(t))g_n(t)=f(t,\boldsymbol y_n(t))とおく。任意の開集合U⊆RdU\subseteq\R^dに対して

gn−1(U)=⋃k∈N≥1(En,k∩{t:f(t,qk)∈U})g_n^{-1}(U)=\bigcup_{k\in\NN} \bigl(E_{n,k}\cap\{t:f(t,\boldsymbol q_k)\in U\}\bigr)

は可測である。従ってgng_nは可測である。NN上でgng_nを零に替えた関数をg~n\widetilde g_nとすると、g~n\widetilde g_nも可測である。状態変数についての連続性から、t∉Nt\notin Nではgn(t)→f(t,y(t))g_n(t)\to f(t,\boldsymbol y(t))となる。従ってg~n\widetilde g_nは全点で収束し、§E9.5 定理 4.1を各成分へ適用すると、その極限は可測である。f(t,y(t))f(t,\boldsymbol y(t))はこの極限とNNの外で一致するので、Lebesgue 測度の完備性により可測である。

支配関数mmがある場合は、∥f(t,y(t))∥≤m(t)\|f(t,\boldsymbol y(t))\|\leq m(t)がほとんど至る所で成り立つ。従って合成のノルムは可積分である。▨

補題 2.4.d∈N≥1d\in\NN、Ω⊆R×Rd\Omega\subseteq\R\times\R^dを開集合、f:Ω→Rdf:\Omega\to\R^dを写像、(t0,y0)∈Ω(t_0,\boldsymbol y_0)\in\Omegaとする。t0t_0を含む内部が空でない区間II上の関数y:I→Rd\boldsymbol y:I\to\R^dのグラフがΩ\Omegaに含まれ、g(t)=f(t,y(t))g(t)=f(t,\boldsymbol y(t))がLloc1(I;Rd)L^1_{\mathrm{loc}}(I;\R^d)に属すると仮定する。このとき、y\boldsymbol yが初期値問題の絶対連続解であるための必要十分条件は、すべてのt∈It\in Iに対して

y(t)=y0+∫t0tf(s,y(s)) ds\boldsymbol y(t)=\boldsymbol y_0+\int_{t_0}^{t}f(s,\boldsymbol y(s))\,ds

が成り立つことである。t<t0t<t_0の積分は−∫tt0-\int_t^{t_0}とする。

証明. 必要性を示す。絶対連続解y\boldsymbol yへ§E10.2 系 2.5を適用すると、すべてのt∈It\in Iに対して

y(t)=y(t0)+∫t0ty′(s) ds\boldsymbol y(t)=\boldsymbol y(t_0)+\int_{t_0}^t\boldsymbol y'(s)\,ds

である。初期条件とy′=g\boldsymbol y'=gのほとんど至る所での一致から、主張の積分方程式を得る。

十分性を示す。g∈Lloc1(I;Rd)g\in L^1_{\mathrm{loc}}(I;\R^d)なので、§E10.2 系 2.5により、積分方程式の右辺は局所絶対連続であり、導関数はほとんど至る所でggに等しい。t=t0t=t_0を代入すると初期条件を得る。▨

閉矩形内に値を取る連続曲線については、Carathéodory 条件と補題 2.3が、積分同値に必要な可積分性を与える。

補題 2.5.d∈N≥1d\in\NN、Ω⊆R×Rd\Omega\subseteq\R\times\R^dを開集合、f:Ω→Rdf:\Omega\to\R^dを連続写像、(t0,y0)∈Ω(t_0,\boldsymbol y_0)\in\Omegaとする。t0t_0を含む内部が空でない区間II上の関数y:I→Rd\boldsymbol y:I\to\R^dのグラフがΩ\Omegaに含まれるとする。このとき、y\boldsymbol yが初期値問題の古典解であることと、すべてのt∈It\in Iに対して

y(t)=y0+∫t0tf(s,y(s)) ds\boldsymbol y(t)=\boldsymbol y_0+\int_{t_0}^t f(s,\boldsymbol y(s))\,ds

を満たすことは同値である。積分方程式を満たすという条件には、被積分関数が各有限閉区間で Lebesgue 可積分であることを含める。

証明. 古典解は絶対連続解であり、f(t,y(t))f(t,\boldsymbol y(t))は連続であるから、補題 2.4により積分方程式を満たす。逆に積分方程式を満たすならば、同補題によりy\boldsymbol yは局所絶対連続であり、特に連続である。従ってt↦f(t,y(t))t\mapsto f(t,\boldsymbol y(t))は連続である。微積分の基本定理により、積分方程式の右辺は一階連続微分可能であり、その導関数は全点でf(t,y(t))f(t,\boldsymbol y(t))に等しい。初期条件はt=t0t=t_0の代入で得る。▨

3 Picard 作用素と局所存在

補題 3.1.d∈N≥1d\in\NN、J⊆RJ\subseteq\Rを長さが正の有限閉区間とし、Rd\R^dに任意のノルム∥⋅∥\|\cdot\|を固定する。g∈L1(J;Rd)g\in L^1(J;\R^d)と Lebesgue 可測集合E⊆JE\subseteq Jに対して

∥∫Eg(t) dt∥≤∫E∥g(t)∥ dt\left\|\int_E g(t)\,dt\right\|\leq\int_E\|g(t)\|\,dt

が成り立つ。

証明.§E9.5 定理 5.3をggの各成分の絶対値へ適用し、その成分の符号を掛けると、有限個の値を取る可測写像gn:J→Rdg_n:J\to\R^dを得る。各成分についてgn,j→gjg_{n,j}\to g_j、∣gn,j∣≤∣gj∣|g_{n,j}|\leq|g_j|である。有限次元のノルムの同値性により、定数C>0C>0を取って

∥gn(t)∥≤C∑j=1d∣gj(t)∣\|g_n(t)\|\leq C\sum_{j=1}^d|g_j(t)|

とすることができる。右辺は可積分である。単関数gng_nの積分は有限和なので、三角不等式から

∥∫Egn(t) dt∥≤∫E∥gn(t)∥ dt\left\|\int_Eg_n(t)\,dt\right\|\leq\int_E\|g_n(t)\|\,dt

である。§E9.7 定理 3.2により各成分の積分はggの積分へ収束し、右辺も∫E∥g(t)∥ dt\int_E\|g(t)\|\,dtへ収束する。ノルムの連続性から主張を得る。▨

補題 3.2.d∈N≥1d\in\NN、J⊆RJ\subseteq\Rを長さが正の有限閉区間とし、Rd\R^dにノルム∥⋅∥\|\cdot\|を固定する。c∈Rd\boldsymbol c\in\R^d、b>0b>0とすると、

X={y∈C(J;Rd):∥y(t)−c∥≤b がすべての t∈J で成り立つ}X=\{\boldsymbol y\in C(J;\R^d):\|\boldsymbol y(t)-\boldsymbol c\|\leq b\ \text{がすべての }t\in J\text{ で成り立つ}\}

は、一様距離d∞(y,z)=max⁡t∈J∥y(t)−z(t)∥d_\infty(\boldsymbol y,\boldsymbol z)=\max_{t\in J}\|\boldsymbol y(t)-\boldsymbol z(t)\|に関して空でない完備距離空間である。

証明.C(J;Rd)C(J;\R^d)の一様距離に関する Cauchy 列(yn)(\boldsymbol y_n)を取る。各t∈Jt\in Jで(yn(t))(\boldsymbol y_n(t))はRd\R^dの Cauchy 列なので、有限次元空間の完備性により極限y(t)\boldsymbol y(t)をもつ。ε>0\ep>0に対して、十分大きいn,kn,kではすべてのt∈Jt\in Jで∥yn(t)−yk(t)∥<ε\|\boldsymbol y_n(t)-\boldsymbol y_k(t)\|<\epとなる。k→∞k\to\inftyとして、同じnnとすべてのttについて∥yn(t)−y(t)∥≤ε\|\boldsymbol y_n(t)-\boldsymbol y(t)\|\leq\epを得る。従って収束は一様である。

t∈Jt\in Jを固定し、∥y−yn∥∞<ε/3\|\boldsymbol y-\boldsymbol y_n\|_\infty<\ep/3となるnnを取る。ssがttに十分近ければ、yn\boldsymbol y_nの連続性から∥yn(s)−yn(t)∥<ε/3\|\boldsymbol y_n(s)-\boldsymbol y_n(t)\|<\ep/3であり、三角不等式から∥y(s)−y(t)∥<ε\|\boldsymbol y(s)-\boldsymbol y(t)\|<\epとなる。従ってy\boldsymbol yは連続であり、C(J;Rd)C(J;\R^d)は完備である。

各yn\boldsymbol y_nがXXに属するならば、各点で極限を取って∥y(t)−c∥≤b\|\boldsymbol y(t)-\boldsymbol c\|\leq bを得る。従ってXXも完備である。定数関数y(t)=c\boldsymbol y(t)=\boldsymbol cはXXに属するので、XXは空でない。▨

定理 3.3 (Carathéodory 型の局所存在・一意性定理).d∈N≥1d\in\NNとし、Rd\R^dにノルム∥⋅∥\|\cdot\|を固定する。Ω⊆R×Rd\Omega\subseteq\R\times\R^dを開集合、f:Ω→Rdf:\Omega\to\R^dを写像、(t0,y0)∈Ω(t_0,\boldsymbol y_0)\in\Omegaとする。a,b>0a,b>0が存在し、閉矩形

R=J×B⊆Ω,J=[t0−a,t0+a],B={u:∥u−y0∥≤b}R=J\times B\subseteq\Omega,\qquad J=[t_0-a,t_0+a],\qquad B=\{\boldsymbol u:\|\boldsymbol u-\boldsymbol y_0\|\leq b\}

上でffが Carathéodory 条件を満たし、非負の支配関数m∈L1(J)m\in L^1(J)と、非負で可積分な Lipschitz 係数ℓ∈L1(J)\ell\in L^1(J)をもつと仮定する。

このとき、初期値問題y′=f(t,y)\boldsymbol y'=f(t,\boldsymbol y)、y(t0)=y0\boldsymbol y(t_0)=\boldsymbol y_0は絶対連続な局所解をもつ。同じ初期値をもつ任意の二つの絶対連続な局所解は、t0t_0を含む十分小さい共通の開区間上で一致する。従って絶対連続解の芽は一意である。

証明.§E10.2 補題 1.3 (1)を非負可積分関数m,ℓm,\ellに適用し、0<h≤a0<h\leq aを十分小さく取ると、

∫t0−ht0m(s) ds≤b,∫t0t0+hm(s) ds≤b,∫t0−ht0ℓ(s) ds<1,∫t0t0+hℓ(s) ds<1\begin{aligned} \int_{t_0-h}^{t_0}m(s)\,ds&\leq b,& \int_{t_0}^{t_0+h}m(s)\,ds&\leq b,\\ \int_{t_0-h}^{t_0}\ell(s)\,ds&<1,& \int_{t_0}^{t_0+h}\ell(s)\,ds&<1 \end{aligned}

となる。Ih=[t0−h,t0+h]I_h=[t_0-h,t_0+h]とし、

q=max⁡{∫t0−ht0ℓ(s) ds,∫t0t0+hℓ(s) ds}<1q=\max\left\{\int_{t_0-h}^{t_0}\ell(s)\,ds, \int_{t_0}^{t_0+h}\ell(s)\,ds\right\}<1

とおく。

補題 3.2により、

X={y∈C(Ih;Rd):∥y(t)−y0∥≤b がすべての t∈Ih で成り立つ}X=\{\boldsymbol y\in C(I_h;\R^d):\|\boldsymbol y(t)-\boldsymbol y_0\|\leq b\ \text{がすべての }t\in I_h\text{ で成り立つ}\}

は一様距離に関して空でない完備距離空間である。各y∈X\boldsymbol y\in Xについて、補題 2.3によりs↦f(s,y(s))s\mapsto f(s,\boldsymbol y(s))は可測かつ可積分である。従って Picard 作用素

(Ty)(t)=y0+∫t0tf(s,y(s)) ds(T\boldsymbol y)(t)=\boldsymbol y_0+\int_{t_0}^t f(s,\boldsymbol y(s))\,ds

が定まる。§E10.2 補題 1.3 (3)によりTyT\boldsymbol yはIhI_h上で絶対連続であり、特に連続である。

y∈X\boldsymbol y\in Xとt∈Iht\in I_hに対して、補題 3.1と支配関数の評価により

∥(Ty)(t)−y0∥≤∫min⁡{t,t0}max⁡{t,t0}∥f(s,y(s))∥ ds≤∫min⁡{t,t0}max⁡{t,t0}m(s) ds≤b\|(T\boldsymbol y)(t)-\boldsymbol y_0\| \leq\int_{\min\{t,t_0\}}^{\max\{t,t_0\}}\|f(s,\boldsymbol y(s))\|\,ds \leq\int_{\min\{t,t_0\}}^{\max\{t,t_0\}}m(s)\,ds \leq b

である。最後の不等式は、t≤t0t\leq t_0では左側の積分条件、t≥t0t\geq t_0では右側の積分条件による。従ってT(X)⊆XT(X)\subseteq Xである。

y,z∈X\boldsymbol y,\boldsymbol z\in Xを取る。共通零集合の外では、同じ時刻の状態対y(s),z(s)\boldsymbol y(s),\boldsymbol z(s)に Lipschitz 評価を適用することができる。従って

∥(Ty)(t)−(Tz)(t)∥≤∫min⁡{t,t0}max⁡{t,t0}ℓ(s)∥y(s)−z(s)∥ ds≤q∥y−z∥∞\begin{aligned} \|(T\boldsymbol y)(t)-(T\boldsymbol z)(t)\| &\leq\int_{\min\{t,t_0\}}^{\max\{t,t_0\}} \ell(s)\|\boldsymbol y(s)-\boldsymbol z(s)\|\,ds\\ &\leq q\|\boldsymbol y-\boldsymbol z\|_\infty \end{aligned}

となる。t∈Iht\in I_hについて最大値を取ると、∥Ty−Tz∥∞≤q∥y−z∥∞\|T\boldsymbol y-T\boldsymbol z\|_\infty\leq q\|\boldsymbol y-\boldsymbol z\|_\inftyを得る。q<1q<1なのでT:X→XT:X\to Xは縮小写像である。

「Banach の不動点定理」の§E2.7 定理 2.2により、TTはXXにただ一つの不動点y\boldsymbol yをもつ。補題 2.4により、y\boldsymbol yはIhI_h上の絶対連続解である。y\boldsymbol yを(t0−h,t0+h)(t_0-h,t_0+h)に制限すると絶対連続な局所解を得る。

同じ初期値をもつ二つの絶対連続な局所解u,v\boldsymbol u,\boldsymbol vを取る。両者は連続でありu(t0)=v(t0)=y0\boldsymbol u(t_0)=\boldsymbol v(t_0)=\boldsymbol y_0なので、0<η≤h0<\eta\leq hを十分小さく取ると、Iη=[t0−η,t0+η]I_\eta=[t_0-\eta,t_0+\eta]は両解の定義区間に含まれ、両解はIηI_\eta上でBBに値を取る。合成は可積分なので、補題 2.4により両解はIηI_\eta上の同じ Picard 作用素の不動点である。m,ℓm,\ellは非負なので、IηI_\eta上でも自己写像の評価と縮小比q<1q<1の評価が成り立つ。不動点の一意性から両解はIηI_\eta上で一致し、従って初期点における解の芽は一意である。▨

定理の証明で得たIhI_hとTTに対して、定数関数y(0)(t)=y0\boldsymbol y^{(0)}(t)=\boldsymbol y_0から始める Picard 反復

y(n+1)=Ty(n)(n∈N≥0)\boldsymbol y^{(n+1)}=T\boldsymbol y^{(n)}\qquad(n\in\N)

は、§E2.7 定理 2.2により解へ一様収束する。積分の支配mmは反復を閉球の中に保ち、Lipschitz 係数ℓ\ellは二つの曲線の距離を縮める。

4 連続なベクトル場の場合

系 4.1 (Picard–Lindelöf の定理).d∈N≥1d\in\NNとし、Rd\R^dにノルム∥⋅∥\|\cdot\|を固定する。Ω⊆R×Rd\Omega\subseteq\R\times\R^dを開集合、f:Ω→Rdf:\Omega\to\R^dを連続写像、(t0,y0)∈Ω(t_0,\boldsymbol y_0)\in\Omegaとする。a,b>0a,b>0に対して

R=[t0−a,t0+a]×{u:∥u−y0∥≤b}⊆ΩR=[t_0-a,t_0+a]\times\{\boldsymbol u:\|\boldsymbol u-\boldsymbol y_0\|\leq b\} \subseteq\Omega

であり、あるL≥0L\geq0が存在して、すべての(t,u),(t,v)∈R(t,\boldsymbol u),(t,\boldsymbol v)\in Rに対して

∥f(t,u)−f(t,v)∥≤L∥u−v∥\|f(t,\boldsymbol u)-f(t,\boldsymbol v)\|\leq L\|\boldsymbol u-\boldsymbol v\|

が成り立つと仮定する。このとき、初期値問題y′=f(t,y)\boldsymbol y'=f(t,\boldsymbol y)、y(t0)=y0\boldsymbol y(t_0)=\boldsymbol y_0は一階連続微分可能な局所解をもつ。同じ初期値をもつ二つの局所解は、t0t_0を含む十分小さい共通の開区間上で一致し、解の芽は一意に定まる。

証明.RRはコンパクトでありffは連続なので、M=max⁡(t,u)∈R∥f(t,u)∥M=\max_{(t,\boldsymbol u)\in R}\|f(t,\boldsymbol u)\|は有限である。m(t)=Mm(t)=M、ℓ(t)=L\ell(t)=L、N=∅N=\varnothingとすると、f∣Rf|_Rは Carathéodory 条件と可積分な Lipschitz 係数の条件を満たす。定理 3.3の証明で0<h≤a0<h\leq aを

Mh≤b,Lh<1Mh\leq b,\qquad Lh<1

となるように取ると、Ih=[t0−h,t0+h]I_h=[t_0-h,t_0+h]上の曲線の閉球XXに Picard 作用素TTを適用することができ、絶対連続解を得る。その解は積分方程式を満たすので、補題 2.5により古典解である。古典解は絶対連続解でもあるから、同じ局所定理が古典解の芽の一意性を与える。▨

5 局所 Lipschitz 条件

定義 5.1.d∈N≥1d\in\NN、Ω⊆R×Rd\Omega\subseteq\R\times\R^dを開集合とし、Rd\R^dにノルムを固定する。f:Ω→Rdf:\Omega\to\R^dが状態変数について局所 Lipschitz 連続 (locally Lipschitz continuous in the state variable) であるとは、各(t0,y0)∈Ω(t_0,\boldsymbol y_0)\in\Omegaに対して、その点を含む近傍U⊆ΩU\subseteq\Omegaと定数LU≥0L_U\ge0が存在し、

∥f(t,u)−f(t,v)∥≤LU∥u−v∥\lVert f(t,\boldsymbol u)-f(t,\boldsymbol v)\rVert \le L_U\lVert\boldsymbol u-\boldsymbol v\rVert

が、(t,u),(t,v)∈U(t,\boldsymbol u),(t,\boldsymbol v)\in Uを満たす点について成り立つことをいう。

ffが連続であり、状態変数について局所 Lipschitz 連続ならば、各初期点の周囲に定理の閉管状領域を十分小さく取ることができる。とくに、ffが状態変数について連続的に偏微分可能ならば、閉管状領域上の状態変数に関する微分が有界になるため、平均値の評価から Lipschitz 条件が従う。

6 不連続な係数と一意性の限界

例 6.1.Ω=R2\Omega=\R^2とし、

a(t)={1,t<0,2,t≥0a(t)=\begin{cases}1,&t<0,\\2,&t\geq0\end{cases}

によって定まる初期値問題y′=a(t)yy'=a(t)y、y(0)=1y(0)=1を考える。矩形R=[−1,1]×[0,2]R=[-1,1]\times[0,2]上では、f(t,u)=a(t)uf(t,u)=a(t)uは時間について可測、状態について全時刻で連続であり、

∣f(t,u)∣≤4,∣f(t,u)−f(t,v)∣≤2∣u−v∣|f(t,u)|\leq4,\qquad |f(t,u)-f(t,v)|\leq2|u-v|

が成り立つ。従って支配関数m=4m=4、Lipschitz 係数ℓ=2\ell=2、共通零集合N=∅N=\varnothingを取ることができる。初期値を中心とする球の半径はb=1b=1であり、h=1/4h=1/4とすると、左右それぞれの積分は

∫−h0m(t) dt=∫0hm(t) dt=1≤b,∫−h0ℓ(t) dt=∫0hℓ(t) dt=12<1\int_{-h}^0m(t)\,dt=\int_0^hm(t)\,dt=1\leq b, \qquad \int_{-h}^0\ell(t)\,dt=\int_0^h\ell(t)\,dt=\frac12<1

となる。定理 3.3により、絶対連続な局所解が存在し、その芽は一意である。

実際、全実数上で

y(t)={et,t≤0,e2t,t≥0y(t)=\begin{cases}e^t,&t\leq0,\\e^{2t},&t\geq0\end{cases}

とおくと、g(t)=a(t)y(t)g(t)=a(t)y(t)は局所有界な可測関数である。t≤0t\leq0では∫0tg(s) ds=et−1\int_0^tg(s)\,ds=e^t-1、t≥0t\geq0では∫0tg(s) ds=e2t−1\int_0^tg(s)\,ds=e^{2t}-1なので、すべてのttでy(t)=1+∫0tg(s) dsy(t)=1+\int_0^tg(s)\,dsとなる。補題 2.4によりyyは絶対連続解である。一方、原点での左微分係数は11、右微分係数は22なので、yyは原点で微分可能でない。

この初期値問題には、原点を含む開区間上の古典解は存在しない。古典解が存在すれば、それは絶対連続解でもあるため、局所一意性から原点の近傍で表示したyyと一致する。しかし古典解は原点で微分可能であり、左右の微分係数が異なるyyとは一致することができない。

例 6.2 (Lipschitz 条件を満たさない初期値問題). 実数値初期値問題

y′=∣y∣,y(0)=0y'=\sqrt{|y|},\qquad y(0)=0

を考える。零関数y≡0y\equiv0は全実数上の解である。また、各c≥0c\ge0に対して

yc(t)={0,t≤c,(t−c)24,t≥c(t∈R)y_c(t)= \begin{cases} 0,&t\le c,\\[1mm] \dfrac{(t-c)^2}{4},&t\ge c \end{cases} \qquad(t\in\R)

と定める。ycy_cは全実数上の一階連続微分可能な解であり、yc(0)=0y_c(0)=0を満たす。零解とycy_cはt>ct>cで異なるから、この初期値問題の解は一意でない。また、右辺∣y∣\sqrt{|y|}はy=0y=0の近くで Lipschitz 連続でない。解であることと非 Lipschitz 性の検算は演習とする(問題 8.3)。特にc=0c=0と零解は、原点を含むどの開区間上でも一致しないので、解の芽も一意でない。

この例は、Picard–Lindelöf の定理の仮定を満たさない方程式で一意性が失われ得ることを示す。ただし、 Lipschitz 条件は一意性の十分条件であり、すべての一意な初期値問題がこの条件を満たすという必要条件ではない。

7 局所定理が残す問題

局所存在・一意性定理は、初期時刻の近くにおける解を与える。解を延長する議論では、解のグラフ上の各点から新たな局所解を得るため、ベクトル場に Carathéodory 条件と可積分な Lipschitz 係数の条件を局所的に仮定する。連続なベクトル場に対しては、状態変数についての局所 Lipschitz 連続性が対応する仮定である。局所解を貼り合わせた最大解の構成と、延長不能性を定義域内のコンパクト集合からの離脱として特徴づける定理は、後続で扱う。

8 演習

問題 8.1 (具体的な矩形による Picard の適用). 初期値問題

y′=t+y2,y(0)=0y'=t+y^2,\qquad y(0)=0

を考える。Ω=R2\Omega=\R^2とし、初期点の周囲の矩形としてR=[−1,1]2R=[-1,1]^2を取る。この矩形上でM=L=2M=L=2を取ることができることを示せ。さらに、h=1/4h=1/4として、Picard 作用素を適用する関数空間が完備であり、Picard 作用素が自己写像かつ縮小写像であることを確認せよ。この議論が解を保証する区間を明記し、その区間と最大存在区間との関係を述べよ。

解答.

f(t,y)=t+y2f(t,y)=t+y^2と置く。(t,y)∈[−1,1]2(t,y)\in[-1,1]^2ならば

∣f(t,y)∣=∣t+y2∣≤∣t∣+∣y∣2≤2|f(t,y)|=|t+y^2|\le |t|+|y|^2\le2

であり、f(1,1)=2f(1,1)=2であるから、M=2M=2である。また、t∈[−1,1]t\in[-1,1]およびu,v∈[−1,1]u,v\in[-1,1]に対して

∣f(t,u)−f(t,v)∣=∣u2−v2∣=∣u+v∣∣u−v∣≤2∣u−v∣|f(t,u)-f(t,v)|=|u^2-v^2|=|u+v||u-v|\le2|u-v|

であるから、L=2L=2を取ることができる。h=1/4h=1/4とすれば

Mh=12≤1,Lh=12<1Mh=\frac12\le1,\qquad Lh=\frac12<1

となる。

I=[−1/4,1/4]I=[-1/4,1/4]と置き、一様ノルムを備えたC(I,R)C(I,\R)の部分集合

X={y∈C(I,R):∣y(t)∣≤1 for every t∈I}X=\{y\in C(I,\R): |y(t)|\le1\ \text{for every }t\in I\}

を考える。C(I,R)C(I,\R)は Banach 空間であり、一様収束するXX内の関数列の極限も各点で絶対値が11以下であるから、XXはC(I,R)C(I,\R)の閉集合である。したがってXXは完備である。また、零関数がXXに属するから、XXは空でない。

XX上の Picard 作用素を

(Ty)(t)=∫0t(s+y(s)2) ds(Ty)(t)=\int_0^t\bigl(s+y(s)^2\bigr)\,ds

と定める。y∈Xy\in Xとt∈It\in Iに対して

∣(Ty)(t)∣≤M∣t∣≤Mh=12≤1|(Ty)(t)|\le M|t|\le Mh=\frac12\le1

であるから、T(X)⊆XT(X)\subseteq Xである。さらに、y,z∈Xy,z\in Xに対して

∥Ty−Tz∥∞≤Lh∥y−z∥∞=12∥y−z∥∞\lVert Ty-Tz\rVert_\infty \le Lh\lVert y-z\rVert_\infty =\frac12\lVert y-z\rVert_\infty

であるから、TTは縮小写像である。Banach の不動点定理と補題 2.5により、初期値問題はI=[−1/4,1/4]I=[-1/4,1/4]上の解をもつ。その解を(−1/4,1/4)(-1/4,1/4)に制限すれば局所解を得る。ここで得た閉区間は、この矩形と定数の選択から解の存在を保証する区間にすぎない。最大存在区間は局所解を延長して別に定める対象であり、この評価だけからは決まらない。▨

問題 8.2 (Picard 作用素の二つの評価).系 4.1の証明で用いた記号を用いる。条件

Mh≤b,Lh<1Mh\le b,\qquad Lh<1

が、それぞれ Picard 作用素のどの性質を保証するかを述べ、対応する評価を再現せよ。さらに、二つの評価だけでは不動点の存在を結論することができず、XXの完備性が必要である理由を述べよ。

解答.

y∈X\boldsymbol y\in Xに対して

∥(Ty)(t)−y0∥≤M∣t−t0∣≤Mh≤b\lVert(T\boldsymbol y)(t)-\boldsymbol y_0\rVert \le M|t-t_0| \le Mh \le b

である。したがってMh≤bMh\le bはT(X)⊆XT(X)\subseteq X、すなわちTTが自己写像であることを保証する。一方、y,z∈X\boldsymbol y,\boldsymbol z\in Xに対して

∥Ty−Tz∥∞≤Lh∥y−z∥∞\lVert T\boldsymbol y-T\boldsymbol z\rVert_\infty \le Lh\lVert\boldsymbol y-\boldsymbol z\rVert_\infty

である。したがってLh<1Lh<1はTTが縮小写像であることを保証する。

縮小写像の反復列が Cauchy 列になっても、空間が完備でなければ極限がXXに属するとは限らない。C(Ih,Rd)C(I_h,\R^d)が Banach 空間であり、XXがその閉部分集合であることからXXは完備である。この完備性と二つの評価を合わせて初めて、Banach の不動点定理をT:X→XT:X\to Xへ適用することができる。▨

問題 8.3 (Lipschitz 条件を外した場合の反例). 初期値問題

y′=∣y∣,y(0)=0y'=\sqrt{|y|},\qquad y(0)=0

について、零関数y≡0y\equiv0と、c≥0c\ge0に対する関数

yc(t)={0,t≤c,(t−c)2/4,t≥cy_c(t)= \begin{cases} 0,&t\le c,\\[1mm] (t-c)^2/4,&t\ge c \end{cases}

が一階連続微分可能な解であることを確認せよ。この解族から、系 4.1のどの仮定を外したときにどの結論が失われ得るかを述べよ。

解答.

y≡0y\equiv0は一階連続微分可能であり、y′=0=∣y∣y'=0=\sqrt{|y|}とy(0)=0y(0)=0を満たす。

t<ct<cではyc′=0=∣yc∣y_c'=0=\sqrt{|y_c|}であり、t>ct>cでは

yc′(t)=t−c2=(t−c)24=∣yc(t)∣y_c'(t)=\frac{t-c}{2} =\sqrt{\frac{(t-c)^2}{4}} =\sqrt{|y_c(t)|}

である。t=ct=cでは左右の導関数がともに零であるため、ycy_cは一階連続微分可能であり、微分方程式を全実数上で満たす。c≥0c\ge0ならばyc(0)=0y_c(0)=0でもある。t>ct>cではyc(t)>0y_c(t)>0であるから、ycy_cは零解と異なる。

右辺はy=0y=0の近くで状態変数について Lipschitz 連続ではない。実際、

∣y−0∣∣y−0∣=1y\frac{|\sqrt y-\sqrt0|}{|y-0|}=\frac1{\sqrt y}

はy↓0y\downarrow0で非有界である。したがって、状態変数に関する局所 Lipschitz 条件を外すと、同じ初期値に対する一意性が失われ得る。ただし、この例は Lipschitz 条件が一意性の必要条件であることを意味しない。▨

参考文献

  1. Philip Hartman, Ordinary Differential Equations, 2nd ed., Classics in Applied Mathematics, Society for Industrial and Applied Mathematics, Philadelphia, 2002.局所存在一意性定理と Picard 逐次近似を参考にした。
  2. Gerald Teschl, Ordinary Differential Equations and Dynamical Systems, American Mathematical Society, Providence, Rhode Island, 2012.ベクトル値初期値問題、積分方程式、局所一意性の定式化を参考にした。

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