1 実数の完備性
定理 1.1 (実数の完備性). 実数列{an}について、次の二条件を考える。
- {an}は収束する。
- {an}はコーシー列である。
(1)⇔(2)が成り立つ。
証明.(1)⇒(2)を示す。an→Lとする。ε>0に対しn≥Nで∣an−L∣<2εととれば、m,n≥Nで∣am−an∣≤∣am−L∣+∣L−an∣<ε。ゆえにコーシー列。
(2)⇒(1)を示す。{an}をコーシー列とする。ε=1に対するNをとるとn≥Nで∣an−aN∣<1、ゆえに∣an∣≤∣aN∣+1。有限個とあわせ{an}は有界。§D1.8 定理 2.2 (ボルツァーノ・ワイエルシュトラス)より、収束する部分列ank→Lがある。ε>0を与える。コーシー性よりm,n≥N1で∣am−an∣<2ε。またank→Lより、nk≥N1かつ∣ank−L∣<2εとなるkがとれる。するとn≥N1で
∣an−L∣≤∣an−ank∣+∣ank−L∣<2ε+2ε=ε.
ゆえにan→L。▨
この「コーシー列であることと収束することの同値」を、実数の完備性といいます。逆向きの証明では、上限公理から導かれる Bolzano–Weierstrass の定理を用いています。
例 1.2 (有理数内で収束しない有理コーシー列).n≥1に対して
qn=10n⌊10n2⌋∈Qと定める。このとき
0≤2−qn<10−nであるから、qn→2が実数の範囲で成り立つ。とくに、2⋅10−N<εとなるNを取れば、m,n≥Nに対して
∣qm−qn∣≤∣qm−2∣+∣2−qn∣<2⋅10−N<εであり、{qn}は有理数の範囲でもコーシー列である。もし有理数qへ収束するならば、実数列としてqと2の二つの極限をもつため、§D1.5 命題 2.1よりq=2となる。しかし§A3.7 定理 2.1より2∈/Qである。したがって、{qn}は有理数の範囲に極限をもたない。
2 差が速く縮む列はコーシー
実際にコーシー性を確かめるとき、隣り合う項の差の減り方から判定できると便利です。
命題 2.1. ある定数C≥0と0≤r<1で∣an+1−an∣≤Crn(すべてのn)が成り立つならば、{an}はコーシー列であり、したがって収束する。
証明.m>nに対し三角不等式と等比級数の評価で
≤1−rCrnn→∞0.よって任意のε>0に対し1−rCrN<εとなるNをとれば、m,n≥Nで∣am−an∣<ε。完備性より収束する。▨
この命題は、縮小写像の反復(バナッハの不動点定理、位相空間論 I/関数解析)の収束証明に用いられます。
例 2.2. 一方、隣接差が0に収束することだけではコーシー性は従わない。an=∑k=1nk1(調和級数の部分和)は∣an+1−an∣=n+11→0であるが、∣a2n−an∣=∑k=n+12nk1≥n⋅2n1=21であるから、ε=21でコーシー性が破れ、発散する(調和級数は無限大へ発散する)。命題 2.1が仮定する幾何級数による上界はコーシー性を保証するが、隣接差の収束だけでは保証しない。
3 完備性の役割
完備性により、極限値を事前に特定せず、項間の距離だけから収束を保証することができます。この性質は、級数の収束判定、逐次近似、関数列の収束で用いられます。また、距離空間の完備性(位相空間論 I)と関数解析のバナッハ空間へ一般化されます。