§D1.10コーシー列と実数の完備性

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コーシー列は、極限値をあらかじめ指定せず、十分後方の二項が互いに任意に近くなることを表す数列です。

定義 1 (コーシー列). 実数列{an}\{a_n\}がコーシー列 (Cauchy sequence) であるとは

∀ε>0, ∃N, ∀m,n≥N, ∣am−an∣<ε.\forall \varepsilon > 0,\ \exists N,\ \forall m, n \ge N,\ |a_m - a_n| < \varepsilon.

収束の定義は各項と極限値LLの距離を用いるのに対し、コーシー性は二項間の距離だけで記述されます。

例 2 (1/n1/nはコーシー列).an=1na_n = \dfrac1nはコーシー列である。実際m,n≥Nm, n \ge Nなら∣1m−1n∣≤1m+1n≤2N\left|\dfrac1m - \dfrac1n\right| \le \dfrac1m + \dfrac1n \le \dfrac2Nなので、ε>0\varepsilon > 0に対しN>2εN > \dfrac2\varepsilonととれば∣am−an∣<ε|a_m - a_n| < \varepsilonとなる。極限値00をどこにも使っていないところが要点であり、項どうしの差だけで判定できている。

1 実数の完備性

定理 1.1 (実数の完備性). 実数列{an}\{a_n\}について、次の二条件を考える。

  1. {an}\{a_n\}は収束する。
  2. {an}\{a_n\}はコーシー列である。

(1)⇔\Leftrightarrow(2)が成り立つ。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。an→La_n \to Lとする。ε>0\varepsilon > 0に対しn≥Nn \ge Nで∣an−L∣<ε2|a_n - L| < \frac\varepsilon2ととれば、m,n≥Nm, n \ge Nで∣am−an∣≤∣am−L∣+∣L−an∣<ε|a_m - a_n| \le |a_m - L| + |L - a_n| < \varepsilon。ゆえにコーシー列。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。{an}\{a_n\}をコーシー列とする。ε=1\varepsilon = 1に対するNNをとるとn≥Nn \ge Nで∣an−aN∣<1|a_n - a_N| < 1、ゆえに∣an∣≤∣aN∣+1|a_n| \le |a_N| + 1。有限個とあわせ{an}\{a_n\}は有界。§D1.8 定理 2.2 (ボルツァーノ・ワイエルシュトラス)より、収束する部分列ank→La_{n_k} \to Lがある。ε>0\varepsilon > 0を与える。コーシー性よりm,n≥N1m, n \ge N_1で∣am−an∣<ε2|a_m - a_n| < \frac\varepsilon2。またank→La_{n_k} \to Lより、nk≥N1n_k \ge N_1かつ∣ank−L∣<ε2|a_{n_k} - L| < \frac\varepsilon2となるkkがとれる。するとn≥N1n \ge N_1で

∣an−L∣≤∣an−ank∣+∣ank−L∣<ε2+ε2=ε.|a_n - L| \le |a_n - a_{n_k}| + |a_{n_k} - L| < \tfrac\varepsilon2 + \tfrac\varepsilon2 = \varepsilon.

ゆえにan→La_n \to L。▨

この「コーシー列であることと収束することの同値」を、実数の完備性といいます。逆向きの証明では、上限公理から導かれる Bolzano–Weierstrass の定理を用いています。

例 1.2 (有理数内で収束しない有理コーシー列).n≥1n\ge1に対して

qn=⌊10n2⌋10n∈Qq_n=\frac{\lfloor 10^n\sqrt2\rfloor}{10^n}\in\Q

と定める。このとき

0≤2−qn<10−n0\le\sqrt2-q_n<10^{-n}

であるから、qn→2q_n\to\sqrt2が実数の範囲で成り立つ。とくに、2⋅10−N<ε2\cdot10^{-N}<\varepsilonとなるNNを取れば、m,n≥Nm,n\ge Nに対して

∣qm−qn∣≤∣qm−2∣+∣2−qn∣<2⋅10−N<ε|q_m-q_n|\le|q_m-\sqrt2|+|\sqrt2-q_n|<2\cdot10^{-N}<\varepsilon

であり、{qn}\{q_n\}は有理数の範囲でもコーシー列である。もし有理数qqへ収束するならば、実数列としてqqと2\sqrt2の二つの極限をもつため、§D1.5 命題 2.1よりq=2q=\sqrt2となる。しかし§A3.7 定理 2.1より2∉Q\sqrt2\notin\Qである。したがって、{qn}\{q_n\}は有理数の範囲に極限をもたない。

2 差が速く縮む列はコーシー

実際にコーシー性を確かめるとき、隣り合う項の差の減り方から判定できると便利です。

命題 2.1. ある定数C≥0C \ge 0と0≤r<10 \le r < 1で∣an+1−an∣≤Crn|a_{n+1} - a_n| \le C r^n(すべてのnn)が成り立つならば、{an}\{a_n\}はコーシー列であり、したがって収束する。

証明.m>nm > nに対し三角不等式と等比級数の評価で

≤C rn1−r→n→∞0.\le \frac{C\,r^n}{1 - r} \xrightarrow[n \to \infty]{} 0.

よって任意のε>0\varepsilon > 0に対しCrN1−r<ε\frac{C r^N}{1 - r} < \varepsilonとなるNNをとれば、m,n≥Nm, n \ge Nで∣am−an∣<ε|a_m - a_n| < \varepsilon。完備性より収束する。▨

この命題は、縮小写像の反復(バナッハの不動点定理、位相空間論 I/関数解析)の収束証明に用いられます。

例 2.2. 一方、隣接差が00に収束することだけではコーシー性は従わない。an=∑k=1n1ka_n = \sum_{k=1}^n \frac1k(調和級数の部分和)は∣an+1−an∣=1n+1→0|a_{n+1} - a_n| = \frac{1}{n+1} \to 0であるが、∣a2n−an∣=∑k=n+12n1k≥n⋅12n=12|a_{2n} - a_n| = \sum_{k=n+1}^{2n}\frac1k \ge n\cdot\frac1{2n} = \frac12であるから、ε=12\varepsilon = \frac12でコーシー性が破れ、発散する(調和級数は無限大へ発散する)。命題 2.1が仮定する幾何級数による上界はコーシー性を保証するが、隣接差の収束だけでは保証しない。

3 完備性の役割

完備性により、極限値を事前に特定せず、項間の距離だけから収束を保証することができます。この性質は、級数の収束判定、逐次近似、関数列の収束で用いられます。また、距離空間の完備性(位相空間論 I)と関数解析のバナッハ空間へ一般化されます。

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