1 コーシーの平均値定理
証明の道具として、平均値の定理を2つの関数に拡張したものを用意します。
定理 1.1 (コーシーの平均値定理).F,Gが[a,b]で連続、(a,b)で微分可能とする。このときあるc∈(a,b)で(F(b)−F(a))G′(c)=(G(b)−G(a))F′(c)。
証明.h(x)=(F(b)−F(a))G(x)−(G(b)−G(a))F(x)とおくとhは[a,b]で連続・(a,b)で微分可能で、h(a)=F(b)G(a)−G(b)F(a)=h(b)。§D1.14 定理 2.2 (ロル)よりあるcでh′(c)=0、これが主張の等式。▨
2 テイラーの定理
定理 2.1 (テイラー、ラグランジュ剰余).fがaとxを含む閉区間でf(n−1)まで連続、その開区間でf(n)が存在するとする。このときaとxの間のある点cで
Rn(x)=n!f(n)(c)(x−a)n.
証明.xを固定し、tの関数
F(t)=f(x)−∑k=0n−1k!f(k)(t)(x−t)k,G(t)=(x−t)n
を考える。F(x)=0、F(a)=Rn(x)、G(x)=0、G(a)=(x−a)n。Fを微分すると、和が望遠鏡状に打ち消し合って
F′(t)=−(n−1)!f(n)(t)(x−t)n−1
だけが残る(dtd[k!f(k)(t)(x−t)k]=k!f(k+1)(t)(x−t)k−(k−1)!f(k)(t)(x−t)k−1が隣接項で相殺)。またG′(t)=−n(x−t)n−1。コーシーの平均値定理(定理 1.1)を[a,x]上のF,Gに適用すると、あるcで
=−n(x−c)n−1−(n−1)!f(n)(c)(x−c)n−1=n!f(n)(c).左辺は(x−a)n−0Rn(x)−0=(x−a)nRn(x)。よってRn(x)=n!f(n)(c)(x−a)n。▨
n=1とすればこれは平均値の定理そのもの。テイラーの定理は「1点の傾き」ではなく「高次の導関数まで」使って近似し、その誤差を最高次の導関数で押さえます。
3 意味:誤差を上から抑えられる
剰余項の形が分かると、近似の誤差を具体的に評価できます。∣f(n)(c)∣を区間上でMで抑えれば∣Rn(x)∣≤n!M∣x−a∣n。これで、
- テイラー級数が本当に関数に収束するか(Rn→0か)を判定でき、
- sinx,exなどの値を、必要な精度で計算できる(数値計算の基礎)。
例 3.1 (exは級数に一致する).f(x)=exはf(n)(t)=etゆえ、a=0とすると0とxの間のcで∣Rn(x)∣=n!ec∣x∣n≤n!e∣x∣∣x∣n。固定したxに対しn!∣x∣n→0(階乗が指数より速く増える)だからRn(x)→0、すなわちex=∑k=0∞k!xkがすべてのxで成り立つ。とくにx=1でe=∑k=0∞k!1、n項で打ち切った誤差はn!e1<n!3以下である。
例 3.2 (滑らかでも級数に一致しない反例). 一方、f(x)={e−1/x20(x=0)(x=0)はR上で何回でも微分でき、しかもすべての階数でf(k)(0)=0(x→0でe−1/x2が任意の多項式より速く0に潰れるため)。したがって0を中心とするテイラー級数は恒等的に0で、x=0ではf(x)=0に一致しない。この関数ではRn(x)→0。「何回でも微分できる(C∞)」ことと「テイラー級数が関数に一致する(解析的)」ことは別物だ、という重要な区別を示す例である(複素解析では、正則関数は自動的に解析的になり、この落差が消える)。