§E5.14偏角の原理と Rouché の定理

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正則関数や有理型関数の零点と極は局所的に定まるが、閉曲線の内側にある零点と極の総数は大域的な情報である。対数微分f′/ff'/fは、零点と極の位数を符号付きの留数へ変換し、その総数を一つの曲線積分で表す。この計数は、境界上で小さい摂動を加えても変わらないという安定性ももつ。

数える対象は、回転数を重みとした零点と極である。正の向きをもつ単純閉曲線の場合には、回転数が内部で11、外部で00になるので、「曲線が囲む領域の中の個数」という読み方になる。本記事では、一般のサイクルに対する偏角の原理と Rouché の定理について解説する。

1 有理型関数と離散集合

定義 1.1.U⊆CU\subseteq\mathbb Cを開集合、P⊆UP\subseteq UをUUの中に集積点をもたない部分集合とし、ffがU∖PU\setminus Pの上で正則で、PPの各点がffの極または除去可能特異点であるとき、ffはUUの上で有理型 (meromorphic onUU) であるという。除去可能特異点は延長して取り除いたものとし、以下ではPPをffの極の全体とする。

ffがUUのどの連結成分の上でも恒等的に00でないと仮定する。ffの定義域はU∖PU\setminus Pであるから、この仮定は「UUのどの連結成分WWについても、ffはW∖PW\setminus Pの上で恒等的に00でない」と読む。

a∈U∖Pa\in U\setminus Pがffの零点であるとき、その位数(§E5.8 定義 1.1)をord⁡(f,a)\operatorname{ord}(f,a)と書き、aaが位数mmの極であるときord⁡(f,a)=−m\operatorname{ord}(f,a)=-mと定める。零点でも極でもない点ではord⁡(f,a)=0\operatorname{ord}(f,a)=0とする。ord⁡(f,a)\operatorname{ord}(f,a)をaaにおけるffの位数 (order) という。

極や零点を除いた領域へ一致の定理を適用するには、離散集合を取り除いた後も領域であることが必要になる。次の補題が、その位相的な入力を与える。

補題 1.2.W⊆CW\subseteq\mathbb Cを領域、P⊆WP\subseteq WをWWの中に集積点をもたない部分集合とする。このときW∖PW\setminus Pは領域である。

証明.PPはWWの中に集積点をもたないから、PPの各点ppはPPの中で孤立している。WWは開集合であるから、各p∈Pp\in Pについて

D(p,rp)⊆W,D(p,rp)∩P={p}D(p,r_{p})\subseteq W,\qquad D(p,r_{p})\cap P=\{p\}

を満たすrp>0r_{p}>0を取ることができる。またPPがWWの中に集積点をもたないことからPPはWWの中で閉であり、W∖PW\setminus Pは開集合である。W∖PW\setminus Pは空でない。実際、WWは空でない開集合であるから開円板D(b,s)⊆WD(b,s)\subseteq Wを含み、D(b,s)⊆PD(b,s)\subseteq PであるとするとbbはPPの集積点となって仮定に反する。

まず、p∈Pp\in Pについて穿孔円板D(p,rp)∖{p}D(p,r_{p})\setminus\{p\}が連結であることを確かめる。z,wz,wをこの穿孔円板の二点とする。線分[z,w][z,w]は開円板の凸性によりD(p,rp)D(p,r_{p})に含まれる。p∉[z,w]p\notin[z,w]ならば、この一本の線分がzzとwwを穿孔円板の中で結ぶ折れ線である。p∈[z,w]p\in[z,w]の場合、z,w,pz,w,pは一直線上にありz≠pz\ne p、w≠pw\ne pである。D(p,rp)D(p,r_{p})の点qqでこの直線の上にないものを取ると、線分[z,q][z,q]と[q,w][q,w]はD(p,rp)D(p,r_{p})に含まれ、どちらもppを含まない。実際、p∈[z,q]p\in[z,q]とするとppはzzとqqを通る直線の上にあり、z≠pz\ne pであるからその直線はzzとppを通る直線、すなわちz,w,pz,w,pを通る直線と一致し、qqがその上にないことに反する。[q,w][q,w]についても同様である。ゆえに§E5.1 命題 1.4によりD(p,rp)∖{p}D(p,r_{p})\setminus\{p\}は連結である。

W∖P=A∪BW\setminus P=A\cup B、A∩B=∅A\cap B=\varnothing、AAとBBはともに開集合、と分解されたと仮定する。各p∈Pp\in PについてD(p,rp)∖{p}⊆W∖PD(p,r_{p})\setminus\{p\}\subseteq W\setminus Pであり、(D(p,rp)∖{p})∩A\bigl(D(p,r_{p})\setminus\{p\}\bigr)\cap Aと(D(p,rp)∖{p})∩B\bigl(D(p,r_{p})\setminus\{p\}\bigr)\cap Bはこの穿孔円板の開集合による分解であるから、いま示した連結性により一方は空である。すなわちD(p,rp)∖{p}D(p,r_{p})\setminus\{p\}はAAかBBのどちらか一方に含まれる。そこで

A′=A∪{p∈P:D(p,rp)∖{p}⊆A},B′=B∪{p∈P:D(p,rp)∖{p}⊆B}A'=A\cup\{p\in P : D(p,r_{p})\setminus\{p\}\subseteq A\},\qquad B'=B\cup\{p\in P : D(p,r_{p})\setminus\{p\}\subseteq B\}

とおく。A′∪B′=WA'\cup B'=WかつA′∩B′=∅A'\cap B'=\varnothingである。A′A'は開集合である。実際、AAの点はAAが開集合であることにより内点であり、付け加えたppについてはD(p,rp)∖{p}⊆AD(p,r_{p})\setminus\{p\}\subseteq Aかつp∈A′p\in A'よりD(p,rp)⊆A′D(p,r_{p})\subseteq A'である。B′B'も同様に開集合である。WWは連結であるからA′A'とB′B'の一方は空であり、A⊆A′A\subseteq A'、B⊆B′B\subseteq B'よりAAとBBの一方は空である。ゆえにW∖PW\setminus Pは連結であり、空でない開集合であるから領域である。▨

2 対数微分

命題 2.1.定義 1.1の設定のもとで、ZZをffの零点の全体とすると、Z∪PZ\cup PはUUの中に集積点をもたない。f′/ff'/fはU∖(Z∪P)U\setminus(Z\cup P)の上で正則であり、a∈Z∪Pa\in Z\cup Pはf′/ff'/fの孤立特異点であって

Res⁡(f′f,a)=ord⁡(f,a)\operatorname{Res}\left(\frac{f'}{f},a\right)=\operatorname{ord}(f,a)

が成り立つ。

証明.Z∪PZ\cup Pの集積点はZZの集積点かPPの集積点であり、PPがUUの中に集積点をもたないことは仮定である。したがって、ZZがUUの中に集積点をもたないことを示せばよい。

p∈Up\in UがZZの集積点であるとする。ppを含むUUの連結成分をWWとすると、§E5.5 補題 5.1によりWWは領域である。ppに収束するZZの点列を取ると、WWが開集合であることからその項はある番号以降WWに属する。

p∉Pp\notin Pである。実際、ppが位数mmの極であるとすると、§E5.11 命題 3.3をM=1M=1について用いて、0<∣z−p∣<δ0<|z-p|<\deltaならば∣f(z)∣>1|f(z)|>1となるδ>0\delta>0を取ることができる。するとppの穿孔近傍にffの零点はなく、ppはZZの集積点ではない。

P∩WP\cap WはWWの中に集積点をもたないから、補題 1.2によりW∖PW\setminus Pは領域である。p∈W∖Pp\in W\setminus Pであり、ppに収束するZZの点列の項は、ある番号以降WWに属し、Z⊆U∖PZ\subseteq U\setminus PよりPPに属さないからW∖PW\setminus Pに属する。ゆえにZ∩(W∖P)Z\cap(W\setminus P)はW∖PW\setminus Pに属する集積点ppをもち、§E5.8 定理 3.1を領域W∖PW\setminus Pの上のffと定数関数00へ適用すると、ffはW∖PW\setminus Pの全体で恒等的に00である。WWはUUの連結成分であるから、ffの恒等的な消滅は定義 1.1の仮定に反する。

ffはU∖PU\setminus Pの上で正則であるから、§E5.6 定理 4.1によりffはU∖PU\setminus Pの上で何回でも複素微分可能であり、とくにf′f'もU∖PU\setminus Pの上で正則である。U∖(Z∪P)U\setminus(Z\cup P)の上ではf≠0f\ne0であるから、§E5.2 命題 1.2の商の規則によりf′/ff'/fはそこで正則である。aaが位数mmの零点であるとき、§E5.8 命題 1.2により、あるr>0r>0についてD(a,r)D(a,r)の上でf(z)=(z−a)mg(z)f(z)=(z-a)^{m}g(z)、ggは正則、g(a)≠0g(a)\ne0である。ggは連続であるからrrを小さく取り直してD(a,r)D(a,r)の上でg≠0g\ne0としてよい。g′g'は§E5.6 定理 4.1によりD(a,r)D(a,r)の上で正則であるから、§E5.2 命題 1.2によりg′/gg'/gもD(a,r)D(a,r)の上で正則である。0<∣z−a∣<r0<|z-a|<rで

f′(z)f(z)=m(z−a)m−1g(z)+(z−a)mg′(z)(z−a)mg(z)=mz−a+g′(z)g(z)=q(z)z−a\frac{f'(z)}{f(z)}=\frac{m(z-a)^{m-1}g(z)+(z-a)^{m}g'(z)}{(z-a)^{m}g(z)} =\frac{m}{z-a}+\frac{g'(z)}{g(z)}=\frac{q(z)}{z-a}

である。ここでq(z)=m+(z−a)g′(z)/g(z)q(z)=m+(z-a)g'(z)/g(z)とおいた。qqはD(a,r)D(a,r)の上で正則でq(a)=m≠0q(a)=m\ne0であるから、§E5.11 命題 3.4によりaaはf′/ff'/fの位数11の極であり、その−1-1次の係数はq(a)=mq(a)=mである。

aaが位数mmの極であるとき、§E5.11 命題 3.3により、あるr>0r>0についてD(a,r)D(a,r)の上で正則なhhが存在してh(a)≠0h(a)\ne0、0<∣z−a∣<r0<|z-a|<rでf(z)=h(z)/(z−a)mf(z)=h(z)/(z-a)^{m}である。上と同様にrrを小さく取り直してD(a,r)D(a,r)の上でh≠0h\ne0とすると

f′(z)f(z)=−mz−a+h′(z)h(z)=q~(z)z−a,q~(z)=−m+(z−a)h′(z)h(z)\frac{f'(z)}{f(z)}=\frac{-m}{z-a}+\frac{h'(z)}{h(z)}=\frac{\tilde q(z)}{z-a}, \qquad \tilde q(z)=-m+(z-a)\frac{h'(z)}{h(z)}

であり、q~(a)=−m≠0\tilde q(a)=-m\ne0であるから、同じく§E5.11 命題 3.4により−1-1次の係数は−m-mである。▨

3 偏角の原理

定理 3.1 (偏角の原理).定義 1.1の設定のもとで、Γ\Gammaを∣Γ∣⊆U∖(Z∪P)|\Gamma|\subseteq U\setminus(Z\cup P)を満たしUUの内部で零ホモローグなサイクルとする。このときn(Γ,a)≠0n(\Gamma,a)\ne0を満たすa∈Z∪Pa\in Z\cup Pは有限個であり、

12πi∫Γf′(z)f(z) dz=∑a∈Zn(Γ,a)ord⁡(f,a)−∑a∈Pn(Γ,a)∣ord⁡(f,a)∣\frac{1}{2\pi i}\int_{\Gamma}\frac{f'(z)}{f(z)}\,dz =\sum_{a\in Z}n(\Gamma,a)\operatorname{ord}(f,a)-\sum_{a\in P}n(\Gamma,a)\bigl|\operatorname{ord}(f,a)\bigr|

が成り立つ。すなわち、右辺は零点を位数込みで、極を位数込みで符号を変えて、いずれも回転数を重みとして数えたものである。

とくにΓ\Gammaが正の向きをもつ単純閉曲線であって、その回転数が内部で11、外部で00である場合、右辺は「内部の零点の個数から極の個数を引いたもの」(いずれも位数込み)に等しい。

証明.命題 2.1によりZ∪PZ\cup PはUUの中に集積点をもたず、f′/ff'/fはU∖(Z∪P)U\setminus(Z\cup P)の上で正則である。§E5.12 定理 2.2をUU、A=Z∪PA=Z\cup P、f′/ff'/f、Γ\Gammaへ適用すると、n(Γ,a)≠0n(\Gamma,a)\ne0を満たすaaは有限個であり

∫Γf′f dz=2πi∑a∈Z∪Pn(Γ,a)Res⁡(f′f,a)\int_{\Gamma}\frac{f'}{f}\,dz=2\pi i\sum_{a\in Z\cup P}n(\Gamma,a)\operatorname{Res}\left(\frac{f'}{f},a\right)

である。同命題により留数はord⁡(f,a)\operatorname{ord}(f,a)に等しく、零点では正、極では負であるから、主張の右辺の形に整理される。▨

留数定理には、長方形の境界に限った場合を取り出した系(§E5.12 系 2.3)がある。偏角の原理についても、同じ形の系を置く。

系 3.2.RRを辺が座標軸に平行な閉長方形、C=∂RC=\partial Rをその正の向きの境界とする。UUをRRを含む開集合、ffを定義 1.1の意味でUUの上の有理型関数とし、ZZとPPをそれぞれ零点と極の全体とする。∣C∣∩(Z∪P)=∅|C|\cap(Z\cup P)=\varnothingならば、RRの内部にあるffの零点と極は有限個であり、

12πi∮Cf′(z)f(z) dz=N−M\frac{1}{2\pi i}\oint_{C}\frac{f'(z)}{f(z)}\,dz=N-M

が成り立つ。ここでNNはRRの内部にある零点を位数込みで数えた個数、MMはRRの内部にある極を位数込みで数えた個数である。

証明.p∉Up\notin Uならばp∉Rp\notin Rであるから、§E5.5 命題 5.6によりn(C,p)=0n(C,p)=0であり、CCはUUの内部で零ホモローグである。仮定により∣C∣⊆U∖(Z∪P)|C|\subseteq U\setminus(Z\cup P)である。同命題により、RRの内部の点についての回転数は11、RRに属さない点についての回転数は00である。∣C∣|C|の上にZ∪PZ\cup Pの点はないので、RRに属するZ∪PZ\cup Pの点はすべてRRの内部にある。したがって定理 3.1の和は、RRの内部にある零点と極についての和になる。RRの内部にある零点と極が有限個であることも同定理による。▨

Rouché の定理についても同様の系が成り立つ。

系 3.3.RRを辺が座標軸に平行な閉長方形、C=∂RC=\partial Rをその正の向きの境界とし、ffとggをRRを含む領域DDの上の正則関数とする。∣C∣|C|の上で∣g(z)∣<∣f(z)∣|g(z)|<|f(z)|が成り立つならば、ffとf+gf+gはRRの内部に、位数込みで同じ個数の零点をもつ。

証明.系 3.2の証明と同じ理由によりCCはDDの内部で零ホモローグであり、RRの内部の点についての回転数は11、RRに属さない点についての回転数は00である。∣C∣|C|の上では∣f∣>∣g∣≥0|f|>|g|\ge0よりf≠0f\ne0であり、∣f+g∣≥∣f∣−∣g∣>0|f+g|\ge|f|-|g|>0よりf+g≠0f+g\ne0であるから、RRに属するffとf+gf+gの零点はすべてRRの内部にある。∣C∣|C|は閉長方形の境界であるから空でなく、定理 4.1の仮定∣Γ∣≠∅|\Gamma|\ne\varnothingが満たされる。ゆえに同定理をΓ=C\Gamma=Cへ適用すると、両辺の和はそれぞれRRの内部にある零点を位数込みで数えた個数になる。▨

注意 3.4 (偏角の変化としての読み方).Γ\Gammaが一本の閉曲線γ:[α,β]→U\gamma:[\alpha,\beta]\to Uである場合、合成f∘γf\circ\gammaはC∖{0}\mathbb C\setminus\{0\}の中の閉曲線であり、§E5.4 補題 4.1により

12πi∮γf′(z)f(z) dz=12πi∫αβ(f∘γ)′(t)(f∘γ)(t) dt=n(f∘γ,0)\frac{1}{2\pi i}\oint_{\gamma}\frac{f'(z)}{f(z)}\,dz =\frac{1}{2\pi i}\int_{\alpha}^{\beta}\frac{(f\circ\gamma)'(t)}{(f\circ\gamma)(t)}\,dt =n(f\circ\gamma,0)

である。すなわち左辺は、zzがγ\gammaを一周するときにf(z)f(z)が原点のまわりを回る回数である。§E5.5 系 5.3により、この回数はf(z)f(z)の連続な偏角の総変化を2π2\piで割ったものに等しい。偏角の原理という名はここから来ている。

4 Rouché の定理

定理 4.1 (Rouché の定理).DDを領域、ffとggをDDの上の正則関数とし、Γ\Gammaを∣Γ∣⊆D|\Gamma|\subseteq Dを満たしDDの内部で零ホモローグなサイクルとする。∣Γ∣≠∅|\Gamma|\ne\varnothingを仮定する。∣Γ∣|\Gamma|の上で

∣g(z)∣<∣f(z)∣|g(z)|<|f(z)|

が成り立つならば、ffとf+gf+gはどちらもDDの上で恒等的に00ではなく、

∑an(Γ,a)ord⁡(f,a)=∑an(Γ,a)ord⁡(f+g,a)\sum_{a}n(\Gamma,a)\operatorname{ord}(f,a)=\sum_{a}n(\Gamma,a)\operatorname{ord}(f+g,a)

が成り立つ。和はそれぞれの零点にわたり、n(Γ,a)≠0n(\Gamma,a)\ne0を満たす有限個の項だけが残る。

証明.t∈[0,1]t\in[0,1]に対してft=f+t gf_{t}=f+t\,gとおく。∣Γ∣|\Gamma|の上で

∣ft(z)∣≥∣f(z)∣−t∣g(z)∣≥∣f(z)∣−∣g(z)∣>0|f_{t}(z)|\ge|f(z)|-t|g(z)|\ge|f(z)|-|g(z)|>0

であるから、ftf_{t}は∣Γ∣|\Gamma|の上で00をとらない。∣Γ∣≠∅|\Gamma|\ne\varnothingであるからft(z∗)≠0f_{t}(z_{*})\ne0を満たすz∗∈∣Γ∣⊆Dz_{*}\in|\Gamma|\subseteq Dが存在し、DDは連結であるから、ftf_{t}はDDの上で恒等的に00ではない。ここでも仮定∣Γ∣≠∅|\Gamma|\ne\varnothingを用いた。ftf_{t}は極をもたない正則関数であるから、定理 3.1をU=DU=D、P=∅P=\varnothingとして適用することができ、

N(t)=12πi∫Γft′(z)ft(z) dzN(t)=\frac{1}{2\pi i}\int_{\Gamma}\frac{f_{t}'(z)}{f_{t}(z)}\,dz

は整数である。

NNが[0,1][0,1]の上で連続であることを示す。∣Γ∣|\Gamma|はコンパクトである。実際、Γ\Gammaを構成する各閉曲線γ:[α,β]→C\gamma:[\alpha,\beta]\to\mathbb Cについて、[α,β][\alpha,\beta]はR\mathbb Rの有界閉集合であるから§E2.9 定理 4.3(n=1n=1)によりコンパクトであり、§E2.19 定理 4.2によりγ([α,β])\gamma([\alpha,\beta])はコンパクト、§E2.9 系 4.1により各像γ([α,β])\gamma([\alpha,\beta])は有界かつ閉である。∣Γ∣|\Gamma|はそのような集合の有限個の和であるから有界かつ閉であり、C\mathbb Cを Euclid 距離(§E2.1 定義 3.2)を入れたR2\mathbb R^{2}と同一視すると、ふたたび§E2.9 定理 4.3(n=2n=2)によりコンパクトである。

m0=min⁡z∈∣Γ∣(∣f(z)∣−∣g(z)∣)>0m_{0}=\min_{z\in|\Gamma|}\bigl(|f(z)|-|g(z)|\bigr)>0とおく。この最小値が存在するのは、∣f∣−∣g∣|f|-|g|が∣Γ∣|\Gamma|の上で連続であり、∣Γ∣|\Gamma|が空でないコンパクト集合であることによる(§E5.9 命題 1.1を−(∣f∣−∣g∣)-(|f|-|g|)へ適用する。同命題は空でないことを要求するので、仮定∣Γ∣≠∅|\Gamma|\ne\varnothingをここで用いる)。∣Γ∣|\Gamma|の上で∣ft∣≥m0|f_{t}|\ge m_{0}である。またffとggはDDの上で正則であるから、§E5.6 定理 4.1によりf′f'とg′g'もDDの上で正則であり、とくに連続である。ゆえに、ふたたび∣Γ∣|\Gamma|が空でないコンパクト集合であることから、§E5.9 命題 1.1により∣f∣,∣f′∣,∣g∣,∣g′∣|f|,|f'|,|g|,|g'|は∣Γ∣|\Gamma|の上で最大値をもつ。その最大値をすべて超える値をM0M_{0}とする。s,t∈[0,1]s,t\in[0,1]について、∣Γ∣|\Gamma|の上で

∣ft′ft−fs′fs∣=∣ft′fs−fs′ftftfs∣=∣(t−s) (g′f−f′g)∣∣ft∣∣fs∣≤2M02m02 ∣t−s∣\left|\frac{f_{t}'}{f_{t}}-\frac{f_{s}'}{f_{s}}\right| =\left|\frac{f_{t}'f_{s}-f_{s}'f_{t}}{f_{t}f_{s}}\right| =\frac{|(t-s)\,(g'f-f'g)|}{|f_{t}||f_{s}|}\le\frac{2M_{0}^{2}}{m_{0}^{2}}\,|t-s|

である。ここでft′fs−fs′ft=(t−s)(g′f−f′g)f_{t}'f_{s}-f_{s}'f_{t}=(t-s)(g'f-f'g)を用いた。ML 不等式(§E5.4 命題 3.2)により∣N(t)−N(s)∣≤C∣t−s∣|N(t)-N(s)|\le C|t-s|となる定数CCを取ることができるので、NNは連続である。

整数値をとる連続関数は定数である。実際、t1<t2t_{1}<t_{2}かつN(t1)≠N(t2)N(t_{1})\ne N(t_{2})を満たすt1,t2∈[0,1]t_{1},t_{2}\in[0,1]があるとすると、N(t1)N(t_{1})とN(t2)N(t_{2})の間に整数でない実数ccを取ることができる。N(t1)<c<N(t2)N(t_{1})<c<N(t_{2})の場合はN−cN-cへ、N(t2)<c<N(t1)N(t_{2})<c<N(t_{1})の場合はc−Nc-Nへ、§D1.12 定理 1.1を区間[t1,t2][t_{1},t_{2}]で適用すると、どちらの場合も同定理の仮定「左端で負、右端で正」が満たされ、N(t3)=cN(t_{3})=cを満たすt3∈(t1,t2)t_{3}\in(t_{1},t_{2})が存在する。N(t3)N(t_{3})が整数でないことは、NNが整数値をとることに反する。ゆえにN(0)=N(1)N(0)=N(1)であり、定理 3.1により、N(0)=N(1)N(0)=N(1)は主張の等式に一致する。▨

注意 4.2 (Rouché の定理では空のサイクルを除く).定理 3.1は∣Γ∣=∅|\Gamma|=\varnothingでも成り立つのに、定理 4.1は∣Γ∣≠∅|\Gamma|\ne\varnothingを仮定する。この違いは、二つの定理で仮定が担う役割が異なることから生じる。

偏角の原理は§E5.12 定理 2.2をf′/ff'/fへ適用したものである。∣Γ∣=∅|\Gamma|=\varnothingとなるのは§E5.4 定義 3.1でm=0m=0とした場合であり、このとき同定義の∫Γ\int_{\Gamma}は空和で00、§E5.5 定義 1.1の回転数もどの点についても空和で00である。ゆえにΓ\GammaはUUの内部で零ホモローグであり、定理 3.1の左辺も右辺もともに00で、等式は自明に成り立つ。空でないことを使う箇所はない。

Rouché の定理では事情が異なる。∣Γ∣=∅|\Gamma|=\varnothingのとき、仮定「∣Γ∣|\Gamma|の上で∣g∣<∣f∣|g|<|f|」は条件を課す点が一つもないので空虚に成り立つ。ところがf=g=0f=g=0はこの空虚な仮定を満たし、ffがDDの上で恒等的に00であるから、第一の結論「ffとf+gf+gはどちらもDDの上で恒等的に00ではない」が実際に偽になる。したがって、第一の結論の失敗は縮退した場合の読み方の問題ではなく、仮定を足さなければ主張そのものが偽になることを示す。証明では、サイクルの台が空でないことを二箇所で用いる。ftf_{t}がDDの上で恒等的に00でないことを∣Γ∣|\Gamma|の上の一点から導く段と、m0=min⁡∣Γ∣(∣f∣−∣g∣)m_{0}=\min_{|\Gamma|}(|f|-|g|)の存在が§E5.9 命題 1.1の「空でない」という要求に触れる段である。∣Γ∣≠∅|\Gamma|\ne\varnothingを仮定すると、主張と証明の両方が同時に閉じる。

空のサイクルでは結論の両辺が空和で00になるので、この仮定によって適用範囲が実質的に狭まることはない。

系 4.3 (代数学の基本定理).n≥1n\ge1とし、p(z)=zn+an−1zn−1+⋯+a0p(z)=z^{n}+a_{n-1}z^{n-1}+\cdots+a_{0}を複素係数の多項式とする。このときppはC\mathbb Cの中に、重複度を込めてちょうどnn個の根をもつ。とくにppは根をもつ。

同じ結論は、最高次の係数が11とは限らない一般の複素係数の多項式q(z)=bnzn+⋯+b0q(z)=b_{n}z^{n}+\cdots+b_{0}(bn≠0b_{n}\ne0)についても成り立つ。

証明.f(z)=znf(z)=z^{n}、g(z)=an−1zn−1+⋯+a0g(z)=a_{n-1}z^{n-1}+\cdots+a_{0}とおく。R>max⁡(1,∑k=0n−1∣ak∣)R>\max\bigl(1,\sum_{k=0}^{n-1}|a_{k}|\bigr)を取ると、∣z∣=R|z|=Rのとき

∣g(z)∣≤∑k=0n−1∣ak∣ Rk≤Rn−1∑k=0n−1∣ak∣<Rn=∣f(z)∣|g(z)|\le\sum_{k=0}^{n-1}|a_{k}|\,R^{k}\le R^{n-1}\sum_{k=0}^{n-1}|a_{k}|<R^{n}=|f(z)|

である。ここでR>1R>1よりRk≤Rn−1R^{k}\le R^{n-1}(k≤n−1k\le n-1)を用いた。

Γ\Gammaを円周∣z∣=R|z|=Rの反時計回りの閉曲線とする。D=CD=\mathbb Cは領域であり、C\mathbb Cに属さない点は存在しないからΓ\GammaはC\mathbb Cの内部で零ホモローグである。∣Γ∣|\Gamma|は半径R>0R>0の円周であるから空でない。ゆえに定理 4.1により

∑an(Γ,a)ord⁡(zn,a)=∑an(Γ,a)ord⁡(p,a)\sum_{a}n(\Gamma,a)\operatorname{ord}(z^{n},a)=\sum_{a}n(\Gamma,a)\operatorname{ord}(p,a)

である。左辺について、znz^{n}の零点は00だけで位数はnnであり、§E5.5 命題 5.6によりn(Γ,0)=1n(\Gamma,0)=1であるから、左辺はnnである。右辺について、∣a∣<R|a|<Rを満たすppの零点ではn(Γ,a)=1n(\Gamma,a)=1、∣a∣>R|a|>Rを満たす零点ではn(Γ,a)=0n(\Gamma,a)=0であり、∣a∣=R|a|=Rではp(a)≠0p(a)\ne0である。ゆえに右辺は、∣a∣<R|a|<Rを満たすppの零点を位数込みで数えた個数である。したがってその個数はnnであり、n≥1n\ge1であるから根が存在する。

∣z∣≥R|z|\ge Rには根がないことを確かめる。∣z∣≥R|z|\ge Rのとき上と同じ評価により∣g(z)∣<∣z∣n|g(z)|<|z|^{n}であるからp(z)=zn+g(z)≠0p(z)=z^{n}+g(z)\ne0である。ゆえにppの根はすべて∣z∣<R|z|<Rにあり、重複度を込めてちょうどnn個である。

一般の場合を示す。q(z)=bnzn+⋯+b0q(z)=b_{n}z^{n}+\cdots+b_{0}、bn≠0b_{n}\ne0とすると、p=q/bnp=q/b_{n}は最高次の係数が11の多項式である。bn≠0b_{n}\ne0であるからq(z)=0q(z)=0とp(z)=0p(z)=0は同値であり、q=bnpq=b_{n}pより両者の零点の位数(§E5.8 定義 1.1)も一致する。ゆえにqqも重複度を込めてちょうどnn個の根をもつ。▨

注意 4.4 (二つの証明の関係). 代数学の基本定理には、本記事の系 4.3と、Liouville の定理を経由する§E5.9 系 4.2の二つの証明がある。前者は根の個数を重複度込みでちょうどnn個と数え、後者は根の存在だけを主張する。二つは別の定理として扱い、統合しない。

例 4.5 (根の所在を絞り込む).p(z)=z5−4z+1p(z)=z^{5}-4z+1の根のうち、∣z∣<1|z|<1にあるものの個数を数える。f(z)=−4zf(z)=-4z、g(z)=z5+1g(z)=z^{5}+1とおくと、∣z∣=1|z|=1の上で

∣f(z)∣=4,∣g(z)∣≤∣z∣5+1=2<4|f(z)|=4,\qquad |g(z)|\le|z|^{5}+1=2<4

である。Γ\Gammaを単位円周の反時計回りの閉曲線とし、D=CD=\mathbb Cとして定理 4.1を適用する。Γ\GammaはC\mathbb Cの内部で零ホモローグであり、∣Γ∣|\Gamma|は単位円周であるから空でない。ゆえにp=f+gp=f+gとffは同じ重みつきの零点数をもつ。ffの零点は00だけで位数11、n(Γ,0)=1n(\Gamma,0)=1であるから、ppは∣z∣<1|z|<1に位数込みでちょうど11個の根をもつ。

次に∣z∣=2|z|=2の上でf(z)=z5f(z)=z^{5}、g(z)=−4z+1g(z)=-4z+1とおくと∣f(z)∣=32|f(z)|=32、∣g(z)∣≤9<32|g(z)|\le9<32であるから、同じ議論によりppは∣z∣<2|z|<2に位数込みで55個の根をもつ。系 4.3により根は全部で55個であるから、残りの44個は1≤∣z∣<21\le|z|<2にある。

5 演習

問題 5.1.

  • 命題 2.1の証明で、零点の集積点が極になりえないことを§E5.11 命題 3.3から導いた。この段が必要な理由を述べる。
  • 定理 3.1は回転数を重みとする。正の向きをもつ単純閉曲線の場合に「内部の個数」という読み方になるのは、回転数がどのような値をとるからかを述べる。
  • 定理 4.1の証明で、NNが整数値をとることと連続であることを別々に示した。どちらか一方だけでは定数であることが従わない理由を述べる。
  • 定理 4.1の仮定∣g∣<∣f∣|g|<|f|を∣g∣≤∣f∣|g|\le|f|へ弱めると結論が成り立たないことを、f(z)=zf(z)=z、g(z)=−zg(z)=-z、単位円周について確かめる。
  • 注意 4.2のf=g=0f=g=0という例について、∣Γ∣=∅|\Gamma|=\varnothingのとき定理 4.1の仮定が満たされることと、第一の結論が偽になることを確かめる。定理 3.1では同じことが起こらない理由を述べる。
  • 系 4.3の証明で、∣z∣≥R|z|\ge Rに根がないことを別に確かめた理由を述べる。この段がないと「ちょうどnn個」を結論することができないことを説明する。

参考文献

  1. Lars V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., AMS Chelsea Publishing 385, American Mathematical Society, Providence, R.I., 2021, originally published 1979.回転数を重みとする偏角の原理と Rouché の定理を参考にした。
  2. Walter Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw Hill, 1987.偏角の原理から Rouché の定理を導く議論を参考にした。
  3. John B. Conway, Functions of One Complex Variable I, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1978.零点と極の個数を積分で数える方法を参考にした。

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