1 場と三つの微分演算
定義 1.1.Ω⊂R3を開集合とする。写像
f:Ω⟶RをΩ上の スカラー場 (scalar field) といい、写像
F:Ω⟶R3をΩ上の ベクトル場 (vector field) という。ベクトル場の三成分をF=(P,Q,R)と書く。
定義 1.2.Ω⊂R3を開集合とする。
f∈C1(Ω)に対して、fの 勾配 (gradient) を
gradf=∇f=(∂xf,∂yf,∂zf)∈C0(Ω;R3)と定める。
F=(P,Q,R)∈C1(Ω;R3)に対して、Fの 発散 (divergence) を
divF=∂xP+∂yQ+∂zR∈C0(Ω)と定め、Fの 回転 (curl) を
curlF=(∂yR−∂zQ,∂zP−∂xR,∂xQ−∂yP)∈C0(Ω;R3)と定める。
例 1.4 (三つの演算の成分計算).
f(x,y,z)=x2y+yz,F(x,y,z)=(xy,yz,zx)とする。このとき
∇f=(2xy,x2+z,y)であり、
divF=∂x(xy)+∂y(yz)+∂z(zx)=x+y+zである。また、
curlF=(∂y(zx)−∂z(yz),∂z(xy)−∂x(zx),∂x(yz)−∂y(xy))=(−y,−z,−x)を得る。
2 二階の合成と基本恒等式
定理 2.1.Ω⊂R3を開集合とする。次が成り立つ。
- f∈C2(Ω)ならば、
curl(gradf)=0
である。
- F∈C2(Ω;R3)ならば、
div(curlF)=0
である。
証明.f∈C2(Ω)とする。勾配の三成分を回転の定義へ代入すると、
curl(gradf)=(∂y∂zf−∂z∂yf,∂z∂xf−∂x∂zf,∂x∂yf−∂y∂xf)となる。fはC2級であるから、混合偏導関数の対称性§E4.4 定理 2.1により、各成分の二項は等しい。従ってcurl(gradf)=0である。
F=(P,Q,R)∈C2(Ω;R3)とする。回転の三成分を発散の定義へ代入すると、
div(curlF)==∂x(∂yR−∂zQ)+∂y(∂zP−∂xR)+∂z(∂xQ−∂yP)(∂x∂yR−∂y∂xR)+(∂z∂xQ−∂x∂zQ)+(∂y∂zP−∂z∂yP).P,Q,RはいずれもC2級である。従って§E4.4 定理 2.1により、右辺の三つの括弧はそれぞれ零である。ゆえにdiv(curlF)=0である。▨
例 2.3 (二つの恒等式の直接確認).f(x,y,z)=ex+y+zとすると、
gradf=(ex+y+z,ex+y+z,ex+y+z)であり、回転の各成分は同じ二項の差になるため零である。
F(x,y,z)=(0,0,xy)とすると、
curlF=(x,−y,0)であり、
div(curlF)=∂xx+∂y(−y)+∂z0=1−1=0となる。
3 演習
問題 3.1 (定義から恒等式を確かめる).
f(x,y,z)=x2y+yz,F(x,y,z)=(0,0,xy)とする。次を求めよ。
- curl(gradf)。
- div(curlF)。
解答.
まず
gradf=(2xy,x2+z,y)であるから、
curl(gradf)=(∂yy−∂z(x2+z),∂z(2xy)−∂xy,∂x(x2+z)−∂y(2xy))=(1−1,0−0,2x−2x)=(0,0,0)となる。
また、
curlF=(x,−y,0)であるから、
div(curlF)=∂xx+∂y(−y)+∂z0=1−1=0となる。▨
問題 3.2 (型と正則性を区別する).f∈C2(Ω)およびF∈C2(Ω;R3)とする。
- 次のうち、定義 1.2で定義した演算の合成として型が合うものを全て選べ。
curl(gradf),div(gradf),grad(divF),curl(curlF),gradF,divf.
- 型が合う二階の合成が全て恒等的に零になるわけではないことを、f(x,y,z)=x2+y2+z2とF(x,y,z)=(0,x2,0)を用いて示せ。
解答.
勾配はスカラー場をベクトル場へ写し、発散はベクトル場をスカラー場へ写し、回転はベクトル場をベクトル場へ写す。従って型が合うものは
curl(gradf),div(gradf),grad(divF),curl(curlF)である。ここで定義した三つの演算には、ベクトル場を入力する勾配と、スカラー場を入力する発散はないため、gradFとdivfは型が合わない。最初の場がC2級なので、型が合う四つの合成に必要な二階偏導関数は連続である。
f(x,y,z)=x2+y2+z2に対して
div(gradf)=∂x(2x)+∂y(2y)+∂z(2z)=6である。また、F(x,y,z)=(0,x2,0)に対して
curlF=(0,0,2x),curl(curlF)=(0,−2,0)である。従って、型が合う二階の合成のうち、定理 2.1が述べる二つだけが、ここで扱った交代的な相殺によって恒等的に零になる。▨