1 閉円板・閉扇形と向き
補題 1.2.ΔとTθは、§E4.22 定義 1.2の区分的に一階連続微分可能な正則領域である。正の向きは、Δでは単位円を反時計回りに進む向きであり、TθではR0を原点から円周へ進み、Aθを偏角の増加方向へ進み、Rθを原点へ戻る向きである。
証明.Δの内部は有界連結開集合Δであり、境界は正則単純閉曲線
t⟼(cost,sint)(0≤t≤2π)の像である。補集合は連結かつ非有界であり、各境界点では円周が十分小さい円板を内側と外側へ分ける。反時計回りに進むと内側が左にあるので、正則領域の全条件を満たす。
Tθの内部は
Ωθ={(ρcosφ,ρsinφ):0<ρ<1, 0<φ<θ}であり、有界連結開集合で、その閉包はTθである。境界はR0,Aθ,Rθの有限な和である。各弧の微分は零でなく、三弧は端点以外では交わらないため、指定した順で一つの区分的C1級正則単純閉曲線をなす。
補集合の点は、偏角を[0,θ]の外に保ったまま半径を増やすか、単位円の外側から無限遠へ進むことによって相互に結ぶことができる。したがって補集合には有界成分がない。半径辺と円弧辺の相対内部では境界の局所的な片側性が明らかである。原点では二本の半径辺が小円板を開きθと2π−θの二領域へ分け、円周上の二角点でも半径辺と円弧辺が小円板を内外の二領域へ分ける。0<θ<2πであるため、いずれの領域も空でない。指定した向きでは各弧の左側がΩθである。ゆえにTθも正則領域である。▨
補題 1.4.Sを向きnをもつC1級正則曲面とし、
c:Tθ⟶Sを境界チャートの閉扇形への制限とする。角の二等分線に関する反射
Jθ(ρcosφ,ρsinφ)=(ρcos(θ−φ),ρsin(θ−φ))を用いると、cとc∘Jθの一方はnと整合する。反射はTθ∗とAθを保ち、R0とRθを交換する。
証明. 連続関数
n(c(u,v))⋅(cu×cv)(u,v)は連結集合Tθ上で零にならないので、符号は一定である。符号が正ならcが整合する。符号が負なら、Jθの行列式が−1であることと外積の変換式から
(c∘Jθ)u×(c∘Jθ)v=−(cu×cv)∘Jθを得る。したがってc∘Jθが整合する。各辺に関する主張は極座標表示から従う。▨
2 一つのパッチにおける局所公式
補題 2.1.D⊂R2を§E4.22 定義 1.2の正則領域とする。Dを含む開集合V上のC2級写像
r:V⟶R3がD上で単射かつ正則であるとする。S=r(D)にru×rvと整合する向きを与える。Sを含む開集合W上でF∈C1(W;R3)ならば
∮r(∂D)F⋅dr=∬D(curlF)(r(u,v))⋅(ru×rv)(u,v)dudv(1)が成り立つ。左辺にはDを左側に見る向きをrで写した向きを用いる。
証明. 必要ならVを縮小し、r(V)⊂Wとする。パラメータ平面上で
A=F(r)⋅ru,B=F(r)⋅rvとおく。FはC1級でrはC2級であるため、A,BはDの近傍でC1級である。境界曲線をc(t)=(u(t),v(t))とすれば、連鎖律により
F(r(c(t)))⋅dtdr(c(t))=A(c(t))u′(t)+B(c(t))v′(t).有限個の境界弧について加え、§E4.18 命題 3.2と§E4.22 定理 4.1を用いると
∮r(∂D)F⋅dr=∮∂DAdu+Bdv=∬D(∂uB−∂vA)dudv.(2)F=(P,Q,R)、r=(x,y,z)と書く。積の微分と連鎖律から
∂uB∂vA=(DF(r)ru)⋅rv+F(r)⋅rvu,=(DF(r)rv)⋅ru+F(r)⋅ruv.rはC2級なので混合偏導関数の対称性からruv=rvuであり、後半の二項は相殺する。残る差ではPxxuxv,Qyyuyv,Rzzuzvが相殺し、
∂uB−∂vA=(Ry−Qz)(yuzv−zuyv)+(Pz−Rx)(zuxv−xuzv)+(Qx−Py)(xuyv−yuxv).(3)§E4.17 定義 1.2の回転と外積の成分表示により、式 (3) は
(curlF)(r)⋅(ru×rv)である。式 (2) へ代入すると式 (1) を得る。▨
補題 2.3.Sを有限個の角点を許す境界をもつコンパクトなC2級正則曲面とし、向きnを与える。nと整合する境界チャート
c:Tθ⟶Sを取り、Bθ=R0∪Rθとおく。GをSの近傍で連続なベクトル場とし、
S∩suppG⋐c(Tθ∗)を仮定する。このとき
∫c(Bθ)G⋅dr=∮∂SG⋅dr(4)が成り立つ。左辺には∂Tθの正の向きを写した向き、右辺にはnから誘導される向きを用いる。
証明.§E4.21 命題 2.5により、各半径辺の正の向きは、その像である滑らかな境界弧の誘導向きと一致する。境界曲面の定義が与える大域的な区分的C2級表示と半径辺による局所表示は、同じ正則弧上で向きを保つC1級再パラメータ化によって結ばれる。したがって§E4.18 命題 3.2により、両表示による各部分弧の線積分は一致する。
角点と区分点は有限個であり、一点は線積分へ寄与しない。線積分の有限加法性を用いると、c(Bθ)上の積分は、その像に含まれる大域的な境界弧上の積分に等しい。台の仮定によりGは残りの境界上で零であるから、式 (4) を得る。▨
3 滑らかな境界に対する大域化
定理 3.1 (三次元 Stokes の定理).W⊂R3を開集合とし、S⊂Wを滑らかな境界をもつコンパクトなC2級正則曲面とする。∂S=∅も許す。Sに向きnを与え、F∈C1(W;R3)とする。このとき
∮∂SF⋅dr=∬S(curlF)⋅ndS(5)が成り立つ。境界には§E4.21 定義 2.4の誘導向きを与える。境界が空なら左辺を零と定める。
証明. 各内部点には閉円板Δを閉モデルとするC2級内部チャートを、各境界点には閉半円板Tπを閉モデルとするC2級境界チャートを選ぶ。反射を必要に応じて前合成し、全チャートをnと整合させる。境界チャートには補題 1.4を用いる。各チャートをcj:Kj→Sと書く。チャートの有効部分の像は相対開集合なので、R3の開集合Uj⊂Wを
S∩Uj⊂cj(Kj∗)(6)となるように選べる。Sのコンパクト性により、有限個のU1,…,UNがSを覆う。
§E4.19 定理 2.1をn=3、K=S、この有限開被覆へ適用する。非負なC1級関数θ1,…,θMと添字写像σで
suppθν⋐Uσ(ν),ν=1∑Mθν=1S のある近傍で(7)を満たすものを得る。Fν=θνFとおく。積の微分から
F=ν∑Fν,curlF=ν∑curlFν(8)がSの近傍で成り立つ。また
S∩supp(curlFν)⊂S∩suppθν⋐cσ(ν)(Kσ(ν)∗).(9)νを固定し、対応するチャートをc:K→Sと書く。§E4.21 命題 3.4と式 (9) により
∬S(curlFν)⋅ndS=∬K(curlFν)(c)⋅(cu×cv)dudv.(10)K=Δなら、補題 2.1によって式 (10) はc(∂Δ)上の線積分に等しい。この人工境界はc(K∗)の外にあり、式 (9) からFνはそこで零である。したがって式 (10) は零である。このチャートの像はS∖∂Sに含まれるので、∂S上のFνの積分も零である。
K=Tπなら、同じ局所公式によって式 (10) はc(∂Tπ)上の線積分に等しい。円弧辺Aπは人工境界であり、式 (9) からその寄与は零である。二本の半径辺について補題 2.3を適用すると
∬S(curlFν)⋅ndS=∮∂SFν⋅dr.(11)内部チャートについても両辺が零なので式 (11) が成り立つ。式 (11) を有限個のνについて加え、式 (8) と線積分・流束の線形性を用いると式 (5) を得る。▨
4 有限個の角点をもつ境界
定理 4.1.W⊂R3を開集合とし、S⊂Wを有限個の角点を許す境界をもつコンパクトなC2級正則曲面とする。角点間の境界弧と各角点の扇形チャートはC2級であるとする。Sに向きnを与え、F∈C1(W;R3)とする。このとき式 (5) が成り立つ。左辺は、有限個のC2級境界弧に沿う誘導向き付き線積分の和とする。
証明. 内部点には閉円板、滑らかな境界点にはTπ、角点にはTθ(0<θ<2π,θ=π)を閉モデルとするチャートを選ぶ。補題 1.4によって全チャートをnと整合させる。コンパクト性で有限被覆を取り、§E4.19 定理 2.1によって式 (7) を満たすFν=θνFへ分ける。
内部チャートと滑らかな境界チャートでは、前定理の局所化片の証明がそのまま適用される。角点チャートc:Tθ→Sに対応する局所化片では、§E4.21 命題 3.4、補題 1.2、および補題 2.1から
∬S(curlFν)⋅ndS=∮c(∂Tθ)Fν⋅dr(12)を得る。Fνの曲面上の台はc(Tθ∗)にコンパクトに含まれるので、円弧辺Aθの寄与は零である。二本の半径辺には補題 2.3を適用できる。したがって式 (12) の右辺は∂S上のFνの線積分に等しい。全局所化片について加えれば式 (5) を得る。▨
5 計算例
例 5.1 (放物面の上の Stokes の公式). 上向きに向きづけた放物面
S={(x,y,1−x2−y2):x2+y2≤1}とベクトル場
F(x,y,z)=(−2y,2x,0)を考える。r(x,y)=(x,y,1−x2−y2)とおけば
rx×ry=(2x,2y,1),curlF=(0,0,1).§E4.21 命題 3.2により
∬S(curlF)⋅ndS=∬x2+y2≤11dxdy=π.誘導境界向きは上から見て反時計回りである。γ(t)=(cost,sint,0)(0≤t≤2π)とすると
F(γ(t))⋅γ′(t)=21であるから
∮∂SF⋅dr=∫02π21dt=π.
例 5.2 (二つの部分曲面へ分けた放物面). 前の放物面に対しF(x,y,z)=(0,0,y)とする。curlF=(1,0,0)である。閉円板を
D+={(x,y):x2+y2≤1, x≥0},D−={(x,y):x2+y2≤1, x≤0}へ分け、S±=r(D±)とおく。各部分曲面上の流束は
∬D±2xdxdy={4/3,−4/3,+ の場合,− の場合である。
共有弧はx=0の像である。D+の正の境界向きではvが1から−1へ動き、
F(r(0,v))⋅dvdr(0,v)=−2v2なので寄与は4/3である。D−からの寄与は−4/3である。この符号関係の一般的な根拠は§E4.21 命題 4.1である。外側の半円ではz=0かつFは鉛直方向を向くので線積分は零である。したがって、二部分曲面の公式を加えると共有弧が消え、曲面全体の両辺はともに零になる。
6 一般化された Stokes の定理
7 演習
問題 7.1 (局所公式の六項と共有境界).r=(x,y,z)、F=(P,Q,R)とする。
- (DF(r)ru)⋅rv−(DF(r)rv)⋅ruを展開し、式 (3) を導け。
- 同じ向きをもつ二つの曲面片へ Stokes の公式を適用したとき、共有する滑らかな境界弧の寄与が相殺する根拠となる既出命題を示せ。
解答.
対角成分から生じるPxxuxv,Qyyuyv,Rzzuzvは差の中で相殺する。残る項を同じ外積成分ごとにまとめると
(Ry−Qz)(yuzv−zuyv)+(Pz−Rx)(zuxv−xuzv)+(Qx−Py)(xuyv−yuxv)となる。これはcurlFとru×rvの内積である。
共有境界弧の相殺には§E4.21 命題 4.1をそのまま適用する。▨
問題 7.2 (有限局所化による大域化).定理 3.1の証明で、Fν=θνFと置く理由を、次の三点に分けて説明せよ。
- FとcurlFを有限和へ戻す条件。
- 一つの局所化片を一つのチャートで計算できる理由。
- 人工境界上の線積分が消える理由。
解答.
∑νθν=1がSの近傍で成り立つため、F=∑νFνである。両辺を微分するか、積の微分で∑ν∇θν=0を用いると、curlF=∑νcurlFνも得る。
各suppθνは一つのUσ(ν)にコンパクトに含まれ、S∩Uσ(ν)は対応するチャートの有効部分に含まれる。したがってFνとcurlFνの曲面上の台は一つのチャートの有効部分にコンパクトに含まれ、局所流束公式を適用できる。
閉円板または閉扇形の円弧辺は有効部分の外にある。局所化片はその近傍で零であるため、人工境界に沿う線積分は零になる。境界チャートでは半径辺の像だけが曲面の真の境界として残る。▨