§E4.5多変数 Taylor の定理

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二変数関数のグラフを曲面として見ると、ある点の近くの高さは接平面によって一次近似することができる。しかし、同じ長さだけ動いても、方向によって曲面の曲がり方が異なれば、接平面からのずれも異なる。近くの関数値を二次まで近似するには、この方向依存の曲がり方と、残る誤差を同時に捉える必要がある。

一変数の Taylor 公式だけからは、多変数のすべての方向を一つの高階微分で表す方法や、誤差を変位ベクトルの大きさによって評価する方法は明らかでない。

多変数 Taylor の定理は、高階全微分を用いて有限次近似と誤差評価を一つの公式で与える。二次の項は Hessian の二次形式となり、曲面の方向ごとの曲がり方を一つの式で表す。この表示は、次に局所極値を調べるための基礎になる。

本記事では、高階全微分による有限次 Taylor 近似と、その二次の場合の幾何的な表示を扱う。

補題 1.α<β\alpha<\betaとし、u,v:[α,β]→Ru,v:[\alpha,\beta]\to\mathbb RをC1C^1級関数とする。このとき

∫αβu(t)v′(t) dt=[u(t)v(t)]t=αt=β−∫αβu′(t)v(t) dt\int_\alpha^\beta u(t)v'(t)\,dt =\bigl[u(t)v(t)\bigr]_{t=\alpha}^{t=\beta} -\int_\alpha^\beta u'(t)v(t)\,dt

が成り立つ。

証明. 積の微分法により(uv)′=u′v+uv′(uv)'=u'v+uv'である。各項は連続であるから、第二基本定理§D1.19 定理 2.1をuvuvへ適用して

u(β)v(β)−u(α)v(α)=∫αβu′(t)v(t) dt+∫αβu(t)v′(t) dtu(\beta)v(\beta)-u(\alpha)v(\alpha) =\int_\alpha^\beta u'(t)v(t)\,dt +\int_\alpha^\beta u(t)v'(t)\,dt

を得る。第一の積分を移項すれば主張が従う。▨

補題 2.r∈N≥0r\in\mathbb N_{\geq0}とし、I⊂RI\subset\mathbb Rを[0,1][0,1]を含む開区間、φ:I→R\varphi:I\to\mathbb RをCr+1C^{r+1}級関数とする。このとき

φ(1)=∑j=0rφ(j)(0)j!+1r!∫01(1−t)rφ(r+1)(t) dt(1)\varphi(1) =\sum_{j=0}^{r}\frac{\varphi^{(j)}(0)}{j!} +\frac{1}{r!}\int_0^1(1-t)^r\varphi^{(r+1)}(t)\,dt \tag{1}

が成り立つ。

証明.rrに関する帰納法で示す。r=0r=0の場合、第二基本定理§D1.19 定理 2.1により

φ(1)−φ(0)=∫01φ′(t) dt\varphi(1)-\varphi(0)=\int_0^1\varphi'(t)\,dt

であるから、式 (1) が成り立つ。

r≥1r\geq1とし、r−1r-1の場合に式 (1) が成り立つと仮定する。補題 1を

u(t)=(1−t)rr!,v′(t)=φ(r+1)(t)u(t)=\frac{(1-t)^r}{r!}, \qquad v'(t)=\varphi^{(r+1)}(t)

へ適用すると、v(t)=φ(r)(t)v(t)=\varphi^{(r)}(t)と取ることができ、

1r!∫01(1−t)rφ(r+1)(t) dt=−φ(r)(0)r!+1(r−1)!∫01(1−t)r−1φ(r)(t) dt(2)\frac{1}{r!}\int_0^1(1-t)^r\varphi^{(r+1)}(t)\,dt =-\frac{\varphi^{(r)}(0)}{r!} +\frac{1}{(r-1)!}\int_0^1(1-t)^{r-1}\varphi^{(r)}(t)\,dt \tag{2}

を得る。帰納法の仮定をφ\varphiとr−1r-1へ適用すると、式 (2) の右辺は

−φ(r)(0)r!+φ(1)−∑j=0r−1φ(j)(0)j!-\frac{\varphi^{(r)}(0)}{r!} +\varphi(1)-\sum_{j=0}^{r-1}\frac{\varphi^{(j)}(0)}{j!}

に等しい。項を移せばrrの場合の式 (1) を得る。▨

1 線分への制限

定理 1.1 (多変数 Taylor の定理).n∈N≥1n\in\mathbb N_{\geq1}、r∈N≥0r\in\mathbb N_{\geq0}とし、U⊂RnU\subset\mathbb R^nを開集合、f:U→Rf:U\to\mathbb RをCr+1C^{r+1}級関数とする。a∈Ua\in Uとh∈Rnh\in\mathbb R^nが

{a+th:0≤t≤1}⊂U(3)\{a+th:0\leq t\leq1\}\subset U \tag{3}

を満たすとき、

f(a+h)=∑j=0r1j!Djf(a)[h,…,h]+Rr(a,h),(4)f(a+h) =\sum_{j=0}^{r}\frac{1}{j!}D^jf(a)[h,\ldots,h] +R_r(a,h), \tag{4}

ただし

Rr(a,h)=1r!∫01(1−t)rDr+1f(a+th)[h,…,h] dt(5)R_r(a,h) =\frac{1}{r!}\int_0^1(1-t)^r D^{r+1}f(a+th)[h,\ldots,h]\,dt \tag{5}

が成り立つ。j=0j=0の項はD0f(a)=f(a)D^0f(a)=f(a)と読む。

証明. アフィン写像ℓ(t)=a+th\ell(t)=a+thと

I={t∈R:ℓ(t)∈U}I=\{t\in\mathbb R:\ell(t)\in U\}

を考える。UUは開集合でℓ\ellは連続であるからIIは開集合であり、式 (3) により[0,1]⊂I[0,1]\subset Iである。[0,1][0,1]は連結なので、IIの[0,1][0,1]を含む連結成分は[0,1][0,1]を含む開区間である。その区間上で

φ(t)=f(a+th)\varphi(t)=f(a+th)

とおく。

1≤j≤r+11\leq j\leq r+1に対して

φ(j)(t)=Djf(a+th)[h,…,h](6)\varphi^{(j)}(t) =D^jf(a+th)[h,\ldots,h] \tag{6}

を示す。D0f=fD^0f=fとし、j=0j=0の評価写像をR\mathbb R上の恒等写像とする。j≥1j\geq1では、固定したhhをjj個のスロットへ代入する評価写像は、多重線形写像の作用素ノルム§E4.4 定義 1.2が与える評価から連続線形である。j=0j=0ではφ=f∘ℓ\varphi=f\circ\ellである。0≤j≤r0\leq j\leq rとし、jj階まで式 (6) が成り立つと仮定する。DjfD^jfの全微分可能性と高階全微分のスロット規約§E4.4 定義 1.4により、s→0s\to0のとき

Djf(a+(t+s)h)[h,…,h]−Djf(a+th)[h,…,h]s⟶Dj+1f(a+th)[h,…,h].\begin{aligned} &\frac{D^jf(a+(t+s)h)[h,\ldots,h] -D^jf(a+th)[h,\ldots,h]}{s}\\ &\qquad\longrightarrow D^{j+1}f(a+th)[h,\ldots,h]. \end{aligned}

従って式 (6) はj+1j+1でも成り立つ。

補題 2をφ\varphiへ適用し、式 (6) を代入すると式 (4) と式 (5) を得る。▨

系 1.2.n∈N≥1n\in\mathbb N_{\geq1}、r∈N≥0r\in\mathbb N_{\geq0}とし、U⊂RnU\subset\mathbb R^nを開集合、f:U→Rf:U\to\mathbb RをCr+1C^{r+1}級関数とする。a∈Ua\in Uとh∈Rnh\in\mathbb R^nが

{a+th:0≤t≤1}⊂U\{a+th:0\leq t\leq1\}\subset U

を満たすとする。さらに、あるM≥0M\geq0が存在して

∥Dr+1f(a+th)∥op≤M(0≤t≤1)\lVert D^{r+1}f(a+th)\rVert_{\mathrm{op}}\leq M \qquad(0\leq t\leq1)

を満たすならば、定理 1.1の積分剰余について

∣Rr(a,h)∣≤M(r+1)!∥h∥r+1(7)|R_r(a,h)| \leq\frac{M}{(r+1)!}\lVert h\rVert^{r+1} \tag{7}

が成り立つ。

証明.§E4.4 定義 1.2の積評価を式 (5) へ適用すると

∣Rr(a,h)∣≤M∥h∥r+1r!∫01(1−t)r dt=M(r+1)!∥h∥r+1|R_r(a,h)| \leq\frac{M\lVert h\rVert^{r+1}}{r!} \int_0^1(1-t)^r\,dt =\frac{M}{(r+1)!}\lVert h\rVert^{r+1}

を得る。▨

2 Hessian による二次近似

系 2.1.n∈N≥1n\in\mathbb N_{\geq1}とし、U⊂RnU\subset\mathbb R^nを開集合、f:U→Rf:U\to\mathbb RをC2C^2級関数、a∈Ua\in Uとする。このときh→0h\to0かつa+h∈Ua+h\in Uのとき

f(a+h)=f(a)+⟨∇f(a),h⟩+12hTHf(a)h+o(∥h∥2)(8)f(a+h) =f(a)+\langle\nabla f(a),h\rangle +\frac12h^{\mathsf T}H_f(a)h +o(\lVert h\rVert^2) \tag{8}

が成り立つ。

証明.UUは開集合であるから、あるρ>0\rho>0が存在してB(a,ρ)⊂UB(a,\rho)\subset Uとなる。∥h∥<ρ\lVert h\rVert<\rhoならば、0≤t≤10\leq t\leq1に対してa+th∈B(a,ρ)a+th\in B(a,\rho)である。定理 1.1をr=1r=1として適用し、積分項からD2f(a)[h,h]D^2f(a)[h,h]を分離すると

f(a+h)=f(a)+Df(a)h+12D2f(a)[h,h]+∫01(1−t)(D2f(a+th)−D2f(a))[h,h] dt(9)\begin{aligned} f(a+h) ={}&f(a)+Df(a)h+\frac12D^2f(a)[h,h]\\ &+\int_0^1(1-t) \bigl(D^2f(a+th)-D^2f(a)\bigr)[h,h]\,dt \end{aligned} \tag{9}

を得る。最後の積分の絶対値は

12sup⁡0≤t≤1∥D2f(a+th)−D2f(a)∥op∥h∥2(10)\frac12\sup_{0\leq t\leq1} \lVert D^2f(a+th)-D^2f(a)\rVert_{\mathrm{op}} \lVert h\rVert^2 \tag{10}

以下である。D2fD^2fはaaで連続であり、∥a+th−a∥≤∥h∥\lVert a+th-a\rVert\leq\lVert h\rVertであるから、式 (10) の上限はh→0h\to0で零へ収束する。従って最後の積分はo(∥h∥2)o(\lVert h\rVert^2)である。

§E4.3 定理 3.2によりDf(a)h=⟨∇f(a),h⟩Df(a)h=\langle\nabla f(a),h\rangleである。また、Hessian の定義§E4.4 定義 3.3によりD2f(a)[h,h]=hTHf(a)hD^2f(a)[h,h]=h^{\mathsf T}H_f(a)hである。これらを式 (9) へ代入すると式 (8) が従う。▨

例 2.2 (三次多項式の積分形剰余項).f(x,y)=x2yf(x,y)=x^2yをa=(0,0)a=(0,0)で二次まで展開する。f(a)=0f(a)=0、Df(a)=0Df(a)=0、D2f(a)=0D^2f(a)=0であるから、二次までの多項式部分は零である。h=(u,v)h=(u,v)とすると

f(th)=t3u2v,D3f(th)[h,h,h]=d3dt3f(th)=6u2v.f(th)=t^3u^2v, \qquad D^3f(th)[h,h,h] =\frac{d^3}{dt^3}f(th)=6u^2v.

従って式 (5) のr=2r=2における剰余項は

12∫01(1−t)2 6u2v dt=u2v=f(h)\frac12\int_0^1(1-t)^2\,6u^2v\,dt =u^2v=f(h)

となる。三次多項式の三次項は積分剰余によって正確に回収される。

3 演習

問題 3.1 (線分の適合と二次近似). 開集合

U={(x,y)∈R2:x+y>−1}U=\{(x,y)\in\mathbb R^2:x+y>-1\}

上の関数f(x,y)=log⁡(1+x+y)f(x,y)=\log(1+x+y)を考える。h=(u,v)h=(u,v)とs=u+vs=u+vが∣s∣≤1/2|s|\leq1/2を満たすとする。

  1. 原点とhhを結ぶ線分がUUに含まれることを示し、原点における二次 Taylor 多項式を求めよ。
  2. 積分形剰余項を用いて ∣f(h)−s+s22∣≤83∣s∣3\left|f(h)-s+\frac{s^2}{2}\right| \leq\frac{8}{3}|s|^3 を証明せよ。
解答.

0≤t≤10\leq t\leq1に対して1+t(u+v)=1+ts≥1−∣s∣≥1/2>01+t(u+v)=1+ts\geq1-|s|\geq1/2>0であるから、th∈Uth\in Uである。∇f(0,0)=(1,1)\nabla f(0,0)=(1,1)であり、

Hf(0,0)=−(1111)H_f(0,0) =-\begin{pmatrix}1&1\\1&1\end{pmatrix}

である。従って二次 Taylor 多項式は

s−s22s-\frac{s^2}{2}

である。

線分への制限をφ(t)=f(th)=log⁡(1+ts)\varphi(t)=f(th)=\log(1+ts)とすると

φ′′′(t)=2s3(1+ts)3.\varphi'''(t)=\frac{2s^3}{(1+ts)^3}.

∣s∣≤1/2|s|\leq1/2から1+ts≥1/21+ts\geq1/2であるため、∣φ′′′(t)∣≤16∣s∣3|\varphi'''(t)|\leq16|s|^3となる。式 (1) をr=2r=2として適用すると

∣f(h)−s+s22∣≤12∫01(1−t)2 16∣s∣3 dt=83∣s∣3.\begin{aligned} \left|f(h)-s+\frac{s^2}{2}\right| &\leq\frac12\int_0^1(1-t)^2\,16|s|^3\,dt\\ &=\frac{8}{3}|s|^3. \end{aligned}

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参考文献

  1. Tom M. Apostol, Mathematical Analysis, 2nd ed., Addison-Wesley, 1974.積分形剰余項を伴う Taylor の定理を参考にした。
  2. Michael Spivak, Calculus on Manifolds: A Modern Approach to Classical Theorems of Advanced Calculus, CRC Press, 2018, originally published 1965.高階全微分を用いる多変数 Taylor 展開を参考にした。

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