§E6.28多項式環と既約性

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体上の一変数多項式では、最高次係数で割ることができる。最高次係数で割る操作により整数の除法と同型のアルゴリズムが成り立ち、多項式環は Euclid 整域、PID、UFD になる。本記事では、次数による Euclid 構造から既約分解と商体を導いた後、整数係数多項式の既約性を有理係数体上で判定する方法を構成する。

本記事を通じてKKは任意の非零体とする。一変数多項式環K[x]K[x]の構成には§E6.1 定義 7.1を用いる。一般の整除、同伴、既約元および素元には§E6.27 定義 1.1と§E6.27 定義 1.2の規約を用いる。

1 次数、最高次係数および単元

多項式の次数は非零多項式だけに定義する。零多項式を含む主張では、零の場合を分けて記述する。

定義 1.1. 非零多項式

f=a0+a1x+⋯+anxn∈K[x],an≠0f=a_0+a_1x+\cdots+a_nx^n\in K[x], \qquad a_n\neq0

に対して、nnをffの次数 (degree) といい、deg⁡f:=n\deg f:=nと書く。ana_nをffの最高次係数 (leading coefficient) といい、lc⁡(f):=an\operatorname{lc}(f):=a_nと書く。lc⁡(f)=1\operatorname{lc}(f)=1である非零多項式をモニック多項式 (monic polynomial) という。零多項式には次数と最高次係数を定義しない。

命題 1.2. 非零多項式f,g∈K[x]f,g\in K[x]に対してfg≠0fg\neq0であり、

deg⁡(fg)=deg⁡f+deg⁡g,lc⁡(fg)=lc⁡(f)lc⁡(g)\deg(fg)=\deg f+\deg g, \qquad \operatorname{lc}(fg)=\operatorname{lc}(f)\operatorname{lc}(g)

となる。特にK[x]K[x]は整域である。

証明.deg⁡f=m\deg f=m、deg⁡g=n\deg g=nとし、f,gf,gの最高次係数をそれぞれam,bna_m,b_nとする。積fgfgのxm+nx^{m+n}の係数はambna_mb_nである。KKは体であるため整域であり、am≠0a_m\neq0かつbn≠0b_n\neq0からambn≠0a_mb_n\neq0となる。fgfgにはm+nm+nより高い次数の項がなく、xm+nx^{m+n}の係数は非零である。したがってfg≠0fg\neq0であり、

deg⁡(fg)=m+n,lc⁡(fg)=ambn\deg(fg)=m+n, \qquad \operatorname{lc}(fg)=a_mb_n

となる。

非零多項式の積が非零であるため、K[x]K[x]には零因子がない。係数を定数多項式として埋め込むとK[x]K[x]は単位元をもつ可換環であり、KKが非零体であるため0≠10\neq1でもある。よってK[x]K[x]は整域である。▨

命題 1.3.K[x]K[x]の単元は、非零定数多項式と一致する。すなわち、

K[x]×=K×K[x]^\times=K^\times

である。

証明.f∈K[x]f\in K[x]が単元ならば、あるg∈K[x]g\in K[x]が存在してfg=1fg=1となる。fgfgが非零であるためf,gf,gも非零である。命題 1.2により

0=deg⁡1=deg⁡(fg)=deg⁡f+deg⁡g0=\deg1=\deg(fg)=\deg f+\deg g

である。次数は非負整数であるためdeg⁡f=deg⁡g=0\deg f=\deg g=0となり、ffは非零定数多項式である。

逆に、非零定数多項式c∈K×c\in K^\timesは、定数多項式c−1c^{-1}を逆元にもつ。したがって非零定数多項式はすべてK[x]K[x]の単元である。▨

2 除法の定理

最高次係数が可逆であるため、除式の最高次項の適切な単項式倍を引くことにより、被除式の次数を下げることができる。

定理 2.1 (除法の定理).f,g∈K[x]f,g\in K[x]、g≠0g\neq0とする。このとき、

f=qg+r,r=0またはdeg⁡r<deg⁡gf=qg+r, \qquad r=0\quad\text{または}\quad\deg r<\deg g

を満たすq,r∈K[x]q,r\in K[x]がただ一組存在する。

証明. 最初に存在を示す。f=0f=0ならばq=0q=0、r=0r=0とすればよい。以下ではf≠0f\neq0とし、deg⁡f\deg fに関する強帰納法を用いる。

deg⁡f<deg⁡g\deg f<\deg gならば、q=0q=0、r=fr=fとすれば条件を満たす。deg⁡f≥deg⁡g\deg f\geq\deg gとし、

n:=deg⁡f,m:=deg⁡g,a:=lc⁡(f),b:=lc⁡(g)n:=\deg f, \qquad m:=\deg g, \qquad a:=\operatorname{lc}(f), \qquad b:=\operatorname{lc}(g)

と置く。b≠0b\neq0かつKKは体であるためb−1b^{-1}が存在する。多項式

h:=f−ab−1xn−mgh:=f-ab^{-1}x^{n-m}g

を考える。ab−1xn−mgab^{-1}x^{n-m}gの次数はnnであり、その最高次係数はaaである。したがってffの最高次項が消去され、h=0h=0またはdeg⁡h<n\deg h<nとなる。

h=0h=0ならば

f=(ab−1xn−m)g+0f=(ab^{-1}x^{n-m})g+0

が求める表示である。h≠0h\neq0ならば強帰納法の仮定により、あるq1,r∈K[x]q_1,r\in K[x]が存在して

h=q1g+r,r=0またはdeg⁡r<deg⁡gh=q_1g+r, \qquad r=0\quad\text{または}\quad\deg r<\deg g

となる。よって

f=(ab−1xn−m+q1)g+rf=(ab^{-1}x^{n-m}+q_1)g+r

となり、存在が示された。この帰納法では零多項式の次数を用いていない。

次に一意性を示す。二つの表示

f=qg+r=q′g+r′f=qg+r=q'g+r'

があり、r,r′r,r'はそれぞれ零であるか、次数がdeg⁡g\deg gより小さいとする。差を取ると

(q−q′)g=r′−r(q-q')g=r'-r

である。q≠q′q\neq q'と仮定する。このとき左辺は非零であり、命題 1.2により

deg⁡((q−q′)g)=deg⁡(q−q′)+deg⁡g≥deg⁡g\deg((q-q')g)=\deg(q-q')+\deg g\geq\deg g

となる。一方、右辺r′−rr'-rは零であるか、非零ならば次数がdeg⁡g\deg gより小さい。左辺は非零であるため右辺も非零でなければならず、両辺の次数が等しいことに反する。したがってq=q′q=q'であり、元の等式からr=r′r=r'となる。▨

3 Euclid 整域としての多項式環

除法の定理の余り条件は、次数を Euclid 関数とする条件そのものである。

命題 3.1. 写像

δ ⁣:K[x]∖{0}⟶Z≥0,δ(f):=deg⁡f\delta\colon K[x]\setminus\{0\}\longrightarrow\mathbb Z_{\geq0}, \qquad \delta(f):=\deg f

はK[x]K[x]の Euclid 関数である。したがってK[x]K[x]は Euclid 整域、PID および UFD である。

さらに、(f,g)≠(0,0)(f,g)\neq(0,0)となるf,g∈K[x]f,g\in K[x]に Euclid アルゴリズムを適用すると、最後の非零余りddはf,gf,gの最大公約元であり、あるa,b∈K[x]a,b\in K[x]が存在して

d=af+bgd=af+bg

となる。ddから

d^:=lc⁡(d)−1d\widehat d:=\operatorname{lc}(d)^{-1}d

を作ると、d^\widehat dはf,gf,gのモニック最大公約元であり、モニック最大公約元は一意である。さらに、

d^=(lc⁡(d)−1a)f+(lc⁡(d)−1b)g\widehat d =\bigl(\operatorname{lc}(d)^{-1}a\bigr)f +\bigl(\operatorname{lc}(d)^{-1}b\bigr)g

は正規化後の Bézout 等式である。

証明.命題 1.2によりK[x]K[x]は整域である。定理 2.1により、任意のf,g∈K[x]f,g\in K[x]、g≠0g\neq0に対して

f=qg+r,r=0またはδ(r)<δ(g)f=qg+r, \qquad r=0\quad\text{または}\quad\delta(r)<\delta(g)

となるq,r∈K[x]q,r\in K[x]が存在する。したがって§E6.27 定義 1.6の条件を満たし、K[x]K[x]は Euclid 整域である。

§E6.27 定理 2.1と§E6.27 命題 3.4により、K[x]K[x]は PID かつ UFD である。最大公約元と Bézout 等式に関する主張は§E6.27 定理 2.3をR=K[x]R=K[x]へ適用して得られる。

(f,g)≠(0,0)(f,g)\neq(0,0)であるため、最大公約元ddは非零である。lc⁡(d)−1\operatorname{lc}(d)^{-1}はK[x]K[x]の単元であり、d^\widehat dはddと同伴であるから、d^\widehat dも最大公約元である。その最高次係数は11である。二つのモニック最大公約元d1,d2d_1,d_2があれば、§E6.27 命題 1.5によりd1=cd2d_1=cd_2となる単元c∈K×c\in K^\timesが存在する。最高次係数を比較すると1=c⋅11=c\cdot1であるためc=1c=1であり、d1=d2d_1=d_2となる。最後にd=af+bgd=af+bgをlc⁡(d)−1\operatorname{lc}(d)^{-1}倍すると、表示した正規化後の Bézout 等式を得る。▨

例 3.2 (多項式の Euclid アルゴリズム).Q[x]\mathbb Q[x]において

f=x3−1,g=x2−1f=x^3-1, \qquad g=x^2-1

とする。除法を行うと

f=xg+(x−1),g=(x+1)(x−1)f=xg+(x-1), \qquad g=(x+1)(x-1)

となる。したがって最後の非零余りはx−1x-1であり、f,gf,gの最大公約元としてx−1x-1を選ぶことができる。最初の除法を移項すると

x−1=f−xgx-1=f-xg

となるため、Bézout 等式の係数としてa=1a=1、b=−xb=-xを選ぶことができる。最大公約元へ非零有理数を掛けても同伴な最大公約元になるが、x−1x-1はモニックである。

4 既約多項式と根

K[x]K[x]の単元は非零定数多項式であるため、一般の整域における既約元の定義は、多項式の非自明な積への分解を禁止する条件になる。

定義 4.1. 非定数多項式p∈K[x]p\in K[x]が既約多項式 (irreducible polynomial) であるとは、等式

p=fg,f,g∈K[x]p=fg, \qquad f,g\in K[x]

が成り立つならば、ffまたはggが非零定数多項式となることをいう。

非定数多項式は非零非単元であるため、この定義は§E6.27 定義 1.2をK[x]K[x]へ適用した定義と一致する。

定理 4.2 (因数定理).f∈K[x]f\in K[x]とc∈Kc\in Kに対して、

f(c)=0⟺(x−c)∣ff(c)=0 \quad\Longleftrightarrow\quad (x-c)\mid f

である。

証明.定理 2.1を除式x−cx-cへ適用すると、一意なq,r∈K[x]q,r\in K[x]が存在して

f=q(x−c)+r,r=0またはdeg⁡r<1f=q(x-c)+r, \qquad r=0\quad\text{または}\quad\deg r<1

となる。非零で次数が11より小さい多項式は定数多項式であるため、いずれの場合にもrrをある定数r0∈Kr_0\in Kと同一視することができる。x=cx=cを代入すると

f(c)=r0f(c)=r_0

である。したがってf(c)=0f(c)=0とr=0r=0は同値であり、後者は(x−c)∣f(x-c)\mid fと同値である。▨

定理 4.3.f∈K[x]f\in K[x]の次数が22または33であるとする。このとき、ffがK[x]K[x]で既約であることと、ffがKKに根をもたないことは同値である。

証明.ffがKKに根ccをもつならば、定理 4.2により

f=(x−c)qf=(x-c)q

となるq∈K[x]q\in K[x]が存在する。積の次数公式から

deg⁡q=deg⁡f−1≥1\deg q=\deg f-1\geq1

であるため、x−cx-cとqqはともに非単元である。よってffは可約である。

逆にffが可約であるとする。非単元g,h∈K[x]g,h\in K[x]が存在してf=ghf=ghとなる。f≠0f\neq0かつK[x]K[x]は整域であるためg,hg,hは非零である。非零定数多項式は単元であるから

deg⁡g≥1,deg⁡h≥1\deg g\geq1, \qquad \deg h\geq1

である。さらに

deg⁡g+deg⁡h=deg⁡f∈{2,3}\deg g+\deg h=\deg f\in\{2,3\}

であるため、g,hg,hの少なくとも一方は次数11である。その因子をax+bax+bと書くとa≠0a\neq0であり、c:=−a−1b∈Kc:=-a^{-1}b\in Kに対してac+b=0ac+b=0となる。したがってf(c)=0f(c)=0である。▨

例 4.4 (二次式の既約性).x2−2x^2-2はQ[x]\mathbb Q[x]で既約である。定理 4.3により、有理数の根が存在しないことを示せばよい。

c∈Qc\in\mathbb Qがc2=2c^2=2を満たすと仮定し、c=m/nc=m/nと互いに素な整数m,nm,n、n>0n>0を用いて表す。このとき

m2=2n2m^2=2n^2

であるためm2m^2は偶数であり、mmも偶数である。m=2km=2kと書くと

4k2=2n2,n2=2k24k^2=2n^2, \qquad n^2=2k^2

となるためnnも偶数である。m,nm,nがともに偶数になる結論は、m,nm,nが互いに素であることに反する。よってx2−2x^2-2は有理数の根をもたず、Q[x]\mathbb Q[x]で既約である。

次数が44以上になると、根がないことだけでは既約性を判定することができない。二つの二次式へ分解することができるためである。

例 4.5 (根をもたない可約四次式).Q[x]\mathbb Q[x]の多項式

f=(x2+1)(x2+x+1)f=(x^2+1)(x^2+x+1)

は二つの正次数多項式の積であるため可約である。一方、x2+1x^2+1は実数上に根をもたない。また、

x2+x+1=(x+12)2+34x^2+x+1=\left(x+\frac12\right)^2+\frac34

も実数上に根をもたない。c∈Qc\in\mathbb Qがf(c)=0f(c)=0を満たすならば、Q\mathbb Qは整域であるためc2+1=0c^2+1=0またはc2+c+1=0c^2+c+1=0となるが、いずれも実数解をもたないことに反する。したがってffはQ\mathbb Qに根をもたない可約四次式である。

既約性は、多項式だけでなく係数体も指定して初めて決まる。

例 4.6 (係数体による既約性の変化).x2+1x^2+1はR[x]\mathbb R[x]で既約である。実際、任意のc∈Rc\in\mathbb Rに対してc2+1>0c^2+1>0であるため実数の根をもたず、定理 4.3を適用することができる。

一方、C[x]\mathbb C[x]では

x2+1=(x−i)(x+i)x^2+1=(x-i)(x+i)

である。二つの因子はいずれも次数11の非単元であるため、x2+1x^2+1はC[x]\mathbb C[x]では可約である。

5 モニック既約分解

K[x]K[x]は UFD であるため、非零非定数多項式は既約分解をもつ。各因子を最高次係数で割ると、単元倍の自由度を除いたモニック分解が得られる。

定理 5.1. 非零モニック非定数多項式f∈K[x]f\in K[x]は、モニック既約多項式p1,…,pnp_1,\ldots,p_nの積

f=p1⋯pn,n≥1f=p_1\cdots p_n, \qquad n\geq1

に書くことができる。この表示は因子の順序を除いて一意である。

証明.命題 3.1によりK[x]K[x]は UFD である。したがって§E6.27 定義 1.7の存在条件から、ある単元u∈K[x]×u\in K[x]^\timesと既約多項式q1,…,qnq_1,\ldots,q_nが存在して

f=uq1⋯qnf=uq_1\cdots q_n

となる。ffは非定数であるためn≥1n\geq1である。命題 1.3によりu∈K×u\in K^\timesである。各qiq_iに対して

pi:=lc⁡(qi)−1qip_i:=\operatorname{lc}(q_i)^{-1}q_i

と置く。pip_iはqiq_iと同伴であるため既約であり、最高次係数が11である。積の最高次係数を比較すると

1=lc⁡(f)=u∏i=1nlc⁡(qi)1=\operatorname{lc}(f) =u\prod_{i=1}^n\operatorname{lc}(q_i)

である。したがって

f=∏i=1n(lc⁡(qi)−1qi)=p1⋯pnf=\prod_{i=1}^n \bigl(\operatorname{lc}(q_i)^{-1}q_i\bigr) =p_1\cdots p_n

となり、存在が示された。

二つのモニック既約分解

f=p1⋯pn=q1⋯qmf=p_1\cdots p_n=q_1\cdots q_m

があるとする。PID における既約元の素元性は§E6.27 補題 2.5が与え、素元による分解の一意性は§E6.27 定理 3.3が与える。したがってn=mn=mであり、因子の順序を入れ替えると、あるci∈K×c_i\in K^\timesによってpi=ciqip_i=c_iq_iと書くことができる。両辺の最高次係数を比較すると

1=ci⋅11=c_i\cdot1

であるためci=1c_i=1となり、pi=qip_i=q_iである。よってモニック既約分解は順序を除いて一意である。▨

6 既約多項式による商体

非定数多項式が既約であることは、その多項式が生成する主イデアルが極大であること、および対応する商環が体であることと同値である。体となることは、Bézout 等式から剰余類の逆元を構成して直接確認することができる。

定理 6.1. 非定数多項式p∈K[x]p\in K[x]に対して、次の三条件は同値である。

  1. ppはK[x]K[x]で既約である。
  2. 主イデアル(p)(p)はK[x]K[x]の極大イデアルである。
  3. 商環K[x]/(p)K[x]/(p)は体である。

証明. 最初に(p)(p)が真のイデアルであることを確認する。(p)=K[x](p)=K[x]ならば1=ph1=phとなるh∈K[x]h\in K[x]が存在する。右辺が非零であるためh≠0h\neq0であり、積の次数公式から

0=deg⁡1=deg⁡p+deg⁡h0=\deg1=\deg p+\deg h

となる。しかしppは非定数であるためdeg⁡p≥1\deg p\geq1であり、矛盾する。よって(p)⊊K[x](p)\subsetneq K[x]である。

(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。ppが既約であるとし、

(p)⊆I⊆K[x](p)\subseteq I\subseteq K[x]

となるイデアルIIを取る。命題 3.1によりK[x]K[x]は PID であるから、あるd∈K[x]d\in K[x]によってI=(d)I=(d)と書くことができる。p∈(d)p\in(d)であるため、あるe∈K[x]e\in K[x]が存在してp=dep=deとなる。ppの既約性からddまたはeeは単元である。ddが単元ならばI=(d)=K[x]I=(d)=K[x]である。eeが単元ならばddはppと同伴であり、I=(d)=(p)I=(d)=(p)である。したがって(p)(p)は極大イデアルである。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。(p)(p)が極大イデアルであるとし、p=fgp=fgとなるf,g∈K[x]f,g\in K[x]が存在するとする。p≠0p\neq0かつK[x]K[x]は整域であるためf,gf,gは非零である。f,gf,gがともに非単元であると仮定すると、命題 1.3により

deg⁡f≥1,deg⁡g≥1\deg f\geq1, \qquad \deg g\geq1

である。p=fgp=fgから(p)⊆(f)(p)\subseteq(f)である。ffは非単元であるため(f)≠K[x](f)\neq K[x]である。また、(p)=(f)(p)=(f)ならばf=phf=phとなる非零多項式hhが存在し、

deg⁡f=deg⁡p+deg⁡h≥deg⁡p\deg f=\deg p+\deg h\geq\deg p

となる。一方、deg⁡p=deg⁡f+deg⁡g>deg⁡f\deg p=\deg f+\deg g>\deg fであるため矛盾する。よって

(p)⊊(f)⊊K[x](p)\subsetneq(f)\subsetneq K[x]

となり、(p)(p)の極大性に反する。したがってf,gf,gの一方は単元であり、ppは既約である。

(1)⇒\Rightarrow(3)を示す。ppが既約であるとし、非零剰余類f+(p)∈K[x]/(p)f+(p)\in K[x]/(p)を取る。剰余類が非零であることはf∉(p)f\notin(p)、すなわちp∤fp\nmid fを意味する。ddをp,fp,fの最大公約元とする。d∣pd\mid pかつppは既約であるため、ddが単元であるか、ddがppと同伴である。後者ならd∣fd\mid fからp∣fp\mid fとなり、剰余類の非零性に反する。したがってddは単元である。

§E6.27 命題 2.2をK[x]K[x]へ適用し、得られた Bézout 等式をd−1d^{-1}倍すると、あるa,b∈K[x]a,b\in K[x]が存在して

ap+bf=1ap+bf=1

となる。商環では

(b+(p))(f+(p))=1+(p)(b+(p))(f+(p))=1+(p)

であるため、b+(p)b+(p)はf+(p)f+(p)の逆元である。すべての非零剰余類が逆元をもつため、K[x]/(p)K[x]/(p)は体である。

(3)⇒\Rightarrow(1)を示す。K[x]/(p)K[x]/(p)が体であるとし、ppが可約であると仮定する。非単元f,g∈K[x]f,g\in K[x]が存在してp=fgp=fgとなる。p≠0p\neq0とK[x]K[x]の整域性からf,gf,gは非零であり、非零定数多項式が単元であることからf,gf,gは正の次数をもつ。f∈(p)f\in(p)ならばf=phf=phとなる非零多項式hhが存在してdeg⁡f≥deg⁡p\deg f\geq\deg pとなるが、deg⁡p=deg⁡f+deg⁡g>deg⁡f\deg p=\deg f+\deg g>\deg fであるため矛盾する。よってf+(p)≠0f+(p)\neq0である。同様にg+(p)≠0g+(p)\neq0である。しかし

(f+(p))(g+(p))=fg+(p)=p+(p)=0+(p)(f+(p))(g+(p))=fg+(p)=p+(p)=0+(p)

となる。体には零因子がないため、二つの非零剰余類の積が零であることは矛盾である。したがってppは既約である。▨

例 6.2 (複素数体の多項式商表示).x2+1x^2+1は例 4.6によりR[x]\mathbb R[x]で既約である。したがって定理 6.1により

R[x]/(x2+1)\mathbb R[x]/(x^2+1)

は体である。

この商体をC\mathbb Cと同定する写像を具体的に構成する。評価準同型

φ ⁣:R[x]⟶C,φ(f):=f(i)\varphi\colon\mathbb R[x]\longrightarrow\mathbb C, \qquad \varphi(f):=f(i)

を考える。任意のa+bi∈Ca+bi\in\mathbb Cはφ(a+bx)\varphi(a+bx)に等しいため、φ\varphiは全射である。またφ(x2+1)=0\varphi(x^2+1)=0であるから(x2+1)⊆ker⁡φ(x^2+1)\subseteq\ker\varphiである。

逆包含を示す。任意のf∈R[x]f\in\mathbb R[x]をx2+1x^2+1で割ると、あるq∈R[x]q\in\mathbb R[x]とa,b∈Ra,b\in\mathbb Rが存在して

f=q(x2+1)+(ax+b)f=q(x^2+1)+(ax+b)

となる。f∈ker⁡φf\in\ker\varphiならば

0=f(i)=ai+b0=f(i)=ai+b

である。複素数の実部と虚部を比較するとa=b=0a=b=0であるため、f∈(x2+1)f\in(x^2+1)となる。よって

ker⁡φ=(x2+1)\ker\varphi=(x^2+1)

である。環の第一同型定理§E6.3 定理 6.2により

R[x]/(x2+1)≅C\mathbb R[x]/(x^2+1)\cong\mathbb C

となる。この同型はx+(x2+1)x+(x^2+1)をiiへ送る。

7 整数係数多項式の内容と原始性

有理係数多項式の分母を払うと整数係数多項式を得るが、係数全体に共通する整数因子が生じる。内容はこの共通因子を分離する。

定義 7.1. 非零多項式

f=a0+a1x+⋯+anxn∈Z[x],an≠0f=a_0+a_1x+\cdots+a_nx^n\in\mathbb Z[x], \qquad a_n\neq0

の内容 (content)cont⁡(f)\operatorname{cont}(f)を、係数a0,…,ana_0,\ldots,a_nの正の最大公約数とする。零多項式についてはcont⁡(0):=0\operatorname{cont}(0):=0と定める。cont⁡(f)=1\operatorname{cont}(f)=1となる非零多項式ffを原始的多項式 (primitive polynomial) という。

命題 7.2. 任意の非零多項式f∈Z[x]f\in\mathbb Z[x]は

f=cont⁡(f)f0f=\operatorname{cont}(f)f_0

と一意に書くことができる。ここでf0∈Z[x]f_0\in\mathbb Z[x]は原始的であり、ffと同じ最高次係数の符号をもつ。

証明.c:=cont⁡(f)>0c:=\operatorname{cont}(f)>0とする。ccはすべての係数を割るため、係数をccで割って得られるf0:=c−1ff_0:=c^{-1}fはZ[x]\mathbb Z[x]に属する。f0f_0の係数に共通する正整数ddがあれば、cdcdはffのすべての係数を割る。ccが最大公約数であることからd=1d=1となり、f0f_0は原始的である。c>0c>0であるため、f0f_0の最高次係数はffの最高次係数と同じ符号をもつ。

f=c′gf=c'gという表示もあり、c′>0c'>0かつggが原始的であるとする。ggの係数をb0,…,bmb_0,\ldots,b_mと書く。最大公約数が11であるため、ある整数t0,…,tmt_0,\ldots,t_mが存在して

t0b0+⋯+tmbm=1t_0b_0+\cdots+t_mb_m=1

となる。c′c'はffのすべての係数c′bic'b_iを割る。一方、ffの係数の任意の共通因子は

t0(c′b0)+⋯+tm(c′bm)=c′t_0(c'b_0)+\cdots+t_m(c'b_m)=c'

も割る。したがってffの係数の正の最大公約数はc′c'であり、c′=cont⁡(f)=cc'=\operatorname{cont}(f)=cとなる。よってg=f/c′=f0g=f/c'=f_0であり、一意性が従う。▨

原始的多項式の積が原始的であることは、各素数を法として係数を還元すると簡潔に証明することができる。

補題 7.3. 原始的多項式f,g∈Z[x]f,g\in\mathbb Z[x]の積fgfgは原始的である。

証明.fgfgが原始的でないと仮定する。このときfgfgのすべての係数を割る素数ℓ\ellが存在する。Fℓ:=Z/ℓZ\mathbb F_\ell:=\mathbb Z/\ell\mathbb Zとし、係数をℓ\ellで還元して得られるFℓ[x]\mathbb F_\ell[x]の多項式をf‾,g‾\overline f,\overline gと書く。

ffは原始的であるため、ffのすべての係数をℓ\ellが割ることはない。したがってf‾≠0\overline f\neq0である。同様にg‾≠0\overline g\neq0である。Fℓ\mathbb F_\ellは体であるため、命題 1.2をK=FℓK=\mathbb F_\ellへ適用するとFℓ[x]\mathbb F_\ell[x]は整域であり、

f‾ g‾≠0\overline f\,\overline g\neq0

となる。一方、fgfgのすべての係数をℓ\ellが割るという仮定から

f‾ g‾=fg‾=0\overline f\,\overline g=\overline{fg}=0

である。非零多項式f‾,g‾\overline f,\overline gの積が零になる等式は矛盾である。よってfgfgは原始的である。▨

命題 7.4. 非零多項式f,g∈Z[x]f,g\in\mathbb Z[x]に対して

cont⁡(fg)=cont⁡(f)cont⁡(g)\operatorname{cont}(fg) =\operatorname{cont}(f)\operatorname{cont}(g)

となる。

証明.c:=cont⁡(f)c:=\operatorname{cont}(f)、d:=cont⁡(g)d:=\operatorname{cont}(g)と置き、命題 7.2によって

f=cf0,g=dg0f=cf_0, \qquad g=dg_0

と書く。f0,g0f_0,g_0は原始的であり、補題 7.3によりf0g0f_0g_0も原始的である。したがって

fg=cd(f0g0)fg=cd(f_0g_0)

である。

cdcdはfgfgのすべての係数を割る。逆に、fgfgのすべての係数を割る正整数をeeとする。原始的多項式f0g0f_0g_0の係数の最大公約数は11であるから、その有限個の係数の整数係数線形結合として11を表すことができる。等式をcdcd倍すると、fg=cd(f0g0)fg=cd(f_0g_0)の係数の整数係数線形結合としてcdcdを表すことができる。よって共通因子eeはcdcdを割る。したがってfgfgの係数の正の最大公約数はcdcdである。▨

ここまでの二つの結果を合わせた主張を Gauss の補題という。原始的な整数係数多項式では、有理係数による正次数因数分解から整数係数による正次数因数分解を復元することができる。

定理 7.5 (Gauss の補題とZ[x]\mathbb Z[x]・Q[x]\mathbb Q[x]の分解). 原始的な非定数多項式f∈Z[x]f\in\mathbb Z[x]に対して、次の二条件は同値である。

  1. ffはQ[x]\mathbb Q[x]で可約である。
  2. 正の次数をもつg,h∈Z[x]g,h\in\mathbb Z[x]が存在してf=ghf=ghとなる。

さらに、任意の非零非定数多項式F∈Z[x]F\in\mathbb Z[x]は、FFの原始的部分F0F_0とQ[x]\mathbb Q[x]で同伴である。したがって、FFのQ[x]\mathbb Q[x]における既約性はF0F_0の既約性と一致する。

証明.(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。(2)ならば、同じ等式をQ[x]\mathbb Q[x]で見ることにより(1)を得る。g,hg,hは正の次数をもつため、Q[x]\mathbb Q[x]でも非単元である。

(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。(1)を仮定する。正の次数をもつG,H∈Q[x]G,H\in\mathbb Q[x]が存在して

f=GHf=GH

となる。G,HG,Hの係数の分母の公倍数をそれぞれ取ることにより、非零整数a,ba,bで

g:=aG∈Z[x],h:=bH∈Z[x]g:=aG\in\mathbb Z[x], \qquad h:=bH\in\mathbb Z[x]

となるものを選ぶ。このとき

abf=ghabf=gh

である。

c:=cont⁡(g)c:=\operatorname{cont}(g)、d:=cont⁡(h)d:=\operatorname{cont}(h)と置き、g=cg0g=cg_0、h=dh0h=dh_0と原始的部分へ分解する。内容の乗法性とffの原始性から

cont⁡(abf)=∣ab∣,cont⁡(gh)=cd\operatorname{cont}(abf)=|ab|, \qquad \operatorname{cont}(gh)=cd

である。多項式abfabfとghghは等しいため∣ab∣=cd|ab|=cdとなる。そこで

ε:=abcd∈{1,−1}\varepsilon:=\frac{ab}{cd}\in\{1,-1\}

と置く。等式abf=cdg0h0abf=cdg_0h_0をababで割ると

f=εg0h0f=\varepsilon g_0h_0

を得る。G,HG,Hを非零整数倍して内容を除いても次数は変わらないため、g0,h0g_0,h_0はともに正の次数をもつ。εg0\varepsilon g_0とh0h_0はZ[x]\mathbb Z[x]に属し、(2)を満たす。

最後にF=cont⁡(F)F0F=\operatorname{cont}(F)F_0であり、正整数cont⁡(F)\operatorname{cont}(F)はQ[x]\mathbb Q[x]の単元である。よってFFとF0F_0はQ[x]\mathbb Q[x]で同伴であり、一方が既約であることと他方が既約であることは同値である。▨

8 Eisenstein の判定法

一つの素数が最高次係数以外の係数を割り、定数項を二回は割らないとき、素数を法とする多項式は一つの単項式だけになる。この形は正次数因数分解と両立しない。

命題 8.1 (Eisenstein の判定法). 整数係数多項式

f=anxn+an−1xn−1+⋯+a1x+a0∈Z[x],n≥1,an≠0f=a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_1x+a_0 \in\mathbb Z[x], \qquad n\geq1, \qquad a_n\neq0

を考える。ある素数ℓ\ellが

ℓ∤an,ℓ∣ai(0≤i<n),ℓ2∤a0\ell\nmid a_n, \qquad \ell\mid a_i\quad(0\leq i<n), \qquad \ell^2\nmid a_0

を満たすならば、ffはQ[x]\mathbb Q[x]で既約である。

証明. 最初に内容を除いても三条件が保たれることを示す。c:=cont⁡(f)c:=\operatorname{cont}(f)とし、

f=cf0,f0=Anxn+⋯+A0f=cf_0, \qquad f_0=A_nx^n+\cdots+A_0

と書く。c∣anc\mid a_nかつℓ∤an\ell\nmid a_nであるためℓ∤c\ell\nmid cである。したがってccはℓ\ellを法として可逆である。等式ai=cAia_i=cA_iから

ℓ∤An,ℓ∣Ai(0≤i<n)\ell\nmid A_n, \qquad \ell\mid A_i\quad(0\leq i<n)

を得る。また、ℓ2∣A0\ell^2\mid A_0ならばa0=cA0a_0=cA_0からℓ2∣a0\ell^2\mid a_0となるため、

ℓ2∤A0\ell^2\nmid A_0

である。特にA0A_0はℓ\ellでちょうど一回だけ割れ、内容を除いた後にも定数項のℓ\ellによる指数は11である。

ccはQ[x]\mathbb Q[x]の単元であるため、ffとf0f_0はQ[x]\mathbb Q[x]で同伴である。ffが可約であると仮定するとf0f_0も可約である。f0f_0は原始的であるから、定理 7.5により、正の次数をもつg,h∈Z[x]g,h\in\mathbb Z[x]が存在して

f0=ghf_0=gh

となる。各多項式を

g=brxr+⋯+b0,h=csxs+⋯+c0,r,s≥1g=b_rx^r+\cdots+b_0, \qquad h=c_sx^s+\cdots+c_0, \qquad r,s\geq1

と書く。積の最高次係数を比較すると

An=brcsA_n=b_rc_s

である。ℓ∤An\ell\nmid A_nであるためℓ∤br\ell\nmid b_rかつℓ∤cs\ell\nmid c_sである。

係数をℓ\ellで還元し、Fℓ[x]\mathbb F_\ell[x]における多項式を上線で表す。最高次係数が消えないため

deg⁡g‾=r,deg⁡h‾=s\deg\overline g=r, \qquad \deg\overline h=s

であり、両者は正次数の非零多項式である。一方、ℓ∣Ai\ell\mid A_i、0≤i<n0\leq i<nであるため

g‾ h‾=f0‾=An‾xn\overline g\,\overline h =\overline{f_0} =\overline{A_n}x^n

となる。

命題 3.1は任意の体に対して、除法の定理と前記事の Euclid 整域、PID および UFD の結果だけから証明されている。したがってK=FℓK=\mathbb F_\ellと置くことにより、Gauss の補題や Eisenstein の判定法を用いることなくFℓ[x]\mathbb F_\ell[x]が UFD であることが分かる。次数11の多項式xxが積x=uvx=uvに分解されたならばdeg⁡u+deg⁡v=1\deg u+\deg v=1であるため一方は次数00の単元であり、xxは既約である。また、An‾\overline{A_n}は単元である。よってAn‾xn\overline{A_n}x^nの既約因子は、同伴を除いてxxだけである。分解の一意性から、あるβ,γ∈Fℓ×\beta,\gamma\in\mathbb F_\ell^\timesが存在して

g‾=βxr,h‾=γxs\overline g=\beta x^r, \qquad \overline h=\gamma x^s

となる。

r,s≥1r,s\geq1であるため、g‾\overline gとh‾\overline hの定数項はともに零である。したがって

ℓ∣b0,ℓ∣c0\ell\mid b_0, \qquad \ell\mid c_0

である。ところが定数項を比較するとA0=b0c0A_0=b_0c_0であるから、ℓ2∣A0\ell^2\mid A_0となる。結論ℓ2∣A0\ell^2\mid A_0は、内容を除いた後にも保たれた条件ℓ2∤A0\ell^2\nmid A_0に反する。したがってf0f_0、したがってffはQ[x]\mathbb Q[x]で既約である。▨

例 8.2 (Eisenstein の判定法の適用). 任意の整数n≥2n\geq2に対して

xn−2x^n-2

は素数ℓ=2\ell=2に関する Eisenstein の条件を満たす。最高次係数11は22で割れず、最高次以外の係数はすべて22で割れ、定数項−2-2は44で割れない。したがってxn−2x^n-2はQ[x]\mathbb Q[x]で既約である。

多項式

x5−6x+3x^5-6x+3

は素数ℓ=3\ell=3に関する条件を満たす。最高次係数は11であり、x4,x3,x2x^4,x^3,x^2の係数00、xxの係数−6-6および定数項33はすべて33で割れるが、9∤39\nmid3である。したがってx5−6x+3x^5-6x+3もQ[x]\mathbb Q[x]で既約である。

Eisenstein の条件を満たす素数が見つからないことは、可約性も既約性も意味しない。

例 8.3 (Eisenstein の判定法で結論が出ない例).x2+x+1x^2+x+1に Eisenstein の条件を満たす素数は存在しない。実際、最高次以外の係数であるxxの係数11を割る素数は存在しない。一方、

x2+x+1=(x+12)2+34x^2+x+1=\left(x+\frac12\right)^2+\frac34

は有理数の根をもたないため、定理 4.3によりQ[x]\mathbb Q[x]で既約である。

x2−1x^2-1にも Eisenstein の条件を満たす素数は存在しない。定数項−1-1を割る素数が存在しないためである。しかし

x2−1=(x−1)(x+1)x^2-1=(x-1)(x+1)

であるから、この多項式は可約である。したがって Eisenstein の判定法は十分条件であり、必要条件ではない。

9 演習

問題 9.1 (多項式環と既約性の確認). 次の各問に答えよ。

  1. 零多項式の次数を用いずに、非零多項式の積の次数と最高次係数を求めよ。その結果からK[x]K[x]が整域であること、およびK[x]K[x]の単元が非零定数多項式に限ることを証明せよ。
  2. 除法の定理の存在を被除式の次数に関する強帰納法で証明し、一意性を次数比較によって証明せよ。途中で得られる多項式が零の場合を分け、零多項式の次数を用いないことを明示せよ。
  3. 次数がK[x]K[x]の Euclid 関数であることを示し、前記事の結果からK[x]K[x]が PID かつ UFD であることを導け。一般の非零最大公約元をモニック最大公約元へ正規化し、その一意性と Bézout 係数の正規化を証明せよ。さらに、x3−1x^3-1とx2−1x^2-1のモニック最大公約元を求め、Bézout 等式を一つ与えよ。
  4. 因数定理を除法の定理から証明せよ。次数22または33の多項式が既約であることと係数体に根をもたないことの同値を示せ。根をもたない可約四次式をQ[x]\mathbb Q[x]で一つ挙げ、x2+1x^2+1の既約性がR\mathbb RとC\mathbb Cで異なることを説明せよ。
  5. K[x]K[x]の UFD 性から、非零モニック非定数多項式がモニック既約多項式の積へ順序を除いて一意に分解されることを証明せよ。各因子の最高次係数と先頭の単元をどのように処理するかを明示せよ。
  6. 非定数多項式p∈K[x]p\in K[x]について、ppの既約性、(p)(p)の極大性およびK[x]/(p)K[x]/(p)が体であることの三条件が同値であることを証明せよ。非零剰余類の逆元を最大公約元と Bézout 等式から構成せよ。また、評価準同型を用いてR[x]/(x2+1)≅C\mathbb R[x]/(x^2+1)\cong\mathbb Cを証明せよ。
  7. 整数係数多項式の内容と原始性を定義せよ。原始的多項式の積が原始的であることを素数による係数還元から証明し、内容の乗法性を導け。さらに、原始的多項式のQ[x]\mathbb Q[x]における正次数分解からZ[x]\mathbb Z[x]における正次数分解を構成せよ。
  8. Eisenstein の判定法を証明せよ。内容を除いた後の三条件、素数を法とした因子の次数、二因子が単項式になる理由、および両定数項が素数で割れることによる矛盾を順に示せ。x5−6x+3x^5-6x+3へ適用し、条件を満たす素数が存在しない場合には、Eisenstein の判定法だけからは可約性も既約性も結論することができないことを、二つの例で示せ。
  9. 体を係数とする仮定をZ[x]\mathbb Z[x]へ置き換えると、除法の定理と「既約なら生成イデアルが極大」という結論が失敗することを例で示せ。本記事の結果と、PID 上有限生成加群の構造論、体拡大論、および後続の可換環論との境界を説明せよ。
解答 (演習の解答).
  1. deg⁡f=m\deg f=m、deg⁡g=n\deg g=nとし、最高次係数をam,bna_m,b_nとする。KKは整域であるためambn≠0a_mb_n\neq0であり、積の最高次項はambnxm+na_mb_nx^{m+n}である。よってfg≠0fg\neq0、deg⁡(fg)=m+n\deg(fg)=m+n、lc⁡(fg)=ambn\operatorname{lc}(fg)=a_mb_nとなり、K[x]K[x]は整域である。fg=1fg=1なら両因子は非零であり、0=deg⁡f+deg⁡g0=\deg f+\deg gから両方の次数が00となる。逆に非零定数はKKにおける逆元をもつ。したがって単元は非零定数多項式だけである。零多項式の次数は一度も用いない。

  2. f=0f=0ならq=r=0q=r=0とする。f≠0f\neq0かつdeg⁡f<deg⁡g\deg f<\deg gならq=0q=0、r=fr=fとする。n:=deg⁡f≥m:=deg⁡gn:=\deg f\geq m:=\deg gの場合、最高次係数をa,ba,bとし、

    h=f−ab−1xn−mgh=f-ab^{-1}x^{n-m}g

    と置く。h=0h=0なら除法は終了し、h≠0h\neq0ならdeg⁡h<n\deg h<nであるため強帰納法を適用する。二つの表示の差は(q−q′)g=r′−r(q-q')g=r'-rである。q≠q′q\neq q'なら左辺の次数はdeg⁡g\deg g以上であるが、右辺は零であるか、非零ならdeg⁡g\deg g未満である。左辺は非零なので右辺も非零でなければならず、次数が矛盾する。よってq=q′q=q'、r=r′r=r'である。

  3. 除法の定理はδ(f)=deg⁡f\delta(f)=\deg fに対して、f=qg+rf=qg+rとr=0r=0またはδ(r)<δ(g)\delta(r)<\delta(g)を与える。積の次数公式からK[x]K[x]は整域であるため、K[x]K[x]は Euclid 整域である。§E6.27 定理 2.1と§E6.27 命題 3.4により PID かつ UFD である。(f,g)≠(0,0)(f,g)\neq(0,0)の最大公約元ddは非零であり、d^=lc⁡(d)−1d\widehat d=\operatorname{lc}(d)^{-1}dはddと同伴なモニック最大公約元である。二つのモニック最大公約元があればd1=cd2d_1=cd_2、c∈K×c\in K^\timesと書くことができ、最高次係数の比較からc=1c=1となるため両者は等しい。d=af+bgd=af+bgをlc⁡(d)−1\operatorname{lc}(d)^{-1}倍すれば、d^=(lc⁡(d)−1a)f+(lc⁡(d)−1b)g\widehat d=(\operatorname{lc}(d)^{-1}a)f+(\operatorname{lc}(d)^{-1}b)gとなり、Bézout 係数も同じ単元倍で正規化される。

    x3−1=x(x2−1)+(x−1),x2−1=(x+1)(x−1)x^3-1=x(x^2-1)+(x-1), \qquad x^2-1=(x+1)(x-1)

    であるから、モニック最大公約元はx−1x-1であり、

    x−1=(x3−1)−x(x2−1)x-1=(x^3-1)-x(x^2-1)

    が Bézout 等式である。

  4. ffをx−cx-cで割ってf=q(x−c)+rf=q(x-c)+rと書くと、rrは定数でありr=f(c)r=f(c)である。よってf(c)=0f(c)=0と(x−c)∣f(x-c)\mid fは同値である。次数22または33の多項式が可約なら、正次数をもつ二つの因子の次数の和が22または33であるため、一方は一次式であり、その根は元の多項式の根になる。逆に根があれば因数定理によって一次因子をもち、余因子も正次数である。四次式

    (x2+1)(x2+x+1)(x^2+1)(x^2+x+1)

    は可約であるが、二因子がともに実数の根をもたないため有理数の根をもたない。x2+1x^2+1は実数の根をもたないのでR[x]\mathbb R[x]で既約であるが、C[x]\mathbb C[x]では(x−i)(x+i)(x-i)(x+i)と分解する。

  5. UFD 性からf=uq1⋯qnf=uq_1\cdots q_nと既約分解する。pi:=lc⁡(qi)−1qip_i:=\operatorname{lc}(q_i)^{-1}q_iと置けば、pip_iはモニックでqiq_iと同伴な既約多項式である。ffがモニックであることからu∏ilc⁡(qi)=1u\prod_i\operatorname{lc}(q_i)=1となり、f=∏ipif=\prod_i p_iを得る。二つのモニック分解では UFD の一意性によって対応する因子が同伴になる。pi=ciqip_i=c_iq_iの最高次係数を比較するとci=1c_i=1であるため、対応する因子は等しい。

  6. ppは非定数であるため(p)(p)は真のイデアルである。ppが既約なら、(p)⊆(d)(p)\subseteq(d)となる主イデアルの生成元ddはppを割り、ddまたは余因子が単元になるため、(d)=(p)(d)=(p)または(d)=K[x](d)=K[x]である。よって(p)(p)は極大である。逆に正次数多項式f,gf,gが存在してp=fgp=fgならば(p)⊊(f)⊊K[x](p)\subsetneq(f)\subsetneq K[x]となり、極大性に反する。ppが既約でf+(p)≠0f+(p)\neq0ならp∤fp\nmid fであり、p,fp,fの最大公約元は単元である。Bézout 等式を単元の逆元倍してap+bf=1ap+bf=1とすれば、b+(p)b+(p)がf+(p)f+(p)の逆元になる。逆にp=fgp=fgが正次数分解ならf+(p),g+(p)f+(p),g+(p)は次数比較により非零であるが積は零であり、商環は体でない。評価写像φ(f)=f(i)\varphi(f)=f(i)はR[x]→C\mathbb R[x]\to\mathbb Cの全射である。x2+1x^2+1による余りax+bax+bを用いると、f(i)=0f(i)=0からa=b=0a=b=0となるため、核は(x2+1)(x^2+1)である。第一同型定理から商はC\mathbb Cと同型である。

  7. 非零f∈Z[x]f\in\mathbb Z[x]の内容は係数の正の最大公約数であり、内容が11である多項式を原始的という。原始的f,gf,gの積の全係数を素数ℓ\ellが割ると仮定すると、Fℓ[x]\mathbb F_\ell[x]では非零なf‾,g‾\overline f,\overline gの積が零になる。Fℓ[x]\mathbb F_\ell[x]は整域であるため矛盾であり、積は原始的である。f=cf0f=cf_0、g=dg0g=dg_0と内容を分離するとf0g0f_0g_0は原始的であるため、cont⁡(fg)=cd\operatorname{cont}(fg)=cdとなる。原始的f=GHf=GH、G,H∈Q[x]G,H\in\mathbb Q[x]について分母を払いabf=ghabf=ghとする。g=cg0g=cg_0、h=dh0h=dh_0と内容を除くと、内容の乗法性から∣ab∣=cd|ab|=cdである。よってε=ab/(cd)∈{1,−1}\varepsilon=ab/(cd)\in\{1,-1\}としてf=εg0h0f=\varepsilon g_0h_0を得る。各因子の次数は正のままである。

  8. f=cf0f=cf_0と内容を除く。ℓ∤an\ell\nmid a_nからℓ∤c\ell\nmid cであるため、ccはℓ\ellを法として可逆であり、f0f_0の係数にも三条件が保たれる。f0=ghf_0=ghと正次数の整数係数因子へ分解することができると仮定する。最高次係数がℓ\ellで割れないため、還元後にもdeg⁡g‾=deg⁡g>0\deg\overline g=\deg g>0、deg⁡h‾=deg⁡h>0\deg\overline h=\deg h>0である。f0‾=An‾xn\overline{f_0}=\overline{A_n}x^nであり、Fℓ[x]\mathbb F_\ell[x]は UFD でxxが既約であるため、g‾=βxr\overline g=\beta x^r、h‾=γxs\overline h=\gamma x^sとなる。二つの因子の定数項はℓ\ellで割れ、f0f_0の定数項はℓ2\ell^2で割れる。この結論は保存された条件に反する。x5−6x+3x^5-6x+3ではℓ=3\ell=3が条件を満たすため既約である。x2+x+1x^2+x+1は Eisenstein の条件を満たさない既約多項式であり、x2−1x^2-1は条件を満たさない可約多項式である。

  9. Z[x]\mathbb Z[x]ではxxを定数多項式22で割って余りの次数を00未満にする表示は存在しない。余りは零でなければならないが、x=2qx=2qとなるq∈Z[x]q\in\mathbb Z[x]は存在しないためである。またxxはZ[x]\mathbb Z[x]で既約である。実際、x=fgx=fgならdeg⁡f+deg⁡g=1\deg f+\deg g=1であるため一方は定数ccであり、ccはxxの係数11を割るためc=±1c=\pm1、すなわち単元である。一方、定数項を取る評価準同型Z[x]→Z\mathbb Z[x]\to\mathbb Zは全射で核が(x)(x)であるから、Z[x]/(x)≅Z\mathbb Z[x]/(x)\cong\mathbb Zである。Z\mathbb Zは体でないため(x)(x)は極大でない。したがって、除法と極大イデアルの特徴づけでは係数が体であることが本質的である。一般の Euclid 整域、PID、UFD および最大公約元の理論は前記事から用いた。Smith 標準形と PID 上有限生成加群の分解は後続の加群構造論が扱う。商K[x]/(p)K[x]/(p)を単純代数拡大として調べ、最小多項式、分解体および Galois 理論へ進む議論は体論が扱う。局所化、素スペクトル、Krull 次元および準素分解は後続の可換環論が扱う。

▨

10 仮定と後続範囲の境界

除法の定理、次数による Euclid 構造、および既約多項式と極大イデアルの同値には、係数環が体であることが必要である。整数係数多項式を扱う後半では、Z[x]\mathbb Z[x]に体上の除法や PID 性を仮定せず、内容を分離してQ[x]\mathbb Q[x]へ移す Gauss の補題だけを用いた。一般の UFD を係数環とする多項式環への拡張と多変数多項式環は、本記事では扱わない。

一般の Euclid 整域、PID、UFD、最大公約元、Bézout 等式および既約分解の一意性は、前記事「Euclid 整域・PID・UFD」から用いた。Smith 標準形と PID 上有限生成加群の構造定理は後続の加群構造論が扱い、本記事の証明には用いない。既約多項式による商体を単純代数拡大として位置付け、最小多項式、分解体、有限体および Galois 理論へ進む議論は体論が扱う。局所化、素スペクトル、次元および準素分解を含む一般の可換環論は、後続の可換環論が扱う。

参考文献

  1. David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004.体上の一変数多項式環の除法、既約性、一意分解および商体の特徴づけを参考にした。
  2. Serge Lang, Algebra, revised 3 ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2002.多項式の次数、最大公約元、Bézout 等式および Gauss の補題を参考にした。
  3. Michael Artin, Algebra, 2nd ed., Pearson, Boston, 2011.根による既約性判定、Eisenstein の判定法および多項式による体の構成を参考にした。

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