1 可換環のイデアルの根基
定義 1.1.Aを可換環、I⊆Aをイデアルとする。Iの根基 (radical of an ideal) を
I:={a∈A∣∃n≥1, an∈I}によって定める。特に(0)をAの冪零根基 (nilradical) という。
根基がイデアルとなることの要点は、二つの元に対して選ばれた冪指数を一つの指数へまとめることである。差の冪には二項定理を適用する。
命題 1.2.Aを可換環、I,J⊆Aをイデアルとする。次が成り立つ。
- IはAのイデアルである。
- I⊆Iである。
- I⊆JならばI⊆Jである。
- I=Iである。
証明.(1)を示す。x,y∈Iとする。あるm,n≥1に対してxm∈Iおよびyn∈Iである。二項定理によって
(x−y)m+n=k=0∑m+n(km+n)xk(−y)m+n−kとなる。各項について、k≥mまたはm+n−k≥nの少なくとも一方が成り立つ。前者の場合にはその項がxmの倍元であり、後者の場合にはynの倍元である。したがってすべての項がIに属し、(x−y)m+n∈Iである。よってx−y∈Iとなる。
a∈Aに対して(ax)m=amxm∈Iであるため、ax∈Iである。また01∈Iであるため、0∈Iである。以上からIはイデアルである。
(2)を示す。x∈Iならばx1∈Iであるから、I⊆Iである。
(3)を示す。I⊆Jかつx∈Iならば、あるn≥1に対してxn∈I⊆Jであるため、x∈Jとなる。以上により単調性を得る。
(4)を示す。単調性とI⊆IからI⊆Iが従う。逆に、x∈Iとする。あるm≥1に対してxm∈Iであり、さらにあるn≥1に対して(xm)n=xmn∈Iである。したがってx∈Iである。よってI=Iとなる。▨
有限個のイデアルについて、根基は共通部分と交換する。二つのイデアルの積は共通部分より小さいが、根基を取ると差が消える。
命題 1.3.Aを可換環とし、I1,…,Ir⊆Aをイデアルとする。ただしr≥0とし、r=0の場合の空共通部分と空積をともにAと定める。このとき
k=1⋂rIk=k=1⋂rIk=k=1∏rIkである。特に、二つのイデアルI,J⊆Aに対して
IJ=I∩J=I∩Jである。
証明.r=0の場合には、三つの集合がすべてA=Aとなる。以下ではr≥1とする。
x∈⋂k=1rIkならば、あるn≥1に対してxn∈Ikがすべてのkについて成り立つ。したがってx∈Ikがすべてのkについて成り立つ。
逆に、x∈⋂k=1rIkとする。各kに対してxnk∈Ikとなるnk≥1を選び、N:=n1+⋯+nrと置く。N≥nkであるため、
xN=xN−nkxnk∈Ikがすべてのkについて成り立つ。よってxN∈⋂k=1rIkであり、x∈⋂k=1rIkとなる。
∏k=1rIk⊆⋂k=1rIkであるため、単調性から
k=1∏rIk⊆k=1⋂rIkとなる。逆にx∈⋂k=1rIkならば、各kに対してxnk∈Ikとなるnk≥1を選ぶことができる。したがって
xn1+⋯+nr=k=1∏rxnk∈k=1∏rIkであり、x∈∏k=1rIkとなる。以上の包含関係と最初に証明した共通部分の等式から、三つの集合は一致する。二つのイデアルに関する等式はr=2の場合である。▨
有限性は必要である。体k上の多項式環k[x]でIn=(xn)と置くと、In=(x)である。一方、
n≥1⋂(xn)=(0)
である。実際、零でない多項式fの次数をdとすると、fはxd+1で割り切れない。k[x]は整域であるため(0)=(0)であり、
n≥1⋂In=(0)=(x)=n≥1⋂In
となる。
和については、根基を取った二つのイデアルの和がそのまま根基になるとは限らない。正確な等式では、和を取った後にもう一度根基を取る。
証明.I⊆IおよびJ⊆Jであるため、
I+J⊆I+Jである。単調性から
I+J⊆I+Jを得る。
一方、I⊆I+JであるためI⊆I+Jであり、同様にJ⊆I+Jである。命題 1.2によりI+Jはイデアルであるため、
I+J⊆I+Jとなる。両辺の根基を取り、根基の冪等性を用いると
I+J⊆I+J=I+Jを得る。よって等式が成り立つ。▨
外側の根基は一般には省略することができない。A=k[x,y]とし、I=(y)、J=(y−x2)と置く。商環A/IとA/Jはいずれもk[x]と同型であるため、IとJは素イデアルであり、I=IおよびJ=Jである。しかし
I+J=(y,x2)
は根基イデアルではない。実際、x2はこのイデアルに属するがxは属さない。一方、
I+J=(y,x2)=(x,y)
である。最後の等式は、x2,y∈(y,x2)から(x,y)⊆(y,x2)を得ることと、(y,x2)⊆(x,y)およびA/(x,y)≅kから逆包含を得ることによって直接確認することができる。
2 準同型および局所化との整合性
根基は環準同型の逆像と交換する。この性質は、冪を取る操作が環準同型と交換することから直接従う。
命題 2.1.f:A→Bを可換環の準同型とし、K⊆Bをイデアルとする。このとき
f−1(K)=f−1(K)である。
証明.a∈f−1(K)であることは、あるn≥1に対してan∈f−1(K)となることと同値である。後者の条件は
f(a)n=f(an)∈Kと同値であり、さらにf(a)∈K、すなわちa∈f−1(K)と同値である。▨
局所化との等式のうち、分母を払う向きでは、局所化の等値関係に現れる積閉集合の乗数を保持する必要がある。
命題 2.2.Aを可換環、S⊆Aを積閉集合、I⊆Aをイデアルとする。このときS−1Aのイデアルとして
S−1(I)=S−1Iである。
証明.a/s∈S−1(I)とする。あるn≥1に対してan∈Iであるから
(sa)n=snan∈S−1Iとなる。したがってa/s∈S−1Iである。
逆にa/s∈S−1Iとする。あるn≥1に対して
snan∈S−1Iである。したがって、あるb∈Iとt∈Sに対して
snan=tbとなる。局所化の等値関係の定義から、あるu∈Sが存在して
u(tan−snb)=0となる。ゆえに
(ut)an=usnb∈Iである。c:=ut∈Sと置くと
(ca)n=cnan=cn−1(can)∈Iであるためca∈Iである。さらに局所化の演算から
sa=cscaであり、右辺の分子はIに属する。したがってa/s∈S−1(I)となる。▨
零イデアルの根基は冪零元全体である。冪零根基による商を取ると、非零冪零元がすべて消える。
命題 2.3.Aを可換環とする。商環
A/(0)は被約環である。
証明.a+(0)∈A/(0)が冪零であるとする。あるn≥1に対して
(a+(0))n=an+(0)=(0)であるから、an∈(0)である。根基の定義により、あるm≥1に対して
(an)m=anm=0となる。したがってa∈(0)であり、a+(0)は商環の零元である。よって商環は被約環である。▨
例 2.4 (根基の基本例).Zでは(180)=(30)である。実際、anが180=22⋅32⋅5で割り切れるならば、素数2,3,5はすべてaを割るため、30はaを割る。逆に30がaを割るならば180はa2を割るため、a∈(180)となる。
kを体とする。k[x,y]では
(x2,y3)=(x,y)である。イデアル(x,y)の任意の元fに対してf4∈(x,y)4⊆(x2,y3)であるから、(x,y)⊆(x2,y3)となる。逆に(x2,y3)⊆(x,y)である。またgn∈(x,y)ならば、商環k[x,y]/(x,y)≅k(この場合は体)において(g+(x,y))n=0となるためg+(x,y)=0であり、g∈(x,y)となる。よって(x,y)は根基イデアルであり、逆包含も成り立つ。
最後にA=Z/(4)とする。2+(4)の平方は零であるため、0+(4)と2+(4)は(0)に属する。一方、1+(4)と3+(4)は単元であり、単元の正の冪は零にならない。したがって
(0)={0+(4),2+(4)}.このイデアルによる商は二元体Z/(2)と同型であり、実際に被約環となる。
3 極大片側イデアルと単純加群
ここからRの乗法は可換とは仮定しない。左加群と右加群を区別し、左イデアルと右イデアルにも同じ向きの区別を設ける。加群の零化イデアルには§E6.3 命題 7.1の規約を用いる。
定義 3.1. 非零左R加群Mが単純左加群 (simple left module) であるとは、Mの左部分加群が0とMだけであることをいう。非零右R加群についても、右部分加群が0と加群全体だけであるとき単純右加群 (simple right module) という。
極大片側イデアルの存在には選択公理と同値な Zorn の補題を用いる。零環には真の片側イデアルが存在しないため、次の命題は空虚に成り立つ。
真の左イデアルLが極大左イデアルであるとは、L⊆L′⊊Rを満たす左イデアルL′がLだけであることをいう。極大右イデアルも同様に、真の右イデアル全体を包含関係で順序づけて定める。
命題 3.2.Rを単位元をもつ結合環とする。任意の真の左イデアルは、ある極大左イデアルに含まれる。任意の真の右イデアルは、ある極大右イデアルに含まれる。
証明. 真の左イデアルIを一つ固定する。Iを含む真の左イデアル全体を包含関係で順序づけた集合をPとする。I∈Pであるため、Pは空でない。
C⊆Pを鎖とする。Cが空ならばIがその上界である。そこでCは空でないとし、U:=⋃L∈CLと置く。各L∈CはIを含むため、I⊆Uであり、特に0∈Uである。x,y∈Uならば、あるL1,L2∈Cが存在してx∈L1およびy∈L2となる。鎖であることからL1⊆L2またはL2⊆L1であり、x−yは大きい方の左イデアルに属する。またr∈Rに対してrxもxを含む左イデアルに属する。したがってUは左イデアルである。
1R∈Uならば、あるL∈Cに対して1R∈Lとなり、L=Rとなる。等式L=RはL∈Pに反する。よってUは真の左イデアルであり、Cの上界としてPに属する。Zorn の補題(§E1.20 定理 2.1)によりPは極大元をもつ。この極大元はIを含む極大左イデアルである。
Rの右イデアルは反対環Rop(§E6.1 定義 4.1)の左イデアルであり、真のイデアルであることと包含関係は反対環へ移っても変わらない。したがって、すでに証明した左イデアルに関する結論をRopに適用すると、任意の真の右イデアルを含む極大右イデアルを得る。▨
4 Jacobson 根基
定義 4.1.Rを単位元をもつ結合環とする。RのJacobson 根基 (Jacobson radical) を、極大左イデアル全体の共通部分
J(R):=L は R の極大左イデアル⋂Lによって定める。極大左イデアルが存在しない場合には、空の共通部分をRとする。
命題 4.2.Rを単位元をもつ結合環とし、x∈Rとする。次の二条件は同値である。
- x∈J(R)である。
- すべてのr∈Rに対して1R−rxは左逆元をもつ。
証明.(1)⇒(2)を示す。x∈J(R)とし、r∈Rを任意に取る。左イデアルR(1R−rx)が真ならば、命題 3.2によって、R(1R−rx)を含む極大左イデアルLが存在する。x∈J(R)⊆Lであり、Lは左イデアルであるためrx∈Lである。また1R−rx∈Lであるから1R∈Lとなり、矛盾する。したがってR(1R−rx)=Rであり、あるa∈Rに対してa(1R−rx)=1Rとなる。
(2)⇒(1)を示す。逆に、(2)を仮定し、x∈/J(R)とする。ある極大左イデアルLに対してx∈/Lである。左イデアルL+RxはLを真に含むためL+Rx=Rであり、あるl∈Lとr∈Rに対して1R=l+rxとなる。よって1R−rx=l∈Lである。(2)から、あるa∈Rに対してa(1R−rx)=1Rとなるが、Lは左イデアルであるため左辺はLに属する。包含1R∈LはLが真であることに反する。したがってx∈J(R)である。▨
単純左加群は、極大左イデアルによる商と同じ情報をもつ。この対応を零化イデアルへ移すと、Jacobson 根基を表す二つ目の方法を得る。
定理 4.3.Rを単位元をもつ結合環とする。Mが単純左R加群の同型類の代表を動くとき、
J(R)=M⋂AnnR(M)である。単純左加群が存在しない場合には、右辺をRとする。
証明.Mを単純左R加群とし、0=m∈Mを取る。左R加群準同型
φm:RR⟶M,r⟼rmを考える。その像Rmはm=1Rmを含む非零部分加群であるため、単純性からRm=Mである。したがってφmは全射である。
K:=kerφmと置く。§E6.2 定理 7.1によりR/K≅Mであり、Mは非零であるためKは真の左イデアルである。K⊊L⊆Rとなる左イデアルLが存在すれば、L/KはR/Kの部分加群である。単純性からL/K=0またはL/K=R/Kであり、前者ならL=K、後者ならL=Rとなる。よってKは極大左イデアルである。
x∈J(R)とする。K=kerφmは極大左イデアルであるためx∈Kであり、xm=0となる。同じ議論はMの任意の非零元mに対して成り立ち、m=0に対してもxm=0であるから、xはMのすべての元を零に写す。したがって
J(R)⊆M⋂AnnR(M)である。
逆に、xがすべての単純左R加群を零化すると仮定する。Lを極大左イデアルとする。商左加群R/LはLが真であるため非零である。0=N⊆R/Lを部分加群とし、r+L=Lとなる元r+L∈Nを取る。r∈/Lであるため、左イデアルL+RrはLを真に含み、極大性からL+Rr=Rとなる。任意のs+L∈R/Lに対して、あるl∈Lとa∈Rが存在してs=l+arとなるため
s+L=a(r+L)∈Nである。したがってN=R/Lであり、R/Lは単純左加群である。仮定からxはR/Lを零化するので
x(1R+L)=x+L=Lであり、x∈Lとなる。包含x∈Lはすべての極大左イデアルLについて成り立つため、x∈J(R)である。
なお、すべての単純左加群は前段で示したようにRの極大左イデアルによる商と同型である。極大左イデアルはRの部分集合であるため、同型類ごとの代表を取る共通部分は集合として定めることができる。▨
系 4.4.J(R)はRの両側イデアルである。
証明.§E6.3 命題 7.1により、左R加群Mの零化イデアルAnnR(M)は両側イデアルである。両側イデアルの任意の共通部分も両側イデアルであるから、定理 4.3の等式によってJ(R)は両側イデアルである。▨
Jacobson 根基の元に1を加えた元の可逆性を示す。極大左イデアルの定義から最初に左逆元を構成し、その左逆元自身に同じ議論を適用して右逆元との一致を証明する。
命題 4.5.Rを単位元をもつ結合環とし、x∈J(R)とする。このとき1R+xはRの単元である。
証明.命題 4.2をr=−1Rに対して適用し、a(1R+x)=1Rとなるa∈Rを取る。この等式から
a=1R−axである。命題 4.2をr=aに対して適用すると、a=1R−axは左逆元をもつ。すなわち、あるb∈Rに対して
ba=1Rとなる。
一方、a(1R+x)=1Rであるため、1R+xはaの右逆元である。積の順序を保って計算すると
b=b(a(1R+x))=(ba)(1R+x)=1R+xである。したがって
(1R+x)a=ba=1Rとなる。すでにa(1R+x)=1Rも得ているため、aは1R+xの両側逆元である。よって1R+xは単元である。▨
補題 4.6 (Jacobson の補題).Rを単位元をもつ結合環とし、a,b∈Rとする。1R−abが単元であることと1R−baが単元であることは同値である。
証明.u=(1R−ab)−1とする。等式(1R−ab)u=1Rからu−abu=1Rを得るため、
(1R−ba)(1R+bua)=1R−ba+bua−babua=1R−ba+b(u−abu)a=1Rである。またu(1R−ab)=1Rからu−uab=1Rを得るため、
(1R+bua)(1R−ba)=1R−ba+bua−buaba=1R−ba+b(u−uab)a=1Rである。したがって1R+buaは1R−baの両側逆元である。逆向きはaとbを交換することによって従う。▨
5 極大右イデアルおよび単純右加群による特徴付け
反対環を用いると、左側について証明した両側イデアル性と可逆性を右側へ移すことができる。その後、極大性と単元の存在を用いて左右の共通部分が一致することを証明する。
定理 5.1.Rを単位元をもつ結合環とする。このとき
J(R)=N は R の極大右イデアル⋂N.極大右イデアルが存在しない場合には、右辺をRとする。
証明. 右辺をJr(R)と書く。反対環Ropの定義には§E6.1 定義 4.1の規約を用いる。Rの右イデアルはRopの左イデアルであり、包含関係も変わらない。したがって集合として
Jr(R)=J(Rop)である。系 4.4をRopに適用すると、Jr(R)はRの両側イデアルである。また命題 4.5をRopに適用すると、z∈Jr(R)に対して1R+zはRopの単元である。反対環と元の環では両側逆元の条件が同じであるため、1R+zはRの単元でもある。
x∈J(R)とし、Nを極大右イデアルとする。x∈/Nと仮定すると、右イデアルN+xRはNを真に含むため、極大性からN+xR=Rとなる。したがって、あるn∈Nとr∈Rに対して
1R=n+xrであり、n=1R−xr∈Nとなる。J(R)は両側イデアルであるため−xr∈J(R)であり、命題 4.5によって1R−xrは単元である。右イデアルNが1R−xrを含むならば、その右逆元を右から掛けて1R∈Nとなる。包含1R∈NはNが真であることに反する。よってx∈Nであり、J(R)⊆Jr(R)を得る。
逆にz∈Jr(R)とし、Lを極大左イデアルとする。z∈/Lと仮定すると、左イデアルL+RzはLを真に含むためL+Rz=Rとなる。したがって、あるl∈Lとr∈Rに対して
1R=l+rzであり、l=1R−rz∈Lとなる。Jr(R)は両側イデアルであるため−rz∈Jr(R)であり、反対環から得た可逆性によって1R−rzは単元である。左イデアルLが1R−rzを含むならば、その左逆元を左から掛けて1R∈Lとなる。包含1R∈LはLが真であることと矛盾する。よってz∈Lであり、Jr(R)⊆J(R)を得る。以上から等式が成り立つ。▨
定理 5.2.Rを単位元をもつ結合環とする。Mが単純右R加群の同型類の代表を動くとき、
J(R)=M⋂AnnR(M)である。単純右加群が存在しない場合には、右辺をRとする。
証明.定理 5.1により、J(R)は極大右イデアル全体の共通部分である。
Mを単純右R加群とし、0=m∈Mを取る。右R加群準同型
ψm:RR⟶M,r⟼mrの像mRはm=m1Rを含む非零部分加群であるためMに等しい。よってψmは全射である。K:=kerψmと置くと、§E6.2 定理 7.1によりR/K≅Mである。Mは非零であるためKは真の右イデアルである。K⊆Q⊆Rとなる右イデアルQに対して、Q/KはR/Kの右部分加群である。単純性からQ/K=0またはQ/K=R/Kであり、前者ならQ=K、後者ならQ=Rである。よってKは極大右イデアルである。
x∈J(R)ならばx∈Kであるためmx=0である。同じ議論は任意の非零元m∈Mに対して成り立ち、m=0の場合にも同じ等式が成り立つため、x∈AnnR(M)である。以上により
J(R)⊆M⋂AnnR(M)を得る。
逆に、xがすべての単純右R加群を零化すると仮定する。極大右イデアルNに対して商右加群R/Nは単純である。実際、0=P⊆R/Nを右部分加群とし、r+N=Nとなるr+N∈Pを取る。r∈/NであるためN+rR=Rである。任意のs+N∈R/Nは、あるn∈Nとa∈Rによってs=n+raと書くことができるため
s+N=(r+N)a∈Pとなる。よってP=R/Nであり、R/Nは単純右加群である。したがって
(1R+N)x=x+N=Nであり、x∈Nとなる。包含x∈Nはすべての極大右イデアルNについて成り立つため、定理 5.1からx∈J(R)である。▨
例 5.3 (Jacobson 根基の基本例). 斜体Dの真の左イデアルは(0)だけである。実際、非零元を含む左イデアルは、その元の逆元を左から掛けることによって1Dを含む。したがって(0)は唯一の極大左イデアルであり、
J(D)=(0)である。
可換局所環Aの一意な極大イデアルをmとする。可換環では左イデアル、右イデアルおよび両側イデアルが一致するため、定義からJ(A)=mである。特に素数pに対して§E6.6 命題 6.2を用いると
J(Z(p))=pZ(p)となる。
体k上の上三角行列環
T2(k)={(α0βγ) α,β,γ∈k}では、狭義上三角行列全体
N={(00β0) β∈k}が Jacobson 根基である。実際、x∈Nとr∈T2(k)に対して(rx)2=0であるため、1−rxの逆元は1+rxである。命題 4.2からN⊆J(T2(k))を得る。
逆にx=(α0βγ)∈/Nとする。α=0ならばr=diag(α−1,0)、γ=0ならばr=diag(0,γ−1)と取る。いずれの場合も1−rxの対角成分の一方が零となる。上三角行列の積では各対角成分が対応する対角成分の積であるため、この行列は左逆元をもたない。再び命題 4.2を用いるとx∈/J(T2(k))であり、J(T2(k))=Nを得る。
6 演習
問題 6.1 (根基と Jacobson 根基の確認). 次の各問に答えよ。
- Iのイデアル性とI=Iを証明せよ。
- 有限個のイデアルに対する共通部分・積の等式を証明し、無限族では共通部分との交換が破れる例を与えよ。
- 和に関する正確な等式を証明し、外側の根基を省略することができない例を与えよ。
- 根基が準同型の逆像および局所化と交換することを証明せよ。局所化では零因子が存在する場合の乗数を省略してはならない。
- A/(0)が被約環であることを証明せよ。
- Zorn の補題から極大片側イデアルを得て、単純左加群の零化イデアルの共通部分がJ(R)となることを証明せよ。
- Jacobson 根基の左可逆元判定を証明し、その判定からx∈J(R)に対する1R+xの両側逆元を構成せよ。さらに Jacobson の補題の逆元公式を示せ。
- 極大右イデアルおよび単純右加群によるJ(R)の特徴付けを証明し、T2(k)の Jacobson 根基を計算せよ。
解答 (演習の解答).
- xm,yn∈Iに対する二項展開
(x−y)m+n=k=0∑m+n(km+n)xk(−y)m+n−k
の各項はxmまたはynの倍元であるためIに属する。さらに(ax)m=amxm∈Iであるため、Iはイデアルである。z∈Iならば、あるm,n≥1に対して(zm)n∈Iであり、z∈Iとなる。逆包含はI⊆Iから従う。
- x∈⋂i=1rIiに対してxni∈Iiを選ぶと、x∑ini∈∏iIiである。また∏iIi⊆⋂iIiであるため、
i⋂Ii=i⋂Ii=i∏Ii
となる。k[x]のIn=(xn)では⋂nIn=(0)であるが、⋂nIn=(x)であるため、無限族では等式が破れる。
- I+J⊆I+Jから一方の包含を得る。逆にI+J⊆I+Jであり、右辺は根基イデアルであるため、
I+J=I+J
を得る。k[x,y]のI=(y)とJ=(y−x2)は根基イデアルであるが、I+J=(y,x2)はx2を含みxを含まないため根基イデアルではない。
- a∈f−1(K)とf(a)n=f(an)∈Kの同値から逆像の等式を得る。局所化では、(a/s)n=b/t、ただしb∈Iなら、あるu∈Sに対してu(tan−snb)=0となる。c=utと置けばcan∈Iであり、
(ca)n=cn−1(can)∈I
となる。a/s=ca/(cs)であるため逆包含を得る。順包含は分子の冪を取ればよい。
- (a+(0))n=0ならばan∈(0)である。あるm≥1に対してanm=0となるため、a∈(0)である。よって商環の冪零元は零元だけである。
- 真の左イデアルを含む真の左イデアル全体では、鎖の和集合が真の左イデアルとなるため、Zorn の補題から極大元を得る。右側は反対環へ適用する。単純左加群Mと0=m∈Mに対してφm(r)=rmは全射であり、R/kerφm≅Mであるため核は極大左イデアルである。以上によりJ(R)はすべての単純左加群を零化する。逆に極大左イデアルLに対してR/Lは単純であり、すべての単純左加群を零化する元xはx(1+L)=0からx∈Lを満たす。よって零化イデアルの共通部分はJ(R)である。
- x∈J(R)ならばR(1−rx)が真の左イデアルであるという仮定は、その真の左イデアルを含む極大左イデアルが1を含むという矛盾を生む。逆にx∈/J(R)なら、x∈/Lとなる極大左イデアルLに対して1−rx∈Lとなるrが存在し、この元は左逆元をもたない。以上の二方向の議論から、x∈J(R)であることと、すべてのr∈Rに対して1−rxが左逆元をもつこととの同値を得る。a(1+x)=1を取り、a=1−axに判定を再適用してba=1を得ると、
b=b(a(1+x))=(ba)(1+x)=1+x
であるため(1+x)a=1でもある。Jacobson の補題ではu=(1−ab)−1に対し1+buaが1−baの両側逆元となる。二つの積はu−abu=1とu−uab=1をそれぞれ用いて確認する。
- Ropに左側の結果を適用すると、極大右イデアルの共通部分Jr(R)は両側イデアルで、その元zに対する1+zは単元である。x∈J(R)と極大右イデアルNに対してx∈/NならN+xR=Rであるため1=n+xrと書くことができ、単元1−xr=n∈Nを得て矛盾する。よってJ(R)⊆Jr(R)である。逆にz∈Jr(R)と極大左イデアルLに対してz∈/LならL+Rz=Rであるため1=l+rzと書くことができる。反対環から得た可逆性により1−rz=lは単元となり、l∈Lと矛盾する。よってJr(R)⊆J(R)である。単純右加群Mと0=m∈Mについてr↦mrの核は極大右イデアルであるため、J(R)はMを零化する。逆に極大右イデアルNに対してR/Nは単純であり、すべての単純右加群を零化する元は(1+N)x=0からx∈Nを満たす。以上により右加群の零化イデアル表示を得る。T2(k)の狭義上三角行列全体をNとすると、x∈Nではすべてのrに対して(rx)2=0であるため1−rxは可逆である。x∈/Nでは非零の対角成分を消す対角行列rを選ぶと1−rxは左逆元をもたない。したがってJ(T2(k))=Nである。
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7 後続記事との関係
本記事では、可換環のイデアルの根基と一般環の Jacobson 根基を扱った。素イデアル全体の共通部分による通常の根基の特徴付けは、素スペクトルを導入する記事で扱う。有限生成加群に対する中山の補題は、加群の生成系と完全列を準備した後続記事で扱う。