§E17.6ベクトル場と流れ

最終更新

ベクトル場は、多様体の各点へその点の接ベクトルを与える。座標を一つ取ると、この対応は座標成分についての常微分方程式になり、その解が積分曲線を与える。本記事は、積分曲線の存在と一意性から出発して、初期点と時刻の両方を変数とする写像である流れを構成し、流れが両変数についてC∞C^\inftyであることを証明する。

初期点についての滑らかさは、後段で実際に使う性質である。「可積分分布と Frobenius の定理」は、平坦チャートをΦ(t1,…,tk,y)=φt11∘⋯∘φtkk(σ(y))\Phi(t^1,\dots,t^k,y)=\varphi^1_{t^1}\circ\cdots\circ\varphi^k_{t^k}(\sigma(y))という流れの合成として構成する。このΦ\PhiがC∞C^\infty写像であることを述べるためには、各φi\varphi^iが時刻だけでなく初期点についてもC∞C^\inftyでなければならない。

「常微分方程式」が供給するのは、初期値に対する Lipschitz 評価(§E10.6 系 4.3)すなわち連続依存性までである。同単元は初期値に関する微分可能性を扱わないと宣言している。したがって本記事は、変分方程式と Grönwall の不等式を用いて初期点についての微分可能性を自分で証明する。証明に用いる道具は、Picard–Lindelöf の定理、最大解の延長定理、Grönwall の不等式、および連続係数線形系の大域存在という、いずれも同単元が完全に証明した主張だけである。

本記事では、断りのないかぎりMMを境界を持たないnn次元C∞C^\infty多様体(§E17.1 定義 2.2)とし、「滑らか」はC∞C^\inftyを意味する。

1 ベクトル場と積分曲線

ベクトル場は接束のC∞C^\infty切断として定義され、関数環C∞(M)C^\infty(M)上の導分として作用する(§E17.4 定理 5.3)。MM上のC∞C^\inftyベクトル場の全体をX(M)\mathfrak{X}(M)と書く。

曲線の速度ベクトルを先に定める。J⊆RJ\subseteq\mathbb{R}を開区間とすると、JJは11次元C∞C^\infty多様体であり、標準座標ssが定める接空間の基底をdds∣t∈TtJ\left.\frac{d}{ds}\right|_{t}\in T_tJと書く(§E17.3 定理 3.3)。

定義 1.1.J⊆RJ\subseteq\mathbb{R}を開区間、γ:J→M\gamma:J\to MをC∞C^\infty写像とする。t∈Jt\in Jにおけるγ\gammaの速度ベクトル (velocity vector) を

γ′(t)=dγt(dds∣t)∈Tγ(t)M\gamma'(t)=d\gamma_t\left(\left.\frac{d}{ds}\right|_{t}\right)\in T_{\gamma(t)}M

で定める。

X∈X(M)X\in\mathfrak{X}(M)とする。C∞C^\infty写像γ:J→M\gamma:J\to M(JJは開区間)がXXの積分曲線 (integral curve) であるとは、すべてのt∈Jt\in Jに対して

γ′(t)=Xγ(t)\gamma'(t)=X_{\gamma(t)}

が成り立つことをいう。0∈J0\in Jかつγ(0)=p\gamma(0)=pであるとき、γ\gammaをppを始点とする (starting at a point) 積分曲線という。

積分曲線であるという条件は、チャートを取ると常微分方程式になる。

命題 1.2.(U,φ)(U,\varphi)をMMのチャート、φ=(x1,…,xn)\varphi=(x^1,\dots,x^n)とし、X∈X(M)X\in\mathfrak{X}(M)のUU上の座標表示を

X∣U=∑i=1nXi ∂∂xi,Xi∈C∞(U)X|_U=\sum_{i=1}^{n}X^i\,\frac{\partial}{\partial x^i},\qquad X^i\in C^\infty(U)

とする。F=(F1,…,Fn):φ(U)→RnF=(F^1,\dots,F^n):\varphi(U)\to\mathbb{R}^nをFi=Xi∘φ−1F^i=X^i\circ\varphi^{-1}で定めると、FFはC∞C^\inftyである。JJを開区間、γ:J→U\gamma:J\to UをC∞C^\infty写像とし、u=φ∘γu=\varphi\circ\gammaと置く。このときγ\gammaがXXの積分曲線であることと、uuがJJ上で

u′(t)=F(u(t))u'(t)=F(u(t))

を満たすことは同値である。

証明.FFがC∞C^\inftyであることは、XiX^iがUU上のC∞C^\infty関数でありφ−1\varphi^{-1}がC∞C^\inftyであることによる(§E17.1 定義 4.1)。

t∈Jt\in Jを固定する。連鎖律(§E17.3 定理 5.3)により

dφγ(t)(γ′(t))=d(φ∘γ)t(dds∣t)=u′(t)d\varphi_{\gamma(t)}\bigl(\gamma'(t)\bigr) =d(\varphi\circ\gamma)_t\left(\left.\frac{d}{ds}\right|_{t}\right) =u'(t)

である。ここで右辺のu′(t)u'(t)は、Rn\mathbb{R}^nの標準座標が定める基底のもとでTu(t)RnT_{u(t)}\mathbb{R}^nをRn\mathbb{R}^nと同一視して書いたものであり、成分は通常の一変数の導関数((u1)′(t),…,(un)′(t))\bigl((u^1)'(t),\dots,(u^n)'(t)\bigr)である。一方

dφγ(t)(Xγ(t))=(X1(γ(t)),…,Xn(γ(t)))=F(u(t))d\varphi_{\gamma(t)}\bigl(X_{\gamma(t)}\bigr) =\bigl(X^1(\gamma(t)),\dots,X^n(\gamma(t))\bigr) =F(u(t))

である。dφγ(t)d\varphi_{\gamma(t)}は線形同型であるから、γ′(t)=Xγ(t)\gamma'(t)=X_{\gamma(t)}とu′(t)=F(u(t))u'(t)=F(u(t))は同値である。t∈Jt\in Jは任意であったから、主張が従う。▨

「常微分方程式」が供給する定理を適用するためには、右辺FFが連続であることに加えて局所 Lipschitz 連続であることが要る。FFはC∞C^\inftyであるからこの条件を満たす。以下でその評価を明示的に取る。

以下、Rn\mathbb{R}^nの元uuに対して∥u∥2=∑i=1n(ui)2\lVert u\rVert^2=\sum_{i=1}^{n}(u^i)^2と書き、B‾(a,r)={u∈Rn:∥u−a∥≤r}\overline B(a,r)=\{u\in\mathbb{R}^n:\lVert u-a\rVert\le r\}、B(a,r)={u∈Rn:∥u−a∥<r}B(a,r)=\{u\in\mathbb{R}^n:\lVert u-a\rVert<r\}と書く。行列に対する∥⋅∥op\lVert\cdot\rVert_{\mathrm{op}}はこのノルムから定まる作用素ノルム(§E4.2 定義 1.3)である。これらはいずれも座標空間Rn\mathbb{R}^nの上で固定した量であって、多様体の上に計量を与えるものではない。本記事では、閉球と開球を指定すること、および評価の定数を取ることにだけ用いる。

補題 1.3.V⊆RnV\subseteq\mathbb{R}^nを開集合、F:V→RnF:V\to\mathbb{R}^nをC1C^1級とし、B‾(y0,b)⊆V\overline B(y_0,b)\subseteq Vとする。L=max⁡y∈B‾(y0,b)∥DF(y)∥opL=\max_{y\in\overline B(y_0,b)}\lVert DF(y)\rVert_{\mathrm{op}}と置くと、

∥F(u)−F(v)∥≤L∥u−v∥(u,v∈B‾(y0,b))\lVert F(u)-F(v)\rVert\le L\lVert u-v\rVert \qquad\bigl(u,v\in\overline B(y_0,b)\bigr)

が成り立つ。とくにFFはVV上で局所 Lipschitz 連続である。

証明.B‾(y0,b)\overline B(y_0,b)はコンパクトであり∥DF(⋅)∥op\lVert DF(\cdot)\rVert_{\mathrm{op}}は連続であるからLLは有限である。u,v∈B‾(y0,b)u,v\in\overline B(y_0,b)とすると、閉球は凸であるから線分[v,u][v,u]はB‾(y0,b)⊆V\overline B(y_0,b)\subseteq Vに含まれる。§E4.3 定理 2.1をM=LM=Lとして適用すれば主張を得る。▨

したがって§E10.4 系 4.1と§E10.5 定理 5.3を適用することができる。

定理 1.4.X∈X(M)X\in\mathfrak{X}(M)とし、p∈Mp\in Mとする。00を含む開区間JpJ_pと、ppを始点とするXXの積分曲線γp:Jp→M\gamma_p:J_p\to Mであって次を満たすものが、ちょうど一つ存在する。ppを始点とするXXの任意の積分曲線σ:J→M\sigma:J\to Mに対してJ⊆JpJ\subseteq J_pかつσ=γp∣J\sigma=\gamma_p|_{J}である。

証明. 一意性の核となる主張を先に示す。σ:J→M\sigma:J\to Mとτ:J′→M\tau:J'\to MをXXの積分曲線とし、J∩J′J\cap J'が空でない区間であって、あるt0∈J∩J′t_0\in J\cap J'でσ(t0)=τ(t0)\sigma(t_0)=\tau(t_0)であるとする。このときσ=τ\sigma=\tauがJ∩J′J\cap J'の全体で成り立つ。実際、

A={t∈J∩J′:σ(t)=τ(t)}A=\{t\in J\cap J':\sigma(t)=\tau(t)\}

と置く。AAは空でない。MMは Hausdorff であり(§E17.1 定義 2.2、「位相空間論 I」の§E2.15 定義 1.2)、σ\sigmaとτ\tauは連続であるから、AAはJ∩J′J\cap J'の相対位相で閉じている。AAが開いていることを示す。t1∈At_1\in Aとし、q=σ(t1)=τ(t1)q=\sigma(t_1)=\tau(t_1)の周りのチャート(U,φ)(U,\varphi)を取る。σ\sigmaとτ\tauは連続であるから、t1t_1を含む開区間I⊆J∩J′I\subseteq J\cap J'でσ(I)⊆U\sigma(I)\subseteq Uかつτ(I)⊆U\tau(I)\subseteq Uとなるものが存在する。命題 1.2によりφ∘σ\varphi\circ\sigmaとφ∘τ\varphi\circ\tauはII上で同じ常微分方程式u′=F(u)u'=F(u)を満たし、t1t_1で同じ値を取る。FFはC∞C^\inftyであり、補題 1.3により局所 Lipschitz 連続であるから、§E10.5 補題 5.2によりφ∘σ=φ∘τ\varphi\circ\sigma=\varphi\circ\tauがII上で成り立つ。φ\varphiは単射であるからI⊆AI\subseteq Aである。よってAAはJ∩J′J\cap J'の相対位相で開いている。区間J∩J′J\cap J'は連結である(§E2.43 定義 1.1)からA=J∩J′A=J\cap J'である。

存在を示す。ppを始点とするXXの積分曲線の全体を{σλ:Jλ→M}λ∈Λ\{\sigma_\lambda:J_\lambda\to M\}_{\lambda\in\Lambda}とする。ppの周りのチャートを取り、命題 1.2と§E10.4 系 4.1を適用すると、00を含む開区間上の積分曲線が少なくとも一つ存在するのでΛ\Lambdaは空でない。Jp=⋃λJλJ_p=\bigcup_{\lambda}J_\lambdaと置くと、JpJ_pは00を含む開区間である。t∈Jpt\in J_pに対してt∈Jλt\in J_\lambdaとなるλ\lambdaを選びγp(t)=σλ(t)\gamma_p(t)=\sigma_\lambda(t)と定める。別のμ\muを選んでも、Jλ∩JμJ_\lambda\cap J_\muは00を含む区間であり両者は00でppに一致するので、上で示した一意性によりσλ=σμ\sigma_\lambda=\sigma_\muがJλ∩JμJ_\lambda\cap J_\mu上で成り立つ。したがってγp\gamma_pは選び方に依らずに定まる。各t∈Jpt\in J_pの近くでγp\gamma_pはあるσλ\sigma_\lambdaと一致するので、γp\gamma_pはC∞C^\inftyでありXXの積分曲線である。定義からJλ⊆JpJ_\lambda\subseteq J_pかつσλ=γp∣Jλ\sigma_\lambda=\gamma_p|_{J_\lambda}である。

一意性を示す。同じ性質を持つ(J~p,γ~p)\bigl(\tilde J_p,\tilde\gamma_p\bigr)があれば、互いに相手を延長するのでJp=J~pJ_p=\tilde J_pかつγp=γ~p\gamma_p=\tilde\gamma_pである。▨

定義 1.5.X∈X(M)X\in\mathfrak{X}(M)とする。定理 1.4の記号のもとで

D={(t,p)∈R×M: t∈Jp},φ(t,p)=γp(t)\mathcal{D}=\{(t,p)\in\mathbb{R}\times M:\ t\in J_p\},\qquad \varphi(t,p)=\gamma_p(t)

と定める。D\mathcal{D}をXXの流れの定義域 (domain of the flow)、φ:D→M\varphi:\mathcal{D}\to MをXXの流れ (flow) という。t∈Rt\in\mathbb{R}に対してMt={p∈M:(t,p)∈D}M_t=\{p\in M:(t,p)\in\mathcal{D}\}と置き、φt:Mt→M\varphi_t:M_t\to Mをφt(p)=φ(t,p)\varphi_t(p)=\varphi(t,p)で定める。

2 高階の微分可能性についての補題

初期点についての滑らかさの証明は、CkC^k級であることを偏導関数で判定する主張と、CkC^k級の写像の和・積・合成がふたたびCkC^k級であるという主張を繰り返し用いる。後者は§E17.1 補題 1.1としてすでに証明されているので、そのまま引用する。前者は上流にも単元内にも対応する主張が無いので、ここで自給する。以下、U⊆RnU\subseteq\mathbb{R}^nは開集合とし、CkC^k級は§E4.4 定義 1.4の意味で用いる。L(Rn;Rm)\mathcal{L}(\mathbb{R}^n;\mathbb{R}^m)を行列の空間Rm×n\mathbb{R}^{m\times n}と標準的に同一視する。この同一視は有限次元ノルム空間の間の線形同型であり、線形同型との合成は微分の階数を変えないので、CkC^k級であるかどうかを変えない。

補題 2.1.kkを正の整数、f=(f1,…,fm):U→Rmf=(f_1,\dots,f_m):U\to\mathbb{R}^mとする。次は同値である。

  1. ffはCkC^k級である。
  2. ffの各成分fif_iについて、kk次以下のすべての反復偏導関数がUU上で存在し、連続である。

さらに、k≥1k\ge1に対して次が成り立つ。ffがCkC^{k}級であることと、ffがUUの各点で全微分可能であってDf:U→Rm×nDf:U\to\mathbb{R}^{m\times n}がCk−1C^{k-1}級であることは同値である(C0C^0級は連続であることを意味するものとする)。また、ffがCkC^k級であることと、各成分fif_iがCkC^k級であることは同値である。

証明. 成分についての主張を先に示す。Djf(x)[h1,…,hj]D^jf(x)[h_1,\dots,h_j]の第ii成分はDjfi(x)[h1,…,hj]D^jf_i(x)[h_1,\dots,h_j]であり、作用素ノルムについて

∥Djfi(x)∥≤∥Djf(x)∥≤∑l=1m∥Djfl(x)∥\lVert D^jf_i(x)\rVert\le\lVert D^jf(x)\rVert\le\sum_{l=1}^{m}\lVert D^jf_l(x)\rVert

が成り立つ。したがってDjfD^jfが存在して連続であることと、すべてのDjfiD^jf_iが存在して連続であることは同値である。

条件 (a)⇒\Rightarrow(b)を示す。ffがCkC^k級ならば、§E4.4 命題 1.6により1≤j≤k1\le j\le kと添字i1,…,iji_1,\dots,i_jに対して

(∂ij∘⋯∘∂i1)fl(x)=Djfl(x)[ei1,…,eij]\bigl(\partial_{i_j}\circ\cdots\circ\partial_{i_1}\bigr)f_l(x)=D^jf_l(x)[e_{i_1},\dots,e_{i_j}]

が成り立つ。右辺はxxについて連続であるから、jj次の反復偏導関数は存在して連続である。

条件 (b)⇒\Rightarrow(a)を示す。kkについての帰納法による。k=1k=1とする。仮定によりすべての∂jfi\partial_jf_iがUU上で存在して連続であるから、§E4.2 定理 2.1によりffはUUの各点で全微分可能であり、Df(x)Df(x)は Jacobi 行列である。行列A=(aij)A=(a_{ij})について∥A∥op≤∑i=1m∑j=1n∣aij∣\lVert A\rVert_{\mathrm{op}}\le\sum_{i=1}^{m}\sum_{j=1}^{n}|a_{ij}|であるから、成分が連続であればDfDfは作用素ノルムについて連続である。よってffはC1C^1級である。

k≥2k\ge2とし、k−1k-1について主張が成り立つとする。仮定はk=1k=1の場合の仮定を含むので、ffはC1C^1級でありDfDfの成分は∂jfi\partial_jf_iである。∂jfi\partial_jf_iのk−1k-1次以下の反復偏導関数はfif_iのkk次以下の反復偏導関数であるから、存在して連続である。帰納法の仮定によりDf:U→Rm×nDf:U\to\mathbb{R}^{m\times n}はCk−1C^{k-1}級である。§E4.4 定義 1.4の定義における同一視ιj\iota_jは有限次元ノルム空間のあいだの線形同型であり(§E4.4 命題 1.3)、有限次元ノルム空間のあいだの線形写像は連続であるから、ιj\iota_jは逆写像とともに連続である。したがって1≤j≤k1\le j\le kに対してDjfD^jfが存在して連続であることと、0≤j−1≤k−10\le j-1\le k-1に対してDj−1(Df)D^{j-1}(Df)が存在して連続であることは同値である。よってffはCkC^k級である。

最後の主張を示す。いま示した同値は、ffがCkC^k級であることとDfDfが存在してCk−1C^{k-1}級であることの同値をそのまま与えている。▨

3 初期点に一様な存在時間

以下、V⊆RnV\subseteq\mathbb{R}^nを開集合、F:V→RnF:V\to\mathbb{R}^nをC∞C^\infty写像とし、自励系

u′(t)=F(u(t))u'(t)=F(u(t))

を扱う。「常微分方程式」の枠組みへ合わせるため、Ω=R×V\Omega=\mathbb{R}\times Vと置きf(t,y)=F(y)f(t,y)=F(y)とする。ffは連続であり、補題 1.3により状態変数について局所 Lipschitz 連続である。したがって§E10.4 系 4.1、§E10.5 定理 5.3、§E10.5 定理 5.4をこの自励系へ適用することができる。y∈Vy\in Vに対して、初期条件u(0)=yu(0)=yをもつ最大解をθ(⋅,y):(α(y),β(y))→V\theta(\cdot,y):(\alpha(y),\beta(y))\to Vと書き、

W={(t,y)∈R×V: α(y)<t<β(y)}\mathcal{W}=\{(t,y)\in\mathbb{R}\times V:\ \alpha(y)<t<\beta(y)\}

と置く。

方程式が自励系であることから、次の平行移動則が成り立つ。s∈(α(y),β(y))s\in(\alpha(y),\beta(y))とすると、t↦θ(t+s,y)t\mapsto\theta(t+s,y)は初期条件u(0)=θ(s,y)u(0)=\theta(s,y)をもつ解であり、定義区間を平行移動して戻すことで最大性も従う。したがって

α(θ(s,y))=α(y)−s,β(θ(s,y))=β(y)−s,θ(t,θ(s,y))=θ(t+s,y)(1)\alpha\bigl(\theta(s,y)\bigr)=\alpha(y)-s,\qquad \beta\bigl(\theta(s,y)\bigr)=\beta(y)-s,\qquad \theta\bigl(t,\theta(s,y)\bigr)=\theta(t+s,y) \tag{1}

が、左辺の定義される範囲で成り立つ。

補題 3.1.V⊆RnV\subseteq\mathbb{R}^nを開集合、F:V→RnF:V\to\mathbb{R}^nをC∞C^\infty写像とし、θ\thetaを自励系u′=F(u)u'=F(u)の最大解の族とする。y0∈Vy_0\in Vとし、b>0b>0をB‾(y0,b)⊆V\overline B(y_0,b)\subseteq Vとなるように取る。

M=max⁡y∈B‾(y0,b)∥F(y)∥,L=max⁡y∈B‾(y0,b)∥DF(y)∥op,h=min⁡{1, b4M+4}M=\max_{y\in\overline B(y_0,b)}\lVert F(y)\rVert,\qquad L=\max_{y\in\overline B(y_0,b)}\lVert DF(y)\rVert_{\mathrm{op}},\qquad h=\min\left\{1,\ \frac{b}{4M+4}\right\}

と置く。このとき、すべてのy∈B‾(y0,b/2)y\in\overline B(y_0,b/2)に対して[−h,h]⊆(α(y),β(y))[-h,h]\subseteq(\alpha(y),\beta(y))であり、

∥θ(t,y)−y∥≤M∣t∣≤b4(∣t∣≤h)\lVert\theta(t,y)-y\rVert\le M|t|\le\frac{b}{4} \qquad(|t|\le h)

が成り立つ。とくにθ\thetaは[−h,h]×B‾(y0,b/2)[-h,h]\times\overline B(y_0,b/2)上で定義され、その像はB‾(y0,3b/4)\overline B(y_0,3b/4)に含まれる。

証明.y∈B‾(y0,b/2)y\in\overline B(y_0,b/2)を固定する。まず正の時刻について示す。

A={t∈[0,min⁡{h,β(y)}): ∥θ(s,y)−y∥≤b4 がすべての s∈[0,t] で成り立つ}A=\left\{t\in\bigl[0,\min\{h,\beta(y)\}\bigr):\ \lVert\theta(s,y)-y\rVert\le\tfrac{b}{4} \ \text{がすべての}\ s\in[0,t]\ \text{で成り立つ}\right\}

と置く。0∈A0\in Aである。t∈At\in Aとすると、s∈[0,t]s\in[0,t]に対してθ(s,y)∈B‾(y,b/4)⊆B‾(y0,3b/4)⊆B‾(y0,b)\theta(s,y)\in\overline B(y,b/4)\subseteq\overline B(y_0,3b/4)\subseteq\overline B(y_0,b)であるから∥F(θ(s,y))∥≤M\lVert F(\theta(s,y))\rVert\le Mであり、積分方程式θ(t,y)=y+∫0tF(θ(s,y)) ds\theta(t,y)=y+\int_0^tF(\theta(s,y))\,dsから

∥θ(t,y)−y∥≤Mt≤Mh≤Mb4M+4<b4(2)\lVert\theta(t,y)-y\rVert\le Mt\le Mh\le\frac{Mb}{4M+4}<\frac{b}{4} \tag{2}

を得る。τ=sup⁡A\tau=\sup Aと置く。τ<min⁡{h,β(y)}\tau<\min\{h,\beta(y)\}と仮定すると、θ(⋅,y)\theta(\cdot,y)の連続性と不等式 (2) により∥θ(τ,y)−y∥≤Mb/(4M+4)<b/4\lVert\theta(\tau,y)-y\rVert\le Mb/(4M+4)<b/4であり、さらに連続性からε>0\varepsilon>0が存在してs∈[0,τ+ε]s\in[0,\tau+\varepsilon]で∥θ(s,y)−y∥≤b/4\lVert\theta(s,y)-y\rVert\le b/4が成り立つ。これはτ=sup⁡A\tau=\sup Aに反する。したがってτ=min⁡{h,β(y)}\tau=\min\{h,\beta(y)\}であり、A=[0,min⁡{h,β(y)})A=\bigl[0,\min\{h,\beta(y)\}\bigr)である。

ここでβ(y)≤h\beta(y)\le hと仮定する。このときβ(y)<∞\beta(y)<\inftyであり、上の結論から

(t,θ(t,y))∈K=[0,h]×B‾(y0,3b/4)(0≤t<β(y))\bigl(t,\theta(t,y)\bigr)\in K=[0,h]\times\overline B(y_0,3b/4) \qquad\bigl(0\le t<\beta(y)\bigr)

が成り立つ。KKはΩ=R×V\Omega=\mathbb{R}\times Vに含まれるコンパクト集合であるから、§E10.5 定理 5.4により解はβ(y)\beta(y)を越えて延長することができ、最大性に反する。したがってβ(y)>h\beta(y)>hである。そのうえでA=[0,h)A=[0,h)であるから、0≤t<h0\le t<hに対して∥θ(t,y)−y∥≤Mt\lVert\theta(t,y)-y\rVert\le Mtが成り立ち、連続性によりt=ht=hでも成り立つ。

負の時刻については、F~=−F\tilde F=-Fに対する最大解がt↦θ(−t,y)t\mapsto\theta(-t,y)であることに注意して同じ議論を適用すれば、α(y)<−h\alpha(y)<-hと∥θ(t,y)−y∥≤M∣t∣\lVert\theta(t,y)-y\rVert\le M|t|(−h≤t≤0-h\le t\le0)を得る。

最後に、∥θ(t,y)−y0∥≤∥θ(t,y)−y∥+∥y−y0∥≤b/4+b/2=3b/4\lVert\theta(t,y)-y_0\rVert\le\lVert\theta(t,y)-y\rVert+\lVert y-y_0\rVert\le b/4+b/2=3b/4である。▨

4 流れの連続性

補題 4.1.V⊆RnV\subseteq\mathbb{R}^nを開集合、F:V→RnF:V\to\mathbb{R}^nをC∞C^\infty写像とし、θ\thetaを自励系u′=F(u)u'=F(u)の最大解の族とする。y0y_0、bb、MM、LL、hhを補題 3.1のとおりに取る。このときt,s∈[−h,h]t,s\in[-h,h]とy,z∈B‾(y0,b/2)y,z\in\overline B(y_0,b/2)に対して

∥θ(t,y)−θ(s,z)∥≤eLh∥y−z∥+M∣t−s∣\lVert\theta(t,y)-\theta(s,z)\rVert\le e^{Lh}\lVert y-z\rVert+M|t-s|

が成り立つ。とくにθ\thetaは[−h,h]×B‾(y0,b/2)[-h,h]\times\overline B(y_0,b/2)上で連続である。

証明. 三角不等式により∥θ(t,y)−θ(s,z)∥≤∥θ(t,y)−θ(t,z)∥+∥θ(t,z)−θ(s,z)∥\lVert\theta(t,y)-\theta(s,z)\rVert\le\lVert\theta(t,y)-\theta(t,z)\rVert+\lVert\theta(t,z)-\theta(s,z)\rVertである。

第一項を評価する。t≥0t\ge0とする。J=[0,h]J=[0,h]、D=B‾(y0,3b/4)D=\overline B(y_0,3b/4)と置くと、補題 3.1によりθ(⋅,y)\theta(\cdot,y)とθ(⋅,z)\theta(\cdot,z)はいずれもJJ上で定義されDDに値を取る。DDは凸でありB‾(y0,b)\overline B(y_0,b)に含まれるので、補題 1.3によりFFはDD上で Lipschitz 定数LLを持つ。§E10.6 系 4.3を初期時刻00に対して適用すると

∥θ(t,y)−θ(t,z)∥≤eLt∥y−z∥≤eLh∥y−z∥\lVert\theta(t,y)-\theta(t,z)\rVert\le e^{Lt}\lVert y-z\rVert\le e^{Lh}\lVert y-z\rVert

を得る。t<0t<0のときはF~=−F\tilde F=-Fに対して同じ評価を適用すればよい。

第二項を評価する。θ(⋅,z)\theta(\cdot,z)の値はB‾(y0,3b/4)\overline B(y_0,3b/4)に含まれるから∥F(θ(σ,z))∥≤M\lVert F(\theta(\sigma,z))\rVert\le Mであり、θ(t,z)−θ(s,z)=∫stF(θ(σ,z)) dσ\theta(t,z)-\theta(s,z)=\int_s^tF(\theta(\sigma,z))\,d\sigmaから∥θ(t,z)−θ(s,z)∥≤M∣t−s∣\lVert\theta(t,z)-\theta(s,z)\rVert\le M|t-s|を得る。▨

5 変分方程式と初期点についての微分可能性

初期点についての微分の候補を、線形の常微分方程式の解として先に用意する。

補題 5.1.V⊆RnV\subseteq\mathbb{R}^nを開集合、F:V→RnF:V\to\mathbb{R}^nをC∞C^\infty写像とし、θ\thetaを自励系u′=F(u)u'=F(u)の最大解の族、(α(y),β(y))(\alpha(y),\beta(y))をθ(⋅,y)\theta(\cdot,y)の最大存在区間とする。y∈Vy\in Vとする。A(t)=DF(θ(t,y))A(t)=DF\bigl(\theta(t,y)\bigr)と置くとA:(α(y),β(y))→Rn×nA:(\alpha(y),\beta(y))\to\mathbb{R}^{n\times n}は連続であり、行列に値を持つ初期値問題

Y′(t)=A(t) Y(t),Y(0)=InY'(t)=A(t)\,Y(t),\qquad Y(0)=I_n

は(α(y),β(y))(\alpha(y),\beta(y))の全体で定義された一意な解を持つ。この解をΨ(⋅,y)\Psi(\cdot,y)と書く。

証明.DFDFは連続でありθ(⋅,y)\theta(\cdot,y)は連続であるからAAは連続である。行列に値を持つ方程式を列ごとに分けると、各列はRn\mathbb{R}^nに値を持つ線形系Y′=A(t)YY'=A(t)Yの初期値問題になる。§E10.7 系 1.2を開区間I=(α(y),β(y))I=(\alpha(y),\beta(y))へ適用すると、各列の解はIIの全体で一意に存在する。▨

命題 5.2.V⊆RnV\subseteq\mathbb{R}^nを開集合、F:V→RnF:V\to\mathbb{R}^nをC∞C^\infty写像とし、θ\thetaを自励系u′=F(u)u'=F(u)の最大解の族、Ψ\Psiを補題 5.1の変分方程式の解とする。y0y_0、bb、MM、LL、hhを補題 3.1のとおりに取り、∥y−y0∥<b/2\lVert y-y_0\rVert<b/2とする。このとき、∣t∣≤h|t|\le hを満たす各ttについて写像z↦θ(t,z)z\mapsto\theta(t,z)はyyで全微分可能であり、その全微分はΨ(t,y)\Psi(t,y)である。さらに剰余の評価はttについて一様であり、

sup⁡∣t∣≤h∥θ(t,y+w)−θ(t,y)−Ψ(t,y)w∥≤h e2Lh ρ(w) ∥w∥\sup_{|t|\le h}\bigl\lVert\theta(t,y+w)-\theta(t,y)-\Psi(t,y)w\bigr\rVert \le h\,e^{2Lh}\,\rho(w)\,\lVert w\rVert

が、∥w∥\lVert w\rVertが十分小さいすべてのwwについて成り立つ。ここでρ(w)\rho(w)はw→0w\to0のとき00へ収束する量である。

証明.∥w∥\lVert w\rVertをy+w∈B‾(y0,b/2)y+w\in\overline B(y_0,b/2)となるほど小さく取る。0≤t≤h0\le t\le hの場合を示す。負の時刻についてはF~=−F\tilde F=-Fに対して同じ議論を行えばよい。

δ(t)=θ(t,y+w)−θ(t,y),η(t)=δ(t)−Ψ(t,y) w\delta(t)=\theta(t,y+w)-\theta(t,y),\qquad \eta(t)=\delta(t)-\Psi(t,y)\,w

と置く。η(0)=0\eta(0)=0である。補題 3.1によりθ(t,y),θ(t,y+w)∈B‾(y0,3b/4)\theta(t,y),\theta(t,y+w)\in\overline B(y_0,3b/4)であり、この閉球は凸でVVに含まれる。したがって線分[θ(t,y),θ(t,y+w)]\bigl[\theta(t,y),\theta(t,y+w)\bigr]はこの閉球に含まれる。§E4.5 定理 1.1をr=0r=0としてFFの各成分へ適用し、成分をまとめると

F(θ(t,y+w))−F(θ(t,y))=R(t) δ(t),R(t)=∫01DF(θ(t,y)+σδ(t)) dσF\bigl(\theta(t,y+w)\bigr)-F\bigl(\theta(t,y)\bigr)=R(t)\,\delta(t), \qquad R(t)=\int_0^1DF\bigl(\theta(t,y)+\sigma\delta(t)\bigr)\,d\sigma

を得る。一方A(t)=DF(θ(t,y))A(t)=DF(\theta(t,y))でありΨ(⋅,y)\Psi(\cdot,y)は変分方程式を満たすから

η′(t)=R(t)δ(t)−A(t)Ψ(t,y)w=A(t)(δ(t)−Ψ(t,y)w)+(R(t)−A(t))δ(t)=A(t)η(t)+(R(t)−A(t))δ(t)\eta'(t)=R(t)\delta(t)-A(t)\Psi(t,y)w =A(t)\bigl(\delta(t)-\Psi(t,y)w\bigr)+\bigl(R(t)-A(t)\bigr)\delta(t) =A(t)\eta(t)+\bigl(R(t)-A(t)\bigr)\delta(t)

である。積分して

∥η(t)∥≤∫0t(L∥η(s)∥+∥R(s)−A(s)∥ ∥δ(s)∥)ds\lVert\eta(t)\rVert\le\int_0^t\Bigl(L\lVert\eta(s)\rVert+\bigl\lVert R(s)-A(s)\bigr\rVert\,\lVert\delta(s)\rVert\Bigr)ds

を得る。ここでθ(s,y)∈B‾(y0,b)\theta(s,y)\in\overline B(y_0,b)であるから∥A(s)∥≤L\lVert A(s)\rVert\le Lである。

δ\deltaを評価する。補題 4.1の第一項の評価により∥δ(s)∥≤eLh∥w∥\lVert\delta(s)\rVert\le e^{Lh}\lVert w\rVert(0≤s≤h0\le s\le h)である。

R(s)−A(s)R(s)-A(s)を評価する。K=B‾(y0,3b/4)K=\overline B(y_0,3b/4)はVVに含まれるコンパクト集合であり、DFDFはKK上で一様連続である。ω\omegaをKK上のDFDFの連続度、すなわち

ω(r)=sup⁡{∥DF(u)−DF(v)∥: u,v∈K, ∥u−v∥≤r}\omega(r)=\sup\bigl\{\lVert DF(u)-DF(v)\rVert:\ u,v\in K,\ \lVert u-v\rVert\le r\bigr\}

とすると、一様連続性によりr→0+r\to0^+のときω(r)→0\omega(r)\to0である。σ∈[0,1]\sigma\in[0,1]に対してθ(s,y)+σδ(s)\theta(s,y)+\sigma\delta(s)はKKの二点を結ぶ線分の上にあるのでKKに属し、∥σδ(s)∥≤eLh∥w∥\lVert\sigma\delta(s)\rVert\le e^{Lh}\lVert w\rVertであるから

∥R(s)−A(s)∥≤∫01∥DF(θ(s,y)+σδ(s))−DF(θ(s,y))∥ dσ≤ω(eLh∥w∥)\bigl\lVert R(s)-A(s)\bigr\rVert \le\int_0^1\bigl\lVert DF(\theta(s,y)+\sigma\delta(s))-DF(\theta(s,y))\bigr\rVert\,d\sigma \le\omega\bigl(e^{Lh}\lVert w\rVert\bigr)

である。ρ(w)=ω(eLh∥w∥)\rho(w)=\omega\bigl(e^{Lh}\lVert w\rVert\bigr)と置くとw→0w\to0のときρ(w)→0\rho(w)\to0である。

以上を合わせると

∥η(t)∥≤∫0t(L∥η(s)∥+ρ(w)eLh∥w∥)ds\lVert\eta(t)\rVert\le\int_0^t\Bigl(L\lVert\eta(s)\rVert+\rho(w)e^{Lh}\lVert w\rVert\Bigr)ds

である。§E10.6 系 1.2をu(t)=∥η(t)∥u(t)=\lVert\eta(t)\rVert、A=0A=0、r(s)=ρ(w)eLh∥w∥r(s)=\rho(w)e^{Lh}\lVert w\rVertとして適用すると

∥η(t)∥≤∫0teL(t−s)ρ(w)eLh∥w∥ ds≤h e2Lh ρ(w) ∥w∥(0≤t≤h)\lVert\eta(t)\rVert\le\int_0^te^{L(t-s)}\rho(w)e^{Lh}\lVert w\rVert\,ds \le h\,e^{2Lh}\,\rho(w)\,\lVert w\rVert \qquad(0\le t\le h)

を得る。右辺は∥w∥\lVert w\rVertについてo(∥w∥)o(\lVert w\rVert)であり、ttに依らない。したがってz↦θ(t,z)z\mapsto\theta(t,z)はyyで全微分可能であり、全微分はΨ(t,y)\Psi(t,y)である。▨

6 ユークリッド空間における滑らかな依存

前節のΨ\Psiが(t,y)(t,y)について滑らかであることは、(u,Y)(u,Y)を状態変数とする合併系を導入すると、階数についての帰納法で得られる。

定理 6.1.kkを正の整数とする。NNを正の整数、V⊆RNV\subseteq\mathbb{R}^Nを開集合、F:V→RNF:V\to\mathbb{R}^NをC∞C^\infty写像とし、θ\thetaを対応する最大解の族とする。このとき各y0∈Vy_0\in Vに対してh>0h>0とy0y_0の開近傍O⊆VO\subseteq Vが存在して、(−h,h)×O⊆W(-h,h)\times O\subseteq\mathcal{W}であり、θ\thetaは(−h,h)×O(-h,h)\times O上でCkC^k級である。近傍のとり方はkkに依存してよい。

証明.kkについての帰納法による。主張は「すべてのNN、すべての開集合V⊆RNV\subseteq\mathbb{R}^N、すべてのC∞C^\infty写像FFについて」という形で立てる。この量化が帰納の段で必要である。

k=1k=1の場合。y0∈Vy_0\in Vを取り、補題 3.1のbb、MM、LL、hhを取る。O0=B(y0,b/2)O_0=B(y_0,b/2)と置く。

合併系を作る。V^=V×RN×N\widehat V=V\times\mathbb{R}^{N\times N}はRN+N2\mathbb{R}^{N+N^2}の開集合であり、

G:V^→RN+N2,G(u,Y)=(F(u), DF(u) Y)G:\widehat V\to\mathbb{R}^{N+N^2},\qquad G(u,Y)=\bigl(F(u),\,DF(u)\,Y\bigr)

と置く。DFDFはC∞C^\infty級であり、DF(u) YDF(u)\,Yの各成分はDFDFの成分とYYの成分の積の有限和であるから、§E17.1 補題 1.1によりGGはC∞C^\infty級である(座標への射影は線形写像でありC∞C^\infty級である)。(y,IN)(y,I_N)を初期点とするGGの最大解をΘ(⋅,(y,IN))\Theta(\cdot,(y,I_N))と書く。その第一成分はFFの方程式を満たし初期値がyyであるからθ(⋅,y)\theta(\cdot,y)に一致し、第二成分は変分方程式を満たすから補題 5.1のΨ(⋅,y)\Psi(\cdot,y)に一致する。Ψ(⋅,y)\Psi(\cdot,y)は(α(y),β(y))(\alpha(y),\beta(y))の全体で定義されるので、GGの最大解の存在区間もちょうど(α(y),β(y))(\alpha(y),\beta(y))である。

補題 4.1をGGへ適用すると、Θ\Thetaは(0,(y0,IN))(0,(y_0,I_N))のある近傍の上で連続である。したがってΨ(t,y)\Psi(t,y)は(0,y0)(0,y_0)のある近傍の上で連続である。また∂tθ(t,y)=F(θ(t,y))\partial_t\theta(t,y)=F(\theta(t,y))は連続である。命題 5.2によりθ\thetaのyyについての偏微分はΨ(t,y)\Psi(t,y)である。ゆえに、(0,y0)(0,y_0)の十分小さい近傍(−h1,h1)×O(-h_1,h_1)\times O(ただしh1≤hh_1\le h、O⊆O0O\subseteq O_0)の上でθ\thetaのすべての一階偏導関数が存在して連続である。補題 2.1によりθ\thetaはその近傍の上でC1C^1級である。

帰納の段。kkについて主張が成り立つとする。FF、y0y_0を取り、上と同じGGを作る。帰納法の仮定をGGと初期点(y0,IN)(y_0,I_N)へ適用すると、h2>0h_2>0と(y0,IN)(y_0,I_N)の開近傍O^⊆V^\widehat O\subseteq\widehat Vが存在して、Θ\Thetaは(−h2,h2)×O^(-h_2,h_2)\times\widehat O上でCkC^k級である。O^\widehat Oは積の形の近傍O1×WO_1\times W(O1O_1はy0y_0の開近傍、WWはINI_Nの開近傍)を含むので、y∈O1y\in O_1ならば(y,IN)∈O^(y,I_N)\in\widehat Oである。写像

(t,y)⟼(t,(y,IN))(t,y)\longmapsto\bigl(t,(y,I_N)\bigr)

はアフィン写像でありC∞C^\infty級であるから、§E17.1 補題 1.1により

θ(t,y)=π1Θ(t,(y,IN)),Ψ(t,y)=π2Θ(t,(y,IN))\theta(t,y)=\pi_1\Theta\bigl(t,(y,I_N)\bigr),\qquad \Psi(t,y)=\pi_2\Theta\bigl(t,(y,I_N)\bigr)

はいずれも(−h2,h2)×O1(-h_2,h_2)\times O_1上でCkC^k級である(π1,π2\pi_1,\pi_2は線形な射影である)。∂tθ=F∘θ\partial_t\theta=F\circ\thetaは、FFがC∞C^\infty級でθ\thetaがCkC^k級であるから§E17.1 補題 1.1によりCkC^k級である。

h3=min⁡{h,h2}h_3=\min\{h,h_2\}、O2=B(y0,b/2)∩O1O_2=B(y_0,b/2)\cap O_1と置く。(−h3,h3)×O2(-h_3,h_3)\times O_2の上でθ\thetaの一階偏導関数は∂tθ\partial_t\thetaとDyθ=ΨD_y\theta=\Psiであり(命題 5.2。この等式は補題 3.1のhhとB(y0,b/2)B(y_0,b/2)の上で示されている)、いずれもCkC^k級である。補題 2.1によりDθD\thetaがCkC^k級であることとθ\thetaがCk+1C^{k+1}級であることは同値であるから、θ\thetaは(−h3,h3)×O2(-h_3,h_3)\times O_2上でCk+1C^{k+1}級である。▨

注意 6.2 (近傍が階数に依存してよい理由).定理 6.1が与える近傍は、階数kkとともに小さくなりうる。したがってこの定理だけからは、(0,y0)(0,y_0)の一つの近傍の上でθ\thetaがC∞C^\infty級であることを結論することができない。この間隙は次節で閉じる。定理 7.1の証明は、各kkについて「φ\varphiがCkC^k級である点の集合」が流れの定義域D\mathcal{D}の全体に一致することを示す。D\mathcal{D}はkkに依らない一つの開集合であるから、すべてのkkについてφ\varphiがD\mathcal{D}上でCkC^k級であることが言えれば、φ\varphiはD\mathcal{D}上でC∞C^\infty級である。

7 多様体上の局所流

定理 7.1.X∈X(M)X\in\mathfrak{X}(M)とし、D\mathcal{D}とφ\varphiを定義 1.5のとおりとする。このとき次が成り立つ。

  1. D\mathcal{D}はR×M\mathbb{R}\times Mの開集合であり、各p∈Mp\in Mに対してD∩(R×{p})=Jp×{p}\mathcal{D}\cap(\mathbb{R}\times\{p\})=J_p\times\{p\}である。ここでJpJ_pは00を含む開区間である。
  2. φ:D→M\varphi:\mathcal{D}\to MはC∞C^\infty写像である。
  3. φ(0,p)=p\varphi(0,p)=pであり、群法則 φ(t,φ(s,p))=φ(t+s,p)\varphi\bigl(t,\varphi(s,p)\bigr)=\varphi(t+s,p) が、s∈Jps\in J_pかつt+s∈Jpt+s\in J_pを満たすすべての組で成り立つ。このとき左辺も定義される。
  4. 各ttに対してMtM_tはMMの開集合であり、φt:Mt→M−t\varphi_t:M_t\to M_{-t}は微分同相であって逆写像はφ−t\varphi_{-t}である。

さらに、これらの性質を持つ組(D,φ)(\mathcal{D},\varphi)であってt↦φ(t,p)t\mapsto\varphi(t,p)がppを始点とする最大積分曲線であるものは一意である。

証明.(1)の後半と一意性。D∩(R×{p})=Jp×{p}\mathcal{D}\cap(\mathbb{R}\times\{p\})=J_p\times\{p\}は定義そのものであり、JpJ_pが00を含む開区間であることは定理 1.4による。組の一意性も定理 1.4の一意性から従う。

(3)を示す。s∈Jps\in J_pとする。σ(t)=φ(t+s,p)\sigma(t)=\varphi(t+s,p)はt∈Jp−st\in J_p-sで定義され、σ′(t)=γp′(t+s)=Xγp(t+s)=Xσ(t)\sigma'(t)=\gamma_p'(t+s)=X_{\gamma_p(t+s)}=X_{\sigma(t)}を満たすからXXの積分曲線であり、σ(0)=φ(s,p)\sigma(0)=\varphi(s,p)である。定理 1.4によりJp−s⊆Jφ(s,p)J_p-s\subseteq J_{\varphi(s,p)}でありσ=γφ(s,p)∣Jp−s\sigma=\gamma_{\varphi(s,p)}|_{J_p-s}である。よってt+s∈Jpt+s\in J_pならばt∈Jφ(s,p)t\in J_{\varphi(s,p)}であり、φ(t,φ(s,p))=φ(t+s,p)\varphi(t,\varphi(s,p))=\varphi(t+s,p)である。

階数を局所的に述べる語を用意する。正の整数kkに対して、φ\varphiが点(t1,p1)∈D(t_1,p_1)\in\mathcal{D}の近傍で CkC^k級であるとは、D\mathcal{D}が(t1,p1)(t_1,p_1)のある開近傍N\mathcal{N}を含み、p1p_1の周りのチャート(U,ψ)(U,\psi)とφ(t1,p1)\varphi(t_1,p_1)の周りのチャート(U′,ψ′)(U',\psi')を取ったときに、座標表示(t,x)↦ψ′(φ(t,ψ−1(x)))(t,x)\mapsto\psi'\bigl(\varphi(t,\psi^{-1}(x))\bigr)がCkC^k級であることをいう。座標変換はC∞C^\infty級であるから、§E17.1 補題 1.1によりこの条件はチャートのとり方に依らない。

局所的な滑らかさ。q∈Mq\in Mと正の整数kkを取る。qqの周りのチャート(U,ψ)(U,\psi)を取り、V=ψ(U)V=\psi(U)、F=(X1,…,Xn)∘ψ−1F=(X^1,\dots,X^n)\circ\psi^{-1}と置く(命題 1.2)。定理 6.1により、h>0h>0とψ(q)\psi(q)の開近傍OOが存在して、Rn\mathbb{R}^nの方程式u′=F(u)u'=F(u)の最大解の族θ\thetaは(−h,h)×O(-h,h)\times O上で定義されCkC^k級である。命題 1.2により、p∈ψ−1(O)p\in\psi^{-1}(O)と∣t∣<h|t|<hに対してt↦ψ−1(θ(t,ψ(p)))t\mapsto\psi^{-1}\bigl(\theta(t,\psi(p))\bigr)はppを始点とするXXの積分曲線であるから(−h,h)×ψ−1(O)⊆D(-h,h)\times\psi^{-1}(O)\subseteq\mathcal{D}であり、その上でφ(t,p)=ψ−1(θ(t,ψ(p)))\varphi(t,p)=\psi^{-1}\bigl(\theta(t,\psi(p))\bigr)である。したがってφ\varphiは(0,q)(0,q)の近傍(−h,h)×ψ−1(O)(-h,h)\times\psi^{-1}(O)の上で定義され、CkC^k級である。

(1)の前半と(2)を示す。正の整数kkを固定し、

Dk={(t,p)∈D: φ は (t,p) の近傍で Ck 級である}\mathcal{D}_k=\bigl\{(t,p)\in\mathcal{D}:\ \varphi\ \text{は}\ (t,p)\ \text{の近傍で}\ C^k\ \text{級である}\bigr\}

と置く。Dk\mathcal{D}_kは定義からR×M\mathbb{R}\times Mの開集合である。Dk=D\mathcal{D}_k=\mathcal{D}を示す。

p∈Mp\in Mを固定し、S={t∈Jp:(t,p)∈Dk}S=\{t\in J_p:(t,p)\in\mathcal{D}_k\}と置く。前段により0∈S0\in Sである。Dk\mathcal{D}_kは開集合であるからSSはJpJ_pの相対位相で開いている。SSがJpJ_pで閉じていることを示す。τ∈Jp\tau\in J_pをSSのJpJ_pにおける触点とする。q=φ(τ,p)q=\varphi(\tau,p)に対して前段を適用し、ε>0\varepsilon>0とqqの開近傍UqU_qを、(−ε,ε)×Uq⊆Dk(-\varepsilon,\varepsilon)\times U_q\subseteq\mathcal{D}_kとなるように取る。t↦φ(t,p)t\mapsto\varphi(t,p)は連続でありφ(τ,p)=q∈Uq\varphi(\tau,p)=q\in U_qであるから、

∣τ−σ∣<εかつφ(σ,p)∈Uq|\tau-\sigma|<\varepsilon\quad\text{かつ}\quad\varphi(\sigma,p)\in U_q

を満たすσ∈S\sigma\in Sを取ることができる。(σ,p)∈Dk(\sigma,p)\in\mathcal{D}_kであるからφ\varphiは(σ,p)(\sigma,p)の近傍で連続であり、ppの開近傍OpO_pを縮めてφ(σ,Op)⊆Uq\varphi(\sigma,O_p)\subseteq U_qとすることができる。

r∈Opr\in O_pと∣t−σ∣<ε|t-\sigma|<\varepsilonに対して

φ~(t,r)=φ(t−σ,φ(σ,r))\widetilde\varphi(t,r)=\varphi\bigl(t-\sigma,\varphi(\sigma,r)\bigr)

と定める。φ(σ,r)∈Uq\varphi(\sigma,r)\in U_qかつ∣t−σ∣<ε|t-\sigma|<\varepsilonであるから右辺は定義され、CkC^k級の写像の合成として(t,r)(t,r)についてCkC^k級である(§E17.1 補題 1.1)。t↦φ~(t,r)t\mapsto\widetilde\varphi(t,r)はXXの積分曲線でありt=σt=\sigmaでφ(σ,r)\varphi(\sigma,r)を取るから、定理 1.4の一意性により(t,r)∈D(t,r)\in\mathcal{D}かつφ(t,r)=φ~(t,r)\varphi(t,r)=\widetilde\varphi(t,r)である。よって(σ−ε,σ+ε)×Op⊆Dk(\sigma-\varepsilon,\sigma+\varepsilon)\times O_p\subseteq\mathcal{D}_kである。∣τ−σ∣<ε|\tau-\sigma|<\varepsilonであるからτ∈S\tau\in Sである。

したがってSSは開区間JpJ_pの空でない開かつ閉な部分集合であり、JpJ_pは連結である(§E2.43 定義 1.1)からS=JpS=J_pである。ppは任意であったからDk=D\mathcal{D}_k=\mathcal{D}である。とくにD=D1\mathcal{D}=\mathcal{D}_1は開集合である。

kkは任意であったから、φ\varphiは開集合D\mathcal{D}の上で、すべての正の整数kkについてCkC^k級である。すなわちφ\varphiはD\mathcal{D}上でC∞C^\infty級である。

(4)を示す。MtM_tが開集合であることはD\mathcal{D}が開集合であることから従う。p∈Mtp\in M_tとするとt∈Jpt\in J_pであり、(3)により−t∈Jφ(t,p)-t\in J_{\varphi(t,p)}かつφ(−t,φ(t,p))=φ(0,p)=p\varphi(-t,\varphi(t,p))=\varphi(0,p)=pである。よってφt(Mt)⊆M−t\varphi_t(M_t)\subseteq M_{-t}でありφ−t∘φt=id⁡Mt\varphi_{-t}\circ\varphi_t=\operatorname{id}_{M_t}である。ttと−t-tを入れ替えてφt∘φ−t=id⁡M−t\varphi_t\circ\varphi_{-t}=\operatorname{id}_{M_{-t}}を得る。φt\varphi_tとφ−t\varphi_{-t}は(2)によりC∞C^\inftyであるから、φt:Mt→M−t\varphi_t:M_t\to M_{-t}は微分同相である。▨

注意 7.2 (流れの定義域は積の形とは限らない).D\mathcal{D}はR×M\mathbb{R}\times Mの開集合であるが、J×MJ\times Mという形の集合を含むとは限らない。下の例 9.2ではD={(t,x)∈R2:tx<1}\mathcal{D}=\{(t,x)\in\mathbb{R}^2:tx<1\}であり、00を含むどの開区間JJについてもJ×R⊆DJ\times\mathbb{R}\subseteq\mathcal{D}は成り立たない。

8 完備性

定義 8.1.X∈X(M)X\in\mathfrak{X}(M)が完備 (complete vector field) であるとは、D=R×M\mathcal{D}=\mathbb{R}\times Mとなること、すなわちすべてのp∈Mp\in Mに対してJp=RJ_p=\mathbb{R}となることをいう。

定理 8.2.X∈X(M)X\in\mathfrak{X}(M)の台supp⁡X={p∈M:Xp≠0}‾\operatorname{supp}X=\overline{\{p\in M:X_p\ne0\}}がコンパクトならば、XXは完備である。とくにMMがコンパクトならば、MM上のすべてのC∞C^\inftyベクトル場は完備である。

証明.K=supp⁡XK=\operatorname{supp}Xと置く。

p∉Kp\notin Kの場合、XXはppのある開近傍の上で恒等的に00であるから、定数写像t↦pt\mapsto p(t∈Rt\in\mathbb{R})はXXの積分曲線であり、定理 1.4によりJp=RJ_p=\mathbb{R}である。

p∈Kp\in Kの場合を考える。KKの各点qqに対して補題 3.1をqqの周りのチャートで適用すると、εq>0\varepsilon_q>0とqqの開近傍UqU_qであって(−εq,εq)×Uq⊆D(-\varepsilon_q,\varepsilon_q)\times U_q\subseteq\mathcal{D}となるものが存在する。KKはコンパクトであるから、有限個のq1,…,qrq_1,\dots,q_rを選んでK⊆Uq1∪⋯∪UqrK\subseteq U_{q_1}\cup\cdots\cup U_{q_r}とすることができる(§E2.19 定義 2.1)。ε=min⁡{εq1,…,εqr}>0\varepsilon=\min\{\varepsilon_{q_1},\dots,\varepsilon_{q_r}\}>0と置くと、すべてのq∈Kq\in Kに対して(−ε,ε)⊆Jq(-\varepsilon,\varepsilon)\subseteq J_qである。KKの外の点についてはJ=RJ=\mathbb{R}であったから、結局すべてのq∈Mq\in Mに対して(−ε,ε)⊆Jq(-\varepsilon,\varepsilon)\subseteq J_qである。

p∈Mp\in Mを取り、β(p)=sup⁡Jp<∞\beta(p)=\sup J_p<\inftyと仮定する。s∈Jps\in J_pをβ(p)−ε/2<s<β(p)\beta(p)-\varepsilon/2<s<\beta(p)となるように取る。定理 7.1 (3)の証明で示したとおりJp−s⊆Jφ(s,p)J_p-s\subseteq J_{\varphi(s,p)}であり、逆にJφ(s,p)+s⊆JpJ_{\varphi(s,p)}+s\subseteq J_pである(後者は同じ議論をφ(s,p)\varphi(s,p)と−s-sに対して行えば従う)。したがってJp=Jφ(s,p)+sJ_p=J_{\varphi(s,p)}+sであり、

β(p)=s+sup⁡Jφ(s,p)≥s+ε>β(p)+ε2\beta(p)=s+\sup J_{\varphi(s,p)}\ge s+\varepsilon>\beta(p)+\frac{\varepsilon}{2}

となって矛盾する。よってsup⁡Jp=∞\sup J_p=\inftyである。同様にinf⁡Jp=−∞\inf J_p=-\inftyである。▨

完備なベクトル場は、多様体の微分同相からなるR\mathbb{R}で添字づけられた族を与える。この対応を「MMの微分同相の全体がなす群へのC∞C^\infty写像」として述べることはしない。微分同相の全体がなす群は有限次元多様体ではなく、本単元が扱う多様体は有限次元である(§E17.1 定義 2.2)ので、その群へのC∞C^\infty写像を定義することができないからである。対応の相手は、次の意味の大域流である。

定義 8.3.C∞C^\infty写像θ:R×M→M\theta:\mathbb{R}\times M\to Mが MM上の大域流 (global flow onMM) であるとは、θt(p)=θ(t,p)\theta_t(p)=\theta(t,p)と書くとき

θ0=id⁡M,θt∘θs=θt+s(s,t∈R)\theta_0=\operatorname{id}_M,\qquad \theta_t\circ\theta_s=\theta_{t+s}\quad(s,t\in\mathbb{R})

が成り立つことをいう。

大域流を 1パラメータ変換群ともいう。下の定理 8.4が示すとおり、各θt\theta_tはMMの微分同相であり、t↦θtt\mapsto\theta_tは加法群R\mathbb{R}からMMの変換のなす群への準同型を与えるので、この呼び名が用いられる。本記事では、この対応を大域流の言葉で述べる。

定理 8.4.MM上の完備なC∞C^\inftyベクトル場の全体と、MM上の大域流の全体は、次の対応で一対一に対応する。

  1. 完備なX∈X(M)X\in\mathfrak{X}(M)に対して、その流れφ:R×M→M\varphi:\mathbb{R}\times M\to Mは大域流である。
  2. 大域流θ\thetaに対して Xp=ddt∣t=0θ(t,p)X_p=\left.\frac{d}{dt}\right|_{t=0}\theta(t,p) はMM上の完備なC∞C^\inftyベクトル場であり、その流れはθ\thetaである。

さらに、大域流θ\thetaの各θt\theta_tはMMの微分同相であり、逆写像はθ−t\theta_{-t}である。

証明.(1)を示す。XXが完備ならばD=R×M\mathcal{D}=\mathbb{R}\times Mであり、定理 7.1 (2)によりφ:R×M→M\varphi:\mathbb{R}\times M\to MはC∞C^\inftyである。φ0=id⁡M\varphi_0=\operatorname{id}_Mはγp(0)=p\gamma_p(0)=pによる。群法則定理 7.1 (3)は、いまやs,ts,tの制限なしにφt∘φs=φt+s\varphi_t\circ\varphi_s=\varphi_{t+s}を与える。

(2)を示す。θ\thetaを大域流とする。ιp:R→R×M\iota_p:\mathbb{R}\to\mathbb{R}\times Mをιp(t)=(t,p)\iota_p(t)=(t,p)とすると、θ∘ιp\theta\circ\iota_pはC∞C^\infty写像であるからXp=(θ∘ιp)′(0)∈TpMX_p=(\theta\circ\iota_p)'(0)\in T_pMが定まる。XXがC∞C^\infty切断であることは、チャートを取ってXXの座標成分が∂(θi∘ψ−1)/∂t\partial(\theta^i\circ\psi^{-1})/\partial tをt=0t=0で評価したものであり、θ\thetaがC∞C^\inftyであることから座標成分がC∞C^\inftyであることによる。

p∈Mp\in Mを固定しσ(t)=θ(t,p)\sigma(t)=\theta(t,p)と置く。s∈Rs\in\mathbb{R}に対して

σ′(s)=ddt∣t=0θ(t+s,p)=ddt∣t=0θ(t,θ(s,p))=Xθ(s,p)=Xσ(s)\sigma'(s)=\left.\frac{d}{dt}\right|_{t=0}\theta(t+s,p) =\left.\frac{d}{dt}\right|_{t=0}\theta\bigl(t,\theta(s,p)\bigr)=X_{\theta(s,p)}=X_{\sigma(s)}

である。ここで第二の等号に群法則を用いた。よってσ\sigmaはR\mathbb{R}全体で定義されたXXの積分曲線であり、σ(0)=θ(0,p)=p\sigma(0)=\theta(0,p)=pである。定理 1.4によりJp=RJ_p=\mathbb{R}かつφ(t,p)=θ(t,p)\varphi(t,p)=\theta(t,p)である。したがってXXは完備であり、その流れはθ\thetaである。

対応が互いに逆であること。XXからφ\varphiを作り、φ\varphiから(2)の手続きでベクトル場を作ると、ddt∣t=0φ(t,p)=γp′(0)=Xp\left.\frac{d}{dt}\right|_{t=0}\varphi(t,p)=\gamma_p'(0)=X_pであるから元のXXに戻る。逆にθ\thetaからXXを作り、XXの流れを取ると(2)の最後の主張によりθ\thetaに戻る。

各θt\theta_tが微分同相であること。θt∘θ−t=θ0=id⁡M\theta_t\circ\theta_{-t}=\theta_0=\operatorname{id}_Mとθ−t∘θt=id⁡M\theta_{-t}\circ\theta_t=\operatorname{id}_Mが群法則から従い、θt\theta_tとθ−t\theta_{-t}はC∞C^\inftyである。▨

9 例

例 9.1 (定数ベクトル場と回転を生成するベクトル場).M=RnM=\mathbb{R}^n、v∈Rnv\in\mathbb{R}^nを固定し、Xp=vX_p=v(標準座標が定める同一視のもとで)と置く。φ(t,p)=p+tv\varphi(t,p)=p+tvはφ(0,p)=p\varphi(0,p)=pとddtφ(t,p)=v\frac{d}{dt}\varphi(t,p)=vを満たすからXXの積分曲線を与え、R\mathbb{R}全体で定義される。よってXXは完備でありD=R×Rn\mathcal{D}=\mathbb{R}\times\mathbb{R}^nである。

M=R2M=\mathbb{R}^2、X=−y∂∂x+x∂∂yX=-y\frac{\partial}{\partial x}+x\frac{\partial}{\partial y}とする。

φ(t,(x,y))=(xcos⁡t−ysin⁡t, xsin⁡t+ycos⁡t)\varphi\bigl(t,(x,y)\bigr)=(x\cos t-y\sin t,\ x\sin t+y\cos t)

と置くと、ttについて微分して

ddtφ(t,(x,y))=(−xsin⁡t−ycos⁡t, xcos⁡t−ysin⁡t)\frac{d}{dt}\varphi\bigl(t,(x,y)\bigr)=(-x\sin t-y\cos t,\ x\cos t-y\sin t)

である。一方、φ(t,(x,y))=(ξ,η)\varphi(t,(x,y))=(\xi,\eta)と書くとX(ξ,η)=(−η,ξ)=(−(xsin⁡t+ycos⁡t), xcos⁡t−ysin⁡t)X_{(\xi,\eta)}=(-\eta,\xi)=(-(x\sin t+y\cos t),\ x\cos t-y\sin t)であり、両者は一致する。φ(0,(x,y))=(x,y)\varphi(0,(x,y))=(x,y)であるからφ\varphiはXXの流れであり、XXは完備である。台はコンパクトでないので、定理 8.2の逆は成り立たない。

例 9.2 (完備でないベクトル場と変分方程式の検算).M=RM=\mathbb{R}、X=x2ddxX=x^2\frac{d}{dx}とする。座標表示の方程式はu′=u2u'=u^2である。

θ(t,x)=x1−tx\theta(t,x)=\frac{x}{1-tx}

と置くとθ(0,x)=x\theta(0,x)=xであり、

∂tθ(t,x)=x⋅x(1−tx)2=(x1−tx)2=θ(t,x)2\partial_t\theta(t,x)=\frac{x\cdot x}{(1-tx)^2}=\left(\frac{x}{1-tx}\right)^2=\theta(t,x)^2

であるからθ(⋅,x)\theta(\cdot,x)は解である。x>0x>0のとき定義区間は(−∞,1/x)(-\infty,1/x)、x<0x<0のとき(1/x,∞)(1/x,\infty)、x=0x=0のときR\mathbb{R}であり、いずれの場合も端点で∣θ∣→∞|\theta|\to\inftyとなるのでこれが最大存在区間である。したがって

D={(t,x)∈R2: tx<1}\mathcal{D}=\{(t,x)\in\mathbb{R}^2:\ tx<1\}

であり、XXは完備でない。D\mathcal{D}は開集合であり、定理 7.1 (1)と整合する。

変分方程式を検算する。補題 5.1の記号でF(u)=u2F(u)=u^2、DF(u)=2uDF(u)=2uであるから、変分方程式はY′=2θ(t,x)YY'=2\theta(t,x)Y、Y(0)=1Y(0)=1である。

∫0t2θ(s,x) ds=∫0t2x1−sx ds=−2log⁡(1−tx)\int_0^t2\theta(s,x)\,ds=\int_0^t\frac{2x}{1-sx}\,ds=-2\log(1-tx)

であるからΨ(t,x)=exp⁡(−2log⁡(1−tx))=(1−tx)−2\Psi(t,x)=\exp\bigl(-2\log(1-tx)\bigr)=(1-tx)^{-2}である。一方、θ\thetaをxxについて直接微分すると

∂θ∂x(t,x)=(1−tx)−x⋅(−t)(1−tx)2=1(1−tx)2\frac{\partial\theta}{\partial x}(t,x)=\frac{(1-tx)-x\cdot(-t)}{(1-tx)^2}=\frac{1}{(1-tx)^2}

であり、命題 5.2の主張どおり両者は一致する。

例 9.3 (台がコンパクトなベクトル場).M=RM=\mathbb{R}とし、χ∈C∞(R)\chi\in C^\infty(\mathbb{R})を[−1,1][-1,1]上でχ≡1\chi\equiv1、[−2,2][-2,2]の外でχ≡0\chi\equiv0、0≤χ≤10\le\chi\le1を満たすものとする(§E17.2 命題 1.5)。X=χ(x)x2ddxX=\chi(x)x^2\frac{d}{dx}の台は[−2,2][-2,2]に含まれるコンパクト集合であるから、定理 8.2によりXXは完備である。前の例のx2ddxx^2\frac{d}{dx}は完備でないので、完備性は多様体の外側での挙動によって定まり、局所的な形だけでは決まらない。

M=(0,1)M=(0,1)、X=ddxX=\frac{d}{dx}とすると、p∈(0,1)p\in(0,1)を始点とする最大積分曲線はγp(t)=p+t\gamma_p(t)=p+t(t∈(−p,1−p)t\in(-p,1-p))でありJp≠RJ_p\ne\mathbb{R}である。XXの台は(0,1)(0,1)の全体であり、(0,1)(0,1)の中でコンパクトでない。

10 演習

問題 10.1.

  1. 補題 3.1の証明では、β(y)≤h\beta(y)\le hと仮定して§E10.5 定理 5.4を適用した。この適用のために確かめる必要があるのは、解のグラフがある一つのコンパクト集合に含まれることである。証明のどの不等式がこれを与えるか、またそのコンパクト集合がΩ=R×V\Omega=\mathbb{R}\times Vに含まれることをどこで使ったかを述べよ。
  2. 命題 5.2の証明で、η′(t)=A(t)η(t)+(R(t)−A(t))δ(t)\eta'(t)=A(t)\eta(t)+\bigl(R(t)-A(t)\bigr)\delta(t)という分け方をした。この分け方をせずにη′(t)=R(t)δ(t)−A(t)Ψ(t,y)w\eta'(t)=R(t)\delta(t)-A(t)\Psi(t,y)wのまま Grönwall の不等式を適用しようとすると、どこで議論が止まるかを説明せよ。
  3. 定理 6.1の帰納法の主張は「すべての次元NN、すべての開集合VV、すべてのC∞C^\infty写像FFについて」という形で立てられている。次元NNを固定した主張では帰納が回らない理由を、帰納の段で導入する合併系GGの定義域に即して述べよ。
  4. 定理 7.1の証明では、S={t∈Jp:(t,p)∈D∞}S=\{t\in J_p:(t,p)\in\mathcal{D}_\infty\}がJpJ_pで閉じていることを、群法則とq=φ(τ,p)q=\varphi(\tau,p)の近くでの局所的な滑らかさから導いた。この議論を、時刻を逆向きに取った場合(τ<0\tau<0)についてそのまま書き下せ。
  5. 定理 8.2の証明で、ε\varepsilonをKKのコンパクト性から取った。supp⁡X\operatorname{supp}Xがコンパクトであるという仮定を「XXが有界な座標成分を持つ」に置き換えると結論が成り立たないことを、例 9.2のどの部分を修正すれば示すことができるかを含めて説明せよ。
  6. 定理 8.4 (2)では、σ′(s)=Xσ(s)\sigma'(s)=X_{\sigma(s)}を示すために群法則を用いた。群法則を仮定せず、θ0=id⁡M\theta_0=\operatorname{id}_Mとθ\thetaのC∞C^\infty性だけから同じ結論を導くことができない理由を、反例を一つ構成して示せ。

11 境界と次

滑らかさの階数。本記事の証明は、ベクトル場がC∞C^\inftyであることをCkC^k級の各段で用いている。ベクトル場がCkC^k(kkは正の整数)であるにとどまる場合、定理 6.1の帰納はkk段で止まり、流れはCkC^k級であることまでしか得られない。合併系GGの右辺はDFDFを含むので、右辺の階数は元のベクトル場より一つ下がるためである。

局所 Lipschitz 版の Picard–Lindelöf の定理。§E10.4 系 4.1は、閉管状領域の上での一様な Lipschitz 定数を仮定した形で述べられている。本記事は、その形で適用することができるように、補題 1.3で閉球の上の一様な Lipschitz 定数を明示的に取った。

完備性の他の十分条件。台のコンパクト性は完備性の十分条件であって必要条件ではない(例 9.1)。Lie 群の左不変ベクトル場が完備であることは、台のコンパクト性ではなく左移動によって定義域を延ばす議論から従う。この主張は「1パラメータ部分群と指数写像」が扱う。

流れが与える構成。本記事が構成した流れは、次の三つの場面で用いられる。「Lie 微分と括弧積の自然性」は流れによる引き戻しの微分として Lie 微分を定義する。「可積分分布と Frobenius の定理」は複数のベクトル場の流れを合成して平坦チャートを作る。「内部積・Cartan の公式・Poincaré の補題」は微分形式に対する Lie 微分を同じ形で定義する。いずれも、流れが時刻と初期点の両方についてC∞C^\inftyであることを使う。

扱わない事項。流れの長時間の挙動、不動点の安定性、周期軌道、および力学系の分類は本単元の範囲外である。ベクトル場のパラメータへの依存も扱わない。本記事が証明したのは、初期点についての滑らかさだけである。

参考文献

  1. John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, New York, 2013.積分曲線、流れ、完備性および1パラメータ変換群の扱いを参考にした。
  2. Philip Hartman, Ordinary Differential Equations, 2nd ed., Classics in Applied Mathematics, Society for Industrial and Applied Mathematics, Philadelphia, 2002.初期値に関する微分可能性と変分方程式の構成を参考にした。
  3. Frank W. Warner, Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups, Graduate Texts in Mathematics 94, Springer, 1983, originally published 1971.ベクトル場と局所1パラメータ群の対応を参考にした。

前提記事