1 ベクトル場と積分曲線
ベクトル場は接束のC∞切断として定義され、関数環C∞(M)上の導分として作用する(§E17.4 定理 5.3)。M上のC∞ベクトル場の全体をX(M)と書く。
曲線の速度ベクトルを先に定める。J⊆Rを開区間とすると、Jは1次元C∞多様体であり、標準座標sが定める接空間の基底をdsdt∈TtJと書く(§E17.3 定理 3.3)。
定義 1.1.J⊆Rを開区間、γ:J→MをC∞写像とする。t∈Jにおけるγの速度ベクトル (velocity vector) を
γ′(t)=dγt(dsdt)∈Tγ(t)Mで定める。
X∈X(M)とする。C∞写像γ:J→M(Jは開区間)がXの積分曲線 (integral curve) であるとは、すべてのt∈Jに対して
γ′(t)=Xγ(t)が成り立つことをいう。0∈Jかつγ(0)=pであるとき、γをpを始点とする (starting at a point) 積分曲線という。
積分曲線であるという条件は、チャートを取ると常微分方程式になる。
命題 1.2.(U,φ)をMのチャート、φ=(x1,…,xn)とし、X∈X(M)のU上の座標表示を
X∣U=i=1∑nXi∂xi∂,Xi∈C∞(U)とする。F=(F1,…,Fn):φ(U)→RnをFi=Xi∘φ−1で定めると、FはC∞である。Jを開区間、γ:J→UをC∞写像とし、u=φ∘γと置く。このときγがXの積分曲線であることと、uがJ上で
u′(t)=F(u(t))を満たすことは同値である。
証明.FがC∞であることは、XiがU上のC∞関数でありφ−1がC∞であることによる(§E17.1 定義 4.1)。
t∈Jを固定する。連鎖律(§E17.3 定理 5.3)により
dφγ(t)(γ′(t))=d(φ∘γ)t(dsdt)=u′(t)である。ここで右辺のu′(t)は、Rnの標準座標が定める基底のもとでTu(t)RnをRnと同一視して書いたものであり、成分は通常の一変数の導関数((u1)′(t),…,(un)′(t))である。一方
dφγ(t)(Xγ(t))=(X1(γ(t)),…,Xn(γ(t)))=F(u(t))である。dφγ(t)は線形同型であるから、γ′(t)=Xγ(t)とu′(t)=F(u(t))は同値である。t∈Jは任意であったから、主張が従う。▨
「常微分方程式」が供給する定理を適用するためには、右辺Fが連続であることに加えて局所 Lipschitz
連続であることが要る。FはC∞であるからこの条件を満たす。以下でその評価を明示的に取る。
以下、Rnの元uに対して∥u∥2=∑i=1n(ui)2と書き、B(a,r)={u∈Rn:∥u−a∥≤r}、B(a,r)={u∈Rn:∥u−a∥<r}と書く。行列に対する∥⋅∥opはこのノルムから定まる作用素ノルム(§E4.2 定義 1.3)である。これらはいずれも座標空間Rnの上で固定した量であって、多様体の上に計量を与えるものではない。本記事では、閉球と開球を指定すること、および評価の定数を取ることにだけ用いる。
補題 1.3.V⊆Rnを開集合、F:V→RnをC1級とし、B(y0,b)⊆Vとする。L=maxy∈B(y0,b)∥DF(y)∥opと置くと、
∥F(u)−F(v)∥≤L∥u−v∥(u,v∈B(y0,b))が成り立つ。とくにFはV上で局所 Lipschitz 連続である。
証明.B(y0,b)はコンパクトであり∥DF(⋅)∥opは連続であるからLは有限である。u,v∈B(y0,b)とすると、閉球は凸であるから線分[v,u]はB(y0,b)⊆Vに含まれる。§E4.3 定理 2.1をM=Lとして適用すれば主張を得る。▨
したがって§E10.4 系 4.1と§E10.5 定理 5.3を適用することができる。
定理 1.4.X∈X(M)とし、p∈Mとする。0を含む開区間Jpと、pを始点とするXの積分曲線γp:Jp→Mであって次を満たすものが、ちょうど一つ存在する。pを始点とするXの任意の積分曲線σ:J→Mに対してJ⊆Jpかつσ=γp∣Jである。
証明. 一意性の核となる主張を先に示す。σ:J→Mとτ:J′→MをXの積分曲線とし、J∩J′が空でない区間であって、あるt0∈J∩J′でσ(t0)=τ(t0)であるとする。このときσ=τがJ∩J′の全体で成り立つ。実際、
A={t∈J∩J′:σ(t)=τ(t)}と置く。Aは空でない。Mは Hausdorff であり(§E17.1 定義 2.2、「位相空間論 I」の§E2.15 定義 1.2)、σとτは連続であるから、AはJ∩J′の相対位相で閉じている。Aが開いていることを示す。t1∈Aとし、q=σ(t1)=τ(t1)の周りのチャート(U,φ)を取る。σとτは連続であるから、t1を含む開区間I⊆J∩J′でσ(I)⊆Uかつτ(I)⊆Uとなるものが存在する。命題 1.2によりφ∘σとφ∘τはI上で同じ常微分方程式u′=F(u)を満たし、t1で同じ値を取る。FはC∞であり、補題 1.3により局所 Lipschitz 連続であるから、§E10.5 補題 5.2によりφ∘σ=φ∘τがI上で成り立つ。φは単射であるからI⊆Aである。よってAはJ∩J′の相対位相で開いている。区間J∩J′は連結である(§E2.43 定義 1.1)からA=J∩J′である。
存在を示す。pを始点とするXの積分曲線の全体を{σλ:Jλ→M}λ∈Λとする。pの周りのチャートを取り、命題 1.2と§E10.4 系 4.1を適用すると、0を含む開区間上の積分曲線が少なくとも一つ存在するのでΛは空でない。Jp=⋃λJλと置くと、Jpは0を含む開区間である。t∈Jpに対してt∈Jλとなるλを選びγp(t)=σλ(t)と定める。別のμを選んでも、Jλ∩Jμは0を含む区間であり両者は0でpに一致するので、上で示した一意性によりσλ=σμがJλ∩Jμ上で成り立つ。したがってγpは選び方に依らずに定まる。各t∈Jpの近くでγpはあるσλと一致するので、γpはC∞でありXの積分曲線である。定義からJλ⊆Jpかつσλ=γp∣Jλである。
一意性を示す。同じ性質を持つ(J~p,γ~p)があれば、互いに相手を延長するのでJp=J~pかつγp=γ~pである。▨
定義 1.5.X∈X(M)とする。定理 1.4の記号のもとで
D={(t,p)∈R×M: t∈Jp},φ(t,p)=γp(t)と定める。DをXの流れの定義域 (domain of the flow)、φ:D→MをXの流れ (flow) という。t∈Rに対してMt={p∈M:(t,p)∈D}と置き、φt:Mt→Mをφt(p)=φ(t,p)で定める。
2 高階の微分可能性についての補題
初期点についての滑らかさの証明は、Ck級であることを偏導関数で判定する主張と、Ck級の写像の和・積・合成がふたたびCk級であるという主張を繰り返し用いる。後者は§E17.1 補題 1.1としてすでに証明されているので、そのまま引用する。前者は上流にも単元内にも対応する主張が無いので、ここで自給する。以下、U⊆Rnは開集合とし、Ck級は§E4.4 定義 1.4の意味で用いる。L(Rn;Rm)を行列の空間Rm×nと標準的に同一視する。この同一視は有限次元ノルム空間の間の線形同型であり、線形同型との合成は微分の階数を変えないので、Ck級であるかどうかを変えない。
補題 2.1.kを正の整数、f=(f1,…,fm):U→Rmとする。次は同値である。
- fはCk級である。
- fの各成分fiについて、k次以下のすべての反復偏導関数がU上で存在し、連続である。
さらに、k≥1に対して次が成り立つ。fがCk級であることと、fがUの各点で全微分可能であってDf:U→Rm×nがCk−1級であることは同値である(C0級は連続であることを意味するものとする)。また、fがCk級であることと、各成分fiがCk級であることは同値である。
証明. 成分についての主張を先に示す。Djf(x)[h1,…,hj]の第i成分はDjfi(x)[h1,…,hj]であり、作用素ノルムについて
∥Djfi(x)∥≤∥Djf(x)∥≤l=1∑m∥Djfl(x)∥が成り立つ。したがってDjfが存在して連続であることと、すべてのDjfiが存在して連続であることは同値である。
条件 (a)⇒(b)を示す。fがCk級ならば、§E4.4 命題 1.6により1≤j≤kと添字i1,…,ijに対して
(∂ij∘⋯∘∂i1)fl(x)=Djfl(x)[ei1,…,eij]が成り立つ。右辺はxについて連続であるから、j次の反復偏導関数は存在して連続である。
条件 (b)⇒(a)を示す。kについての帰納法による。k=1とする。仮定によりすべての∂jfiがU上で存在して連続であるから、§E4.2 定理 2.1によりfはUの各点で全微分可能であり、Df(x)は Jacobi 行列である。行列A=(aij)について∥A∥op≤∑i=1m∑j=1n∣aij∣であるから、成分が連続であればDfは作用素ノルムについて連続である。よってfはC1級である。
k≥2とし、k−1について主張が成り立つとする。仮定はk=1の場合の仮定を含むので、fはC1級でありDfの成分は∂jfiである。∂jfiのk−1次以下の反復偏導関数はfiのk次以下の反復偏導関数であるから、存在して連続である。帰納法の仮定によりDf:U→Rm×nはCk−1級である。§E4.4 定義 1.4の定義における同一視ιjは有限次元ノルム空間のあいだの線形同型であり(§E4.4 命題 1.3)、有限次元ノルム空間のあいだの線形写像は連続であるから、ιjは逆写像とともに連続である。したがって1≤j≤kに対してDjfが存在して連続であることと、0≤j−1≤k−1に対してDj−1(Df)が存在して連続であることは同値である。よってfはCk級である。
最後の主張を示す。いま示した同値は、fがCk級であることとDfが存在してCk−1級であることの同値をそのまま与えている。▨
3 初期点に一様な存在時間
以下、V⊆Rnを開集合、F:V→RnをC∞写像とし、自励系
u′(t)=F(u(t))
を扱う。「常微分方程式」の枠組みへ合わせるため、Ω=R×Vと置きf(t,y)=F(y)とする。fは連続であり、補題 1.3により状態変数について局所
Lipschitz 連続である。したがって§E10.4 系 4.1、§E10.5 定理 5.3、§E10.5 定理 5.4をこの自励系へ適用することができる。y∈Vに対して、初期条件u(0)=yをもつ最大解をθ(⋅,y):(α(y),β(y))→Vと書き、
W={(t,y)∈R×V: α(y)<t<β(y)}
と置く。
方程式が自励系であることから、次の平行移動則が成り立つ。s∈(α(y),β(y))とすると、t↦θ(t+s,y)は初期条件u(0)=θ(s,y)をもつ解であり、定義区間を平行移動して戻すことで最大性も従う。したがって
α(θ(s,y))=α(y)−s,β(θ(s,y))=β(y)−s,θ(t,θ(s,y))=θ(t+s,y)(1)
が、左辺の定義される範囲で成り立つ。
証明.y∈B(y0,b/2)を固定する。まず正の時刻について示す。
A={t∈[0,min{h,β(y)}): ∥θ(s,y)−y∥≤4b がすべての s∈[0,t] で成り立つ}と置く。0∈Aである。t∈Aとすると、s∈[0,t]に対してθ(s,y)∈B(y,b/4)⊆B(y0,3b/4)⊆B(y0,b)であるから∥F(θ(s,y))∥≤Mであり、積分方程式θ(t,y)=y+∫0tF(θ(s,y))dsから
∥θ(t,y)−y∥≤Mt≤Mh≤4M+4Mb<4b(2)を得る。τ=supAと置く。τ<min{h,β(y)}と仮定すると、θ(⋅,y)の連続性と不等式 (2) により∥θ(τ,y)−y∥≤Mb/(4M+4)<b/4であり、さらに連続性からε>0が存在してs∈[0,τ+ε]で∥θ(s,y)−y∥≤b/4が成り立つ。これはτ=supAに反する。したがってτ=min{h,β(y)}であり、A=[0,min{h,β(y)})である。
ここでβ(y)≤hと仮定する。このときβ(y)<∞であり、上の結論から
(t,θ(t,y))∈K=[0,h]×B(y0,3b/4)(0≤t<β(y))が成り立つ。KはΩ=R×Vに含まれるコンパクト集合であるから、§E10.5 定理 5.4により解はβ(y)を越えて延長することができ、最大性に反する。したがってβ(y)>hである。そのうえでA=[0,h)であるから、0≤t<hに対して∥θ(t,y)−y∥≤Mtが成り立ち、連続性によりt=hでも成り立つ。
負の時刻については、F~=−Fに対する最大解がt↦θ(−t,y)であることに注意して同じ議論を適用すれば、α(y)<−hと∥θ(t,y)−y∥≤M∣t∣(−h≤t≤0)を得る。
最後に、∥θ(t,y)−y0∥≤∥θ(t,y)−y∥+∥y−y0∥≤b/4+b/2=3b/4である。▨
4 流れの連続性
補題 4.1.V⊆Rnを開集合、F:V→RnをC∞写像とし、θを自励系u′=F(u)の最大解の族とする。y0、b、M、L、hを補題 3.1のとおりに取る。このときt,s∈[−h,h]とy,z∈B(y0,b/2)に対して
∥θ(t,y)−θ(s,z)∥≤eLh∥y−z∥+M∣t−s∣が成り立つ。とくにθは[−h,h]×B(y0,b/2)上で連続である。
証明. 三角不等式により∥θ(t,y)−θ(s,z)∥≤∥θ(t,y)−θ(t,z)∥+∥θ(t,z)−θ(s,z)∥である。
第一項を評価する。t≥0とする。J=[0,h]、D=B(y0,3b/4)と置くと、補題 3.1によりθ(⋅,y)とθ(⋅,z)はいずれもJ上で定義されDに値を取る。Dは凸でありB(y0,b)に含まれるので、補題 1.3によりFはD上で Lipschitz 定数Lを持つ。§E10.6 系 4.3を初期時刻0に対して適用すると
∥θ(t,y)−θ(t,z)∥≤eLt∥y−z∥≤eLh∥y−z∥を得る。t<0のときはF~=−Fに対して同じ評価を適用すればよい。
第二項を評価する。θ(⋅,z)の値はB(y0,3b/4)に含まれるから∥F(θ(σ,z))∥≤Mであり、θ(t,z)−θ(s,z)=∫stF(θ(σ,z))dσから∥θ(t,z)−θ(s,z)∥≤M∣t−s∣を得る。▨
5 変分方程式と初期点についての微分可能性
初期点についての微分の候補を、線形の常微分方程式の解として先に用意する。
補題 5.1.V⊆Rnを開集合、F:V→RnをC∞写像とし、θを自励系u′=F(u)の最大解の族、(α(y),β(y))をθ(⋅,y)の最大存在区間とする。y∈Vとする。A(t)=DF(θ(t,y))と置くとA:(α(y),β(y))→Rn×nは連続であり、行列に値を持つ初期値問題
Y′(t)=A(t)Y(t),Y(0)=Inは(α(y),β(y))の全体で定義された一意な解を持つ。この解をΨ(⋅,y)と書く。
証明.DFは連続でありθ(⋅,y)は連続であるからAは連続である。行列に値を持つ方程式を列ごとに分けると、各列はRnに値を持つ線形系Y′=A(t)Yの初期値問題になる。§E10.7 系 1.2を開区間I=(α(y),β(y))へ適用すると、各列の解はIの全体で一意に存在する。▨
命題 5.2.V⊆Rnを開集合、F:V→RnをC∞写像とし、θを自励系u′=F(u)の最大解の族、Ψを補題 5.1の変分方程式の解とする。y0、b、M、L、hを補題 3.1のとおりに取り、∥y−y0∥<b/2とする。このとき、∣t∣≤hを満たす各tについて写像z↦θ(t,z)はyで全微分可能であり、その全微分はΨ(t,y)である。さらに剰余の評価はtについて一様であり、
∣t∣≤hsupθ(t,y+w)−θ(t,y)−Ψ(t,y)w≤he2Lhρ(w)∥w∥が、∥w∥が十分小さいすべてのwについて成り立つ。ここでρ(w)はw→0のとき0へ収束する量である。
証明.∥w∥をy+w∈B(y0,b/2)となるほど小さく取る。0≤t≤hの場合を示す。負の時刻についてはF~=−Fに対して同じ議論を行えばよい。
δ(t)=θ(t,y+w)−θ(t,y),η(t)=δ(t)−Ψ(t,y)wと置く。η(0)=0である。補題 3.1によりθ(t,y),θ(t,y+w)∈B(y0,3b/4)であり、この閉球は凸でVに含まれる。したがって線分[θ(t,y),θ(t,y+w)]はこの閉球に含まれる。§E4.5 定理 1.1をr=0としてFの各成分へ適用し、成分をまとめると
F(θ(t,y+w))−F(θ(t,y))=R(t)δ(t),R(t)=∫01DF(θ(t,y)+σδ(t))dσを得る。一方A(t)=DF(θ(t,y))でありΨ(⋅,y)は変分方程式を満たすから
η′(t)=R(t)δ(t)−A(t)Ψ(t,y)w=A(t)(δ(t)−Ψ(t,y)w)+(R(t)−A(t))δ(t)=A(t)η(t)+(R(t)−A(t))δ(t)である。積分して
∥η(t)∥≤∫0t(L∥η(s)∥+R(s)−A(s)∥δ(s)∥)dsを得る。ここでθ(s,y)∈B(y0,b)であるから∥A(s)∥≤Lである。
δを評価する。補題 4.1の第一項の評価により∥δ(s)∥≤eLh∥w∥(0≤s≤h)である。
R(s)−A(s)を評価する。K=B(y0,3b/4)はVに含まれるコンパクト集合であり、DFはK上で一様連続である。ωをK上のDFの連続度、すなわち
ω(r)=sup{∥DF(u)−DF(v)∥: u,v∈K, ∥u−v∥≤r}とすると、一様連続性によりr→0+のときω(r)→0である。σ∈[0,1]に対してθ(s,y)+σδ(s)はKの二点を結ぶ線分の上にあるのでKに属し、∥σδ(s)∥≤eLh∥w∥であるから
R(s)−A(s)≤∫01DF(θ(s,y)+σδ(s))−DF(θ(s,y))dσ≤ω(eLh∥w∥)である。ρ(w)=ω(eLh∥w∥)と置くとw→0のときρ(w)→0である。
以上を合わせると
∥η(t)∥≤∫0t(L∥η(s)∥+ρ(w)eLh∥w∥)dsである。§E10.6 系 1.2をu(t)=∥η(t)∥、A=0、r(s)=ρ(w)eLh∥w∥として適用すると
∥η(t)∥≤∫0teL(t−s)ρ(w)eLh∥w∥ds≤he2Lhρ(w)∥w∥(0≤t≤h)を得る。右辺は∥w∥についてo(∥w∥)であり、tに依らない。したがってz↦θ(t,z)はyで全微分可能であり、全微分はΨ(t,y)である。▨
6 ユークリッド空間における滑らかな依存
前節のΨが(t,y)について滑らかであることは、(u,Y)を状態変数とする合併系を導入すると、階数についての帰納法で得られる。
定理 6.1.kを正の整数とする。Nを正の整数、V⊆RNを開集合、F:V→RNをC∞写像とし、θを対応する最大解の族とする。このとき各y0∈Vに対してh>0とy0の開近傍O⊆Vが存在して、(−h,h)×O⊆Wであり、θは(−h,h)×O上でCk級である。近傍のとり方はkに依存してよい。
証明.kについての帰納法による。主張は「すべてのN、すべての開集合V⊆RN、すべてのC∞写像Fについて」という形で立てる。この量化が帰納の段で必要である。
k=1の場合。y0∈Vを取り、補題 3.1のb、M、L、hを取る。O0=B(y0,b/2)と置く。
合併系を作る。V=V×RN×NはRN+N2の開集合であり、
G:V→RN+N2,G(u,Y)=(F(u),DF(u)Y)と置く。DFはC∞級であり、DF(u)Yの各成分はDFの成分とYの成分の積の有限和であるから、§E17.1 補題 1.1によりGはC∞級である(座標への射影は線形写像でありC∞級である)。(y,IN)を初期点とするGの最大解をΘ(⋅,(y,IN))と書く。その第一成分はFの方程式を満たし初期値がyであるからθ(⋅,y)に一致し、第二成分は変分方程式を満たすから補題 5.1のΨ(⋅,y)に一致する。Ψ(⋅,y)は(α(y),β(y))の全体で定義されるので、Gの最大解の存在区間もちょうど(α(y),β(y))である。
補題 4.1をGへ適用すると、Θは(0,(y0,IN))のある近傍の上で連続である。したがってΨ(t,y)は(0,y0)のある近傍の上で連続である。また∂tθ(t,y)=F(θ(t,y))は連続である。命題 5.2によりθのyについての偏微分はΨ(t,y)である。ゆえに、(0,y0)の十分小さい近傍(−h1,h1)×O(ただしh1≤h、O⊆O0)の上でθのすべての一階偏導関数が存在して連続である。補題 2.1によりθはその近傍の上でC1級である。
帰納の段。kについて主張が成り立つとする。F、y0を取り、上と同じGを作る。帰納法の仮定をGと初期点(y0,IN)へ適用すると、h2>0と(y0,IN)の開近傍O⊆Vが存在して、Θは(−h2,h2)×O上でCk級である。Oは積の形の近傍O1×W(O1はy0の開近傍、WはINの開近傍)を含むので、y∈O1ならば(y,IN)∈Oである。写像
(t,y)⟼(t,(y,IN))はアフィン写像でありC∞級であるから、§E17.1 補題 1.1により
θ(t,y)=π1Θ(t,(y,IN)),Ψ(t,y)=π2Θ(t,(y,IN))はいずれも(−h2,h2)×O1上でCk級である(π1,π2は線形な射影である)。∂tθ=F∘θは、FがC∞級でθがCk級であるから§E17.1 補題 1.1によりCk級である。
h3=min{h,h2}、O2=B(y0,b/2)∩O1と置く。(−h3,h3)×O2の上でθの一階偏導関数は∂tθとDyθ=Ψであり(命題 5.2。この等式は補題 3.1のhとB(y0,b/2)の上で示されている)、いずれもCk級である。補題 2.1によりDθがCk級であることとθがCk+1級であることは同値であるから、θは(−h3,h3)×O2上でCk+1級である。▨
7 多様体上の局所流
定理 7.1.X∈X(M)とし、Dとφを定義 1.5のとおりとする。このとき次が成り立つ。
- DはR×Mの開集合であり、各p∈Mに対してD∩(R×{p})=Jp×{p}である。ここでJpは0を含む開区間である。
- φ:D→MはC∞写像である。
- φ(0,p)=pであり、群法則
φ(t,φ(s,p))=φ(t+s,p)
が、s∈Jpかつt+s∈Jpを満たすすべての組で成り立つ。このとき左辺も定義される。
- 各tに対してMtはMの開集合であり、φt:Mt→M−tは微分同相であって逆写像はφ−tである。
さらに、これらの性質を持つ組(D,φ)であってt↦φ(t,p)がpを始点とする最大積分曲線であるものは一意である。
証明.(1)の後半と一意性。D∩(R×{p})=Jp×{p}は定義そのものであり、Jpが0を含む開区間であることは定理 1.4による。組の一意性も定理 1.4の一意性から従う。
(3)を示す。s∈Jpとする。σ(t)=φ(t+s,p)はt∈Jp−sで定義され、σ′(t)=γp′(t+s)=Xγp(t+s)=Xσ(t)を満たすからXの積分曲線であり、σ(0)=φ(s,p)である。定理 1.4によりJp−s⊆Jφ(s,p)でありσ=γφ(s,p)∣Jp−sである。よってt+s∈Jpならばt∈Jφ(s,p)であり、φ(t,φ(s,p))=φ(t+s,p)である。
階数を局所的に述べる語を用意する。正の整数kに対して、φが点(t1,p1)∈Dの近傍で Ck級であるとは、Dが(t1,p1)のある開近傍Nを含み、p1の周りのチャート(U,ψ)とφ(t1,p1)の周りのチャート(U′,ψ′)を取ったときに、座標表示(t,x)↦ψ′(φ(t,ψ−1(x)))がCk級であることをいう。座標変換はC∞級であるから、§E17.1 補題 1.1によりこの条件はチャートのとり方に依らない。
局所的な滑らかさ。q∈Mと正の整数kを取る。qの周りのチャート(U,ψ)を取り、V=ψ(U)、F=(X1,…,Xn)∘ψ−1と置く(命題 1.2)。定理 6.1により、h>0とψ(q)の開近傍Oが存在して、Rnの方程式u′=F(u)の最大解の族θは(−h,h)×O上で定義されCk級である。命題 1.2により、p∈ψ−1(O)と∣t∣<hに対してt↦ψ−1(θ(t,ψ(p)))はpを始点とするXの積分曲線であるから(−h,h)×ψ−1(O)⊆Dであり、その上でφ(t,p)=ψ−1(θ(t,ψ(p)))である。したがってφは(0,q)の近傍(−h,h)×ψ−1(O)の上で定義され、Ck級である。
(1)の前半と(2)を示す。正の整数kを固定し、
Dk={(t,p)∈D: φ は (t,p) の近傍で Ck 級である}と置く。Dkは定義からR×Mの開集合である。Dk=Dを示す。
p∈Mを固定し、S={t∈Jp:(t,p)∈Dk}と置く。前段により0∈Sである。Dkは開集合であるからSはJpの相対位相で開いている。SがJpで閉じていることを示す。τ∈JpをSのJpにおける触点とする。q=φ(τ,p)に対して前段を適用し、ε>0とqの開近傍Uqを、(−ε,ε)×Uq⊆Dkとなるように取る。t↦φ(t,p)は連続でありφ(τ,p)=q∈Uqであるから、
∣τ−σ∣<εかつφ(σ,p)∈Uqを満たすσ∈Sを取ることができる。(σ,p)∈Dkであるからφは(σ,p)の近傍で連続であり、pの開近傍Opを縮めてφ(σ,Op)⊆Uqとすることができる。
r∈Opと∣t−σ∣<εに対して
φ(t,r)=φ(t−σ,φ(σ,r))と定める。φ(σ,r)∈Uqかつ∣t−σ∣<εであるから右辺は定義され、Ck級の写像の合成として(t,r)についてCk級である(§E17.1 補題 1.1)。t↦φ(t,r)はXの積分曲線でありt=σでφ(σ,r)を取るから、定理 1.4の一意性により(t,r)∈Dかつφ(t,r)=φ(t,r)である。よって(σ−ε,σ+ε)×Op⊆Dkである。∣τ−σ∣<εであるからτ∈Sである。
したがってSは開区間Jpの空でない開かつ閉な部分集合であり、Jpは連結である(§E2.43 定義 1.1)からS=Jpである。pは任意であったからDk=Dである。とくにD=D1は開集合である。
kは任意であったから、φは開集合Dの上で、すべての正の整数kについてCk級である。すなわちφはD上でC∞級である。
(4)を示す。Mtが開集合であることはDが開集合であることから従う。p∈Mtとするとt∈Jpであり、(3)により−t∈Jφ(t,p)かつφ(−t,φ(t,p))=φ(0,p)=pである。よってφt(Mt)⊆M−tでありφ−t∘φt=idMtである。tと−tを入れ替えてφt∘φ−t=idM−tを得る。φtとφ−tは(2)によりC∞であるから、φt:Mt→M−tは微分同相である。▨
注意 7.2 (流れの定義域は積の形とは限らない).DはR×Mの開集合であるが、J×Mという形の集合を含むとは限らない。下の例 9.2ではD={(t,x)∈R2:tx<1}であり、0を含むどの開区間JについてもJ×R⊆Dは成り立たない。
8 完備性
定義 8.1.X∈X(M)が完備 (complete vector field) であるとは、D=R×Mとなること、すなわちすべてのp∈Mに対してJp=Rとなることをいう。
定理 8.2.X∈X(M)の台suppX={p∈M:Xp=0}がコンパクトならば、Xは完備である。とくにMがコンパクトならば、M上のすべてのC∞ベクトル場は完備である。
証明.K=suppXと置く。
p∈/Kの場合、Xはpのある開近傍の上で恒等的に0であるから、定数写像t↦p(t∈R)はXの積分曲線であり、定理 1.4によりJp=Rである。
p∈Kの場合を考える。Kの各点qに対して補題 3.1をqの周りのチャートで適用すると、εq>0とqの開近傍Uqであって(−εq,εq)×Uq⊆Dとなるものが存在する。Kはコンパクトであるから、有限個のq1,…,qrを選んでK⊆Uq1∪⋯∪Uqrとすることができる(§E2.19 定義 2.1)。ε=min{εq1,…,εqr}>0と置くと、すべてのq∈Kに対して(−ε,ε)⊆Jqである。Kの外の点についてはJ=Rであったから、結局すべてのq∈Mに対して(−ε,ε)⊆Jqである。
p∈Mを取り、β(p)=supJp<∞と仮定する。s∈Jpをβ(p)−ε/2<s<β(p)となるように取る。定理 7.1 (3)の証明で示したとおりJp−s⊆Jφ(s,p)であり、逆にJφ(s,p)+s⊆Jpである(後者は同じ議論をφ(s,p)と−sに対して行えば従う)。したがってJp=Jφ(s,p)+sであり、
β(p)=s+supJφ(s,p)≥s+ε>β(p)+2εとなって矛盾する。よってsupJp=∞である。同様にinfJp=−∞である。▨
完備なベクトル場は、多様体の微分同相からなるRで添字づけられた族を与える。この対応を「Mの微分同相の全体がなす群へのC∞写像」として述べることはしない。微分同相の全体がなす群は有限次元多様体ではなく、本単元が扱う多様体は有限次元である(§E17.1 定義 2.2)ので、その群へのC∞写像を定義することができないからである。対応の相手は、次の意味の大域流である。
定義 8.3.C∞写像θ:R×M→Mが M上の大域流 (global flow onM) であるとは、θt(p)=θ(t,p)と書くとき
θ0=idM,θt∘θs=θt+s(s,t∈R)が成り立つことをいう。
大域流を 1パラメータ変換群ともいう。下の定理 8.4が示すとおり、各θtはMの微分同相であり、t↦θtは加法群RからMの変換のなす群への準同型を与えるので、この呼び名が用いられる。本記事では、この対応を大域流の言葉で述べる。
定理 8.4.M上の完備なC∞ベクトル場の全体と、M上の大域流の全体は、次の対応で一対一に対応する。
- 完備なX∈X(M)に対して、その流れφ:R×M→Mは大域流である。
- 大域流θに対して
Xp=dtdt=0θ(t,p)
はM上の完備なC∞ベクトル場であり、その流れはθである。
さらに、大域流θの各θtはMの微分同相であり、逆写像はθ−tである。
証明.(1)を示す。Xが完備ならばD=R×Mであり、定理 7.1 (2)によりφ:R×M→MはC∞である。φ0=idMはγp(0)=pによる。群法則定理 7.1 (3)は、いまやs,tの制限なしにφt∘φs=φt+sを与える。
(2)を示す。θを大域流とする。ιp:R→R×Mをιp(t)=(t,p)とすると、θ∘ιpはC∞写像であるからXp=(θ∘ιp)′(0)∈TpMが定まる。XがC∞切断であることは、チャートを取ってXの座標成分が∂(θi∘ψ−1)/∂tをt=0で評価したものであり、θがC∞であることから座標成分がC∞であることによる。
p∈Mを固定しσ(t)=θ(t,p)と置く。s∈Rに対して
σ′(s)=dtdt=0θ(t+s,p)=dtdt=0θ(t,θ(s,p))=Xθ(s,p)=Xσ(s)である。ここで第二の等号に群法則を用いた。よってσはR全体で定義されたXの積分曲線であり、σ(0)=θ(0,p)=pである。定理 1.4によりJp=Rかつφ(t,p)=θ(t,p)である。したがってXは完備であり、その流れはθである。
対応が互いに逆であること。Xからφを作り、φから(2)の手続きでベクトル場を作ると、dtdt=0φ(t,p)=γp′(0)=Xpであるから元のXに戻る。逆にθからXを作り、Xの流れを取ると(2)の最後の主張によりθに戻る。
各θtが微分同相であること。θt∘θ−t=θ0=idMとθ−t∘θt=idMが群法則から従い、θtとθ−tはC∞である。▨
9 例
例 9.1 (定数ベクトル場と回転を生成するベクトル場).M=Rn、v∈Rnを固定し、Xp=v(標準座標が定める同一視のもとで)と置く。φ(t,p)=p+tvはφ(0,p)=pとdtdφ(t,p)=vを満たすからXの積分曲線を与え、R全体で定義される。よってXは完備でありD=R×Rnである。
M=R2、X=−y∂x∂+x∂y∂とする。
φ(t,(x,y))=(xcost−ysint, xsint+ycost)と置くと、tについて微分して
dtdφ(t,(x,y))=(−xsint−ycost, xcost−ysint)である。一方、φ(t,(x,y))=(ξ,η)と書くとX(ξ,η)=(−η,ξ)=(−(xsint+ycost), xcost−ysint)であり、両者は一致する。φ(0,(x,y))=(x,y)であるからφはXの流れであり、Xは完備である。台はコンパクトでないので、定理 8.2の逆は成り立たない。
例 9.2 (完備でないベクトル場と変分方程式の検算).M=R、X=x2dxdとする。座標表示の方程式はu′=u2である。
θ(t,x)=1−txxと置くとθ(0,x)=xであり、
∂tθ(t,x)=(1−tx)2x⋅x=(1−txx)2=θ(t,x)2であるからθ(⋅,x)は解である。x>0のとき定義区間は(−∞,1/x)、x<0のとき(1/x,∞)、x=0のときRであり、いずれの場合も端点で∣θ∣→∞となるのでこれが最大存在区間である。したがって
D={(t,x)∈R2: tx<1}であり、Xは完備でない。Dは開集合であり、定理 7.1 (1)と整合する。
変分方程式を検算する。補題 5.1の記号でF(u)=u2、DF(u)=2uであるから、変分方程式はY′=2θ(t,x)Y、Y(0)=1である。
∫0t2θ(s,x)ds=∫0t1−sx2xds=−2log(1−tx)であるからΨ(t,x)=exp(−2log(1−tx))=(1−tx)−2である。一方、θをxについて直接微分すると
∂x∂θ(t,x)=(1−tx)2(1−tx)−x⋅(−t)=(1−tx)21であり、命題 5.2の主張どおり両者は一致する。
例 9.3 (台がコンパクトなベクトル場).M=Rとし、χ∈C∞(R)を[−1,1]上でχ≡1、[−2,2]の外でχ≡0、0≤χ≤1を満たすものとする(§E17.2 命題 1.5)。X=χ(x)x2dxdの台は[−2,2]に含まれるコンパクト集合であるから、定理 8.2によりXは完備である。前の例のx2dxdは完備でないので、完備性は多様体の外側での挙動によって定まり、局所的な形だけでは決まらない。
M=(0,1)、X=dxdとすると、p∈(0,1)を始点とする最大積分曲線はγp(t)=p+t(t∈(−p,1−p))でありJp=Rである。Xの台は(0,1)の全体であり、(0,1)の中でコンパクトでない。
10 演習
問題 10.1.
- 補題 3.1の証明では、β(y)≤hと仮定して§E10.5 定理 5.4を適用した。この適用のために確かめる必要があるのは、解のグラフがある一つのコンパクト集合に含まれることである。証明のどの不等式がこれを与えるか、またそのコンパクト集合がΩ=R×Vに含まれることをどこで使ったかを述べよ。
- 命題 5.2の証明で、η′(t)=A(t)η(t)+(R(t)−A(t))δ(t)という分け方をした。この分け方をせずにη′(t)=R(t)δ(t)−A(t)Ψ(t,y)wのまま Grönwall の不等式を適用しようとすると、どこで議論が止まるかを説明せよ。
- 定理 6.1の帰納法の主張は「すべての次元N、すべての開集合V、すべてのC∞写像Fについて」という形で立てられている。次元Nを固定した主張では帰納が回らない理由を、帰納の段で導入する合併系Gの定義域に即して述べよ。
- 定理 7.1の証明では、S={t∈Jp:(t,p)∈D∞}がJpで閉じていることを、群法則とq=φ(τ,p)の近くでの局所的な滑らかさから導いた。この議論を、時刻を逆向きに取った場合(τ<0)についてそのまま書き下せ。
- 定理 8.2の証明で、εをKのコンパクト性から取った。suppXがコンパクトであるという仮定を「Xが有界な座標成分を持つ」に置き換えると結論が成り立たないことを、例 9.2のどの部分を修正すれば示すことができるかを含めて説明せよ。
- 定理 8.4 (2)では、σ′(s)=Xσ(s)を示すために群法則を用いた。群法則を仮定せず、θ0=idMとθのC∞性だけから同じ結論を導くことができない理由を、反例を一つ構成して示せ。
11 境界と次
滑らかさの階数。本記事の証明は、ベクトル場がC∞であることをCk級の各段で用いている。ベクトル場がCk(kは正の整数)であるにとどまる場合、定理 6.1の帰納はk段で止まり、流れはCk級であることまでしか得られない。合併系Gの右辺はDFを含むので、右辺の階数は元のベクトル場より一つ下がるためである。
局所 Lipschitz 版の Picard–Lindelöf の定理。§E10.4 系 4.1は、閉管状領域の上での一様な Lipschitz 定数を仮定した形で述べられている。本記事は、その形で適用することができるように、補題 1.3で閉球の上の一様な Lipschitz 定数を明示的に取った。
完備性の他の十分条件。台のコンパクト性は完備性の十分条件であって必要条件ではない(例 9.1)。Lie 群の左不変ベクトル場が完備であることは、台のコンパクト性ではなく左移動によって定義域を延ばす議論から従う。この主張は「1パラメータ部分群と指数写像」が扱う。
流れが与える構成。本記事が構成した流れは、次の三つの場面で用いられる。「Lie 微分と括弧積の自然性」は流れによる引き戻しの微分として Lie 微分を定義する。「可積分分布と Frobenius の定理」は複数のベクトル場の流れを合成して平坦チャートを作る。「内部積・Cartan の公式・Poincaré の補題」は微分形式に対する Lie 微分を同じ形で定義する。いずれも、流れが時刻と初期点の両方についてC∞であることを使う。
扱わない事項。流れの長時間の挙動、不動点の安定性、周期軌道、および力学系の分類は本単元の範囲外である。ベクトル場のパラメータへの依存も扱わない。本記事が証明したのは、初期点についての滑らかさだけである。