§E17.3接空間と微分写像

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多様体の上で微分を行うためには、各点に線形空間を用意し、滑らかな写像にその線形空間のあいだの線形写像を対応させなければならない。Rn\mathbb{R}^nの場合には、全微分が線形写像Rm→Rn\mathbb{R}^m\to\mathbb{R}^nを与える。多様体では、始域と終域を座標に依らない形で用意する必要がある。

本記事は、点ppにおける接ベクトルを、C∞(M)C^\infty(M)の上のR\mathbb{R}線形写像であってppにおける Leibniz 則を満たすもの、すなわち導分として定義する。この定義は座標を用いないので、座標のとり方に依らないことが定義から明らかである。一方、接空間の次元を計算するには座標を使わなければならない。そこで最初に、導分が局所的であること、すなわちppの近傍で消える関数に対する値が00であることを、「1の分割の構成」で作った山型関数によって証明する。この局所性によって初めて、C∞(M)C^\infty(M)の上の導分をチャートの定義域の上の関数へ制限することができ、座標による計算が可能になる。

そのうえで、座標が定めるnn個の導分が接空間の基底をなすことを Hadamard の補題によって証明し、曲線の同値類による定義が同じ空間を与えることを示す。最後に、滑らかな写像の微分を線形写像として定義し、連鎖律を導いて、座標表示が Jacobi 行列であることを確かめる。

座標成分の変換則によって接ベクトルを記述する流儀は、接束の貼り合わせを準備するものであるから、「接束・余接束とテンソル場」で扱う。

本記事では、多様体、極大アトラス、滑らかな写像および開部分多様体を「可微分多様体の定義」が定めた形で用い、山型関数を「1の分割の構成」から引用する。Rn\mathbb{R}^nの開集合の上の微分と積分に関する事実は「実解析 II」から、コンパクト性に関する事実は「位相空間論 I」から引用する。

1 点における導分

定義 1.1.MMをC∞C^\infty多様体、p∈Mp\in Mとする。写像v ⁣:C∞(M)→Rv\colon C^\infty(M)\to\mathbb{R}が ppにおける導分 (derivation atpp) であるとは、次の二つが成り立つことをいう。

  1. vvはR\mathbb{R}線形である。すなわち、すべてのf,g∈C∞(M)f,g\in C^\infty(M)とa,b∈Ra,b\in\mathbb{R}に対してv(af+bg)=av(f)+bv(g)v(af+bg)=av(f)+bv(g)である。
  2. すべてのf,g∈C∞(M)f,g\in C^\infty(M)に対して Leibniz 則 v(fg)=v(f) g(p)+f(p) v(g)v(fg)=v(f)\,g(p)+f(p)\,v(g) が成り立つ。

ppにおける導分をppにおける接ベクトル (tangent vector) という。ppにおける導分の全体は、点ごとの和とスカラー倍によってR\mathbb{R}上の線形空間になる。この線形空間をMMのppにおける接空間 (tangent space) といい、TpMT_pMと書く。

補題 1.2.v∈TpMv\in T_pMとし、c∈Rc\in\mathbb{R}に対してc∈C∞(M)\mathbf{c}\in C^\infty(M)を値が定数ccの関数とする。このときv(c)=0v(\mathbf{c})=0である。

証明.1\mathbf{1}を値が11の定数関数とすると1=1⋅1\mathbf{1}=\mathbf{1}\cdot\mathbf{1}であるから、Leibniz 則により

v(1)=v(1)⋅1+1⋅v(1)=2v(1)v(\mathbf{1})=v(\mathbf{1})\cdot 1+1\cdot v(\mathbf{1})=2v(\mathbf{1})

でありv(1)=0v(\mathbf{1})=0である。c=c 1\mathbf{c}=c\,\mathbf{1}であるから線形性によりv(c)=c v(1)=0v(\mathbf{c})=c\,v(\mathbf{1})=0である。▨

定義 1.1はMM全体で定義された関数への作用として接ベクトルを定めている。一方、座標関数xix^iはチャートの定義域の上でしか定義されていないので、そのままではv(xi)v(x^i)を書くことができない。この隔たりを埋めるのが次の局所性である。

補題 1.3.MMをC∞C^\infty多様体、p∈Mp\in M、v∈TpMv\in T_pMとする。

  1. f∈C∞(M)f\in C^\infty(M)がppを含むある開集合の上で恒等的に00であるならばv(f)=0v(f)=0である。
  2. f,g∈C∞(M)f,g\in C^\infty(M)がppを含むある開集合の上で一致するならばv(f)=v(g)v(f)=v(g)である。

証明.(1)を示す。ffが恒等的に00になるppの開近傍をW0W_0とする。§E17.2 命題 1.5をV=W0V=W_0として適用し、C∞C^\infty関数χ ⁣:M→[0,1]\chi\colon M\to[0,1]で、ppを含むある開集合の上でχ≡1\chi\equiv 1であり、supp⁡χ⊆W0\operatorname{supp}\chi\subseteq W_0を満たすものを取る。

積χf\chi fはMM上で恒等的に00である。実際、q∈W0q\in W_0ならばf(q)=0f(q)=0であり、q∉W0q\notin W_0ならばq∉supp⁡χq\notin\operatorname{supp}\chiであるからχ(q)=0\chi(q)=0である。したがってv(χf)=v(0)=0v(\chi f)=v(\mathbf{0})=0である(補題 1.2)。一方、Leibniz 則により

v(χf)=v(χ) f(p)+χ(p) v(f)=v(χ)⋅0+1⋅v(f)=v(f)v(\chi f)=v(\chi)\,f(p)+\chi(p)\,v(f)=v(\chi)\cdot 0+1\cdot v(f)=v(f)

である。ここでp∈W0p\in W_0よりf(p)=0f(p)=0であり、χ(p)=1\chi(p)=1である。よってv(f)=0v(f)=0である。

(2)は、f−gf-gがppの近傍で恒等的に00であることに(1)を適用し、線形性を用いれば従う。▨

命題 1.4.MMをC∞C^\infty多様体、U⊆MU\subseteq Mを開集合、p∈Up\in Uとし、UUを開部分多様体と見る(§E17.1 命題 7.1)。v∈TpMv\in T_pMとf∈C∞(U)f\in C^\infty(U)に対し、ppを含むある開集合の上で11に等しくsupp⁡χ⊆U\operatorname{supp}\chi\subseteq UがコンパクトであるC∞C^\infty関数χ ⁣:M→[0,1]\chi\colon M\to[0,1]を取り、χf\chi fをM∖supp⁡χM\setminus\operatorname{supp}\chiの上で00として延長した関数をEχ(f)∈C∞(M)E_\chi(f)\in C^\infty(M)と書く。

(ΛU(v))(f)=v(Eχ(f))\bigl(\Lambda_U(v)\bigr)(f)=v\bigl(E_\chi(f)\bigr)

と定めると、右辺はχ\chiのとり方に依らず、ΛU ⁣:TpM→TpU\Lambda_U\colon T_pM\to T_pUは線形同型である。その逆写像はw↦(g↦w(g∣U))w\mapsto\bigl(g\mapsto w(g|_U)\bigr)で与えられる。

証明. 最初にEχ(f)E_\chi(f)がMM上のC∞C^\infty関数であることを確かめる。supp⁡χ\operatorname{supp}\chiはコンパクトでありMMは Hausdorff であるから閉集合であり、supp⁡χ⊆U\operatorname{supp}\chi\subseteq UであるからU∪(M∖supp⁡χ)=MU\cup(M\setminus\operatorname{supp}\chi)=Mである。UUの上ではχ∣Uf\chi|_UfがC∞C^\infty、M∖supp⁡χM\setminus\operatorname{supp}\chiの上では00がC∞C^\inftyであり、重なりの上ではどちらも00に等しい。よって§E17.1 命題 4.2によりEχ(f)∈C∞(M)E_\chi(f)\in C^\infty(M)である。

χ\chiのとり方に依らないことを示す。χ\chi、χ′\chi'を条件を満たす二つの関数とし、χ≡1\chi\equiv 1となる開集合とχ′≡1\chi'\equiv 1となる開集合の交わりをWWとすると、WWはppを含む開集合であり、WWの上でEχ(f)=f=Eχ′(f)E_\chi(f)=f=E_{\chi'}(f)である。補題 1.3 (2)によりv(Eχ(f))=v(Eχ′(f))v(E_\chi(f))=v(E_{\chi'}(f))である。

ΛU(v)\Lambda_U(v)がTpUT_pUの元であることを示す。線形性はEχE_\chiが線形であることから従う。Leibniz 則については、f,g∈C∞(U)f,g\in C^\infty(U)に対して一つのχ\chiを固定すると、Eχ(fg)E_\chi(fg)とEχ(f)Eχ(g)E_\chi(f)E_\chi(g)はともにχ≡1\chi\equiv 1となる開集合の上でfgfgに等しい。補題 1.3により

ΛU(v)(fg)=v(Eχ(f)Eχ(g))=v(Eχ(f)) Eχ(g)(p)+Eχ(f)(p) v(Eχ(g))\Lambda_U(v)(fg)=v\bigl(E_\chi(f)E_\chi(g)\bigr) =v(E_\chi(f))\,E_\chi(g)(p)+E_\chi(f)(p)\,v(E_\chi(g))

であり、Eχ(f)(p)=f(p)E_\chi(f)(p)=f(p)、Eχ(g)(p)=g(p)E_\chi(g)(p)=g(p)であるから右辺はΛU(v)(f)g(p)+f(p)ΛU(v)(g)\Lambda_U(v)(f)g(p)+f(p)\Lambda_U(v)(g)に等しい。ΛU\Lambda_Uが線形であることは定義から明らかである。

P ⁣:TpU→TpMP\colon T_pU\to T_pMをP(w)(g)=w(g∣U)P(w)(g)=w(g|_U)で定める。g↦g∣Ug\mapsto g|_Uは環の準同型であるからP(w)P(w)はTpMT_pMの元であり、PPは線形である。

P∘ΛU=id⁡P\circ\Lambda_U=\operatorname{id}を示す。v∈TpMv\in T_pM、g∈C∞(M)g\in C^\infty(M)とすると

P(ΛU(v))(g)=ΛU(v)(g∣U)=v(Eχ(g∣U))P(\Lambda_U(v))(g)=\Lambda_U(v)(g|_U)=v\bigl(E_\chi(g|_U)\bigr)

である。Eχ(g∣U)E_\chi(g|_U)はMM上の関数χg\chi gに等しく、χ≡1\chi\equiv 1となる開集合の上でggと一致する。補題 1.3によりv(χg)=v(g)v(\chi g)=v(g)である。

ΛU∘P=id⁡\Lambda_U\circ P=\operatorname{id}を示す。w∈TpUw\in T_pU、f∈C∞(U)f\in C^\infty(U)とすると

ΛU(P(w))(f)=P(w)(Eχ(f))=w(Eχ(f)∣U)=w(χ∣Uf)\Lambda_U(P(w))(f)=P(w)\bigl(E_\chi(f)\bigr)=w\bigl(E_\chi(f)|_U\bigr)=w(\chi|_Uf)

である。χ∣Uf\chi|_Ufはχ≡1\chi\equiv1となる開集合の上でffと一致する。UUもまたC∞C^\infty多様体であるから補題 1.3をUUに適用してw(χ∣Uf)=w(f)w(\chi|_Uf)=w(f)を得る。▨

注意 1.5 (接空間の同一視の約束). 以後、ppを含む開集合UUに対して命題 1.4の同型ΛU\Lambda_UによってTpMT_pMとTpUT_pUを同一視する。この約束のもとで、UUの上でだけ定義されたC∞C^\infty関数ffに対してv(f)v(f)と書くことができ、その値はffのppの近傍における様子だけで決まる。

2 Hadamard の補題

座標基底が接空間を張ることを示すために、C∞C^\infty関数を一次の項と残りに分解する補題を用意する。分解に現れる係数関数がC∞C^\inftyであることが要点であり、そのためにパラメータを含む積分の滑らかさを先に示す。

補題 2.1.Ω⊆Rn\Omega\subseteq\mathbb{R}^nを開集合、Φ ⁣:Ω×[0,1]→R\Phi\colon\Omega\times[0,1]\to\mathbb{R}とする。すべての多重指数γ\gammaに対して、第一変数に関する反復偏導関数∂xγΦ\partial_x^{\gamma}\PhiがΩ×[0,1]\Omega\times[0,1]上で存在して連続であるとする。このとき

G(x)=∫01Φ(x,t) dtG(x)=\int_0^1\Phi(x,t)\,dt

はΩ\Omega上のC∞C^\infty関数であり、すべてのγ\gammaに対して∂γG(x)=∫01∂xγΦ(x,t) dt\partial^{\gamma}G(x)=\int_0^1\partial_x^{\gamma}\Phi(x,t)\,dtが成り立つ。

証明. 最初に次の主張を示す。Ψ ⁣:Ω×[0,1]→R\Psi\colon\Omega\times[0,1]\to\mathbb{R}を連続関数、x0∈Ωx_0\in\Omega、ε>0\varepsilon>0とすると、δ>0\delta>0が存在して、∥x−x0∥<δ\lVert x-x_0\rVert<\deltaかつx∈Ωx\in\Omegaを満たすすべてのxxとすべてのt∈[0,1]t\in[0,1]に対して∣Ψ(x,t)−Ψ(x0,t)∣<ε|\Psi(x,t)-\Psi(x_0,t)|<\varepsilonが成り立つ。実際、各t∈[0,1]t\in[0,1]に対してΨ\Psiの(x0,t)(x_0,t)における連続性により、δt>0\delta_t>0とηt>0\eta_t>0が存在して、∥y−x0∥<δt\lVert y-x_0\rVert<\delta_tかつ∣s−t∣<ηt|s-t|<\eta_tならば∣Ψ(y,s)−Ψ(x0,t)∣<ε/2|\Psi(y,s)-\Psi(x_0,t)|<\varepsilon/2となる。区間{(t−ηt,t+ηt)}t∈[0,1]\{(t-\eta_t,t+\eta_t)\}_{t\in[0,1]}は[0,1][0,1]の開被覆であるから、§E2.19 定義 2.1により有限個のt1,…,tqt_1,\dots,t_qで覆うことができる。δ=min⁡(δt1,…,δtq)\delta=\min(\delta_{t_1},\dots,\delta_{t_q})と置く。∥x−x0∥<δ\lVert x-x_0\rVert<\deltaとt∈[0,1]t\in[0,1]を取り、t∈(tl−ηtl,tl+ηtl)t\in(t_l-\eta_{t_l},t_l+\eta_{t_l})を満たすllを選ぶと

∣Ψ(x,t)−Ψ(x0,t)∣≤∣Ψ(x,t)−Ψ(x0,tl)∣+∣Ψ(x0,tl)−Ψ(x0,t)∣<ε2+ε2=ε|\Psi(x,t)-\Psi(x_0,t)|\le|\Psi(x,t)-\Psi(x_0,t_l)|+|\Psi(x_0,t_l)-\Psi(x_0,t)|<\frac{\varepsilon}{2}+\frac{\varepsilon}{2}=\varepsilon

である。

この主張から、連続関数Ψ\Psiに対してx↦∫01Ψ(x,t) dtx\mapsto\int_0^1\Psi(x,t)\,dtは連続である。差の絶対値がε\varepsilon以下になるからである。

次に、1≤i≤n1\le i\le nに対して∂iG(x)=∫01∂xiΦ(x,t) dt\partial_iG(x)=\int_0^1\partial_{x^i}\Phi(x,t)\,dtを示す。x∈Ωx\in\Omegaを取り、Br(x)⊆ΩB_r(x)\subseteq\Omegaを満たすr>0r>0を取る。0<∣s∣<r0<|s|<rに対して

G(x+sei)−G(x)s−∫01∂xiΦ(x,t) dt=∫01[Φ(x+sei,t)−Φ(x,t)s−∂xiΦ(x,t)]dt\frac{G(x+se_i)-G(x)}{s}-\int_0^1\partial_{x^i}\Phi(x,t)\,dt =\int_0^1\left[\frac{\Phi(x+se_i,t)-\Phi(x,t)}{s}-\partial_{x^i}\Phi(x,t)\right]dt

である。ttを固定し、一変数関数τ↦Φ(x+τei,t)\tau\mapsto\Phi(x+\tau e_i,t)に平均値の定理を適用すると、00とssの間のτs,t\tau_{s,t}が存在して

Φ(x+sei,t)−Φ(x,t)s=∂xiΦ(x+τs,tei,t)\frac{\Phi(x+se_i,t)-\Phi(x,t)}{s}=\partial_{x^i}\Phi(x+\tau_{s,t}e_i,t)

が成り立つ。∂xiΦ\partial_{x^i}\Phiは連続であるから、上の主張をΨ=∂xiΦ\Psi=\partial_{x^i}\Phiに適用すると、ε>0\varepsilon>0に対してδ∈(0,r)\delta\in(0,r)が存在して、∥y−x∥<δ\lVert y-x\rVert<\deltaとすべてのttに対して∣∂xiΦ(y,t)−∂xiΦ(x,t)∣<ε|\partial_{x^i}\Phi(y,t)-\partial_{x^i}\Phi(x,t)|<\varepsilonとなる。0<∣s∣<δ0<|s|<\deltaならば∣τs,t∣<δ|\tau_{s,t}|<\deltaであるから、被積分関数の絶対値はε\varepsilonより小さい。したがって差の絶対値はε\varepsilon以下であり、s→0s\to 0の極限が存在して主張の等式が成り立つ。

∂xγΦ\partial_x^{\gamma}\Phiもまた仮定を満たすので、この操作を繰り返すことができ、すべての多重指数γ\gammaに対して∂γG(x)=∫01∂xγΦ(x,t) dt\partial^{\gamma}G(x)=\int_0^1\partial_x^{\gamma}\Phi(x,t)\,dtが成り立ち、右辺は最初の主張により連続である。§E17.2 補題 6.1によりGGはC∞C^\infty級である。▨

補題 2.2 (Hadamard の補題).Ω⊆Rn\Omega\subseteq\mathbb{R}^nを、原点について星型な開集合とする。すなわち0∈Ω0\in\Omegaであり、x∈Ωx\in\Omegaとt∈[0,1]t\in[0,1]に対してtx∈Ωtx\in\Omegaが成り立つとする。F∈C∞(Ω)F\in C^\infty(\Omega)とすると、G1,…,Gn∈C∞(Ω)G_1,\dots,G_n\in C^\infty(\Omega)が存在して

F(x)=F(0)+∑i=1nxiGi(x)(x∈Ω),Gi(0)=∂iF(0)F(x)=F(0)+\sum_{i=1}^{n}x^{i}G_i(x)\qquad(x\in\Omega), \qquad G_i(0)=\partial_iF(0)

が成り立つ。

証明.Gi(x)=∫01∂iF(tx) dtG_i(x)=\displaystyle\int_0^1\partial_iF(tx)\,dtと定める。星型性によりtx∈Ωtx\in\Omegaであるから右辺は定まる。

GiG_iの滑らかさを示す。Φi(x,t)=∂iF(tx)\Phi_i(x,t)=\partial_iF(tx)と置くと、Φi\Phi_iはΩ×[0,1]\Omega\times[0,1]上で定まり、連鎖律により多重指数γ\gammaに対して∂xγΦi(x,t)=t∣γ∣ (∂γ∂iF)(tx)\partial_x^{\gamma}\Phi_i(x,t)=t^{|\gamma|}\,(\partial^{\gamma}\partial_iF)(tx)である。∂γ∂iF\partial^{\gamma}\partial_iFは連続であり(x,t)↦tx(x,t)\mapsto txも連続であるから、∂xγΦi\partial_x^{\gamma}\Phi_iは連続である。補題 2.1によりGi∈C∞(Ω)G_i\in C^\infty(\Omega)である。

分解の等式を示す。x∈Ωx\in\Omegaを固定する。線分{tx∣0≤t≤1}\{tx\mid 0\le t\le 1\}はコンパクトでありΩ\Omegaに含まれるから、その各点を中心とするΩ\Omegaに含まれる開球を取り、コンパクト性により有限個を選んでその合併を取れば、線分の近傍がΩ\Omegaに含まれる。したがって§E4.5 定理 1.1をr=0r=0、a=0a=0、h=xh=xとして適用することができ、

F(x)=F(0)+∫01DF(tx)[x] dt=F(0)+∑i=1nxi∫01∂iF(tx) dtF(x)=F(0)+\int_0^1 DF(tx)[x]\,dt=F(0)+\sum_{i=1}^{n}x^{i}\int_0^1\partial_iF(tx)\,dt

を得る。ここで二番目の等号はDF(y)[x]=∑i=1nxi∂iF(y)DF(y)[x]=\sum_{i=1}^{n}x^{i}\partial_iF(y)と、有限和と積分の交換による。よって求める等式が成り立つ。

最後にGi(0)=∫01∂iF(0) dt=∂iF(0)G_i(0)=\int_0^1\partial_iF(0)\,dt=\partial_iF(0)である。▨

3 座標基底と接空間の次元

定義 3.1.MMをnn次元C∞C^\infty多様体、(U,φ)(U,\varphi)をMMの可微分構造に属するチャート、p∈Up\in Uとする。φ\varphiの成分をx1,…,xnx^1,\dots,x^nと書く。すなわちxi=pr⁡i∘φ∈C∞(U)x^i=\operatorname{pr}_i\circ\varphi\in C^\infty(U)である。1≤i≤n1\le i\le nに対して

∂∂xi∣p(f)=∂i(f∘φ−1)(φ(p))(f∈C∞(U))\frac{\partial}{\partial x^i}\Big|_p(f)=\partial_i\bigl(f\circ\varphi^{-1}\bigr)\bigl(\varphi(p)\bigr) \qquad\bigl(f\in C^\infty(U)\bigr)

と定める。この対応を、チャート(U,φ)(U,\varphi)がppにおいて定める座標ベクトル (coordinate vector) という。

補題 3.2.MMをnn次元C∞C^\infty多様体、(U,φ)(U,\varphi)をチャート、p∈Up\in Uとする。定義 3.1の∂/∂xi∣p\partial/\partial x^i|_pはTpUT_pUの元である。

証明.R\mathbb{R}線形性は、f↦f∘φ−1f\mapsto f\circ\varphi^{-1}がR\mathbb{R}線形であることと、偏微分がR\mathbb{R}線形であることから従う。Leibniz 則を示す。f,g∈C∞(U)f,g\in C^\infty(U)に対して(fg)∘φ−1=(f∘φ−1)(g∘φ−1)(fg)\circ\varphi^{-1}=(f\circ\varphi^{-1})(g\circ\varphi^{-1})であるから、積の偏微分法により

∂i((fg)∘φ−1)=∂i(f∘φ−1) (g∘φ−1)+(f∘φ−1) ∂i(g∘φ−1)\partial_i\bigl((fg)\circ\varphi^{-1}\bigr) =\partial_i(f\circ\varphi^{-1})\,(g\circ\varphi^{-1})+(f\circ\varphi^{-1})\,\partial_i(g\circ\varphi^{-1})

が成り立つ。両辺をφ(p)\varphi(p)で評価し、(g∘φ−1)(φ(p))=g(p)(g\circ\varphi^{-1})(\varphi(p))=g(p)と(f∘φ−1)(φ(p))=f(p)(f\circ\varphi^{-1})(\varphi(p))=f(p)を用いると

∂∂xi∣p(fg)=∂∂xi∣p(f) g(p)+f(p) ∂∂xi∣p(g)\frac{\partial}{\partial x^i}\Big|_p(fg) =\frac{\partial}{\partial x^i}\Big|_p(f)\,g(p)+f(p)\,\frac{\partial}{\partial x^i}\Big|_p(g)

を得る。よって∂/∂xi∣p\partial/\partial x^i|_pはppにおける導分である。▨

注意 1.5により、以後は座標ベクトルをTpMT_pMの元と見る。

定理 3.3.MMをnn次元C∞C^\infty多様体、(U,φ)(U,\varphi)をMMの可微分構造に属するチャート、p∈Up\in Uとし、φ\varphiの成分をx1,…,xnx^1,\dots,x^nと書く。このとき

{∂∂x1∣p,…,∂∂xn∣p}\left\{\frac{\partial}{\partial x^1}\Big|_p,\dots,\frac{\partial}{\partial x^n}\Big|_p\right\}

はTpMT_pMの基底であり、dim⁡TpM=n\dim T_pM=nである。さらに、すべてのv∈TpMv\in T_pMに対して

v=∑i=1nv(xi) ∂∂xi∣pv=\sum_{i=1}^{n}v(x^i)\,\frac{\partial}{\partial x^i}\Big|_p

が成り立つ。

証明の要は生成性である。導分はC∞(M)C^\infty(M)の上で定義されているので、そのままでは座標関数xix^iへ適用することができない。補題 1.3と命題 1.4によってチャートの定義域へ落とし、さらに Hadamard の補題を適用するために、チャートの像が原点について星型になるように座標球へ取り直す。

証明. 一次独立性を示す。a1,…,an∈Ra^1,\dots,a^n\in\mathbb{R}が∑i=1nai ∂/∂xi∣p=0\sum_{i=1}^{n}a^i\,\partial/\partial x^i|_p=0を満たすとする。xj∈C∞(U)x^j\in C^\infty(U)に対して

∂∂xi∣p(xj)=∂i(pr⁡j)(φ(p))=δi j\frac{\partial}{\partial x^i}\Big|_p(x^j)=\partial_i\bigl(\operatorname{pr}_j\bigr)\bigl(\varphi(p)\bigr)=\delta_i^{\,j}

であるから、両辺をxjx^jに適用するとaj=0a^j=0を得る。したがって座標ベクトルは一次独立である。

生成性を示す。φ(U)\varphi(U)はφ(p)\varphi(p)を含む開集合であるから、Br(φ(p))⊆φ(U)B_r(\varphi(p))\subseteq\varphi(U)を満たすr>0r>0が存在する。

U0=φ−1(Br(φ(p))),φ0=φ∣U0−φ(p)U_0=\varphi^{-1}\bigl(B_r(\varphi(p))\bigr), \qquad \varphi_0=\varphi|_{U_0}-\varphi(p)

と置く。U0U_0はppを含む開集合であり、平行移動はRn\mathbb{R}^nのC∞C^\infty微分同相であるから(U0,φ0)(U_0,\varphi_0)はMMの可微分構造に属するチャートであり、φ0(U0)=Br(0)\varphi_0(U_0)=B_r(0)である。Br(0)B_r(0)は原点について星型である。

φ0−1(u)=φ−1(u+φ(p))\varphi_0^{-1}(u)=\varphi^{-1}(u+\varphi(p))であるから、f∈C∞(U)f\in C^\infty(U)に対して

∂i(f∣U0∘φ0−1)(0)=∂i(f∘φ−1)(φ(p))\partial_i\bigl(f|_{U_0}\circ\varphi_0^{-1}\bigr)(0)=\partial_i\bigl(f\circ\varphi^{-1}\bigr)\bigl(\varphi(p)\bigr)

が成り立つ。すなわち、(U0,φ0)(U_0,\varphi_0)が定める座標ベクトルは、注意 1.5の同一視のもとで(U,φ)(U,\varphi)が定める座標ベクトルに一致する。φ0\varphi_0の成分をx01,…,x0nx_0^1,\dots,x_0^nと書くとx0i=xi−xi(p)x_0^i=x^i-x^i(p)であり、補題 1.2によりv(x0i)=v(xi)v(x_0^i)=v(x^i)である。

v∈TpMv\in T_pMを取り、同一視によってv∈TpU0v\in T_pU_0と見る。f∈C∞(U0)f\in C^\infty(U_0)に対してF=f∘φ0−1∈C∞(Br(0))F=f\circ\varphi_0^{-1}\in C^\infty(B_r(0))と置く。補題 2.2によりG1,…,Gn∈C∞(Br(0))G_1,\dots,G_n\in C^\infty(B_r(0))が存在して

F(u)=F(0)+∑i=1nuiGi(u),Gi(0)=∂iF(0)F(u)=F(0)+\sum_{i=1}^{n}u^{i}G_i(u), \qquad G_i(0)=\partial_iF(0)

が成り立つ。gi=Gi∘φ0∈C∞(U0)g_i=G_i\circ\varphi_0\in C^\infty(U_0)と置き、両辺をφ0\varphi_0で引き戻すと、U0U_0の上で

f=f(p)+∑i=1nx0i gif=f(p)+\sum_{i=1}^{n}x_0^{i}\,g_i

が成り立つ。ここでgi(p)=Gi(0)=∂iF(0)=∂∂xi∣p(f)g_i(p)=G_i(0)=\partial_iF(0)=\dfrac{\partial}{\partial x^i}\Big|_p(f)である。

この等式にvvを適用する。定数関数への作用は00であり(補題 1.2)、Leibniz 則とx0i(p)=0x_0^i(p)=0により

v(f)=∑i=1n(v(x0i) gi(p)+x0i(p) v(gi))=∑i=1nv(xi) ∂∂xi∣p(f)v(f)=\sum_{i=1}^{n}\Bigl(v(x_0^{i})\,g_i(p)+x_0^{i}(p)\,v(g_i)\Bigr) =\sum_{i=1}^{n}v(x^{i})\,\frac{\partial}{\partial x^i}\Big|_p(f)

を得る。f∈C∞(U0)f\in C^\infty(U_0)は任意であり、同一視によってTpMT_pMの元はC∞(U0)C^\infty(U_0)上の作用で決まるから、v=∑i=1nv(xi) ∂/∂xi∣pv=\sum_{i=1}^{n}v(x^i)\,\partial/\partial x^i|_pである。

以上より座標ベクトルはTpMT_pMの基底であり、dim⁡TpM=n\dim T_pM=nである。▨

例 3.4 (ユークリッド空間の接空間).Rn\mathbb{R}^nに§E17.1 例 2.4の可微分構造を与え、恒等写像をチャートとする。その成分をz1,…,znz^1,\dots,z^nと書くと、定理 3.3により{∂/∂zi∣q}i=1n\{\partial/\partial z^i|_q\}_{i=1}^{n}はTqRnT_q\mathbb{R}^nの基底である。線形同型

Rn⟶TqRn,a=(a1,…,an)⟼∑i=1nai∂∂zi∣q\mathbb{R}^n\longrightarrow T_q\mathbb{R}^n, \qquad a=(a^1,\dots,a^n)\longmapsto\sum_{i=1}^{n}a^{i}\frac{\partial}{\partial z^i}\Big|_q

によってTqRnT_q\mathbb{R}^nをRn\mathbb{R}^nと同一視する。この同一視のもとで、aaに対応する導分のffにおける値は方向微分∑i=1nai∂if(q)\sum_{i=1}^{n}a^i\partial_if(q)である。

4 曲線の同値類による定義

定義 4.1.MMをC∞C^\infty多様体、p∈Mp\in Mとする。ppを通る滑らかな曲線 (smooth curve throughpp) とは、あるε>0\varepsilon>0に対する滑らかな写像γ ⁣:(−ε,ε)→M\gamma\colon(-\varepsilon,\varepsilon)\to Mであってγ(0)=p\gamma(0)=pを満たすものをいう。ここで(−ε,ε)(-\varepsilon,\varepsilon)にはR\mathbb{R}の開部分多様体としての可微分構造を与える。

ppを通る二つの滑らかな曲線γ1\gamma_1、γ2\gamma_2が、ppを含むチャート(U,φ)(U,\varphi)に関して 同値 (equivalent curves at a point) であるとは

(φ∘γ1)′(0)=(φ∘γ2)′(0)(\varphi\circ\gamma_1)'(0)=(\varphi\circ\gamma_2)'(0)

が成り立つことをいう。補題 4.2により、この関係は同値関係であり、しかもチャートのとり方に依らない。そこで単に同値といい、同値類の全体をCpM\mathcal{C}_pMと書く。

補題 4.2.MMをnn次元C∞C^\infty多様体、p∈Mp\in Mとし、(U,φ)(U,\varphi)をppを含むチャートとする。

  1. 定義 4.1の関係は、ppを通る滑らかな曲線の全体の上の同値関係である。
  2. ppを含む別のチャート(V,ψ)(V,\psi)を取ると、(U,φ)(U,\varphi)に関して同値であることと(V,ψ)(V,\psi)に関して同値であることは一致する。

証明.(1)を示す。γ\gammaがppを通る滑らかな曲線であるとき、γ\gammaは連続であるから∣t∣|t|が十分小さければγ(t)∈U\gamma(t)\in Uであり、φ∘γ\varphi\circ\gammaは00の近傍で定義されたRn\mathbb{R}^n値の滑らかな写像である。したがって(φ∘γ)′(0)∈Rn(\varphi\circ\gamma)'(0)\in\mathbb{R}^nが定まる。関係はRn\mathbb{R}^nにおける等号の引き戻しであるから、反射律、対称律、推移律をいずれも満たす。

(2)を示す。∣t∣|t|が十分小さければγk(t)∈U∩V\gamma_k(t)\in U\cap Vであり、その範囲でψ∘γk=(ψ∘φ−1)∘(φ∘γk)\psi\circ\gamma_k=(\psi\circ\varphi^{-1})\circ(\varphi\circ\gamma_k)が成り立つ。§E4.3 定理 1.1により

(ψ∘γk)′(0)=D(ψ∘φ−1)(φ(p)) (φ∘γk)′(0)(\psi\circ\gamma_k)'(0)=D\bigl(\psi\circ\varphi^{-1}\bigr)\bigl(\varphi(p)\bigr)\,(\varphi\circ\gamma_k)'(0)

である。A=D(ψ∘φ−1)(φ(p))A=D(\psi\circ\varphi^{-1})(\varphi(p))と置くと、§E4.3 定理 1.1を(φ∘ψ−1)∘(ψ∘φ−1)=id⁡(\varphi\circ\psi^{-1})\circ(\psi\circ\varphi^{-1})=\operatorname{id}へ適用することによりAAは可逆である。したがって

(φ∘γ1)′(0)=(φ∘γ2)′(0)  ⟺  A (φ∘γ1)′(0)=A (φ∘γ2)′(0)  ⟺  (ψ∘γ1)′(0)=(ψ∘γ2)′(0)(\varphi\circ\gamma_1)'(0)=(\varphi\circ\gamma_2)'(0) \iff A\,(\varphi\circ\gamma_1)'(0)=A\,(\varphi\circ\gamma_2)'(0) \iff (\psi\circ\gamma_1)'(0)=(\psi\circ\gamma_2)'(0)

が成り立つ。▨

命題 4.3.MMをnn次元C∞C^\infty多様体、p∈Mp\in Mとする。ppを通る滑らかな曲線γ\gammaに対して

vγ(f)=(f∘γ)′(0)(f∈C∞(M))v_\gamma(f)=(f\circ\gamma)'(0)\qquad\bigl(f\in C^\infty(M)\bigr)

と定めると、vγ∈TpMv_\gamma\in T_pMであり、対応[γ]↦vγ[\gamma]\mapsto v_\gammaはCpM\mathcal{C}_pMからTpMT_pMへの全単射を与える。

証明.f∈C∞(M)f\in C^\infty(M)に対してf∘γf\circ\gammaは滑らかな写像の合成であるからC∞C^\inftyである(§E17.1 系 4.3)。線形性は明らかであり、(fg)∘γ=(f∘γ)(g∘γ)(fg)\circ\gamma=(f\circ\gamma)(g\circ\gamma)に一変数の積の微分法を適用すると

vγ(fg)=(f∘γ)′(0) g(γ(0))+f(γ(0)) (g∘γ)′(0)=vγ(f)g(p)+f(p)vγ(g)v_\gamma(fg)=(f\circ\gamma)'(0)\,g(\gamma(0))+f(\gamma(0))\,(g\circ\gamma)'(0)=v_\gamma(f)g(p)+f(p)v_\gamma(g)

であるからvγ∈TpMv_\gamma\in T_pMである。

ppを含むチャート(U,φ)(U,\varphi)を取り、a=(φ∘γ)′(0)∈Rna=(\varphi\circ\gamma)'(0)\in\mathbb{R}^nと置く。γ\gammaは連続であるから、∣t∣|t|が十分小さければγ(t)∈U\gamma(t)\in Uである。その範囲でf∘γ=(f∘φ−1)∘(φ∘γ)f\circ\gamma=(f\circ\varphi^{-1})\circ(\varphi\circ\gamma)であり、§E4.3 定理 1.1により

vγ(f)=∑i=1nai ∂i(f∘φ−1)(φ(p))=∑i=1nai ∂∂xi∣p(f)v_\gamma(f)=\sum_{i=1}^{n}a^{i}\,\partial_i\bigl(f\circ\varphi^{-1}\bigr)\bigl(\varphi(p)\bigr) =\sum_{i=1}^{n}a^{i}\,\frac{\partial}{\partial x^i}\Big|_p(f)

である。すなわちvγ=∑i=1nai ∂/∂xi∣pv_\gamma=\sum_{i=1}^{n}a^{i}\,\partial/\partial x^i|_pであり、vγv_\gammaはaaだけで決まる。したがって同値な曲線は同じ導分を与え、対応[γ]↦vγ[\gamma]\mapsto v_\gammaは定まる。

単射性を示す。vγ1=vγ2v_{\gamma_1}=v_{\gamma_2}とすると、定理 3.3の一次独立性により、対応するaaが一致する。すなわち(φ∘γ1)′(0)=(φ∘γ2)′(0)(\varphi\circ\gamma_1)'(0)=(\varphi\circ\gamma_2)'(0)であり[γ1]=[γ2][\gamma_1]=[\gamma_2]である。

全射性を示す。v∈TpMv\in T_pMを取り、定理 3.3によりv=∑i=1nai ∂/∂xi∣pv=\sum_{i=1}^{n}a^{i}\,\partial/\partial x^i|_pと書く。φ(U)\varphi(U)は開集合であるから、ε>0\varepsilon>0を十分小さく取ると∣t∣<ε|t|<\varepsilonに対してφ(p)+ta∈φ(U)\varphi(p)+ta\in\varphi(U)となる。

γ(t)=φ−1(φ(p)+ta)\gamma(t)=\varphi^{-1}\bigl(\varphi(p)+ta\bigr)

と定める。§E17.1 系 7.2によりφ−1 ⁣:φ(U)→U\varphi^{-1}\colon\varphi(U)\to Uは滑らかであり、包含写像U→MU\to Mも滑らかであるから(§E17.1 命題 7.1)、γ\gammaは滑らかである。γ(0)=p\gamma(0)=pであり(φ∘γ)(t)=φ(p)+ta(\varphi\circ\gamma)(t)=\varphi(p)+taであるから(φ∘γ)′(0)=a(\varphi\circ\gamma)'(0)=aであり、vγ=vv_\gamma=vである。▨

5 微分写像と連鎖律

定義 5.1.MM、NNをC∞C^\infty多様体、F ⁣:M→NF\colon M\to Nを滑らかな写像、p∈Mp\in Mとする。v∈TpMv\in T_pMに対して

(dFp(v))(g)=v(g∘F)(g∈C∞(N))\bigl(dF_p(v)\bigr)(g)=v(g\circ F)\qquad\bigl(g\in C^\infty(N)\bigr)

と定める。補題 5.2によりdFp(v)∈TF(p)NdF_p(v)\in T_{F(p)}Nであり、dFp ⁣:TpM→TF(p)NdF_p\colon T_pM\to T_{F(p)}Nは線形写像である。これをFFのppにおける微分 (differential) または押し出し (pushforward) という。

補題 5.2.MM、NNをC∞C^\infty多様体、F ⁣:M→NF\colon M\to Nを滑らかな写像、p∈Mp\in Mとする。定義 5.1の対応について、すべてのv∈TpMv\in T_pMに対してdFp(v)∈TF(p)NdF_p(v)\in T_{F(p)}Nであり、dFp ⁣:TpM→TF(p)NdF_p\colon T_pM\to T_{F(p)}NはR\mathbb{R}線形である。

証明.g∈C∞(N)g\in C^\infty(N)に対してg∘F∈C∞(M)g\circ F\in C^\infty(M)である(§E17.1 系 4.3)から、dFp(v)(g)=v(g∘F)dF_p(v)(g)=v(g\circ F)は定まる。g↦g∘Fg\mapsto g\circ FはR\mathbb{R}線形であり、vvもR\mathbb{R}線形であるから、dFp(v)dF_p(v)はR\mathbb{R}線形である。(gh)∘F=(g∘F)(h∘F)(gh)\circ F=(g\circ F)(h\circ F)であるから、vvの Leibniz 則により

dFp(v)(gh)=v((g∘F)(h∘F))=v(g∘F) h(F(p))+g(F(p)) v(h∘F)=dFp(v)(g) h(F(p))+g(F(p)) dFp(v)(h)dF_p(v)(gh)=v\bigl((g\circ F)(h\circ F)\bigr) =v(g\circ F)\,h(F(p))+g(F(p))\,v(h\circ F) =dF_p(v)(g)\,h(F(p))+g(F(p))\,dF_p(v)(h)

である。ここで(g∘F)(p)=g(F(p))(g\circ F)(p)=g(F(p))と(h∘F)(p)=h(F(p))(h\circ F)(p)=h(F(p))を用いた。よってdFp(v)dF_p(v)はF(p)F(p)における導分であり、dFp(v)∈TF(p)NdF_p(v)\in T_{F(p)}Nである。

vvについての線形性は、a,b∈Ra,b\in\mathbb{R}とv,w∈TpMv,w\in T_pMに対して

dFp(av+bw)(g)=(av+bw)(g∘F)=a v(g∘F)+b w(g∘F)=(a dFp(v)+b dFp(w))(g)dF_p(av+bw)(g)=(av+bw)(g\circ F)=a\,v(g\circ F)+b\,w(g\circ F)=\bigl(a\,dF_p(v)+b\,dF_p(w)\bigr)(g)

が成り立つことから従う。▨

定理 5.3 (連鎖律).MM、NN、PPをC∞C^\infty多様体、F ⁣:M→NF\colon M\to N、G ⁣:N→PG\colon N\to Pを滑らかな写像、p∈Mp\in Mとする。このとき

d(G∘F)p=dGF(p)∘dFp,d(id⁡M)p=id⁡TpMd(G\circ F)_p=dG_{F(p)}\circ dF_p, \qquad d(\operatorname{id}_M)_p=\operatorname{id}_{T_pM}

が成り立つ。

証明.v∈TpMv\in T_pMとk∈C∞(P)k\in C^\infty(P)を取る。定義により

d(G∘F)p(v)(k)=v(k∘(G∘F))=v((k∘G)∘F)d(G\circ F)_p(v)(k)=v\bigl(k\circ(G\circ F)\bigr)=v\bigl((k\circ G)\circ F\bigr)

である。一方

(dGF(p)(dFp(v)))(k)=dFp(v)(k∘G)=v((k∘G)∘F)\bigl(dG_{F(p)}(dF_p(v))\bigr)(k)=dF_p(v)(k\circ G)=v\bigl((k\circ G)\circ F\bigr)

である。二つは等しく、kkは任意であるからd(G∘F)p(v)=dGF(p)(dFp(v))d(G\circ F)_p(v)=dG_{F(p)}(dF_p(v))である。

恒等写像についてはd(id⁡M)p(v)(f)=v(f∘id⁡M)=v(f)d(\operatorname{id}_M)_p(v)(f)=v(f\circ\operatorname{id}_M)=v(f)である。▨

系 5.4.F ⁣:M→NF\colon M\to Nを微分同相とすると、各p∈Mp\in MでdFp ⁣:TpM→TF(p)NdF_p\colon T_pM\to T_{F(p)}Nは線形同型であり、その逆写像はd(F−1)F(p)d(F^{-1})_{F(p)}である。とくにdim⁡M=dim⁡N\dim M=\dim Nである。

証明.F−1∘F=id⁡MF^{-1}\circ F=\operatorname{id}_MとF∘F−1=id⁡NF\circ F^{-1}=\operatorname{id}_Nに定理 5.3を適用すると

d(F−1)F(p)∘dFp=id⁡TpM,dFp∘d(F−1)F(p)=id⁡TF(p)Nd(F^{-1})_{F(p)}\circ dF_p=\operatorname{id}_{T_pM}, \qquad dF_p\circ d(F^{-1})_{F(p)}=\operatorname{id}_{T_{F(p)}N}

を得る。よってdFpdF_pは同型である。定理 3.3によりdim⁡TpM=dim⁡M\dim T_pM=\dim M、dim⁡TF(p)N=dim⁡N\dim T_{F(p)}N=\dim Nであるからdim⁡M=dim⁡N\dim M=\dim Nである。▨

この系が与えるのは、微分同相な二つの多様体の次元が一致することである。同じ位相空間の上に次元の異なる二つの可微分構造が入らないことは、この系からは従わない。その主張は、局所的にRm\mathbb{R}^mとRn\mathbb{R}^nの開集合が同相ならばm=nm=nであるという領域不変性を要し、本単元では扱わない。

命題 5.5.MMをmm次元、NNをnn次元C∞C^\infty多様体、F ⁣:M→NF\colon M\to Nを滑らかな写像、p∈Mp\in Mとする。ppを含むチャート(U,φ)(U,\varphi)、F(p)F(p)を含むチャート(V,ψ)(V,\psi)でF(U)⊆VF(U)\subseteq Vを満たすものを取り、φ\varphiの成分をx1,…,xmx^1,\dots,x^m、ψ\psiの成分をy1,…,yny^1,\dots,y^nと書く。F^=ψ∘F∘φ−1\hat F=\psi\circ F\circ\varphi^{-1}と置くと

dFp(∂∂xi∣p)=∑j=1n∂F^ j∂ui(φ(p)) ∂∂yj∣F(p)dF_p\left(\frac{\partial}{\partial x^i}\Big|_p\right) =\sum_{j=1}^{n}\frac{\partial\hat F^{\,j}}{\partial u^{i}}\bigl(\varphi(p)\bigr)\,\frac{\partial}{\partial y^j}\Big|_{F(p)}

が成り立つ。すなわち、座標基底に関するdFpdF_pの行列はF^\hat Fのφ(p)\varphi(p)における Jacobi 行列である。

証明.定理 3.3により、w∈TF(p)Nw\in T_{F(p)}Nの座標基底に関する第jj成分はw(yj)w(y^j)である。左辺をyjy^jに適用すると

dFp(∂∂xi∣p)(yj)=∂∂xi∣p(yj∘F)=∂i(yj∘F∘φ−1)(φ(p))=∂F^ j∂ui(φ(p))dF_p\left(\frac{\partial}{\partial x^i}\Big|_p\right)(y^j) =\frac{\partial}{\partial x^i}\Big|_p\bigl(y^j\circ F\bigr) =\partial_i\bigl(y^j\circ F\circ\varphi^{-1}\bigr)\bigl(\varphi(p)\bigr) =\frac{\partial\hat F^{\,j}}{\partial u^{i}}\bigl(\varphi(p)\bigr)

である。ここでyj∘F∘φ−1=F^ jy^j\circ F\circ\varphi^{-1}=\hat F^{\,j}を用いた。右辺をyjy^jに適用すると、∂/∂yk∣F(p)(yj)=δk j\partial/\partial y^k|_{F(p)}(y^j)=\delta_k^{\,j}により同じ値になる。よって両辺は一致する。▨

例 5.6 (球面の接空間).S2⊆R3S^2\subseteq\mathbb{R}^3を§E17.1 命題 5.1の可微分構造を与えた2次元多様体とし、ι ⁣:S2→R3\iota\colon S^2\to\mathbb{R}^3を包含写像とする。TqR3T_q\mathbb{R}^3は例 3.4によってR3\mathbb{R}^3と同一視する。p∈S2p\in S^2に対して

dιp(TpS2)={w∈R3∣w⋅p=0}d\iota_p\bigl(T_pS^2\bigr)=\{w\in\mathbb{R}^3\mid w\cdot p=0\}

が成り立つ。ここでw⋅p=∑i=13wipiw\cdot p=\sum_{i=1}^{3}w^{i}p^{i}である。

これを確かめる。p≠N=(0,0,1)p\ne N=(0,0,1)とし、§E17.1 命題 5.1のチャート(UN,φN)(U_N,\varphi_N)を取る。u=(u1,u2)=φN(p)u=(u^1,u^2)=\varphi_N(p)、D=(u1)2+(u2)2+1D=(u^1)^2+(u^2)^2+1と置くと、§E17.1 命題 5.1の証明により

Φ(u)=ι∘φN−1(u)=(2u1D, 2u2D, 1−2D)\Phi(u)=\iota\circ\varphi_N^{-1}(u)=\left(\frac{2u^1}{D},\ \frac{2u^2}{D},\ 1-\frac{2}{D}\right)

である。各成分は分母D≥1D\ge 1が消えない有理式であるからΦ\PhiはC∞C^\inftyであり、§E17.1 命題 4.2によりι\iotaは滑らかである。偏導関数を計算すると

∂1Φ=1D2(2D−4(u1)2, −4u1u2, 4u1),∂2Φ=1D2(−4u1u2, 2D−4(u2)2, 4u2)\partial_1\Phi=\frac{1}{D^2}\bigl(2D-4(u^1)^2,\ -4u^1u^2,\ 4u^1\bigr), \qquad \partial_2\Phi=\frac{1}{D^2}\bigl(-4u^1u^2,\ 2D-4(u^2)^2,\ 4u^2\bigr)

である。命題 5.5によりdιp(TpS2)d\iota_p(T_pS^2)はこの二つのベクトルが張る部分空間である。

一次独立性を確かめる。a ∂1Φ+b ∂2Φ=0a\,\partial_1\Phi+b\,\partial_2\Phi=0とすると、第三成分から4(au1+bu2)=04(au^1+bu^2)=0、すなわちau1+bu2=0au^1+bu^2=0を得る。第一成分は

a(2D−4(u1)2)+b(−4u1u2)=2aD−4u1(au1+bu2)=2aDa\bigl(2D-4(u^1)^2\bigr)+b\bigl(-4u^1u^2\bigr)=2aD-4u^1\bigl(au^1+bu^2\bigr)=2aD

であるから2aD=02aD=0であり、D≥1>0D\ge 1>0よりa=0a=0である。第二成分から同様にb=0b=0である。よって二つのベクトルは一次独立であり、張る部分空間の次元は22である。

包含関係を確かめる。Φ(u)∈S2\Phi(u)\in S^2であるから∑i=13Φi(u)2=1\sum_{i=1}^{3}\Phi^{i}(u)^2=1がuuについて恒等的に成り立つ。両辺をu1u^1とu2u^2で偏微分すると

2 Φ(u)⋅∂1Φ(u)=0,2 Φ(u)⋅∂2Φ(u)=02\,\Phi(u)\cdot\partial_1\Phi(u)=0, \qquad 2\,\Phi(u)\cdot\partial_2\Phi(u)=0

を得る。Φ(u)=p\Phi(u)=pであるから、dιp(TpS2)⊆{w∣w⋅p=0}d\iota_p(T_pS^2)\subseteq\{w\mid w\cdot p=0\}である。p≠0p\ne 0であるから右辺は2次元の部分空間であり、次元が一致するので両者は等しい。

p=Np=Nの場合は、チャート(US,φS)(U_S,\varphi_S)に対して同じ計算を行えばよい。第三座標の符号を反転するR3\mathbb{R}^3の線形同型はS2S^2の微分同相を誘導し、NNをS=(0,0,−1)S=(0,0,-1)へ写すので、S≠NS\ne Nの場合の結論がNNでも成り立つ。

注意 5.7 (この表示は計量の導入ではない).例 5.6の右辺にはR3\mathbb{R}^3の標準的な内積が現れている。これはS2S^2をR3\mathbb{R}^3の部分集合として見たときの接空間の像を、R3\mathbb{R}^3の上に固定した双線形形式によって書き表したものである。S2S^2の各点の接空間に、点について滑らかに変化する内積を与えたのではない。本単元は多様体の上に Riemann 計量を導入せず、長さ、角度、曲率および測地線を扱わない。それらは「Riemann 幾何 I」が扱う。

6 演習

問題 6.1 (接空間と微分写像の確認). 次の各問に答えよ。

  1. 補題 1.3の証明を再現せよ。とくに、χf\chi fがMM上で恒等的に00であることを、W0W_0の内側と外側に分けて示し、Leibniz 則を適用したあとにf(p)=0f(p)=0とχ(p)=1\chi(p)=1をどこで用いたかを明示せよ。
  2. 定理 3.3の証明で、チャート(U,φ)(U,\varphi)をそのまま用いずに座標球(U0,φ0)(U_0,\varphi_0)へ取り直した理由を述べよ。補題 2.2の仮定のどれがφ(U)\varphi(U)については保証されないかを指摘せよ。
  3. 定理 3.3の証明でv(xi)v(x^i)と書くことができる根拠を述べよ。xix^iがC∞(M)C^\infty(M)の元でないにもかかわらずこの記号が意味を持つのはなぜかを、命題 1.4を用いて説明せよ。
  4. 命題 1.4のΛU\Lambda_Uがχ\chiのとり方に依らないことの証明を再現せよ。さらに、局所性を用いずにこの主張を示すことができない理由を述べよ。
  5. 補題 2.2をn=1n=1、Ω=R\Omega=\mathbb{R}、F(x)=exF(x)=e^{x}の場合に具体的に書き下し、G1G_1を初等関数で表せ。G1(0)=1G_1(0)=1を確かめよ。
  6. 命題 4.3の全射性の証明で構成した曲線γ(t)=φ−1(φ(p)+ta)\gamma(t)=\varphi^{-1}(\varphi(p)+ta)が滑らかであることを、§E17.1 系 7.2を用いて示せ。ε\varepsilonをどのように選ぶかも述べよ。
  7. 命題 5.5を用いて、F ⁣:R2→R2F\colon\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2、F(x,y)=(x2−y2, 2xy)F(x,y)=(x^2-y^2,\ 2xy)のp=(1,1)p=(1,1)における微分の行列を求めよ。さらにdFpdF_pが同型であるかどうかを判定せよ。
  8. 例 5.6の計算を、南極からのチャート(US,φS)(U_S,\varphi_S)について実行せよ。ι∘φS−1\iota\circ\varphi_S^{-1}の式を書き下し、偏導関数の一次独立性を確かめよ。
解答 (演習の解答).

(1)q∈W0q\in W_0ならばf(q)=0f(q)=0であるから(χf)(q)=0(\chi f)(q)=0であり、q∉W0q\notin W_0ならばsupp⁡χ⊆W0\operatorname{supp}\chi\subseteq W_0よりq∉supp⁡χq\notin\operatorname{supp}\chiであるからχ(q)=0\chi(q)=0で(χf)(q)=0(\chi f)(q)=0である。よってχf\chi fは恒等的に00でありv(χf)=0v(\chi f)=0である。Leibniz 則によりv(χf)=v(χ)f(p)+χ(p)v(f)v(\chi f)=v(\chi)f(p)+\chi(p)v(f)であり、p∈W0p\in W_0よりf(p)=0f(p)=0であるから第一項が消え、χ(p)=1\chi(p)=1であるから第二項がv(f)v(f)になる。(2)補題 2.2はΩ\Omegaが原点について星型であることを仮定する。一般のチャートの像φ(U)\varphi(U)は連結であるとも星型であるとも限らないので、この仮定が保証されない。φ(p)\varphi(p)を中心とする開球へ制限し、平行移動して中心を原点へ移すと、像がBr(0)B_r(0)になり星型性が成り立つ。(3)命題 1.4によりTpMT_pMとTpUT_pUは標準的に同型であり、注意 1.5でこの同型による同一視を約束した。この同一視のもとでvvはC∞(U)C^\infty(U)の上の導分として作用し、xi∈C∞(U)x^i\in C^\infty(U)に対する値v(xi)v(x^i)が定まる。具体的にはv(xi)=v(Eχ(xi))v(x^i)=v(E_\chi(x^i))であり、山型関数を掛けてMM全体の関数へ延長した値である。補題 1.3により、この値は延長のしかたに依らない。(4)二つの山型関数χ\chi、χ′\chi'に対し、χ≡1\chi\equiv1となる開集合とχ′≡1\chi'\equiv1となる開集合の交わりWWはppを含む開集合であり、WWの上でEχ(f)=f=Eχ′(f)E_\chi(f)=f=E_{\chi'}(f)である。補題 1.3 (2)によりv(Eχ(f))=v(Eχ′(f))v(E_\chi(f))=v(E_{\chi'}(f))である。局所性が無ければ、MM上で異なる二つの関数に対するvvの値が等しいと結論する根拠が無い。Eχ(f)E_\chi(f)とEχ′(f)E_{\chi'}(f)はppの近傍でのみ一致し、MM全体では一致しないからである。(5)F(x)=exF(x)=e^{x}に対して∂1F(tx)=etx\partial_1F(tx)=e^{tx}であるから

G1(x)=∫01etx dt={ex−1x(x≠0)1(x=0)G_1(x)=\int_0^1e^{tx}\,dt=\begin{cases}\dfrac{e^{x}-1}{x}&(x\ne 0)\\ 1&(x=0)\end{cases}

である。実際F(x)=1+xG1(x)=1+(ex−1)=exF(x)=1+xG_1(x)=1+(e^{x}-1)=e^{x}が成り立つ。G1(0)=∫011 dt=1=∂1F(0)G_1(0)=\int_0^1 1\,dt=1=\partial_1F(0)である。(6)φ(U)\varphi(U)はRn\mathbb{R}^nの開集合であるから、Bρ(φ(p))⊆φ(U)B_\rho(\varphi(p))\subseteq\varphi(U)を満たすρ>0\rho>0が存在する。a=0a=0ならばε\varepsilonは任意でよく、a≠0a\ne 0ならばε=ρ/∥a∥\varepsilon=\rho/\lVert a\rVertと取れば∣t∣<ε|t|<\varepsilonに対してφ(p)+ta∈Bρ(φ(p))⊆φ(U)\varphi(p)+ta\in B_\rho(\varphi(p))\subseteq\varphi(U)である。t↦φ(p)+tat\mapsto\varphi(p)+taはR\mathbb{R}の開区間からφ(U)\varphi(U)への滑らかな写像であり、§E17.1 系 7.2によりφ−1 ⁣:φ(U)→U\varphi^{-1}\colon\varphi(U)\to Uは滑らかである。さらに包含写像U→MU\to Mは滑らかであるから、§E17.1 系 4.3によりγ\gammaは滑らかである。(7)F^=F\hat F=Fであり Jacobi 行列は

(2x−2y2y2x)\begin{pmatrix}2x&-2y\\ 2y&2x\end{pmatrix}

である。p=(1,1)p=(1,1)では(2−222)\begin{pmatrix}2&-2\\ 2&2\end{pmatrix}であり、行列式は4+4=8≠04+4=8\ne 0である。よってdFpdF_pは同型である。(8)φS(x,y,z)=(x/(1+z), y/(1+z))\varphi_S(x,y,z)=\bigl(x/(1+z),\ y/(1+z)\bigr)であり、§E17.1 命題 5.1の証明の記号でr=∥u∥2r=\lVert u\rVert^2、D=r+1D=r+1と置くと

ι∘φS−1(u)=(2u1D, 2u2D, −1+2D)\iota\circ\varphi_S^{-1}(u)=\left(\frac{2u^1}{D},\ \frac{2u^2}{D},\ -1+\frac{2}{D}\right)

である。これはι∘φN−1\iota\circ\varphi_N^{-1}の第三成分の符号を反転したものであるから、偏導関数は

1D2(2D−4(u1)2, −4u1u2, −4u1),1D2(−4u1u2, 2D−4(u2)2, −4u2)\frac{1}{D^2}\bigl(2D-4(u^1)^2,\ -4u^1u^2,\ -4u^1\bigr), \qquad \frac{1}{D^2}\bigl(-4u^1u^2,\ 2D-4(u^2)^2,\ -4u^2\bigr)

である。一次独立性の議論は本文と同じであり、第三成分からau1+bu2=0au^1+bu^2=0、第一成分から2aD=02aD=0すなわちa=0a=0、第二成分からb=0b=0を得る。▨

7 仮定と後続記事の境界

補題 1.3は§E17.2 命題 1.5に依存し、§E17.2 命題 1.5は多様体が Hausdorff であることに依存する。局所性が無ければ、導分をチャートの定義域の上の関数へ制限することができず、定理 3.3の生成性の議論は成り立たない。座標関数xix^iはC∞(M)C^\infty(M)の元ではないので、局所性を経ずにv(xi)v(x^i)と書くことはできない。

補題 2.2は定義域が原点について星型であることを仮定する。この仮定は、線分に沿った積分表示を用いるために必要である。定理 3.3の証明では座標球へ取り直すことでこの仮定を満たしている。

本記事は接空間を各点ごとに構成した。それらを束ねて一つの多様体にすること、およびベクトル場を切断として定義することは「接束・余接束とテンソル場」が扱う。座標成分の変換則によって接ベクトルを記述する流儀も、貼り合わせの準備として同じ記事で扱う。

微分の階数によってはめ込みと沈め込みを定義し、定数階数定理と正則値の逆像に関する定理を証明することは「部分多様体・はめ込み・埋め込み」が扱う。本記事はdFpdF_pの定義と連鎖律、および座標表示が Jacobi 行列であることまでを扱う。

参考文献

  1. John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, New York, 2013.接ベクトルを滑らかな関数の環の上の導分として定義する流儀、導分の局所性の証明、および座標基底の構成を参考にした。
  2. Frank W. Warner, Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups, Graduate Texts in Mathematics 94, Springer, 1983, originally published 1971.曲線の同値類による接ベクトルの定義と導分による定義の対応の述べ方を参考にした。
  3. Loring W. Tu, An Introduction to Manifolds, 2nd ed., Universitext, Springer, New York, 2011.Hadamard の補題を積分表示によって示し、そこから座標基底の生成性を導く順序を参考にした。

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