§C4.11バーゼル問題

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平方数の逆数を足し合わせた級数

1+122+132+142+⋯1 + \frac{1}{2^2} + \frac{1}{3^2} + \frac{1}{4^2} + \cdots

の値はπ26\dfrac{\pi^2}{6}です。円とは無関係に見える和にπ\piが現れるので、値を求めるには、和とπ\piを結ぶ経路が要ります。本記事が用いる経路は、正接と正弦です。

道筋は三段です。第一に、0<θ<π20 < \theta < \dfrac{\pi}{2}においてsin⁡θ<θ<tan⁡θ\sin\theta < \theta < \tan\thetaが成り立つことから、1θ2\dfrac{1}{\theta^2}を1tan⁡2θ\dfrac{1}{\tan^2\theta}によって上下から押さえます。第二に、角を等分した有限個の点における1tan⁡2θ\dfrac{1}{\tan^2\theta}の値の和が、nnの多項式で書き表されるという恒等式を用意します。第三に、この二つを組み合わせて部分和を上下から挟み、はさみうちによって極限を決めます。

級数の和を部分和の極限として定める枠組みと、はさみうちの原理は「数列と極限」が扱い、本記事はそれらを用います。

1 正弦と正接による不等式

はじめに、角とその正弦・正接の大小を確かめます。

定理 1.1 (sin⁡θ<θ<tan⁡θ\sin\theta < \theta < \tan\theta).0<θ<π20 < \theta < \dfrac{\pi}{2}を満たすすべてのθ\thetaについて

sin⁡θ<θ<tan⁡θ\sin\theta < \theta < \tan\theta

が成り立つ。

証明. 原点O\mathrm{O}を中心とする半径11の円をとり、A(1,0)\mathrm{A}(1,0)、B(cos⁡θ,sin⁡θ)\mathrm{B}(\cos\theta,\sin\theta)と置きます。さらに、点A\mathrm{A}における円の接線と、半直線OB\mathrm{OB}との交点をT\mathrm{T}と置きます。0<θ<π20<\theta<\dfrac{\pi}{2}なので、この交点は定まり、T(1,tan⁡θ)\mathrm{T}(1,\tan\theta)です。

三角形OAB\mathrm{OAB}は扇形OAB\mathrm{OAB}に含まれ、扇形OAB\mathrm{OAB}は三角形OAT\mathrm{OAT}に含まれます。0<θ<π20<\theta<\dfrac{\pi}{2}では、扇形は三角形OAB\mathrm{OAB}に含まれない部分を持ち、三角形OAT\mathrm{OAT}は扇形に含まれない部分を持つので、面積の大小に等号は起こりません。三つの図形の面積は

△OAB=12sin⁡θ,扇形 OAB=12θ,△OAT=12tan⁡θ\triangle\mathrm{OAB} = \frac12\sin\theta, \qquad \text{扇形}\ \mathrm{OAB} = \frac12\theta, \qquad \triangle\mathrm{OAT} = \frac12\tan\theta

なので、12sin⁡θ<12θ<12tan⁡θ\dfrac12\sin\theta < \dfrac12\theta < \dfrac12\tan\thetaとなり、22を掛けて結論を得ます。▨

この不等式を逆数にして2乗すると、1θ2\dfrac{1}{\theta^2}が1tan⁡2θ\dfrac{1}{\tan^2\theta}によって上下から押さえられます。上からの評価には、1sin⁡2θ\dfrac{1}{\sin^2\theta}を1tan⁡2θ\dfrac{1}{\tan^2\theta}で書き直す等式を用います。

定理 1.2 (1θ2\dfrac{1}{\theta^2}の上下からの評価).0<θ<π20 < \theta < \dfrac{\pi}{2}を満たすすべてのθ\thetaについて

1tan⁡2θ < 1θ2 < 1+1tan⁡2θ\frac{1}{\tan^2\theta} \ <\ \frac{1}{\theta^2} \ <\ 1 + \frac{1}{\tan^2\theta}

が成り立つ。

証明.0<θ<π20<\theta<\dfrac{\pi}{2}ではsin⁡θ>0\sin\theta>0、θ>0\theta>0、tan⁡θ>0\tan\theta>0です。定理 1.1の三つの数はいずれも正なので、逆数をとると大小が逆になり

1tan⁡θ<1θ<1sin⁡θ\frac{1}{\tan\theta} < \frac{1}{\theta} < \frac{1}{\sin\theta}

です。三つとも正なので、2乗しても大小は変わらず1tan⁡2θ<1θ2<1sin⁡2θ\dfrac{1}{\tan^2\theta} < \dfrac{1}{\theta^2} < \dfrac{1}{\sin^2\theta}です。

sin⁡2θ+cos⁡2θ=1\sin^2\theta+\cos^2\theta=1の両辺をsin⁡2θ\sin^2\thetaで割ると

1sin⁡2θ=1+cos⁡2θsin⁡2θ=1+1tan⁡2θ\frac{1}{\sin^2\theta} = 1 + \frac{\cos^2\theta}{\sin^2\theta} = 1 + \frac{1}{\tan^2\theta}

なので、右側の不等式は1θ2<1+1tan⁡2θ\dfrac{1}{\theta^2} < 1 + \dfrac{1}{\tan^2\theta}となります。▨

2 正接の逆数の2乗の和を与える恒等式

次に、1tan⁡2θ\dfrac{1}{\tan^2\theta}の値を、角を等分した有限個の点で足し合わせた和を求めます。和を直接計算するのではなく、これらの値がすべて一つのnn次方程式の解になることを示し、解と係数の関係から和を読み取ります。

定理 2.1 (正接の逆数の2乗の和).nnを正の整数とし、θk=kπ2n+1\theta_k = \dfrac{k\pi}{2n+1}(k=1,2,…,nk=1,2,\dots,n)と置く。このとき

∑k=1n1tan⁡2θk=n(2n−1)3\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{\tan^2\theta_k} = \frac{n(2n-1)}{3}

が成り立つ。

証明.m=2n+1m=2n+1と置きます。sin⁡θ≠0\sin\theta \ne 0を満たす実数θ\thetaをとります。ド・モアブルの定理により(cos⁡θ+isin⁡θ)m=cos⁡mθ+isin⁡mθ(\cos\theta+i\sin\theta)^m = \cos m\theta + i\sin m\thetaであり、二項定理により

(cos⁡θ+isin⁡θ)m=∑r=0m(mr)cos⁡m−rθ (isin⁡θ)r(\cos\theta+i\sin\theta)^m = \sum_{r=0}^{m}\binom{m}{r}\cos^{m-r}\theta\,(i\sin\theta)^r

です。iri^rはrrが偶数のとき実数、奇数のとき純虚数なので、両辺の虚部を比べると、rrが奇数の項だけが残ります。r=2j+1r=2j+1と書くとi2j+1=(−1)jii^{2j+1}=(-1)^j iであり、m=2n+1m=2n+1なのでjjは00からnnまでを動きます。したがって

sin⁡mθ=∑j=0n(−1)j(2n+12j+1)cos⁡2n−2jθ sin⁡2j+1θ\sin m\theta = \sum_{j=0}^{n}(-1)^j\binom{2n+1}{2j+1}\cos^{2n-2j}\theta\,\sin^{2j+1}\theta

です。ここでm−r=(2n+1)−(2j+1)=2n−2jm-r = (2n+1)-(2j+1) = 2n-2jを用いました。

両辺をsin⁡2n+1θ\sin^{2n+1}\thetaで割ります。sin⁡θ≠0\sin\theta\ne0なので割ることができて、t=1tan⁡2θ=cos⁡2θsin⁡2θt = \dfrac{1}{\tan^2\theta} = \dfrac{\cos^2\theta}{\sin^2\theta}と置くと

sin⁡mθsin⁡2n+1θ=∑j=0n(−1)j(2n+12j+1) t n−j\frac{\sin m\theta}{\sin^{2n+1}\theta} = \sum_{j=0}^{n}(-1)^j\binom{2n+1}{2j+1}\,t^{\,n-j}

となります。右辺をP(t)P(t)と書きます。PPはttについてのnn次多項式であり、tnt^nの係数は(2n+11)=2n+1\dbinom{2n+1}{1}=2n+1、tn−1t^{n-1}の係数は−(2n+13)-\dbinom{2n+1}{3}です。

kkを11以上nn以下の整数とします。θk=kπ2n+1\theta_k = \dfrac{k\pi}{2n+1}は0<θk≤nπ2n+1<π20 < \theta_k \le \dfrac{n\pi}{2n+1} < \dfrac{\pi}{2}を満たすのでsin⁡θk≠0\sin\theta_k \ne 0であり、上の等式をθ=θk\theta=\theta_kについて用いることができます。mθk=kπm\theta_k = k\piなのでsin⁡mθk=0\sin m\theta_k = 0であり、tk=1tan⁡2θkt_k = \dfrac{1}{\tan^2\theta_k}と置くとP(tk)=0P(t_k)=0です。

tan⁡\tanは0<θ<π20<\theta<\dfrac{\pi}{2}で正かつ単調増加なので、θ1<θ2<⋯<θn\theta_1<\theta_2<\cdots<\theta_nからt1>t2>⋯>tnt_1 > t_2 > \cdots > t_nとなり、t1,…,tnt_1,\dots,t_nは相異なります。PPはnn次なので零点は多くともnn個であり、いま相異なる零点をnn個見つけたので、これがPPの零点のすべてです。

nn次方程式P(t)=0P(t)=0の解と係数の関係により

∑k=1ntk=−−(2n+13)(2n+11)=(2n+13)2n+1\sum_{k=1}^{n} t_k = -\frac{-\dbinom{2n+1}{3}}{\dbinom{2n+1}{1}} = \frac{\dbinom{2n+1}{3}}{2n+1}

です。(2n+13)=(2n+1)(2n)(2n−1)6\dbinom{2n+1}{3} = \dfrac{(2n+1)(2n)(2n-1)}{6}なので、右辺は2n(2n−1)6=n(2n−1)3\dfrac{2n(2n-1)}{6} = \dfrac{n(2n-1)}{3}となり、結論を得ます。▨

例 2.2 (n=2n=2の場合).n=2n=2のときθ1=π5\theta_1 = \dfrac{\pi}{5}、θ2=2π5\theta_2 = \dfrac{2\pi}{5}であり、定理 2.1の右辺は2⋅33=2\dfrac{2\cdot3}{3}=2です。左辺を小数で計算するとtan⁡π5=0.7265…\tan\dfrac{\pi}{5} = 0.7265\dots、tan⁡2π5=3.0776…\tan\dfrac{2\pi}{5}=3.0776\dotsから

10.7265…2+13.0776…2=1.8944⋯+0.1055⋯=2.0000…\frac{1}{0.7265\dots^2}+\frac{1}{3.0776\dots^2} = 1.8944\dots + 0.1055\dots = 2.0000\dots

となり、一致します。n=1n=1のときはθ1=π3\theta_1=\dfrac{\pi}{3}で1tan⁡2(π/3)=13\dfrac{1}{\tan^2(\pi/3)}=\dfrac13であり、右辺の1⋅13\dfrac{1\cdot1}{3}に一致します。

3 部分和を挟んで極限を取る

定理 1.2をθ=θk\theta = \theta_kについて用い、k=1k=1からk=nk=nまで足し合わせます。1θk2=(2n+1)2k2π2\dfrac{1}{\theta_k^2} = \dfrac{(2n+1)^2}{k^2\pi^2}なので、真ん中に平方数の逆数の部分和が現れます。

定理 3.1 (部分和の上下からの評価).nnを正の整数とし、Sn=∑k=1n1k2S_n = \displaystyle\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k^2}と置く。このとき

π2 n(2n−1)3(2n+1)2 < Sn < π2⋅2n(n+1)3(2n+1)2\frac{\pi^2\,n(2n-1)}{3(2n+1)^2} \ <\ S_n \ <\ \frac{\pi^2\cdot 2n(n+1)}{3(2n+1)^2}

が成り立つ。

証明.kkを11以上nn以下の整数とすると、定理 2.1の証明で確かめたとおり0<θk<π20<\theta_k<\dfrac{\pi}{2}です。定理 1.2により

1tan⁡2θk < 1θk2 < 1+1tan⁡2θk\frac{1}{\tan^2\theta_k} \ <\ \frac{1}{\theta_k^2} \ <\ 1 + \frac{1}{\tan^2\theta_k}

です。k=1k=1からk=nk=nまで足し合わせ、定理 2.1を用いると

n(2n−1)3 < ∑k=1n1θk2 < n+n(2n−1)3\frac{n(2n-1)}{3} \ <\ \sum_{k=1}^{n}\frac{1}{\theta_k^2} \ <\ n + \frac{n(2n-1)}{3}

です。右端は3n+2n2−n3=2n2+2n3=2n(n+1)3\dfrac{3n+2n^2-n}{3} = \dfrac{2n^2+2n}{3} = \dfrac{2n(n+1)}{3}です。

θk=kπ2n+1\theta_k = \dfrac{k\pi}{2n+1}なので1θk2=(2n+1)2π2k2\dfrac{1}{\theta_k^2} = \dfrac{(2n+1)^2}{\pi^2 k^2}であり、∑k=1n1θk2=(2n+1)2π2Sn\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{\theta_k^2} = \frac{(2n+1)^2}{\pi^2}S_nです。三つの辺にπ2(2n+1)2 (>0)\dfrac{\pi^2}{(2n+1)^2}\ (>0)を掛けると、不等号の向きを変えずに結論を得ます。▨

公式 3.2 (平方数の逆数の総和).

∑k=1∞1k2=π26\sum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{k^2} = \frac{\pi^2}{6}

が成り立つ。

証明.定理 3.1の左辺と右辺の極限を計算します。分子と分母をn2n^2で割ると

n(2n−1)(2n+1)2=2−1n4+4n+1n2 ⟶ 24=12,2n(n+1)(2n+1)2=2+2n4+4n+1n2 ⟶ 12\frac{n(2n-1)}{(2n+1)^2} = \frac{2-\dfrac1n}{4+\dfrac4n+\dfrac{1}{n^2}} \ \longrightarrow\ \frac{2}{4}=\frac12, \qquad \frac{2n(n+1)}{(2n+1)^2} = \frac{2+\dfrac2n}{4+\dfrac4n+\dfrac{1}{n^2}} \ \longrightarrow\ \frac12

です。したがって左辺はπ23⋅12=π26\dfrac{\pi^2}{3}\cdot\dfrac12 = \dfrac{\pi^2}{6}へ、右辺もπ26\dfrac{\pi^2}{6}へ収束します。はさみうちの原理により、数列{Sn}\{S_n\}は収束し、その極限はπ26\dfrac{\pi^2}{6}です。級数の和は部分和の数列の極限として定めるので、結論を得ます。▨

例 3.3 (n=2n=2による評価).n=2n=2のとき、定理 3.1は

2π225 < 1+14 < 4π225\frac{2\pi^2}{25} \ <\ 1+\frac14 \ <\ \frac{4\pi^2}{25}

すなわち0.7895⋯<1.25<1.5791…0.7895\dots < 1.25 < 1.5791\dotsを与えます。nnを大きくすると上下の評価はいずれもπ26=1.6449…\dfrac{\pi^2}{6}=1.6449\dotsへ近づきます。この不等式は部分和SnS_nを挟むものであり、nnを固定したときの左右の値はπ26\dfrac{\pi^2}{6}そのものの評価ではありません。

注意 3.4 (級数の収束をどう扱ったか). 本記事は、級数が収束することをあらかじめ認めていない。定理 3.1は部分和SnS_nを上下から挟む不等式であり、上下の評価がいずれもπ26\dfrac{\pi^2}{6}へ収束するので、はさみうちの原理から{Sn}\{S_n\}が収束することと極限がπ26\dfrac{\pi^2}{6}であることが同時に従う。

認めて用いたものは二つある。第一は、級数の和を部分和の数列の極限として定める枠組みである。第二は、はさみうちの原理である。いずれも「数列と極限」が扱う。一般の級数について収束するかどうかを判定する方法は、本単元では扱わず「ε-論法と基礎解析」が扱う。

注意 3.5 (別の経路との関係). 本記事の道筋は、高校で扱う道具だけで閉じるように選んだものである。同じ値π26\dfrac{\pi^2}{6}は、周期関数を三角関数の級数として表す方法からも得られる。その方法は「Fourier 解析と調和解析」が扱う。

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