§C4.3半角の置換による三角関数の積分

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sin⁡x\sin xとcos⁡x\cos xの有理式を積分するとき、多くの場合はt=sin⁡xt=\sin x、t=cos⁡xt=\cos x、t=tan⁡xt=\tan xのいずれかの置換で済みます。しかし、この三つのどれも用いることができない形があります。角の半分の正接t=tan⁡x2t = \tan\dfrac{x}{2}を新しい変数にとると、sin⁡x\sin x、cos⁡x\cos x、およびdxdxがいずれもttの有理式になるので、そうした積分も有理関数の積分へ帰着します。

本記事は、この置き換えがなぜ成り立つのかを加法定理から導き、どの範囲で用いることができるのかを定め、置き換えを用いることができない点を積分区間が含む場合の扱いまでを扱います。置換積分そのものは「微積分」が、加法定理とその派生公式は「図形と方程式」が扱い、本記事はそれらを用います。

1 三角関数の有理式と、まず試す三つの置換

はじめに、扱う被積分関数の形を定めます。

定義 1.1 (三角関数の有理式).R(u,v)R(u,v)を、実数を係数とする2変数の有理式、すなわち2変数の多項式を2変数の多項式で割った形の式とする。R(sin⁡x,cos⁡x)R(\sin x, \cos x)の形に書き表される関数を、三角関数の有理式という。12+cos⁡x\dfrac{1}{2+\cos x}、sin⁡x1+sin⁡x+cos⁡x\dfrac{\sin x}{1+\sin x + \cos x}、tan⁡x=sin⁡xcos⁡x\tan x = \dfrac{\sin x}{\cos x}がこれにあたる。

三角関数の有理式の積分では、次の三つを先に確かめます。当てはまるものがあれば、そちらのほうが計算が短くなります。

注意 1.2 (被積分関数の対称性による置換の選び方).R(u,v)R(u,v)を2変数の有理式とし、被積分関数をR(sin⁡x,cos⁡x)R(\sin x, \cos x)とする。

  1. すべてのuu、vvについてR(−u,v)=−R(u,v)R(-u,v) = -R(u,v)が成り立つとき、t=cos⁡xt=\cos xと置く。
  2. すべてのuu、vvについてR(u,−v)=−R(u,v)R(u,-v) = -R(u,v)が成り立つとき、t=sin⁡xt=\sin xと置く。
  3. すべてのuu、vvについてR(−u,−v)=R(u,v)R(-u,-v) = R(u,v)が成り立つとき、t=tan⁡xt=\tan xと置く。

たとえばR(u,v)=u3R(u,v) = u^3は条件1を満たすので、∫sin⁡3x dx\displaystyle\int \sin^3 x\,dxではt=cos⁡xt=\cos xと置く。R(u,v)=1uvR(u,v)=\dfrac{1}{uv}は条件3を満たすので、∫dxsin⁡xcos⁡x\displaystyle\int \frac{dx}{\sin x \cos x}ではt=tan⁡xt=\tan xと置く。三つのいずれにも当てはまらないときに、以下の半角の置換を用いる。

たとえばR(u,v)=12+vR(u,v) = \dfrac{1}{2+v}は、R(−u,v)=R(u,v)R(-u,v)=R(u,v)、R(u,−v)=12−vR(u,-v)=\dfrac{1}{2-v}、R(−u,−v)=12−vR(-u,-v)=\dfrac{1}{2-v}なので、三つの条件のどれも満たしません。∫dx2+cos⁡x\displaystyle\int \frac{dx}{2+\cos x}は、上の三つの置換では有理関数の積分になりません。

2 半角の正接を新しい変数にとる

t=tan⁡x2t = \tan\dfrac{x}{2}と置くと、倍角の公式によってsin⁡x\sin xとcos⁡x\cos xがttの有理式で表されます。角を半分にすることが効くのは、sin⁡x\sin xとcos⁡x\cos xがどちらもx2\dfrac{x}{2}の三角関数の2次式で書き表されるからです。

定理 2.1 (半角の正接による表示).−π<x<π-\pi < x < \piとし、t=tan⁡x2t = \tan\dfrac{x}{2}と置く。このとき

sin⁡x=2t1+t2,cos⁡x=1−t21+t2,dtdx=1+t22\sin x = \frac{2t}{1+t^2}, \qquad \cos x = \frac{1-t^2}{1+t^2}, \qquad \frac{dt}{dx} = \frac{1+t^2}{2}

が成り立つ。さらに、x↦tx \mapsto tは開区間(−π,π)(-\pi,\pi)からすべての実数の集合への1対1の対応であり、狭義単調増加で微分可能である。

証明.−π<x<π-\pi < x < \piのとき−π2<x2<π2-\dfrac{\pi}{2} < \dfrac{x}{2} < \dfrac{\pi}{2}なのでcos⁡x2≠0\cos\dfrac{x}{2} \ne 0であり、t=tan⁡x2t = \tan\dfrac{x}{2}が定まります。1+tan⁡2θ=1cos⁡2θ1+\tan^2\theta = \dfrac{1}{\cos^2\theta}から

cos⁡2x2=11+t2\cos^2\frac{x}{2} = \frac{1}{1+t^2}

です。倍角の公式sin⁡x=2sin⁡x2cos⁡x2\sin x = 2\sin\dfrac{x}{2}\cos\dfrac{x}{2}の右辺を2tan⁡x2cos⁡2x22\tan\dfrac{x}{2}\cos^2\dfrac{x}{2}と書き直すと

sin⁡x=2t⋅11+t2=2t1+t2\sin x = 2t \cdot \frac{1}{1+t^2} = \frac{2t}{1+t^2}

が得られます。倍角の公式cos⁡x=2cos⁡2x2−1\cos x = 2\cos^2\dfrac{x}{2} - 1からは

cos⁡x=21+t2−1=1−t21+t2\cos x = \frac{2}{1+t^2} - 1 = \frac{1-t^2}{1+t^2}

が得られます。導関数は、合成関数の微分法によりdtdx=12⋅1cos⁡2x2=1+t22\dfrac{dt}{dx} = \dfrac{1}{2}\cdot\dfrac{1}{\cos^2\frac{x}{2}} = \dfrac{1+t^2}{2}です。この値はつねに正なので、ttはxxについて狭義単調増加です。またx2\dfrac{x}{2}が−π2-\dfrac{\pi}{2}からπ2\dfrac{\pi}{2}まで動くときtan⁡x2\tan\dfrac{x}{2}はすべての実数値を1回ずつとるので、x↦tx \mapsto tは(−π,π)(-\pi,\pi)からすべての実数の集合への1対1の対応です。▨

この表示から、置換積分によって被積分関数がttの有理関数になります。

定理 2.2 (有理関数の積分への帰着).R(u,v)R(u,v)を2変数の有理式とし、開区間IIは(−π,π)(-\pi,\pi)に含まれるとする。IIの上でR(sin⁡x,cos⁡x)R(\sin x,\cos x)の分母が00にならないならば、t=tan⁡x2t=\tan\dfrac{x}{2}と置くことにより

∫R(sin⁡x,cos⁡x) dx=∫R ⁣(2t1+t2, 1−t21+t2)⋅21+t2 dt\int R(\sin x, \cos x)\,dx = \int R\!\left(\frac{2t}{1+t^2},\ \frac{1-t^2}{1+t^2}\right)\cdot\frac{2}{1+t^2}\,dt

が成り立ち、右辺の被積分関数はttの有理関数である。

証明.定理 2.1により、IIの上でt=tan⁡x2t=\tan\dfrac{x}{2}は微分可能でdxdt=21+t2\dfrac{dx}{dt} = \dfrac{2}{1+t^2}です。置換積分の公式へsin⁡x\sin xとcos⁡x\cos xの表示を代入すると、上の等式が得られます。右辺の被積分関数は、有理式R(u,v)R(u,v)のuuとvvへttの有理式を代入し、さらにttの有理式を掛けたものです。有理式に有理式を代入したものも、有理式どうしの積も有理式なので、これはttの有理関数です。▨

得られた有理関数の積分は、分母を実数の範囲で因数分解して部分分数分解へ進めます。その手順は「有理関数の積分と部分分数分解」が扱います。以下ではarctan⁡u\arctan uを、−π2<θ<π2-\dfrac{\pi}{2}<\theta<\dfrac{\pi}{2}かつtan⁡θ=u\tan\theta = uを満たす実数θ\thetaを表す記号として用います。

3 置き換えを用いることができる範囲

この置き換えには、使うことができないxxがあります。答えを変える条件なので、計算に入る前に確かめます。

注意 3.1 (x=πx=\piではこの置き換えを用いることができない).tan⁡x2\tan\dfrac{x}{2}はx2=π2+kπ\dfrac{x}{2} = \dfrac{\pi}{2} + k\pi(kkは整数)のとき、すなわちx=π+2kπx = \pi + 2k\piのときには定義されない。したがってt=tan⁡x2t=\tan\dfrac{x}{2}と置くことができるのは、これらの点を含まない区間、すなわち開区間(2kπ−π, 2kπ+π)(2k\pi-\pi,\ 2k\pi+\pi)に含まれる区間の上に限られる。

このことは、被積分関数の側の性質ではない。12+cos⁡x\dfrac{1}{2+\cos x}はすべての実数xxで定義され、x=πx=\piでも連続である。定義されなくなるのは置き換えのほうであり、xxがπ\piに近づくときttの絶対値は限りなく大きくなる。

4 計算例

区間がx=πx=\piを含まない場合には、置き換えをそのまま用いることができます。

例 4.1 (∫dx2+cos⁡x\displaystyle\int \frac{dx}{2+\cos x}の原始関数).−π<x<π-\pi<x<\piとし、t=tan⁡x2t=\tan\dfrac{x}{2}と置きます。定理 2.1により

2+cos⁡x=2+1−t21+t2=3+t21+t22+\cos x = 2 + \frac{1-t^2}{1+t^2} = \frac{3+t^2}{1+t^2}

なので、定理 2.2により

∫dx2+cos⁡x=∫1+t23+t2⋅21+t2 dt=∫2t2+3 dt\int \frac{dx}{2+\cos x} = \int \frac{1+t^2}{3+t^2}\cdot\frac{2}{1+t^2}\,dt = \int \frac{2}{t^2+3}\,dt

です。t2+3t^2+3は判別式が−12-12で負なので、実数を係数とする1次式の積に分解することができません。この形の積分は逆正接関数を与えます。t=3tan⁡θt = \sqrt{3}\tan\thetaと置く計算により

∫2t2+3 dt=23arctan⁡t3+C\int \frac{2}{t^2+3}\,dt = \frac{2}{\sqrt{3}}\arctan\frac{t}{\sqrt{3}} + C

となるので、−π<x<π-\pi<x<\piにおいて

∫dx2+cos⁡x=23arctan⁡ ⁣(13tan⁡x2)+C\int \frac{dx}{2+\cos x} = \frac{2}{\sqrt{3}}\arctan\!\left(\frac{1}{\sqrt{3}}\tan\frac{x}{2}\right) + C

です。

例 4.2 (区間がx=πx=\piを含まない定積分).∫0π/2dx2+cos⁡x\displaystyle\int_0^{\pi/2} \frac{dx}{2+\cos x}を求めます。積分区間[0,π2]\left[0,\dfrac{\pi}{2}\right]は開区間(−π,π)(-\pi,\pi)に含まれるので、置き換えをそのまま用いることができます。x=0x=0のときt=0t=0、x=π2x=\dfrac{\pi}{2}のときt=tan⁡π4=1t = \tan\dfrac{\pi}{4} = 1なので

∫0π/2dx2+cos⁡x=∫012t2+3 dt=[23arctan⁡t3]01=23⋅π6=39π\int_0^{\pi/2} \frac{dx}{2+\cos x} = \int_0^1 \frac{2}{t^2+3}\,dt = \left[\frac{2}{\sqrt{3}}\arctan\frac{t}{\sqrt{3}}\right]_0^1 = \frac{2}{\sqrt{3}}\cdot\frac{\pi}{6} = \frac{\sqrt{3}}{9}\pi

です。

5 積分区間がx=πx=\piをまたぐ場合

積分区間の内部にx=πx=\piがある場合には、置き換えをそのまま当てることができません。まず、やってはならない計算を確かめます。

注意 5.1 (端点のttの値をそのまま代入しない).∫02πdx2+cos⁡x\displaystyle\int_0^{2\pi} \frac{dx}{2+\cos x}について、x=0x=0のときtan⁡x2=0\tan\dfrac{x}{2}=0、x=2πx=2\piのときtan⁡x2=0\tan\dfrac{x}{2}=0であることから積分区間を00から00までとし、値を00と結論するのは誤りである。被積分関数は0≤x≤2π0 \le x \le 2\piでつねに正なので、積分の値は正である。

誤りの原因は、0<x<2π0<x<2\piの範囲でx↦tan⁡x2x \mapsto \tan\dfrac{x}{2}がx=πx=\piで定義されず、 1対1の対応になっていないことである。置換積分の公式は、置き換えに用いる関数が積分区間の上で微分可能であることを前提としている。

区間をx=πx=\piで二つに分ければ、それぞれの部分では置き換えを用いることができます。ただし、二つの部分で得られる原始関数の表示は、x=πx=\piで値が食い違います。片方に定数を加えて食い違いをなくすと、区間全体で連続な一つの関数が得られ、その関数の両端での値の差が積分の値になります。最後の一歩を保証するのが、次の定理です。

定理 5.2 (つなぎ合わせた原始関数による定積分).ffを閉区間[a,b][a,b]で連続な関数とし、a<c<ba<c<bとする。[a,b][a,b]で連続な関数FFが、ccを除く[a,b][a,b]のすべての点でF′(x)=f(x)F'(x) = f(x)を満たすならば

∫abf(x) dx=F(b)−F(a)\int_a^b f(x)\,dx = F(b)-F(a)

が成り立つ。

証明.H(x)=∫axf(u) duH(x) = \displaystyle\int_a^x f(u)\,duと置きます。ffは[a,b][a,b]で連続なので、微積分学の基本定理によりHHは[a,b][a,b]で微分可能でH′=fH'=fです(「微積分」が扱います)。

区間[a,c][a,c]を考えます。ccを除く点で(F−H)′=F′−H′=0(F-H)'=F'-H'=0なので、導関数が区間全体で00である関数はその区間で定数であることにより、F−HF-Hは[a,c)[a,c)で定数です。その値をk1k_1とします。FFとHHはどちらもx=cx=cで連続なので、x→cx \to cとしたときのF(x)−H(x)F(x)-H(x)の極限はF(c)−H(c)F(c)-H(c)に等しく、これもk1k_1です。したがってF−HF-Hは[a,c][a,c]全体で定数k1k_1です。同じ理由でF−HF-Hは[c,b][c,b]全体で定数であり、x=cx=cでの値を比べるとその定数もk1k_1です。よってF−HF-Hは[a,b][a,b]全体で定数k1k_1です。

H(a)=0H(a)=0、H(b)=∫abf(u) duH(b) = \displaystyle\int_a^b f(u)\,duなのでF(b)−F(a)=H(b)−H(a)=∫abf(u) duF(b)-F(a) = H(b)-H(a) = \displaystyle\int_a^b f(u)\,duを得ます。▨

導関数が区間全体で00である関数がその区間で定数であることは「関数の性質」が扱います。本記事は認めて用います。

例 5.3 (∫02πdx2+cos⁡x\displaystyle\int_0^{2\pi} \frac{dx}{2+\cos x}).例 4.1で得た関数

G(x)=23arctan⁡ ⁣(13tan⁡x2)G(x) = \frac{2}{\sqrt{3}}\arctan\!\left(\frac{1}{\sqrt{3}}\tan\frac{x}{2}\right)

は、0≤x<π0 \le x < \piとπ<x≤2π\pi < x \le 2\piのそれぞれで12+cos⁡x\dfrac{1}{2+\cos x}を導関数にもちます。xxがπ\piに左から近づくときtan⁡x2\tan\dfrac{x}{2}は限りなく大きくなるのでG(x)→23⋅π2=π3G(x) \to \dfrac{2}{\sqrt{3}}\cdot\dfrac{\pi}{2} = \dfrac{\pi}{\sqrt{3}}であり、xxがπ\piに右から近づくときtan⁡x2\tan\dfrac{x}{2}は負で絶対値が限りなく大きくなるのでG(x)→−π3G(x) \to -\dfrac{\pi}{\sqrt{3}}です。食い違いは2π3\dfrac{2\pi}{\sqrt{3}}です。そこで

F(x)={G(x)(0≤x<π)π3(x=π)G(x)+2π3(π<x≤2π)F(x) = \begin{cases} G(x) & (0 \le x < \pi) \\[2pt] \dfrac{\pi}{\sqrt{3}} & (x=\pi) \\[2pt] G(x) + \dfrac{2\pi}{\sqrt{3}} & (\pi < x \le 2\pi) \end{cases}

と定めると、FFは[0,2π][0,2\pi]で連続であり、x=πx=\piを除いてF′(x)=12+cos⁡xF'(x) = \dfrac{1}{2+\cos x}を満たします。F(0)=G(0)=0F(0) = G(0) = 0、F(2π)=G(2π)+2π3=0+2π3F(2\pi) = G(2\pi) + \dfrac{2\pi}{\sqrt{3}} = 0 + \dfrac{2\pi}{\sqrt{3}}なので、定理 5.2により

∫02πdx2+cos⁡x=F(2π)−F(0)=2π3=233π\int_0^{2\pi} \frac{dx}{2+\cos x} = F(2\pi)-F(0) = \frac{2\pi}{\sqrt{3}} = \frac{2\sqrt{3}}{3}\pi

です。被積分関数は正なので、値が正であることと矛盾しません。

積分区間がx=π+2kπx=\pi+2k\piを二つ以上含む場合も、含む点ごとに同じ手順を繰り返します。区間が含む点の個数だけ、原始関数の表示に加える定数が増えます。

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