1 三角関数の有理式と、まず試す三つの置換
はじめに、扱う被積分関数の形を定めます。
定義 1.1 (三角関数の有理式).R(u,v)を、実数を係数とする2変数の有理式、すなわち2変数の多項式を2変数の多項式で割った形の式とする。R(sinx,cosx)の形に書き表される関数を、三角関数の有理式という。2+cosx1、1+sinx+cosxsinx、tanx=cosxsinxがこれにあたる。
三角関数の有理式の積分では、次の三つを先に確かめます。当てはまるものがあれば、そちらのほうが計算が短くなります。
たとえばR(u,v)=2+v1は、R(−u,v)=R(u,v)、R(u,−v)=2−v1、R(−u,−v)=2−v1なので、三つの条件のどれも満たしません。∫2+cosxdxは、上の三つの置換では有理関数の積分になりません。
2 半角の正接を新しい変数にとる
t=tan2xと置くと、倍角の公式によってsinxとcosxがtの有理式で表されます。角を半分にすることが効くのは、sinxとcosxがどちらも2xの三角関数の2次式で書き表されるからです。
証明.−π<x<πのとき−2π<2x<2πなのでcos2x=0であり、t=tan2xが定まります。1+tan2θ=cos2θ1から
cos22x=1+t21です。倍角の公式sinx=2sin2xcos2xの右辺を2tan2xcos22xと書き直すと
sinx=2t⋅1+t21=1+t22tが得られます。倍角の公式cosx=2cos22x−1からは
cosx=1+t22−1=1+t21−t2が得られます。導関数は、合成関数の微分法によりdxdt=21⋅cos22x1=21+t2です。この値はつねに正なので、tはxについて狭義単調増加です。また2xが−2πから2πまで動くときtan2xはすべての実数値を1回ずつとるので、x↦tは(−π,π)からすべての実数の集合への1対1の対応です。▨
この表示から、置換積分によって被積分関数がtの有理関数になります。
定理 2.2 (有理関数の積分への帰着).R(u,v)を2変数の有理式とし、開区間Iは(−π,π)に含まれるとする。Iの上でR(sinx,cosx)の分母が0にならないならば、t=tan2xと置くことにより
∫R(sinx,cosx)dx=∫R(1+t22t, 1+t21−t2)⋅1+t22dtが成り立ち、右辺の被積分関数はtの有理関数である。
証明.定理 2.1により、Iの上でt=tan2xは微分可能でdtdx=1+t22です。置換積分の公式へsinxとcosxの表示を代入すると、上の等式が得られます。右辺の被積分関数は、有理式R(u,v)のuとvへtの有理式を代入し、さらにtの有理式を掛けたものです。有理式に有理式を代入したものも、有理式どうしの積も有理式なので、これはtの有理関数です。▨
得られた有理関数の積分は、分母を実数の範囲で因数分解して部分分数分解へ進めます。その手順は「有理関数の積分と部分分数分解」が扱います。以下ではarctanuを、−2π<θ<2πかつtanθ=uを満たす実数θを表す記号として用います。
3 置き換えを用いることができる範囲
この置き換えには、使うことができないxがあります。答えを変える条件なので、計算に入る前に確かめます。
4 計算例
区間がx=πを含まない場合には、置き換えをそのまま用いることができます。
例 4.1 (∫2+cosxdxの原始関数).−π<x<πとし、t=tan2xと置きます。定理 2.1により
2+cosx=2+1+t21−t2=1+t23+t2なので、定理 2.2により
∫2+cosxdx=∫3+t21+t2⋅1+t22dt=∫t2+32dtです。t2+3は判別式が−12で負なので、実数を係数とする1次式の積に分解することができません。この形の積分は逆正接関数を与えます。t=3tanθと置く計算により
∫t2+32dt=32arctan3t+Cとなるので、−π<x<πにおいて
∫2+cosxdx=32arctan(31tan2x)+Cです。
例 4.2 (区間がx=πを含まない定積分).∫0π/22+cosxdxを求めます。積分区間[0,2π]は開区間(−π,π)に含まれるので、置き換えをそのまま用いることができます。x=0のときt=0、x=2πのときt=tan4π=1なので
∫0π/22+cosxdx=∫01t2+32dt=[32arctan3t]01=32⋅6π=93πです。
5 積分区間がx=πをまたぐ場合
積分区間の内部にx=πがある場合には、置き換えをそのまま当てることができません。まず、やってはならない計算を確かめます。
区間をx=πで二つに分ければ、それぞれの部分では置き換えを用いることができます。ただし、二つの部分で得られる原始関数の表示は、x=πで値が食い違います。片方に定数を加えて食い違いをなくすと、区間全体で連続な一つの関数が得られ、その関数の両端での値の差が積分の値になります。最後の一歩を保証するのが、次の定理です。
定理 5.2 (つなぎ合わせた原始関数による定積分).fを閉区間[a,b]で連続な関数とし、a<c<bとする。[a,b]で連続な関数Fが、cを除く[a,b]のすべての点でF′(x)=f(x)を満たすならば
∫abf(x)dx=F(b)−F(a)が成り立つ。
証明.H(x)=∫axf(u)duと置きます。fは[a,b]で連続なので、微積分学の基本定理によりHは[a,b]で微分可能でH′=fです(「微積分」が扱います)。
区間[a,c]を考えます。cを除く点で(F−H)′=F′−H′=0なので、導関数が区間全体で0である関数はその区間で定数であることにより、F−Hは[a,c)で定数です。その値をk1とします。FとHはどちらもx=cで連続なので、x→cとしたときのF(x)−H(x)の極限はF(c)−H(c)に等しく、これもk1です。したがってF−Hは[a,c]全体で定数k1です。同じ理由でF−Hは[c,b]全体で定数であり、x=cでの値を比べるとその定数もk1です。よってF−Hは[a,b]全体で定数k1です。
H(a)=0、H(b)=∫abf(u)duなのでF(b)−F(a)=H(b)−H(a)=∫abf(u)duを得ます。▨
導関数が区間全体で0である関数がその区間で定数であることは「関数の性質」が扱います。本記事は認めて用います。
例 5.3 (∫02π2+cosxdx).例 4.1で得た関数
G(x)=32arctan(31tan2x)は、0≤x<πとπ<x≤2πのそれぞれで2+cosx1を導関数にもちます。xがπに左から近づくときtan2xは限りなく大きくなるのでG(x)→32⋅2π=3πであり、xがπに右から近づくときtan2xは負で絶対値が限りなく大きくなるのでG(x)→−3πです。食い違いは32πです。そこで
F(x)=⎩⎨⎧G(x)3πG(x)+32π(0≤x<π)(x=π)(π<x≤2π)と定めると、Fは[0,2π]で連続であり、x=πを除いてF′(x)=2+cosx1を満たします。F(0)=G(0)=0、F(2π)=G(2π)+32π=0+32πなので、定理 5.2により
∫02π2+cosxdx=F(2π)−F(0)=32π=323πです。被積分関数は正なので、値が正であることと矛盾しません。
積分区間がx=π+2kπを二つ以上含む場合も、含む点ごとに同じ手順を繰り返します。区間が含む点の個数だけ、原始関数の表示に加える定数が増えます。