1 円周率を定積分で表す
はじめに、出発点になる等式を示します。
定理 1.1 (円周率を与える定積分).
∫011+x2dx=4πが成り立つ。
証明.x=tanθと置く。θの範囲を0≤θ≤4πにとると、tanθはこの範囲で単調増加であり、θ=0のときx=0、θ=4πのときx=1なので、xは0から1までを動く。この範囲ではcosθ=0であり、
dθdx=cos2θ1,1+x2=1+tan2θ=cos2θ1である。したがって
∫011+x2dx=∫0π/4cos2θ⋅cos2θ1dθ=∫0π/41dθ=4πとなる。▨
2 交代する多項式で挟む
1+x21を多項式で押さえるには、1+x2を掛けたときに簡単になる多項式を探します。1−x2+x4−⋯という交代する形の多項式に1+x2を掛けると、途中の項が打ち消し合って両端だけが残ります。
定理 2.1 (交代する多項式による上下からの評価).mを0以上の整数とし
Qm(x)=j=0∑m(−1)jx2j=1−x2+x4−⋯+(−1)mx2mと置く。すべての実数xについて
Qm(x)−1+x21=1+x2(−1)mx2m+2が成り立つ。したがって、mが偶数のときは1+x21≤Qm(x)、mが奇数のときはQm(x)≤1+x21である。
証明.Qm(x)に1+x2を掛けると
(1+x2)Qm(x)=j=0∑m(−1)jx2j+j=0∑m(−1)jx2j+2である。第2の和でjをj−1へ書き換えるとj=1∑m+1(−1)j−1x2j=−j=1∑m+1(−1)jx2jなので、j=1からj=mまでの項がすべて打ち消し合い
(1+x2)Qm(x)=1−(−1)m+1x2m+2=1+(−1)mx2m+2が残る。1+x2>0なので両辺を1+x2で割るとQm(x)=1+x21+1+x2(−1)mx2m+2となり、第1の主張を得る。
x2m+2≥0と1+x2>0から1+x2x2m+2≥0である。mが偶数ならば(−1)m=1なのでQm(x)−1+x21≥0、mが奇数ならば(−1)m=−1なのでQm(x)−1+x21≤0である。▨
多項式Qmの0から1までの積分は、奇数の逆数の交代和になります。
証明.∫01Qm(x)dx=j=0∑m(−1)j∫01x2jdx=j=0∑m2j+1(−1)j=Amである。
定理 2.1により、0≤x≤1でQ2k+1(x)≤1+x21≤Q2k(x)である。三つはいずれも[0,1]で連続なので、0から1まで積分しても不等号の向きは変わらない。定理 1.1により
A2k+1 ≤ 4π ≤ A2kとなり、4を掛けて結論を得る。差については、A2kとA2k+1はj=2k+1の項だけが違い、その項は2(2k+1)+1(−1)2k+1=−4k+31なのでA2k−A2k+1=4k+31であり、4倍して4k+34である。▨
例 2.3 (次数を上げたときの範囲).k=0のとき、用いる多項式はQ1(x)=1−x2(2次)とQ0(x)=1(0次)で
38=2.666… ≤ π ≤ 4である。幅は34=1.333…である。
k=1のとき、用いる多項式はQ3(6次)とQ2(4次)で
105304=2.895… ≤ π ≤ 1552=3.466…である。幅は74=0.571…である。
k=2のとき、用いる多項式はQ5(10次)とQ4(8次)で2.976⋯≤π≤3.339…となり、幅は114=0.363…である。
3 少ない次数で狭い範囲を与える挟み方
同じ1+x21を含む積分でも、被積分関数の作り方を変えると、はるかに少ない次数で狭い範囲が得られます。0と1の両方で0になる多項式x4(1−x)4を分子に置くと、被積分関数が[0,1]で小さく保たれます。
定理 3.1 (x4(1−x)4を分子に置いた積分).
∫011+x2x4(1−x)4dx=722−πが成り立つ。
証明.(1−x)4=1−4x+6x2−4x3+x4なのでx4(1−x)4=x8−4x7+6x6−4x5+x4である。これをx2+1で割ると、商がx6−4x5+5x4−4x2+4、余りが−4となる。すなわち
1+x2x4(1−x)4=x6−4x5+5x4−4x2+4−1+x24である。右辺に1+x2を掛けると(x6−4x5+5x4−4x2+4)(1+x2)−4=x8−4x7+6x6−4x5+x4となり、左辺の分子に一致する。
0から1まで積分し、定理 1.1を用いると
∫011+x2x4(1−x)4dx=71−64+55−34+4−4⋅4π=71−32+1−34+4−πである。−32−34=−2なので、有理数の部分は71−2+1+4=71+3=722となり、結論を得る。▨
この積分の値を上下から押さえます。分子は[0,1]で0以上であり、分母は1以上2以下です。
定理 3.2 (被積分関数の非負性と上下からの評価).0≤x≤1を満たすすべてのxについて
0 ≤ 2x4(1−x)4 ≤ 1+x2x4(1−x)4 ≤ x4(1−x)4が成り立つ。
証明.0≤x≤1ではx≥0かつ1−x≥0なので、x4≥0かつ(1−x)4≥0であり、積x4(1−x)4は0以上である。指数がいずれも偶数なので、xの符号によらずx4≥0と(1−x)4≥0が成り立つことからも同じ結論が得られる。
また0≤x≤1では0≤x2≤1なので1≤1+x2≤2である。c≥0と1≤d≤2に対して2c≤dc≤cが成り立つので、c=x4(1−x)4、d=1+x2として結論を得る。▨
証明.∫01x4(1−x)4dxを計算する。展開して1項ずつ積分すると
∫01(x4−4x5+6x6−4x7+x8)dx=51−64+76−84+91=630126−420+540−315+70=6301である。同じ値は、「二項係数を与える積分」で扱う∫01xm(1−x)ndx=(m+n+1)!m!n!にm=n=4を代入した9!4!⋅4!=362880576=6301からも得られる。
定理 3.2の三つの関数はいずれも[0,1]で連続なので、0から1まで積分しても不等号の向きは変わらない。したがって
12601 ≤ ∫011+x2x4(1−x)4dx ≤ 6301である。定理 3.1によりこの積分は722−πなので
12601 ≤ 722−π ≤ 6301であり、各辺を722から引いて向きを直すと結論を得る。左側の不等式12601≤722−πからπ≤722−12601<722である。▨
例 3.4 (二つの挟み方の比較).公式 3.3を小数で書くと
3.14126… ≤ π ≤ 3.14206…であり、幅は12601=0.00079…である。ここで用いた多項式x4(1−x)4は8次である。
注意 2.5のとおり、交代する多項式による挟み方で同じ幅を得るには4k+34≤12601、すなわち4k+3≥5040が必要であり、次数が5000を超える多項式が要る。挟む多項式の次数と得られる範囲の狭さの関係は、多項式をどう選ぶかによって大きく変わる。