§C4.10円周率の値の評価

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円周率の値の評価は、定積分を用いて有理数による上下界を作る代表的な問題です。本記事では、∫01dx1+x2=π4\displaystyle\int_0^1 \frac{dx}{1+x^2}=\frac{\pi}{4}を多項式の積分で挟み、得られる評価区間の幅を調べます。

1 円周率を定積分で表す

はじめに、出発点になる等式を示します。

定理 1.1 (円周率を与える定積分).

∫01dx1+x2=π4\int_0^1 \frac{dx}{1+x^2} = \frac{\pi}{4}

が成り立つ。

証明.x=tan⁡θx = \tan\thetaと置く。θ\thetaの範囲を0≤θ≤π40 \le \theta \le \dfrac{\pi}{4}にとると、tan⁡θ\tan\thetaはこの範囲で単調増加であり、θ=0\theta=0のときx=0x=0、θ=π4\theta=\dfrac{\pi}{4}のときx=1x=1なので、xxは00から11までを動く。この範囲ではcos⁡θ≠0\cos\theta \ne 0であり、

dxdθ=1cos⁡2θ,1+x2=1+tan⁡2θ=1cos⁡2θ\frac{dx}{d\theta} = \frac{1}{\cos^2\theta}, \qquad 1+x^2 = 1+\tan^2\theta = \frac{1}{\cos^2\theta}

である。したがって

∫01dx1+x2=∫0π/4cos⁡2θ⋅1cos⁡2θ dθ=∫0π/41 dθ=π4\int_0^1 \frac{dx}{1+x^2} = \int_0^{\pi/4} \cos^2\theta \cdot \frac{1}{\cos^2\theta}\,d\theta = \int_0^{\pi/4} 1\,d\theta = \frac{\pi}{4}

となる。▨

2 交代する多項式で挟む

11+x2\dfrac{1}{1+x^2}を多項式で押さえるには、1+x21+x^2を掛けたときに簡単になる多項式を探します。1−x2+x4−⋯1 - x^2 + x^4 - \cdotsという交代する形の多項式に1+x21+x^2を掛けると、途中の項が打ち消し合って両端だけが残ります。

定理 2.1 (交代する多項式による上下からの評価).mmを00以上の整数とし

Qm(x)=∑j=0m(−1)jx2j=1−x2+x4−⋯+(−1)mx2mQ_m(x) = \sum_{j=0}^{m}(-1)^j x^{2j} = 1 - x^2 + x^4 - \cdots + (-1)^m x^{2m}

と置く。すべての実数xxについて

Qm(x)−11+x2=(−1)mx2m+21+x2Q_m(x) - \frac{1}{1+x^2} = \frac{(-1)^m x^{2m+2}}{1+x^2}

が成り立つ。したがって、mmが偶数のときは11+x2≤Qm(x)\dfrac{1}{1+x^2} \le Q_m(x)、mmが奇数のときはQm(x)≤11+x2Q_m(x) \le \dfrac{1}{1+x^2}である。

証明.Qm(x)Q_m(x)に1+x21+x^2を掛けると

(1+x2)Qm(x)=∑j=0m(−1)jx2j+∑j=0m(−1)jx2j+2(1+x^2)Q_m(x) = \sum_{j=0}^{m}(-1)^j x^{2j} + \sum_{j=0}^{m}(-1)^j x^{2j+2}

である。第2の和でjjをj−1j-1へ書き換えると∑j=1m+1(−1)j−1x2j=−∑j=1m+1(−1)jx2j\displaystyle\sum_{j=1}^{m+1}(-1)^{j-1}x^{2j} = -\sum_{j=1}^{m+1}(-1)^{j}x^{2j}なので、j=1j=1からj=mj=mまでの項がすべて打ち消し合い

(1+x2)Qm(x)=1−(−1)m+1x2m+2=1+(−1)mx2m+2(1+x^2)Q_m(x) = 1 - (-1)^{m+1}x^{2m+2} = 1 + (-1)^m x^{2m+2}

が残る。1+x2>01+x^2 > 0なので両辺を1+x21+x^2で割るとQm(x)=11+x2+(−1)mx2m+21+x2Q_m(x) = \dfrac{1}{1+x^2} + \dfrac{(-1)^m x^{2m+2}}{1+x^2}となり、第1の主張を得る。

x2m+2≥0x^{2m+2} \ge 0と1+x2>01+x^2>0からx2m+21+x2≥0\dfrac{x^{2m+2}}{1+x^2}\ge0である。mmが偶数ならば(−1)m=1(-1)^m=1なのでQm(x)−11+x2≥0Q_m(x)-\dfrac{1}{1+x^2}\ge0、mmが奇数ならば(−1)m=−1(-1)^m=-1なのでQm(x)−11+x2≤0Q_m(x)-\dfrac{1}{1+x^2}\le0である。▨

多項式QmQ_mの00から11までの積分は、奇数の逆数の交代和になります。

公式 2.2 (多項式で挟んだ円周率の範囲).kkを00以上の整数とし、Am=∑j=0m(−1)j2j+1A_m = \displaystyle\sum_{j=0}^{m}\frac{(-1)^j}{2j+1}と置く。このとき

4A2k+1 ≤ π ≤ 4A2k4A_{2k+1} \ \le\ \pi \ \le\ 4A_{2k}

が成り立ち、上下の差は44k+3\dfrac{4}{4k+3}である。

証明.∫01Qm(x) dx=∑j=0m(−1)j∫01x2j dx=∑j=0m(−1)j2j+1=Am\displaystyle\int_0^1 Q_m(x)\,dx = \sum_{j=0}^{m}(-1)^j\int_0^1 x^{2j}\,dx = \sum_{j=0}^{m}\frac{(-1)^j}{2j+1} = A_mである。

定理 2.1により、0≤x≤10 \le x \le 1でQ2k+1(x)≤11+x2≤Q2k(x)Q_{2k+1}(x) \le \dfrac{1}{1+x^2} \le Q_{2k}(x)である。三つはいずれも[0,1][0,1]で連続なので、00から11まで積分しても不等号の向きは変わらない。定理 1.1により

A2k+1 ≤ π4 ≤ A2kA_{2k+1} \ \le\ \frac{\pi}{4} \ \le\ A_{2k}

となり、44を掛けて結論を得る。差については、A2kA_{2k}とA2k+1A_{2k+1}はj=2k+1j=2k+1の項だけが違い、その項は(−1)2k+12(2k+1)+1=−14k+3\dfrac{(-1)^{2k+1}}{2(2k+1)+1} = -\dfrac{1}{4k+3}なのでA2k−A2k+1=14k+3A_{2k}-A_{2k+1} = \dfrac{1}{4k+3}であり、44倍して44k+3\dfrac{4}{4k+3}である。▨

例 2.3 (次数を上げたときの範囲).k=0k=0のとき、用いる多項式はQ1(x)=1−x2Q_1(x)=1-x^2(2次)とQ0(x)=1Q_0(x)=1(0次)で

83=2.666… ≤ π ≤ 4\frac{8}{3} = 2.666\dots \ \le\ \pi \ \le\ 4

である。幅は43=1.333…\dfrac43 = 1.333\dotsである。

k=1k=1のとき、用いる多項式はQ3Q_3(6次)とQ2Q_2(4次)で

304105=2.895… ≤ π ≤ 5215=3.466…\frac{304}{105} = 2.895\dots \ \le\ \pi \ \le\ \frac{52}{15} = 3.466\dots

である。幅は47=0.571…\dfrac47 = 0.571\dotsである。

k=2k=2のとき、用いる多項式はQ5Q_5(10次)とQ4Q_4(8次)で2.976⋯≤π≤3.339…2.976\dots \le \pi \le 3.339\dotsとなり、幅は411=0.363…\dfrac{4}{11} = 0.363\dotsである。

注意 2.4 (片側だけでは値の範囲が定まらない).Q2kQ_{2k}だけを用いるとπ≤4A2k\pi \le 4A_{2k}しか得られず、Q2k+1Q_{2k+1}だけを用いるとπ≥4A2k+1\pi \ge 4A_{2k+1}しか得られない。どちらもπ\piの値がどの範囲にあるのかを述べていない。上と下の両方を押さえて初めて、π\piが二つの有理数の間にあることが定まる。定理 2.1でmmの偶奇によって不等号の向きが変わるのは、剰余(−1)mx2m+21+x2\dfrac{(-1)^m x^{2m+2}}{1+x^2}の符号が(−1)m(-1)^mで決まるからである。

注意 2.5 (幅の縮み方).公式 2.2の幅44k+3\dfrac{4}{4k+3}は、用いる多項式の次数(Q2kQ_{2k}が4k4k次、Q2k+1Q_{2k+1}が4k+24k+2次)にほぼ反比例して縮む。反比例なので、幅を110\dfrac{1}{10}にするには次数を1010倍にする必要がある。幅を11000\dfrac{1}{1000}より狭くするには4k+3>40004k+3 > 4000が要り、そのとき用いる多項式は40004000次程度になる。

3 少ない次数で狭い範囲を与える挟み方

同じ11+x2\dfrac{1}{1+x^2}を含む積分でも、被積分関数の作り方を変えると、はるかに少ない次数で狭い範囲が得られます。00と11の両方で00になる多項式x4(1−x)4x^4(1-x)^4を分子に置くと、被積分関数が[0,1][0,1]で小さく保たれます。

定理 3.1 (x4(1−x)4x^4(1-x)^4を分子に置いた積分).

∫01x4(1−x)41+x2 dx=227−π\int_0^1 \frac{x^4(1-x)^4}{1+x^2}\,dx = \frac{22}{7} - \pi

が成り立つ。

証明.(1−x)4=1−4x+6x2−4x3+x4(1-x)^4 = 1-4x+6x^2-4x^3+x^4なのでx4(1−x)4=x8−4x7+6x6−4x5+x4x^4(1-x)^4 = x^8-4x^7+6x^6-4x^5+x^4である。これをx2+1x^2+1で割ると、商がx6−4x5+5x4−4x2+4x^6-4x^5+5x^4-4x^2+4、余りが−4-4となる。すなわち

x4(1−x)41+x2=x6−4x5+5x4−4x2+4−41+x2\frac{x^4(1-x)^4}{1+x^2} = x^6-4x^5+5x^4-4x^2+4 - \frac{4}{1+x^2}

である。右辺に1+x21+x^2を掛けると(x6−4x5+5x4−4x2+4)(1+x2)−4=x8−4x7+6x6−4x5+x4(x^6-4x^5+5x^4-4x^2+4)(1+x^2)-4 = x^8-4x^7+6x^6-4x^5+x^4となり、左辺の分子に一致する。

00から11まで積分し、定理 1.1を用いると

∫01x4(1−x)41+x2 dx=17−46+55−43+4−4⋅π4=17−23+1−43+4−π\int_0^1 \frac{x^4(1-x)^4}{1+x^2}\,dx = \frac17 - \frac46 + \frac55 - \frac43 + 4 - 4\cdot\frac{\pi}{4} = \frac17 - \frac23 + 1 - \frac43 + 4 - \pi

である。−23−43=−2-\dfrac23-\dfrac43 = -2なので、有理数の部分は17−2+1+4=17+3=227\dfrac17 - 2 + 1 + 4 = \dfrac17+3 = \dfrac{22}{7}となり、結論を得る。▨

この積分の値を上下から押さえます。分子は[0,1][0,1]で00以上であり、分母は11以上22以下です。

定理 3.2 (被積分関数の非負性と上下からの評価).0≤x≤10 \le x \le 1を満たすすべてのxxについて

0 ≤ x4(1−x)42 ≤ x4(1−x)41+x2 ≤ x4(1−x)40 \ \le\ \frac{x^4(1-x)^4}{2} \ \le\ \frac{x^4(1-x)^4}{1+x^2} \ \le\ x^4(1-x)^4

が成り立つ。

証明.0≤x≤10 \le x \le 1ではx≥0x \ge 0かつ1−x≥01-x \ge 0なので、x4≥0x^4 \ge 0かつ(1−x)4≥0(1-x)^4 \ge 0であり、積x4(1−x)4x^4(1-x)^4は00以上である。指数がいずれも偶数なので、xxの符号によらずx4≥0x^4 \ge 0と(1−x)4≥0(1-x)^4\ge0が成り立つことからも同じ結論が得られる。

また0≤x≤10 \le x \le 1では0≤x2≤10 \le x^2 \le 1なので1≤1+x2≤21 \le 1+x^2 \le 2である。c≥0c \ge 0と1≤d≤21 \le d \le 2に対してc2≤cd≤c\dfrac{c}{2} \le \dfrac{c}{d} \le cが成り立つので、c=x4(1−x)4c = x^4(1-x)^4、d=1+x2d = 1+x^2として結論を得る。▨

公式 3.3 (得られる円周率の範囲).

227−1630 ≤ π ≤ 227−11260\frac{22}{7} - \frac{1}{630} \ \le\ \pi \ \le\ \frac{22}{7} - \frac{1}{1260}

すなわち1979630≤π≤39591260\dfrac{1979}{630} \le \pi \le \dfrac{3959}{1260}が成り立つ。とくにπ<227\pi < \dfrac{22}{7}である。

証明.∫01x4(1−x)4 dx\displaystyle\int_0^1 x^4(1-x)^4\,dxを計算する。展開して1項ずつ積分すると

∫01(x4−4x5+6x6−4x7+x8) dx=15−46+67−48+19=126−420+540−315+70630=1630\int_0^1 (x^4-4x^5+6x^6-4x^7+x^8)\,dx = \frac15-\frac46+\frac67-\frac48+\frac19 = \frac{126-420+540-315+70}{630} = \frac{1}{630}

である。同じ値は、「二項係数を与える積分」で扱う∫01xm(1−x)n dx=m! n!(m+n+1)!\displaystyle\int_0^1 x^m(1-x)^n\,dx = \frac{m!\,n!}{(m+n+1)!}にm=n=4m=n=4を代入した4!⋅4!9!=576362880=1630\dfrac{4!\cdot4!}{9!} = \dfrac{576}{362880} = \dfrac{1}{630}からも得られる。

定理 3.2の三つの関数はいずれも[0,1][0,1]で連続なので、00から11まで積分しても不等号の向きは変わらない。したがって

11260 ≤ ∫01x4(1−x)41+x2 dx ≤ 1630\frac{1}{1260} \ \le\ \int_0^1 \frac{x^4(1-x)^4}{1+x^2}\,dx \ \le\ \frac{1}{630}

である。定理 3.1によりこの積分は227−π\dfrac{22}{7}-\piなので

11260 ≤ 227−π ≤ 1630\frac{1}{1260} \ \le\ \frac{22}{7}-\pi \ \le\ \frac{1}{630}

であり、各辺を227\dfrac{22}{7}から引いて向きを直すと結論を得る。左側の不等式11260≤227−π\dfrac{1}{1260} \le \dfrac{22}{7}-\piからπ≤227−11260<227\pi \le \dfrac{22}{7}-\dfrac{1}{1260} < \dfrac{22}{7}である。▨

例 3.4 (二つの挟み方の比較).公式 3.3を小数で書くと

3.14126… ≤ π ≤ 3.14206…3.14126\dots \ \le\ \pi \ \le\ 3.14206\dots

であり、幅は11260=0.00079…\dfrac{1}{1260} = 0.00079\dotsである。ここで用いた多項式x4(1−x)4x^4(1-x)^4は8次である。

注意 2.5のとおり、交代する多項式による挟み方で同じ幅を得るには44k+3≤11260\dfrac{4}{4k+3} \le \dfrac{1}{1260}、すなわち4k+3≥50404k+3 \ge 5040が必要であり、次数が50005000を超える多項式が要る。挟む多項式の次数と得られる範囲の狭さの関係は、多項式をどう選ぶかによって大きく変わる。

注意 3.5 (本記事が扱う範囲). 本記事は、π\piの値が二つの有理数の間にあることを、有限次の多項式による評価から定めるところまでを扱う。公式 2.2のAmA_mをm→∞m \to \inftyとした無限級数として読み、部分和で打ち切ったときの誤差を扱うのは「ライプニッツ級数と打ち切りの誤差」である。∫01xm(1−x)n dx\displaystyle\int_0^1 x^m(1-x)^n\,dxの値を一般のmm、nnについて与えるのは「二項係数を与える積分」である。

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