§C4.8凸性による積分の不等式

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区間[a,b][a,b]における関数ffの積分の平均1b−a∫abf(x) dx\dfrac{1}{b-a}\displaystyle\int_a^b f(x)\,dxは、原始関数が求まらなければ値を出すことができません。しかしffが下に凸であれば、この平均を、関数の値そのものによって上下から挟むことができます。下から押さえるのが区間の中点における値f(a+b2)f\left(\dfrac{a+b}{2}\right)、上から押さえるのが両端における値の平均f(a)+f(b)2\dfrac{f(a)+f(b)}{2}です。

上下の二つの評価は、根拠が別です。上からの評価は、弦がグラフより下に来ないという凸性の定義そのものから出ます。下からの評価は、グラフが接線より下に来ないことから出ます。本記事は、この二つを分けて示し、続いて、同じ不等式を区間の分割の各小区間へ当てることで、区分求積の和と積分の大小関係を定めます。

定積分と置換積分そのものは「微積分」が、第2次導関数と曲線の凹凸は「関数の性質」が扱い、本記事はそれらを用います。凸性そのものの性質、すなわちイェンセンの不等式やべき平均の不等式は「雑多な話題」が扱い、本記事は積分の不等式に絞ります。

1 下に凸であることと接線の位置

はじめに、本記事が用いる凸性を定めます。

定義 1.1 (下に凸な関数).IIを区間とし、ffをIIで定義された関数とする。ffがIIで下に凸であるとは、グラフ上のどの二点を結ぶ弦も、その二点の間ではグラフより下に来ないことをいう。すなわち、IIに属するp<qp < qを満たすどの二点pp、qqについても、0≤t≤10 \le t \le 1を満たすすべてのttで

f((1−t)p+tq) ≤ (1−t)f(p)+t f(q)f\bigl((1-t)p + tq\bigr) \ \le\ (1-t)f(p) + t\,f(q)

が成り立つことをいう。ここで左辺は点(1−t)p+tq(1-t)p+tqにおけるグラフの高さ、右辺は同じ点における弦の高さである。

不等号は等号を含みます。1次関数はこの定義を等号つきで満たすので、下に凸です。また、不等式が要求されているのはppとqqの間、すなわち0≤t≤10 \le t \le 1の範囲だけです。この範囲の外では、弦はグラフより下へ来ます。

凸であるかどうかを個別の関数について確かめる手段として、第2次導関数の符号を用います。その根拠になるのが、グラフと接線の位置関係です。

定理 1.2 (接線がグラフより上に来ないこと).IIを区間とし、ffをIIで2回微分可能な関数とする。IIに属するすべてのxxでf′′(x)≥0f''(x) \ge 0であるとする。このとき、IIに属するどのccについても、IIに属するすべてのxxで

f(x) ≥ f(c)+f′(c)(x−c)f(x) \ \ge\ f(c) + f'(c)(x-c)

が成り立つ。すなわち、x=cx=cにおける接線は、IIの上でグラフより上に来ない。

証明.ccをIIの中に固定し、g(x)=f(x)−f(c)−f′(c)(x−c)g(x) = f(x) - f(c) - f'(c)(x-c)と置きます。ggはIIで微分可能であり、g(c)=0g(c) = 0、g′(x)=f′(x)−f′(c)g'(x) = f'(x) - f'(c)です。

仮定f′′≥0f'' \ge 0により、f′f'はIIで広義単調増加です。ここでの広義単調増加は、IIに属するx≤yx \le yについてf′(x)≤f′(y)f'(x) \le f'(y)が成り立つという、等号を許す意味です。したがって、IIに属するxxについて、x≥cx \ge cならばf′(x)≥f′(c)f'(x) \ge f'(c)すなわちg′(x)≥0g'(x) \ge 0であり、x≤cx \le cならばf′(x)≤f′(c)f'(x) \le f'(c)すなわちg′(x)≤0g'(x) \le 0です。

よってggは、IIのうちcc以上の部分で広義単調増加、cc以下の部分で広義単調減少です。x≥cx \ge cではg(x)≥g(c)=0g(x) \ge g(c) = 0、x≤cx \le cではg(x)≥g(c)=0g(x) \ge g(c) = 0となり、IIに属するすべてのxxでg(x)≥0g(x) \ge 0です。これは結論の不等式そのものです。▨

接線の位置が分かると、凸性が従います。弦の両端における値を、中間の点における接線で下から押さえる形になります。

定理 1.3 (第2次導関数による凸性の判定).IIを区間とし、ffをIIで2回微分可能な関数とする。IIに属するすべてのxxでf′′(x)≥0f''(x)\ge 0であるならば、ffはIIで下に凸である。

証明.IIに属するp<qp<qと0≤t≤10 \le t \le 1を任意にとり、c=(1−t)p+tqc = (1-t)p + tqと置きます。ccはppとqqの間にあるのでIIに属します。定理 1.2をx=px=pとx=qx=qへ適用すると

f(p)≥f(c)+f′(c)(p−c),f(q)≥f(c)+f′(c)(q−c)f(p) \ge f(c) + f'(c)(p-c), \qquad f(q) \ge f(c) + f'(c)(q-c)

です。第1式に1−t (≥0)1-t \ (\ge 0)を、第2式にt (≥0)t \ (\ge 0)を掛けて足すと

(1−t)f(p)+t f(q) ≥ f(c)+f′(c)((1−t)p+tq−c)=f(c)(1-t)f(p) + t\,f(q) \ \ge\ f(c) + f'(c)\bigl((1-t)p + tq - c\bigr) = f(c)

となります。ここで(1−t)p+tq−c=0(1-t)p+tq-c = 0を用いました。これは定義 1.1の不等式そのものです。▨

注意 1.4 (凹凸の判定と、本記事が用いる形). 第2次導関数の符号によって曲線の凹凸を判定する方法そのものは「関数の性質」が扱う。本記事は、具体的な関数について定義 1.1の仮定が満たされることを確かめる場面で、定理 1.3を用いる。以下の不等式のうち、弦による評価は定義 1.1だけを用い、微分可能性を必要としない。中点による評価は定理 1.2を用いるので、微分可能であることが要る。

2 積分の平均を上下から挟む

上からの評価は、定義 1.1の不等式をttについて00から11まで積分することで得られます。左辺の積分が、置換によってffの積分の平均になります。

定理 2.1 (弦による上からの評価).a<ba < bとし、ffは閉区間[a,b][a,b]で連続かつ下に凸であるとする。このとき

1b−a∫abf(x) dx ≤ f(a)+f(b)2\frac{1}{b-a}\int_a^b f(x)\,dx \ \le\ \frac{f(a)+f(b)}{2}

が成り立つ。

証明.定義 1.1をp=ap=a、q=bq=bについて用いると、0≤t≤10 \le t \le 1を満たすすべてのttで

f((1−t)a+tb)≤(1−t)f(a)+t f(b)f\bigl((1-t)a+tb\bigr) \le (1-t)f(a) + t\,f(b)

です。両辺はttの関数として[0,1][0,1]で連続なので、00から11まで積分しても不等号の向きは変わりません。

左辺について、x=(1−t)a+tb=a+t(b−a)x = (1-t)a+tb = a + t(b-a)と置きます。dxdt=b−a>0\dfrac{dx}{dt} = b-a > 0であり、t=0t=0のときx=ax=a、t=1t=1のときx=bx=bなので

∫01f(a+t(b−a)) dt=1b−a∫abf(x) dx\int_0^1 f\bigl(a+t(b-a)\bigr)\,dt = \frac{1}{b-a}\int_a^b f(x)\,dx

です。右辺については

∫01((1−t)f(a)+tf(b)) dt=f(a)[t−t22]01+f(b)[t22]01=f(a)+f(b)2\int_0^1 \bigl((1-t)f(a) + t f(b)\bigr)\,dt = f(a)\left[t-\frac{t^2}{2}\right]_0^1 + f(b)\left[\frac{t^2}{2}\right]_0^1 = \frac{f(a)+f(b)}{2}

です。両者を比べて、結論を得ます。▨

下からの評価は、区間の中点における接線を使います。接線は1次関数なので、その積分の平均は中点における値に一致します。

定理 2.2 (中点による下からの評価).a<ba < bとし、ffは[a,b][a,b]を含む開区間で2回微分可能で、その開区間のすべての点でf′′≥0f'' \ge 0であるとする。このとき

f(a+b2) ≤ 1b−a∫abf(x) dxf\left(\frac{a+b}{2}\right) \ \le\ \frac{1}{b-a}\int_a^b f(x)\,dx

が成り立つ。

証明.定理 1.2をc=a+b2c=\dfrac{a+b}{2}について用いると、a≤x≤ba \le x \le bを満たすすべてのxxでf(x)≥f(c)+f′(c)(x−c)f(x) \ge f(c) + f'(c)(x-c)です。両辺は[a,b][a,b]で連続なので、aaからbbまで積分しても不等号の向きは変わりません。右辺の積分は

∫ab(f(c)+f′(c)(x−c)) dx=f(c)(b−a)+f′(c)[(x−c)22]ab\int_a^b \bigl(f(c)+f'(c)(x-c)\bigr)\,dx = f(c)(b-a) + f'(c)\left[\frac{(x-c)^2}{2}\right]_a^b

です。ccはaaとbbの中点なのでb−c=b−a2b-c = \dfrac{b-a}{2}、a−c=−b−a2a-c = -\dfrac{b-a}{2}であり、(b−c)2=(a−c)2(b-c)^2 = (a-c)^2から[(x−c)22]ab=0\left[\dfrac{(x-c)^2}{2}\right]_a^b = 0です。したがって

∫abf(x) dx ≥ f(c)(b−a)\int_a^b f(x)\,dx \ \ge\ f(c)(b-a)

となり、b−a>0b-a>0で両辺を割って結論を得ます。▨

二つの評価を並べると、積分の平均を上下から挟む形になります。

公式 2.3 (積分の平均を挟む不等式).a<ba<bとし、ffは[a,b][a,b]を含む開区間で2回微分可能で、その開区間のすべての点でf′′≥0f'' \ge 0であるとする。このとき

f(a+b2) ≤ 1b−a∫abf(x) dx ≤ f(a)+f(b)2f\left(\frac{a+b}{2}\right) \ \le\ \frac{1}{b-a}\int_a^b f(x)\,dx \ \le\ \frac{f(a)+f(b)}{2}

が成り立つ。ffが1次関数であるときは、三つの値がすべて等しい。

証明. 仮定によりffは[a,b][a,b]で連続であり、定理 1.3により[a,b][a,b]で下に凸です。左側の不等式は定理 2.2、右側の不等式は定理 2.1です。

f(x)=αx+βf(x)=\alpha x+\betaのときは、∫abf(x) dx=α2(b2−a2)+β(b−a)\displaystyle\int_a^b f(x)\,dx = \frac{\alpha}{2}(b^2-a^2)+\beta(b-a)なので、積分の平均はα(a+b)2+β\dfrac{\alpha(a+b)}{2}+\betaです。これはf(a+b2)f\left(\dfrac{a+b}{2}\right)ともf(a)+f(b)2\dfrac{f(a)+f(b)}{2}とも一致します。▨

例 2.4 (log⁡2\log 2の評価).f(x)=1xf(x)=\dfrac{1}{x}を区間[1,2][1,2]で考えます。x>0x>0でf′′(x)=2x3>0f''(x)=\dfrac{2}{x^3}>0なので、公式 2.3の仮定が満たされます。∫12dxx=log⁡2\displaystyle\int_1^2\frac{dx}{x} = \log 2であり、中点は32\dfrac{3}{2}、両端の値の平均は1+122=34\dfrac{1+\frac12}{2}=\dfrac{3}{4}なので

23 ≤ log⁡2 ≤ 34\frac{2}{3} \ \le\ \log 2 \ \le\ \frac{3}{4}

です。小数で書くと0.6666⋯≤log⁡2≤0.750.6666\dots \le \log 2 \le 0.75であり、幅は112\dfrac{1}{12}です。

中点による評価は、接線を用いずに導くこともできます。この導き方では微分可能であることを仮定しません。

注意 2.5 (微分可能性を仮定しない中点の評価).ffが[a,b][a,b]で連続かつ下に凸であるとし、c=a+b2c=\dfrac{a+b}{2}、L=b−a2L = \dfrac{b-a}{2}と置く。0≤s≤L0 \le s \le Lを満たすssについて、c−sc-sとc+sc+sを結ぶ弦の中点における高さはf(c−s)+f(c+s)2\dfrac{f(c-s)+f(c+s)}{2}であり、定義 1.1をt=12t=\dfrac12について用いるとf(c)≤f(c−s)+f(c+s)2f(c) \le \dfrac{f(c-s)+f(c+s)}{2}である。∫abf(x) dx=∫0L(f(c−s)+f(c+s)) ds\displaystyle\int_a^b f(x)\,dx = \int_0^{L}\bigl(f(c-s)+f(c+s)\bigr)\,dsなので、これを積分して∫abf(x) dx≥2f(c)L=f(c)(b−a)\displaystyle\int_a^b f(x)\,dx \ge 2f(c)L = f(c)(b-a)を得る。

3 区分求積の和と積分の大小関係

公式 2.3は、一つの区間についての不等式です。区間[a,b][a,b]をnn等分し、各小区間へこの不等式を当てて足し合わせると、和と積分の大小関係が定まります。中点における値を用いた和が下から、両端における値の平均を用いた和が上から積分を押さえます。

定理 3.1 (中点をとる和と台形をとる和による評価).a<ba<bとし、ffは[a,b][a,b]を含む開区間で2回微分可能で、その開区間のすべての点でf′′≥0f''\ge0であるとする。nnを正の整数、h=b−anh=\dfrac{b-a}{n}、xk=a+khx_k = a+kh(k=0,1,…,nk=0,1,\dots,n)と置き、

Mn=h∑k=1nf ⁣(xk−1+xk2),Tn=h(f(x0)2+∑k=1n−1f(xk)+f(xn)2)M_n = h\sum_{k=1}^{n} f\!\left(\frac{x_{k-1}+x_k}{2}\right), \qquad T_n = h\left(\frac{f(x_0)}{2} + \sum_{k=1}^{n-1} f(x_k) + \frac{f(x_n)}{2}\right)

と置く。このとき

Mn ≤ ∫abf(x) dx ≤ TnM_n \ \le\ \int_a^b f(x)\,dx \ \le\ T_n

が成り立つ。

証明.k=1,2,…,nk=1,2,\dots,nについて、公式 2.3を区間[xk−1,xk][x_{k-1},x_k]へ適用します。この区間の長さはhhなので

h f ⁣(xk−1+xk2) ≤ ∫xk−1xkf(x) dx ≤ h⋅f(xk−1)+f(xk)2h\,f\!\left(\frac{x_{k-1}+x_k}{2}\right) \ \le\ \int_{x_{k-1}}^{x_k} f(x)\,dx \ \le\ h\cdot\frac{f(x_{k-1})+f(x_k)}{2}

です。k=1k=1からk=nk=nまで足し合わせます。中辺の和は∫abf(x) dx\displaystyle\int_a^b f(x)\,dxです。左辺の和はMnM_nです。右辺の和は

h2∑k=1n(f(xk−1)+f(xk))\frac{h}{2}\sum_{k=1}^{n}\bigl(f(x_{k-1})+f(x_k)\bigr)

であり、f(x0)f(x_0)とf(xn)f(x_n)は1回ずつ、f(x1),…,f(xn−1)f(x_1),\dots,f(x_{n-1})は2回ずつ現れるので、これはTnT_nに等しくなります。▨

例 3.2 (分割を細かくしたときのlog⁡2\log 2の評価).f(x)=1xf(x)=\dfrac{1}{x}、[a,b]=[1,2][a,b]=[1,2]、n=2n=2とします。h=12h=\dfrac12、x0=1x_0=1、x1=32x_1=\dfrac32、x2=2x_2=2で、小区間の中点は54\dfrac54と74\dfrac74です。

M2=12(45+47)=2435,T2=12(12+23+14)=1724M_2 = \frac12\left(\frac45+\frac47\right) = \frac{24}{35}, \qquad T_2 = \frac12\left(\frac12 + \frac23 + \frac14\right) = \frac{17}{24}

なので2435≤log⁡2≤1724\dfrac{24}{35} \le \log 2 \le \dfrac{17}{24}、すなわち0.6857⋯≤log⁡2≤0.7083…0.6857\dots \le \log 2 \le 0.7083\dotsです。幅は1724−2435=19840\dfrac{17}{24}-\dfrac{24}{35}=\dfrac{19}{840}であり、例 2.4のn=1n=1の場合の幅112=70840\dfrac{1}{12}=\dfrac{70}{840}より狭くなっています。

注意 3.3 (広義単調性による評価との違い). 和を積分で挟む不等式は、ffが広義単調であることだけからも作ることができる。その場合に用いるのは各小区間の左端または右端における値であり、どちらが上でどちらが下かは広義単調性の向きで決まる。広義単調性による評価は「和と積分の比較」が扱う。本記事が用いたのは凸性であり、そこから得られるのは中点における値と両端における値の平均という別の組である。ffが広義単調でなくても、下に凸であれば定理 3.1は成り立つ。

注意 3.4 (本記事が扱う範囲). 本記事は、下に凸な関数についての積分の不等式と、その区分の和への適用を扱う。凸性そのものから導かれる不等式、すなわちイェンセンの不等式、接線による評価を用いた個々の不等式の証明、べき平均の不等式は「雑多な話題」が扱う。同単元は、定義 1.1の定義だけから議論を進め、第2次導関数を用いない。本記事は、微分可能な関数に対象を絞り、定理 1.2を第2次導関数から導く短い道筋を用いる。積分の厳密な定義と、nnを限りなく大きくしたときにMnM_nとTnT_nが積分へ収束することの証明は「ε-論法と基礎解析」が扱う。

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