§C4.6二項係数を与える積分

最終更新

二項係数を与える積分は、00から11までのxxのべきと(1−x)(1-x)のべきの積を積分して現れます。本記事では、指数が非負整数である場合に部分積分から漸化式を得て、その値を階乗と二項係数で表します。

1 扱う積分と、その対称性

はじめに、本記事を通して扱う積分に記号を与えます。

定義 1.1 (本記事で扱う積分).mm、nnを00以上の整数とし、

B(m,n)=∫01xm(1−x)n dxB(m,n) = \int_0^1 x^m(1-x)^n\,dx

と置く。被積分関数xm(1−x)nx^m(1-x)^nは多項式であり、閉区間[0,1][0,1]で連続なので、この定積分の値は定まる。ここでx0x^0は、xxによらず値11をとる関数を表す。

指数mmとnnは入れ替えても値が変わりません。このことは、以下でmmとnnのどちらを先に下げるかを自由に選ぶことができる根拠になります。

定理 1.2 (指数の入れ替え).mm、nnを00以上の整数とする。このときB(m,n)=B(n,m)B(m,n) = B(n,m)が成り立つ。

証明.u=1−xu = 1-xと置く。dudx=−1\dfrac{du}{dx} = -1であり、x=0x=0のときu=1u=1、x=1x=1のときu=0u=0なので

B(m,n)=∫01xm(1−x)n dx=∫10(1−u)mun⋅(−1) du=∫01un(1−u)m du=B(n,m)B(m,n) = \int_0^1 x^m(1-x)^n\,dx = \int_1^0 (1-u)^m u^n \cdot(-1)\,du = \int_0^1 u^n(1-u)^m\,du = B(n,m)

となる。▨

この置き換えは、積分区間[0,1][0,1]の両端の和0+10+1から変数を引く操作にあたります。区間[a,b][a,b]をそれ自身へ移すこの置き換えの一般的な使い方は、「積分区間の反転による対称化」が扱います。

2 部分積分による漸化式

(1−x)n(1-x)^nを微分すると指数が1つ下がり、xmx^mを積分すると指数が1つ上がります。部分積分を 1回行うたびに、二つの指数の和は変わらないまま、nnが1つ減ってmmが1つ増えます。これを繰り返すとn=0n=0に行き着き、そこでは直接積分することができます。

定理 2.1 (指数を移す漸化式).mmを00以上の整数、nnを11以上の整数とする。このとき

B(m,n)=nm+1 B(m+1, n−1)B(m,n) = \frac{n}{m+1}\,B(m+1,\,n-1)

が成り立つ。

証明.xmx^mを積分する側、(1−x)n(1-x)^nを微分する側にとる。xmx^mの原始関数の一つはxm+1m+1\dfrac{x^{m+1}}{m+1}、(1−x)n(1-x)^nの導関数は−n(1−x)n−1-n(1-x)^{n-1}なので

B(m,n)=[xm+1m+1(1−x)n]01+nm+1∫01xm+1(1−x)n−1 dxB(m,n) = \left[\frac{x^{m+1}}{m+1}(1-x)^n\right]_0^1 + \frac{n}{m+1}\int_0^1 x^{m+1}(1-x)^{n-1}\,dx

である。第1項について、x=1x=1ではn≥1n \ge 1なので(1−x)n=0(1-x)^n = 0、x=0x=0ではm+1≥1m+1 \ge 1なのでxm+1=0x^{m+1}=0であり、値は00である。第2項の積分はB(m+1,n−1)B(m+1,n-1)なので、結論を得る。▨

漸化式が行き着く先はn=0n=0の場合です。この場合は直接計算することができて、00以上の整数kkについて

B(k,0)=∫01xk dx=1k+1B(k,0) = \int_0^1 x^k\,dx = \frac{1}{k+1}

です。

3 値は階乗だけで書き表される

漸化式と初期値がそろったので、値を階乗の形で書き表します。

公式 3.1 (積分の値).mm、nnを00以上の整数とする。このとき

∫01xm(1−x)n dx=m! n!(m+n+1)!\int_0^1 x^m(1-x)^n\,dx = \frac{m!\,n!}{(m+n+1)!}

である。

証明.n=0n=0ではB(m,0)=1m+1B(m,0) = \dfrac{1}{m+1}であり、(m+1)!=(m+1)⋅m!(m+1)! = (m+1)\cdot m!と0!=10! = 1から

m! 0!(m+0+1)!=m!(m+1)!=1m+1\frac{m!\,0!}{(m+0+1)!} = \frac{m!}{(m+1)!} = \frac{1}{m+1}

なので、等式が成り立つ。

ある11以上の整数nnについて、00以上のすべての整数mmでB(m,n−1)=m! (n−1)!(m+n)!B(m,n-1) = \dfrac{m!\,(n-1)!}{(m+n)!}が成り立つと仮定する。この仮定をm+1m+1に用いると

B(m+1, n−1)=(m+1)! (n−1)!((m+1)+(n−1)+1)!=(m+1)! (n−1)!(m+n+1)!B(m+1,\,n-1) = \frac{(m+1)!\,(n-1)!}{\bigl((m+1)+(n-1)+1\bigr)!} = \frac{(m+1)!\,(n-1)!}{(m+n+1)!}

である。定理 2.1により

B(m,n)=nm+1⋅(m+1)! (n−1)!(m+n+1)!=n m! (n−1)!(m+n+1)!=m! n!(m+n+1)!B(m,n) = \frac{n}{m+1}\cdot\frac{(m+1)!\,(n-1)!}{(m+n+1)!} = \frac{n\,m!\,(n-1)!}{(m+n+1)!} = \frac{m!\,n!}{(m+n+1)!}

となる。ここで(m+1)!=(m+1)⋅m!(m+1)! = (m+1)\cdot m!とn⋅(n−1)!=n!n\cdot(n-1)! = n!を用いた。

数学的帰納法により、00以上のすべての整数mm、nnについて結論が成り立つ。▨

例 3.2 (m=2m=2、n=3n=3の場合).公式 3.1により

∫01x2(1−x)3 dx=2!⋅3!6!=2⋅6720=160\int_0^1 x^2(1-x)^3\,dx = \frac{2!\cdot 3!}{6!} = \frac{2\cdot 6}{720} = \frac{1}{60}

である。展開して直接積分しても、(1−x)3=1−3x+3x2−x3(1-x)^3 = 1-3x+3x^2-x^3から

∫01(x2−3x3+3x4−x5) dx=13−34+35−16=20−45+36−1060=160\int_0^1 (x^2-3x^3+3x^4-x^5)\,dx = \frac{1}{3}-\frac{3}{4}+\frac{3}{5}-\frac{1}{6} = \frac{20-45+36-10}{60} = \frac{1}{60}

となり、同じ値が得られる。

4 二項係数との対応

(m+n+1)!(m+n+1)!を(m+n+1)⋅(m+n)!(m+n+1)\cdot(m+n)!と分けると、積分の値が二項係数の逆数の定数倍として書き表されます。

公式 4.1 (二項係数による表示).mm、nnを00以上の整数とする。このとき

∫01xm(1−x)n dx=1(m+n+1)(m+nm)\int_0^1 x^m(1-x)^n\,dx = \frac{1}{(m+n+1)\dbinom{m+n}{m}}

である。ここで(m+nm)=m+nCm\dbinom{m+n}{m} = {}_{m+n}\mathrm{C}_mは組合せの数である。

証明.(m+nm)=(m+n)!m! n!\dbinom{m+n}{m} = \dfrac{(m+n)!}{m!\,n!}であり、(m+n+1)!=(m+n+1)⋅(m+n)!(m+n+1)! = (m+n+1)\cdot(m+n)!なので、公式 3.1の右辺は

m! n!(m+n+1)(m+n)!=1(m+n+1)⋅m! n!(m+n)!=1(m+n+1)(m+nm)\frac{m!\,n!}{(m+n+1)(m+n)!} = \frac{1}{(m+n+1)}\cdot\frac{m!\,n!}{(m+n)!} = \frac{1}{(m+n+1)\dbinom{m+n}{m}}

と書き直される。▨

同じ積分を、漸化式を使わずに二項定理で展開して計算すると、別の形の表示が得られます。二つの表示を等号で結ぶと、積分を経由しなければ見えにくい等式になります。

定理 4.2 (二項定理から得られる等式).mm、nnを00以上の整数とする。このとき

∑k=0n(−1)k(nk) 1m+k+1=m! n!(m+n+1)!\sum_{k=0}^{n} (-1)^k \dbinom{n}{k}\,\frac{1}{m+k+1} = \frac{m!\,n!}{(m+n+1)!}

が成り立つ。

証明. 二項定理により(1−x)n=∑k=0n(nk)(−1)kxk(1-x)^n = \displaystyle\sum_{k=0}^{n}\dbinom{n}{k}(-1)^k x^kである。両辺にxmx^mを掛けると

xm(1−x)n=∑k=0n(−1)k(nk)xm+kx^m(1-x)^n = \sum_{k=0}^{n}(-1)^k\dbinom{n}{k}x^{m+k}

である。右辺は有限個の項の和なので、00から11まで積分したものは各項の積分の和に等しく、∫01xm+k dx=1m+k+1\displaystyle\int_0^1 x^{m+k}\,dx = \frac{1}{m+k+1}であるから

∫01xm(1−x)n dx=∑k=0n(−1)k(nk)1m+k+1\int_0^1 x^m(1-x)^n\,dx = \sum_{k=0}^{n}(-1)^k\dbinom{n}{k}\frac{1}{m+k+1}

となる。左辺は公式 3.1によりm! n!(m+n+1)!\dfrac{m!\,n!}{(m+n+1)!}なので、結論を得る。▨

例 4.3 (m=0m=0の場合).定理 4.2でm=0m=0とすると

∑k=0n(−1)k(nk)1k+1=0! n!(n+1)!=1n+1\sum_{k=0}^{n}(-1)^k\dbinom{n}{k}\frac{1}{k+1} = \frac{0!\,n!}{(n+1)!} = \frac{1}{n+1}

である。n=2n=2の場合に左辺を計算すると

(20)⋅1−(21)⋅12+(22)⋅13=1−1+13=13\dbinom{2}{0}\cdot 1 - \dbinom{2}{1}\cdot\frac{1}{2} + \dbinom{2}{2}\cdot\frac{1}{3} = 1 - 1 + \frac{1}{3} = \frac{1}{3}

となり、右辺の12+1\dfrac{1}{2+1}と一致する。

5 指数が00以上の整数であること

これまでの議論は、mmとnnが00以上の整数であることを繰り返し用いています。この仮定を外すと、結論の形そのものが変わります。

注意 5.1 (仮定を外した場合に何が変わるか).mm、nnが00以上の整数であることは、次の三つの箇所で効く。

  1. 被積分関数xm(1−x)nx^m(1-x)^nが多項式であり、[0,1][0,1]で連続である。したがって定積分の値が定まる。
  2. 定理 2.1を有限回繰り返すとn=0n=0に行き着き、そこで初期値B(k,0)=1k+1B(k,0)=\dfrac{1}{k+1}を計算することができる。nnが整数でなければ、指数を1つずつ下げても00に行き着かない。
  3. 定理 4.2の展開が有限個の項の和である。二項定理をこの形で用いることができるのは、指数が00以上の整数の場合である。

指数が整数でない正の実数の場合、被積分関数は[0,1][0,1]で連続なので積分の値は定まるが、その値は階乗では書き表されず、階乗を実数へ拡張した関数が要る。この拡張は「複素解析」が扱う。指数が負の実数の場合には、被積分関数が区間の端で定義されないため、積分は端点を除いた区間の上での極限として定める。その極限が値をもつかどうかの判定は、本単元では扱わない。

前提記事