§C4.5ウォリス積分と積分の漸化式

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ウォリス積分は、整数を指数にもつ三角関数の積分を漸化式で扱う基本的な例です。本記事では、∫0π/2sin⁡nx dx\displaystyle\int_0^{\pi/2}\sin^n x\,dxを例に、部分積分から得られる二段階の漸化式と偶奇によって異なる初期値を用いて値を定めます。

1 正弦のべきの定積分

はじめに、本記事を通して扱う積分に記号を与えます。

定義 1.1 (ウォリス積分).nnを00以上の整数とし、

In=∫0π/2sin⁡nx dxI_n = \int_0^{\pi/2} \sin^n x\,dx

と置く。この形の定積分をウォリス積分という。ここでsin⁡0x\sin^0 xは、xxによらず値11をとる関数を表す。

正弦のべきと余弦のべきは、区間[0,π2]\left[0,\dfrac{\pi}{2}\right]の上では同じ値の積分を与えます。どちらの形で与えられた積分も、以下の結果で扱うことができます。

定理 1.2 (正弦と余弦の入れ替え).nnを00以上の整数とする。このとき

∫0π/2sin⁡nx dx=∫0π/2cos⁡nx dx\int_0^{\pi/2}\sin^n x\,dx = \int_0^{\pi/2}\cos^n x\,dx

が成り立つ。

証明. 右辺でu=π2−xu = \dfrac{\pi}{2}-xと置く。dudx=−1\dfrac{du}{dx}=-1であり、x=0x=0のときu=π2u=\dfrac{\pi}{2}、x=π2x=\dfrac{\pi}{2}のときu=0u=0である。x=π2−ux = \dfrac{\pi}{2}-uなのでcos⁡x=cos⁡(π2−u)=sin⁡u\cos x = \cos\left(\dfrac{\pi}{2}-u\right) = \sin uであり、cos⁡nx=sin⁡nu\cos^n x = \sin^n uである。したがって

∫0π/2cos⁡nx dx=∫π/20sin⁡nu⋅(−1) du=∫0π/2sin⁡nu du\int_0^{\pi/2}\cos^n x\,dx = \int_{\pi/2}^{0}\sin^n u\cdot(-1)\,du = \int_0^{\pi/2}\sin^n u\,du

となり、結論を得る。▨

この置き換えは、積分区間の両端の和から変数を引く操作にあたります。同じ操作を用いて原始関数を求めずに定積分の値を決める手順は、「積分区間の反転による対称化」が扱います。

2 部分積分によって次数を2つ下げる

sin⁡nx\sin^n xをsin⁡n−1x\sin^{n-1}xとsin⁡x\sin xの積と見て部分積分をすると、sin⁡n−2x\sin^{n-2}xの積分が現れます。次数が2つ下がるのは、sin⁡n−1x\sin^{n-1}xを微分したときに出るcos⁡x\cos xが、sin⁡x\sin xを積分して得た−cos⁡x-\cos xと組んでcos⁡2x\cos^2 xになり、それを1−sin⁡2x1-\sin^2 xへ書き直すからです。

定理 2.1 (ウォリス積分の漸化式).nnを22以上の整数とする。このとき

In=n−1n In−2I_n = \frac{n-1}{n}\,I_{n-2}

が成り立つ。

証明.sin⁡nx=sin⁡n−1x⋅sin⁡x\sin^n x = \sin^{n-1}x \cdot \sin xと見て、sin⁡n−1x\sin^{n-1}xを微分する側、sin⁡x\sin xを積分する側にとる。sin⁡x\sin xの原始関数の一つは−cos⁡x-\cos x、sin⁡n−1x\sin^{n-1}xの導関数は(n−1)sin⁡n−2xcos⁡x(n-1)\sin^{n-2}x\cos xなので

In=[−sin⁡n−1x cos⁡x]0π/2+(n−1)∫0π/2sin⁡n−2x cos⁡2x dxI_n = \Bigl[-\sin^{n-1}x\,\cos x\Bigr]_0^{\pi/2} + (n-1)\int_0^{\pi/2}\sin^{n-2}x\,\cos^2 x\,dx

である。第1項について、x=π2x=\dfrac{\pi}{2}ではcos⁡x=0\cos x = 0、x=0x=0ではn−1≥1n-1 \ge 1なのでsin⁡n−1x=0\sin^{n-1}x = 0であり、値は00である。第2項でcos⁡2x=1−sin⁡2x\cos^2 x = 1-\sin^2 xと書き直すと

In=(n−1)∫0π/2(sin⁡n−2x−sin⁡nx) dx=(n−1)(In−2−In)I_n = (n-1)\int_0^{\pi/2}\bigl(\sin^{n-2}x - \sin^n x\bigr)\,dx = (n-1)\bigl(I_{n-2}-I_n\bigr)

となる。InI_nについて整理するとnIn=(n−1)In−2n I_n = (n-1)I_{n-2}となり、n≥2n \ge 2なので両辺をnnで割って結論を得る。▨

この漸化式はn≥2n \ge 2でのみ成り立ちます。n=1n=1では第1項のsin⁡n−1x=sin⁡0x=1\sin^{n-1}x = \sin^0 x = 1がx=0x=0で00にならず、n=0n=0ではI−2I_{-2}が定義されないからです。漸化式はnnを2ずつ下げていくので、nnが偶数のときはI0I_0に、奇数のときはI1I_1に行き着きます。この二つを計算しておきます。

I0=∫0π/21 dx=π2,I1=∫0π/2sin⁡x dx=[−cos⁡x]0π/2=1I_0 = \int_0^{\pi/2} 1\,dx = \frac{\pi}{2}, \qquad I_1 = \int_0^{\pi/2}\sin x\,dx = \Bigl[-\cos x\Bigr]_0^{\pi/2} = 1

3 値は次数の偶奇によって形が変わる

漸化式と二つの初期値がそろったので、nnを偶数と奇数に分けて値を書き表します。

公式 3.1 (ウォリス積分の値).mmを00以上の整数とする。このとき

I2m=(2m)!22m (m!)2⋅π2,I2m+1=22m (m!)2(2m+1)!I_{2m} = \frac{(2m)!}{2^{2m}\,(m!)^2}\cdot\frac{\pi}{2}, \qquad I_{2m+1} = \frac{2^{2m}\,(m!)^2}{(2m+1)!}

である。積の形で書けば、m≥1m \ge 1のとき

I2m=(2m−1)(2m−3)⋯3⋅1(2m)(2m−2)⋯4⋅2⋅π2,I2m+1=(2m)(2m−2)⋯4⋅2(2m+1)(2m−1)⋯5⋅3I_{2m} = \frac{(2m-1)(2m-3)\cdots 3\cdot 1}{(2m)(2m-2)\cdots 4\cdot 2}\cdot\frac{\pi}{2}, \qquad I_{2m+1} = \frac{(2m)(2m-2)\cdots 4\cdot 2}{(2m+1)(2m-1)\cdots 5\cdot 3}

である。

証明.m=0m=0のとき、右辺はI0I_0について0!20(0!)2⋅π2=π2\dfrac{0!}{2^0(0!)^2}\cdot\dfrac{\pi}{2} = \dfrac{\pi}{2}、I1I_1について20(0!)21!=1\dfrac{2^0(0!)^2}{1!} = 1であり、先に計算した値と一致する。

あるmmについて二つの等式が成り立つと仮定する。定理 2.1をn=2m+2n = 2m+2について用いると

I2m+2=2m+12m+2I2m=2m+12m+2⋅(2m)!22m(m!)2⋅π2I_{2m+2} = \frac{2m+1}{2m+2}I_{2m} = \frac{2m+1}{2m+2}\cdot\frac{(2m)!}{2^{2m}(m!)^2}\cdot\frac{\pi}{2}

である。分子と分母に2m+22m+2を掛けると

(2m+1)(2m+2) (2m)!(2m+2)2 22m(m!)2=(2m+2)!22m+2(m+1)2(m!)2=(2m+2)!22(m+1)((m+1)!)2\frac{(2m+1)(2m+2)\,(2m)!}{(2m+2)^2\,2^{2m}(m!)^2} = \frac{(2m+2)!}{2^{2m+2}(m+1)^2(m!)^2} = \frac{(2m+2)!}{2^{2(m+1)}\bigl((m+1)!\bigr)^2}

となるので、I2m+2I_{2m+2}についてm+1m+1の場合の等式が成り立つ。ここで(2m+2)2=4(m+1)2(2m+2)^2 = 4(m+1)^2と(m+1)!=(m+1) m!(m+1)! = (m+1)\,m!を用いた。

同様に定理 2.1をn=2m+3n=2m+3について用いると

I2m+3=2m+22m+3I2m+1=2m+22m+3⋅22m(m!)2(2m+1)!I_{2m+3} = \frac{2m+2}{2m+3}I_{2m+1} = \frac{2m+2}{2m+3}\cdot\frac{2^{2m}(m!)^2}{(2m+1)!}

である。分子と分母に2m+22m+2を掛けると

(2m+2)2 22m(m!)2(2m+3)(2m+2) (2m+1)!=22m+2(m+1)2(m!)2(2m+3)!=22(m+1)((m+1)!)2(2(m+1)+1)!\frac{(2m+2)^2\,2^{2m}(m!)^2}{(2m+3)(2m+2)\,(2m+1)!} = \frac{2^{2m+2}(m+1)^2(m!)^2}{(2m+3)!} = \frac{2^{2(m+1)}\bigl((m+1)!\bigr)^2}{(2(m+1)+1)!}

となるので、I2m+3I_{2m+3}についてもm+1m+1の場合の等式が成り立つ。

数学的帰納法により、すべての00以上の整数mmについて結論が成り立つ。積の形の表示は、階乗を書き下して共通の因数を約分することで得られる。▨

答えの形が偶奇で変わる理由は、漸化式と初期値の組み合わせにあります。

注意 3.2 (π\piが現れるのは次数が偶数のときだけである).定理 2.1がInI_nに掛けるn−1n\dfrac{n-1}{n}は有理数である。したがってInI_nは、nnが偶数ならばI0=π2I_0 = \dfrac{\pi}{2}の有理数倍、nnが奇数ならばI1=1I_1 = 1の有理数倍、すなわち有理数である。π\piが答えに現れるかどうかは、漸化式をたどった先がI0I_0とI1I_1のどちらであるかによって決まり、これはnnの偶奇だけで定まる。

例 3.3 (小さい次数の値).定理 2.1を繰り返し用いると、次の値が得られる。

I2=12I0=π4,I3=23I1=23,I4=34I2=3π16,I5=45I3=815I_2 = \frac{1}{2}I_0 = \frac{\pi}{4}, \qquad I_3 = \frac{2}{3}I_1 = \frac{2}{3}, \qquad I_4 = \frac{3}{4}I_2 = \frac{3\pi}{16}, \qquad I_5 = \frac{4}{5}I_3 = \frac{8}{15}

公式 3.1へm=2m=2を代入すると、I4=4!24(2!)2⋅π2=2464⋅π2=3π16I_4 = \dfrac{4!}{2^4(2!)^2}\cdot\dfrac{\pi}{2} = \dfrac{24}{64}\cdot\dfrac{\pi}{2} = \dfrac{3\pi}{16}、I5=24(2!)25!=64120=815I_5 = \dfrac{2^4(2!)^2}{5!} = \dfrac{64}{120} = \dfrac{8}{15}となり、一致する。

4 同じ手順を別の形のべきへ当てる

漸化式を作ってから初期値を計算するという手順は、正弦のべきに限りません。次数を下げる書き換えを見つけることが、手順の第一段にあたります。正接のべきでは、tan⁡2x=1cos⁡2x−1\tan^2 x = \dfrac{1}{\cos^2 x}-1によって次数が2つ下がります。

定理 4.1 (正接のべきの積分の漸化式).nnを00以上の整数とし、Kn=∫0π/4tan⁡nx dxK_n = \displaystyle\int_0^{\pi/4}\tan^n x\,dxと置く。ここでtan⁡0x\tan^0 xは値11をとる関数を表す。nnが22以上の整数であるとき

Kn+Kn−2=1n−1K_n + K_{n-2} = \frac{1}{n-1}

が成り立つ。

証明.tan⁡2x=1cos⁡2x−1\tan^2 x = \dfrac{1}{\cos^2 x}-1を用いると

tan⁡nx=tan⁡n−2x(1cos⁡2x−1)=tan⁡n−2xcos⁡2x−tan⁡n−2x\tan^n x = \tan^{n-2}x\left(\frac{1}{\cos^2 x}-1\right) = \frac{\tan^{n-2}x}{\cos^2 x} - \tan^{n-2}x

である。0≤x≤π40 \le x \le \dfrac{\pi}{4}ではcos⁡x≠0\cos x \ne 0なので、tan⁡x\tan xはこの区間で連続である。第1項の積分でt=tan⁡xt = \tan xと置くとdt=dxcos⁡2xdt = \dfrac{dx}{\cos^2 x}であり、x=0x=0のときt=0t=0、x=π4x=\dfrac{\pi}{4}のときt=1t=1なので

∫0π/4tan⁡n−2xcos⁡2x dx=∫01tn−2 dt=1n−1\int_0^{\pi/4}\frac{\tan^{n-2}x}{\cos^2 x}\,dx = \int_0^1 t^{n-2}\,dt = \frac{1}{n-1}

である。ここでn≥2n \ge 2からn−2≥0n-2 \ge 0であり、n−1≥1n-1 \ge 1なので右端の積分が定まる。第2項の積分はKn−2K_{n-2}なので、Kn=1n−1−Kn−2K_n = \dfrac{1}{n-1}-K_{n-2}となり、結論を得る。▨

例 4.2 (正接のべきの積分の値). 初期値は

K0=∫0π/41 dx=π4,K1=∫0π/4tan⁡x dx=[−log⁡(cos⁡x)]0π/4=−log⁡12=12log⁡2K_0 = \int_0^{\pi/4} 1\,dx = \frac{\pi}{4}, \qquad K_1 = \int_0^{\pi/4}\tan x\,dx = \Bigl[-\log(\cos x)\Bigr]_0^{\pi/4} = -\log\frac{1}{\sqrt{2}} = \frac{1}{2}\log 2

である。0≤x≤π40 \le x \le \dfrac{\pi}{4}ではcos⁡x>0\cos x > 0なので、対数に絶対値は要らない。定理 4.1を用いると

K2=1−π4,K3=12−12log⁡2,K4=13−K2=π4−23K_2 = 1 - \frac{\pi}{4}, \qquad K_3 = \frac{1}{2} - \frac{1}{2}\log 2, \qquad K_4 = \frac{1}{3} - K_2 = \frac{\pi}{4} - \frac{2}{3}

である。K2K_2は∫0π/4tan⁡2x dx=[tan⁡x−x]0π/4=1−π4\displaystyle\int_0^{\pi/4}\tan^2 x\,dx = \Bigl[\tan x - x\Bigr]_0^{\pi/4} = 1-\frac{\pi}{4}と直接計算した値と一致する。ここでも、次数が偶数のときはK0K_0に含まれるπ\piが、奇数のときはK1K_1に含まれるlog⁡2\log 2が残る。

正弦の場合の漸化式は前の項に有理数を掛ける形、正接の場合は前の項を引く形であり、形は異なります。共通しているのは、次数を2つ下げる関係式を先に作り、n=0n=0とn=1n=1の二つの初期値を計算しておけば、nnの偶奇に応じてどちらかへ行き着くという構造です。

注意 4.3 (本単元が扱わない範囲). ウォリス積分の隣り合う値の比を用いると、円周率を無限積として表す等式が得られ、そこから階乗の大きさの精密な近似が導かれる。無限積の収束と階乗の精密な近似は「ε-論法と基礎解析」が扱う。本記事は、nnを一つ固定したときのInI_nの値を求めるところまでを扱う。

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